17話 実は秘密基地とか作ってるかも
今日は虚無の曜日で魔法の練習や剣の訓練は休みなのだが、俺は一人家の近くの森の中にいた。
目の前には家から持って来た的が地面に突き刺さっている。
俺はあるイメージを頭の中に浮かべると勢い良く踏み切って飛び上がった。
『レビテーション』も使って自分の身長よりも高く飛び上がると的を目掛けて蹴りのポーズをとった。
そして突き出した右足がボウッと炎を纏った。
「燃える男の、あっちいぃぃいぃ!!!」
すぐに軽い火傷になった自分の右足に秘薬を使って『ヒーリング』をかけた。
「あ、熱かった・・・。様子見で足だけで試してみて正解だったな・・・あっ!?」
最初の予定通り全身に炎を纏っていたらどうなったか、考えるのも恐ろしく思いながら下を見て間抜けな声を出した。
「・・・やべぇ。」
焦げた右足のズボンの裾や靴を見ながらこれを家に帰った時にどう説明しようかと頭を抱えた。
この前も服をあちこちボロボロにして家に帰ったら怒られたのでまた怒られることを考えると少し気まずい。
そんな考えを一旦頭の隅に追いやって今しがたの失敗について考えることにした。
「ま、まあ、炎を纏うのは無理っぽいな。・・・いや、もう少し温度を落とせば。でも温度を落としたら、ただのキックとそう変わらないよな。精々、ちょっと熱い位までしか纏えないだろうし、それなら魔法使ってやるよりもただのキックの方が自分に対するダメージが無い分いいだろうな。仕方ない、火の車キックは諦めるか・・・。」
そう口に出して、ふとあることを思いついた。
「・・・いや待てよ。水でガードしたら、もしかしたら・・・」
俺をそれを確かめる為に的から距離をとって、再び飛び上がった。
「燃える男の〜、火の車キイィック!」
的にガンッと燃えている足が当たり、その衝撃で地面に突き立てた的が刺さっている所を軸に少し後ろにズレた。
出来た!と思った瞬間にガードの為に張った足の周りの水が沸騰してすごい熱さになっていることに気付いた。
まあ、すでに遅しって感じだったのだが・・・。
「あ、あっぢいいぃいいいい!!」
俺はすぐに魔法を解除して、地面に着地すると同時に秘薬を足にぶっかけて『ヒーリング』を使った。
「水がお湯になりやがった・・・。やっぱり、炎を纏うのは無理か・・・。」
俺は的の蹴った所を見た。
少し焦げている程度でほぼ普通にキックしたときとそう大差無いと思われて、ガックリと肩を落とした。
この前初めて討伐に付いて行った後から休みの時は家の近くの森に来ることが増えていた。
あの討伐から平日の魔法の練習と剣の訓練は激しいものになっていて、先生も兵士長もとても張り切って、それでいて嬉しそうに俺を鍛えてくれている。
なので休日である虚無の曜日はしっかりと休んでおくべきなのかも知れないが、俺はなるべく自主練を行うようにしていた。
俺がこれまで行なっていなかった自主練を始めたのはこの前の討伐が大きく関係しているのは言うまでもない。
あの討伐の時、俺が危機に陥ったのは油断していたのが一番の原因だがその後にもっと早くに『フランベルグ』を出していればあそこまでの危機は訪れなかったはずだ。
しかし、俺は『フランベルグ』を強力過ぎるからと2年間も全く使わなかったのでその存在をなかなか思い出すことが出来なかった。
なので実践で使わずとも練習で使っておかないと“いざ”という時に命取りになってしまうと考え、その為の自主練をし始めたというわけだ。
でも何故自主練をこんな森の中でやっているかというと、これにも俺なりの理由がある。
それはあの討伐から戻って分かったことだが、なんと!火の系統がトライアングルランクになっていた。
つまり、今の俺は火がトライアングル、水がライン、風がドットというランクになっている。
火のランクが上がったのは、おそらくあの討伐の時に死ぬ様な思いをしたからだろう。
実際にチラッと“死”が頭をかすめたしな。
火がトライアングルになり、火を元にすれば3つまでなら魔法を足せるようになったので、オリジナル技というか必殺技を考えていた。
しかし、他の人の前でやると今みたいに怪我とかして家族に止められそうなので、1人の時間を見つけては近くの森に行き、そこでこっそりやっている。
父さん達には毎回泥だらけになったり、今回のように焦げたりしているので少し心配をかけているようで心苦しいがこれも原作が始まっても俺が生き残るために強くなっておくことが必要なのだ。
しかし、あまり時間が取れないので思うように必殺技開発は進んでいない。
「次はなにを試してみようかな。・・・V−MAXレッドパワーとか。いや、やることは火の車キックと同じか。・・・やめておこう。」
その後、特に思いつく必殺技も無かったので『フランベルグ』を振り回したのち、家路に付いた。
「なかなかいい必殺技を思いつかないな・・・。いや!まだまだこれからだ!」
俺はようやく登り始めたばかりだからな。
この果てしなく遠い『必殺技』という坂道を!
夕日で赤く染められた書斎に兵士長が入ってきて、椅子に座っている父さんの机の前まで歩いて行った。
「で、今日のヴァルムロードは何をやっていた?」
逆光を受けた父さんは少し前かがみになり、机に肘をついて顔の前で両手を組んで真剣な顔で兵士長に尋ねた。
「今日のヴァルムロード様は兵舎から的を一つ持ち出し、それに目掛けて足に炎を纏って蹴りを繰り出されていました。何度か繰り返えされたのち、それが失敗だったと思ったようで、その後はいつものように『フランベルグ』の練習をされていました。」
兵士長は今日一日の俺の行動を父さんに報告していた。
「怪我はしなかったのか?」
父さんの声は普通だったが、少し緊張しているのが兵士長には丸分かりだった。
「炎を纏った蹴りの際に足を少し火傷していたようですが、ご自分で治療されていました。ただ服がその際に少し焼けています。」
それを聞いて父さんはほっと胸を撫で下ろしていた。
「そうか・・・。服の一つや二つどうと言うことは無いが、もしヴァルムロードが危険な真似を使用とした時は止めてやってくれ。」
「ハッ!承知しています。・・・しかし、そんなに心配ならば森に行かさずに練習場で自己練習させれば宜しいのではないでしょうか?」
兵士長の言葉に父さんがニヤリと笑う。
「フッ、男子たる者秘密基地やら秘密の特訓をするものだろう?」
その言葉を聞いて兵士長も口元が緩んだ。
「そうでしたね。先程のはいらぬ発言でした。」
「ヴァルムロードも休日の自己訓練は秘密にしているようだからな。カズハットには悪いがこれからもアレの見守りを頼む。」
「ハッ!お任せを。」
ってな感じで兵士長が俺を尾行していて、実は俺の自主練が父さんには筒抜けだったことに俺は全く気が付かなった。
読んで頂きありがとうございます。
今回の話はほぼすべて作り直しました。
短いですけど・・・元が短いですからね。
改変前も必殺技を開発し始めたという話し+αだったのですが、その必殺技が「俺のこの手が真っ赤に燃える〜」だったので、もろ規制に掛かっちゃっいまして。
今回は火の車キック出来ませんでしたが、後々完成品を出す予定ですのでお待ち下さい。
これから少しずつ必殺技を出していくつもりです。
父さん達がこっそり監視しているのは親心ですね。
というか、普通に不審な行動していたらその原因を知ろうとするでしょうね。
・・・後、元少年だったからヴァルの気持ちも察してあげられるから隠れて監視していますし、ヴァルの自主練を認めています。
あ、勿論キュルケには内緒ですけどね。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみて下さい。