49話 一定以下完全防御系よりダメージ減少系のバリアの方がめんどくさい
「うわっ!」
俺は『エア・ハンマー』の直撃を受けて吹っ飛んだ。
お義母さん、いや訓練中は師匠か、と何度目かの模擬戦を行っている。
「いてて・・・。」
「・・・今日はここまでにしましょう。ヴァルムロートは今日直撃を受けた回数分練習場の外周を走ってから終わりなさい。」
「わ、分かりました!」
今日俺が直撃を受けた回数は8回だから、練習場の外周を8週走ることになった。
俺は模擬戦の後の疲れた体を引きずって走り出した。
——走り出したヴァルムロートを見ながらカリンがポツリとつぶやいた。
「あの子・・・どうしてシールド系の魔法を使わないのかしら?」
週が明けて、訓練の時間になった。
「今日は風系統の魔法の訓練をするわよ。」
「はい!」
「・・・その前にヴァルムロート、あなたに聞きたいことがあります。」
「なんですか?師匠?」
「前回の模擬戦の時に気が付いたのですけど、あなた・・・どうしてシールド系の魔法を使わないのですか?使えば魔法が直撃する回数がぐっと減ってさらに戦略に幅が広がるのではなくて?」
「シールド系の魔法ですか・・・。でも火系統にはシールド系の魔法はありませんよ?」
「あなたは火の他にも水や風があるでしょう?どうして使わないのですか?」
「あはは・・・でも、水の『ウォーター・シールド』は事前に水を用意しないといけないし、風は事前準備はいりませんが僕って風メイジとしてはまだドットですから・・・。」
水や風は火と違ってなかなか扱いが強くならないからちょっと苦手意識があった。
俺は風の系統が苦手だとさとられないようにアハハと笑いながら答えた。
「まあ、近くに水が無い場合の『ウォーター・シールド』は模擬戦の中で使用するのが難しいというのは分かりますが、『エア・シールド』はドットスペルですから今のあなたでも十分に出来るものですよ。」
「う・・・。でも、攻撃に当たらなければどうということはありませんし・・。」
「ヴァルムロート。この前の模擬戦で何回私からの攻撃で直撃をうけましたか?」
「・・・8回です。・・・・分かりました。今度からg」
「今度ではありません!今から!練習しますよ!」
「わ、分かりました!・・・それでどうやって練習するのですか?」
「簡単ですよ。あなたが『エア・シールド』を使って、私がそれに攻撃する。・・・ね、簡単でしょう。」
師匠はさも簡単そうに言い放った。
しかし俺にはドット程度のシールドでスクウェアの攻撃が防げるのかが疑問だった。
「・・・本当にその方法で行うのですか?」
「ええ!さあ、早くしなさい!」
「分かりました・・・。」
急かしてくる師匠に俺はしぶしぶ『エア・シールド』を自分の前方2メイルくらいのところに展開した。
このように俺は『シールド系』の魔法を使えないということは本来ないのだ。
ただ、これまで一番ランクの高い火の系統魔法を重視した魔法ばかりを中心に練習、新魔法開発していたのでどうしても攻撃一辺倒になっていたことには少し自覚があった。
「い、いいですよ・・・。」
口ではいいと言ったが、正直な話嫌な予感しかしなかった。
俺から離れた場所にいる師匠が『エア・ハンマー』を放った。
ここで『エア・シールド』について簡単に説明しておこう。
『エア・シールド』は文字通りに空気で出来た盾だ。
任意の空間に空気の層のようなものを形成し、その空気の層で攻撃を受け止めるというものだ。
この空気の層は体に全く接していないので完全に攻撃を防いだ場合は衝撃などもまったくない。
ただ『エア・シールド』の防御を上回ると空気の層が押されて、押された方向に術者がいた場合は術者自身が押されたり、衝撃が伝わったりする。
そして、攻撃が『エア・シールド』の防御を遥かに上回る時は・・・。
カリンさんが放った『エア・ハンマー』が俺の『エア・シールド』に接した。
次の瞬間!
俺の『エア・シールド』は瞬く間に貫通された。
『エア・ハンマー』はほとんど勢いを殺さずに『エア・シールド』の後ろに立っていた俺にぶち当たった。
その瞬間に俺はまるでだれかに全力タックルされたような衝撃を受け、受け身を満足にとれないまま後ろに吹っ飛ばされた。
攻撃が『エア・シールド』の防御を遥かに上回っているときはシールドがその場で破壊もしくは貫通され、威力がほとんど落ちないまま術者を直撃する。
そう、例えるならばスパロボでATフィールドが4000以上の攻撃で無効になるように。
俺はごろごろ地面を転がった。
あれだけ転がって擦り傷程度の怪我で済んでいるのはこれまで散々吹っ飛ばされたおかげで自然とダメージが少ない転がり方を体が学習したのだろうか?と少し真剣に考えてしまう。
「あら?・・・ちょっと強すぎたかしら?弱くしたつもりだったのですけど・・・。」
師匠もドットランクの『エア・シールド』に自分の魔法を試したことが無かったようで、この結果に少し驚いていた。
そんな師匠の様子を見ながら、やっぱり嫌な予感というものは良く当たる、と思いながら俺は立ち上がった。
「いてて・・・。まさか全く機能しないとは・・・。」
同じ練習場で魔法の練習をしていたキュルケとルイズ、そしてリハビリの為に運動を始めたカトレアさん達がこちらに駆け寄ってきた。
「お義兄様!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫、だと思う。」
「でもダーリン、あんなにきれいに飛ばされるなんてなんの訓練をしてたの?」
「ああ、『エア・シールド』の訓練を、ね。」
「あらあら、シールドの練習ですか?それにしては全く防げていなかったようですけど?」
「ええ、まあ・・・その通りです。」
カトレアさんのリハビリに同行していたミス・リッシュが診察してくれて、俺の体には擦り傷以外の怪我がないことが分かり、その怪我を治すのを確認してからキュルケとルイズは魔法の訓練に戻っていった。
カトレアさんとミス・リッシュにはまた俺が吹っ飛ばされた時の為に近くでリハビリをしてもらうことになった。
「それにしても私の攻撃が全く防げないとは・・・困りましたわね。」
「そうですね・・・。ドットクラスではスクウェアの攻撃は防げないようですね。」
「他のものに攻撃役を変わってもいいのですが、それでも私との模擬戦ではシールドは使えないことに変わりありませんからね・・・。」
「・・・シールドの強度を上げる方法とかはないのですか?」
「そうですわね・・・。基本はメイジのランクが上がれば強度はそれ応じて上がっていくと思いますけど・・・。シールドを幾重にも重ねるのは1人では無理ですからね・・・。」
師匠の言葉に俺は以前魔法を調べた時に精神力を使い続ける依存型の魔法は同時使用できないということを思い出した。
「そうですか・・・。」
「ミス・リッシュにも意見を求めてみましょう。ミス・リッシュ!ちょっといいかしら?」
師匠が近くでカトレアさんのリハビリに付き合っているミス・リッシュに声をかけた。
「は、はい!カトレア様、少し休憩を取っていて下さい。」
「はい。分かりました。」
ミス・リッシュはカトレアさんを木の影に移動させるとこちらにやってきた。
「カリーヌ様、どうなさいました?」
「今ね、ヴァルムロートとシールドの強化について話していたのだけど、使用者のランクアップと複数人による重ねがけ以外になにか方法はないかしら?」
「その2つ以外の方法でシールドの強化方法ですか?そうですね・・・。これは『ウォーター・シールド』の話ですがシールドに使用する水が多いほどシールドとしての壁を厚くしたり、水に力を加えることで壁の質を上げることで強度を上げることが出来ます。」
「『ウォーター・シールド』にはそういう方法があるのね・・・。でも、『エア・シールド』にその方法を応用するにはドットクラスでは難しいかもしれませんわね。」
師匠はおそらく『エア・シールド』で使う際の空気の層を厚くしたり、空気を圧縮して質を上げることを考えたのだろうが、師匠も言うようにドットではそれは難しいと俺も思う。
「はい。僕も今のランクではちょっと無理があると思います。」
「そうですか・・・。」
「ご苦労でした。カトレアのリハビリに戻って結構ですよ。」
「お役に立てなくて申し訳ありません。」
「いえ、そんなことはないですよ。貴重なご意見ありがとうございます。」
ミス・リッシュがカトレアさんのところに戻った後、俺と師匠は腕を組んで考え込んだ。
うーん・・・シールドの強化か。どうしたものか。
でも今のランクではシールドを強化するにもあと一手足りない感じだし・・・。
むしろ今の状態で考え方を変えた方がいいのかも・・・。
よし、ここは俺が知っているバリアを参考にしよう。
バリアといえば“光子力バリア”!
・・・はダメだな。パリーンって割れちゃうし。
さっきも考えたけどATフィールドは心の壁だからな。
参考にはならないか・・・。
それにあくまでゲームのイメージだけど光子力バリアみたいな感じだしな。
ファンタジーな世界観のオーラバトラーの“オーラシールド”はどうだろうか。
・・・だめだな。
あれは常に発動しているようなものだからな・・・そこにある力場みたいなものだし。
ナデシコの“ディストーション・フィールド”・・・も、そこにある力場か。
スパロボの“念動フィールド”は・・・あれは超能力を強化して作った壁みたいなものだからな。
俺は今は魔法使えるけどそれ以外は普通の人間だしな。
念動力使えたり、未来予知とかは出来ないし。
同じくスパロボの“グラビティ・ウォール”は・・・お、これっていけそうじゃね?
「師匠!思いつきました!」
「そうなんですか?どんなものか話してみなさい。」
「はい!今の『エア・シールド』はただの空気の壁ですが、これに下向きの空気の流れを作れば今の僕のランクでも少しは強化出来ると思います!」
「・・・下方向に、ですか。それには少し問題があるように思えますけど。」
「そうですか?」
「そうですね。ものは試しです。ちょっとやって見なさい。」
「はい!」
俺は『エア・シールド』に下向きに空気が高速で流れているいるイメージした。
俺の前には『エア・シールド』の下向きの力により砂埃が起こる。
「では、行きますよ!」
そういって師匠は『エア・ハンマー』を放った。
師匠の放った『エア・ハンマー』は俺には直撃しなかった。
『エア・ハンマー』は『グラビティ・ウォール(仮)』を貫通しつつ、下向きの力により方向が変わって俺の足下の地面に落ちた・・・見えないから想像だけどね。
そして、『エア・ハンマー』により地面が爆ぜた。
その衝撃により俺は再び吹き飛ばされ、直撃したときよりかは少ない距離を飛んで地面に転がった。
俺は再び駆け寄ってきた皆に心配されながら、今度もミス・リッシュに治療してもらった。
今回も軽い傷程度で済んだが爆ぜた砂や石ころでダメージは確実に増えていた。
「はあ・・・。これは失敗でしたね。」
「そうですね。下方向に力を入れたのではさっきのように魔法が地面に当たって、間接的な攻撃を受けたり、対象よりも上から攻撃した場合直撃する可能性もありますわよ。」
「下方向以外だったら・・・いや、直撃する可能性は消えないですね。」
「しかし、弱くしたとはいえ先ほどは直撃した私の攻撃が今度は直撃しなかったところを考えると方向性は良かったのかもしれませんね。」
「方向性はいい、ですか。・・・攻撃を防ぐから直撃を避ける・・・ん?」
俺は自分の言った言葉に何か引っかかるものを感じた。
・・・なんかどっかで見た?聞いた?ことがあるな?どこだっけ?
そう思い、俺は自分の記憶を探ってみた、漫画、アニメ、ゲームと。
そして俺はもっとも俺がオリジナル魔法を考えるときの基礎となる存在を忘れていたことに気が付いた。
「・・・あ!」
「どうしました?また何か思いつきましたか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう言って俺はさらに鮮明に思い出そうと試みる。
そしてどうしていままでそのことを忘れていたのかと自分を叱ってやりたくなるのを師匠の手前、ぐっと抑え込んだ。
こんなに今の俺の状況にピッタリな設定をもった者、いや、機体がいたことを!
俺が思い出したのはクロスボーンガンダムX3だった。
ここでクロスボーンガンダムのコンセプトを簡単に説明すると、F91の時代から普及し始めた“ビームシールド”と呼ばれるビームで出来た協力な盾の出現により遠距離からでは有効な攻撃が行い辛くなったので、だったら接近して“ビームシールド”ごと相手を切る、というシンプルなコンセプトのガンダムだ。
もちろんそんな強力な盾である“ビームシールド”をクロスボーンガンダムX1とX2は装備していないわけがないが、俺の思い出したX3には実は装備されていない。
X3には“ビームシールド”が装備されない代わりに“Iフィールド”が装備されている。
“ビームシールド”は普通のMSの手持ち武器では破れないほど強力だが、ヴェスバーなどの一部の強力なビーム兵器や戦艦の攻撃には抵抗できず貫通し、機体が大破してしまう。
一方、“Iフィールド”は“ビームシールド”のように攻撃を無効化は出来ないが、“ビームシールド”を貫くようなビームでさえも湾曲させて機体への直撃を防ぐことができるのだ。
つまり何が言いたいかというと、ある程度の攻撃を無効化し、一定以上の攻撃は貫通したりする『エア・シールド』が“ビームシールド”であり、俺がこれから目指すのが魔法版の“Iフィールド”であるということだ!
・・・まあ、さっきの『グラビティ・ウォール(仮)』の方向をちょっと変更するだけなんだけどね。
「師匠!思いつきました!今度は大丈夫だと思います!」
「なんだか自信があるようですね。では聞かせてもらいましょうか。」
「はい!先ほどは1方向の空気の流れでしたがそれを2方向以上、とはいえ今は2方向で精一杯でしょうが、作ることで直撃する危険が大幅に減ると思います!」
「そうなの?それでは早速試してみますか?」
「はい!お願いします!」
俺は前方に中央から左右に空気が流れるような半球状のシールドをイメージした。
師匠が少し離れた位置から『エア・ハンマー』を放つ。
放たれた『エア・ハンマー』は『I・フィールド(仮)』に接すると右方向に俺の服をかすめながら過ぎ去っていった。
「あら?今度はうまくいったのかしら?でも今のは左にそれたから少し右に撃ってもいけるでしょうね?」
そう言って師匠は次に放った『エア・ハンマー』が俺の左側をかすめていった。
「・・・出来た。でも、ぎりぎりだったな。」
「今度は上手くいったようですね。しかし空気の流れを1方向から2方向にしただけにしては先程よりも『エア・ハンマー』が曲がっていたように思えますけど?」
「はい。実は一工夫しまして、先程のものは平坦な壁でイメージしていたのですが今度は半球状でイメージしたためと思われます。」
「その違いでどう変わったというのですか?」
「平坦な壁だけでは通り過ぎるときにしか効果がありませんが、半球状にすることで通り過ぎても壁に接しているのでより効果が高くなります。・・・ただ『エア・ハンマー』のように大きいものには効果が高いですが、小さいものや貫通力が高いものには今のランクのままではあまり変わらないですけど。」
「それなら問題ありませんね。」
「え?」
「これからもっとバシバシ扱くのですぐにランクが上がりますわ!」
「・・・お、お手柔らかに、お願いします。」
これまで異常にやる気をみせる師匠の気迫に俺は少し押されてしまう。
しかし、防御魔法はこの『I・フィールド』でいいだろう。
これなら水で使っても応用可能だしな。
「・・・でも『I・フィールド』ってX3やニューみたいなその都度発動させるタイプの方が少なくて、大抵は常に発動してるタイプなんだよな。魔法でそれをすると魔力がいくらあっても足りないよな・・・。それが出来れば暗殺には最適な防具になるのに・・・またマジックアイテム、作ってもらうか?今度も何か要求されるのかな?」
「作ってあげてもいいわよ?」
次の虚無の曜日になり、帰ってきたエレオノールさんに修正したレポートを出しに行った時にちょっとお願いしてみたのだが以外とあっさり了承してくれた。
「本当ですか!」
「ええ、その代わり・・・。」
やはり、ギブアンドテイクなのか、次はどんな事についてレポートを書かされるのか?と俺は身構えた。
「な、何ですか?今度は何をすれば?」
「別に何もしなくてもいいわよ。ただ作ったマジックアイテムを私やカトレア達に渡すけどいいわよね。」
「ええ、それはいいですけど。本当に何もしなくてもいいのですか?」
「・・・あなたが提案した『I・フィールド』を発生するマジックアイテム『IFG(I・フィールド・ジェネレータ)』はいつどこから攻撃されるか分からない暗殺には最適なアイテムになるでしょう。そしてあなたが狙われるなら近くにいるカトレア達も巻き添えを受けるかもしれないでしょう?私だって家族が守れるならそれに越したことはないと考えていますからね。・・・あ!そこまでいうなら手伝ってもらいましょうか。」
不用意な発言で結局のところ何かやらされるハメになってしまった。
墓穴を掘ってしまったと数秒前の自分を恨んだ。
「うう・・・。分かりました。それで何を手伝うのですか?」
「簡単ですよ。私が『IFG』を作ってあげるのであなたがそれを使ってみてその使ってみた感想や改善点などを私に教えてくれればいいの。」
エレオノールさんはどうやら俺に試作品のモニターになれと言っているようだった。
実際に俺が使うモノなのだし、それはこちらからお願いしたいくらいだと思う自分を少し現金なやつだなと思った。
「分かりました。」
「あ、あなたなら改善するための対応策を考えられるでしょう?それもして頂戴。」
「は、はい。分かりました。」
「よろしい。では試作品を作ったら送るわね。ちなみにどんな形がいいとか要望はあるかしら?」
「いえ、無いですね。エレオノールさんにお任せします。」
「そう・・・。分かったわ。任せておきなさい!」
エレオノールさんに頼んでから5日後、小包が送られてきた。
中にはネックレス型の『IFG』の試作品と手紙が2通、それと小さな“風石”が多数入っていた。
1通は『IFG』の取扱説明書でもう1通は今度の虚無の曜日は帰れないので試作品の『IFG』を使ってみてその感想や改善点を返信して欲しいと書いてあった。
早速取説を読むと、
・『IFG』の『ディテクトマジック』は半径約3メイルで常に発動
・『ディテクトマジック』により半径3メイルに入ってきた魔法に対して『I・フィールド』を発動
・また魔法、弓や銃の弾などその攻撃の種類に関わらず、この範囲に一定以上の速さを持って侵入すると『I・フィールド』が発動
・『I・フィールド』自体はラインクラスの威力で空気の流れも攻撃に対し上と左右の3方向で発動
・稼働媒体には“風石”を使用
・効果時間は『ディテクトマジック』だけなら1ヶ月位だが、1度でも『I・フィールド』が発動した場合は“風石”の交換が必要
と、書いてあった。
「・・・試作品でこの出来か。すごいな。早速使って感想を書いて送ろう!」
魔法の訓練の時に師匠と一緒に『IFG』の性能実験を行った。
まず実験では俺が身に付けてもいいが、いろいろ試したいので地面に立てたカカシのような的に『IFG』を付けた。
その結果、
「恐らく、このくらいが普通のスクウェアの威力でしょう。」
この前俺に放ったものよりも威力の高い『エア・ハンマー』——しかし、それでも師匠としては抑えているらしいが——でも、直撃は避けることが出来ていた。
・・・カカシの手は折れたが。
次により貫通力が高い『エア・カッター』でも直撃だけは避けれていたが、的の中心から50サントより外側は見るも無残な感じとなっていた。
これが人の身体の場合だと頭や胴体は守れけど腕とか脚は切られるというわけだ。
・・・恐ろしいな。
後は弓と銃なんだけど、ヴァリエール家には銃が置いてなかったので弓だけで試した。
弓の場合は完全に防ぐことが出来た。
弓の結果からこの世界の銃位なら防ぐことが出来るだろうと俺は思った。
次に効果範囲の3メイル以内から攻撃してもらったところ、魔法ではやはり距離が近いせいか先程よりは効果が薄かったが、弓ではもともと普通の『エア・シールド』で防げるだけあってこの近さでも完全に防いでいた。
さらに近づいて斬りかかってみた。
まず普通に俺が斬艦刀で上段から斬りかかったところ、ちゃんと発動してカカシの頭を狙ったのが逸れて、カカシの腕を切ることとなった。
次に師匠に『エア・ニードル』で心臓付近をめがけて突いてもらうと、それも逸れて脇をかすった。
一定以上の速さで発動するのでゆっくり刺してみると、発動せずに刺さった。
そこでどの位の速さなら発動するか調べたところ、人が走ってタックルしてくる位のスピードで発動することが分かった。
次に師匠と2人で攻撃したところはじめの攻撃は防げるが続けざまの2回目の攻撃には“風石”の力がなくなったらしくそのまま当たった。
2回目が発動しないことは取説にも書いてあったし、初撃さえ防げればあとは自分で警戒出来るから問題ないだろう・・・多分。
とりあえずこれで大体試したいことが終わったので、新しい“風石”に付け直した。
後は日常生活の中でIFGを着けていると何が起こるのかを調べる為に俺はカカシからIFGを外して、自分の首に下げた。
そして早速訓練中に問題が発覚した。
今日の訓練は風の魔法だったのだが・・・なんと!
『IFG』を付けたまま俺が魔法を使おうと魔法を発動させた時、『I・フィールド』が発動して魔法をかき消したのだ!
いきなりの事だったので俺は困惑し、師匠も驚いていた。
“風石”を付け直して再度行なっても、同じ事が起こった。
これでは訓練にならないということでIFGに新しい“風石”は付けずにそのまま訓練を続けた。
このことはエレオノールさんに対応策を考えて、報告しておかないとな。
さらに普通の生活の中でも問題が起きた。
まず駆け寄ってきたルイズを吹き飛ばした。
なんとか『レビテーション』を使って吹き飛ばされたルイズを地面に落ちる前に助けることは出来たが、突然吹き飛ばされたルイズは不機嫌になってしまい機嫌を直すのに苦労した。
それからまた廊下を歩いているとなにか慌てたメイドさんが走って横を通り過ぎようとした時に発動し、危うく転ばすところだった。
転びそうになったメイドさんは青い顔をして何度も謝っていたので、こちらにも非があったことを伝えたが聞こえてないくらいに謝っていた。
そこでもう廊下を走らないようにと注意するとメイドさんはようやく謝るのを止めて、歩いて行った。
・・・あと、俺が走っていて誰かの横を通り過ぎても発動した。
その時は驚きを通り越して、少し呆れてしまった。
どうやら『IFG』の一定の速度とは絶対的な速度ではなく相対的な速度だったようだ。
・・・これは厄介だな。
人が走るくらいの速度で反応するのは困りものなのでエレオノールさんに報告して改善してもらおう。
そして数日間試作品を使った感想やその際における問題点とその対応についてレポートを書き、試作品と共にエレオノールさんに送った。
手紙を送ってから一週間くらい経つと、新しい試作品と変更点の書いた手紙が送られて来たので同じように数日間着けて、改善されたことや新たな問題点を書いて送り返す。
そんなことを2回ほど繰り返した。
そしてとうとう『IFG』を完成することが出来た。
初期のものからの変更点は、
・『ディテクトマジック』により外側から内側に向かってくるものに対して反応し『I・フィールド』が発生し、内側から外側に向いているときは無反応
・認識速度の設定を変更し、走る程度の速さでは無反応
・さらに『ディテクトマジック』の効果範囲に入っていても横を通過するようなものには無反応
と、追加された機能はないがより使い易くなったはずだ。
これで不意打ちされてもなんとかなるだろう。
完成版の『IFG』は俺のと予備、その他に3つ入っていたのでキュルケとカトレアさん、ルイズに渡しておこう。
「あら?私にくれるの?ありがとう!ダーリン!」
「ありがとうございます。あら?中の石は風石ですか?」
「え!?私にもくれるのですか?ありがとうございます!お義兄様!」
庭でお茶会をしていたので3人同時に『IFG』を渡すことが出来た。
俺からの突然のプレゼントを嬉しそうに受け取ってくれて、ほっとする俺がいる。
『IFG』の見た目は中に青い石の入ったペンダントでデザインも試作品はただ風石を固定するための爪がある四角い形だったが、この完成版はなにやら凝った装飾が施されていた。
マジックアイテムと言われなければ、普通の装飾品だと思う出来だった。
「・・・でも、突然プレゼントなんてどうしたの?ダーリン?それにカトレアさんとルイズに渡したネックレスも同じものみたいなんだけど?」
「いいじゃない、キュルケ!折角お義兄様が下さるのだから!」
いきなりプレゼントをした俺にキュルケが疑問を投げかけてきたが、ルイズがそれに食って掛かった。
そんなルイズをカトレアさんが軽く注意していた。
「確かにキュルケが疑問に思うのも仕方ないと思うよ。3人にあげたペンダントはただのペンダントじゃなくてマジックアイテムなんだよ。」
そうして俺は『IFG』の性能とどうして3人にそれを渡したのかを簡単に説明した。
「そうだったの。ありがとう、ダーリン!」
「いや、皆にこれを渡すのを思いついたのはエレオノールさんなんだけどね。」
「・・・エレオノール姉様が、ですか。」
ルイズはなにか複雑な表情をしている。
ルイズはエレオノールさんに苦手意識持ってるようなので、自分を心配してくれてるのが信じられないのかな?
「それでヴァルムロートさん。このペンダントをいつも身に着けておいた方がいいのかしら?」
「そうですね・・・。家にいるときは別に着けていなくてもいいかもしれませんが、外出する時などはなるべく身に着けておいて欲しいですね。まあ、暗殺で狙われているのは僕なのでカトレアさんを狙ってくることはないと思いたいですけど。」
「分かりました。家から出るときは常に着けておくようにしますわね。」
「お願いします。キュルケとルイズもそういうことで頼むな。」
「分かったわ!」
「はい!」
夜、ヴァルエール家の宛がわれた自室で『IFG』を眺めていた。
「ふう。これで暗殺される確率はかなり減った・・・よな?でも最初の1撃しか防げないから次の攻撃を防いだり、返り討ちにしようと思ったら結局俺自身がもっと強くなるしかないよな。・・・うん、もっと頑張ろう。」
そうして俺は明日からの訓練をこれまで以上に真剣に取り組もうと心に決め、気力を養う為に少し早めに眠りについた。
<次回予告>
必中・熱血・幸運そしてサイバスターといえば、後の説明は不要だろう。
第50話『対複数同時攻撃魔法』
次は9/8頃の更新を目指して頑張ります。