30話 赤くて3倍・・・シャアじゃないよ!
「・・・ふふふ、あーはっはは!出来た!出来たぞ!見よ!我が奥義を!!俺がガンダムだあああ!!!」
もしこの時に俺の様子を見たら頭が可笑しくなったんじゃないか?と思われる位に俺はテンションが上がっていた。
きっかけは数日前いつもの必殺技を考えている時だった。
今回は原点に戻って最初に作った『フランベルグ』について検討していた。
この『フランベルグ』は発動している様子は『ブレイド』の魔法に良く似ているが、異なる点がある。
『ブレイド』の攻撃半径は精々1メイル位で威力は肉などの軟らかいものは問題無く切れるが、石などの固いものを切断出来るほどではない。
それに比べて『フランベルグ』は攻撃半径は最大5メイル位まで(トライアングルランクの今現在)で石などの固いものも切断することが可能だ。俺がこの魔法をあまり使わないようにしているのは『ブレイド』に比べて魔力消費がケタ違いに多いせいとその威力の高さから使う場面が限られるというのがある。討伐などの集団で戦う時に味方を巻き込みそうだしな。
しかし俺はこのとき『フランベルグ』の威力を全開にして思ったことは、
「これが最大か?あの時はもっと大きいのが出来ていたと思ったけど・・・」
あの時とは、初めてオーク鬼の討伐に行った時のことだ。
俺が九死に一生を得たオーク鬼の上半身を消し去ったあの時のフランベルグの威力は当時はラインランクだったが、今のトライアングルランクで出しているものより大きかったと思った。
『フランベルグ』は圧縮して威力を高めるとか、同じ大きさでも質を高めることで威力が上がるとかはないようなので、単純に大きい方が威力が高い。
なので普通は同じ魔法を使った際はランクが高い方が威力も高いはずなんだが、どうも違っているようだ。
「思いで補正か?大きく思っているのは俺の美化させた思い出で実際はもっと小さかったとか?」
思いで補正、良くあることだな。前世の時は昔通っていた小学校に友達と遊びに行った時(校庭でキャッチボールなど)は意外と校舎が小さく思えたものだしな。・・・それはちょっと違うか?まあ、いいか。
「・・・でも森の中でオーク鬼と戦って俺の『フランベルグ』の光が村の高台から見えたって聞いたから、最低でも森の木よりは大きくなったってことだろ?」
周りの木々を見て大体の高さを算出してみる。
「・・・大体目線を斜め45度のして目線の先に木の先端が来るようにして・・・俺の身長が160サント位だから目の高さは1.5メイルってとこか・・・」
木の周りをうろうろ、後ずさり、後ずさり・・・イテッ!木の根に足引っ掛けた・・・
「・・・よし。木の高さは15~20メイル位かな。ということは最低でも20メイルの大きさになったってことか・・・」
『フランベルグ』は大きさに比例して魔力消費も大きくなる。だからそれだけの大きさのものだとすぐに魔力切れを起こして直後に倒れてしまったのも当然だったのかもな。
「しかし、今全開でも5メイル位が限界で20メイルなんて出来ないし、そもそも数秒で魔力を使い切る位のものなんてどうやっても出せないぞ?うーん、なにか特殊な条件が必要なのかな?」
特殊な条件、つまり今は無くてあの時にあったもの・・・
オーク鬼?・・・確かに今ここにはいないがオーク鬼自体が魔力を増大させるとか聞いたことないし、それだったら今頃オーク鬼はメイジに狩りまくられて全滅してるんじゃないのか?・・・オーク鬼はないな。
そう言えばあの時は足を挫いていたな。・・・いや、さすがに検証のためとはいえ自分で足は挫かないよ!まあ、体が傷つくか・・・どうだろう?それだと戦争のたびにそういう体験した人がいそうだけど、どうなんだろうか?あとで父さんにでも聞いてみよう。
あとは命の危険が迫っていたことだな。でもこれは戦争するときも当てはまるな。これも聞いてみるか。
・・・あ、でもここ数十年は戦争らしい戦争は無かったな。まあ、念の為だし、ダメ元で聞いてみよう。
早速父さんに聞いてみた。
「いや、そんな話は聞いたことは無いな。」
「そうですか。・・・残念です。」
「私に挙がってくる話は結果位だから、そういう個々の話が聞きたいのなら、カズハットに聞いてみたらどうかな?」
「なるほど。そうしてみます。父さん、ありがとうございました。」
「・・・ヴァルムロートは今回は何をしているんだ?また変なことをしているんじゃないだろうか?・・・まあ、変なことと言っても危険なことじゃないだろうし大丈夫だろう。何かあれば言ってくるだろうし。」
兵舎でカズハット隊長に話を聞いてみた。
「そういう話でしたら聞いたことがありますね。」
「え!?本当ですか!」
「はい。私が直接見たわけで無いのですが、、昔騎士団にいた頃に他の騎士から話を聞きました。」
「どんな話ですか!」
「確か・・・新米のメイジが初陣で敵に囲まれて危ない時に信じられない様な威力の魔法を繰り出して生還したとか、一人では絶対に倒せない様な竜を倒したとか、まあ、その時私は騎士団に入ったばかりで緊張していたのでそういった冗談で緊張を解そうとしたものだと思いますが。」
「なるほど。・・・新米・・・初陣・・・。そういった話で戦闘経験を積んだ人の話は無いのですか?」
「いえ、それは聞いたことはありませんね。」
「・・・経験があると、ない・・・。なるほど。」
「あの、ヴァルムロート様。どうしてこんな話を?」
「いえ、ちょっと参考に。隊長、ありがとうございました。」
「いえ、参考になったのなら結構です。・・・参考?」
カズハット隊長の話と俺の体験の共通点は、ずばり新米メイジで初陣、さらに命の危険があったということかな。
確かにカズハット隊長にその話をした人は緊張を解そうとして冗談として話したのかにれないが、実際に起こったことが口伝のように伝わった可能性もある。ほら、事実は小説よりも奇なりっていうし。
おそらく新米メイジと初陣のコンボは戦闘に不慣れで戦うことに対して心構えが出来ていないということだろう、その未熟さで命の危険に陥ったことにより軽いパニック状態になりいつもは無意識に制御している魔力を解放した、別に言い方では魔力の暴走か?、ために通常では考えられない威力の魔法が使えたものだと推測する。
戦闘経験があったら命が危険に曝されても、冷静に現在の状況とその時に自分に出来る最善の策を考えてるのでパニック状態にはならないだろうしな。あと経験があると、ある意味で諦めもいいかもしれないしな。
カズハット隊長の話では魔力切れは起こって無いようだからいきなり魔力切れした俺の魔力が少なかったのか、『フランベルグ』の魔力消費がでかすぎるのか。
・・・後者だったらいいな。前者だとちょっと凹む。
まあ、その話は置いておいて、極限状態において普段以上の体の働きというのはどこかで聞いたことは無いだろうか、いや、ある!俺も話でしか聞いたことは無いが“火事場の馬鹿力”ってやつだな。
“火事場の馬鹿力”も火事などの極限状態において普段は体に負担がかかるために制御されているのを解放し、100%の力が出せるのもだったと思う。
つまりこのハルケギニアでは普段制御されている魔力が極限状態において100%発揮される可能性があるということか!?
「・・・それなら疑似的に極限状態を作り出せば、簡単にパワーアップが可能ということか。極限状態か・・・どうやって作りだそうか?火事場の馬鹿力っていうし、火に包まれてみるか?・・・あ!魔法を使ったら、他の魔法を使えないかもしれないけど、まあ、とりあえずやってみるか!」
という安易な考えから、体全体を火で包み込んでみた。ちなみに以前ゴットフィンガーをやろうとして散々火を扱ったので、どれくらいなら体が耐えられるかは分かっていた。体に影響が無い位の温度でやってみた。
ちなみにこの状態では火を纏っているといっても体の周りに暖かい空気があるだけで、赤くなったりはしていない。
「うーん・・・ちょっと熱い位だけど、体に変化はないっぽいな。火事場の馬鹿力でもあるから身体能力も上がりそうなんだけど。」
試しに走ってみたが、いつもと変わらなかった。
「これじゃあ、だめか。もうちょっと温度を上げてみるか。はっ!」
体に纏った火の温度が上昇した。体の周りが淡い赤い光に包まれた。
「あつっ!これは温度を上げすぎたか?でも、なんか興奮するっていうか、やる気が出るっていうか。アドレナリンが過剰にで出るのか!?なんかテンションが上がってくるぜ!」
試しに走ってみると、驚くほど早く走ることが出来た。
「はあ、はあ、はあ、ま、魔法を解除。・・・ふう、なるほど、温度は、あれくらいが、良いのか。」
俺が膝に手を置いて休もうとした瞬間、手の平と膝に激痛が走った。
「いてっ!・・・あ、良く見たら、服や全身の皮膚が軽く焼けてるな。・・・上手に焼けましたーってか、いやいや、これはまずいだろ。」
俺はすぐに携帯していた秘薬(安物)と『ヒーリング』をかけて、全身の軽い火傷を治した。
「ふう、これで大丈夫だろう。・・・でも、服はどうしようもないな。あとで謝ろう。しかし、身体能力は上がったけど毎回火傷してたらダメだよな。・・・そうだ!回復も一緒にやっていけばいいんだ!火の制御にラインスペルを使っているから回復に水を1つ足せるな。火が主になってるから水の回復はそこまで威力が無いかもしれないけどやらないよりはましだろう。」
そして水の回復を加えてやってみた。
「・・・おお!体が焼けて無い!これならいけるぞ!次はこの状態で魔法が使えるかどうかだな。」
魔法を使うのはイメージが大切だ。その点俺は転生者なので他の人よりイメージしやすい点で有利だ。
「イメージするのは常に最強の自分だ。・・・って、これは違うか。」
イメージするのはある言葉で全身が赤くなって性能が3倍になるガンダム達だ。あ、トランザム特攻ではないぞ!
「イメージはデュナメスで、目標を狙い撃つ!『ファイアーボール』」
すると、俺のかざした杖の前に通常の倍以上の大きさの火球が形成され、飛んでいった。爆発音がするといけないと思ったので、空に向けて放ったが、これを地面に向けていたらどれほどの威力だっただろうか。
「はあ、はあ、出来た!あ、あれ?」
俺が魔法が出たことに喜んでいるのもつかの間、魔法は勝手に解除されてしまった。
「はあ、はあ、ど、どうしたんだ?魔法が勝手に、はあ、解除されたぞ?ま、まだ魔力には余力が・・・いや、結構厳しいか。はあ、はあ、もしかして疑似的な極限状態だから、はあ、倒れる寸前だから無意識に強制的、ストップをかけたのか?」
俺はかなり魔力を消耗していた。もうファイアーボールですら1発打つ程の魔力もない。
「帰って、夕飯まで部屋で休もう。」
俺は部屋に戻って、ベットに横になって考えていた。
「とりあえず疑似的に極限状態を作り、そのお陰で身体能力の向上と魔法の威力、はまだみてないけどおそらくこれも向上しているだろう。それにしてもこれほどまでに疲れるとは思わなかったけど。」
「しかし、『ファイアーボール』1発でこれほどまでに疲れるのか?いくら極限状態で放ったからと言っても、ドットスペルだぜ?・・・そういえば、放つ前から魔力を消費し続けていたような・・・いや、そうだな。魔法を使用しているのに他の魔法が使えると言うことはこれは“独立依存型の魔法”か。」
“独立依存型の魔法”とは使用中に魔力を消費するが、同時に他の魔法を使えると言うかなり便利な魔法の分類だ。(まあ、俺が勝手に分類しただけだが)
「魔法を発動して、自分でボケて突っ込みして、イメージして『ファイアーボール』を放つのに約10秒ちょっとか。結構、いやかなり短いな。その後にこの魔力の消耗具合か。・・・短期決戦用だな。」
・・・短期すぎるけど。
「明日はもうちょっとちゃんとどれくらい身体能力や魔法がパワーアップしたかを確かめてみよう。」
夕飯まではまだ時間がある。
「少し寝るか。・・・あ!まだ名前を付けて無かったな。もちろん名前は『トランザム』だ!」
次の日から少しづつ『トランザム』の出来ることを確認していった。
なぜ『少しづつ』なのかというと、限界までやるとふらふらになって魔法や剣術の訓練に差支えるからだ。昨日は虚無の日だから無理出来たんだけどな。
で、確認したことをは次のようなことだ。
身体能力の向上について
足の速さはなんと50メイルを4秒位で走れるようになった。普段は6秒位。
腕力も普段は持ち上げられない大きな石を持ち上げられるようになった。
ジャンプ力も普段より2倍位になった。
魔法の向上について
魔法は試してみると『コンデンセイション』などの魔法の溜め時間が大幅に短縮されて、さらに見た目の大きさが約2倍、これにより体積はおそらく3~4倍になり、威力もそれ相応になった。一度大きな音(爆発音)を立てて慌てて使用人が様子を見に来たことがあった。
『フランベルグ』も威力が向上した。普段は全開でも5メイルが限度だが、『トランザム』状態では普通にやってもなんと!15メイル位になった。しかしその後の疲労が半端ないことに・・・。今回は全開ではやっていないが、全開ではどれほどの大きさになるだろうか。楽しみだ。
今回の大きな収穫は『フライ』だ。普段は走るのと同じ位で50メイルを6秒位つまり時速約30リーグ(30km/h)なのだが、『トランザム』状態ではなんと!50メイルを2秒弱!つまり時速に直すと時速約100リーグ(つまり100km/h)になるのだ!
正直これには俺も驚いた。はっきり言ってこれはハルケギニアにいるどの生物よりも速いんじゃないか!
・・・いや、言い過ぎた。
地球でもこれより速い生物はいたわ、隼とか。だからこのハルケギニアでも時速100リーグより早く動く生き物はいるだろう。
あ、生き物じゃないけど、零戦があったな。あれってどれくらいの速度が出るんだ?まあ、飛行機だし100km/hよりは速いだろうな。
・・・あ、それにジョゼフが使う『加速』の虚無魔法はどれくらい速いんだ?もし『トランザム』より速かったら使われたら終わりだな。なにか対策を考えておかないと。
まとめると、身体能力は約2倍、魔法は約3倍向上したようだ。
ここまでは『トランザム』におけるメリットの話だった。
そしてここからは『トランザム』のデメリットの話だ。
まず身体能力が向上するのは好ましいが、普段なぜ体は100%の力を出していないのかを考えれば、体におけるデメリットはすぐに分かる。
それは筋肉や骨、関節にダメージがいかないようにしているためだ。『トランザム』を使って体を動かした後の筋肉はかなりのダメージを受けていて、軽い時は酷い筋肉痛、重い時は肉離れを起こし、骨に至ってはいままでに骨折は無いものの走ったりすると足の骨にひびが入り、普段持てない様な重いものを持てば関節を痛めるなどがあった。
『トランザム』の時は常に回復が行われているとはいえ、それは表面の火傷の回復で精一杯で内部の筋肉などの回復までは出来ていない。
そしてこれももっとも厄介なのは『トランザム』発動中だと痛みがほとんど無いということだ。これのせいで『トランザム』が切れた後に激痛に見舞われることも多々あった。なんとか回復したが。
次に魔法に関してだが、『トランザム』は独立依存型の魔法だ。つまり発動中は常に魔力を消費し続けている。しかもトライアングルランクの俺の魔力であっても今は10秒そこらで限界になる。これは動いていなくても10秒だ。
でもこれで魔法を使うともっと短くなるんじゃないかと思ったが、どうかな?俺の感覚だと『トランザム』状態では他の魔法も軒並み消費魔力が上がっているようだし、おそらく短くなるだろうが、どれくらい短くなるかは分からない。
今回は確認のために他の魔法を発動する数秒しか『トランザム』を使っていないので分からない、というのが本音だ。そもそも10秒って分母が小さいしな。
最後にさっきも考えたことだが、とにかく発動時間が短い!
たった10秒そこらってお前戦いをなめてるだろ!とか言われそうだな。決闘とかだったら一瞬で勝負が決まりそうだからいけそうだけど、戦争とかになったら無理だな。普通に魔法使ってる方が生存率が高そうだな。
あと『トランザム』の後が隙だらけになるのも問題だな。体にダメージがあって満足に動けず、魔力もドットスペルすら唱えられないくらいまで消耗するとか、どんだけだよ!
こうして『トランザム』のメリットとデメリットを比べると、戦闘スキルとしてはデメリットの方が大きいかもな。でもリスクがでかい分だけリターンも大きいけどな。
『トランザム』は必殺技だ。
・・・必殺技、つまり“必ず殺す技”だ。ここぞ!という時だけ使うことにしよう。
それにデメリットもメイジのランクが上がればある程度は改善するかも知れないし、とりあえずスクウェアになったらもう1つ水を付けて、今度は体の中を回復させるようにしよう。
これで『トランザム』がどういう効果を持っているかを知ることが出来て、これで一応の完成としよう。
じゃあ、完成の記念にいままで抑えていた欲望を解き放つか。
「いくぞ!・・・『トランザム』!!」
俺の体を淡い赤色の光が包み込んでいる。
「・・・ふふふ、あーはっはは!出来た!出来たぞ!見よ!我が奥義を!!俺がガンダムだあああ!!!」
「・・・あれは、ダーリン、よね?・・・な、なにか叫んでいるみたいだけど、ストレスでも溜まっていたのかしら?・・・ま、まあ、ここは見なかったことにしておくのが優しさよね・・・」
キュルケは見なかったことに決めてその場を去った。そういえばヴァルムロートがちょっと赤かったようだと思ったが“見ていない"ということで気にしないことにした。
一度作った話なのに投稿が遅くてすみませんが、しばらくGジェネOWをやるので更新が途絶えるかも・・・