41話 仕組まれた婚約式
ヴァリエール家を出てから4日目、やっと家が見えてきた。
俺が帰ることは鷹便ですでに知らせている。
家の玄関に着くと、家族とメイドさんが出迎えてくれた。
俺が馬車から降りるとメイドさん達が「お帰りなさいませ。ヴァルムロート様。」と一同に頭を下げた。
そして馬車から降りた俺の目の前にいる父さんに向かって軽くお辞儀をした。
「父さん、只今帰りました。」
「うむ。ご苦労だったな。・・・で、どうだ?上手くいったのか?」
父さんは普通の表情をしていたが声のトーンが普段と若干異なっていた。
一か月以上も家から離れていた俺を心配してくれていたようで少し嬉しくなった。
「はい!上手くいきました!」
父さんを安心させるように元気よく返事をすると、父さんの表情が少し緩んだ。
その様子を見ていた母さんや姉さん達がニヤニヤしながら父さんに話しかけた。
「ふふ。心配し過ぎよ、あなた。」
「なんだかんだ言って一番心配してましたしね。」
「・・・い、いいじゃないか!」
母さんや姉さん達にいじられて、父さんは少し照れくさそうにしていた。
そんな父さんを見て、母さんや姉さん達はますますニヤニヤした表情で父さんを見ていた。
「別に悪いとは言っていませんわ、お父様。ねぇ~。」
「「ねぇ~。」」
この何でもない様なやりとりに俺は家に帰って来たんだな、と感じた。
そんな家族の団欒の楽しさをしみじみと感じていると、一人足りないことに今更ながら気が付いた。
「父さん?」
「ん?何だ?」
「キュルケはどうしたのですか?どこかに出かけてるのですか?」
出迎えにキュルケだけがいなかった。
討伐の為に二、三日家を離れただけでも帰った時に一番に近づいてくるキュルケなのだから、一か月以上も離れていたのなら俺の出迎えよりもどこかへ出かけるということを優先するということは無いと——俺の勝手な思い込みなのだが——思ったのだが、当人の姿が見えないので父さんにそう尋ねていた。
すると父さんの口から出てきたものは俺の予想を遥か右上を行っているものだった。
「ああ、キュルケは養子に出たぞ。」
「そうなのよ。だから今あの子は家にはいないのよ。」
俺も最初「へぇ~」という生返事を返した。しかし、それは父さんの言葉が意外過ぎて“言葉”を“音”としてしか認識できなかったからだった。
俺は生返事をした表情で一時停止したように止まり、その様子を見た父さんをはじめとする周りの人は息を呑んでいた。
風により樹の葉が擦れる僅かな音や遠くの鳥の鳴き声が聞こえる静寂に包まれている間、俺は父さんの言葉を頭の中で反芻した。
時間的には十数秒だったのかもしれないが数えきれないほどその“音”を脳内で繰り返し再生することでようやく“言葉”として理解できるようになった。
「・・・え?ヨウシ?」
「ああ、養子だ。」
俺はもしかしたら聞き間違いだったのもしれないという淡い期待を持って呟いたが、父さんが先程と同じ言葉を繰り返したことでその淡い期待は速攻で砕かれることとなった。
養子、それは前世を含めた今までの俺には全く縁のないものだが漫画やアニメ、ゲームなどにはちょくちょく登場する設定なのでどういうものかは大体分かっていた。
分かっていたが、それをなぜキュルケが行うことになるのかがさっぱり分からなかった。
原作ではキュルケの苗字はツェルプストーだから、養子に行くなんて展開にはなっていないはずだ——原作で結婚してないのに苗字が変わってるのはヴァリエール公爵から領地を貰ったカトレアさんと偽名を使っているマチルダさん位だろう——と前世で得た数少ないゼロ魔の知識で今回のことを否定した。
頭の中で「なぜ」と「?」が幾多にも飛び交って収拾が着かなくなりそうなところを俺は日本の養子とハルケギニアの養子が必ずしも同じではないかもしれないと自分に言い聞かせた。
・・・まあ、日本語とハルケギニア語という違いはもちろんあるのだけど、意味的にということで。
そこで俺はここの言葉では知っていたがもしかして違う意味なのではないかという第二の淡い期待を込めてこう尋ねた。
「・・・養子って何?」
「ヴァル、養子っていうのはね、他の家に行ってその家の子供になることよ。」
今度は母さんが少し申し訳なさそうな顔をしながら答えてくれた。
ええ。日本と同じ意味でした。本当にありがとうございました。
しかし、俺はここまで言われてもまだ納得はしていなかった。
なぜなら、第一にキュルケが養子に出る理由がないのだ。
仮に日本と同じ展開と前提しても、養子をとるのは子供いない夫婦が親のいない子供を引き取るか、跡取りのいない家を守らないといけない名家とかが血縁のあるところから跡取りとなる男子を引き取るか、親がなんらかの理由で子供を育てられないからどこかへ養子に出すかの大体三通りのはずだ。
・・・あ、ゲームとかの義理兄弟は義理になる方の両親がなんらかの理由でなくなって引き取るということもあるか。
どれにせよ、キュルケが養子にいく条件とは当てはまらないはずだ。まあ、ハルケギニアでこれ以外のことで養子に出す理由があるのかもしれないが・・・。
理由もないのにキュルケが養子に行ったということに、まるで皆で俺をだましているかのように思えた。
実はテレビのドッキリのようなものなのではないかと俺は疑ってかかった。
「あはは、冗談酷いですね。どうせどこかに隠れているんですよ・・・ね?」
「ヴァルムロート、嘘ではないぞ。本当のことだ。」
皆で俺を驚かせてやろうというんだな!それだったら・・・と思い、杖を取り出した。
「・・・『ディテクトマジック』!」
俺はまだ父さん達が嘘を言っていると思い、ネタバレしてくる前に隠れているだろうキュルケを見つけてやろうとして俺は『ディテクトマジック』を周囲半径十メイルに展開した。
「・・・いない。」
しかし、半径十メイルにはここにいる人だけで木や塀の影に隠れている人がいないことだけが分かった。
「だからね、ヴァル・・・」
母さんが何か言いかけたが俺は一度では諦めなかった。
あらかじめ俺の探知できるのが半径十メイルだと分かっているから、それよりも離れた所に隠れている可能性があること考慮した。
俺は探知範囲を広げる為にある魔法を発動させる為にスペルを唱えた。
「まだだ!・・・『トランザム』!『ディテクトマジック』!」
「お、おい・・・」
俺は『トランザム』を使い『ディテクトマジック』の捜索範囲を半径三十メイルに広げて再度行った。
しかし、その範囲にもキュルケを見つけることは出来なかった。
「いない!?・・・もっと遠くにいるのか?」
『トランザム』を使うことすら考慮して隠れているのか、と考えた俺は『フライ』でもっと遠くまで探しに行こうとしたが父さんに腕を捕まれたことでそれを断念した。
父さんは俺の正面に回ると両肩に手を置いて、真面目な顔をして俺に言い聞かせるようにゆっくりとした、それでいてはっきりとした口調で話した。
「・・・ヴァルムロート、いくら探してもキュルケは養子に出ていて今は家にはいないぞ。」
「マj、・・・本当、なんですか?」
「マジで?」とつい口走りそうになるのを呑みこんで、俺は父さんに本当かと聞き返した。
「ああ、本当だ。」
父さんはただ一言そう答えた。
俺は父さんの目を見た。その目が嘘を言っていない、真剣なものだということが分かり、さらに母さん達や姉さん達の方も見ると、皆キュルケが養子に出たのは本当だと頷いていた。
「父さん・・・どうしてキュルケを養子に出したのですか?」
「そうだな。お前にはきちんと話をしないといけないな。中に入ってゆっくり話そう。」
「・・・はい。」
そして俺は長旅で疲れた体と今さっき受けた精神的疲労を引き摺りながら家の中へと入っていった。
父さん達に付いていくと食堂へと辿り着いた。
そこにはすでに各々の席に紅茶とお菓子が用意されていたが、いつもキュルケが座っている席には何も置かれていなかった。
メイドさんが椅子を引いてくれたのでゆっくりと腰を下ろした。
折角目の前の美味しそうな香りを漂わせている紅茶とお菓子があるのだがそれに手を着ける気分ではなかった。
俺は座った時の動きで生じた紅茶のカップの内側の小さな波をただただ見つめていた。
視線を横に向けるがそこには誰も座っておらず、紅茶やお菓子も用意させていない。
そのことが俺にキュルケがこの家にいないということを再認識させた。
「・・・本当にキュルケは家にいないのですね。」
俺はキュルケが以前座っていた席を見ながらそう言った。
何も置かれていない空間がまるで時が止まっているかのようで俺の目には寂しく映っていた。
「ああ、そうだ。」
「・・・」
普段ならばお茶の席なので母さんや姉さん達が賑やかな話し声が響くのだが、俺を気遣ってか皆席に着いたまま紅茶やお菓子に手を伸ばしていないようだ。
そんな重苦しい空気をどうにかしようと思ったのか父さんは故意に少し大きめの声で話を始めた。
「そ、それでキュルケを養子に出したことを理由だったな!紅茶や菓子も美味しいうちに頂きなさい!」
「はい。・・・父さんはどうしてキュルケを養子に出したのですか?」
「キュルケを養子に出したのは、ヴァルムロート・・・“お前の為”だ。」
「お前の為」という言葉を聞いて、一瞬俺の思考が停止した。
キュルケが養子に出たのが俺のせいというのは一体どういうことなのだろうか。
「と、父さん!キュルケを養子に出すことが“僕の為”というのは一体どういうことですか!?」
俺は一瞬の間をおいて、考える間も無くすぐにそう父さんに尋ねた・・・というと少し品があるように思えるが実際には少し声を荒げていたと後に思い返した。
普段の俺だったらもう少し冷静に対応出来ていたのかもしれないが、心身共に減衰していたこともあり、かなり感情的になっていたことは否定できない。
父さんはそんな俺の態度を窘(たしな)めるということはしなかった。
まるで俺がこのような態度に出るということを予め想定していたかのように、ゆっくりと俺に言い聞かせるように応じた。
「ヴァルムロート、お前に許嫁や良い仲の女性が1人もいないことは知っているな?」
「え?・・・いや、ヴァリエール家のカトレアさんやルイズは結構仲は良いと思いますよ?」
父さんがいきなり別の話題を話し始めたことに俺は少し戸惑いながらも素直に返事を返してしまう。
俺の言葉に父さんは軽く首を横に振った。
「そういうことではない。確かにそういう仲は良さもあるが今聞いているのは“将来を考えた上で”という意味の仲の良さだ。お前にはそのような異性はおらんだろう?・・・もしや、カトレア嬢やルイズ嬢にその様な感情を持っているのか!?」
そう言われて、俺は改めてカトレアさんやルイズへの自分の気持ちを考え直してみた。
ルイズは“ゼロの使い魔”のヒロインだし前世での一部熱狂的なファンがいたことは知っているし、実際に可愛いと思うが現在の感情として恋愛感情のようなものはなく、妹のように思っている。そう考えて俺がルイズに向けているのは従妹的な感覚に似ていると思った。
カトレアさんに対する感情はルイズとはまた違うものだが、これも恋愛感情とは言い難い。カトレアさんは癒し系の美人さんだが、現状ではカトレアさんの病気を治すための使命感や責任感のような感情が強いと感じている。
「いえ、カトレアさんやルイズにそういうのはないですが・・・。」
俺の言葉に父さんが少しホッとしたような表情をしたような気がした。
「そうだろう、そうだろう。しかし、普通の貴族ならお前の歳位になるとそういう女性の1人や2人いるのが普通だ。」
なぜか貴族の婚約者に対する一般論を父さんが話始めた。
キュルケが養子に行ったことが俺のせいだという話から少々飛躍しているように感じた。
父さんの話の意図が掴めないので適当に相槌を打った。
「はぁ・・・。しかし、そういう女性と出会う機会とかありましたっけ?」
「普通なら誕生会がそのような出会いの場になるのだがな。」
「そうなんですか?」
誕生会と聞いて、これまでの自分の誕生会を振り返ってみた。
確か年の近い女の子も来ていたはずだが、いつも挨拶だけしてしてすぐにいなくなるのがほとんどだったということを思い出した。
「・・・でも、僕にそういうのは無かったような気がしますが?」
「その理由は分かっているか?」
「はい。・・・キュルケがそういうのを全て防いで来た、だったと思います。」
先程思い出した誕生会の情景は実は正確ではない。
誕生会を開催するようになってからの初めの二、三回目くらいまでは何度か俺をお茶会に誘ってくるような女の子もいたのだが、その誘いの全てをキュルケが横から断っていった。
その為徐々に誘われるのが減っていき、開催から五、六回目にはほぼゼロとなっていたのだ。
「そうだ。お前はこのツェルプストー家の嫡男だ。いずれこの家を継ぐことになり、さらにツェルプストーの血をさらに後世に引き継いでいかなければならない!」
父さんの声の調子が少しずつ上がっていく。
そのことにこの話が何らかの区切りを迎えようとしていることが何となく分かった。
俺はここまでの話の流れからキュルケが養子に行った理由として一つの可能性を考え始めたが、同時にこのようなことは起こりえないのではないかと強く思っていた。
なぜなら、その可能性はあまりも“俺の”常識からはかけ離れた考えだったからだ。
「しかし!お前はこれまでキュルケの行動に何も言わなかった!お前はキュルケに優しすぎるのだ!・・・キュルケがお前の傍にいるといつまでたってもお前には嫁どころか恋人さえできないだろう?これは由々しき問題だ!」
俺が考えた可能性は俺の常識ではほとんどありえないと言ってもいいほどの小さいものだと思っていたが、父さんの話が進むにつれて着実に大きな可能性へと変化していくような感じを受けていた。
「ま、まさか!?」
可能性が無視出来ないほど大きくなった時、俺は思わず声を上げていた。
父さんは俺が何を考えたのか分かったのか大きく頷いた。
そして、父さんの口からキュルケが養子に出た理由が放たれた。
「キュルケをお前から引き離す為にキュルケを養子に出したのだ!」
な、なんだってーー!?
まさか本当に俺に言い寄る女の人をことごとく排除しようとしていたからといって、実の子を養子にだすものなのか。
俺の常識からかけ離れる行為を行うこと、これが貴族社会ということなのか!?ありえない!、と声を上げた。
「どうしてですか!僕はキュルケがいても恋人くらい作って見せますよ!」
「その恋人にした女性をキュルケ以上に愛せるというのか?」
確かに今一番気にかけている異性と言われれば、間違いなくキュルケだが恋人が出来ればそちらに重きを置く・・・はずだ。
「ええ、恐らく。」
「ではその恋人の為にキュルケを突き放すことが出来るのか?」
父さんのその質問に俺は疑問を持った。
俺がキュルケに向けているのは恐らく家族愛であり、恋人や婚約者に向けるそれとは違うものだから別にキュルケを突き放す必要はないと考えていたからだ。
「え?別に恋人がいてもキュルケを突き放さなくてもいいのではないのですか?」
「・・・ではお前はキュルケよりも魅力的な女性を見つけられるのか?」
「・・・」
父さんの質問に俺は黙り込んでしまった。
これから未来のことなので、可能性は多いにあると考えているが、それでも今はキュルケが一番と思っている自分がいる。
原作初期の恋多い乙女の状態ならそんな風に思うこともなかったと思うが、今のキュルケはなぜかただひたすらに俺を慕ってくれているので、それを嬉しいと、可愛いと思わないはずがなかった。
「・・・では、今のお前の心境でもしキュルケに縁談があればお前はそれを素直に受け止められるのか?」
俺は想像した。
顔も分からない男の隣で嬉しそうに笑っているキュルケを。
その瞬間、俺は言いようのない怒りがこみ上げてきたが奥歯を噛み締め、机の下で爪が食い込むほど手を握り締めながら答えた。
「・・・努力する。」
「どう、努力するのだ?」
そう言われて俺自身、どうしたらこの怒りが収まるのか考えた。
「・・・相手をとりあえず一発ぶん殴って、そのあとに模擬戦して、僕より強かったら認める・・・かもしれない。」
もちろん、一発ぶん殴るときは手加減なしの右ストレートを相手の左頬にえぐる様に打ち込み、模擬戦は最初から全力全開の『トランザム』状態で思いっきりやるつもりだ。
「お前・・・それ、認めるつもりないだろう?お前より強いメイジはそういないぞ。」
父さんは呆れたようにそう言った。
俺の今のランクはトライアングルだが『トランザム』を使えば、機動性では時速約百キロメイルとこの世界最速の風竜並、攻撃力も瞬間的にならスクウェアをも凌駕出来るので決闘という一対一の短期決戦では俺に勝てるメイジはかなり限られてくる。
それが分かった上での言葉だったので、俺は何も言い返さなかった。
「・・・まあ、お前がこれまで言ったことを行っても傍にいるキュルケが黙ってはいないだろうし、キュルケへの縁談も本人が拒絶するだろう。それはこれまでの誕生会を見れば分かる。」
誕生会で俺に言い寄って来る女の子をことごとくブロックしていたキュルケだが、勿論キュルケの方にも言い寄って来る男の子は沢山いた。
俺はそれについて何も口出ししなかった・・・いや、口出しする前に全ての男の子は一蹴されていて見向きもしていなかった。
そのことを考えると、確かにキュルケ自身に縁談の話が来ても同じような態度を取ることは予想が付くことだろう。
「確かにそうかもしれない・・・。」
「ヴァルムロート、分かってくれ。お前はこのツェルプストー家の嫡男なのだ。生まれた瞬間からこの家を継ぐことを運命付けられているのだ。」
「それは分かるけど・・・。」
「家を継ぐというのはさっきも言ったが、後世に子孫を残すことだ。それは分かるな?」
子孫を残すということ、それは子供を得るということだ。
そしてその為には家の外から異性を招き、夫婦となる必要がある・・・ということは分かっている。
「・・・はい。」
「確かにキュルケとお前は仲の良い姉弟だ・・・仲が良すぎるくらいに、な。しかしゲルマニアにある法律では、姉弟で婚姻を結ぶことは出来ないのだ。」
「・・・」
「キュルケの養子縁組をお前に黙っていたのはすまないと思っている。しかしこれがお前とキュルケにとって一番良い形なのだ。今は分かってくれとは言わないが、私や母さん達、お前の姉さん達もお前達の幸せの為と思っていることだけは知っていて欲しい。」
視界の横の方では母さんや姉さん達は皆ハンカチで顔を隠していた。
母さん達は俺とキュルケを強引な手段を使って引き離したことに負い目を感じて、涙しているようだった。
俺はそれを見て頷くことしかできなかった。
「今日は旅のことや今のことで疲れているだろうから、もう部屋で休みなさい。」
「・・・はい。最後に聞いていいですか?」
「なんだ?」
「キュルケは養子に出されることに納得はしたのですか?」
これが今一番気になっていることだった。
この話はキュルケの協力無しにはできないものだ。
もし、キュルケが納得していないようであれば、最悪の場合、キュルケをその養子先で監禁している可能性も考えられた。
仮にそうだとしたら、俺は全てを捨ててでもキュルケを助けに行っていたかもしれない。
「・・・ああ、お前の為だと言って分かってもらった。」
しかし、キュルケは分かった上で養子に出ていた。
俺の為なのかもしれないが、キュルケが決めたことならそれを尊重しないといけないと理解した。
「そう、ですか・・・。」
俺は心配した母さんが俺のそばにやって来て、二、三言葉をかけてくれたがショックを受けていた俺には聞こえていなかった。
そんな俺を見かねた母さんはメイドさんに俺を部屋まで連れて行くようにと指示を出していた。
・・・その時、俺は気が付かなかった。母さんの目が赤くなっていなかったことに。
メイドさんに連れられて久々の自分の部屋に戻った俺は、そのままベッドに倒れ込んだ。
「・・・マジか。」
「俺の為にキュルケが養子に?・・・はは、なんだそりゃ!?」
「俺のせいなのか?俺がいつまで経っても恋人とか作らなかったから?」
「でもそれは早く強くなって、原作を迎えたいからで・・・」
「・・・でも恋の1つや2つはする時間位あったかな?」
俺は自分の隣に恋人がいるイメージをしてみる。
すると隣にはキュルケが微笑んでいた。
「・・・ここでキュルケが出てくるとか。ないわー。」
「・・・でもキュルケよりも魅力的な女性がいるのかと言われた時に何も言えなかったな。カトレアさんは確かに超絶な美人さんだけど、俺の中ではキュルケが1番なんだよな・・・。」
「キュルケがいなくなってこんなに心がもやもやするなんて、前世も含めて初めてだ。この前の初めて人を殺した時とは全然違う・・・。」
「はあ・・・まさか俺自身がこんなドラマや小説、漫画などで使い古された展開みたいなことになるとはな・・・。」
「・・・俺、キュルケのこと姉としてではなく、1人の女性として好きなんだな。いや、もう、“だった”になってしまうのか・・・。」
「いなくなってこんな1番大事なことに気が付くんだな・・・。」
「・・・でも、父さんも言ってたけど姉弟は結婚出来ないしな。これは地球でもゲルマニアでも一緒か。」
「はあ・・・。この気持ち、初恋だったんだろうか?いや、たぶん初恋だったんだろうな。」
「もし、そうなら初恋は実らないって本当のことなんだな・・・。」
——ヴァルムロートが出ていった食堂
「・・・あなた、ちょっときつく言い過ぎではないかしら?」
「そうか?あれくらいでちょうどいいと思うのだが。」
「でも、いつも冷静なヴァルがあんなに取り乱している様子は初めて見たわね。」
「“姉弟”で結婚出来ないのは法律で決まっているのだからしょうがないわね。」
「そうね・・・。」
「そうだな。・・・“姉弟”、ではな。」
俺が家に帰ってから、キュルケが養子に出たと聞かされてから数日過ぎた。
その間、俺はというと・・・
魔法の練習の時に・・・
「ヴァルムロート様!的はあちらですよ!?」
「え?・・・あ、本当だ。ちょっとボーっとしてました。すみません。」
「・・・いえ、いいのですよ。次は気を付けて下さいね。」
剣の訓練の時に・・・
「ヴァルムロート様!剣に振られていますよ!もっと集中して下さい!」
「え?あ、すみません。」
「ヴァルムロート様、今日も集中出来ていませんね。これ以上は危ないので今日も周りを走って足腰を鍛えて下さい。」
「・・・分かりました。」
食事の時に・・・
「・・・ふう。」
「あら、ヴァルもういらないの?」
「はい。・・・これはもう下げて下さい。」
「かしこまりました。デザートの方は如何いたしましょう?」
「いえ、もういいです。では、僕は部屋に戻らせてもらいますね。家庭教師から宿題が出ていますので。」
「・・・そうか。分かった。頑張りなさい。」
「では、失礼します。」
「「「「「「・・・」」」」」」
俺は宿題があるからと部屋に戻ってきたが、そんなものはすでに終わらせている。
ただ食欲が無かっただけだ。
「はあ、これじゃあダメだって分かってるけど、どうすればいいんだ?・・・時間が経てば元に戻るのか?」
「はあ・・・。」
——ヴァルムロートがいなくなった食堂
「あなた、ヴァルの様子かなり悪くなってるわね。大丈夫かしら?」
「うむ・・・。ここまで酷くなるとは思わなかったな。」
「でも、明後日でしょ?」
「ああ、そうだ。あちらも竜籠を使い、なるべく急いでこちらにやってきているらしい。」
「どうなるかしらね・・・ヴァルの“お見合い”。」
「ああ、ヴァルムロートには明日の朝に伝えておこう。」
次の日の朝食のお祈りを済ませた直後、父さんが俺に声をかけてきた。
「ヴァルムロート、お前に話がある心して聞きなさい。」
「・・・何ですか?」
「明日、お前にはとある貴族の娘に合ってもらう!・・・拒否は許さんぞ。」
それを聞いた俺は、とうとう来たかと心の中で思った。
キュルケの養子の話を聞いてから随分急な感じを覚えるが、その為にキュルケを養子にやったのだから当然といえば当然か。
「・・・どこの貴族ですか?」
「ああ、ゲルマニアの北の方に領地を構えている。」
「そうですか。かなり遠くから来るのですね。」
「ああ。その貴族は私が軍で働いていた時の部下でな、これがなかなか出来る男だったのだ!家の領地とは距離があっていままでお前の誕生会には呼べなかったのだが、今回こちらに用事があり、家の近くに来るらしい。そしてそいつにもお前と同じ年の娘がいるらしくてな、折角だからお互いを合わせてみようという話になったのだ!どうだ?興味湧くだろう?」
「・・・そうですね。あまりにタイミングがいいので何か勘ぐってしまいますよ。」
俺の皮肉が少しこもった言葉を父さんは苦笑いしながら受け止めていた。
「そういうな。相手の娘は歳の割になかなかの色気を持っているらしいぞ!喜べ、ボンキュボンだぞ!気に入ったら、そのまま縁談の話を進めてもいいぞ!」
俺は別にスタイルがいいからキュルケを快く思っていたわけではないのだが・・・まあ、スタイル悪いよりいい方がいいけど。
「いえ、会うには会いますけど・・・縁談まではさすがに進まないでしょう。」
「そうか?まあ、その時に考えればいい。」
「分かりました。では、そろそろ魔法の練習の時間ですので、これで失礼します。」
「うむ、ボーっとして怪我をしないよいうにな。」
「はい。」
俺は魔法の練習に行くために食堂を出ていった。
——俺のいなくなった食堂にて
「あなた、ヴァルにちょっと怪しいと思われたのではなくて?」
「そ、そうだな。しかし普通の縁談の話だと思っただろう。」
「そうね。明日ヴァルがどんな反応をするか楽しみね!」
今日の魔法の練習と剣の訓練はこれまでの数日とは違った意味で集中出来なかった。
俺は今日も夕飯をそうそうに切り上げて、部屋に戻った。
「俺がキュルケの養子のことを知ってまだ1週間も経っていないのに、もう縁談の話か。」
「父さんは合うだけ、とか言ってたけど十中八九縁談を持ちかけられるんだろうな。」
「相手の人には悪いけど、俺の心の整理がまだついてないし、今回は断念してもらおう。」
そして例の貴族が来る日は朝から騒がしかった。
聞いたところ、今日来る例の貴族の位は伯爵だという。伯爵って結構位の高いのが来たな。
そして朝食が終わって、今日は魔法の練習や剣の訓練が休みになったので、部屋で魔法に関する本を読みながら例の貴族とその娘が来るのを待っていた。
すると、メイドさんが来てそろそろ伯爵が到着すると連絡があったと言っていた。
部屋から出て、廊下の窓から見ると、まだ遠いが竜籠が見える。
伯爵は竜籠で移動して来たようだ。
まあ、家からかなり離れた場所にあるらしいので馬車で移動したらどんだけ時間かかるんだよ!ってことだな。
俺もお出迎えをするだろうと思い、玄関に行こうとするとメイドさんに俺は先に応接室で待っていて欲しいと父さんが言っていたと言った。
普通は俺もお出迎えするんじゃないのか?と思ったが、父さんが言ったことなので素直に従って俺は応接室に向かった。
応接室で待っていると、竜籠が降りてきたらしく玄関の方が騒がしくなった。
しばらくすると父さんが応接室に入ってきた。
父さんの後から父さんと同年代と思われる男の人が入ってきた。この人が例の伯爵だろう。
茶色の先がくるっとカールしている髪と色白の肌、怖そうな顔立ちだが目は優しそうな感じの人だった。
俺は失礼が無いように椅子から立ち上がって、挨拶をした。
「はじめまして。私ツェルプストー家の嫡男、ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。以後お見知りおきを。」
「おお!君が例の!おおっと、私はアウグスト・フェアエンデルング・フォン・グナイゼナウという者だよ。ゲルマニアの北の寒い所でほそぼそと領地経営をしているよ。よろしく、ヴァルムロート君。」
「グナイゼナウ様は伯爵であらせられ、軍では現役で元帥をされているとお聞きしています。」
「いや~、伯爵になれたのはきみの御父上であるツェルプストー辺境伯のおかげだよ。そうですよね、大元帥。」
「“元”だ。いまは退役しているからな。それに元帥になり、位も伯爵にあげたのはお前の実力だろう。まあ、運もあったかもしれんがな。」
「「あはは!」」
伯爵って聞いてたからどんな堅物が来るのかと思ったら、意外と愉快な人のようだ。
話していると、少し遅れてドレスを着た女性が入ってきた。
すると外にいたメイドさんが扉を閉めたので、この女性が今日の縁談の相手ということだろう。
帽子で顔が隠されていて見えないが、確かにスタイルはいいようでかなり胸が大きいようだ。
髪は腰くらいまでの長さで色は赤、ドレスは胸の部分が大胆に開いていてそこから見える肌は褐色だった。
えらい伯爵と違うが、母親似なのだろうか?
そんなことを考えているとその女の子が俺の前までやってきた。
さっき伯爵に挨拶をしたが、この女の子にはまだなので改めて自己紹介をすることにした。
「初めまして。私はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。」
「・・・」
「あはは、すまないね。娘は人見知りなのだよ。よければ友達になってもらえないかな?」
伯爵は友達と言ったが昨日の父さんの言葉もあり、十中八九、縁談相手だろうと俺は少し穿った捉え方をしていた。
「・・・ええ、それは構いませんが・・・。」
「それは良かった!なんだったら、そのまま嫁にもらってくれてもいいんだよ?」
そう思っていたらいきなり直球で来たので俺は目を丸くした。
「いえ、その話は・・・」
「・・・お父様。私、この人と結婚するわ!」
初めて目の前にいる女の子が声を発した。
どことなくキュルケに似た声を持っている女の子だったが、俺はそれよりも言葉の内容に驚いていた。
「・・・は!?結婚!?」
いきなり何を言い出すんだ!?と目の前の女の子を見つめたが、帽子で顔が隠れていて、どんな表情をしているのかうかがい知ることは出来なかった。
女の子の言葉に父さんや伯爵は嬉しそうな顔をしていた。
「そうか。それではきちんと挨拶をしないといけないな。」
「はい!」
「いやいやいやいや!ちょっとちょっと!まだ顔すら見て無いのに何言ってんだ!?」と心の中で叫んだ。
とんとん拍子に進む話に当事者である俺が置いて行かれている感じを激しく覚えた。
「そんな!あまりにも急・・・」
「急?・・・いいえ!以前からそうしたいと強く思っていたわ!」
「以前から」という言葉がどういう意味か分からなかった。
なぜなら目の前にいる女の子は今日が初対面だったからだ。誕生会にやってくる女の子にはこんな褐色の肌の赤い髪を持つ女の子はいなかったはずだ。
「え!?どういうk・・・」
その女性が初めて帽子をとり、その顔を見て俺は言葉を失った。
「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・グナイゼナウよ!もうダーリンたら私のことが分からなかったの?」
俺は何が何だか分からなかった。
キュルケはどこかの貴族に養子に出たはず・・・。
「・・・キュルケ?本当にキュルケ?」
「ええ、私の他にキュルケという女がいるなら連れてきて欲しいわ!」
「確かにキュルケだ・・・。でも、キュルケは養子に出たはずじゃ・・・あ!」
そういえばキュルケの養子先はまだ聞いていなかったな、と思った。
「そうよ。だから名前が“ツェルプストー”から“グナイゼナウ”に代わっているでしょう。」
「ああ、そうだね。」
「ええ!そうよ!・・・ところで、ダーリンさっきの話だけどもちろん受けてくれるわよね!」
「え、さっきの・・・ああ!結婚のことか!ちょっと待って!」
「もう!何!?」
俺はキュルケから父さんの方に向き直った。父さんはニコニコというか、にやにやしている。
それの表情を見た俺は瞬時に父さんがなにか企んだことなのだなと分かった。
「父さん!これはどういうことですか?どうして養子に出たはずのキュルケがここにいて、そして結婚という話になっているんですか!?」
「ん?どうした?ヴァルムロート?何かおかしなことがあるのか?」
「おかしなことだらけでしょうが!ちゃんと説明して下さい!」
「まあ、混乱するのも無理はないか。ではこちらに座って話をしようじゃないか。」
「ええ!」
俺達のやり取りを見て伯爵は笑っているし、キュルケはしかたないわねみたいな感じだった。
「じゃあ、説明して下さい!」
「ああ、“姉弟”で結婚出来ないのはこの間話したな。だったら、“姉弟”でなければ結婚出来るということだ。」
「はい!?そんな簡単なものでいいのですか!?」
「まあ、”双子”という条件があるのだがな。」
「”双子”ですか?」
「そうだ。法律にな、『双子の兄妹もしくは姉弟で、満14歳になった時点でお互いに恋愛感情以上のものが見られる場合、どちらかを養子に出すことでその者達に婚姻する許可を与える。』とあるのだ。」
「はあ、そんな法律があったのですか・・・。」
日本だったら養子に出ていても、元々血の繋がった姉弟だったら結婚とかは出来なかったと思うがこの辺は地球とハルケギニアの違いというものだということかと自分に言い聞かせた。
「あったのだ。まあ、普通異なる性別の双子が生まれることは稀で、しかも14まで互いを好き合うことはめったにないからこの法律が使われたのは2・3度だけらしい。しかしキュルケやお前の態度を見ているとこれに該当するかと思ったのだ。それでこのことをキュルケに話して、今回のことになったのだ。」
因みに俺とキュルケは性別が異なる二卵性の双子なのだが、もし俺が一卵性もしくは二卵性の同性の双子として生まれていたらどちらかが生まれた直後に殺されて存在が無かったことにされたか、すぐに養子とか出家させられてタバサみたいな状態になっていたかもしれないということを聞いた。危ないところだった。
「ええ、私はダーリン以外と結婚するなんて考えられないから、この話に乗ったのよ!」
「それで養子先を探すことにして、軍にいた時にもっとも信頼出来たグナイゼナウ伯爵に頼み、快く了解してくれたのでキュルケを養子に出したのだ。」
「ええ、とても面白そうなことでしたからね。」
「・・・父さん、僕の気持ちは聞かれてないけど?」
「お前は誕生日の翌日にキュルケへの愛を思いっきり叫んでいたじゃないか?それで十分だろう。」
そう言われて俺はヴァリエール家に行く前のことを思い返した。
あれは丁度、感情が魔法に与える影響を調べようとしていた時のことだった。
「・・・あれを聞いていたのですか。」
「ああ、あれを聞いて今回のことをキュルケに話すことを決心したといってもいいぞ!」
普段からキュルケが俺に一方的にそういうことを言っていたので俺がそう言っても問題ないと思っていたが、そのことで俺とキュルケ両方に好意ありと見なされたわけだ。
確かに今はキュルケをそれこそ初恋だったのではないかと意識しているが、あのときはそんな感情を認識していなかったので少し複雑な気持ちだ。
「そう、なんですか。」
「それでヴァルムロートよ。キュルケの申し出を受けるのだろ?早くしなさい。」
「ねぇねぇ!ダーリン早く!」
そんなの答えは決まっている・・・が、実際に口に出すと思うとかなり勇気がいるな。
しかし、もうキュルケが養子に出たと知ったときのような気持ちは味わいたくないと思い、ありったけの勇気を振り絞った。
「・・・私ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・グナイゼナウからの申し出を快くお受けします。結婚しよう!キュルケ!」
「ダ、ダーリン!!!」
キュルケが俺に飛びついて来た。
俺は座ったままだったので顔にキュルケの胸が押し付けられて、苦しいが幸せな気持ちでいっぱいだった。
それから昼食の時間になったので、食堂までキュルケと腕を組んで行った。
食堂には豪華な料理と大きなケーキがあり、ドレス姿で皆集まっている。
父さんは皆の前に出て、
「今日はささやかながら私ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーとキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・グナイゼナウの婚約式を行う。おめでとうヴァルムロート!キュルケ!」
「「「「「「おめでとう!」」」」」」
母さん達や姉さん達が祝福してくれている。
「ありがとう!」
「ありがとう!・・・ん?“婚約”?結婚とか婚姻じゃなくて?」
「ああ。実際の結婚式はお前達の歳の問題もあるので魔法学院を卒業した後くらいに壮大に行うつもりだ。それでは不満か?」
「そうなんですか?いえ、ちょっと気になっただけですから。」
「そうか!それなら問題無いな!」
「・・・そういえば、どうして今回のことを僕には一言もなかったのですか?キュルケが養子に行ったのは僕が家にいなかった時ですし・・・。」
「そのことか。それはな・・・」
「それは?」
「お前の驚く顔が見たかったからだ!いつもお前に驚かさせれてばかりだからな!たまには驚かしてやりたいと思ったのだ。どうだ驚いただろう?」
「そりゃあ驚きますよ!キュルケにもう会えないかと思って本気で凹んでいたし・・・。」
「もう!ダーリンたら、そんなに私のことが好きだったのね!もっと早く言ってくれても良かったのに!」
「あはは!まあ、終わりよければすべてよし、ということでいいじゃないか!」
「・・・いいのかな?」
「いいのよ!ダーリン!」
こうして俺はキュルケと婚約した。
キュルケはこのまま花嫁修業という項目で家に留まり、年に1・2回位養子先に行くらしい。もちろん俺も一緒に。
「そういえば、どうして法律に男女の双子はどちらかを養子に出したら結婚出来るって法律を作ったのすかね?」
「それ、私も気になってちょっと調べたのよ。そしたら・・・」
「そしたら?」
「どうやら、男女の双子って前世決して結ばれなかった恋人同士でね!生まれ変わってもう離れないようにっていうことで双子として生まれてくるという話から来ているみたいなの!ロマンチックね!」
(まあ、実際は時の権力者のせいだと思うんだけど、なんか日本でも同じような話を聞いたことがあるような?どこにでもある話なのかな?)
「へえ、そんな話があったのか。」
「ええ!・・・ということは、私とダーリンも前世では結ばれなかった恋人だったのね!」
そう言って満面の笑みを浮かべるキュルケを見て、俺は申し訳ない気持ちになった。
なぜなら、俺は前世の記憶を持って転生していて、その前世では彼女が出来たことは一度もなかったからであった。
改めて、前世での二十数年の人生の中で一度も彼女が出来ていなかったことに僅かばかりの空しさを感じた。
「・・・そうだったら、いいな・・・。」
「今度は幸せになりましょう!」
「ああ、僕がキュルケを幸せにするよ!」
前世とか関係ない!俺がキュルケを幸せにする!
そう心に刻んだ。
<次回予告>
キュルケも家に帰ってきて、元の鞘に収まった・・・どころか、突き抜けた感はあるものの、これでいいかなとヴァルムロートは思った。
しかし、新たな問題が発生する!
それは魔法学園に進学すること。
しかし、問題は普通に過ごしていたらゲルマニアの魔法学園に行くことになるが・・・どうするヴァルムロート!
第42話『原作開始まで後三年半だけど・・・』
遅れていたので二話連続投稿してます。