31話 ペストを媒介するのは実際にはノミ、ネズミはノミの運び役
「ふう、これで中にはなにも残ってないかな。」
俺は家の魔法練習場の隅にある小屋にいた。
目の前のこの小屋での用事はすでに終わっているのでもうすぐ焼き払って、灰を錬金で土に返してもらう予定だ。
・・・残しておいたら危ないかもしれないし。
「まあ、必要になったらまた建ててもらえばいいよな。」
小屋はワインを蒸留して得られた約96%のアルコールを希釈して消毒用アルコールを得るための動物実験用に建ててもらった。
小屋の中には2つの部屋があり、扉を入ったすぐの部屋には手洗い場(桶が置いてあるだけ)と机が置いてあり、その奥の部屋は実験動物の飼育室になっている。
俺はアルコールが届いた時点(カトレアさんの誕生会直前)で次のような御触れ(?)を家に近い町に出していた。それは、
“ネズミを生きたまま持ってきた者には5匹につき銅貨1枚を与える。期限は9日後の次のオセルの曜日まで、もしくはネズミが500匹集まるまでなので、お早めに。
ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー”
期限を9日後としたのはカトレアさんの誕生会に行って戻る時間(行くのに4日、そのまま誕生会に参加して、1泊して、昼から帰って家に着くのが4日後で合計8日)を考慮したものだ。
集める数を500匹としたのは集められたネズミに怪我や病気、年老いたものを省いたら半分位になるかなと思ったからだ。
ネズミ5匹で銅貨1枚だから集まるかどうか心配だったんだけど、初めて3日目で規定数に達したようだった。
普段害にしかならないネズミが金になったから住民の人達は張り切ったんだろうな。
しかし、思ったより集まるのが早かったのでネズミだけの状態で6日間続くことになってしまった。
餌もある程度渡していたが大量にネズミが入っていることからくるストレスや餌が行き届かないことから共食いなどがあり、500匹いたはずのネズミは俺が見た時は300匹位になっていた。
そして帰ってきた俺がそのネズミ達を見て初めに思ったことは、
ネズミが大きい!だった。
俺が想像していたネズミは良く実験とかで使われる様なハツカネズミ(小さくて可愛い)だったのだが、実際にいたのはクマネズミやドブネズミのような大きなもの(でかくて可愛くない)がほとんどだった。
まあ、特に問題はないので残ったネズミの仕分け作業を行った。
しかし、ここで注意しなければいけないことが1つある。これは地球での場合なのだが、中世ヨーロッパにおいて猛威を振るった黒死病、つまり“ペスト”に気をつけなくてはいけない。
ツェルプストー領内の町で死人が大量に出たという話は聞いていないが、念には念を入れておかないとな!・・・こんなところで死にたくは無いし。
そこで顔は口と鼻をマスクの代わりに布で覆って、服の上にも布を纏い、さらにネズミの入った箱から少し距離を取って、『念力』で1匹ずつネズミを掴み、『ディテクトマジック』を使ってネズミの健康状態を大まかに診ていった。
ノミ位なら『念力』で潰せるので地道に潰していった。ペストになりたくないしな。
人手が必要だったので家のメイジにも声をかけて作業した(さすがにキュルケや母さん達には手伝ってもらわなかった)のだが、300匹はやっぱり多かったようでかなり時間がかかった。
この仕分けで300匹位いたネズミは150匹位になった。
それで大きいネズミは2匹ずつ、小さめのネズミは3匹ずつ個別に飼育箱に入れていき、飼育箱は69箱になった。(大きいのが101匹で51箱、小さいのが53匹で18箱)
これでやっと準備が整ったので、早速やってみることにした。
やり方は簡単でネズミ5匹で1グループとし、ネズミの体の側面の毛をあらかじめ剃っておいて、そこに擦り傷を付けて、そこから・・・
①そのまま放置するグループ
②約96%アルコールの原液で毎日消毒するグループ
③約90%に希釈したアルコールで毎日消毒するグループ
以下アルコールの濃度は④80%、⑤70%、⑥60%、⑦50%、⑧40%、⑨50%、⑩40%、⑪30%、⑫20%、⑬10%
⑭ただの水で同様の操作を行ったグループ
⑮コントロールとして傷付けずにそのまま消毒も何もしないグループ
以上の操作を行ったネズミを10日間飼育し、その経過を見た。
その結果、⑮は問題無く全匹元気で生きている。
①のグループは怪我が治るのが普通もしくは遅いくらいかと思っていたのだが、飼育室の衛生状況が悪いのかどうかわからないが怪我は酷いものになっていた。
・・・で、アルコールで消毒したグループはどうかというと、①より断然良かった。グループによってはほとんど傷が治っていたグループがあった。
そのグループは④80%と⑤70%だった。
アルコール濃度が濃い②や③などは逆に傷口の皮膚が傷ついていたようだった。
⑭のただの水は①よりは酷くは無かったが、やはり治りが遅いように思えた。
これらの結果から、消毒用アルコールにはアルコール濃度が80%〜70%位がいいことが分かった。
今回の実験では70匹のネズミを使った。しかし、後84匹のネズミがいる。
そこで俺は残りのネズミを使って解剖や肺の機能を知ること、どれくらいなら肺を摘出していいのかを調べることにした。
ネズミを使って人体実験のプレ実験をしてみようと考えたわけだ。
まずは解剖などをして肺の機能を簡単に知ろうと考えた。
肺は胸の中の肋骨などに囲まれた空間にあるわけだが、そこにぴったりくっついているわけではない・・・まあ、これは『ディテクトマジック』をすれば分かるのだが。
そして普通の状態の肺が空気が入った風船とすると、解剖して胸を開いたとたんに肺がまるで風船がしぼむ様に小さくなってしまう。
さらにこのまま胸を閉じても肺は元通りの大きさに戻らなかった。
この状態のネズミは息が苦しそうで、運動能力や持久力などが極端に低下し、死んでしまった。
しかしその状態で胸に少し穴を開けてやると肺は大きくなることが分かり、さらにネズミの状態も普通に近づいた。
そういえば、肺が機能するためには陰圧にする必要があるとか習ったことがある気がする・・・もちろん前世での話だ。
人体実験で胸を開けた後に肺と胸の間の空気をどうにかしてなくさないといけないな。
次にどれくらいなら肺を摘出しても生きられるかを試してみた。
ネズミの肺は左が1つ、右が4つに分かれている。ちなみに人間は左が2つ、右が3つだ。
まず左の肺を摘出した。
すると多少運動機能が落ちるようだが問題なく生きられるようだ。
次に右肺を1つから4つそれぞれ摘出してみた。
すると3つ以上肺を摘出した場合心臓が少し大きくなるようだ。肺を半分以上摘出したものは取り入れる酸素が少なりその分心臓に負担が掛かるみたいだ。
他にもどれだけ血を抜いたら死ぬかなどを試した。
そうしていくうちに全てのネズミを使い切った。
今回知りたいことはもう試したので追加で御触れを出すことはしなかった。
実験で殺してしまったネズミはさすがに食べることは躊躇われたので焼却処分させてもらった。
「次は人体実験だな。・・・ヴァリエール公爵様から連絡はまだ無いな。」
ちょっと・・・いや、かなりドキドキする。
同時に“ある覚悟”をしなければいけないという不安も抱いた。
GジェネOWが一段落ついた(HELLモードが出現したところでクリアはまだ先)ので、またぼちぼち投稿していきます。
ただ、TOX2が発売したので・・・って、いうかここ数か月は欲しいゲームが発売しすぎ!
11月末にはスパロボOGの新作が出るし・・・
まあ、なるべく投稿していけるようにしたいですね。