13話 何故か領地経営に参加することになった。
ある日の朝食、父さんがいつもとは違う感じで話しかけてきた。
「ヴァルムロート。お前ももう10歳だな。」
「え?そうですね。」
話しかけられた俺は食べる手を止めて答えた。
「家庭教師に聞いたが、お前は算術の成績が良いそうだな!」
昨日家庭教師から勉強の近況報告を受けたのか父さんが機嫌良さそうに俺に話しかけてきた。
「はい。真面目に勉学に励んでいるおかげでしょうか。」
俺はそんな父さんにあくまで冷静な返答を返した。
最近やっと座学に算数が入ったんでけど、それが簡単なものしかやらないのだ。
いまだに足し算と引き算くらいで掛け算とかはまだ習ってない。
地球で考えたらすでに小学三年生になっているはずなので掛け算どころか割り算をやっていたような気がする。
・・・まあ、どちらにせよ前世で社会人だった俺には簡単過ぎた。
「もう。ダーリンたら、謙遜しちゃって。お父様聞いてよ。ダーリンたらすごいのよ!家庭教師より先に答えを出しちゃうんだから!」
しかしキュルケはまるで自分のことかのように父さんに少し興奮しながら俺のことを話した。
「そうなのか?ヴァルムロート。」
キュルケの言葉を受けて、父さんがその真偽を確かめるように俺に本当かどうか聞いてきた。
「いえ・・・たまたまですよ。たまたま復習したところが出ただけですよ。」
キュルケの話は本当のことだが、少し照れくさかったので“たまたま”と言う事にした。
「・・・そうか。」
しかしそれを聞いた父さんは腕を組んで俺をじっと見つめた後、とんでもないことを言い出した。
「少し早いかも知れんが、ヴァルムロート。お前領地経営に参加してみないか?」
「え!?僕はまだ10歳ですよ!?・・・いいのですか?」
俺は突然のことに思わず声をあげた。
ツェルプストー家の長男でのちのち家を継ぐことになるのでその内領土経営に参加することになるとは考えていたが、それはもっと後・・・魔法学校を卒業した後くらいかと思っていたからだ。
俺の隣でキュルケも目を大きく見開いた驚きの表情をしていた。
周りを見ると姉さん達は驚いた表情をしているが、母さん達は驚いた様子が無かった。
恐らく事前に父さんから聞いていたのか、相談を受けていたのだろう。
「ああ、本当はもう少し後と考えていたのだが、お前は物分かりもいいし、算術にも強い。分からないことはこれから覚えればいいだろう。どうだ?やってみるか?」
「・・・まあ父上がそう言うのなら、参加してみます。いや、参加させて下さい!」
俺は特に断る理由も見つからなかったので父さんの提案を受けることにした。
判らないことがあれば父さんに聞いたらいいだろうし、何より案ずるより産むが易しって言うし、どうせやるなら早い方が良いだろう。
俺のその言葉にいままで黙っていた母さん達がそれぞれ俺に声をかけた。
「頑張りなさい、ヴァル。」
「ヴァルならできるわ。」
「あまり無理をしないでね。」
姉さん達は驚いていたがそれでも俺を応援する言葉をかけてくれた。
「頑張るのよ、ヴァル。」
「すごいわねー、ヴァル。」
「・・・私に算術教えてほしい。」
「応援してるわよ。ダーリン!」
・・・なんか約1名ほど激励の言葉ではなかったけど、俺は領地経営に参加することになった。
しかし、領地経営とはどういうことをすればいいのだろうか?
と、言うことで俺は早速今父さんの書斎の前に来ている。
父さんから領地経営について教えてもらうためだ。
コンコンコンッと、書斎のドアをノックした。
「父上、ヴァルムロートです。」
「来たか。入れ。」
「はい。失礼します。」
俺が中に入ると父さんが書斎の机の所にある椅子ではなくソファーの方に座っていた。
「ヴァルムロートこっちに来て、座れ。」
「はい。」
俺は父さんに促されて、父さんと対面するように向かい側のソファーに座った。
「それでは領地経営について教えよう。」
「よろしくお願いします、父上。」
「領地経営は領地を管理することと平民から税を収集することに大きく分けられる。」
「はい。」
「まず領地の管理では領地内にある町や村に実際に行き、そこの街全体の雰囲気や治安、農業の様子を見る視察を行うことやモンスターやオーク鬼などの亜人、それに盗賊などにより町や村に被害が出たり、今後被害が予想されるなどの報告があった時はそれらの討伐を行うことなどがある。一応町や村には自衛団のようなものも存在する所が多いが普段畑を耕している者の集まりで戦いを専門にしていないのであまり防衛能力としては考えないほうが良いだろう。」
視察はいいとしても、討伐が大変そうだな。
それにモンスターや亜人だけでなく同じ人間である盗賊まで相手にしないといけないのか。
「・・・盗賊ですか。討伐ということは人も殺すことになるのですね。」
「ああ、悲しいことだがこれも他の平民を守るためだ。すぐに割り切れるとは思わんが、覚悟しておけよ。」
父さんは俺の目を力強く見つめた。
「・・・はい。分かりました。」
すぐにそういう場面に出くわすことはないと思うが、いつか行うことになるのでその時が何時来てもいいように覚悟しておかなければいけないな。
ただ本当にそうなった時に自分がどうなってしまうか想像もつかないが。
「次に平民から税を収集することだが、我が領地ツェルプストーでは領民からの収集する税とトリステインとの国境を商人達が渡るときに払う税の二つを取っている。」
「“我が領地”ということは、国境に接していない領地では平民からの税のみ、というわけですか?」
「そうだ。まず全ての領地で行われている領民から税を収集する方法を話そう。これには直接税の分に該当する収穫物を納めるか、収穫物を売買したり商業などで稼いだ金で税を納める2つの方法がある。」
なるほど、農民は収穫物、商人は金で税を納める形になっているのだろう。
そう言えば、漫画とかでこういうやつの税はめちゃくちゃ高い様な描写が多いけど、家はどうなんだろうか?
「どのくらいの税率なのですか?」
「平民が全体の六割、国境を超える時は荷物を金額に換算した時の7割を通行税としているな。」
それを聞いた瞬間、思わず「高っ!」と言ってしまいそうになった。
そして半分以上を税と納めている領民ははたしてちゃんと生きていけるのか心配になった。
「・・・税で半分以上ですか。それで平民は生活できるのですか?」
「ちゃんと生活出来ているぞ。しかもゲルマニアでは金を貯めた商人が領地を買い、貴族になることもあるからな。他の国ではそうはいかん。それに六割はハルケギニアではかなり少ない方だぞ。隣国のトリステインでは税を七〜八割取るところも多いぞ。」
確かに家庭教師からゲルマニアでは金があれば平民でも貴族に成れるって習ったけど、どうやったら半分以上税金取られる中で金が貯められるんだ?商人すごいな!
それにしても六割で少ない方っていろいろやばくないか?
「・・・そうなのですか。因みにどうやって税率を決めているのですか?」
「基本的にその領地を任されている貴族に一任されているな。国境を超える時の通行税はそこに接する2つの領地を持つ貴族同士で決められる。一応国にお伺いを立てる事になってはいるが問題が無ければほぼそこの貴族任せだな。」
国境に接している家は外交の真似事までしないといけないのか、これは大変だな。
「他国の貴族と交渉出来るとは父上はすごいですね!」
「あっはっは!もっと褒めていいぞ。いずれお前もその後を継ぐのだからな。いまから精進するようにな!」
「はい!それで私達の領地と接しているトリステイン側の領地の貴族は誰なんですか?」
そう俺が父さんに聞くと、あからさまに嫌そうな顔をして、その名を発するのも嫌そうに。
「・・・ヴァリエールだ。」
ヴァリエール・・・ああ、ルイズの家か。
そう言えば、原作で最初の方はルイズとキュルケって家柄からお互いを嫌ってた様だったからな・・・やっぱり、父さんも嫌いなんだ。
「父上はヴァリエール家は嫌いなのですか?」
「『嫌いなのですか?』だと?そんなの嫌いに決まってるだろうが!・・・あのくそヴァリエールが!自分の好きだった女を取られた程度でギャーギャー騒いで器が小さいのだよ!しかも、いつも細かいことをねちねちと・・・。」
父さんは目尻を吊り上げ、額に青筋を浮かべ、手を思い切り握り、力を入れすぎていたため手がフルフル震えていた。
「父上はヴァリエールさんと一緒にいた時期があるのですか?」
「一緒とかいうな!同じ場所に居たと思うだけでへどが出る!・・・ただ、私がたまたまトリステインの魔法学院に留学したときにそこにいただけだ。」
俺がなんで父さんは留学とかしたのかな?とか思っている間、父さんは「あのとき俺が・・・」とか「今度会ったら決着を・・・」とかなんか物騒なことを言っていた。
そんな父さんを見ながらツェルプストー家とヴァリエール家は仲が悪いのだなと思った。
というか、父さんの場合は父さんとヴァリエールさんの間に何か問題が発生しているようだな・・・特に女がらみで。
そう言えばアニメでもルイズがツェルプストーは代々ヴァリエールの恋人を奪ってきたとか言ってなかったけ?
・・・そろそろ次に進むか。
「父上・・・父上!」
「あのばk・・・、おお、すまん。で、なんだったかな?」
俺が数回普通に呼んでも正気に戻らなかったので思いっ切り大きな声を出すことでようやく父さんが正気に戻った。
「国境についてです。父上がすごい、というところでした。」
「ああ、そうだったな。国境周辺の領地には“公爵”や“伯爵”などの地位の高い貴族が選ばれる。ちなみに家は“辺境伯”といって、王族やその親族からなる“公爵”を除けば一番高い位なんだぞ。」
ツェルプストー家って普通の貴族の中では最高ランクだったのか・・・まあ、そうでもないと公爵家の隣の領土にはならないか。
「家ってすごかったんですね。」
「うむ。本来なら今頃お前に許嫁の一人でもいるころなのだが、・・・キュルケがああだからな。」
「キュルケはすごく家族愛が強いですからね。」
「・・・そうだな。あれを家族愛というのならな。キュルケもその気になれば、男を選び放題なのだがな。」
父さんの言葉で俺はアニメのキュルケを想像した。
アニメでは魔法学院でも何人ものボーイフレンドがいたり、サイトにちょっかい出してきたりしていたな。
今のキュルケからは想像出来ない様子だが、後8年くらいあるからそうなる可能性もあるか?
「父上はそんなキュルケがよかったですか?」
[そんなの嫌に決まってるだろう!というか、誰にも嫁にいってほしくない!いつまでも家にいてほしい!」
俺は父さんの言葉に少し疑問を抱いた。
それはアニメでキュルケが言っていたような気がするが、たしかツェルプストー家って恋に積極的であることで父さんだって女関係でルイズの父親と問題を起こしているっぽいので恋に積極的なのは間違いないと思う。
それともこれが娘を持つ父親の心情ということなのかな?とも思った。
まあ、普段の父さんの言動や行動を考えるといつまでも娘にそばに居て欲しい父親ということなのだろう。
「少し落ち着いてください、父上。もし嫁に行くとしてもまだ先の話ですよ。」
「ああ、すまない。今日はここまでにしよう。・・・そうだ。お前にこの本を渡しておこう。」
父さんは立ち上がり、後ろの書棚から1冊の本を取り出して俺に渡した。
「これは何ですか?」
「領地経営に書かれた本だ。基礎的なことが書いてあるのでお前のためになるだろう。」
「ありがとうございます。」
「うむ。お前にはそのうち、1つくらい村を任せてみようと思う。どこにするか決まったらまた食事の時にでも言おう。」
いやいや、そこままず父さんの補佐についてある程度領地経営というものを学んでからだろう。
「ちょっと待ってください。もう1つとはいえ村を任せるのですか?まずは父上の補佐などでちゃんと学んでからの方が・・・・。」
俺はいきなり村を任せることを回避するために父さんに思い留まってもらおうと試みた。
「何事も実戦あるのみだ!分からないことがあれば、遠慮なく私に聞け。」
でも、父さんはすでにその気のようだし、もう何を言っても聞いてはくれないのだろうな。
「・・・分かりました。頑張ってみます。」
俺は半分諦めの入った声を出した。
「頑張れよ。ヴァルムロート!」
いくらなんでも初心者に村一つ任せるとか習うより慣れろを超えてるだろう・・・。
こうなったら、やるだけやってやるぜ!
読んで頂きありがとうございます。
税金ってどれ位が適性なんですかね。
漫画とか時代劇?とかでは食べる物も無くなる位取られているイメージがありますが、それは飢饉の時とかですかね。
今は消費税だけで考えても世界的には平均20%位かな。
まあ、それにその他もろもろあるのですが・・・。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみて下さい。