29話 これはある意味で『トロッコ問題』になるのだろう・・・
今年のカトレアさんの誕生会もつつが無く終わった。
その後でカトレアさんの部屋に招かれたら早速挙げた服を動物達が着ていた。熊なんかリアル熊のプーさんになっているぞ。これではちみつの入った壺があれば完璧だな。
「この子達に可愛い服をくださってありがとうね、ヴァルムロートさん。」
「いえいえ、喜んでもらってうれしいですよ。」
(でもカトレアさん自身にもなにか贈った方が良かったかな?)
「・・・うふふ、来年も楽しみにしていますね。」
「ちい姉さまの飼っている動物は服を着てなくても可愛いわ。・・・けど、その可愛さをさらに引き立てる服を贈るなんてやるじゃない、ヴァルムロート。」
「それにしても動物に服を着せるなんて良く思いついたわね、ダーリン。」
(地球じゃ普通になってたから俺は変とか思わなかったけど、やっぱりちょっとずれてるのかな?)
「・・・別に不思議じゃないだろ。騎士の馬やグリフォンとかはなんか羽織ってるし。」
「確かに着飾ってはいるけど、それでも服って感じじゃないでしょ。」
「なんか長い布を上にかけただけって感じだものね。」
「そうかな?」
「ふふ、ヴァルムロートさんは面白い発想をいつもしてるのね。」
「あはは、そうですかね?」
「たしかにダーリンは時々変なことをしてるわね。」
「えー。変って酷いな、キュルケ。」
「ねえ、キュルケ。ヴァルムロートってどんな変なことをやってるの?教えなさいよ。」
「それは私も知りたいわね。教えて下さる?」
「そうね・・・」
そうしてなぜか俺の過去の暴露話が始まった。
「うちの中庭にも噴水があるのだけど、その噴水に『コンデンセイション』の魔法をかけてその上に乗ろうとして噴水に落ちたことがあるわ。私は実際に見たわけじゃないけど、お姉様がその一部始終を見ていたの。」
「あらあら。」
「あはは、ばかねぇ。」
「その他にもファイアーボールに自分から手を突っ込んで火傷したこともあったわ。・・・ねえ、ダーリン。どうしてそんなことをしたの?」
「え、自分で出したファイアーボールなら熱くないかと思って手を入れただけだけど。」
「「それはないわね。」」
「ですよねー。」
「うふふ、ヴァルムロートさんは面白いわね。」
「私達が魔法を教えてもらっている先生にフライを使っている時に他の魔法を使えるって聞いたらすぐに試していたみたいね。先生は危険だからやめておけとも言ってたのにね。」
「あらあら、先生が危険と言ったことをやったの?そういうことはしてはいけませんよ、ヴァルムロートさん。」
「いえ、先生が危険と言ったのは戦闘中などの元々危険なときにやるとさらに危険度が高まりますよということですよ?試してみる分にはそんなに危険は無いはずですよ。・・・たぶん。」
「それでもだめですよ。その先生もヴァルムロートさんやキュルケさんの身を案じての言葉ですから、あまりないがしろにしてはいけませんよ。分かりましたか?」
「・・・はい、今後善処します。」
「善処ではなくて、やらないようにして下さいね。」
「・・・・・・」
「・・・ルイズどうしたの?」
「・・・え!?なんでもないわ!ねえキュルケ、他には何かないの?」
(ルイズは魔法がきちんと発動しないんだろうな。やっぱり爆発ばっかりしてるのかな?)
「いやいや、それくらいだろ。他になんか変なことしてるのか?」
「そうね・・・そういえば最近ダーリンが厨房に入っていくのを時々見かけるけど料理でも習ってるの?」
「いや、料理は習って無いな。ただ動物のさばきk」
(・・・は!なんだ、このプレッシャーは!)
「あら?どうしたの?続きは?」
(カトレアさんなんか黒いオーラみたいなのを出しそうな雰囲気になってるぞ。顔は笑ってるけど・・・まさか俺が無用な殺生をしていると思われたのか!?)
「・・・動物のさばき方を教えてもらってだけです。さばいた動物はちゃんと料理されて食事に出ていますよ。」
「なんでヴァルムロートは動物のさばき方なんて教えてもらってるの?そんなのは厨房の人にでも任せておけばいいのに。」
「まあ、いろいろ事情があるんだよ。」
(カトレアさんのプレッシャーは消えたようだな、良かった。)
「いろいろ、ねえ。」
「ねえ、ダーリンってちょっと変でしょ。」
「確かに少し変わっているかもしれませんね。」
「ちょっとじゃなくてかなり変なんじゃないの?」
「・・・変か。」
(だとしたら、もう少し自重した方がいいのか?)
ただの雑談がちょっと自分の変さを考えることになってしまった。
今年も1泊して、次の日にカトレアさんの治療についての話し合いがあった。出席者は去年と同じメンバーだ。
「ではカトレアの治療についての話し合いを始めよう。まず私から、去年ミス・ネートに代わりカトレアの心臓の動きを診る者を選んでほしいということだったので、その後早速我が家の水メイジから選んだ。その者に毎朝体調を診ると共に心臓の動きも診てもらっている。・・・これでいいのかね?」
「はい。問題無いと思います。」
「そうか。ではその者にはこのまま続けてもらうことにする。それでヴァルムロート君の方はどうかね?」
「はい。僕の方も準備は進んでいます。後はワインを蒸留したものが出来たので、傷口が綺麗に治るように微調整すればいいと思います。」
「・・・『思います』ということはまだそれを行ってはいないのですね。」
(怖っ!怖いよカリーヌさん!あまり睨まないで下さい。)
「はい。仰る通りまだ手掛けていません。言い訳ですが、一番濃いワインを作ってもらうために蒸留する回数を100回としたら、出来たのがつい先日だったのです。帰ったらすぐにでも取りかかります。」
「そうですか、分かりました。まだカトレアの病状に変化が無いとは言えなるべく早くしたことに越したことはありませんからね。お願いしますよ。」
「はい。頑張ります。」
「しかし、100回も蒸留させると言い出した時は同行した私も驚いたぞ。」
「そうなのか?私は酒はあまり飲まないから100回というすごさが分からないのだが、蒸留するのに1年も時間がかかる大仕事だということは分かった。」
「ああ、普通の蒸留酒である『ブラントヴァイン』などの蒸留する回数は2~3回だからな。100回というのがとてつもないのもだと分かるだろう。こんなに蒸留させたのはヴァルムロートが初めてじゃないのか?」
「それを聞くと100回といすごさが際立つな。・・・しかしなぜ“100”回なんだ?もっと蒸留する回数を減らしてはいけないのか?」
「それはですね、ヴァリエール公爵様。蒸留できる1回の量やそれにかかる時間などを調べた結果、1年で約100回蒸留することが出来るだろうという考えたからです。確かに蒸留回数を減らせば時間はそこまでかからなかったでしょうが、それでもしうまくいくものが出来なかったらやり直しになってしまうかもしれないので今回は時間がかかりましたが100回としました。」
(本当は朧気な記憶では70回が妥当だったと思うが、多く蒸留してもらったのはハルケギニアの蒸留技術では現代地球のものよりも性能が落ちそうだと考えたからだがそんなこと言えないし。それに多いことに越したことは無いだろうし。ただお酒からの蒸留ではどんなにやっても96%が限度らしいのだけど。)
「そこまで考えての100回だったのか。分かった。その件は引き続き頑張ってほしい。」
「はい。頑張らせて頂きます。」
「次にこの1年のカトレアの様子についてはミス・ネートから話してもらおう。」
「はい。カトレア様はこの1年特に遠出などはされてないので、大きく体調が崩れるということもなく安静にしていれば問題は無かったですね。異常な部分は去年より少し大きくなっていますが、それについての健康被害は出ていません。私からは以上です。」
「今回はなにか新しいことはあるかな?」
「・・・ちょっといいですかヴァリエール公爵様。」
「ん?何かあるのかね、ヴァルムロート君?」
「はい。しかしこれはカトレアさんやキュルケにはちょっと聞いて欲しくないので少し席を外してもらっても構いませんか?」
「カトレアやキュルケ嬢には聞かれたくない話か。」
(これから話ことは非人道的なことだからカトレアさんにも聞いてもらったらきっと反対するだろう。キュルケを退席させるのは俺の嫌なところを見て欲しくないからかな。まあ、自分勝手なことだけど。)
「ええ、まあ。」
「・・・いいだろう。カトレア少し席を外しなさい。キュルケ嬢はヴァルムロート君の話が終わるまで席を外してもらってもかまわないかな?」
「・・・はい。わかりました、お父様。」
「・・・どうしてもだめなの?ダーリン?」
「どうしてもってわけじゃないけど、なるべくキュルケには聞いて欲しくない話だからな。お願いできるかな?」
「・・・しょうがないわね。でもどうして私達に席を外させたのかはいずれ話してもらうからね。」
「そうだね。時期が来れば話すよ。もちろんカトレアさんにも話ますから。」
「それならいいわ。行きましょうか、カトレア様。」
「そうね。キュルケさん。」
そうしてキュルケとカトレアさんは部屋から出ていった。
「それでヴァルムロート君、カトレアとキュルケ嬢に席を外させてどんな話があるというんだい?」
「そうだな。私もそれは聞きたいな、ヴァルムロート。」
「はい。私はカトレアさんの手術に向けて今までは動物を使って『ブレイド』の使い方などを練習してきて、『ブレイド』の扱いなどはかなり上達したと思っています。しかしそれは動物に対してなのです。」
「・・・つまりヴァルムロート君はこう言いたいのかね、今度は人で練習したい、と。」
「・・・はい。そういうことです。」
「まあ!そんなことを考えていたの?ヴァルムロート。」
「そう言うことになるね。いずれ動物だけではだめだとは薄々思っていたんだ。」
「そうなの。それでキュルケに席を外させたのね。嫌なことを聞かせたく無くて。」
「まあね。人を救うために他に人の命を持て遊んでいるみたいに思われるかもしれないし。もちろんそんなことは無いのだけど。それにカトレアさんに席を外してもらったのはそれもあるけど、一番はこの提案を一番反対するだろうと思ったからなんだ。」
「確かにあの子がいたらきっと反対したでしょう。カトレアは命を大事にする子ですからね。」
「僕もそう思います。しかし、今回カトレアさんに行う手術は体を切り開かないと出来ないものです。回復魔法があるとはいえ人体のどこは切っても大丈夫で、どこは傷つけてはいけないとかを良く分かっていないまま手術を行うのはかなり危険だと考えて、それで人体実験を行うことを考えたんです。」
「たしかに失敗しましたでは済まさせんからな。」
「ええ、その時はヴァルムロート君の首が飛ぶことになりますからね。」
オホホとカリーヌさんが笑っていたが、俺の口は引きつり、背中には冷や汗が流れた。
「そ、それで事前にカトレアさんに行うようなことを別の人で試してその後を半年位観察を行いたいのです。」
「そうか。それで半年というのは?」
「いえ、特に意味があるわけではないのですが、手術後にそれ位生きることができて『ディテクトマジック』でも問題が無いようならばそれ以後も問題なく過ごせるかな?と考えました。」
「なるほど。それでその人体実験を行うための人はどうやって集めるつもりなんだい?」
「まさか平民から選ぶつもりではないでしょうね?」
「いえ、さずがにこの様な非人道的な行いに罪もない平民から選ぶはずがないですよ。平民あっての領地、そして貴族ですから。」
「ふむ。『平民あっての領地、そして貴族』か。そう考えるのは貴族では珍しい、いやほとんどいないだろう。ツェルプストーお前がそう教えたのか?」
ヴァリエール公爵は感心したように俺を見て、それから父さんの方をみてそう尋ねた。
尋ねられた父さんは首を横に降った。
「いや、私ではないな。しかし平民はむやみに扱うなとは教えているがな。」
そう言った父さんは少し誇らしげな様子だった。
元日本人の俺からすれば当然のような考え方だが、生粋の貴族の子供ではそう考えられない者が多くいるのかも知れないし、もしかしたら子供を教育する大人自身もそう考えている人は少ないのかも知れないと父さん達のやり取りを見て思った。
「そうか!そこのところは別の機会に是非話し合ってみたいものだな。」
「え?ええ、分かりました。それでこの人体実験を行うための人は盗賊などの死刑が決まった罪人から選ぼうと考えています。」
「なるほど。死刑が決まった罪人なら元々死ぬのだからその前に人体実験をさせてもらおうということか。」
(罪人には人権は無いぜ!というつもりは無いけどな。同じ症状の患者がいればベストなのかもしれないけど、それができないのでベターな選択をするしかないしな。)
「はい。それでヴァリエール公爵様には人体実験をするための人を集めて欲しいのですが、お願いできますか?」
俺がそうお願いするとヴァリエール公爵は無言でアゴ髭を数回触ってから俺に返事を返した。
「・・・うむ。盗賊が出た時はなるべく殺さずに捕えるように言っておこう。」
「ありがとうございます。」
「それでどういう人をなるべく捕えた方がいいのかね?やはりカトレアと同じ女性の方がいいのかな?」
「そうかもしれませんが、別に男性でも構わないと思います。確かに女性と男性では体格や体力などに違いがありますが、とにかく人数をある程度確保して欲しいのです。特に盗賊などは男性がほとんどで女性はあんまりいないと思いますし。」
「そうか、分かった。とりあえず何人位いた方が良いのかね?」
「そうですね・・・僕も何人いたら大丈夫とは言えないので、捕えたらその都度手紙などで報告してくれませんか?僕もそれまでにはある程度計画を考えておきますので。」
ただ10人程度では少ないだろうとはすぐに考えついたが何をどうやって実験して、手術を行うのにどれ位の練度があればいいのかが分からなかったので人数の制限はいないでおいた。
「そうか?分かった。捕えることが出来たら連絡しよう。」
「お願いします。ヴァリエール公爵様。」
「しかし、お前がその様なことを考えていたとはな。人の死に触れさせるにはまだ早いと考えていたんだがな。」
父さんは少し驚いたような表情で俺を見つめていた。
だけど、父さん・・・そういうってことは“そのうち、させよう”とは思っていたという事だよね。
まあ、盗賊討伐とかもあるみたいだし、本当にそのうち連れて行かさせるかもしれないな・・・。
「ツェルプストーよ、昔から言うではないか“男子三日会わざれば刮目して見よ。”と。」
「私は1日も目を離した時はないぞ。」
「そうか。・・・まあ、子供の成長は私達が思っているよりも早いということだな。」
「・・・そうかもしれんな。」
ちょっと場所が代わってヴァリエール家の厨房ではクックベリーパイが焼ける良い香りが漂っていた。
「ダーリンの聞かれたくない話って何でしょう?それにカトレア様の話なのにカトレア様自身を退け者にするなんて、どう思います?カトレア様!」
「まあまあキュルケさん、落ち着いてね。ヴァルムロートさんにはヴァルムロートさんなりの考えがあるのよ。・・・でもキュルケさんは大事にされているのね。」
「どういうことですか?」
「私が席を外されたのはそこに私がいるときっとヴァルムロートさんの提案に反対するからでしょうね。」
「え?カトレア様のためにやっていることなのにダーリンが提案することはカトレア様自身が反対する様なことなんですか!?」
「まあ、私の勘なんですけどね。」
「女の勘ですか?」
「うふふ、でもヴァルムロートさんがキュルケさんを退席させたのはきっとそんな提案をする自分を見て欲しくないから、かな?」
「それも女の勘ですか?」
「そうかもね。でも顔には出していないけどヴァルムロートさんがキュルケさんを気遣っていたのは確かね。愛されているのね、羨ましいわ。」
ニコニコしながら言ったカトレアの言葉にキュルケは顔の温度が上がっていくのを感じた。
「ま、まあ、私とダーリンは相思相愛ですから、と、当然ですわ。」
カトレアの言葉に少しどもりながら答えたキュルケだったが、普段好きだとか愛しているということを自分で言っているにも関わらず、人からそう言う風に言われるとこうもドギマギしてしまうのかとキュルケは思った。
「うふふ、照れちゃって可愛いわね。私m」
カトレアが言葉を続けようとしていたが厨房の扉がいきなり開いたのでその言葉を飲み込んだ。
開いた扉の所には少し息を切らせたルイズが目を輝かせて立っていた。
「ちぃ姉さま!クックベリーパイをお焼きになっているの!私の分はありますか!?」
そこへルイズが厨房にクックベリーパイの臭いを嗅ぎつけてやってきた。
「あら、ルイズ。廊下を走ると危ないわよ。クックベリーパイが出来たらルイズとお姉様を呼びに行こうと思ってたのよ。皆で食べましょう。」
「はい!ちぃ姉さま!」
カトレアに抱きついて素直に返事をするルイズを見ていたキュルケは自然と口元が緩んでいた。
「・・・ぷっ。臭いに釣られて来るなんてルイズったら犬みたいね。」
キュルケの目にはルイズにしっぽが生えて、それをブンブンと元気に振っている様子が容易に想像出来た。
「むー!何よ、キュルケ!いいじゃない、ちぃ姉さまのクックベリーパイはとってもおいしいんだから仕方ないのよ!」
「ありがとう、ルイズ。・・・そろそろ良いみたいね。ルイズはお姉様を呼んで来て頂戴。」
「うっ、はい。分かりました。呼んで来ますね。」
「あ、ルイズ、来るのは会議室にね。」
「分かりました!」
そういうとルイズはまた廊下を駆けていった。
「もうあの子ったら・・・」
「ふふ、カトレア様もルイズにすごく愛されてますね。」
「ええ可愛い妹よ。それじゃあ、キュルケさんはパイを運ぶのを手伝ってね。」
「ええ、分かりました。でももう話し合いは終わったのでしょうか?」
「多分もうそろそろ終わりだと思うわ。さあ、行きましょう。」
「まあ、カトレア様がそういうなら。」
俺の出した人体実験の件をヴァリエール公爵様と父さんもに了承してもらい、今回の話し合いがお開きになった時にキュルケとカトレアさんがクックベリーパイと紅茶を持ってやってきた。
それから少し遅れてルイズとエレオノールさんもやってきて、お茶会になった。
カトレアさんが作ったクックベリーパイはやはりおいしかった。
お茶会が終了して、俺達はヴァリエール家を後にした。
「ねえ、ダーリン。」
「ん?何?」
「今回聞かせてくれなかった話、いつか教えてね。」
「・・・ああ、そのうち教えるよ。」
「大丈夫、どんなことでも私はダーリンを嫌ったりしないからね。」
(何!!もしかしてキュルケは俺がどういう話をしたか検討が付いているのか!?)
「!!・・・あ、ああ。カトレアさんの治療が終われば必ず話すよ。」
「ええ、分かったわ。・・・ダーリン、大好きよ!」
「うわっ!キュルケ!お前父さんと母さんがいるところで何言ってんだよ!・・・(まあ、俺も好きだけど。)ぼそっ」
一応家族としての好きということだが、口に出してみるとそれ以上のものが無いとは言い切れない俺がいることに気付いた。
だが、姉弟ということもありその気持ちについて気付かないフリを決めた。
「えぇ、ダーリンなんて言ったの?もっと大きな声で言ってよー。」
「いやいや!何も言って無い!言って無いぞ!」
「・・・ふう、これではヴァルムロートが嫁を連れてくるのは絶望的かな。」
父さんは少し気落ちしたようにヤレヤレと首を振った。
「ちょ、父さん!」
「そうね。やっぱり・・・」
母さんも右手を頬に当てて何か物言いげな表情をした。
「母さん!『やっぱり』って何!?」
こんな感じで今回は賑やか(?)に馬車に揺られた。
何か思う所があるような両親の雰囲気と常に抱きついて来ようとするキュルケの相手をしていたので、家に帰ったら俺はすでに疲れ果てていた。
早くアルコールの濃度について調べないといけないのだが、その方法を考えている途中に自室の机に突っ付して寝てしまっていた。