06話 魔法はイメージが大切!
「ヴァルムロート、キュルケ。お前たちは昨日杖との契約が終わったのだから、今日から本格的に魔法の練習に入るぞ。朝食を食べ終わったら、練習場に来なさい。」
朝食が目の前に運ばれてくる時に父さんが待ちに待った言葉を発した。
「「はい。」」
俺とキュルケは元気よく返事をした。
食事前のお祈りを済ませ、さらに俺は心の中で「頂きます」といった後、俺とキュルケは猛烈な勢いでパンやハムを頬張った。
少し先走り過ぎたようで母さんにたしなめられたが、それでも少しでも早く朝食を終わらせるように黙々と食事を口に運んだ。
そうして俺とキュルケは急いで朝食を食べ終えると、早速魔法の練習場に来ていた。
練習場は家の裏手のちょっと離れたところにあり、広さは縦100メイル、横150メイルあり、ちょうど地球の小学校のグランド位の大きさだ。
まあ、遊具とかないしもっと広く感じるけど。
そこへ父さんが誰かを連れてこっちに来た。
「早いな。ちゃんと準備はできているのか?」
「「はい!」」
父さんがそんなことを聞いてきたので、俺とキュルケは杖を頭の上に掲げた。
「うん。じゃあ、紹介しよう。今日からお前たちの魔法の先生になるうちのメイジだ。系統は主に火だが、他の系統もある程度使えるから、お前たちの先生にもってこいだろう。」
父さんが横にいた人が今日から俺達の魔法の先生になると紹介するとその人が一歩前に出て俺達に自己紹介を始めた。
「アーム・ロ・レイルドです。よろしくお願いします。ヴァルムロート様、キュルケ様。火のトライアングルメイジでありますが、他の系統もラインスペルまでなら使用できるので、分らないことがあれば遠慮なく聞いてください。」
そういうと先生はペコリと頭を下げた。
「「よろしくお願いします。先生!」」
俺とキュルケも先生に挨拶して頭を下げた。
「それでは後は任せるよ。しっかり鍛えてやってくれ。」
「はい。わかりました。」
父さんは先生に後のことを任すと家の方へ戻っていった。
「先生。まずは何をやるんですか?ツェルプストー家だから火の系統ですか?」
俺はこれから魔法の練習を始めると思うといても経っても居られずに先生に催促するように何をするのかを聞いた。
ツェルプストー家は代々優秀な火のメイジを輩出しているらしいのでまずは火から練習するのだろうかと俺は思った。
「確かにヴァルムロート様の言う通りツェルプストー家は火の系統の素質がある人がよく生まれるので火を極めることが多いのですが、それは個人の魔法の素質を見てから決めるのですよ。」
しかし先生の返答は俺が予想したものではなかった。
ツェルプストー家だから火ということには囚われず、個人の素質を見てからこれからの方針を決めていくようだ。
「そうなんですか。」
「それに最初はコモンマジックという簡単な魔法から練習して、それから系統の魔法に移ります。」
コモンマジックって確か誰にでも出来る簡単な無系統魔法みたいなものだったけ?と俺が考えていると、キュルケが先生にコモンマジックについて訪ねていた。
「こもんまじっくってなに?」
「はい、キュルケさま。コモンマジックとは系統に縛られない誰にでも使える簡単な魔法です。また魔法は精神力を使って発動、つまり魔法を出すのですが、コモンマジックはその精神力の消費、つまり魔法を使ったときの疲れやすさがもっとも少ないので魔法を初めて使い、魔法に慣れるのに適したものなのです。どうです。分かりましたか?」
「わかったー!」
先生の説明を聞いたキュルケが元気よく返事をした。
「それは良かった。ではコモンマジックの練習を始めますね。」
「「はい!」」
「まずはライトという魔法から練習しましょう。『ライト』は光を出す魔法です。夜や暗い場所で周りを明るくするのによく使うことになるでしょう。」
そう言って先生は杖を軽く振って、『ライト』と唱えた。
すると、先生が持っている杖の先に光の玉が現れた。
「では、ヴァルムロート様、キュルケ様。私が今やったように杖を振って、『ライト』と唱えてみてください。その際に杖の先に光の玉ができるイメージを持っていてください。」
「「はい!」」
先生はイメージを持てと言った。
そして目の前で実物を見た。
俺は自分の杖の先に光の玉が出来るイメージを頭の中に浮かべた。
そして俺とキュルケは杖を振って、『ライト』と唱えた。
すると俺の方は先ほどの先生のものと同じくらいの光を放つ玉ができ、キュルケの方はぼやっとしているがそれでもちゃんと光の玉ができていた。
「すごいですね。ヴァルムロート様、キュルケ様。1回目で成功なさるとは。」
先生は手を叩きながら俺達を褒めたがキュルケの顔はあまり喜んではいなかった。
「でも、きゅるけのばるのよりひかりがよわい。」
キュルケは俺の光の玉と自分のものを比べて、少し気を落としたようだった。
「それはおそらくまだキュルケ様のイメージが弱かったからだと思います。しかし、練習すればすぐに同じくらいになりますよ。」
「ほんと?よかった。わたしがんばる!」
先生の言葉でキュルケは気を取り直すように、ぐっと杖を握る手に力をこめていた。
「では次の魔法をしてみましょう。次は『レビテーション』です。そうですね・・・あ、あそこの小石を見ていてください。」
そう言われて小石をいていると、『レビテーション』の声と共に小石が俺達の目の高さまで浮き上がった。
「おお、すごい。」
「すごい!すごい!」
俺は素直に感心した。
ただ石が浮かんでいるだけ(いや、それだけで十分すごい)なのだが、これが種や仕掛けがある手品ではなく本当に魔法ってやつなのだろうと思った。
「では、ヴァルムロート様、キュルケ様。杖を振って、レビテーションと唱えてみてください。その際には小石が浮き上がるイメージを持っていてください。」
「「はい!」」
見たままでイメージは出来るが、石が浮くだけなのでどう具体的にイメージすればいいのか予想がつかない。
・・・まあ、とりあえず案ずるより産むが易しってことでやってみた。
実際にやってみて分かることも多いはずだからな。
俺とキュルケはそれぞれ適当な小石に『レビテーション』と唱えた。
俺は先ほどの先生のように俺の目の高さまで浮かび上がるイメージをしたのだが、小石は腰のあたりまでで浮かび上がるのを止め、さらに先生と違い上下にふわふわして安定していないようだった。
キュルケの方は小石を地面から10サント程度浮かび上がらせていた。
「おお!レビテーションも1回目からできるとはヴァルムロート様もキュルケ様も魔法の才能が御有りのようですね。」
再び先生が拍手をしながら俺達を褒めた。
しかしそうやって褒めるということは本当に一回目で成功するほうが少ないのかそれともお世辞か・・・いや、褒めて伸ばすということなのかもしれないとフワフワ浮いている石を見ながら考えていた。
キュルケを見ると俺と自分の浮かべた小石を見比べて再び涙目になっていた。
「キュルケ様。魔法は練習あるのみです。頑張りましょう!」
先生がすかさずフォローを入れていた。
先生はキュルケが俺と差ができると不機嫌になったり、泣いたりするのを父さんから聞いていたのかもしれないと思うほど、迅速な対応だった。
「では今日は最後に『フライ』の魔法を習って終わりにしましょう。」
「もう終わりなのですか?」
「はい。魔法を始めた初日ですから本当は『ライト』を成功させるだけで時間がかかると思っていたのですが、お二人に魔法の才能があるのでついつい進み過ぎてしまいますから。それに『フライ』はコモンマジックではなく一応風の系統の魔法になるのでさきほどより精神力を消費しやすいのです。」
「風の系統ですか?系統がつく魔法はコモンマジックを練習したあとと最初におっしゃいませんでしか?」
そう言いながら、もしかしたら系統魔法は素質が無いと出来ないというわけではないのかと考えた。
「はい。ヴァルムロート様。確かに私は最初、系統魔法はコモンマジックの後に行うといいましたが、この『フライ』は別なのです。」
「どーしてそれだけとくべつなの?」
俺もそう思っていたところにキュルケが先に先生に質問していた。
「キュルケ様。その疑問ももっともです。この『フライ』という魔法は風の系統に分類される、つまり風の系統のお仲間なのですが、風の系統に素質のないものでも扱える、ほとんどコモンマジックのようなものなのです。」
「なるほどー。」
キュルケが口に出して納得している時に、俺も心の中で「なるほど」と思った。
そして同時にやはり素質がなければ系統魔法は使えないのかもと思った。
「では、まず私がやって見せますね。」
先生が杖を振り『フライ』と唱えると、先生の体が1メイルほど浮き上がり、俺達の周りをゆっくり回ってみせた。
俺とキュルケは言葉が出なかった。
この『フライ』を見た時の衝撃は先程の『レビテーション』の時の驚きの比では無かった。
あとで先生が言っていたが、俺とキュルケの目がすごいきらきらしていたそうだ。
まあ、しょうがないよね!
だって人がそのままの状態で空を飛べるんだぜ!これに興奮しない人はいないだろう。
「これが『フライ』の魔法です。イメージとしては自分の体がふわっと風に乗る感じでしょうか。それではやってみてください。」
「「はい!」」
俺とキュルケは少し距離をとり、先にキュルケが『フライ』と勢い良く唱えていたが、まったく体が浮かび上がる気配がなかった。
そんなキュルケを見て先生がフォローを入れた。
「キュルケ様。この『フライ』は先ほどの『ライト』や『レビテーション』とは難しさが全然違うので、生きる伝説と呼ばれる烈風カリンは別として普通は7日、早くても2〜3日かかるのであせらなくても大丈夫ですよ。」
そんなキュルケと先生のやり取りを横目に俺はこれから出来ることに感動さえ覚えていた。
空を飛ぶイメージ。
普通・・・というかこのハルケギニアの人には難しいかもしれない。
しかし!
地球からの転生をなめんなよ!
俺はドラゴ○ボール世代真っ只中だぜ!
ようするに舞空術だろ。
どんだけ子供の時イメージしたと思ってるんだ!
かめはめ波と同じくらい散々イメージしたよ!
夢にまで見たこの瞬間、転生してよかったー!
・・・とこの時初めて転生した喜びを感じていた。
「『フライ』!!」
そう俺が唱えると俺の体はまず50サントほど浮き上がり、そして俺が思ったように空中をゆっくりとした速度ではあるが飛ぶことができた。
それを見ていた先生は驚いた顔をし、キュルケはすでに泣いていた。
・・・ちょっと、調子に乗りすぎたかな?
先生と一緒にキュルケをなだめていたら、メイドさんが昼食に呼びに来た。
とりあえず泣き止んだキュルケと先生にお礼を言い、今日の訓練は終わりとなった。
分かれる時に先生が次のことを言っていた。
先生は午後から別の仕事があるらしく、魔法の練習は午前の間だけこの練習場で見てくれること。
これはおそらく父さんが俺達に無理をさせないように気を使ったことだろう。
午後は自主錬をしても良いが、フライを練習するときはだれか大人のメイジに見てもらうこと。
まあ、飛んでる最中に精神力が切れて落っこちたりしたら大変だからな。
キュルケは泣き止んだがかなり機嫌が悪いらしく昼食の時もムスっとしていた。
母さんに「今日どうだった?」て聞かれて俺が「楽しかった!」と答えるとさらに機嫌は悪くなった。
昼食を食べ終えて、母さんに見てもらいながらキュルケとフライの練習をした。
俺はアドバイスを出すだけで練習はキュルケに止められた。
もうすぐ夕食という時にキュルケの体が5サントほど浮かぶ事が出来たので、そこでようやくキュルケの機嫌も直った。
夕食時、父さんにそのことを言うと、
「お前達は魔法の天才だな!!!」
と言って俺とキュルケを抱きしめた。
夜寝る時に今日の出来事を思い返して、なるべくキュルケにできないことはキュルケの前でやったりせずに、もしやる時は程度を抑えてやるということを考えていた。
キュルケに泣かれたくないしね。
まあ、無理かもしれないけど・・・なるべく努力する方向で行くことを心に決めた。
瞼を閉じるとまた『フライ』で飛んだ時の感覚が蘇ってきた。
「ふふ、明日からも楽しくなりそうだな。」
そうつぶやいて眠りについた。
読んで頂きありがとうございます。
この話も少し描写を加えた程度ですね。
・・・先生の名前は、まあ結構崩しているしいいかな?っと。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみてください。