11話 接近戦も出来るメイジを目指して
「父上。僕に剣を教えてください。」
ラインランクのメイジになった次の日、俺は父さんに剣を教えてもらえるように頼みに父さんの書斎に来ていた。
部屋に入ると仕事机の前の椅子に座っている父さんが手元の書類から目を離して俺の方を見た。
そして俺は父さんの近くまで行くとそう言って俺に剣を教えてくれるように頼んだ。
「どうした?ヴァルムロート。お前はメイジだ、別に剣は覚えなくてもいいのではないか?」
確かにこのハルケギニアのメイジ、特にランクの高いメイジになればなるほど戦いの前線とは遠くなり、後方で砲台として魔法を使うことがほとんどで剣を扱う機会はほぼ皆無だろう。
しかし、これはちゃんとメイジの盾となる前衛がいて初めて出来ることだ。
俺がこれから関わっていくことになる原作でそれはあまり期待できない・・・なんたって少数、しかもほぼ学生だけで行動することになるからな。
ワルドやシェフィールドみたいな強力な敵と戦わなくてはいけないかもしれないときに、ただ突っ立って魔法を詠唱していたのではいい的になるのがオチだ。
そもそも前衛を出来そうなのが最強の盾であるガンダールヴのサイトくらいしかいないし、その肝心のサイトはルイズを守るので精一杯だろう。
盾一つなのに守る対象が多すぎるんだ。
原作では死んでない(サイトはほぼ死にかけた)が、この俺がいる世界でも死なないとは確実に言えないし、そもそも原作にはいない俺自身が一番死にやすいと考えられる。
そこで俺がサイトと共に前衛をこなせれば、俺を初めキュルケや他の仲間の生存率も上がってくるだろう。
・・・でも今の俺では圧倒的かつ絶望的に実力が足りない。
当然だろう・・・前世での俺は剣道も格闘技も何もやっていないただのサラリーマンに過ぎなかったのだから。
だから俺自身を鍛えることが必要になってくる。
なら、それは早い方がいい。
しかし、体の成長が進んでないときから体を鍛えると、逆に体の成長に悪影響があるってどこかで聞いた気がするので、いままで待っていたんだ。
あとメイジの接近戦用の『ブレイド』の魔法も覚えたし、オリジナル魔法の『フランベルグ』もあるからな。
「父上の仰ることももっともです。メイジが剣を使うなんて野蛮だという風潮があることは存じています。しかし、折角『ブレイド』とい接近戦用の魔法も教えて頂いたので、きちんと使いこなせるようになりたいのです。」
俺はそれっぽい理由を付けて父さんの説得を試みた。
まあ、断られたらこっそり我流でやっていくつもりだが効率などを考えるとちゃんと剣術を習いたいからな。
「『ブレイド』はほとんど使用することはないと思うが。・・・そういえば、お前が考えついた『フランベルグ』だったか?あれも剣のようなものだったと聞いたな。」
全く聞く耳を持たないかと思われたが父さんが『フランベルグ』に反応した。
こんなところでオリジナル魔法が役に立つとは思っていなかったが使わない手はないだろうと思い、『フランベルグ』のことも含めて畳み掛けた。
「はい。ほぼ『ブレイド』と同じ扱いのものと考えてもらって結構ですが、あれは精神力の消費が大きいのであまり使わないかも知れません。ですが、『ブレイド』もそうですが自分の考えた魔法である『フランベルグ』をちゃんと扱う為にも、是非僕に剣術を習う許可を!」
父さんがじっと俺の目を見つめた。
俺は父さんの目を真剣な眼差しで見つめ返した。
すると父さんは軽く息を吐いて、ギシッと音を立てて椅子の背もたれに寄りかかった。
「・・・まあ、いいだろう。お前のことだ、何か考えがあるのだろう。よし、ザイティーズ隊の誰か・・・いや、どうせならザイティーズにお前の剣の稽古を付けさせるように言っておこう。昼食を食べたら、兵舎の訓練場まで来なさい。」
「はい!父上、ありがとうございます。」
父さんの言っていたザイティーズ隊っていうのは、うちの警備やツェルプストー領地に現れた亜人などの討伐を行う兵士の集団のことだ。
因みに隊名は毎回隊長になった人の名前を付けられらしい。
昼食を食べている時に母さん達に今日から剣を習うことを言ったら、
「そうなの?」
「体きたえるの?」
「あらまあ。」
と言って、キュルケを見て、なんでキュルケを見るのかは分からなかったが。
「「「ヴァルも男の子ねー。」」」
とか言っていた。確かに俺は男だが?
姉さん達は、
「いいんじゃない?」
「いーなー。キュルケは。」
「シュヴァリエになるの?」
とか言っていた。いや、姉さんいまのところシュヴァリエになる予定はないですよ・・・あ、シュヴァリエっていうのは騎士のことだ。
「ねえ、ダーリン。私も一緒にいっていい?」
「いいと思うけど。面白いことなんてないと思うし、さすがにキュルケにも教えるとか言わないだろうし。そうですよね、父上?」
「そうだ。ヴァルムロートは男の子だから許可したがキュルケはだめだぞ!」
父さんは怒ったように普段よりも目尻を上げていた。
「ダーリンが今日から剣を習い始めるから心配なの。見るだけでもダメ?お父様?」
キュルケが上目遣いで父さんに頼みごとをすると、みるみる内に父さんの目尻が下がっていった。
「まあ、今日だけならいいだろう。でも、今日だけだからな。あまり関係のない者がいると兵達の邪魔になるといけないからな。」
「ありがとう!お父様!」
キュルケにお礼を言われた時には父さんの目尻は下がりようがない程に下がっていた。
・・・父さん、娘に甘々だな。
昼食が終わって、父さんと兵舎の訓練場に来た。
中に入るとすぐに誰かこっちにやって来た。
「旦那様、ヴァルムロート様。どうされました?」
「ああ、今日からヴァルムロートに剣を教えることになったからな。ザイティーズにその話はしているはずだが。」
「はっ。そのことは伺っております。すぐに隊長を呼んできます。」
「頼む。」
そういうと、その兵士は兵舎に戻っていき、こんどは違う人が現れた。
年齢は父さんと同じくらい、何度か父さんと一緒にいるところを見たことがある人だった。
「旦那様、ヴァルムロート様、お待ちしておりました。」
「うむ。ヴァルムロート、この人が今日からお前に剣を教えてくれるザイティーズだ。」
「きちんと自己紹介をするのは初めてですね。私はザイティーズ・シュヴァリエ・カズハットと申します。ザイティーズ隊の現隊長をやらせて頂いております。これからよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします!」
ザイティーズ隊長が挨拶をしたので俺も挨拶をして頭を下げた。
「では、ザイティーズ。今日からヴァルムロートを頼む。ばしばししごいてやってくれ。」
「はっ!了解しました。」
そういうと父さんは戻っていった。入れ違いにキュルケがやってきた。
「ダーリーン!良かった。まだ始まってなかったのね。」
「これはキュルケ様、どうなされましたか?」
「キュルケ、本当に来たのか。」
「もう、つれないわね。これは、ザイティーズ隊長さん。御機嫌よう。今日はダーリンの見学にきたの。だめかしら?」
「いえ、構いませんが。あまり近いと危ないかもしれないので少し離れて見学していただけますか。」
「ええ、いいわよ。頑張ってね、ダーリン。」
「ああ、頑張るよ。」
表に出ると早速剣の練習が始まった。
俺がこれから習っていくのは片手剣の扱い方だ。
貴族で剣を習う場合は大多数が携帯の良さなどからレイピアを選ぶらしいのだが俺が片手剣を選んだのは『ブレイド』も『フランベルグ』もその形状から片手剣が一番合っていると思ったからだ。
・・・まあ、参式斬艦刀とか使うのなら両手剣などの大剣とかでもいいんだけど、無いしね。
持ってみると金属でできている刃渡り60サントくらいの片手剣は思った以上に重かった。
実際の重さは3〜4リーブル(1.5〜2キロ)なんだろうが、それでも8歳の俺には重すぎた・・・俺ってもしかしてもやしっ子?
「重いですか?ヴァルムロート様。」
俺が剣を持ったままふらふらしているとザイティーズ隊長がそう聞いてきた。
「・・・はい。これは私には重いです。」
俺は偽っても何の利も無いと思い、ありのまま事実を口にした。
「そうですか。ではこちらで練習しましょう。」
そういってザイティーズ隊長は木でできた片手剣を渡してきた。
それがあるなら初めから、そっちを出せよ!とか思った。
「これなら、なんとか私でも持てます。」
「では、まず木剣で練習し、ヴァルムロート様の筋力が上がったら、こちらの剣でやることにしましょう。」
「はい。それでお願いします。」
そこからはまず剣の持ち方、立ち方、移動の仕方を習い、次に切り、突きなど基本的な剣の扱いを習った。
教えてもらっている間、ザイティーズ隊長は人が変わった?ように、むしろこっちが本当か?と思うような厳しいものに変わった。
「甘い!その持ち方ではすぐに相手に剣を奪われてしまうぞ!」
(しゃべり方変ってるぞ。)
「はい。」
「声が小さい!もう一度!」
「はい!」
「腰が高い!もっと腰を落とせ!」
「はい!」
「腰が入ってない!それでは剣に振るわれてるぞ!剣は振るものだ!」
「はあ、はい!」
「なんだ!その突きは!ふらふらするな!」
「はあ、はあ、はい!」
どれくらい時間が経っただろうか?ひたすらに基礎を叩きこまれていた。
「どうした!?もう終わるのか!?」
「・・・ま、まだまだいけます!」
「よく言った!では素振りをそれぞれ百回ずつだ!」
「は、はい!」
ようやく素振りをやり終えるといつの間にか空が赤くなっていた。
「もう暗くなりますね・・・今日はここまでにしましょう。」
剣を支えにしてやっと立っている状態の俺の耳にザイティーズ隊長の終了の言葉が届いた。
「はあ、はあ、・・・はい!」
「今日、ヴァルムロート様にお教えしたのは剣を扱ううえでごく基本的なことだけです。おそらく戦場に出たら今日教わった通りにできることはほぼないでしょう。しかし、日々の基本の練習が戦場で命を救ってくれることも多々ありますので、決して疎かにしないで置いてください。」
「はあ、はあ、はい!心に留めておきます。」
「では、今度から剣の練習にいらしたら、兵舎にある詰所まで来てください。だいたい私はそこにいますので。他の兵達にも伝えておきます。」
「はあ、はい、よろしくお願いします。」
「次からは最初にこの訓練場の外周を4周走って、腕立て、腹筋、背筋、屈伸による筋力トレーニング、それから今日お教えした基本の反復練習をしましょう。今日はお疲れ様でした。ヴァルムロート様。」
「あ、ありがとうございました。」
明日からはさらに筋トレがメニューに加わるのかと思うとぞっとしたが、ひとまずザイティーズ隊長にお礼を言い、頭を下げた。
「今日はまたダーリンに惚れ直したわ。」
それそれで歩いている俺の隣でキュルケが俺に向かってそう言って、腕にしがみついてきた。
しかし俺は今日の訓練で筋力も無ければ体力も無いことが分かったのでキュルケの言葉を素直に受け止められなかった。
初めてなので全然ダメなのはしょうが無いし、これから強くなっていくための訓練ということは頭では分かっているのだが感情に部分でそれを処理しきれていなかった。
「でも、かっこ悪かっただろ?鉄製の本物の剣も持てなかったし。」
俺がそう言うとキュルケは首を横に振った。
「ううん。かっこよかったわよ。」
「・・・そうか。ありがと、キュルケ。」
その言葉が本当かそれとも慰めかは俺には判断しかねるところだったが、どちらにしても俺の心は少し軽くなっていた。
そして俺は自分のためにも、キュルケのためにも強くなることを心に決めた。
読んで頂きありがとうございます。
ヴァルの魔法剣士としての第一歩ですね。
・・・器用貧乏とは言わせないぞ!目指せ!オールマイティ!
隊長の名前はさずがに某ゲルマン忍者そのままだったので変更しました。
名前の由来は某ゲルマン忍者の本名をグーグル翻訳(日本語→ドイツ語)でかけて、ちょっといじって音声を聞いてみてください。
・・・あ、真ん中のシュヴァリエは騎士の位のことです。
原作でもシュヴァリエになったサイトが名前にシュヴァリエを入れてましたからね。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみて下さい。