36話 感情システム的な魔法の仕組み?
俺の誕生日の翌日、家に泊まったルイズ達は一緒に朝食を食べてからヴァリエール家へと戻っていった。
カリーヌさんは俺の魔法の練習を見ていくと言っていたが早く帰ってカトレアさんの顔を見たいというヴァリエール公爵の強い要望により渋々といった様子だったが・・・正直、ほっとしている。
俺も準備が出来次第、ヴァリエール家に向かうのだが、行く前にやりたいことがあった。
この間、カズハット隊長と約束したこの世界の銃を見せてもらうことだ。
俺自身、前世でエアーガンで遊んだことがある程度なので、本物の銃なんて見たことないのでちょっと楽しみにしている。
銃を見せてもらうのは今日の午後の剣の鍛錬の時間だ。
「銃は楽しみだが、その前に魔法の練習だな。」
と、いうことで練習場に行くとキュルケが地面打ち付けられたカカシのような的に向かって『ファイアーボール』を放っていた。
的や地面には焦げた跡をみるところ、すでに何発か『ファイアーボール』を放っているようだ。
因みにこの的は木製なのだが土魔法の『固定化』がかけられている為、かなり頑丈に出来ていてそうそう壊れない代物になっている。
「あ、ダーリン遅かったわね。」
近づいた俺に気が付いたキュルケがこちらを向いてそう言った。
今こちらを向いているキュルケは普段と変わらないが、こちらを向く直前のキュルケの的を見る目がやけに鋭いように思えた。
気のせいだったのかと思い、普通に言葉を交わす。
「そうだった?ごめんごめん。・・・あれ?そういえば、レイルド先生は?」
「先生は急な用事が入ったから今日は魔法の練習をみることが出来ないから各自で練習して欲しいって言ってたわ。」
もしかしたら先日、急激に増えたワイバーンの為の飼育小屋を作るのに人手が足りないからとかで駆り出されているのかもしれないと思った。
実際、急ピッチで建設を行っているようだがまだ完成していない。
小屋がないワイバーンは仮設の屋根だけのところで待機している状態じゃあ可哀そうだしな。
「そうなんだ。それでキュルケは何をやってるの?」
「魔法の命中率を上げようかと思って。ワイバーン討伐に行った時にちゃんと狙わないと避けられちゃったでしょ。それで、ね。」
「たしかにいままでは明確にここに当てたいとか思って練習したこと無かったな。僕もやろうかな?」
「ええ、一緒にやりましょ!」
こうして、キュルケと一緒に魔法の命中率アップを目指して自主錬することにした。
狙う的はに十から二十メイル位の間にいくつも立てられている的だ。
そこで俺は前の的を避けてその後ろにある的に当たるような軌道を取らせたり、直接狙うにしても部位を定めて当てるといったことを普段よりも正確に思い描き、魔法の精度を上げるような練習を繰り返した。
何回かそれを行うと普段は気にも留めていなかったが思い描いた軌道と実際に『ファイアーボール』が飛んでいく軌道とに多少のズレがあることに気が付いた。
しかし、そのズレは極僅かなものだったが・・・。
ドカーン!
的の下の地面が焦げた跡をつけてえぐれた。
「もう!当たらないわね!」
ドカーン!
「惜しい!ちょっと外れたわ!」
的には当たっていたがどうも狙った的は当たった的より前の的を狙っていたようだ。
「ああん!ちっとも当たらないわ!どうしてよ!」
音がしないと思ったら的の上の方に外れて飛んでいったようで、そのうち静かに消えた。
確かにさっきからキュルケの様子を見ていると的に全然当たっていない。
いつものキュルケならまず外すことがないのだが一体どうしたのだろうか?
それに俺の方を向いているときは普通だが、さっきのことは思い過ごしではなかったようで的を狙っているときははやり普段よりも鋭い視線を向けているし、なんだがカリカリしているというかイライラしているようだ・・・当たらないからだろうか?
しかし、魔法の威力の方はいつもより少し高いように見える。ここからだと判断が難しいが、いつもより地面に開く穴が大きいように思う。
「キュルケ、ちょっといいかな?」
「え?どうしたの?ダーリン?」
「キュルケ、今日はちょっと調子がよくないの?なんか魔法を放っている時怒っているみたいに見えるんだけど?」
「そうね、今日はちょっとむしゃくしゃしてて。それを魔法の練習で発散させようかと思ってるの!」
「え?今日って何かあったっけ?」
「昨日の誕生会に来た公爵をダーリン覚えてる?」
昨日来た公爵というとヴァリエール公爵と誕生会の時に何度か視線を感じた公爵だが、キュルケが言っているのは後者のエロジジイのことだろう。
「まあ、昨日のことだからね、もちろん覚えてるよ。」
「それがね、聞いてよ!その公爵が私の夢にまで出てきて嫌らしい目で私をずっとみるのよ!朝起きた時には気持ち悪いわ、ムカつくわで・・・それでむしゃくしゃしてたの!」
キュルケの話を聞いて、たしかにあのエロジジイが夢にまで出てきたら腹立つのもしかたないと思うくらい印象の悪いエロジジイだった。
そしてそのエロジジイが夢に出てきたキュルケを可哀そうに思った。
「そ、それは大変だったな・・・」
「そうよ!どうせ夢に出るならあんなやつじゃなくて、ダーリンが出れば良かったのに!」
「あはは・・・。まあ、それでキュルケはあんなにカリカリイライラしてたのか。」
「そう見えた?」
「まあ、ね。・・・じゃ、練習の続きしようか。キュルケもそのイライラを魔法に込めるといいよ。」
「ええ!そうするわ!」
そう言うと、キュルケは杖を的の方に向けると張り切ってスペルを唱え始めた。
キュルケがイライラしていたのは怒っていたのが原因だった。まあ、あのエロジジイ相手では仕方ないか。
「さて、僕も・・・いや、待てよ・・・」
俺は杖を構えようとして少し考え込んだ。
以前レイルド先生が魔法は感情に左右されやすいものだと、特に怒りの感情ではいつもよりも高い威力の魔法が出るって言っていたのを思い出した。
そして今、キュルケはかなりイライラしている。
つまり、かなり怒っている状態だ。
そこで俺はキュルケには悪いとは思いながらも今後のために少し観察させてもらおうと考えた。
ドカーン!
「くっ!狙ったところに当たらないわね・・・今度こそ!」
キュルケが放った『ファイアーボール』は的であるカカシの腕のあたりに当たりカカシの向きを変えたが、キュルケの様子をみるに狙ったのは中心だったようだ。
ドカーン!
今度は的を外れて横の地面に当たって爆発した。
「もう!なんで当たらないの!」
ドカーン!
と的に当たり爆音がしたかと思うと、ゴドンッゴドンと音を立てて的が地面に倒れた。
「やっと思った通りの場所に当たったわね!でもまだまだよ!」
嬉しそうな顔をこちらに向けたキュルケは俺がさっきから魔法を放っていないことに気が付いたようで、
「あ、ダーリン。休んでるわね!ちゃんとやりなさい!」
と、真面目な顔をして俺をたしなめているがさっきまで散々思ったようにいかなかった魔法が思ったようにいったことが嬉しいようで声はどこか弾んでいるように明るいものだった。
「・・・ああ。わかってるよ。」
俺は的に向かいほどほどに魔法を使いながら、さっきのことについて考えることにした。
やっぱり今の状態のキュルケだと普段に比べて俺の主観だが命中率が落ちているようだが、その分魔法の威力が少し上がっていると考えられた。
威力が上がっているという証拠について、最近もこれと同じような練習を行ったが、そのときは的に命中しても爆発で倒れることはなかった。せいぜい少し傾く位だったが、今回は完全に刺さっている地面を掘り起こすようにして倒れていた。
それにしても怒りの感情によって威力が上がるということや冷静さが無くなっているのか命中率が落ちてることから、この怒りによって魔法の威力が上がる現象は俺はGガンの“怒りのスーパーモード”みたいだなと思った。
威力が上がることはいいことだと思いつつ、命中率が著しく低下していることでとある赤い人が言っていた言葉を思い出した。
「当たらなければどうと言うことは無い!」
「ダーリン!聞こえてるわよ!むうう・・・次は絶対に当てるわ!」
どうも考えていたセリフが声に出ていたようで、キュルケに言ったわけではないのだが悪いことをしてしまった・・・と思っていた矢先にキュルケはまた魔法を外していた。
ここまで見ていてキュルケがちゃんと狙い通りに魔法を当てられたのは三割に満たないくらいだった。
怒りの状態では威力が上がるのは結構だけど命中率が下がり過ぎで、精神力消費と与えられるダメージの比率で考えるとコストパフォーマンスが通常より良くないようだ。
それに命中率が悪いのは「ここぞ!」という場面では使い辛いものがあるだろう。俺は分の悪い賭けは好きではないんだ。キョウスケやアルトは好きなんだけどね。
「ん?そういえば・・・」
感情の魔法に対する作用を考えていたが、サイトの武器になるデルフリンガーも感情に反応して真の能力——魔法の吸収?——を解放していたことを思い出した。
思いの力を現実の世界に反映させることができるこの世界の魔法というものはやはり素晴らしいものだと改めて感じた。
これがあればなんでも出来そうな気さえして、まさに“魔法”って感じだな!と心の中で少し興奮した。
心の中の興奮を抑えて、キュルケの方に目を向ける。
キュルケは依然として怒りの状態だが、この状態から普通の状態に戻すことができるならば、やはりその後の魔法は普段の威力と命中率になるはずだ、と考えた。
そこでそれを確認するためにもキュルケを普通の状態、怒りではない状態にしてみることを試みた。・・・でも、どうやろうか?
しばらく魔法を打ちながら考えたところ、一つの方法を思いついた。そしてだめだったら別の方法を考えればいいと思い、その方法を試してみることにした。
「キュルケー!」
「もう!なにかしら?」
キュルケはまだイライラしているようだな。上手くいくかは分からないが、ダメ元で試してみよう。
この方法は多少、いやかなり恥ずかしいが、ここは羞恥心を捨てなければいけない。
「・・・キュルケ。好き!大好きだよー!!」
ぎゃーっ!今の俺絶対顔真っ赤になってる!は、恥ずかしいー!いつもキュルケに言われてることを言ってみたけど、マジ恥ずかしい!
「・・・え?・・・い、いきなりどうしの?・・・わ、私もよ、大好き・・・」
「・・・」
心の中でギャーギャー騒いでいたがキュルケの思いがけない反応で一瞬我を忘れてしまう。
キュルケの顔を見ると真っ赤にして、少し惚けているようなこちらがドキッとしてしまうような表情をしていた。
・・・もしかしてキュルケ、自分が言うのはいいけど相手から言われたら照れるってやつなのか?一応フォローを入れておこう。
「あ、ああ。いきなり言ってごねんな。いきなりだったのは、キュルケの怒りを和らげようかと思ってね!」
「そ、そう、だったの・・・ありがとう!今ので怒りはどこかに行っちゃったわ。でも、怒りを和らげるためってことは冗談だったの?それは残念だわ・・・。」
最初は明るい声だったが、少しずつ声のトーンが落ちていき、最後はどこかしょんぼりした様子になってしまっていた。
「いや、本音だけど?さすがに冗談でそんなことは言えないよ。」
俺がキュルケを好きだと思っていることは本当のことだ・・・大事な家族なのだから。
「え!?・・・そ、そうなの!?」
ぱぁああ!とキュルケの表情が明るくなった。
「あ、ああ。それより、練習の続きしようよ!」
「え、ええ!そうね!」
その後のキュルケはいつもの状態ではなかった。怒りの状態でもなかったのだが・・・。
そのせいか分からないが、さらに魔法の命中率が落ちて、威力が先ほどよりも上がっていた。
キュルケはときより「・・・もう。ダーリンったら・・・」とか「・・・そこはダメ。まだ早いわ・・・」などとなにやら妄想に浸っているような言葉が聞こえたような気がするが・・・気のせいだと思いたい。
結局今日の練習の間にキュルケが普通の状態に戻ることは無かった。
今日の収穫は怒りのスーパーモードは良くないだろうということ、ただし動きが遅くて体が大きいものが標的ならいけるかもしれないがということと、気のせいだと思うが俺がキュルケの何らかのフラグを立ててしまかもしれないということかな。
「・・・昼食を食べたら、銃見せてもーらお!」
俺は後者の考えを頭の中から消し去るようにわざと明るい声を出した。
「あらあら。それにしてもヴァルも・・・うふふ!」
発してしまった言葉は力をもっている・・・それが発した本人の意図に係らずに。
こんにちは。こんばんは。sigemoidです。毎度更新が遅くてすみません。
ひとまずマクロス30をクリアしたのですが、今度はスパロボが出ますね!
シャイニング・アークも積んでいますがなるべく早く、次が更新できるようにしたいですね。
BBSの方に「ファンネルって出ないのですか?」みたいなことが書いてあったのでここで返事をしたいと思います。
もう少し後になりますがナイフを改造した『ファング』が出ます。モデルはもちろんOOのヤツです。
あとは、サイトが出た後くらいに戦闘用ではない魔法でファンネルかもしくはビットを出すつもりです。