今回はまだバトルはなし。
そうだ、ギリシャに行こう。
……まあ現実だと財政破綻とか緊縮財政とか政情不安とかで今行くのはどーよって感じなのですが。
第三十八話
襲撃について報告したが、結局ギリシャに行くことになった。曰く、「早くても遅くても襲撃がくるのは同じ」だそうである。
あっちはあっちでなんか準備するらしいしな。
「パルテノン神殿とか見てみたいです!」
「おいおい、観光に行くんじゃないんだぞ」
ついでに言うと俺はもう諸国を巡っていたとき(フィーナと出会った、アレだ)に見たことがあるから別に良い。
そもそもギリシャの神様が悪魔に入るのを許すかどうかって話もあるしな。
「大丈夫、終わったら観光の予定」
………もう決めてるのかよ。
ゲートとかを使うと下手すれば不法入国なので、今回は飛行機に乗る正規のルートを使うらしい。とりあえずパスポートを取りに行く。
「国籍とか大丈夫なのか……?」
そもそもセリアとかフィーナとかはその不法入国でここにいるも同然なのである。
「大丈夫、操作しておいたから」
「何をだ」
ミオはにこりと笑むだけで何も答えなかった。……悪魔って怖い。
血液検査等も上手く乗り越え、パスポートは無事取れた。
「あれ、チケットはどうするんだ? 人数多いんだし予約しないと……」
「チャーター機を使う」
さすが貴族、お金持ち。
と思ったら違うらしい。
「人間界の外交担当の悪魔の共用のチャーター機がある」
あまり使う訳でもないのに、各家が所有したりでもしたら「経費の無駄」だそうだ。しかし多数の人間と一緒に座るのも難があるし予約とか取れなかったら大変だから間を取ることにした、と。世知辛い世の中である。
「は、初めての異国です……!」
「あ、そう言えば私もだ」
鈴音が妙に緊張していた。その言葉で裕美は思い出したように呟く。
「喋れるんだし読めるんだから大丈夫だろ」
悪魔の特典である。
旅行の準備を済ませ、俺達は遥か西……ギリシアへと旅立った。
着いたのはアテネ国際空港……
「それで、これからどこに向かうんだ? アテネでもデルフォイでもないならやっぱり……」
「そう。直接本拠に向かう」
俺の問いにミオが予想通りの答えを返す。アテネはギリシャの現在の首都であり、この前言っていたパルテノン神殿とかがあるところ。女神アテナを奉っている都市だ。デルフォイはアポロンの神殿があった場所。神託で有名だな。
それを聞いていた鈴音が首を傾げた。
「本拠……ですか?」
「鈴音、ギリシャの中で一番権力を持った主神をはじめとする代表的な神様は何人くらいいるんだっけ? あ、ハーデスとかは除いてね」
裕美が少し意地悪な笑みを浮かべて問う。
授業みたいな感じで教えたんだっけか。もともと俺はそういう神話に関する知識は結構ある方だからそんなに苦ではなかったけど、天照大神を中心とした日本の神様しか知らない鈴音にはかなり大変だったようだ。
「えっと、十二神ですよね……。そっか、オリンポス十二神!」
「なるほど、行くところはオリンポス山と言う訳だ。確かにここが一番近いだろうな」
セリアも頷く。まあオリンポス山って名前の山は火星とかにもあるんだけどな。やっぱり本拠はギリシャのそこで間違いないだろう。
「80キロくらい行けば山の麓にたどり着く。そこから登る」
「……かなりきつくないですか? 転移とか使えば……」
「これも修行。……冗談」
ティナの言葉に淡々と返したミオが口にした言葉に俺達は瞠目する。
彼女が冗談を言うところなど、滅多に見ない。
「お金の節約と、誠意を見せるため」
「お手軽な手順じゃなくて、真っ当なルートで来るって言う誠意……ですか」
リリィが感心したように頷く。
「それにしても、大丈夫か?」
「大丈夫。悪魔だから皆問題ない」
「いや、特にお前だよ、ミオ」
「むっ」
ため息まじりの俺の言葉にミオが不満げな顔をする。
「フィーナはこっち育ちだし体力はそれなりにある。エリーゼとか鈴音も鍛えてる。でもお前……トレーニングをやってはいるが、結局身体能力は俺達の中でほぼ
言うなれば知性と魔力一辺倒で体力がめちゃくちゃ低いのだ。小ちゃい頃から本読んでばっかりで外にほとんど出なかった……ってご両親から聞いてるし。
「……剣太は自分の主を舐め過ぎ」
「……まあ、いいか。いざとなったら俺がおぶれば」
「だから、そんなことは無い。絶対にオリンポス山を一人で登り切ってみせる」
数時間後。俺の不安は的中する。
「はあ、はあっ……!」
全身から滝のように汗を流しへばる主を俺は何とも言えない顔で見つめた。
「……やっぱおぶろうか?」
「いい、もうすぐ、頂上っ……!」
……全く、たいした負けず嫌いだ。
仮にもギリシャの最高峰、標高は3000メートル近いのを着いて即座に登ろうという時点で少なくとも人間の視点からすれば無茶なのだ。悪魔だから大丈夫という主張もこれを見ると相当怪しく思えてくる。
頂上にたどり着いた瞬間にミオはよろけた。すかさず支える。
「言わんこっちゃ無い……やっぱ体力が必要だな。この前送られてきたアルマロス・ブートキャンプでもやる?」
「や、やめて!」
おや珍しく大きな声。
ちなみにアルマロス・ブートキャンプとは知性派というネコの皮を被っていたアルマロスさんが「物理で殴る」という本性を現して作り上げた実にハードな筋力アップ法である。一部ではダイエット用に流行っているそうな。どこかは知らん。聞くな。
どうにか頂上にはたどり着いた訳だが……
「あれ? これからどうするんですか?」
「………迎えが、来る」
どうにか息を整えた汗だくのミオが答えた。
「迎え? ………あ」
エリーゼの声に俺はミオから目を離す。ちょうど頂上の上の空から光の階段が降りてきていた。
「ミオ・ダンタリオン様ご一行ですね? どうぞこちらへ」
そこを降りてきたのは薄い布を纏う金髪の美女だった。女神……じゃないな。おそらくニンフ、オリンポス山を守る山の精ってところか。
それにしてもルネサンスの絵画に描かれているような薄い布である。下手をすれば肌が透けて見えそうな……
「剣太」
ミオの声がめちゃくちゃ低かった。周りの視線もものすごく鋭い。
「それ以上凝視したら……怒る」
「承知しましたっ!」
どんなに剣の腕が強くなっても精神的には女の子に一生敵わない気がする。
最近、強くそう思うようになった。
男女関係の一つの心理へとたどり着きつつある剣太でした。
その程度のスケベ心はどんな男にだって多分ある。
次回はバトル準備……かな?