18話 紙はオーパーツ?
そんな日々を過ごしていたら、ある日の昼食の時に父さんが話があると言った。
「皆に話がある。今朝ヴァリエールから手紙が来た。」
「そうなんですか?それで、どのような内容なのですか?僕としてはそろそろカトレアさんの診察をしてみたいのですが・・・。」
あの会談から約二ヶ月経っていたのだがそれまで俺の方には何の連絡もなかったのだ。
父さんはその間もヴァリエール公爵と手紙によるやり取りをしているのでどうにかして欲しいと思っていたところだった。
「うむ。そのことなんだが・・・今度カトレア嬢の誕生会が開かれるそうだ。是非、ヴァルムロートを連れて参加してほしいとのことだ。」
「カトレアさんの誕生会ですか?参加するのはいいですけど、診察の方はどうなっているのでしょうか?」
カトレアさんの誕生日を祝うよりもやることがあるのでは?と俺は少し不機嫌さを声に含ませた。
ここで父さんに当たってもどうしようもないということは分かってはいたのだが。
「それはだな。今回の誕生会でお前をヴァリエール家に招待し、その時にカトレア嬢の治療についての話をするとヴァリエールとの手紙のやり取りをで決めたのだ。我がツェルプストー家とヴァリエール家はこれまで長い間宿敵といってもいい間柄だったから、家に招くにもそれ相応の理由が必要なのだ。」
「確かにカトレア様の事があるからって数百年いがみ合っていた家同士が、はい!仲直り!ってわけにもいかないわよね。」
「そうだな。過去トリステインとゲルマニアの戦争でツェルプストーとヴァリエールの両家がぶつかり合ったことも多くあったと聞く。まあ、いまは両国に停戦条約が結ばれているので、武力による対立がなくなった今でもいろいろいざこざが絶えなかったからな。」
キュルケの言葉に父さんは答えていたが後半からはどこか遠くを見ているような目をしていた。
父さんが自分自身の事を思い出しているのかもしれない・・・主に恋愛関係か?
「・・・ま、まあ、こちらもあちらもそれなりに位の高い貴族同士だからな。それなり事をしないと他の貴族に示しが付かないしな!」
「それで両家の友好の印としてカトレアさんの誕生会に招待したというわけですか?」
「そういうことだ。我々がカトレア嬢の誕生会に参加すれば、両家の間は良好になってきているという印象を他の誕生会に参加している貴族に与えるだろう。なにせ、いままで全く交流がなかったのが、いきなり領地間の通行税を引き下げたり、誕生会に参加するようになったのだからな!」
確かにちょっと前から両国間の通行税を通常にしたことを知っていれば両家の関係に変化が現れたことは明白だし、そんな中で俺達がカトレアさんの誕生会に出ればそれこそ両家の冷戦は終わったと感じる貴族は多いかも知れない。
「なるほど。・・・ん?ということは僕達の誕生会の時はヴァリエール家の人を呼ぶのですか?」
「ああ、そうなるな。まあ、これを機に本格的にヴァリエールと友好を深めていくのも悪くないだろう。お前たちの誕生日の時にはそこまで話が進んでいなかったのでヴァリエールを呼べなかったが次からは呼ぶことになるだろう。」
このハルケギニアの連絡手段は手紙しかないからな。
普通に手紙を出したら家からヴァリエール家まで約四日、鷹便で早くても二日はかかってしまうので手紙を書く時間も考慮すれば、手紙を出してその返事が戻ってくるのに十日前後かかってしまう。
確か・・・会談があってから四週間後位、つまり三十日ちょっとで俺達の誕生会があったからそこまで話を詰めることが出来なかったのだろう。
・・・電話とかネットがあればすぐに決まったんだろうな、と俺は思った。
「それでお父様、誰がカトレア様の誕生会に行くのですか?」
「今回は私とヴァルムロート、マリーナそれにキュルケの4人で行こうと思う。」
「この間の会見に行った人ですね。」
どうやら今回も会談に行ったメンバーでカトレアさんの誕生会に行くようだ。
主に呼ばれているのが父さんと俺なので、後は父さんの妻で俺の母さんであるマリーナ母さんと姉であるキュルケというのはやはり妥当なところなんだろう。
「ああ、まずは顔を知っているものが行った方がいいと思ってな。・・・あと、ヴァルムロート、キュルケ。」
ああ、確かにそれもあるかも・・・と思っていると、父さんが俺達に声をかけてきた。
「なんですか、父さん?」
「なに、お父様?」
「カトレア嬢の誕生日は一週間後に行くことになる。それまでに誕生日の贈り物をちゃんと用意しておけよ。」
「はい。分かりました。」
「分かりましたわ。」
まあ、返事はしたけど一週間ってひどくね?もっと早くに決まればゆっくり考えることも手間のかけたものも作れるのに・・・。
この後姉さん達が「私達も行きたかった。」とか言って、父さんが少し困っていたが、俺はカトレアさんになにを誕生日プレゼントとしてあげるか悩んでいた。
カトレアさんの誕生会に行くことに決まってから2日経った。
今日は虚無の曜日で魔法や剣術の鍛錬は休みなので、秘密特訓はお休みして一日カトレアさんの誕生日プレゼントについて考えていた。
が、あと5日しかないのにカトレアさんに贈るプレゼントを全く思いつかないので母さん達に意見を聞いてみた。
「やっぱり花とかがいいんじゃない?」
「花ですか?でも母さん、花って普通すぎないですか?」
あれか?歳の数だけバラを贈る、みたいなことを俺にしろと言うのか母さんは!?
「でも、もらった方は嬉しいのよ。」
マリーナ母さんの言葉にカティ母さんとアン母さんもコクコクと頷いて同意を表している。
「でも、花なんてすぐに枯れるし・・・」
花とかよりはもっと実用的なものの方がいいのではないか、というのは男目線の考え方だからだろうか。
「それなら『固定化』の魔法をかければいいのよ。」
「『固定化』!?・・・僕ができないから盲点だった。」
『固定化』か・・・言葉通り、魔法をかけた対象を長時間現状のまま“固定化”する魔法だ。
しかも『固定化』は現状維持する魔法なので外からの力などにもそこそこ強く、かけた対象の防御力を上げる効果があるので、鎧とかにかければ簡単に強度が上がる便利な魔法でもある。
さらに『固定化』の上位魔法で『硬化』という魔法もあるらしい。
・・・まあ、どっちにしても俺は使えないのだけど。
「『固定化』をかければずっときれいなままですし、壊れにくいのよ。」
「そうですね。・・・キュルケはもうカトレアさんに何を贈るか決めたの?」
「ええ!最近ゲルマニアで人気の化粧品を贈ろうと思うの。カトレア様って17歳でしょ。そういうのに興味がないわけがないと思うの。」
「なるほど。とても女性らしいね。」
「でしょ!」
キュルケはカトレアさんに化粧品を贈るようだ。
俺もそれに便乗は・・・無理だな。
俺は今どんなものが流行っているか知らないし、何が良いのか分からないし、そもそもキュルケと同じものを渡しても面白くないし・・・却下だな。
もう少し時間もあるし、自分で考えてみるか!
本当に時間が無くなったら・・・無難に花にしておこう。
「ありかとう、母さん達、キュルケ。もう少し自分で考えてみるよ。」
「「「頑張りなさい、ヴァル。」」」
「うん!」
威勢よく返事をしたおれだが、現在中庭の芝生に上で寝っ転がっている。
そして先程の母さんの言葉を思い出していた。
「花ねえ・・・」
「花なんか何を贈っていいか分からないよ。・・・バラ、とか?いやいや!バラを誕生日に知り合いに贈るのはちょっと、いや、かなりキザなんじゃないか!?」
「・・・いや、待てよ。カトレアさんって動物が好きだったよな。だったら、なにかペットになるような動物を贈れば・・・って、今の段階ではカトレアさんとそんなに親しくないのにカトレアさんが動物好きって俺が知っているとか分かったら・・・カリーヌさんが何してくるかわからんな。」
「・・・だあああ!!何を贈ればいいんだー!」
そうやって頭を抱えて、ゴロゴロ転がっているとふとある草が目に入った。
それは三つ葉のクローバーの中にただ一つあった四つ葉のクローバーだった。
「ん?四葉のクローバーか、俺を幸せにしてくれ・・・」
「・・・そうだ!四葉のクローバー!これだ!これにしよう!」
「でも、どうする?このまま『固定化』したんじゃ・・・ただの草だぞ!?」
もっとたくさんの四つ葉のクローバーを探してもいいが、それでも草は草・・・花の華やかさには敵わないだろうとも思ってその案を速攻で却下した。
「四葉のクローバーで俺にある思い出は・・・押し花!よく本とかに挟んだっけな。」
前世の小学生の時はいろんな草花を本に挟んで押し花を作ったな。
・・・大抵作ったことを忘れて、放置してたけどな。
「押し花は良いとして、それだけじゃ弱いな。どうする?」
押し花にしても四つ葉のクローバー一つでは小さいし、地味だし、実用性は皆無だ。
「押し花と言えば・・・しおり!本に挟んで取り出しやすいように上の方に紐もつけるといいかも。」
「しおりの中に押し花の四つ葉のクローバーを入れ込めば世界にただ一つのしおりの完成だ。そうと決まれば・・・紙、作るか!たしか鉄腕ダッシュとかでみたことあるから簡単な和紙みたいなものならできるはず。」
俺はしおりの完成形を頭の中で想像したが、イマイチパッとしなかった。
ここは母さん達の意見を取り入れて、しおりに収まるくらいの花でも同様のものを作った方がいいかもしれないと考えた。
「・・・四つ葉のクローバー以外にもいくつか小さな花でしおりを作ってしおりセットとして贈るか?多少・・・いや、かなり地味だが実用性はあるし、草や花で可愛らしく仕上がるはずだ!」
「マリーなんとかさんも言ってたしな。『パンがなければ、ケーキを食べればいいのよ。』って。」
既存のもので贈りたいものが無ければ、自分で作り出せばいいんだ!
「よし!そうと決まれば、さっそく行動だ!」
俺は手始めに目の前の四つ葉のクローバーを摘み取って、押し花にするために部屋に駆け出した。
※ここまでの会話は主人公の独り言です。
まず、俺が思い描くしおりの完成形は縦12サント、横5サントで真ん中に四葉のクローバーの押し花があって、上の方に穴が開いていて、そこに平べったい紐が通ってる、って感じかな。
押し花は布をもらってきて、四葉のクローバーを布で挟み、さらに板で挟み込んで上の石を置いて二、三日放置しといたら良いだろう。
念のため2、3個作っといた。
花も小さくて可愛らしいものを数種類、四つ葉のクローバーと同様の工程を施した。
問題は紙だが、和紙みたいなのは比較的簡単に出来るはずだ。
まずは紙の材料探し。
とりあえず、その辺の草や木の枝などを集めた。
次は集めた材料を水洗いし、細切れにした。
どんなものができるのか分からないので、草や木の枝をそれぞれ全部細切れにしたものと草の場合は葉と茎と根に、木の枝の場合は皮と中身とに分けてそれぞれ細切れにしたものを別々に桶に入れておいた。
小さめの『ブレイド』をナイフ替わりにして細切れにしたので、少々腕が疲れた。
次に細切れにした材料をそれぞれ水でドロドロになるまで煮詰めた。
時間があまりないので、魔法を使ってお湯を作り、『コンデンセイション』の要領で圧力をかけた。
この魔法、実はトライアングルスペルで『火火』で火力を水が沸騰するくらいに調節し、『水』はまんま『コンデンセイション』を使っている。
しかし・・・まさか、この前の必殺技の失敗の経験がこんな所に生かされるとはな。
そしてドロドロになった材料をそれぞれの桶に入れ、網状のものの上に縦12サント、横5サントの木の枠を置いたものでドロドロになった材料を厚みが均等になるようにすくった。
紙をすくう網状のものと木の枠はレイルド先生に錬金で木を加工して作ってもらった。
レイルド先生は「なんでこんな変なものを?」みたいな感じだったが、ちゃんと作ってくれた。
しかもオマケに『固定化』までかけてくれた。
すくった紙の水気を弱い熱風でなくして、数枚の布で挟んで、さらに板で挟み込んで上に石を置いて『レビテーション』で圧をかけた。
試行錯誤しながら7枚の異なる紙が出来た。
それぞれの出来は次のようになっている。
①草全部:色が緑だが、ところどころ色が薄い部分がある。根のところか?
②草の葉:緑一色だな。
③草の茎:色は緑一色だが、ところどころに繊維の残りみたいなのがある。これはこれで味があるな。
④草の根:色は白っぽい。
⑤枝全部:色は茶色。草よりは紙質が固い感じ。
⑥枝の皮:色は⑤よりも茶色。皮が元々茶色だったからか。
⑦枝の中身:色は白っぽい。これは枝の中身が白っぽかったからだな。
「・・・緑色の四葉のクローバーや薄い赤やらピンク色の花の押し花を際立させるためには濃い色は却下だな。」
ここで①②③⑤⑥が候補から落ち、④⑦が残った。
候補に残った紙を指で触り、その感触をみた。
「・・・触った感じだと枝で作った方がしっかりしてるな。よし、これにしよう!」
強度的には『固定化』をかければどちらも問題はないはずだが、強度はあってもペランペランじゃあしおりとしてどうなのかと思い、⑦の枝の中身で作ることに決めた。
しかし、まだ時間もあるのでいろいろな木の枝でつくってみることにした。
早速森の中を駆け回って、いくつかの木の枝を採取して紙にしてみた。
どうやら、桑という木の枝が一番白っぽく紙ができることが分かったので、これでしおりを作ることにした。
四葉のクローバーや花を本に挟んで三日後に確認すると押し花は大体良く出来ていた。
そしてその押し花を使ってしおりを作り始めたが、ここでもちょっとした問題が発生した。
それはしおりを作る際にすくった紙の上に押し花を置くと、でこぼこになったり、簡単に押し花が剥がれてしまったりといまいちの出来だった。
なので、俺は紙をある程度すくった後に押し花を置き、さらにその上に軽く紙をすくうことで紙の中に押し花を入れる形した。
押し花が紙の中にある為かあまりでこぼこが無いしおりを作る事が出来た。
この段階でもいくつか試作品を作ったので、いくつか押し花作っておいて良かったと安堵した。
そしてレイルド先生に頼んでしおりに『固定化』をかけてもらって完成とした。
「明日からヴァリエール家に向けて出発するが、贈り物は選んだか?キュルケは早々に準備出来ていたようだが。ヴァルムロートもここ数日何かやっていたな。どうだ?準備できているのか?」
その日の夕食の時に父さんがカトレアさんの誕生日プレゼントについて聞いてきた。
俺があちこち走り回っていたことを知っているようで直前まで準備していたことを心配しているようだ。
「はい。丁度今日カトレアさんに贈る物ができたところです。」
「ダーリンは何をカトレア様に贈るの?」
母さん達に意見を聞いたことは知っているがそれ以降は誰にもしおりを作ることを話していないのでキュルケも俺が何を用意したか興味津々だ。
「しおりを贈ろうと思うんだ。」
俺がそう言うとキュルケを初め家族みんなが「え!?」っという顔をしていた。
「しおりねえ。ちょっと地味じゃないの?」
キュルケが率直な意見を発した。
それを聞いた俺はやはりしおりは地味だということを再確認してちょっと落ち込んだ。
「あ、まあ、そうかもしれないけど・・・カトレアさんって体が弱くて家の中にいるから、よく本とか読むかなと思ったからしおりにしてみたんだ。」
少しショックを受けながら俺は自分の考えを話した。
「ヴァルは普段の生活の中で使えるものにしたのね。」
母さんの言葉に俺は少しほっとした。
「そうそう!使ってもらったら、こっちも嬉しいし。」
「まあ、今回は時間があまりなかったからな。しおりでも良いだろう。」
そう言った父さんは次はもっと豪華なものを考えておけよと続けた。
・・・フルボッコだったな。
・・・泣きたくなるぜ。
次の日、馬車に揺られながらヴァリエール家を目指して家を出た。
ヴァリエール家まで四日かかるのでまったり行こう。
あまり急ぐとお尻も痛くなるし・・・。
そして家を出発してから二日経った。
「ヴァルムロート、キュルケ、2人ともカトレア嬢への贈り物はちゃんと持ってきているか?」
「あなた、それ出発のときにも確認したではないですか。」
母さんが「やだわ、この人」といった手振りをした。
「うむ。確かに聞きはしたが、実物をこの目で見ていないので少々心配になってな。」
「そうね。それは私も見てみたいわ。」
そう言って父さんと母さんは俺達の横に置かれているそれぞれの箱の中にあるであろうプレゼントを見つめた。
俺とキュルケは顔を見合わして、コクリを頷いた。
「じゃあ、まず私の贈り物から見せるわね。・・・これが今ゲルマニアで人気の化粧品よ!」
そう言ってキュルケは箱から小瓶を幾つか取り出した。
「キュルケ、それはどんな効果がある化粧品なの?」
「お母様、それはね・・・」
化粧品に興味を引かれた母さんとキュルケが化粧品の話で盛り上がり、俺と父さんの男二人は完全にかやの外になっていた。
キュルケの化粧品の効果は髪の艶が良くなるとかいうものらしい・・・リンスのようなものか?
それにしても・・・キュルケも『かみ』関係か。
「・・・それでヴァルムロートはどんなものにしたんだ?」
父さんがキュルケと母さんの終わらない話に少しうんざりしたようでキュルケ達の話を遮って俺に話しかけた。
「そうね。見てみたいわ。」
「私も!ダーリンがどんなしおりを選んだか興味あるわ。」
キュルケと母さんも話を止めて俺の方を向いた。
「選んだというか、作ったんだけど。・・・これがそのしおりだよ。」
三人が俺の作ったしおりを覗きこんで、その内二人が固まった。
「・・・これはお前が作ったのか?」
「・・・このしおりはヴァルが作ったの?」
「これダーリンが作ったの?へえ、四つ葉のクローバーに花か・・・どれも可愛いわね!」
キュルケは褒めてくれたけれど、父さんと母さんの表情が固まったままなのが俺を不安にさせた。
「そ、そうだけど・・・。」
しおりの出来はそんな唖然とするほど不細工な出来ではないはずだが、と不安になっている心の中で呟いた。
父さんと母さんが何やら視線を交わした後、母さんが明らかな作り笑いをした。
「ヴァル、この真ん中のクローバーや花は精巧な絵なのかしら?」
「ううん。本物だけど。」
しおりに使った四つ葉のクローバーや花が絵ではないのかと疑問を持ったようなのでそれは紛れも無い本物の四つ葉のクローバーと花を使ったと説明した。
するとキュルケはしおりを手に取るとしおりを横から見た。
「でもダーリン、この四葉のクローバーはぺっちゃんこよ?本当に絵じゃないの?」
「これは押し花って言って、花とか草をぺっちゃんこにしたものを紙の中に入れたんだ。」
俺が押し花といった所でキュルケはその薄さに納得したようだが、以前父さんと母さんは何やら思う事があるようだ。
「ヴァルムロートよ、今『紙』と言ったな。その紙はどこから手に入れた?」
「え?先程作ったって言いましたよね?」
そういうと父さんは頭を抱えた。
まさか誕生日プレゼント程度で父さんが悩むとは思っていなかった俺はその姿に困惑した。
「父さん?」
「レイルドからお前が不思議な紙のようなものを持ってきて『固定化』をかけさせたと聞いたので、まさかと思ったが・・・ここまでのものとは。」
「え!?どういうことですか?」
父さんの言葉の意味がよく分からなかった俺はそのまま聞き返した。
「・・・そうか。ではまずハルケギニアの紙について話をしようか。」
そこから父さんはハルケギニアにおける紙媒体の話をした。
現在ハルケギニアには四種類の紙媒体が存在しているそうだ。
まず一つ目はハルケギニアで普及しているであろう紙媒体は“羊皮紙”だ。
これは簡単にいうと動物の皮を加工することで紙のようなものに仕上げたものだ。
家にあるほとんどの本がこの羊皮紙だし、手紙や重要文書にもこの羊皮紙が使われる。
貴族がもっとも使用する紙媒体がこの羊皮紙だ。
二つ目はときおり発見される場違いな工芸品の本に使われている紙のことだ。
ただし、場違いな工芸品は高度な技術によって作成させているため、同じものを作るのは出来ないらしい。
それに場違いな工芸品は実用品というよりも研究対象だったり、コレクター品だったりするのでそれ自体を使うことはまず無いらしい。
三つ目は二つ目の場違いな工芸品の紙に似せて『錬金』した紙のようなものだ。
これは薄く切った木などに『錬金』の魔法をかけたものなので、使い勝手や手触りなどが多少異なっているらしい。
製作時間は最短だが、一枚一枚『錬金』をかけないといけないので変わり物好きの貴族位しか使っていないそうだ。
四つ目はパピルスという植物で作った紙だ。
植物で作った紙というと俺が作った和紙もどきと同じように聞こえるが、パピルスの方は質感などはかなり違うようだ。
なんでも茎を多少加工したものを重ねて叩いて紙にしているので最後に表面が滑らかになるように手を加えると言っても和紙とは違うのかも知れない。
時間は四つの中で一番かかるが材料が植物ということもあって他のに比べてかなりお手軽な値段設定なのだそうだ。
そういうことでこのハルケギニアでは紙といえば貴族は“羊皮紙”、平民は“パピルス紙”という感じに分かれているらしい。
で、俺の作ったしおりはパピルスに近いがどことなく場違いな工芸品の紙の一種に似ているということで父さん達は驚いているようだ。
・・・場違いな工芸品の紙の中に和紙があったのかも知れないな。
「紙を作れるなんて、ダーリンってすごいのね!」
「キュルケ、これはすごい!なんてものじゃないんだぞ!場違いな工芸品や『錬金』を除けば、いままでこのハルケギニアにこのような紙は無かった!しかもその中に押し花なるものが入ってるというのも前代未聞だ!」
父さんは激しく興奮していて、さながら新発見をした学者のような振る舞いだった。
それを見て、俺は自分の作ったしおりがまるでオーパーツだなと思った。
「あはは、父さん、大げさだな。そんな大したものじゃないですよ。」
「大げさなものか!この紙も作ったと言ったな。」
「あ、うん・・・。」
父さんの勢いに俺は少し押されて声が小さくなってしまった。
「正直にどうやって作ったか教えなさい。」
父さんの真剣な目を見ているとやってしまった感がどこからともなく俺に襲いかかった。
・・・俺、またやっちゃった?肥料に引き続き、またちょっとだけ文明レベルを超えちゃった?調子に乗りすぎたか?・・・という考えが頭の中でぐるぐると回っていた。。
黙ったままの俺に父さんが俺に向って真剣な目で同じ事を繰り返した。
「・・・はい。」
こうしてヴァリエール家につくまでの残り2日間、父さんに紙の作り方を教えることになった。
紙作りのヒントは前世の記憶から・・・とは素直に言えるわけがないので、
その時に家に紙の試作品やしおりの試作品があると話したら、誕生会から戻ったらすぐに父さん達の前で紙を作ることになった。
しかもそれをゲルマニアの皇帝陛下に献上するとかいう話になった。
そんな大層なものじゃないんだけどな。
さらに今回は時間がないのでいろいろ魔法を使ったが本来の紙の作り方はメイジが関わらなくても出来ることが分かったのか、『ヴァイス』で試験的に紙の生産を行うことになった。
試験的とはいえ新たな仕事が増えるので『ヴァイス』に新たな村人募集をしないといけないかもなと考えた。
そんやことをやっていると、ついにヴァリエール家に到着した。
読んで頂きありがとうございます。
今回はカトレアさんルートを進めながら、ハルケギニアの紙設定について書いてみました。
話の中で四つ紙の種類を出しましたが、それぞれを比較すると以下のような感じになると考えています。
書きやすさ・質感
場違いな工芸品>>>>>羊皮紙=錬金紙>>パピルス紙
本にした時の便利さ
場違いな工芸品>錬金紙>>>>>羊皮紙>>パピルス紙
値段
場違いな工芸品>(越えられない壁)>錬金紙>>>羊皮紙>>>>パピルス紙
因みにこの中にヴァルが作った和紙もどきを入れるとすると、
書きやすさ・質感は羊皮紙に少し劣る程度
本にした時の便利さは羊皮紙以上錬金紙未満(厚さがね)
値段はパピルスより少し値が張る程度
と、ハルケギニアの紙業界を震撼させるものって感じでしょうか。
・・・それにしても仮にも公爵家の娘のプレゼントがしおりってうのはやっぱり地味すぎましたかね?
絵本みたいなものでも良かったかな?と今では思っています・・・が、このまま突き進む!
あ!そうそう。
もしかしたら戦争をしたい貴族が誕生日会でカトレアさんを暗殺してその罪をヴァルに擦り付けるんじゃねえの?とお思いの方も居られるかも知れませんが、ヴァリエール家には現役を退いてなお最強の名を欲しいままにする生きる伝説・エルフを含むハルケギニア最強のチートさんがいるのでやろうにも出来ないということにこの二次創作ではなっています。
まあ、次の話で誕生日会は普段よりも警備を厳重にしているという描写を入れる予定ではありますが。
ご意見・ご感想があれば良ければ書いてみて下さい。