35話 整いつつある準備と受ける死?の宣告
「皆さん今日は私ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと姉キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの誕生会に来て下さり、ありがとうございます。」
「今日は我が家のシェフ達が腕によりをかけた料理が沢山ありますのでゆっくりしていってくださいね。」
今日は俺とキュルケの14歳の誕生会だ。
近くの領地の貴族や位置的には遠いが父さんと縁のある貴族などいろんなところからやってきた貴族やその息子・娘が挨拶やプレゼントを渡してくる。
「お誕生日おめでとうございます。」
そう言ってまた一人、貴族の娘が俺に誕生日プレゼントを渡して、俺の隣にいるキュルケの方へといった。
まあ、プレゼントは嬉しいんだけど・・・なんだろうね。
年々俺へのプレゼントが物騒になってくるというか、実用的な物になっているというか。
ちらっと、キュルケに渡されたプレゼントの山と俺のプレゼントの山を見比べてしまう。
キュルケには大抵化粧品とかアクセサリーがほとんどで男からは花束とかだったりするんだけど、俺には珍しいマジックアイテムだとか純度の高い魔石とか、あと場違いな工芸品——CDとか何かのケーブルとかここでは役に立たない物ばかりだけど——が少々といったところだろうか。。
このプレゼントの山をみていると貴族の間では“ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー”はどんな人物だと評価されているのか知りたいような、知りたくないような複雑な気持ちになる。
・・・なぜだろうか?
もっとプレゼント!って感じのものでもいいんだよ?
こういうと嬉しくないみたいだけど、実際はかなり役に立ってるものもあるからこれからもよろしくお願いします!って心境なんだけどね。
そうそう。ゲルマニアでは平民でもお金があれば土地を買って貴族になれるのだが、そういう成り上がり貴族からのプレゼントに高価なものや珍しいものが多いようだ。
恐らく他の貴族に対してもそういうことをやっているのだろうが、それでうまいことメイジの血を入れることが出来たら名実共に貴族になるからその為の戦略かな?と邪推してしまうな。
こういう場では「今度家に来てお茶でもいかがかな?家にも同い年位の娘がいて是非話がしてみたと言っているんだが」とか「今度ゆっくりお話できませんか?」などという、何このエロゲ?みたいな展開とかあるかと思っていた時期が俺にもありました・・・。
実際十二歳くらいまではあることはあったんだが・・・キュルケがことごとく話を潰したり、俺自身も自分を鍛えたり、カトレアさんのことで精一杯だったからスルーしていたら、去年の誕生会ではさっぱり無くなったときには誕生会が終わった後に少し凹んだ。
因みに誘われるのはキュルケの方も同じで最初こそはキュルケに交際を申し込む輩も多かったが、キュルケがバッサリと切り捨てたりして全く相手にしなかったからか、こっちも去年からそういう話が無くなった。この間のカトレアさんの誕生会でもカトレアさんを誘っている貴族が何人かいたから、キュルケのようにここまできっぱり無くなるのはちょっと怖い気がする。
・・・あ!もちろん今年も誘われてないんだぜ!
そんなことを考えながらまるで作業をこなすかのように同じ動作を行っていたらほとんどの貴族と挨拶が終わり、最後の一組となっていた。
ざわ・・・ざわ・・・
最後の一組が俺達の前に来ると会場が少しざわついた。
最後はヴァリエール一家だった。
まあ、一家といっても公爵さんとカリーヌさんとルイズだけだが。
カトレアさんは病気の関係で長距離の旅路は危険だし、エレオノールさんとはなぜか仲良くなれないんだよな・・・こっちはエレオノールさんに対して友好的な接し方をしていると思うんだけどね。
今でこそこの程度のざわめきだが、初めてヴァリエール一家が来た時は会場入りした瞬間からヤバかった。
あの時は父さんがすぐに対応したから良かったけど、一歩間違えたら家が戦場になってたかもしれないと思えるほど空気が張りつめていたからな。
「誕生日おめでとう、ヴァルムロート君。元気にしてるかね。」
「これはヴァリエール公爵様。御越し頂きありがとうございます。はい、元気でやっています。」
「誕生日おめでとう!はい、誕生日プレゼント。ちぃ姉さまと一緒に選んだのよ。キュルケにも、はい!」
「ありがとう、ルイズ!カトレアさんにも帰ったらありがとうって言っておいて。」
「ルイズにしてはいいものを選んだじゃない。ありがと。カトレア様にありがとうって伝えておいて。」
「ええ、分かったわ!」
これまでキュルケとルイズのやり取りを微笑ましく見ていたカリーヌさんがニコニコしながら俺に話しかけてきた。
「ねえ、ヴァルムロートさん。つい最近ワイバーン討伐に参加したんですってね。」
「はい。おとといのことですけどよく知っていますね。」
「ええ。そこで10匹強のワイバーンを一度に従わせたんですってね。一体どうやったのかしら?是非教えて欲しいわ。」
「え、えーと。それは・・・」
「カリーヌ様、ダーリンってばすごいんですよ!私達が対処しきれないワイバーンのボスをダーリンがあっという間に倒したら、残りのワイバーンが全てダーリンを認めて従うようになったんです!」
キュルケの言葉を聞いた瞬間、カリーヌさんの纏っている空気というか、滲み出る雰囲気が変わった気がした。
相変わらず表情はニコニコしているが、それが逆に俺に怖さを感じさせた。
「そう・・・すごいわね。ヴァルムロートさん、今度私の家に来た時に私と模擬戦などはいかがかしら?」
「え!?いえ、私などまだまだです。メイジのランクもトライアングルでスクウェアであられるカリーヌ様にとても敵いませんよ。」
口ではそう言ったものの、内心は穏やかではなかった。
なにせハルケギニアでもしかしたら現在で一番強いのではないかと言われている“烈風カリン”ことカリーヌさんと模擬戦なんて行った日には・・・下手したら死ぬのではないか?と考えていた。
カリーヌさんとは戦いたくない、しかし無碍に断っても角が立ちそうな気がした、というか納得しないだろうからメイジのランクの違いを出して断ろうとした俺が間違いだった。
「強さはメイジのランクだけではないけれど。ふふ、そこまで言うなら貴方のメイジとしてのランクがスクウェアになった時は私と戦いなさいね。」
もしかしたら、カリーヌさんはすでに俺の潜在能力的にスクウェアになれるということを誰か——父さんか母さん達の誰か——から聞いていたのかもしれない。
そう言っているカリーヌさんの雰囲気が先ほどよりも一段と変わったものになっていた。
キュルケやルイズ、公爵さんもそれを感じているのか何も言わない。いや、言えなかった。
ただ、カリーヌさんの雰囲気からは危険な感じを感じなかったが、嫌な感じはした。
例えて言うなら、子供が念願のおもちゃを手に入れたがそれを必死に他人に悟られないようにしているが、どしても雰囲気として嬉しさが出ているといった感じを暗いものにしたようなものだろうか。
勿論、子供はニコニコしてしるカリーヌさんでおもちゃは俺という構図だ。
「は、はい・・・。」
(なぜだ!なぜ俺はカリーヌさんの提案を安請け合いしてしまうんだ!やべぇ!素質的にはスクウェアになれるらしいし、それを目指しているから俺がスクウェアになるのも時間の問題だと思うが・・・正直、戦いたくねええええええええええええ!!!)
俺は心の中で叫んだ。
表情は変えてないつもりだったが、少しは変わっていたかもしれない。
なにせ、キュルケや父さんたちだけでなく、ルイズやヴァリエール公爵も同情の目で俺を見ていたから。
「・・・ヴァルムロート君、例の件で話があるんだ。後で時間いいかな?」
ヴァリエール公爵が少し申し分けなさそうに俺に話しかけた。
例の件といえば、ヴァリエール公爵に頼んでいた人体実験の話についてだろうと察し、別に今すぐ戦うわけではないし、仮に模擬戦を行っても死ぬことはないだろうと考えて気持ちを切り替えた。
「ええ、大丈夫です。ヴァリエール公爵様達は今日も家に泊まっていくのでしょう?その時に話ましょう。」
「ああ、そうしよう。・・・ではそれまでパーティを堪能するよ。」
「例の件?ねえ、ヴァルムロート、何の話?」
「ん、まあ、ちょっとね・・・」
「ふーん、話たくないことなのね。まあ、いいわ。それじゃあね。」
キュルケにはそのうち話さなければいけないが、今はそのときではないので誤魔化すことにした。
それから会場で来賓の人と話していた父さん達に合流し、一緒に会場を回って貴族の人達と話をした。
・・・貴族の話はなんか長いね。
そうしていくつか回った時、不意にキュルケが腕を組んできた。
「いきなりどうしたの?キュルケ?」
「ねえ、ダーリン。さっきから変な視線感じない?」
「え、今日の主役は僕達だからそりゃ注目されるのは仕方ないけど・・・変な視線は分からないな。」
「そういう普通の視線じゃなくて、なんていうか、粘っこい?みたいな視線なのよ!」
「粘っこい視線ね・・・」
俺が周りを見渡すとある貴族がこちらを見ているようだ。その貴族はこちらの視線に気付いたのか不自然に視線を外した。
パーティーの主役と目が合って視線を外すのは変だなと思ったが、たまたまかもしれないのでスルーした。
それから何人かの貴族と話をした後、さっきの変な視線を送っていたと思われる貴族と話をすることになった・・・父さんが。
その貴族は年齢的には父さんより年上に見えるので50過ぎだろうか。
その貴族は父さんと話していてもちょいちょい視線がこっちを向くことに気が付いた。
初めは俺を見ているのかと思ったが、どうやら俺ではなくキュルケの方を見ているようだった。
そいつの視線は14歳にしては大きいキュルケの胸とか胸とか胸とかをちらちら見ていた。どんだけ胸を見るんだよ!
俺はそいつとキュルケの間に入ってキュルケをガードするように少し立ち位置を変えた。
こいつも話が長いのでほとんど聞き流していたが、どうやら公爵でいままでも誕生会の招待状を出していたが、今回初めて来たようだった。
そしてやたらキュルケに婚約者はいるのかや、いなくてもその候補となる者はいるのかなど父さんに尋ねていた。
それを聞いていて、こいつに息子がいてそいつの婚約者にでもするつもりだろうか?と考えたら、自分がムカついていることに気が付いた。
それからも何人かの貴族と話したが、その間もそいつを何回か見たがやはりこちらを見ていた・・・ストーカーか!
ストーカー爺の出現があったが、それ以外は誕生会自体は恙無く終わった。
パーティの主役って大変だよな。
なんせ来賓の相手をして満足に料理も食えないんだから、厳しいぜ。
誕生会に来た貴族も全て帰り、ヴァリエール一家を客室に案内させて一息ついたときにさっきの公爵について父さんに聞いてみた。
「父さん、途中で話したパーティに初めて来た公爵は誰ですか?」
「ああ、あの公爵は我がゲルマニアの皇帝アルブレヒト3世閣下が親族を幽閉する際にそのことから逃れることが出来た数少ない公爵の1人だ。」
「幽閉から逃れることが出来たって、あの公爵はそんなに有能なのですか?」
パーティで見た姿を思い出すが見た感じや雰囲気などからは優秀そうには見えなかった・・・俺の印象としてはただのエロジジイって感じだ。
もしかしたら、人は見た目では判断できないというものなのかもしれないな、と思ったが父さんの次の言葉でそれは無いということが分かった。
「いや、逆だ。有能だったら真っ先に幽閉されている。あの公爵は言葉は悪いが無能と言ってもいいだろう。」
「どうして、そんな人に招待状とか出したの?」
「社交辞令のようなものだ。お前の姉達の時も出していたが来たことは1度も来たことは無かったんだがな。」
「・・・もしかしてキュルケが目当て?息子の嫁にするとか?」
「あの公爵に子供はおらんはずだ。しかし・・・キュルケ目当てというのは当たっているかもしれんな。あの公爵はあまり良くない噂を聞くからな。」
「どんな噂かは聞かないけど、それだとあの公爵自身の嫁にでもするってこと?」
「そこまではまだ言ってはいないが、どうだろうな。しかし、そんなことになったら爵位はあちらは上でも私は断固反対してやるぞ!」
父さんはそう言って、ぐっと拳を握った。
「頼もしいけど、大丈夫なの?」
「・・・まあ、大丈夫だろう。」
「あ、そうだ。父さん、ヴァリエール公爵様が例の件で今夜話があるって。」
「ああ、聞いていたぞ。これはほとんどお前の問題で私や母さんは立会人のようなのもだが、一緒に話を聞かせてもらおう。」
「ありがとう。」
夕食の後、応接間に俺、父さん、母さん、ヴァリエール公爵、カリーヌさんの5人が集まった。
母さん2人も参加したいと言っていたが、キュルケや姉さん達それにルイズの相手を頼んだ。
「ヴァリエール公爵様、例の件で話があるとのことですが。」
「うむ。ヴァルムロート君の言った通りに盗賊などの罪人を30人ほど集めた。今は家から離れた森の中に建物を作り、そこに隔離している。」
「ヴァリエール、よくそんなに集められたな。」
「ああ、少し苦労したな。いくら最近のトリステインが物騒になってきているといってもそうそう盗賊など出んからな。周りの領地から処刑される罪人を譲ってもらったりしたな。」
「そんなことをして大丈夫か?変な噂とか流れるんじゃないのか?」
「噂か、どうだろうか。秘密裏に交渉し、口外しないと金を握らせ、もし破ったら“烈風カリン”による制裁があると言っておいたから大丈夫だと思うが・・・」
その話を聞いて、カリーヌさんの扱いが地球の核兵器みたいだな、と考えていた。
強大な力で相手を脅しているものだし、似たようなものだろう。
「30人ですか。・・・思ったより多いですね。男女比はどうなっていますか?」
「ああ、男は22人、女が8人だ。やはり盗賊ともなると女は少ないな。これで大丈夫そうかい?」
「はい。それで十分だと思います。」
「そうか。一応まだ盗賊が出ればなるべく生きて捕えるように言ってある。」
「そうですか。まあ、どんなことがあるか分かりませんから多すぎるということはないと思いますが・・・それでいつそちらに向かいましょうか?」
「こちらとしては何時でもいいぞ。」
「そうですね・・・では、なるべく早い方がいいと思いますし、一度そちらに行ったらかなり長い間お邪魔することになりそうですから・・・準備がいるので数日後にここを出発するようにします。」
すでにマウスでいくらか実験を行ったが、これから人に対して行う実験はまた違ったものになるだろうし、そもそも少し医療の知識があるからといっても人の解剖やましてや手術をすることなんて初めてのことだらけだからなるべく早く取り掛かっておきたいという思いがあった。
ただ、この世界の銃を見せてもらう約束とかしているので、すぐにという返事はしなかった。
「そんなに急がなくても・・・いや、助かる。ではヴァルムロート君の到着を心待ちにしているよ!」
「それでどのくらい家に滞在なさるのかしら?」
そう言われて以前考えていた予定を思い返した。
「そうですね・・・」
初めに何人かは解剖する・・・それ自体は数日で終わるだろう。
問題は肺切除の実験をして術後の経過観察や身体機能を調べたることだが、本来なら術後の観察に結構時間がかかるだろうが、回復魔法でかなり短縮できると考えて二ヶ月程度あればいいだろうか。
この二つを合計して・・・
「とりあえず60日位でしょうか。おそらくそれ以上になるでしょうが。」
「60日か、かなり時間がかかるな。そうだな、ヴァルムロート君の部屋を用意しておこう。」
「いえ、そこまでしていただかなくても・・・」
「ヴァル、こういう時は相手の好意を素直に受けておくものよ。まあ、時と場合、そして相手によるのだけどね。」
「分かりました、母上。ではヴァリエール公爵様、よろしくお願いします!」
「うむ。任せておけ。それにお願いするのはこちらの方だからな。カトレアのこと、よろしく頼む!」
「はい!頑張ります!」
——その頃のキュルケとルイズは庭のテラスでまったりとお茶を飲んでいた。
「ねえ、キュルケ。今お父様達はどんな話をしているのかしら?」
「さあ?私達には聞かせたくない話なんでしょ。」
「でも、ヴァルムロートが話に入ってるってことはちぃ姉さまのことかもしれないのよね。」
「そうね。おそらくカトレア様の話でしょうね。」
「ねえ、キュルケ。今どんな話をしているか知りたくない?こっそり聞きに行きましょうよ!」
「止めておきなさい、ルイズ。そのうちダーリンから話してくれるわよ。」
「そう、残念ね。早くちぃ姉さまの病気治らないかしら?」
「そのために今ダーリン達が頑張ってるんでしょ!」
「そんなこと分かってるわよ!ちょっと言ってみただけ!」
しばらくするとヴァルムロートにキュルケ達のことを頼まれた母親や姉達が騒がしくやってきた。
「ああ!キュルケとルイズちゃん、こんなところにいた!こっちに来てお話しましょ。」
「きゃー!ルイズちゃんは小さくて可愛いわね!」
「こんな妹が欲しかったわね。」
そう言いながら母親や姉達は代わる代わるルイズの頭を撫でまわしたり、抱きしめた。
いきなりのことでどう反応していいのかわからないルイズはただ苦笑いを浮かべて、されるがまま母親達の行動が治まるのを待った。
「お姉様、私は?」
「え?キュルケの背はもう私達とあんまり変わらないし。」
「私より胸が大きいし。」
「ボンキュボン・・・でも、ルイズちゃんは背が低くてぺたんこだし。」
「ぺ、ぺた・・・!」
ぺたんこ、と言われたルイズは瞬時に顔を真っ赤にして反論した。
「い、いまに見てなさい!私だってちぃ姉さまみたいにボ、ボンキュボンになるんだから!」
「ふふ、そうね。頑張って!ルイズ!」
微笑ましいものを見る目でキュルケはルイズにそう言うと、さらにルイズの顔が赤くなっていった。
翌日、ヴァリエール一家は帰っていった。
なんかルイズの様子が落ち込んでいたような?
朝食のときやたら胸に手を当てたり、カリーヌ様の方を見てため息ついたり、なにかを思い出して少し明るくなったり、また凹んだりしていたが何かあったんだろうか。
まあ、いいか・・・それよりもやることやって、早いとこヴァリエール領に行かないとな。