42話 原作開始まで後三年半だけど・・・
「ヴァルムロート、キュルケよ、お前達はもう十五だ。・・・もう来年の春からは魔法学院に行くことになるな。」
「え!?」
朝、皆で朝食と食べていると父さんがいきなりそう口走った。
そう、俺は十五歳になったばかりだ。
因みに俺の誕生日はラドの月の5日だ。ラドの月は日本でいうところの9月に当たる。
ちなみにカトレアさんの誕生日はティールの月の12日で、ティールの月は3月に該当する。
十五歳の誕生会を名前の変わったキュルケと一緒に行った。
今回はキュルケの養子先のグナイゼナウ伯爵も来ていて、そこで大々的に俺とキュルケの婚約を発表した。
誕生会に来ていた貴族達は皆突然のことで動揺していたが、法律のことや父さんが根回しして用意していたゲルマニア皇帝の婚約許可書を出すとしぶしぶ納得していたようだった。
婚約許可書なんて普通はおそらく要らないと思うが、他の貴族を黙らせるにはこれが一番だって父さんが笑っていた。
いくら父さんが辺境伯の位——王家の血が入っていない貴族の位では最高位——を持つ貴族でも皇帝の許可書なんてどうやったら貰えるのかを聞いたけど、「まあ、ちょっとな・・・。どんな苦労も娘の幸せの前では無に等しいからな!」と、詳しくは教えてくれなかった。
あとで母さん達にちょっと聞いたら、父さんと皇帝、そしてキュルケの養子先のグナイゼナウ伯爵はゲルマニア軍時代の戦友だったらしい。
父さんと皇帝がね・・・それでもどうなんだろうね?
「そうね!本当ならもっと早くても良かったと思うのだけど、さっさと卒業して早く結婚しましょ!」
「え!?」
キュルケも父さんの言葉に乗り気のようだ。
昔から俺のことを「ダーリン」と呼んでいたのが本当の意味での「ダーリン」になるのだがら気がはやるのだろう。
しかし、そんなキュルケの横に座っている俺は対照的に複雑な顔をしていたことだろう。
喜んでいるキュルケの隣で俺は約九か月前のある夜のことを思い出していた。
俺とキュルケが婚約した日の夜、俺が寝ているとキュルケが俺の部屋に忍び込んできたのだ!
それもかなりきわどい下着姿で!
キュルケの目的は十中八九夜這いだったのだろう・・・正直嬉しかった!
・・・が、もしここでやってしまって妊娠したら、キュルケは出産と子育てをしないといけないし、俺も子育てを一緒にやりたいからゲルマニアから出ることはほとんどなくなって、トリステインの魔法学院に留学なんて絶対にしないだろう。
しかし、それでは原作組の戦力がほぼルイズとサイトとギーシュだけになってしまう可能性が高い。
ギーシュはサイトとの決闘イベントによって友達みたいなものになるだろうが、タバサはどうだろうか?
タバサはおそらくトリステインに留学するだろう。
しかし、キュルケがいない状態であの我関せず的な態度を取るタバサがルイズやサイトを自発的に手伝うだろうか?
タバサはキュルケが引っ張っていたからルイズ達に協力していたのであって、キュルケがいなかったら我関せず的な態度を崩さなかっただろう。
フーケのイベントはサイトがいればロケットランチャー改め破壊の杖でフーケのゴーレムは倒せるだろう。
しかし、アルビオン関連のイベントでは圧倒的に戦力不足だ。
武器がデルフだけのサイトとドットメイジのギーシュ、あの時点では虚無の使えないルイズ、そして敵であるワルド。
下手をしたらサイトはアルビオンに着かないまま最悪死んでしまうかもしれないし、そしたらルイズは操られて、トリステインはそのうちレコンキスタに侵略されるだろう。
俺のゼロの使い魔の知識はアニメとネットでちょっと調べた程度だが、しかも15年経っているので大まかな事しか覚えてないけど、このハルケギニアで一番の問題が地面の下?にある風石でそれが大量に溜まってきていて近い将来にハルケギニアの大地が浮かび上がってしまうらしい、ということだ。
おそらく原作ではきっと無事に解決するんだろうけど、もし解決出来なくて大地が浮かび上がってしまったらどうなるのか?
アルビオンみたいに安定したものならいいけど、そんな楽観視はできないだろうし、しちゃいけないと思う。
映画かドラマだったか忘れたけど「常に最悪の事態を想定しておくことは大切なことだ!」みたいな言葉を聞いた時、なるほど最悪の状態を想定しておけばちょっと悪いことが起こっても冷静に対応出来るしな、とか思ったものだ。
だから大地が浮かび上がるなんて、そんな事態にはしてはいけないのだ!
主に俺とキュルケがずっと幸せに暮らしていくためには!
だからここでキュルケを受け入れるわけにはいかなかった。
そんなことをものの数秒で考え、誘惑に負けそうになる自分を押さえながら、キュルケを必死に説得、しかも今考えたことはおそらく未来のことなので言えないし大地が浮かび上がるなんて信じないだろうから難しかったが、
「しょうがないわね。・・・今日の所はキスだけで我慢してあげるわ!」
ということで前世も含めてのファーストキスをキュルケと交わした。
キスしている時、キュルケの唇やわらけ~とか思いながらものすごく興奮していた。
なんせ初めてのキスに今の体は十五歳でやりたい盛り?——普段は魔法に剣にであんまり考える時間が無いからそうは思わないけどってなんか部活に打ち込んでいる中学生みたいだな——なので、少しでも冷静になるように素数を数えたりした。
キスを終えると、キュルケは真っ赤な顔だったが満足したように自分の部屋に戻っていった。
次の日の朝、俺は皆に「最後の一線はきちんと結婚してから!」と宣言をした。
これは今後のキュルケが行うであろう夜這いを牽制するものだ。
・・・ぶっちゃけ、次にキュルケが夜這いを仕掛けてきたら理性を保てる可能性が低いからだ!
キュルケ以外は初めからそう考えていたようで意外とすんなり分かってもらえた。
キュルケは俺の宣言に不満そうにしていたが、「キュルケと“一緒”に学院を過ごしたいんだ!もし、妊娠や子育てをしていたらそれが不可能になると思うんだ・・・僕の自分勝手な理由でごめんね。」といったら、しぶしぶ了承してくれた。
こんなことがあったので、キュルケとしてはさっさと学院を卒業して結婚したいのだろうが、ここでいう魔法学院はおそらく・・・
「父さん、その魔法学院はゲルマニアのですか?」
「もちろんそうだ。」
やはり、とうか普通はそうだろう。
ゲルマニアの貴族はゲルマニアの魔法学院に行く、これが普通だ。
魔法学院に行く理由は学問や魔法、作法の勉強のためというよりは他の貴族とコネを作るためというものが大きい。勉強なんて、家庭教師とかでどうとでもなるしな。
そう考えると原作のキュルケはなんでトリステインの魔法学院にいたのかね?
ルイズは「キュルケがゲルマニアの男を漁り過ぎて、それが問題になったからトリステインの魔法学院に来た」とか言ってたような?
それに今ルイズは十三歳だったはずだ。
原作でのルイズの年齢は確か・・・十六歳だったはず。
仮に十五歳から魔法学院に行くとしてあと二年ある。
なんとかして二年の時間を稼がないといけないと考えた俺はこれ以上話が進む前に父さんに話しかけた。
「父さん!」
「どうした!?ヴァルムロート?」
俺がこの言葉を言ったらキュルケが悲しむかもしれないことは容易に想像出来た。
しかし、来年ではなくもっと未来のキュルケの為を思い、俺は心の中でキュルケに謝りながら少し強い口調で言葉を発した。
「僕はまだ魔法学院にいくことはできません!」
家族皆が驚いた顔をして俺を見つめる。
特にキュルケはどうして!と顔にありありと出ていた。
「どうしてだ?皆お前くらいの歳で魔法学院にいくものだぞ?むしろお前の成長を見ればもっと早くても良かったかもしれんと思ったのだか。何か理由があるのか?」
「そ、そう!ダーリン、どうしてなの!?」
「それは魔法学院の位置に大きな問題があるのです。」
家族皆首をかしげてた、アニメや漫画だったら頭の上に?マークが出ていただろう。
「ん?学院の位置がどうして問題になるのだ?」
「はい。前にゲルマニアの魔法学院ことを聞いた時に帝都の比較的近くにあると聞きました。」
「それがどうした?別に家から通うのではないぞ?」
「ヴァル、魔法学院は全寮制だから家との距離は関係ないわよ?」
「そうそう。私達も学院にある寮で過ごしていたのよ。」
「部屋はちょっと狭いけどね。」
「ヴァルも住んでみれば友達と一緒にわいわい出来るし、面白いわよ?」
「ダーリン、お姉様達もこう言っているのに、なにが問題なの?」
「いいや、寮に住むことは別にいいんだ。問題なのは家との距離ではなくて、ヴァリエール家との距離の方なんだよ。」
「ヴァルムロート、どうしてヴァリエール家が関k・・・いや・・・」
父さんは何かを言いかけたが、すぐに俺が言いたいことが分かったようだ。
俺は話を続けた。
「はい。ヴァリエール家と距離が離れてしまうとカトレアさんの病気が急変した時にすぐに駆けつけられないと思うのです。」
いまでもヴァリエール家までは馬車で約四日だ。使ったことは無いが、竜籠を使っても丸一日かかる距離らしい。
しかしゲルマニアの魔法学院は効いた話だと、ここから馬車で二十日近くかかり、竜籠でも三、四日かかってしまうらしい。
「確かに学院にいてはヴァリエール家までは時間がかかり過ぎるな。」
「でも!ヴァリエール家にはカトレア様の主治医であるミス・ネートや他にも沢山のメイジがいるじゃない!ちょっとくらいダーリンが遅れても大丈夫じゃないの?」
「確かにそうかもしれない・・・今までもそうだったしね。でも次に何かあったらそうじゃないかもしれない。」
「・・・そうだけど。」
「それにこれは大丈夫、大丈夫じゃないという問題ではないんだ。これはカトレアさんを治療するという約束に対する責任みたいなものなんだ。」
「・・・今すぐにカトレア様の治療を行うって、ダメ?」
「確かにほとんどの準備は終わっているな。」
普段から捌く必要のある鳥や豚などが厨房に来たら捌かせてもらっているし、この前のカトレアさんの誕生会の時に二人の被験者にて練習して、手術の技術が衰えていないのは確認していた。
後はこの被験者をまた半年くらい経過観察して本当に大丈夫かを調べているところだ。
キュルケは俺が準備はほとんど終わっているという言葉を聞いて急かすように声は上げた。
「なら!」
「でも、ダメ。今は何をしているかはまだ教えられないけど経過観察中なんだ。でもこれがうまくいったら次のカトレアさんの誕生会に行った時に治療が出来るかもしれないんだ。」
こっちへ帰る前に手術の練習を行った被験者は九か月経った今ではほとんど元通りの状態になっているという報告を受けているが、最初のころに少し体調を崩すことがあったらしい。
その為、今回の手術の練習を行った被験者では特に前の被験者で体調を崩した初期の頃の状態をよく観察するようにとお願いしている。
カトレアさんの手術を行う為には念には念を入れておいた方がいいと考えている。用心しすぎるということはないだろう。
キュルケはカトレアさんの治療が最終段階に入っていることを知り、驚いた顔をした。
父さん達も喜ばしいといった表情をした。
「え、そうなの!?すごいじゃない!ダーリン!」
「そうか、後少しなのだな!よくやったな!ヴァルムロート!」
俺の報告を聞いて、皆が褒めてくれていることに俺は顔の温度が上がっていくのを感じていた。
「それじゃあ、再来年には魔法学院に通えるのね?」
俺の話を聞いて、来年魔法学園に通うのを諦めてくれたキュルケはその次の年のことを話した。
しかし、再来年でも俺が十六歳だ。
ルイズと歳の差が二つあることを考えると、魔法学園に通い始めるのは十七歳でなければいけない。
つまり、再来年ではまだ早いこともあり、心苦しいが俺はキュルケの言葉を否定しなければいけなかった。
「いや、確かにカトレアさんの治療が終わるのは来年の春頃だけど、その後の経過観察を一年・・・いや、体の弱いカトレアさんについてのことだから一年半は見なくてはいけないと思う。治療した後は体の調子が悪くなるから体の弱いカトレアさんは特に慎重にならないといけないと思うんだ。」
「そう、なの・・・。」
「ごめんね、キュルケ。」
「ううん。そういう風に物事に真剣に取り組めるダーリンだから好きになったの!謝らないで、早くカトレア様を治してあげてね!」
「キュルケ・・・」
俺とキュルケは見つめ合って、周りのことが目に入らなくなり、心なしか周りがきらきらと輝いているようだ。
これがいわゆる“二人だけの空間”というものなのだろう。
ああ、まるで時さえも見えるようだ。
そんな俺達に父さんが苦笑いをしながら咳払いをして、俺達の注意を引いた。
「・・・うおっほん!そろそろいいかな、おふたりさん?」
「あ、父さんごめん。で、こういった理由なんだけど、ダメかな?」
「まあ、そういうちゃんとした理由があるならしょうがないな。自分の言ったことに責任を持つことは大切だからな、何に対しても。」
「それじゃあ・・・」
「ああ、魔法学院へは三年後の春、お前達が十七歳の時だな。まあ、入学するのに年齢制限があるわけではないから問題はないな。これで問題無いな?」
「・・・魔法学院はどうしてもゲルマニアじゃないといけないですか?」
「ん?ゲルマニアじゃないとすると、国外・・・ガリアか?あそこはハルケギニアで一番魔法の研究が進んでいるようだからな。学院でもなにか変ったことを教えてくれるかもしれんな。」
「・・・いや、トリステインとか、は?だめかな?」
「トリステインか・・・ヴァリエールには悪いがあの国は始祖ブリミルの子孫が起こした国だが、ここ十数年景気が傾いていて、国力がどんどん落ちていっているぞ?それなのに大した対策もせず、大半の貴族は自分達の生活を維持するために平民にかける税を増やしていると聞く。まあ、ヴァリエールはそのようなことは行っていないが。言えるのはあの国の貴族のほとんどはプライドだけがやたらめったに高い連中ということだな!それにいつまでたっても王位が空席ということが何よりも問題だな!まったく、何を考えているのやら。」
家庭教師との勉強で少しだけ最近のハルケギニア情勢について学んである程度のことは知っていたが、父さんがここまでぼろくそに言っているのだからかなり状況は良くないのだろう。
「・・・でも、父さんはトリステインの魔法学院に行ったのですよね?」
俺がそう尋ねると父さんは一瞬少し複雑そうな顔をして、苦笑いを浮かべた。
「・・・ああ、そうだったな。そこで初めてヴァリエールと顔を合わせたのだったな。ふふ、よく決闘紛いなことをやったなものだな・・・。」
「・・・まあ、トリステインのように状態が悪い国でも学べることはあると思いますよ?例えば、外からでは分かりにくい国の腐敗している部分を知ることが出来たり、自国をあえて外から見ることでまだ伸ばせるいい所や改善すべき部分が見えてくるかもしれませんよ?」
「ふむ。一理あるか。まあ、まだ時間はあるのだ、それまでにじっくり考えよう。」
「そうですね。・・・それで外国に行くことになったらキュルケには」
「私ももちろん一緒に行くわよ!」
予想通りの反応を見て、俺は少し嬉しくなる。
「ああ、もちろんだよ!むしろ付いて来てもらわないと困るよ。」
「もう、そんなに私と一緒に居たいなんて!どこまでも付いて行くわよ!」
危険な目に合わせたくないというのが本音だが、戦力的な問題があるので一緒に来てもらわないといけないのが現状だ。
一人でハルケギニアを救えるなんて、そんな傲慢な考えは出来なかった。
もし、ドラゴンボールの原作終了時の悟空くらい強さがあったら、そんな考えも持ったかもしれないけど・・・。
「父さん、もし外国の魔法学院に行くことになったら・・・」
「ああ、グナイゼナウには私から話をしよう。まあ、行くことになった時の話だがな。」
「そうですね。その時はお願いします。」
こうして今回父さんがいきなり言いだした魔法学院行きはなんとか回避した。
俺が言ったことは正当な理由のはずなのだが、カトレアさんをだしに使ったみたいで申し訳ない気持ちになる。
しかし、こうしてなんとか魔法学院に通う時期を原作に会わせることが出来た。
・・・まだ時間しか合わせられてないけど、どうにかしてトリステインの魔法学院に行くようにしないとな!
<次回予告>
スクウェア。
それはメイジの最高ランク。
同じ時期千人のメイジの中から数人しかなれない剛の者。
力は・・・人を守る盾か、それとも禍を呼ぶ剣か。
43話 『高みを目指して』
6/9頃の更新を目指して頑張ります。