12話 ハルケギニアの回復魔法と医療について
「『コンデンセイション』!」
俺がそう唱えると、目の前に水の玉が出来上がった。
その形はまんまるで以前のように不安定ではないし、ちょっとやそっとのことでは割れないようになった。
・・・上には乗れないけどな。
「・・・よし。これで『コンデンセイション』はほぼマスターしただろう。じゃあ、次だな。」
俺が魔法を習い始めて4年経過した。
今のところ火の系統がラインクラス、水と風の系統はドットクラスだ。
いままで攻撃用の魔法しか習ってなかったけどそろそろ回復魔法とか習ってもいいかな、と考え始めていた。
現代地球の医療知識(テレビからの情報)と回復魔法が合わされば、今ハルケギニアに存在する回復魔法をもっと効果の高いものにすることが出来るかもしれない。
そう言えば・・・ゼロ魔で病気を持ってた人がいたような気がする。
確かルイズの姉の・・・カトレアっていう人だったかな。
テレビから得たパチもんレベルの医療知識でも今のハルケギニアよりもましだろうし、もしかしたらカトレアさんを助けられるかもしれないな。
まあ、可能性の話だけどね。
「先生。私に回復魔法を教えてください。」
俺は魔法の練習が一段落した時に先生に教えてもらえるように早速頼んでみた。
「回復魔法ですか?すみません。あいにく私は水系統も含めて攻撃用の魔法しかできないのです。」
しかし先生は水魔法を使えるものの、攻撃用のみで回復魔法は使えなかった。
俺がどうして折角の回復魔法を習わなかったのか聞くと、最前線ではちんたら傷を回復するよりも一秒でも早く敵を撃退する方が最終的な生存率が高くなるからと話してくれた。
「そうなんですか・・・。」
俺がこのまま回復魔法を諦めるか悩んでいると先生が声をかけてきた。
「そうだ。ヴァルムロート様のお母様に頼んでみるのはいかがですか?」
「母上ですか?たしか母上は風系統のメイジだったのでは?」
「すみません。言い方が悪かったですね。第三夫人のアンニ様のことです。」
俺の母さんは第一夫人のマリーナ(年齢不詳おそらく一番上)、第二夫人のカティ(年齢不詳)そして第三夫人のアンニ(年齢不詳おそらく一番下)の3人いる。
ちなみにマリーナ母さんが俺の実の母親だが、後の2人も自分の実の子供のように接して来てくれる。
母さん達の年齢が不明なのは、以前母さんに年齢を聞いた時「女性に年齢を聞くなんて、教育を間違えたかしら。」とかニコニコしながら歩いてくるときの威圧感はやばいものがあったのでそれ以来聞いてないからだ。
「アン母上は水系統のメイジなのですか?」
名前はアンニだが本人がアンと呼んで欲しいと言ったのでそう呼ぶことになった。
「はい。特に回復魔法を得意とされているので、後で聞かれてみてはいかがですか?」
「そうですね。そうしてみます。」
昼食時、アン母さんに回復魔法を教えてほしいといったら「いいわよ。」と即答してくれた。
そして今日は家庭教師の人に早めに切り上げてもらって、アン母さんに回復魔法を教えてもらってます。
「それでは、アン母上。よろしくお願いします。」
俺は回復魔法を教えてくれるアン母さんに向ってお辞儀をした。
「もー。他人行儀ね、ヴァル。いいわ、始めましょう。」
アン母さんはそう言いながら俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「はい!」
「回復魔法はね、まず『ディテクトマジック』で相手の怪我しているところを探るの。そして、その部分が正常な部分とどう違うのか調べるのよ。」
なるほど、探査魔法である『ディテクトマジック』を使うのは理解出来る。
しかし外傷的なものだったら見たらすぐに分かると思うのだが、外から見えない怪我や病気などはどうやって見分けるのかその方法が分からなかった。
「アン母上、どうやって正常な部分との違いを調べるのですか?」
「そ〜ね。自分や怪我していない人の体かしら。まあ、経験を積めばここがこう違うとか分かるようになるわよ。」
つまりまず比較対象として多くの健常人から得られたイメージを元とし、それと比較して病気や怪我を探しだすということらしい。
どうもハルケギニアではまだ医療というものがちゃんと確立していないようだ。
まあ、魔法で大体の怪我や病気が治るから必要性がほぼ無いに等しいのかもしれない。
「そういうものですか。」
「そうねー。それに大体切り傷とかだから見た目で分かるものも多いわよ。」
「それはそうですけど・・・。」
「次にそこに回復魔法をかけるの。呪文は『ヒーリング』よ。」
「『ヒーリング』ですか。」
アン母さんがスペルを唱えたのを復唱した。
忘れないように後でノートに書いておかないといけないな。
因みにハルケギニアのノートは羊皮紙を使ったものだ。
一応紙もあるのだが、草の繊維が残りすぎていてとてもゴワゴワしているものだった。
なので書きやすい羊皮紙をノートに使用している。
「でも、『ヒーリング』だけじゃ大きな怪我は治せないのよねー。」
回復魔法なのにそれだけでは効果が低いってどうなんだ、と俺は思った。
「では、その時はどうするのですか?」
「そこで必要になるのが、・・・じゃじゃ〜ん!秘薬ー!」
アン母さんはおもむろに液体が入った小瓶を取り出した。
「それが秘薬ですか?」
俺はアン母さんの手の中にある青色の透明なガラスの瓶をまじまじと見た。
「そうよ。秘薬と合わせて『ヒーリング』を行うとすごく回復するようになるわ。例えば、切られた腕を繋ぐとか。」
例えでいきなりエグい例が出てくるということは実際にそういう場面に出くわしたことがあるんだろうか?
「それはすごいですね!でも、繋ぐだけなんですか?例えば、切られた腕が傷口から生えてくるとかできないのですか?」
俺はドラゴンボールのピッコロの腕がにょきっと生えるシーンを想像した。
「それは無理ね。その場合は傷口が塞がるだけで新たに腕は生えてこないわ。」
「だめなんですか・・・。」
アン母さんの言葉を聞いて魔法も万能では無いんだなと思った。
まあ、出来るって言われてもそれはそれで怖いけどね。
「それに切られた腕を繋ぐのはよっぽど高価な秘薬じゃないとできないわ。それこそ『水の精霊の涙』を使った秘薬じゃないとね!」
確かアニメでは惚れ薬の解毒剤を作るのに必要なものだったけど、あれってそんなに高価なものだったのかとアン母さんの言葉を聞きながら考えていた。
「『水の精霊の涙』とはなんですか?」
「ラグドリアン湖に棲む水の精霊が分けてくれる水のことらしいわね。とても数が少なくてかなり高価だと聞くわ。」
一応聞いてみたがアニメの知識とそう大差無かった。
トリステインだと普通の秘薬を売っている店で普段は買えるような代物っぽい言い方をモンモンことモンモランシーがしていたが、母さんの口ぶりからゲルマニアではあまり流通していないのかもしれないな。
もしかしたらトリステイン側が流通規制しているのかもしれない。
「そうなんですか。それでどんなイメージで『ヒーリング』をすればいいのですか?」
「そうねー。怪我しているところに向かって『傷よ、くっつけ〜。早く治れ〜。』とかイメージしてるわね。」
アン母さん・・・いや、魔法はイメージでそもそもそのイメージは個人差があるけど、それじゃあ分かり難いよ。
「・・・そうですか。分かりました。」
とりあえず傷が治るように俺なりにイメージすればいいんだろう。
「これで後は一人で出来るわね。もし秘薬がいるならいつでも言ってね。」
そう言いながらアン母さんは持っていた秘薬を俺に渡した。
「はい。そうさせてもらいます。」
「頑張ってね、ヴァル。」
そう言うとアン母さんはまた俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
アン母さんに教えて貰ったおかげで大まかに回復魔法がどんなものか分かった気がする。
あとは実戦あるのみだろう。
しかし、念じただけで怪我が治るとかちょいチートか?でも、原作でカトレアさんの病気は結局治ってなかったようなので限度かなにかしらの制約があるのだろうと思った。
アン母さんは回復魔法を唱える時のイメージを結構曖昧に言っていたが魔法はイメージが大切だ。
「良くなれ〜」って念じるだけじゃなくて、怪我の部分が自然治癒していく過程をイメージすればもっと効率が上がったりするんじゃいかな?練習がてらちょっといろいろ試してみることにした。
しかし普通の生活をしていてそう怪我人に出会うことはないので、兵舎の訓練場で怪我した人の治療をさせてもらった。
ほぼ擦り傷とかだったけど。
回復魔法『ヒーリング』を使用する時に次のことを試してみて、その効果の違いを調べてみることにした。
①イメージはハルケギニアで一般的な「怪我治れ〜」で秘薬は未使用
②イメージは怪我が自然治癒するもので秘薬は未使用
③イメージはハルケギニアで一般的な「怪我治れ〜」と効果の低い秘薬
④イメージは怪我が自然治癒するものと効果の低い秘薬
⑤イメージはハルケギニアで一般的な「怪我治れ〜」と効果がちょっとだけ高い秘薬
⑥イメージは怪我が自然治癒するものと効果がちょっとだけ高い秘薬
とりあえず、この6つの方法を比べてみた。
この6つを調べた理由は魔法のイメージをしっかり持っている方が回復力が高く、秘薬も高価なほど回復魔法の効果を上げると予測した為だ。
もしかしたらアン母さんの方法の方がいいということも可能性としては0ではないわけだし・・・。
そして結果は回復効率順に高い方から⑥、⑤、④、③、②、①と予測通りになった。
しかし、④と⑤はほぼ同じであった。
もしもっと正確に怪我を治る過程をイメージ出来ていたら④と⑤の順位は逆だったかもしれない。
これらの結果から、やはり『ヒーリング』を行う際でも明確なイメージは大切だということとより効果の高い秘薬を用いた方がいいという結論に至った・・・当然といえば当然なのだが。
今後さらなる回復魔法の能力UPの為に人体の明確なイメージは自分や他の人の体を『ディテクトマジック』しまくって、どんな構造をしているか知る必要があるな。
あと、『ヒーリング』自体の効果はメイジのクラスが上がれば、自然と上がるだろう。
そう思ったわけはここ最近『ヒーリング』ばっかり使っていたので、おかげで水の系統がラインクラスになり、その前後で明らかに傷の回復速度が早くなっていたからだ。
水のスクウェアクラスの回復魔法は一体どれ位の回復力を持っているのだろうか?
・・・でも、こっちの水のスクウェアクラスのメイジでも治せないカトレアさんの病気ってなんだろう?
読んで頂きありがとうございます。
前回に続き、今回でヴァルは回復魔法も扱えるようになり、ますます器用貧・・・オールマイティになるな!
因みに今回でヴァルは9歳となっています。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみて下さい。