10話 『フランベルグ』と『ブレイド』
てててーてーてーてっててー♪
体の奥から力が湧いてくる感覚を感じながら、頭の中にFFのファンファーレが鳴り響いていた。
魔法を習い始めて3年経った。
俺とキュルケのメイジのランクは“ドット”から“ライン”になった。
「すごい!魔法を使っても前よりも疲れにくい!」
俺は調子にのって『ファイアーボール』を連続で放った。
「やったわね!ダーリン!」
喜んでいる俺の様子を見て、キュルケも一緒になって喜んでくれている。
「おめでとうございます。ヴァルムロート様、キュルケ様。もうラインになってしまわれるとは。やはり、お二人は魔法の才能が御有りですね。私としても教えがいがあるというものです。」
先生も喜んでくれていた。
でも、初級ともいうべき“ドット”から中級の“ライン”に上がるまで3年もかかってしまった・・・もっと簡単に上がると思ったのに。
この調子だと次の“トライアングル”になるのに最低でも3年以上はかかるだろうな。
俺が最低でも3年と考えているのはメイジとしてのランクアップは当然ながら“ドット”から“ライン”に上がるより、“ライン”から“トライアングル”に上がる方が大変だと聞いているからだ。
勿論、その上の“トライアングル”から“スクウェア”になるのも同様だ。
ただ、先生が話してくれた時になにやら例外的な方法があるようなことをほのめかしていたが聞いても全く教えてくれなかった。
ここでメイジのランクのことを簡単におさらいしておこう。
1つの魔法しかできないメイジを“ドット”例:火、水など
2つの魔法をかけ合わせられるメイジを“ライン”例:火火、火水など
3つの魔法をかけ合わせられるメイジを“トライアングル”例:火火火、火火水、火水風など
4つの魔法をかけ合わせられるメイジを“スクウェア”例:火火火火、火火火水、火火水風など
以上の4つがある。
5つとか6つの人はいないらしい・・・が、かなり例外的な方法はあるようだ。
あとランクが1つ上がると、俺が言ったように精神力の消費が大幅に減少するし、同じ魔法を使っても威力が上昇する。
そして、今までは『ファイアーボール』とか簡単な魔法しか使えなかったが、これからは火の系統魔法なら二つかけ合わせることができるようになったので魔法に幅が広がるだろう・・・まだ、多少だけどね。
そう、“火”の系統なら2つをかけ合わせることができる。
大事なことなので2回言いました。
今の俺は火のメイジとしては“ライン”なのだが、水や風のメイジとしては実はまだ“ドット”なのだ。
・・・1つの系統が上がったら他の系統も上がるんじゃないの?
なんだろうね、この感じ・・・例えるならスパロボの武器一括改造ではなくて、昔みたいに1つ1つ個別に改造するみたいなものなのか?
とにかく俺の場合、火、水、風のそれぞれの系統にそれぞれランクがあって、今回は火のみランクアップしたって感じなのかね。
まあ、主に火を練習してたっていうのもあるのかも?
早速、先生に火の“ラインスペル”を2つ教えてもらいました。
1つは『ファイアーボール』の強化版『フレイムボール』。
これはほぼ『ファイアーボール』の上位互換の魔法で、威力が上がり、魔法発動後も軌道の変更が出来る機能と若干の自動追尾機能が追加されたものだ。
『ファイアーボール』涙目。
かなり使い勝手がいいが、この若干の自動追尾機能はあまり小回りが利かないみたいで大雑把に動くのでちょこまか動く目的にはあまり当たらないだろう。
もう1つは『ファイヤーウォール』。
これは火の壁を作り出す魔法で、壁の高さや厚さは結構自由に変えられる。
これは主に対象を逃がさないようにする炎の檻のような使い方をするのが一般的だそうだ。
とまあ、先生に新たな魔法を教えてもらっている中、俺はここでいままで考えていたことの1つを試してみようと思った。
火の魔法はなにも火球を作りだしたり、火の壁を作るだけではないはずだ。
物に熱エネルギーを与えることだって可能なはずだ!
ということで、さっそく試してみた。
まず、杖から長さ1メイルの円柱の空間に熱エネルギーを与えて、空気中の分子が激しく動くのをイメージして魔法を発動させる。
ドットランクのときも試してみたんだけど、どうもドットだと細かい魔法の調節とかができないみたいで、小さい火炎放射みたいなのができただけで終わった。
そして、今、俺の杖の先には赤い光を放つ剣のようなものができていた。
見た目はガンダムの“ビームサーベル”のような感じだ。
これがどのくらいの威力があるかその辺の石で試してみることにした。
まず左手に手頃な石を持ち、それを宙に投げ、その石に向って杖を下から上に振り上げた。
石は剣状に光る部分に当たると真っ二つになり、そして地面に落ちた。
・・・うん、かなりの切れ味だな、少し怖いくらいだ。
落ちた石をよく見てみると断面は黒くなっており、しかもその二つを合わせても元の大きさよりも小さくなっているようだった。
・・・切れた、といよりは超高温で溶かしたって感じだな。
しかもこの魔法は実際やってみるとかなり精神力の消費が激しいようだ。
常に調節した火の魔法を出し続けているようなものだからかな?
そんなことを一人で思っていると先生が驚いた顔で俺を見ていた。
「・・・ヴァルムロート様。その魔法、どこで覚えたのですか?」
先生が少し振るえる声で聞いてきた。
「え?僕が今考えたのですが。何かいけなかったでしょうか?」
俺は先生から何かよくわからない雰囲気を感じながらそう言った。
「・・・ご自分で思いついたのですか?ちなみに、『ブレイド』という魔法はご存じですか?」
「『ブレイド』?いいえ、知りませんが・・・」
そう言うと、しばらく先生は黙った後、
「す、素晴らしい!素晴らしいですよ、ヴァルムロート様!まさか、この年でラインランクになるだけでなく、新たな魔法を考えついてしまうとは!まさに天才という言葉がふさわしい!」
と、すごい勢いで言われた。
俺は少し引いた。
「すごいじゃない!さすが私のダーリンね!」
キュルケは感心して、褒めてくれていた。
先生の勢いに少し引いていたが、それでも褒めてくれていることは分かったので俺は照れ隠しに頭をかいた。
「て、天才なんて・・・そんなんじゃないですよ。」
そうそう、最近キュルケは俺と同じじゃなくても泣かなくなったし、むしろ褒めてくれるようになっていた。
以前、泣いた時に母さんと何か話してて、その後からこんな感じになったんだけど、なにか心境の変化があったのかね。
あと、キュルケが俺を呼ぶ時に「ダーリン」なんて言い出したのもそのときからだ。
いまだにキュルケは俺の嫁になる気があるのかね?もう8歳だから分別付きそうなんだけど。
因みに俺が「ダーリン」なんて呼ばれて、黙っているのはもう何を言っても無駄だからだ。
初めの1か月は「ダーリンっていうなよ。恥ずかしいな。」とか「僕達、姉弟なんだよ?」とかいろいろ言ってみたけど、キュルケの「いいじゃない。私がそう呼びたいんだから。」という言葉に俺は何も言えなくなった。
もちろん家族にも抗議してもらおうとした。
・・・が、母さん達は俺が何を言ってもニコニコしてるだけだし、姉さん達は口をそろえて「キュルケの好きに言わせておけばいいのよ。」なんて言ってくる始末。
唯一父さんは何か言いそうにだったが、母さんの「あ、な、た・・・」に黙ってしまった。
それ以来もうこれに関して何も言わないことにしている。
家のお抱えメイジやメイドさんなどの使用人も暗黙の了解として扱っているようだ。
なんて物思いにふけっていると、先生が『ブレイド』も教えてくれるという話になった。
「本来なら、『ブレイド』はもう少し後で教える予定でしたが、まあ、いいでしょう。」
「『ブレイド』とはどのような魔法なのですか?」
「はい、説明したします。メイジは本来なら後方からの魔法攻撃や支援を行うので戦いの時に前線には出ません。しかし、敵などが前線を突破したり、前衛となる者がおらず、自分1人で戦う時の接近戦の魔法として使用されるのが『ブレイド』です。」
そう言って、先生は『ブレイド』と唱えた。
すると先生の杖の周りに淡い赤色を発する光の刃が現れた。
「これがメイジの接近戦用の魔法『ブレイド』です。先ほどのヴァルムロート様の魔法と良く似た形状ですが、ブレイドは杖に魔力を纏わせ、それを刃にしているのに対し、ヴァルムロート様の魔法は杖の先から魔力の刃が出ていたようですし、見たところヴァルムロート様の魔法は火の系統魔法で構成されていたようです。『ブレイド』は確かに系統魔法なのですが、いまだにどの系統に属しているか分からないものなのです。」
「ふーん。系統がいまだに分からないなんて『ブレイド』って不思議な魔法なのね。」
キュルケが『ブレイド』の魔力の刃を見ながらそうつぶやいた。
「そうですね、キュルケ様。・・・では、ヴァルムロート様、キュルケ様、やってみてください。」
杖の周りに魔力の刃を纏うイメージを頭の中に浮かべた。
「「『ブレイド』!」」
すると、キュルケのブレイドはほぼ赤一色の魔力の刃が現れた。
それに対し俺のブレイドは白一色の魔力の刃が現れていた。
「・・・これは珍しい。まさか白い『ブレイド』ができるとは・・・。」
先生は俺の真っ白な『ブレイド』を見て、また考えこんでしまった。
「白い『ブレイド』なんてきれいね!さすが、ダーリンね!」
「ありがと。キュルケのは赤一色でとてもキュルケに似合ってるよ。」
「もう!ダーリンたら!」
なんてお互いに褒めあっていたら、
「おお、すみません。ヴァルムロート様、キュルケ様。つい、考え込んでしましました。」
「どういうことですか?この白い『ブレイド』が珍しいことと何か関係があるのですか?」
「はい。ブレイドは使用者の素質のある系統の色が反映されるのです。例えば、私は淡い赤色でした。これは火が一番強い素質を持ち、あとの3系統もある程度素質があるので赤色が薄くなって、その結果淡い赤色となっています。キュルケ様は火の素質が強いのでほぼ赤一色のブレイドができています。」
先生は自身の『ブレイド』やキュルケのものを示しながら説明していった。
「では、白色はどういうことになるのですか?」
「これは私の憶測になりますが、おそらくヴァルムロート様の火、水、風の素質がほぼ同じであると考えられます。そして、火は現在ヴァルムロート様はラインランクですが旦那様のことを考えると将来はスクウェアになられても可笑しくはない素質を秘められていると思われます。」
「つまり、水と風も素質としてはスクウェアまで上げることが出来る・・・ということですか?」
俺は降って湧いたような話題に驚きを抑えながら、先生に可能性の話をした。
「はい。そうなります!」
先生は俺の可能性の話をすぐに肯定した。
父さんがスクウェアメイジでその子供もスクウェアになれる可能性があるのならば勿論もう一人の子供も同じくらい可能性があるだろうと思った。
「それだったら、キュルケもスクウェアになれる可能性もあるのかな?」
「そうです!本当にすごいことです!」
先生は少し興奮していた。
どうも父さんの話題になると自分を抑えられないようだな。
簡単に聞いた話だと父さんが命の恩人らしいので、それで崇拝に近い感情を持っているのかもしれない。
「すごいわ!ダーリン!夫婦揃ってスクウェアなんてそうそういないわ!」
いやいや、夫婦じゃないから・・・と心の中で突っ込みを入れながら、賑やかに今日の練習は終わった。
昼食時に家族にそのことを言おうとした時、いきなり父さんが、「今日はめでたい日だ!小さいながらパーティをするぞ!」とか言うと、いつもより豪勢な料理が出てきた。
もう、家族は俺とキュルケがラインになったことや俺がオリジナル魔法を作ったこと、そしてスクウェアになれる素質があることを聞いていたようだった。
それだけでなく、家ですれ違う使用人達にも「おめでとうございます。」とか言われて、すでに知れ渡っているようだった。
これは頑張ってスクウェアにならないとまずいな。
オリジナル魔法第一弾の名前を聞かれたので『フランベルグ』と答えておいた。
“ビームサーベル”と答えても良かったのだが後々やって来るはずのサイトのことを考えると“ビームサーベル”はその名前が有名過ぎる。
ガンダムのことを名前しか知らなくても“ビームサーベル”という言葉はどこかで聞いたことがあるはずだろうからな。
だが、この『フランベルグ』は今のところ封印している。
封印した理由は二つある。
一つ目は『ブレイド』と比較して消費精神力が比較にならないくらい大きい・・・いや、でかすぎる!『ブレイド』の精神力消費を5としたら、オリジナル魔法は20以上だろう。
しかも、『ブレイド』は発動時のみ精神力を消費するのだが、オリジナルの方は常に精神力を消費するので長時間使用するほど差が開く一方だ。
二つ目は強力すぎることだ。
威力の比較として『ブレイド』でも石を斬ろうとしたが、傷は付いたが二つに割ることは出来なかった。
まあ、威力は精神力消費の比率から考えたら妥当なのかもしれないが・・・。
とまあ、そういう訳でまだまだ習い初めであの威力は危険過ぎると自分で判断したので“今のところ”封印することにした。
しかし火を元にしたら、他の系統もかけ合わせられそう(火を元にしたら水や風をかけることがたぶん可能)なので、もっといいのを考えてやる!
読んで頂きありがとうございます。
とうとうオリジナル魔法第一弾『フランベルグ』が登場しました。
・・・え?前は『ビームサ・・・それ以上は禁止事項です。
因みに『フランベルグ』は『フランベルク』のドイツ語読みになるらしい。
あと元々『フランベルグ』は刃が炎のように波打った剣の事です。
前のオリジナル魔法達もドイツ語にしています。折角考えたからね!
アニメの技名が出てきたらそれは今回からの新規のオリジナルになります。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみてください。