05話 魔法の第一歩!杖と契約しよう!
朝起きて少し眠たい目をこすりながら、今日は記念すべき一日になるだろうと確信していた。
なぜならやっと魔法使いとしての第一歩である“杖との契約”を始めたのだから。
俺は5歳になった。
とうとう魔法の練習が始まるかと思うとそのことで頭がいっぱいだ。
昨日の誕生会の席でも上の空でちょっと父さんに怒られたりした。
そんな俺をキュルケが庇ってくれたり、キュルケに「ばる、おこっちゃ、だめー!」とか言われて父さんが本気で落ち込んだりしてた。
父さん娘超好きだから嫌われたくないんだろうな。
ベットに入った後も楽しみすぎてなかなか眠れなかった。
前世では幼稚園の遠足の時とか位で大人になってからそんなことなかったんだけど、体に合わせて精神年齢が下がったのかな?まあ、魔法なんてあっちにはなかったし仕方ないよね!
そして朝食が終わった後、早速父さんにキュルケと二人で呼ばれ、父の書斎に行った。
「ヴァルムロート、キュルケ。お前たちも5歳になった。今日からメイジひいては本当の意味で貴族として生きることになるぞ。いいな。」
父さんが真面目な顔で俺達に話しかけた。
それは五歳の子供に話すにはあまりにも不釣り合いな貴族としての責任についてだった。
「「はい。」」
しかし俺とキュルケの目に迷いは無い。
俺はこれまではただの貴族の子供だった。
しかしこれからは本当の意味で貴族に、そう・・・“メイジ”として生きることになる。
・・・まあ、本当に五歳児であるキュルケや同じようなことを言われているであろう他の貴族の子供が本当に意味を理解しているのかは謎だが。
「魔法使いの第一歩は杖との契約だ。これをお前たちに贈ろう。」
そう言って俺達に30サントの長さの杖を手渡した。
俺は少し感動しながら杖を見つめ、キュルケはもらった杖をぶんぶん振っている。
「これから杖との契約を行ってもらう。魔法の訓練はその後だな。魔法は杖がないとできないからな。」
「父上。どうやって杖と契約するのですか?」
アニメではすでに杖との契約が終わってすでにメイジとして魔法が使える状態(ルイズ除く)だったからな。
何か特別な儀式のようなものが必要なのだろうかと俺は疑問に思っていた。
「杖との契約はどんな方法で行っても良いが、基本は杖を両手に持ち、目を閉じて、杖を額に当て、語りかけるという方法だな。」
父さんは懐から自分の杖を取り出すとそれを両手に握り、目を瞑り、自分の額に当てた。
隣でキュルケが見よう見真似で父さんと同じ格好をしている。
俺は方法が意外と単純なのに拍子抜けしながら、その結果どういう事が起きたら終了とみなすのかを聞いた。
「どうなったら契約ができたとするのですか?」
「うむ。言葉で言い表すのは難しいが・・・そうだな、自分と杖がどこか繋がったような感覚になれば杖と契約ができたといえよう。」
どうやら杖と契約出来た感覚を言葉で言い表すのは少し難しいのかもしれない。
それに感覚によるものだから個人差がありそうだから、父さんの感じたようには感じないかもしれないしな。
「父さんはどれくらいの時間で契約できましたか?」
次は契約にかかる時間を聞いてみることにした。
これは早いに越したことはないだろう。
早い所魔法を使ってみたいからな。
今の俺が感じているワクワクは新作ゲームを購入したが仕事の為に少しおあずけされている感じによく似ていた。
「私のときは5日かかったな。」
「5日・・・ですか。」
なん・・・だと・・・。
「私は早かったのだぞ。一般的に杖との契約は大体7日から10日かかるそうだし、遅い方になると20日以上かかる子もいるらしい。まあ、ゆっくりやれ。」
「「はい。」」
俺とキュルケは元気よく返事をして、それから部屋を出た。
俺は部屋から出るとさっき聞いたことについて考えていた。
それにしても杖との契約が一般的に一週間近くかかるってことは思った以上に難しいのかもしれない。
しかし何事もやってみなくてはわからないだろう。
一般的とは言え結局は他人がやったことなのだ。
父さんだって一般的な日数よりも短かったのだし、さらに短く出来る可能性は残されている。
まあ、それより時間がかかることについても可能性としては五分五分といったところだが。
「どうしたの?ばる。」
キュルケが部屋を出た後から難しい顔をしている俺を心配したのか顔を覗き込んで来た。
「ん?魔法使うの楽しみだなって思ってたんだよ。」
俺はキュルケに余計な心配はさせまいと返事をした。
それにこの言った言葉は100%本心だった。
「わたしもたのしみー!」
キュルケは満点の笑みを浮かべた。
「じゃあ、頑張って契約しようか!」
「うん!」
俺は早速杖との契約を始めることをキュルケに提案するとすぐに二つ返事が帰ってきた。
今日は朝から天気がいいし、外で気持ちのよい風に吹かれながらやってみるのも悪くないと考えた。
「キュルケ。お外でやろう。いい天気だし、きっと気持ちいいよ。」
「そーするー!」
俺達は外に出て、庭にある木の下に座って父さんが言っていたように杖を両手に持ち、額に当てた。キュルケも隣に座り、同じような格好で目をつぶっていた。
「つえさん。つえさん。・・・」
俺も目をつぶり、杖に心の中で杖に語りかけた。
(なんて語りかけりゃいいんだ?・・・もしもし〜、杖さーん。・・・)
昼食の時間になりメイドさんが呼びに来るまでそうやっていたが、なんの進展もなかった。キュルケは隣で寝ていた。
昼食の時に母さんや姉さん達に杖との契約はどんな感じなのかを聞いたが、大体父さんと同じようなことを言っていた。
昼食も終わり、さっきの場所で契約の続きを始めた。
さっき聞いた母さん達も「杖が体の一部になったような感じ。」やら「杖と心が一つになった感じかな?」と言っていた。
それらの証言から父さんも母さん達も杖と契約出来た時は杖と何らかの結合した感覚を覚えてたということになる。
もちろん杖との物理的、肉体的な結合はしていないので、杖との契約は精神的な結合を作ることであると考えた。
確かにさっきはただ杖に語りかけるだけだったので、今度は心を繋げるイメージを伴って杖に語りかけてみた。
(はじめまして。僕はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。これから魔法使いのパートナーとしてよろしくお願いします。君はどんな魔法が好きかな。僕にどんな魔法を使わせてくれるかな?楽しみだね。僕は・・・)
しかし反応は特に無かった。
まあ本来なら数日かけてやっていくことなのですぐには無理なのかもしれない。
そう考えているとふとあることを思いついた。
(・・・そうだ!これから一緒にいるんだから名前をつけよう!ガンダム!・・・と言いたいところだけど、もっとこう・・・どんな困難にも打ち勝てるような熱い魂を表したような名前の方がいいかな?それにガンダムだとほとんど後半に乗り換えがあるイメージだしね。杖を乗り換えちゃうのは可哀想だし。)
(・・・グレンラガン・・・君の名前はグレンラガンだ!いい名前だろ。真っ赤に燃える魂を宿して、どんな困難にも決して怯まずに立ち向かっていけるロボットの名前なんだよ。俺がその魂をお前に注ぐから、お前はその力を体現してくれ!)
俺はどんな強敵やどんな絶望的な状況にも立ち向かい、そしてそれらを打ち破ってきたロボットの名前を杖につけることにした。
これからどんな苦境にも負けないように。
(俺とお前、二つの力で今を超える!紅蓮の炎が明日を照らす!魔法合体!ヴァルムロートグレンラガン!・・・なんてね。)
それっぽく心の中で口上を考えてみた。
すると、いきなりよくわかんないけど心というか感覚が杖の方まで広がったような感じがした。
(・・・マジか!?)
その不思議な感覚に戸惑っている時、メイドさんが夕食の用意ができたと呼びに来た。
夕食時、父さんにそのことを言うと、
「本当か?ちょっと待っていろ、調べてみる。ディテクトマジック!・・・確かに杖にお前の魔力が繋がっているな。まだ1日目だというのにこんな短時間で、すごいぞ。ヴァルムロート!」
家族が俺のことをすごいとか烈風のカリンよりすごいんじゃないかとか言いていると、
「ばる、もうできちゃったの?・・・う、わあああああああん!きゅるけおいてっちゃだめーーー!!わああああああん!!」
とキュルケが泣きだしてしまったのでみんな何とも言えない雰囲気になってしまった。
俺がキュルケの前でオロオロしていると、母さんがキュルケを抱き上げた。
「大丈夫よ。ヴァルはキュルケを置いて行ったりしないわよ。ね、ヴァル。」
母さんのナイスなフォローによってキュルケの泣く声が少しずつ小さくなっていく。
キュルケが俺の方を再び泣き出しそうな顔で見ていたので、俺はこのタイミングを逃すとまた大変なことになると思った。
「もちろんだよ!いつも一緒だよ、キュルケ。」
「ひっく、ひっく。・・・ほんと?ばる。」
「本当、本当。キュルケが契約できるように一緒に頑張ろう。」
「よかったわね。キュルケ。」
「うん!」
(おお!キュルケめっちゃ笑顔だな。父さんがキュルケのあまりの可愛さに昇天しかかってる。あ、母さんが殴って正気に戻した。)
そして俺はキュルケに俺がやった方法をなるべく分かり易く教えた。
まあ、内容は自己紹介とか、杖に名前をつけたり、自分はどんな人だとか、どうなりたいかとかだけど。
まあ、ロボットのことは内緒だけどね。
そして次の日のお昼頃にはキュルケも杖との契約ができていた。
キュルケも杖に名前を付けたみたいだけど、どんな名前か教えてくれなかったな。
そんな俺達に父さんは嬉しいやら悲しいやらといった表情をしていた。
おそらく自分の子供がこんなに早く契約できたことに喜んで、普通より契約にかかった時間が早かった自分をあっさり抜かされた悲しさからくるものだろうな。
そんな父さんを見て母さんが「やれやれ」みたいなことを言っていた。
さあ、とうとう明日から魔法を教えてもらうぞ!