管理人ゼーレアからの謝罪。
投稿されていた作品が別処理されていて気づかず、48話と49掲載が遅れ
後書きにある予告の日付と掲載日が咬み合っていませんが予告通り投稿されています。
大変申し訳ありませんでした。
48話 セブンソード
「「「「行ってきます!」」」」
そう言った馬車の中から見送ってくれているお義母さんに向かって手を振った。
今日は虚無の曜日。
俺は早速昨日お義母さんに言われた通り町に剣を探しに行く為に馬車に乗っている。
キュルケやカトレアさん、ルイズも町に買い物に行くようなので一緒に行くことになった。
「お義兄様も町に買い物に行かれるのですね!何を買うのですか?」
「ああ、今日は剣を探しにね。なあルイズ、この間からそのしゃべり方だけど、どうしたんだ?」
「・・・変ですか?」
ルイズは俺の言葉に軽く首を傾げている。
自覚は無いのかもしれないが丁度上目使いになっていて、首を傾げた仕草と相まってとても可愛い。
・・・いや、素でも普通に美少女だから可愛いのだけど、さらにってことだ。
「いや、別に変ではないけど前の時といきなり反応が変わってちょっと戸惑っただけだよ。」
「そうですか!良かったです!ちぃ姉様と直に結婚して私のお義兄様になるのだからちゃんと接しないとだめだと思って、戸惑わせてしまってごめんなさい。」
「いや、謝ってもらうほどじゃないから大丈夫だよ!あ、じゃあキュルケはお義姉様になるのかな?」
「いえ、キュルケはキュルケですよ。」
「え、そうなの?」
ルイズはそういうことはきちんとする子だと思っていたのでその言葉に俺は目を丸くした。
横に座っているキュルケにそのことを尋ねるとすぐに返事が返ってきた。
「ええ。なんかルイズにお義姉様って呼ばれることに抵抗があって。私は別に気にしないからそのままでいいということになったの。」
「そうなんだ。それならば・・・」
それを聞いて俺もルイズにこれまでの様に名前、というか愛称で呼んでほしいと言った。
と、いうのもルイズに「お義兄様」と呼ばれるのは嬉しいしけれども、突然そう呼ばれることになったこそばゆい感じと多少の気恥ずかしさがあったからだ。
しかし、ルイズは「ちぃ姉様とご結婚されたらお義兄様はお義兄様になるのですから、お義兄様はこれからもお義兄様と呼びます!」と言って聞いてくれなかった。
結局、俺が転生して今の名前で呼ばれることに慣れたようにその内「お義兄様」と呼ばれることになれるだろうと思い、俺が折れる形で話は終わった。
「お義兄様!私たちはちぃ姉様のお洋服を見に行くんだけど、一緒に行きませんか?」
「あらあら、ルイズったら。なんだか私よりヴァルムロートさんと仲が良さそうね。」
「ちぃ姉様!そ、そんなことありませんよ!」
「買い物に付き合ってもいいけど、先にこっちの用事を済ませてからでいいかな?」
「いいのですか!それで構いません!」
「じゃあ、その間はどうする?買う剣を吟味しないといけないからちょっと時間がかかるかもよ?先に行洋服屋に行ってる?」
「そうですね・・・。」
ルイズは腕を組んでうーん、うーんと考え込んでしまった。
なんだかルイズの一挙一動が子犬のようで可愛らしい。
「私は暇だしダーリンに付いて行こうかしら。いいわよね?」
悩んでるルイズを横目にキュルケが言った。
「別にいいけど、面白くないかもよ?」
「いいの、いいの。ねえ、カトレアさんやルイズも一緒に行かない?」
「ちょっとキュルケ!」
「そうね。たまには普段行かないところに行ってみるのもいいかもしれないわね。」
「ちぃ姉様まで!じゃあ私もお義兄様に付いていきます!」
「と、いうことでよろしくね。ダーリン!」
「よろしくされてもしかたないんだけど、まあそれでいいのなら僕もなるべく早く終わらせるように努力するよ。」
そんな感じで結局皆一緒に行動することになった。
それからは女性3人がカトレアさんにはどんな服が似合うとか、今の流行のアクセサリーの話などをしているのを相槌を打ちながら、聞いていたら町に付いた。
買い物に来た町はヴァリエール家から大体馬車で1時間くらいで距離としては大体12、3リーグくらいだろう。
町の規模としてはそこそこの大きさでヴァリエール領の中では国境の町に次いで栄えている町だそうだ。
栄えている町といえど大通りの道幅は4、5メイルしかなく、道の両脇にある店の前にも商品を並べていたりするのでさらに道幅は狭くなっている。
そこを馬車で通るのはいろいろ無理があるので、俺達は馬車を降りて目的の店に行くことになった。
俺は馬車から降りるときに暗殺を警戒して『ディテクトマジック』を発動し、常に周りを警戒することにした。
漫画とかではこういう人通りの多いところでは連れ違いざまにサクッと刺されがちだからね。
いくら用心しても用心しすぎるということはないだろう、と少し緊張しながら人ごみの中を進んでいった。
・・・まあ、実際は貴族が来たら周りの人は避けて歩くので俺達の周りだけ見えない壁が出来てるみたいになっていたけど。
事前に馬車を操作していた人に聞いたところ「武器屋は大通りにはなく、少し路地に入ったところに看板が見えるのでそこに行って下さい」とのことだった。
言われた通りに進み、武器屋があるであろう路地に入った瞬間鼻を衝く悪臭が俺を襲った。
悪臭の原因は建物の壁のすぐわきに捨てられている糞尿からのアンモニア臭だ。
うちのツェルプストー領では最近糞尿などは一か所——町の外れに肥溜めを作らせた——に集めるように指示を出しているので路地の悪臭も段々と改善させてきて、それに伴い領民の意識も少しずつだが変わってきているが、トリステインというか他の場所ではこれが現状なのだろう。
まあ、農村ではまだ肥料に変えるなどの活用方法があるが、町ではそうもいかないので今後その問題をどう解消していくかが新たに問われているのだけどね。
そんな劣悪な環境の路地に貴族が来たことに周りの平民の人たちはかなり驚いている様子だ。
その好奇の視線を無視しながら路地を少し行くと銅板で出来た剣の看板が店先に釣り下がっているのが見えた。
剣の看板とかゲームみたいだな、と思いながら店の前で足を止めた。
「ここみたいだな。じゃあ中に入ろう。」
俺たちは扉を開けて店の中に入った。
「へい、いらっしゃ、こ、これは!貴族様がどうしてこのようなところへ!?まさか、抜き打ちの・・・こ、この店は真っ当な品物しか扱っておりませんよ!?」
店主であろう男性がカウンターから急いで俺の前までやってきてそう矢継早に言った。
「いや、今日は剣を見に来たんだ。」
「貴族様が剣を扱うのですか?」
「何か?」
「い、いえ!若旦那様はこの度軍属になられるのですか?」
「まあ、似たようなものです。では少し勝手に見させてもらってもいいかな?」
「そ、それはもう!若旦那様、それならうちの一押しを出してきましょうか?」
「そうですね。では少し見せてください。用意している間に展示しているものを見させてもらいますね。」
「分かりました。すぐに用意します!しばしお待ちを!」
店主はそういうとカウンターを乗り越えて店の奥に消えていった。
「それでダーリンどうするの?」
「とりあえず周りに飾ってある剣を見てみよう。何かいいものがあるかもよ?」
店に壁に飾ってある剣を2、3本見たところで店主が布にくるまれた数本の剣を抱えて息を切らして戻ってきた。
「お、お待たせしました・・・。こ、このレイピアなどいかがでしょうか?柄の部分に金を用いた装飾が他の目を引きますよ!そしてこの軽さ!この軽さにより最速の突きを繰り出すことができるでしょう!」
「レイピアですか・・・。」
俺は店主が勧めてきたレイピアを持ってみた。
確かにいままで俺が扱ていたどの剣よりも軽い。
しかし、なんだか軽すぎる気がしてどうにも手に馴染んでくる感じがしてこない。
それに俺は元々片手剣の訓練をしていたので突きよりも切る動作が主体の剣術スタイルになっていることも考えると、やはりレイピアは合わないと思えた。
「これは私には合わないようですね。他は何がありますか?」
「そうですか・・・。ではこれはどうですか?」
と今度は刃渡り1.5メイル位の大剣を出してきた。
「この剣には宝石が埋め込んでありまして、これに魔法がかかっていてどんなものでも切り裂いてしまう極上の一品ですよ。そしてなんとこの剣を鍛え上げたのがかの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿なんですよ!ほらここに名前が刻んであるでしょう。」
「へえ、すごいんですね。」
生返事をしながら出された剣をまじまじと見つめた。
そういえば原作でもこんな派手な大剣のパチモンが出てきてたよなとか、剣にこれ見よがしという風に名前が刻んであるものなのかねとか思っていると少し気になる点を発見した。
そのことがもしかしてこれは偽物なのではないかと俺に思わせた。
念の為剣に埋め込まれている魔法がかかっている宝石を調べる為に腕を組んで考えるふりをして上着の中に手を入れて杖に触り、『ディテクトマジック』をこっそりと使った。
「どうです?すごいでしょう!若旦那様ほどのお方ならこれくらい持っておられた方がいいと思いますよ。これになさいますか?」
言葉を発せずにじっと剣を見つめている俺を店主が急かした。
『ディテクトマジック』で剣を調べ終わった俺は少し申し訳ない気持ちで店主に声をかけた。
「あの・・・これ名前のスペル、間違えてますよ?それにこの宝石・・・宝石自体は本物ですけど魔法はかかってないみたいですね。」
「そ、そんな馬鹿な!」
店主は剣を俺からひったくるように取って、まじまじと名前のところを見た。
「・・・本当だ。・・・くそ!あの商人め!まんまと騙しやがって今度来たらただじゃおかねえ!・・・・あ、すみません。お見苦しいところを。」
「別にいいですよ。それで他にはなにかありますか?」
「さっきのがうちの目玉商品だったんですけど・・・。」
店主がもってきた剣はあと1本残っていた。
「その剣はダメなんですか?」
「これですか?これは急いでいたのでつい持って来てしまったのですが。正直これは売り物にはならないただの鉄クズですよ。」
「そうなんですか?まあ、ちょっと見せてください。」
俺は見るだけならどんなに酷いものでもタダなんだしと思い、店主が引っ込めようとしていた3本目の剣を見せてもらうことにした。
俺の言葉に店主は困った様な顔をしたが前の2本の剣を壁に立てかけて、3本目の布に包まれた剣をカウンターに置いた。
「そうですか?まあ、見た目は片手剣なんですが見慣れない形をしていまして・・・」
そう言いながら店主が剣を包んでいた布を解いた。
さっきまで店の中を興味深そうにうろうろしていたキュルケ達がこちらにやってきて、俺の横からその剣を覗きこんでいた。
「・・・え!?」
その剣を見た瞬間、俺の身体に電流が走る。
「この剣は元は砂漠の近くで見つかったとかでそれ以降多くの人の手を渡ってきたらしいので珍しいものには違いないのですが・・・。しかしご覧の通り、この剣は肝心の刃の部分が錆び付いているんですよ。これじゃあインテリアにもできませんよ。まったくどうしたものか。」
そう言って店主はその剣を少し鞘から抜いて刀身の一部を俺達に見せた。
確かにその見えた範囲の刀身はそれ自身の黒ずんだ銀色よりも茶色く錆びた部分が面積の多くを占めていた。
「まあ!刃が錆びてるってとんだ不良品ね!」
「すみません、奥様。こんなものはすぐに下げますから。」
キュルケの言葉にそそくさとその剣を再び布に包もうとする店主を俺は慌てて呼び止めた。
「て、店主!」
俺の声にビクッと店主が動きを一瞬止めた。
そして俺見る店主の顔色が見る見るうちに青ざめていった。
「す、すみません、若旦那様!変なものを見せてしまって。」
店主は俺が怒ったと勘違いしているのか、カチンッと音を立てて刀身を鞘に仕舞うと大急ぎでその剣を布で包もうとした。
俺はその剣が本物かどうか分からなかったがそれを知るためにも、もっとよく観察する必要があると思い、店主の腕を掴んで動きを止めた。
「待てと言っている。ちょっと見せてもらうぞ。」
俺をその剣を手に取った。
手で持つところにはボロボロになった緑色の紐が巻かれている。
「は、はあ。・・・どうぞ。」
店主は訳が分からないといった表情を俺に向けている。
俺はそれを気にも留めずにその剣を鞘から全て引き抜いた。
「あら、本当に錆びついてますわね。」
刀身の長さは大体60サントと俺が実家で使っていた片手剣の大きさとほぼ同じだ。
刃と持つところの間には片手剣ではあまり見られない円盤状の鍔が付いている。
「お義兄様、この剣って変わってますね。刃が反る様に曲がっています。」
ルイズの言う様にこの剣の刀身は全体的に反りが入っている。
それに反っている反対側には錆びついてよく見えないが波紋があるようだった。
「ねえ店主さん。この剣を鍛冶屋でもう一度鍛え直そうとはしなかったの?」
「それがですね奥様。私もそう思って持って行ったのですよ。そしたら鍛え直してもいいがもう一度この形にするのは不可能だぞって言われたので、断念してそのままです。まあ、このままでは売れないので鉄材として鍛冶屋に卸す位しか使い道がないのですがね・・・」
「ふ~ん。ねえ、ダーリンそんな錆びた剣をいつまでも見てないで他の剣を見ましょうよ。」
キュルケはそう言ってくれているが俺はじっと錆びた刀身をまじまじと見つめた。
そして俺はこれが本物かどうが決めかねていた。
考えている中で少なくとも贋作者がわざわざこんなものを作るわけがない——もし贋作を作るとしても錆は付けないだろう——こと、金属で出来ているずっしりとした重さを感じているので模造のものではないこと、そしてなによりこの世界にはロケットランチャーなど俺の前世の世界のものが“場違いな工芸品”としてこの世界に現れることの3つのことを考慮した。
そして俺は答えを出した。
「店主。」
俺は剣を鞘に納める。
「はい!」
「この剣を貰おう。いくらだ?」
「「「「え!?」」」」
俺の発言に言われた店主だけでなくキュルケやカトレアさんそれにルイズも驚いた声を出した。
「ちょ、ちょっとダーリン!ほんとに!?錆びてるのよ!?」
「ああ。錆びはなんとかしよう。」
錆びは『錬金』を使えばなんとかなるんじゃないかな?と考えた、俺は出来ないけどヴァリエール家に帰ったら他の誰かに出来るかどうか聞いてみよう。
「お義兄様!その剣なんか変な形してますけど!?」
「それは問題ない。大丈夫だ。」
大抵の剣は大抵まっすぐでしかも両刃だからな。
反りがあって片刃の剣は珍しいのだろう。
「本当にそれでいいの?」
「はい。もう決めました。」
ここで買い逃したらもう手に入らないかもしれないし、ここは買っとくべきだろう!
もし使えなくてもこのまま鉄くずとして溶かされるのは頂けない。
俺は強い意志を込めた目でキュルケ達を見た。
キュルケ達は俺の決意がかなり強固なものだと分かってくれたのかもう反対する言葉は出てこないようだった。
俺は店主の方に振り返る。
「で、店主。いくらだ?」
「は、はい。それでしたら相場からお安くさせて頂きたいのですが、手に入れるのに少々手間がありましたので・・・新金貨150でいかがでしょうか?・・・それにしても本当にいいのですか?」
「ああ。構わない。それと・・・」
店主の確認に俺ははっきりとした口調で答えた。
そして俺はさらに周りを見渡し、ナイフやダガーが置いてあるスペースで目を止め、いくつか種類のある中から俺は一番オーソドックスと思われる短剣を指さした。
「あそこにある短剣を4つ貰おう。」
「は、はい。あちらは1つ新金貨で150で、4つで600です。」
「では全部で750だな。」
俺はお義母さんに貰った小切手を取り出し、750と書いて店主に渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「ああ、こちらもいい買い物をした。」
「?あ、ありがとうございました~!またの御越しを~!」
俺の言葉に店主は首を傾げていたので、この貴族はあんな錆びだらけの剣を買っていい買い物とはどういうことだ?と思ったに違いないだろう。
しかしその後の満面の笑みを浮かべて俺達に挨拶していたので、店主としては棚から牡丹餅と言いたいところなのかもしれないな。
俺としてはまさか刀、日本刀が手に入るとは思わなかったのでまさにョウタンからコマと言いたいところだ。
ただ残念なのは刀身が激しく錆び付いていて恐らく研ぐだけでは使い物にならないことだけど・・・まあ、なんとかなるだろう。
俺達は武器屋から出て、路地を戻り大通りに出た。
これから馬車に荷物を置いてから、女性陣の買い物に付き合わないとなと考えているとキュルケが声をかけてきた。
「ねえ、ダーリン本当にこれで良かったの?」
キュルケはさっき購入した錆びついた剣を指さしながら聞いてきた。
「ああ。これがいいんだ。でも使えるようにするには一工夫要りそうだけどね。」
「そうよね。」
「ねえ、お義兄様。短剣は何のために買ったのですか?」
「ああ、ちょっと面白いこと思いついたからそれが出来なかな?と思ってね。」
「あらあら。面白いことって何かしら?」
「カトレアさん、それは出来てからのお楽しみということでその時は皆のお披露目するよ。」
「分かったわ。楽しみにしてるわね、ダーリン!」
それから馬車に荷物を置いて、その後はカトレアさんの服選びに付き合った。
「あの・・・まだ行くのですか?」
「なに言っているの?ダーリン!まだまだ半分くらいよ!」
「そうですよ!お義兄様!まだちぃ姉様に似合う服があるはずですよ!」
「ごめんなさいね。久しぶりの買い物が楽しくて。」
・・・女性のショッピングに付き合うのはある意味訓練よりも疲れるね。
そう思いながら俺はまた一つ目の前に積み重なる買い物の箱を見上げた。
買い物から帰ると朝出発したというのにすでに夕方になっていた。
ヴァリエール家に戻ってきた俺はお義母さんに剣を購入したことを報告しに行った。
「あら、お帰りなさい。どうですか?いいものは見つかりました?」
「はい!しかし問題がありまして、このままでは使用できないのです。」
そう言って俺はお義母さんに錆びた刀を見せた。
「・・・どうしてそんなものを買ったのですか?」
「その剣が僕の心に響いたので今の状態に関係なく購入しました。確かに今のままでは使えませんが、『錬金』で刀身を再構築すれば使用できるようになると思います。」
「・・・そうですか。直感が来たのならしょうがないですわね。ではそれを使えるように『錬金』の得意なものを呼んで来させましょうか。」
「あ、あとマジックアイテムを作成経験があって、最後まできっちり仕事をしてくれるような人がいいのですけど・・・そんな人いますか?」
俺の言葉にお義母さんはやれやれという風な顔をした。
はやり俺の注文は高望みしすぎだっただろうか?
「なかなか注文が多いですわね・・・。マジックアイテムを作ったことがあって、キチンとした性格ね・・・・あ、そうだわ。エレオノールに頼んでみたらどうかしら?あの子は土メイジで、そのうえ王立魔法研究所に勤めているからそういうのが得意なのではないかしら?」
「エ、エレオノールさんですか?・・・分かりました。そ、それでエレオノールさんは今はどちらにいるでしょうか?」
俺はエレオノールさんの名前が出たことに少し身構えてしまう。
というのも俺はエレオノールさんに好かれていないようだからだ。・・・嫌われてもいないと思いたいけれど。
それに俺がカトレアさんと婚約したことを機にヴァリエール公爵とカリーヌさんをそれぞれお義父さん、お義母さんと呼ぶようになったようにエレオノールさんもお義姉さんと呼ぼうとしたのだが、それは本人に強く拒否されてしまった。
そのことで俺自身はエレオノールさんに対して少し苦手意識を持ってしまった。
そういう訳で今の俺は少し緊張しながらお義母さんの言葉を待っていた。
「そうね・・・今は部屋にいるんじゃないかしら?」
「そ、そうですか。」
そう言って俺はお義母さんに一礼してから部屋を出た。
嫌なことは先延ばしにしても仕方ないと思い、早速俺はエレオノールさんの部屋の前にやって来た。
・・・い、いや、エレオノールさんに会うのが嫌ってわけじゃないんだぜ?
そんな言い訳を心の中で自分に言った後、心を落ちつかせてから扉をノックした。
「はい?どなたかしら?」
「ヴァルムロートです。今お時間よろしいですか?」
「あなたね・・・。まあ、いいでしょう。入ってらっしゃい。」
「はい。失礼します。」
俺が部屋に入るとエレオノールさんは椅子に座ったままこちらの方に体を向けた。
机の上には閉じられた本があることを考えれば、本を読んでいたようだ。
「それでなんの用かしら?」
「はい。いきまりこんな事を言うのは失礼に値すると思うのですが、この剣の錆びを刀身から除いてほしいのです。」
俺はエレオノールさんはくどくど前置きされるのが嫌いなタイプだと勝手に思っていたので用件を単刀直入に言った。
失礼と言葉だけで断ったがそんなものに意味は無く、俺の手にある刀には目もくれずエレオノールさんは明らかに不機嫌そうな顔を俺に向けた。
「どうして私がそんなことをしないといけないのかしら?」
「これは僕の、いえ、義弟からのお願いだと思って下さい。・・・まあ、エレオノールさんが嫌だと仰るなら別の方にお願いしますけど。」
ここでお義母さんの名前を出せば、確実に引き受けてくれるだろうがそれをするのはなんだか卑怯な気がした。
まあ、義弟と言ったのも少しは卑怯かもしれないが。
「・・・はぁ、仕方ないわね。ちょっと見せてみなさい。」
やれやれと諦めにも似た表情をしてエレオノールさんは俺の方に手を伸ばした。
「は、はい!どうぞ!」
俺はエレオノールさんが引き受けれてくれたことを嬉しく思いながら、刀をエレオノールさんに渡した。
引き受けれくれたのは俺が強引だったせいがあるのかもしれないが、この時の俺にはエレオノールさんが俺のことを義弟だと認めてくれたような気がしていた。
俺から刀を受け取ったエレオノールさんは鞘から刀を抜いて、その刀身をまじまじと見つめたり、『ディテクトマジック』を使って調べ始めた。
「ふーん、変わった剣ね。それにしても本当に錆びてるわね。あら?変わった金属ね?いえ、鉄だけど製造方法が違うのかしら?・・・ねえ、聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
「この剣って私の予想だと場違いな工芸品だと思うのだけど、これどこで手に入れたのかしら?」
「この近くの町の武器屋ですけど?」
「そう。確かにこれだけ錆びていれば普通は目にも止まらないか。いいでしょう。研究所に持ち帰って詳しい解析のついでに錆びを取り除いてあげましょう。」
「本当ですか!?あ、でもその剣ちゃんと僕のところに戻ってきますか?」
エレオノールさんの言う研究所とは王立魔法研究所のことで、あそこは場違いな工芸品について調べたり、保管する所だと簡単に知っていたので“刀”という場違いな工芸品がちゃんと俺の手元に戻って来るか心配になった。
「そうね。本来ならそのまま国の宝物庫で保管という形になるのですけど、あなたはゲルマニアの貴族ですからね。ここの剣はあなたからの善意の貸し出しという形にして、解析や除錆が終わり次第戻ってくるように手続きしておきましょう。」
「ありがとうござます!」
それを聞いて俺はほっと胸を撫で下ろした。
しかし、俺がして欲しいことは刀の錆びをとることだけではなかった。
「・・・それでまだお願いがあるのですが。」
恐る恐る俺はそう言った。
エレオノールさんの眉毛がピクッと動く。
「なにかしら?言ってみなさい?」
「この剣をマジックアイテム化することってできますか?」
「これをですか?まあ、やって出来ないことはないと思うけど。でも、限度がありますわよ?どういう風にしたいのかしら?」
「この剣って今は片手剣の大きさじゃないですか。それを大剣みたいに大きくしてほしいのですけど、出来ますか?」
「剣を大きくする、ですって?・・・そういうにはなにか具体的な方法を考えてきているのでしょうね?」
以外と前向きなエレオノールさんの言葉に俺は少し張り切って自分の考えを話始める。
「はい!僕が考えた片手剣から大剣への変形過程は、まず鍔——刀身と持つ部分の間にある丸い鉄の板で剣同士で押し合っているときに手を守る働きをする部分、また剣同士が押し合うときはこの部分で双方とも相手の剣を受け止めていることから“鍔迫り合い”という言葉もある——の部分が半分に割れて横に展開し、次に持つ部分が大剣を扱うのに適した長さに伸びて、そして最後に刀身を引き延ばして大剣サイズにするということなんですけど、どれも『錬金』を使えば出来ると思うのですけど・・・どうですかね?」
ここでは俺が考えたと言ったけど、それは大嘘だ。
変形機構はスパロボに出てくる参式斬艦刀という武器の変形そのままだ。
刀から身の丈を超える大剣に変形する、これはロマンに満ちあふれていることだと俺は思う。
「そうね・・・。鍔を変形させるもは簡単だと思うのでいいですけど、持つ部分や刀身はどうやって伸ばすつもりなのかしら?」
「そうですね・・・。持つ部分の方は最初はこう閉じているのですけど、伸びるときは開いて伸びるというか。言葉で説明するよりも・・・ちょっとこの紙貰ってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。それでどういうことかしら?」
俺は紙を縦に切って、それをバツの形にしたものを3つ位作り、それをXXXと横一列に並べた。
「これが最初の状態では、こう縮んでいるのですけど・・・」
俺はそれぞれを横からぎゅっと圧縮するように縮めてた。
そうすることで縦方向は少し厚くなったが、横方向には短くなった。
「で、伸びるときは、こう、なって伸びます。」
縮めたバツを今度は伸ばした。
そうすると縦は細くなったが、横方向は縮めた状態よりも倍以上に長くなった。
「なるほど。持つ部分はそれでいいとしても刀身はどうするつもりなの?『錬金』は物の形を変えたり、土を金属に変えたりは出来るけど、元の大きさから大きくすることは出来ませんよ?」
「はい。それは分かっています。ですから、『錬金』では刀身を限界まで薄く伸ばして大きくして欲しいのです。」
「しかしそれでは大剣状態の刀身は十分な強度を得られないのではないかしら?」
「ええ、そのままではぺらんぺらんですぐに折れてしまうでしょう。しかし魔法の『固定化』と『硬化』を使えばその問題は解決出来ると考えています。」
「ふむ。それなら確かに強度を得ることは出来るかもしれませんね。」
「・・・出来そうですか?」
「多少複雑ですが・・・まあ、私に係れば問題ないでしょう。」
「そうですか!お願いします!・・・あ、持つところに僕の杖が入る溝も一緒に作ってもらえませんか?大剣状態は重さが変わらないとはいえ重心が変わってくると思うので、両手で持った方がいいと思うんです。」
「それくらいだったら、簡単に出来そうですから問題ありませんよ。」
「じゃあ、お願いします!」
「それで大剣の時の刀身はどのくらいの大きさにすればいいのかしら?」
「そうですね・・・。縦2メイル、幅30サント位でお願いできますか?」
自分の身の丈をゆうに超える大きさを提示した俺にエレオノールさんは少し呆れた顔をする。
「・・・それは大剣の大きさを超えてないですか?そこまで引き延ばすとかなり薄くなりますが・・・『固定化』と『硬化』はかなり強固にかけないといけませんわね。」
「それで変形させるときの合図なんですけど・・・」
「・・・分かりました。ではその掛け声をキーワードに変形を開始するようにしますね。」
「ありがとうございます!・・・それでもう1つお願いがあるんですけど。」
「はぁ、今度はなんですか?」
「これもマジックアイテム化して欲しいのですけど・・・。」
俺は今日買った短剣4つ取り出した。
「・・・これはどうしたいのですか?これも大きくしたのですか?」
「いえ、これは大きさはこのままでいいのですが。」
「ではどうするのですか?」
「これ、飛ぶように出来ませんか?」
「飛ぶ?それなら普通に投げればいいのではないかしら?」
「それだと軌道が真っ直ぐですぐに避けられてしまうじゃないですか。それで、こう、ちょっと変な動きを出来るようにしたいんですよ。」
「はぁ・・・。もちろんこっちもなにか考えてきているのでしょうね?」
「はい!まず『ディテクトマジック』が自動で発動するように設定して、それを基に標的に向かうようにしたいのです。」
「まあ、それくらいなら出来るでしょう。で、飛ばす方法は?」
「はい。この世界はフネ——これは水に浮かぶ船と違い、そらを航行する為のもので、まあ例えてるなら飛行船みたいなものだ——を“風石”で飛ばしているのでそれを応用すればこの短剣を飛ばすくらい問題ないと思うのですが、どうですかね?」
「飛ばすのは『フライ』じゃなくて“風石”なのね。・・・それにしても“この世界”とは妙な言い回しね。まるで他にフネを飛ばす方法が“風石”以外にもあるみたいね。」
エレオノールさんの指摘に俺はついしゃべりすぎて口が滑ってしまったことに気が付いた。
俺は動揺する気持ちを抑えながら、平静を装った。
「いえ、そう言われれば確かにフネを飛ばすなんて“風石”以外にないですよね、アハハ。」
「ふーん。・・・まあ、これも合間をみてやってみましょう。」
「やってくれるんですか!?お願いします!それでこちらもマジックアイテムが発動する際の合図をお願いしたいのですけど・・・」
「分かりました。言ってみなさい。」
俺はその合図となる言葉をエレオノールさんに伝えた。
「いいでしょう。しかしその名前はどこから取ったのかしらね?」
「あはは・・・。お、思いつきですよ。」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。それではこの件を受ける代わりにあなたには一つレポートを提出してもらいましょうか。」
「へっ!?レポート?」
予想していなかった言葉に俺は間の抜けた声を出していた。
「カトレアの治療についてです。話を聞くだけで終わりにしようかと思いましたが、あなたがこれを頼んできたので私にもそれなりの報酬を貰わないと割に合わないですからね。」
俺の用件と等価交換になるかは分からないが、とりあえずギブアンドテイクということだろう。
俺の方がたくさん物事を頼んでいることもあり、頷く以外に選択肢はなかった。
「・・・分かりました。それでレポートの期限とかありますか?」
「そうですね・・・。来週の虚無の曜日にまた来るのでそれまでに原案をあげておきなさい。私が後で添削してあげますからね。」
「分かりました。頑張ります。」
俺はそれを聞いて、レポート提出とか大学以来だな、と少しの懐かしい気持ちになる。
・・・まあ、宿題と思うと気が重くなるのだけど。
「あなたから頼まれた件もなるべく早く終わらせましょう。ただし私は主席研究員で忙しいので時間がかかるかもしれませんけどね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「それにしても杖兼用ではなく普通に武器を使おうとするメイジなんて、ハルケギニアでもあなたくらいじゃないかしら?本当に変わっているわね。ゲルマニアでは他のメイジもそうなのかしら?」
「あはは・・・。いえ、ゲルマニアでもこんな変わったメイジは僕だけですよ・・・たぶん。」
「でも、武器を使うと他の貴族から野蛮と言われるわよ?」
「そうですね。ですが、言いたいものには言わせておけばいいのでは?」
「そういう考えではダメよ!ヴァリエールだけでなくや貴方の家の品格をも下げることになりかねないわ。家の品格を上げるも下げるもあなたの行動次第だということを理解しておきなさい。」
「は、はい!肝に銘じておきます!」
そしてエレオノールさんは仕事の為に王立研究所のある首都へと戻っていった。
その間、俺には剣が無かったので剣術の稽古はなく、ひたすらに魔法の稽古や体力作りばかりを行う日々だった。
夜は夜でキュルケ達と一緒に勉強した後、エレオノールさんに提出するレポート作成に励んだ。
途中でお義母さんとの2回目の模擬戦があった。
こっちの攻撃は見切られて当たらないのに、こちらにはばかすか攻撃に当たり、最初のときに有効だった『フランベルグ』によるゴリ押しもあっさりと打ち破られるという散々な結果だった。
改めてお義母さんが最初の模擬戦は俺の実力をみる為にかなり力を抑えていたということを思い知らされた。
そして虚無の曜日になり、エレオノールさんが家に帰ってきた。
「お帰りなさい、エレオノールさん。」
「ええ。レポートは出来てるかしら?」
「は、はい。なんとか形にはなったと思います。」
「では後で見させてもらいますね。こちらもあなたに見せるものがあります。」
「え!?もしかしてもう出来たのですか?」
「ええ。今は研究の為の資料集めや部下の指導がほとんどで本格的に新しい研究を始める前だったので比較的に時間が取れたのよ。運がよかったわね。」
「ありがとうございます!・・・それで仕上がりの方は?」
「ほぼ要望通りに出来ましたよ。ただいくつか変更箇所と注意点がありますけど。」
「はぁ・・・。変更箇所と注意点、ですか?」
「ええ。ではお披露目を兼ねてそれを教えます。するんでしょう?剣のお披露目?」
「はい!では皆を練習場に呼んできますね!」
「私は剣を持って先に行っていますよ。」
そして皆を魔法練習場に集めた。
しかしよっぽど嬉しそうにしていたのか、会う人会う人に「何かいいことでもあったの?」と聞かれてしまった。
・・・自分では分からなかったがそんなにはしゃいでいたのか。
「ダーリンの見せたいものって何かしら?」
「この間錆びた剣や短剣を購入しただろう。その錆びた剣をエレオノールさんに頼んで使えるようにしてもらったんだ。」
「お義兄様、どんなふうに出来たのですか?」
「それは僕もいまから見るんだけど、いいですか?」
「ええ、構いませんよ。私の自信作ですわ!」
「どんなものかわくわくするわね。」
俺はエレオノールさんから刀を手渡された。
ぼろぼろだった持つ部分の布や鞘も新品同様に新調されている。
俺は膨らむ期待を胸に刀を鞘から抜いてみると錆びが取り除かれて黒と白の刀身が現れ、白い刃の部分には波紋がきれいに出ていた。
「綺麗・・・。」
「すごい・・・。」
「本当はこのようなものだったのですね・・・。」
まるで一流の芸術品のようなその刀身に俺達はしばらくの間見入っていた。
「では、ヴァルムロート。これを切ってみなさい。」
そう言ってエレオノールさんは『錬金』で地面から土の棒を出すと、さらにそれを鉄に『錬金』した。
「エレオノールお姉さま!?それはちょっと無理なのでは?」
「ちびルイズは黙って見ていなさい。」
「うう・・・。」
エレオノールさんの指示に俺は少し戸惑った。
なぜならエレオノールさんが作り出した鉄の棒は直径が20サント程もあった。
普通の剣ならこんなものを切ろうとしたら、切りつけた剣の方が折れるか曲がってしまうだろう。
そう思った俺はエレオノールさんに再度確認をとる。
「・・・いいのですか?」
「ええ!おやりなさい!」
俺の不安をよそにエレオノールさんは自身満々だ。
俺はそんなエレオノールさんを信じて刀を横に思いっきり“振り切った”。
「!?」
俺はほとんど抵抗なく刀を振りきれてしまったことに最初、鉄の棒に当たっていないのではないかとすら思った。
しかし鉄の棒はちゃんと真ん中から切れていて、上半分が地面にごとりと落ちた。
刀を振った俺自身驚いていたが、それを見ていた皆もその光景に息を呑んでた。
「すごいわね・・・。」
「本当に切れちゃった・・・。」
「だから言ったでしょう。私の自信作だって。じゃあ、今度は“あれ”をしなさい!」
「はい!」
「あれってなにかしら?」
「さあ?」
「・・・マジックアイテム化したのね。どうなるのかしら?」
俺は刀を両手で持って胸の前で構えた。
そして俺は大剣に変形する合図を唱えた。
アニメやゲームをしていて「かめはめ波」や「ロケットパンチ」や「魔神剣」みたいに一度は言ってみたい言葉ってあると思うんだ。
そしてこの刀を大剣へと変形させる言葉も俺が言ってみた言葉の一つだった。
その言葉を言える!という興奮に俺のテンションは最高潮となる。
「『伸びろ!斬艦刀!』」
すると、鍔が左右に展開し、持つところが伸びて、刀身が光ったかと思うと長さ2メイル、幅30サント位の大きな形となり、光が収まると大部分の黒い所とそれを縁取る白い刀身を持った大剣へと1秒にも満たない時間で変形した。
俺の注文以上に俺の想像通りのものが目の前に出現した俺のテンションは最高潮を超え、限界突破して心から溢れ出た感情を知らず知らずに体で表現していた。
俺は飛び跳ねながら、大剣となった刀を振り回しながらエレオノールさんに興奮したまま今の心境をたてしまくった。
「おお!すごい!エレオノールさん!想像通りです!いや、それ以上ですよ!!うひゃあ~!マジすごいっすよ、これ!エレオノールさん、マジぱねえっす!!」
「そうでしょうそうでしょう。なにせ私の自信作ですからね!」
ニコニコしている俺と自慢げなエレオノールさん以外は剣が変形したことに呆気にとられていた。
「あんなにはしゃいでいるダーリンは初めて見たわ・・・。それよりもねえダーリン、それ何なのかしら?」
「え!?何って剣だよ、剣!片手剣と大剣の両方に出来るようにマジックアイテム化してもらったんだ!名前は斬艦刀だよ!それ以外考えられない!」
「お義兄様、剣の名前はいいとして、その・・・大きすぎません?あきらかにお義兄様よりも大きいですよ?」
「ああ、大きいな!でもこれ実は見た目よりずっと軽いんだよ!それにこれくらいがカッコイイじゃないか!」
「・・・確かに、カッコイイですわね。」
「でしょう!」
「それでヴァルムロート、それには他にどんな機能があるのですか?」
「え?無いですけど?」
「はい?」
そう!スパロボの参式斬艦刀もそうだけど、これは刀が大剣になる、ただそれだけの機能しかもってないのだ!
まあ、そこが斬艦刀のロマンなんだよな!
「ただ大剣に変形するだけですよ?」
「そう、なのですか・・・。」
「あ、でも、これは杖を、こう、セットすれば杖内蔵型の剣になって魔法も使えますよ!」
そう言って俺は魔法で斬艦刀に炎を纏わせたり、斬艦刀の先から『ファイアーボール』を出したりした。
「な、なるほど。なかなか面白いものを作ったようですね、エレオノールは。」
「はい!・・・それでエレオノールさん、さっき言ってた変更箇所と注意点ってなんですか?」
「そうですわね。まず変更箇所なんですけど、元々この剣、斬艦刀でしたっけ?まあ、いいわ。この剣の刀身は鉄が何重にも折り重なって出来たものだったのですが、『錬金』による変形を行い元に戻す際にその構造を再現出来ないと分かったので素材は変わらないですけど構造が折りたたみ構造ではなく均一な金属になったわよ。そのままでは強度などが落ちたのですけど、そこは『固定化』と『硬化』で補うことにしたわ。さらに白い刃になっている部分は錆がひどかったので、かなりの部分を失しないはしたけどその分薄くして先を細くすることで本来以上の切れ味を出せるようになったの。そのことは先ほど実感したわね。こちらにももちろん『固定化』と『硬化』がかけてあるわよ。まあ、簡単に言えば形や材質は同じだけど構造が異なるものになったというわけ、分かった?」
「はい。分かりました。なんだか思ったよりお手間をかけさせたようですみません。」
「別にそこまでの手間じゃなかったわ。あとは片手剣の時にも持つところに杖が入る溝を作ったことと、剣がかなり切れ味が良くなったからそれに応じて鞘のほうにも強固に『固定化』と『硬化』を入念にかけておいたわ。」
「ありがとうございます。変更点は分かりましたが、注意点というのは?」
「それはね・・・。ヴァルムロート、そのまま2~3回変形を繰り返してみなさい。」
「はい。分かりました。」
俺は言われたまま変形を繰り返した。
片手剣、大剣、片手剣、大剣、片手剣。
「変形しなくなったわね?」
「そうね。なにも変わらないわね。」
片手剣から大剣にそれからまた片手剣に戻すことを3回続けると斬艦刀は、うんともすんともいわなくなった。
「あれ?あれ?・・・もしかして壊しました?」
俺は斬艦刀を上下に振ってみるが一向に変形する様子はない。
キュルケたちも変形しなくなったことに不安な表情をみせる。
不安になり、エレオノールさんの方を見るとその表情に焦りは見えなかった。
「いいえ、違います。“土石”の力が無くなったせいですわ。」
「土石の力、ですか?」
「ええ、この剣は『固定化』『硬化』『錬金』などの魔法を複雑かつ強固に組み込んだ作りをしているのは分かったているでしょうけど、それを維持するためには普通のマジックアイテムのようにはいかないの。だからそれを補うために“土石”の力を使っているのよ。『固定化』も『硬化』も『錬金』も全部土系統の魔法ですからね。」
「それは分かりましたが、土石の力は無くなってしまうのですか?」
「ええ、大体変形と戻すことを3回繰り返すと土石の力は無くなってしまうことが分かっているわ。」
「それで力が無くなったらどうしたらいいのですか?」
「それは簡単です。また新しい土石を装着すればいいのですよ。」
そう言ってエレオノールさんは土石を取り出し、持つところの先に付いていた石を外して、付け替えた。
「それでまた変形するようになったはずですよ。」
俺が『伸びろ!斬艦刀!』というと、片手剣から大剣に変形した。
「おお、戻った!つまり変形を3往復させたら土石を新しいものに替えないといけないということですね!」
ようは電池交換と一緒というわけだな。
電池は電気を提供するが土石は土の魔法の力を提供しているというわけだ。
「ええ、そういうことです。今後は自分で土石を調達しなさいね。」
「はい!分かりました!」
「では次はこれね。」
そう言ってエレオノールさんは次に短剣を4つ俺に渡してきた。
「え!?これも出来たのですか!?・・・早いですね!」
「それは簡単に出来たので剣と比べたらむしろ物足りない位でしたわよ。」
「あ、お義兄様それもこの前武器屋で買ってましたよね?それもマジックアイテム化したのですか?」
「そうなんだよ!じゃあこれもどんなふうになったか試してみるね。」
「今度はどんな風にマジックアイテム化したのかしら?」
「楽しみね!」
「ではヴァルムロート、これを狙ってみなさい!」
またエレオノールさんは『錬金』で地面から土の棒を出した。
今度は土のままだ。
「はい!」
俺は『ディテクトマジック』を使い、その土の棒を“認識”した。
そして4つの短剣をばらばらの方向に投げた。
そのどれもが目標に向かって投げてはいなかった。
「ダーリンってばどこに投げてるのかしら?全く方向違いのところじゃない。」
「そうね。でも何かあるんじゃない?マジックアイテムなんだし。」
「あ、それもそうね。」
俺が投げた短剣がただの短剣だったら土の棒には当たらなかっただろう。
しかし俺はこの短剣がマジックアイテム化する合図を唱えた。
「『行け!ファング!』」
すると、ばらばらに投げた短剣が弧を描き、土の棒に突き刺さった。
「・・・すごいわね。」
「・・・ええ。」
「ヴァルムロート、あれもあなたがマジックアイテム化をお願いしたものなのかしら?」
「はい。・・・あ!決闘などでは使用しませんよ!あれはあくまで暗殺などを警戒したものですから!」
「そうですか。」
「そうです!え、エレオノールさん、あれにも何か変更箇所や注意点があるのですか?」
「まあ、変更箇所というものではないのですけど、短剣にも一応『固定化』と『硬化』がかけてあるわ。それと注意点はさっきと同じようなものですけど、斬艦刀が“土石”なのに対してファングは“風石”を使用しているのはそのままです。こちらも力が無くなったら飛ばなくなるので“風石”を交換すれば問題ないですわ。ただ・・・。」
「ただ?」
「これ、一度発動させると対象に刺さるか、使用者が対象を解除するかしないと止まらないのよね。」
「え、えーと。つまり、風石の力が続く限り対象を追いかけ続けるということですか?」
「そういうことね。因みに剣などで払ってもまた飛んで追いかけてくるわよ。『ディテクトマジック』も発動しているから隠れても無駄ね。『固定化』と『硬化』をかけたからそうそう破壊もできないわね。」
その説明を聞いたこの場にいた皆がごくりと喉を鳴らした。
何気に凶悪武器が出来てしまったことに俺自身少し恐怖を感じた。
「・・・そうなんですか。」
「まあ、風石が貴重なこともあるけれど・・・あまり多用はしない方がいいわよ?」
「分かりました。気を付けます。」
「それにしてもダーリンはよく次から次にいろいろなものを考えるわね。」
「ま、まあ、ね。・・・思いつきだよ、思いつき!」
「それにしてもお義兄様は今『ブレイド』に『フランベルグ』という魔法の剣みたいなものがあって、さらに今回ザンカントウとファング?でしたっけ、が加わって全部で7本も剣を使うことになるのですね!」
「あら、本当!?多いわね。大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ、カトレアさん。ファングはほとんど使いませんし。実質3本みたなものですよ。それにあまり武器を使うのはメイジとしては好ましくないようですし。」
「そうよ。ヴァルムロート。今回は興味深かったので協力しましたが、あまり貴族に反するようなことはしないようにね!」
この中で初めからお義父さんが一言も発言していないことに俺は気が付いていなかった。
言葉を失っていたお義父さんにお義母さんが声をかける。
「そういえば、あなた。一言も言葉を発していないですけど、どうかなさったのですか?」
「いや、な。ツェルプストーから聞いていたが実際目にするとな・・・。」
「ああ、ヴァルムロートが変なことや面白いことを突然思いつくという話ですわね。そうですね・・・。確かになかなか愉快ではないですか。」
「ああ、本当に優秀だ。これだったら生まれてくる子供もさぞ優秀なのだろうな。」
「そうですわね。まさか・・・あなた!」
「ああ!カトレアに2人目の子供が生まれたら養子に貰おう!エレオノールは・・・だし、ルイズも家を出ていくだろうしな。」
「そうですわね。まだ先の話でしょうけど、それも視野に入れておかないといけませんね。」
などというヴァリエール家の将来設計が着々と進んでいるとは思わなかった。
お披露目が終わって皆それぞれの部屋に戻っていった。
俺は斬艦刀でこれまで休んでいた剣の稽古を少しやると言って、その場に残った。
「7本の剣、か。俺のセブンソードだな!」
そう言って俺は斬艦刀を空に掲げた。
<次回予告>
この世界の魔法って攻撃だけじゃなくて、防御する魔法もあるんだよな。
火の系統魔法に無いからすっかり忘れてたけど。
『シールド』っていう魔法なんだが、これって実は・・・。
第49話『一定以下完全防御系よりダメージ減少系のバリアの方がめんどくさい』
次は9/3頃の更新を目指して頑張ります。