43話 高みを目指して
本文 =
いつもの午前の魔法の練習の時間にいつものように練習場でいつもなら俺とキュルケはレイルド先生に魔法の手ほどきを受けているのだが、今日は違っていた。
俺一人が練習場の中央に立ち、キュルケとレイルド先生は少し離れた後ろの方から俺の様子を窺っている。
なぜ俺が一人でいるのかというのには理由がある。ただ突っ立ているわけではないのだ。
俺は今ある魔法の詠唱を行っている。
それはいままでの俺では出来なかったものだが「今の俺になら出来るはずだ!」と心の中で念じながら詠唱を続けた。
「頑張って!ダーリン!」
「ヴァルムロート様を信じましょう。・・・しかしヴァルムロート様なら大丈夫のような気がしますね。」
キュルケとレイルド先生が見守るなか、俺の唱える詠唱は佳境を迎えた。
詠唱が終わるのと同時に右手に持った杖を正面へと突き出した。
「『ヴォルケイノー』!」
最初に俺の目の前にバレーボール位の火の塊が現れた。
ここまでなら『ファイアーボール』となんら変わらないが、すぐに火の塊はその大きさを増していった。
最終的に火の塊は俺の身長よりも大きくなり、数メイル離れているのに軽く皮膚に痛さを感じるほどの熱を発している。
「やったわ!ダーリン!」
「いえ、ここからの操作が一番難しいと聞きます!ここで操作を誤ると大惨事を引き起こすのでまだ気を緩めないで下さい!」
キュルケは歓喜の声を、レイルド先生は助言をそれぞれ俺にかけてくれる。
俺は周りに被害が出ないように確認して、地面と水平にその火の塊の力を解放した。
するとものすごい爆発のエネルギーが放出され、地面の表面をえぐりながら火の柱が伸びていった。
見た目は超極太の火炎放射といったところだろうか。
「おおっ!ZZのハイメガキャノンか、Wのバスターライフルみたいだな!」
俺はつい思っていることを口にしてしまった。
幸い、キュルケやレイルド先生とは少し距離があったことや、『ヴォルケイノー』の発している音なんかで聞こえなかったようだ。
熱線は30メイル位のところまで地面をえぐり、その線上にあった生えていた草や的として立ててあった丸太をすべて燃やし尽くし、灰にしていた。
「良し!次は・・・。」
また同じように『ヴォルケイノー』を発動させ、今度は火の塊自体を50メイル程移動させた。
キュルケやレイルド先生は先生が作ったであろう土の壁から顔を覗かせている。
俺もすぐ近くにレイルド先生が『錬金』で作ってくれたコの字型の土の壁に身を隠した。
そして巨大な火の塊をなんの変化も加えず、ただ爆発させた。
ドオオォオンッ・・・と、大気を震わす大きな音の振動を肌で感じた次の瞬間、すさまじい爆風と爆発によってまき散らされた土の塊や石が土の壁に直撃した。
土の壁の内側で体育座りのように小さくなって爆風をやり過ごした後、土の壁から顔を覗かせて爆発させたところを見ると大きなクレーターが出来ていた。
地面にまだ赤くなっている部分もあり、それが爆発のエネルギーの大きさを物語っていた。
別の土の壁に身を隠していたキュルケとレイルド先生がこちらにやって来た。
「キュルケ!レイルド先生!成功しm、ぐえ!」
俺の言葉が終わらないうちにキュルケが『フライ』で飛んで来て、俺に抱きついてきた。
「すごいわ!本当にスクウェアスペルを成功させるなんて!これでダーリンは正真正銘のスクウェアメイジになったのね!」
「ありがとう!これもキュルケが応援してくれたおかげだよ!」
「もう、ダーリン自身の力があってこそよ!」
少し遅れてレイルド先生が近くにやってきた。
「ヴァルムロート様、おめでとうございます!ヴァルムロート様がいきなり“もしかしたら、スクウェアクラスになったかもしれない”と言われた時にはいくらヴァルムロート様に素質があるとはいえ、こんなに早いものなのか?と疑ってしまいましたが・・・」
レイルド先生が地面のえぐられたところやクレーターを見た。
「実際にスクウェアスペルを使用出来ているところを見ると、ヴァルムロート様はみごとにスクウェアクラスになられたということですね!これまでの練習の成果が出ましたね!」
「はい!ありがとうございます!」
俺はこれまでの感謝をこめてレイルド先生に向かい、腰を直角に曲げるようにお辞儀をした。
顔を上げた時の俺はこれまで見せた中でも一番嬉しそうな表情をしていたと後でキュルケが言っていたが、実際心の中ではこの時声には出していなかったが「よっしゃあああああああああああ!!!」と喜びの叫びを上げていた。
「おめでとう!ダーリン!」
そう言ってからキュルケが突然ほっぺたに軽く触れるくらいのキスをしてきた。
俺は突然のことで驚き、次に顔が内側から熱くなるのを感じた。
午後からの剣の訓練の時にカズハット隊長にお祝いの言葉を貰ったが、それはそれでみっちり剣の訓練をした。
最近は兵士の人と片手剣などの剣の形をした木刀で軽い試合形式の模擬戦を行っているが、これがなかなか勝てない。
本職の人には敵わないのは道理かもしれないが、そう思うのが悔しいので剣の訓練を今まで以上に頑張って行うようになっている。
その夜は俺がスクウェアクラスになったお祝いにいつもより特別豪華な食事が出て、ちょっとしたパーティのようになった。
父さんは上機嫌で普段は出してこない年代物のワインを開けている。
「さすが私の息子だ!この年でスクウェアクラスになってしまうとは!ゲルマニアの最年少スクウェアではないのか!」
「僕も驚いています!・・・しかし、最年少というのは言い過ぎなのでは?」
俺が謙虚な言葉を含ませたが父さんは意に介していないようだった。
因みに俺がそう言ったのはタバサの方が低い年齢でスクウェアになっていたような気がしたからだが、その辺りの記憶はあいまいだ。
それにしても魔法を練習し始めてからもう10年か。スクウェアになるのにもうちょっと時間がかかるかと思ったけど、原作が始まる前に成ることが出来てよかったと少し気が楽になるのを感じた。
原作はネットの評判だけ見ていたらルイズに萌える話に思えるけど、でもここは剣と魔法のファンタジー世界で戦闘も普通にあるから強くなっていればそれだけ生存率もあがるというものだ。
しかし、普通の練習だけではここまで早くスクウェアに成れなかったかもしれない・・・実際レイルド先生も驚いていたし。
必殺技の開発や『トランザム』とかの訓練とかもスクウェアになれたことに影響してるのかな?・・・基の素質的に成長が早かったとも考えられるが、どうだろうか。
「そうね。ヴァル位の歳では普通はドットかライン、よくてトライアングルですからね。スクウェアはほとんど聞かないですわね!」
「あ、ヴァルがスクウェアになったんだから・・・」
母さんの1人が突然真剣な顔をした。
「え!?どうしたの、母さん?」
すると母さんは真剣な顔を解いて、そしてにっこり笑って、
「ヴァルがスクウェアになったんだから、次にカリーヌさんに会ったら模擬戦しないといけないわね!」
「・・・」
忘れていたかったことを母さんはその笑顔を持って俺に思い出させてくれた。
「おお!そうだったな!ハルケギニア一とも噂があるあの“烈風カリン”ことカリーヌ夫人と模擬戦か!これは楽しみだな!」
「・・・ソウダネ。」
自分が戦うのではないからと酔っ払い気味の父さんは気楽に言ってくれた。
・・・それにしてもだ。
“烈風カリン”ことカリーヌさんがハルケギニアで一番強いというのはどうやら誇張でもなんでもないようだ。
たまに背筋が凍りそうになるほど無意識に体が恐怖を感じることがあったけど、あの感覚は間違いではなかったようだ。
しかし・・・烈風カリン時代に一個大隊だか一個師団と一人で戦って勝利したとかいう話も、もしかしたら本当のことなのではないかと思えてくるのが怖い。
「今度カリーヌさんに会うのは次のカトレアさんの誕生会ね!」
「次のカトレアさんの誕生会は大変ね!カトレアさんの治療の大詰めにカリーヌさんとの模擬戦と。」
「・・・アア、ソウダネ。」
表面上は引きつりながらもにこやかに受け答えしているが、心中では「やべえ、仮に模擬戦でも下手したら半殺しにされるかも・・・」と今から模擬戦のことを想像し、背中に嫌な汗が流れていた。
「「「頑張ってね!ヴァル!」」」
「大丈夫よ!ダーリン!」
「キュルケ・・・!」
「勝て・・・ないかもしれないけど、いい勝負にはあるんじゃないかしら?」
母さんの素直なその言葉に俺は弱弱しく返事をしていた。
「そうだと、いいな・・・。」
次の日の魔法の練習の時間になった。
俺とキュルケが練習場に行くと、すでにレイルド先生が待っていた。
「「レイルド先生、今日もお願いします。」」
「・・・練習の前にヴァルムロート様、お話があります。」
「なんですか?」
「どうしたの?」
「昨日、ヴァルムロート様はスクウェアになられました。」
「ええ、そうのようですが・・・。それがなにか?」
「私のメイジのクラスは御存じですよね?」
「ええ。」
「先生って、確かトライアングルだったわよね?」
「はい、その通りです。私はトライアングル、しかし教えるべきヴァルムロート様はスクウェアになられた。・・・ということは私では教えられることはないにも等しいのです。ヴァルムロート様のこれ以上の上達を私では促せないかもしれないので。」
「え!?で、では、これからは教えてくれないのですか!?」
レイルド先生の突然の言葉に俺は驚きを隠させなかった。
「いえ、そうではありません。これからは知識とメイジとしての経験を用いてアドバイスを行っていくことでヴァルムロート様の上達に手をお貸ししていこうと考えています。」
いきなり俺の魔法の教育係を降りることはしないと知り、ほっと胸を撫で下ろした。
レイルド先生は教え方もうまいし、聞いたことは知っている範囲で答えてくれるので俺はかなり気に入っている。
「そうですか・・・。では、何か分からないことがあればアドバイスを貰うことにします。これからもお願いします!」
「はい。お任せ下さい!」
「ねえー、私は?」
「キュルケ様は今まで通りに教えていきますよ。宜しいですね?」
「はーい。」
「頑張ってね、キュルケ!」
「ええ!私もダーリンにすぐに追いついて見せるわ!」
ということでこれからの魔法の練習の時間は主に自主錬になるようだ。
カトレアさんの誕生日まで後一ヶ月くらいだ。
後一ヶ月でカリーヌさんと模擬戦をしないといけないかもしれないと思うと気分が沈み気味になる。
「・・・死にたくは無いな。」
もちろん模擬戦なので死ぬことは無いだろうが、下手をしたら大怪我じゃ済まないかもしれない。
「・・・とりあえず『トランザム』をやってみるか。ランクが上がったことで魔法の扱いも上手くなってて、もしかしたら持続時間が延びているかも!」
そう考えた俺は『トランザム』の呪文を唱える。
魔法が発動すると俺の体が淡い炎で包まれた。
そのまま動いたり、『フライ』で飛びまわってみたが特にトライアングルのときと変わらないようで前より早く動けたりはしなかった。
地上を走ったりするのは足に負担がかかり過ぎると考え、そのまま精神力が尽きそうになるまで『フライ』で縦横無尽に飛んでみることにした。
すると大体二分四十秒位で精神的に疲れてきたのが分かったので、そこで止めておいた。
「二分四十秒位でこの疲労感か・・・。これだったら、完全な精神力切れは三分前後だな。・・・前と変わらない、か。」
メイジとしてランクは上がったが『トランザム』の継続時間に変化が無かったことに少し落胆したが、嘆いても仕方ないとすぐに頭を切り替えた。
これ以上魔法の練習を行うと精神力切れで午後からの剣の訓練が死にそうになるのでキュルケの練習風景を眺めながら、なにかいい必殺技はないかな?と考えを凝らしていた。
次の日も『トランザム』について調べていると、興味深いことが分かった。
それは魔法の使用頻度と『トランザム』の持続時間の関係性と『トランザム』状態における魔法の威力の誤差拡大についてだ。
前者の魔法の使用頻度と『トランザム』の持続時間の関係性は以前からうすうすわかっていたことだが、魔法を使用すればするほど『トランザム』の持続時間が少なくなるというものだ。
・・・これは、まあ、しょうがない。
なにせ、『トランザム』は常に精神力を消費しているのだから、魔法を使ってさらに精神力を消費すればそれだけ『トランザム』に割ける精神力が少なくなるのは当然だろう。
問題は後者の魔法の威力の誤差拡大だ。
同じ魔法を使ってもそのたびに威力が異なることがあり、特に『ファイアーボール』のように連射出来る魔法ではそれが顕著に現れた。
実はこの現象を俺は一度実戦で体験していた。
あの翼の大きなワイバーンと戦った時がそれだ。
あの時はたまたまかと思ったが、そうではなかったようだ。
それでどれくらい誤差があるのかを調べたところ、俺の感覚でいうと以下のようになる。
普通の状態で『ファイアーボール』を連射したときの威力の平均を100とすると、その誤差は±10くらいだ。つまり90~110の威力というわけだ。
これを『トランザム』で行うと、『ファイアーボール』を連射したときの威力を平均したものは200くらいになるが・・・その誤差は±150にもなる。
つまり50~350の威力で下手したら『トランザム』状態なのに普通の状態よりも弱くなってしまうことが分かった。しかもそのときの消費精神力は——俺の感覚上だが——やはり3倍位だった。
これではあまり割に合わない。
「・・・と思いませんか?どうしたらいいですかね?」
さっそくレイルド先生に質問してみた。
「そうですね・・・。『トランザム』という魔法はヴァルムロート様オリジナルなのでどのような感じなのかは分かりかねますが、魔法の誤差が大きいというのであれば練習を繰り返し少しでも誤差を少なくするのがよろしいのではないでしょうか?」
「やはり、そうですか・・・」
レイルド先生は反復練習あるのみと言い、それについては俺自身も考えていたことだった。
やはり地道に練習していくのが一番ということなのだろうか。
「それと、魔法の連続使用は魔法一つ一つのイメージが希薄になることで誤差が大きくなるものだと考えられます。」
「一つ一つの魔法のイメージですか・・・」
「はい。ですから、実際に魔法を放つだけでなく、心の中でイメージしてみることも訓練になるのではないでしょうか。魔法はイメージすることが大切ですし、それにこの方法だと実際に精神力を使わなくて済みますから。」
「なるほど・・・ありがとうございます!」
レイル先生からイメージトレーニングという方法を聞いた俺は暇があれば魔法を放っているところを明確に想像するように試みることにした。
ある日昼食を食べ終わり、中庭で食後慣らしにゆったりとお茶を呑んでいたらめずらしく父さんがやって来た。
手にはいくつか封書を持っていて、適当にお茶を頼むと封書を開けて読み始めた。
今日は冬にしては天気が良く、気持ちいいくらいの気温だったから書斎ではなく外で仕事をしたくなったのかもしれない。
そんなことを考えていたら、最初の封書を読み終えた父さんと目が合った。
「そう言えばヴァルムロート、お前にミス・ネートから手紙が届いていているぞ。いつも通り、そのまま部屋に持っていかせたからな。」
「分かりました。経過観察の報告だろうな。」
俺はこの時点で経過観察に何の問題もなかったことが分かった。
何か問題が発生したならば定期的な便りではなく、鷹便などですぐに送って来ていたからで、それがないということは問題がないということだろう。
「ああ、それとヴァリエールからも手紙が来ていたようだぞ。」
「カトレア様の誕生会のことですかね?後一ヶ月くらいですから。」
この時期はカトレアさんの誕生日が近いこともあり、ヴァリエール家から手紙が来ること自体は不思議ではなかった。
しかし、父さんがわざわざそう言ったのには理由があるようだった。
「ああ、それもあったが・・・」
「あったが?」
「手紙にはカトレア嬢の治療を誕生会の前に出来ないかと書かれていたぞ?ヴァルムロートよ、何か聞いているのか?」
「カトレアさんの治療を誕生会の前にですか?後じゃあいけないのかな?前にしたら手術後は二週間くらいは安静にしておいてもらいたいのだけど・・・。」
「ヴァルムロートは何も聞いていないのか。」
「ねえ、ダーリン。さっきのミス・ネートからのお手紙に何か書いてあるんじゃないかしら?」
「ああ、そうかもしれないね。」
俺がキュルケの言葉に同意するのを見た父さんはすぐ行動に移していた。
「そうだな、今持って来させよう。ヴァルムロートの部屋からミス・ネートから来た手紙があるはずだ。それを持ってきてくれ。」
父さんがそういうとメイドさんが一人走っていき、少し経って戻ってきた。
俺はそのメイドさんから手紙を受け取ると、早速開封した。
手紙の内容はいつもの経過観察について書いてある後にヴァリエール公爵がカトレアさんの手術を早めたいとあった。
手紙にはカトレアさんの手術を早めることについてのミス・ネートの意見が続き、これまでの実験結果と最近のカトレアさんの体調が良いこともあり、特に問題無いだろうということがここ一か月くらいのカトレアさんの体調に関するデータと共に記されていた。
しかし、なぜここに来てヴァリエール公爵がカトレアさんの治療を早めたのかを手紙からは知ることは出来なかった。
「・・・確かにミス・ネートの手紙にもカトレアさんの治療を早めることがかいてありますね。どうして早めたのかという理由は書いてないですけど。」
「こちらの手紙にも理由は書いていないな。お前のカトレア嬢の治療への準備が順調に進んで、今はほとんど終わっているのだろう?ヴァリエールも早くカトレア嬢を治して欲しいのかもしれんな。」
「それでダーリンはどうするの?」
「うーん。カトレアさんの治療をして、誕生会も開くのなら遅くても二週間前に手術を終わらせたいな。時間的な余裕を考えたら、すぐにでも行って行った方が良い位だよ。」
俺がそう言うと、隣のテーブルで静かにお茶を楽しんでいたはずの母さんがいきなり立ち上がった。
「ヴァル!だったら、すぐに行きましょう!」
「え?」
母さんの突然の物言いに俺は呆然としていたが、父さんは首を縦に振っていた。
「そうだな。ではすぐにでもヴァリエールに返事を書いて明日の朝・・・は、さすがに急か。では、明後日の朝に出かけるぞ。皆準備をしておきなさい!」
「「「「「「はーい!」」」」」」
皆一様に楽しそうに返事をすると、飲みかけのお茶を置いて立ち上がった。
突然決まったことなのに何の反対意見がでないことに俺は少し戸惑っていた。
「え?いいの?」
「いいのよ、ダーリン。それに・・・」
「それに?」
「早くダーリンとカリーヌ様の戦いが見たいもの!ねー!」
「「「「「「ねー!」」」」」」
どうやらカトレアさんの治療うんぬんではなく、俺が次にカリーヌさんと会った時に発生しそうな模擬戦を観戦することに興味があるようだ。
俺は父さんに抗議の意味を込めた視線を送った。
「・・・父さんなんとか言ってよ!」
「・・・すまん。私もお前とカリーヌ夫人との戦いを見てみたいのだ。なに、カトレア嬢のことはお前に任せておけば問題無いだろう!」
「・・・父さんまで。そりゃ、ここまでやったんだからカトレアさんのことは頑張るけどさ・・・。」
翌日、父さんは鷹便でヴァリエール公爵宛で手紙を出したようだ。
そして次の日、家族皆でヴァリエール家に向けて出発した。
「はぁ。・・・よし、覚悟を決めた。カリーヌさんだろうが烈風カリンだろうが・・・やあぁってやるぜっ!」
俺は自分を鼓舞するようにそう言い聞かせた。
すると隣に座っていたキュルケが目を丸くしていた。
「ダーリン、カトレアさんのことじゃなくてそっちを悩んでたの?というかダーリンってそういうしゃべり方も出来たのね!」
「カトレアさんのことは僕一人で行うわけじゃないからね。というか・・・今の口に出てた?」
「ええ。なんだかワイルドで素敵だったわよ。」
「そ、そう?」
「ええ!たまにはそういうしゃべり方もいいわね!」
「まあ、気が向いたらね。それに・・・」
今ですらあまり貴族っぽくないように思われそうなのに、あんまり羽目外し過ぎるとさらに貴族らしくなくなるのでは?と心配になる。
それに俺の中での貴族っぽい人物が発したフレーズが不意に浮かんできていた。
「それに?」
「事は全てエレガントに、ね。」
ちょっとキザにポーズとか決めてみた。
「・・・それはちょっといまいちね。」
「あ、そうですか・・・。」
「やっぱり普通が一番かもね!」
「そうだね!」
それにしても、どうしてヴァリエール公爵様はカトレアさんの治療を早めたんだろか?
・・・まあ、予定していたのよりは一ヶ月くらい早まっただけなので問題ないと思うけどね。
<次回予告>
俺がカトレアさんと初めて会ってからもう五年も経った。
あの時・・・ヴァリエール領との関税正常化を行う時に、もしカトレアさんが付いてこなかったら、もし体調が悪くならなかったのなら・・・。
今のようにヴァリエール家とツェルプストー家が仲良くなってはいなかっただろう。
カトレアさんの治療をすると決めてからいろいろあったな。
動物捌けるようになったり、動物や人で魔法の実験したり、手術の練習したり・・・人を殺めたり・・・。
そして、とうとうこの時がやってきた。(いろんな意味で)
第44話『カトレアの手術本番!そして・・・』
6/16頃の更新を目指して頑張ります。