51話 湖の畔で
「キュルケ、カトレアさん、ルイズ。明日の虚無の曜日はどこかお出かけしませんか?」
俺は夕食後の紅茶の時間にそう切り出した。
「いきなりね!?どうしたの?・・・あ!」
キュルケはいきなりで面食らった顔をしたが、すぐにニヤッと笑った。
「デートのお誘いね!・・・そうね。どこがいいかしら?」
「お、お義兄様!?私もですか!?」
ルイズはキュルケのデートという言葉を聞いて顔を赤くしている。
「ああ。あ、もしかして都合が悪かったかな?」
「いえ・・・悪くない、です。」
「あらあら、ルイズったら。でも本当にいきなりですね。なにかあったのですか?」
ルイズの様子を微笑ましく見ていたカトレアさんだったが俺の行動に疑問に思う所があったようだ。
「やっぱりいきなり過ぎました?ここ最近魔法開発で誘いを断っていたじゃないですか。それでその穴埋めをしようと思いまして。」
俺はここ最近付き合いが悪かったことを反省してキュルケ達を誘うことを考えていたことを話した。
「なんだ、そういうことだったのね!別に気にすることないのに。・・・でも、嬉しいわ!」
「そ、そういうことだったのですね。そういうことは先に言って下さい。」
「そういうことなのね。でも、行きたい所・・・あ!あそこはどうかしら?」
カトレアさんがなにか思いついたように2人に同意を求めた。
「ちぃ姉様?どこのことですか?」
「ほら!あの甘くて冷たいお菓子を出すお店のことよ!」
「あのお店のことですね!確かにあのお菓子はいままで食べたことが無かったですし、なにより今の季節にちょうどいいものでしたね!」
女性陣がなにやら以前食べたお菓子の話で盛り上がろうとしていたが、俺にはなんの話か分からなかったのでキュルケに聞くことにした。
「キュルケ、前食べたお菓子って何?」
「なんでもガリアから入ってきたお菓子らしくて、暑い今の季節にぴったりの冷たくて甘いお菓子なの!」
そう言えば、メイドさんが最近そんな話をしていて、それを聞いたコック長がどんなモノか食べに行ってみようと言っていたことを思い出した。
今の季節は夏真っ盛り!・・・と、いってもいうほど熱くないし、じめじめしてないし、なによりセミが鳴かないから俺としてはそこまで夏って感じじゃないんだけどね。
ただこういう熱い時期に冷たいものが欲しくなるもの頷ける話だし、しかも甘いモノとなれば女性に大いに人気が出るのは当然と言えるだろう。
「へえ、僕も食べたかったな。それでそのお菓子の名前はなんて言うの?」
「確か・・・ジェラート、だったかしら?」
ジェラートと聞いて俺は前世の記憶からそう呼ばれるものがアイスの一種であることは予想が付いた。
そして、アイスならば・・・と俺はこう思った。
「ジェラートか・・・それなら作れるかもな。」
俺は前世で子供のときに氷の実験のついでにアイスを作ったことを思い出して、そうつぶやいていた。
「え!?それ本当!?」
「お義兄様!あのお菓子を作れるのですか!?」
「あのお菓子はうちでも出来るものなの?!」
俺のつぶやきは決して大きいものでは無かったが、3人は聞き逃さなかったようだ。
「え!?か、簡単なものなら・・・出来ると思うけど?」
俺がそう言うと3人は顔を見合わせて、そして同時に頷いた。
「ダーリン!明日は街に行かなくてもいいわ!」
「だから、お義兄様!」
「明日は私達にそのお菓子を振舞ってほしいの!」
「「「ね!いいでしょう?」」」
「あ、ああ・・・それでいいのなら構わないけど、普通にお店で食べたほうがいいんじゃないの?そっちの方がちゃんとしていると思うし・・・。」
俺は3人の妙な気迫に押され、しどろもどろになりながらも美味しいモノが作れる自信が無かったのでそう答えた。
「いいのいいの!」
「私はヴァルムロートさんが作ったものが食べてみたいわ。」
「そうですよ!お義兄様!」
しかし3人はそれでも俺が作るものが食べたいと聞かないようだった。
仕方ないので俺は謝罪の意味も込めて、せめて美味しいモノを作れるように努力しようと決めた。
「・・・そうか。じゃあ、明日のブランチに間に合うようにしよう。それでいいかな?」
「ええ。それでいいわ!」
「楽しみです!お義兄様!」
「頑張ってね!期待していますね!」
こうして明日の虚無の曜日は3人にアイスを振る舞うことになった。
そして虚無の曜日。
「お義兄様!起きて下さい!朝ですよ!」
今日もルイズが起こしにやってきた。
なぜかヴァリエール家に来てからの日課となっているようだ。
「う、うーん・・・まだ日も出ていないじゃないか。もう少し寝させて・・・。」
俺はカーテンの隙間から空がまだ薄紫色なのを確認して、眠そうに答えた。
「ダメです!ジェラートを作って下さるのでしょう?でしたら早く起きて準備しないと!」
「準備は昨日内に終わらせているから、後は作るだけだから・・・もう少し寝させて。」
昨日あの後すぐに俺は厨房に行き、道具や材料があるかを確認した。
いきなり俺が行って、アレはあるか?コレはあるか?と聞いたので、コック達がかなり恐縮していたのは正直申し訳ないと思った。
そこで俺はアイスを作る為の材料の分量がうろ覚えだったことに気づいた俺はその場でいくつか試作品を作った。
そしてさらにそれ改良して・・・と一番いいものを作るのにコック達にも手伝ってもらったが結構時間がかかってしまった。
そのせいで少し寝不足なので本当ならもっと寝たいところなんだが・・・
「でも作るのにも時間がかかるでしょう?もう朝食を用意させているので早く起きて下さい!」
ルイズは聞く耳を持たずに俺の体を揺らしまくるのでしぶしぶベッドから起き上がった。
ルイズと一緒に早めの朝食を食べた俺は早速厨房に向かった。
因みに朝食の時に俺とルイズしかいなかったので、キュルケやカトレアさんは?と聞いてみると他の皆はまだ寝ているだろうということだった。
ルイズ・・・どれだけアイスを楽しみにしていたんだ。
朝食の準備をしているコック達に挨拶をして、急遽用意してもらったエプロンを付けた。
「それでお義兄様、どうやって作るのですか?」
なぜか俺とおそろいのエプロンをつけたルイズが聞いてきた。
「付いてきたのか?まあ、いいか。準備するのは卵、ミルク、砂糖、生クリームと氷と塩だな。」
簡単なものだし材料はこんなところだろう。
目の前に用意された材料を見ながら、「そうなんですか」とルイズは感心していた。
俺はまず大きめのボールに魔法で作った氷と水を入れ、そこに塩を適量加えた。
「ねえお義兄様!どうして氷水に塩を入れるのですか?」
塩入の氷水を混ぜているとルイズがボールを覗き込みながら言った。
「ああ、これはこの氷水をさらに冷たくするためだよ。」
俺は卵を割って、白身と黄身に分け、それぞれ別のボールに入れた。
「どうして氷水に塩を入れるとさらに冷たくなるのですか?」
興味津々といった感じで氷水のボールを触ったり、氷水に指を入れたりしながらさらに聞いてきた。
氷水に塩水を入れる理由は塩水にしたことによる凝固点降下や物体が個体から液体になるときに熱を吸収する為なんだけど・・・この原理はまだこの世界には解明されてないだろうから言ったらダメだろうし、どうするかな?と考えたのち俺はこう答えた。
「・・・なんでかな?たまたま塩を入れたら冷たくなったから使ってるだけで、どういう原理だろうね?まあ、経験則みたいなものだと思ってくれていいよ。」
以前から思っていたことだが魔法があるせいで科学や物理などの学問はまったくといってもいいほどなくて、せいぜい経験則はあるけど原理は知らないといった感じだ。
それにブリミル教があるせいで魔法以外で不思議なことを行うと異端者にされるみたいだからな、気を付けないといけない。
ただ魔法を使って科学的な反応や物理法則を応用するのは全然問題ないのだけど。
「そうなのですか?」
ルイズは腑に落ちないような顔をしている。
いきなりやっておいて「なんでかな?経験則かな?」では素直になっているルイズとはいえ、簡単には納得してくれないようだ。
ごまかすのには無理があったかもしれないけど、しょうがないよね。正直に言っても分からないと思うし。
「・・・そうなんだよ。はい、ルイズもここに来たなら手伝ってね。」
俺は話を変えるようにルイズに白身が入ったボールと泡だて器をルイズに渡した。
「・・・お義兄様、これは?」
「ルイズにはメレンゲを作ってもらおうと思って。まずは角が立つまで混ぜてね。」
「はい!」
ルイズが一生懸命白身をかき混ぜ始めたので、俺もメインとなる黄身の方にミルク、砂糖を適量加えながら混ぜていった。
さらに塩入りとは別の氷水を用意し、別のボールに生クリームと砂糖を入れてかき混ぜ始めた。
「(『レビテーション』)ぼそっ」
黄身の方はそんなに混ぜる必要が無いのでここらで止めておこう。
ルイズの方はどうやら砂糖を投入したようだ。
かしゃかしゃとボールと泡だて器がこすれる音とシャーという生クリームを混ぜる音だけが聞こえる。
「・・・ん!?あ!お義兄様魔法を使うなんてずるいですよ!」
俺が泡だて器を『レビテーション』で高速回転させているのがルイズにバレてしまった。
「あはは・・・。」
「・・・私も!」
「あ!ルイズやめろ!魔法は使うなよ!」
ルイズが杖を取り出そうとしていたので慌てて止めに入った。
「う・・・はい。」
かなり本気で止めたのでルイズはしゅんっとしてしまった。
俺はあわててフォローをする。
「ま、まあ、今は無理でもそのうち魔法も上手に使えるようになるよ!」
虚無に覚醒すればコモンスペルくらいなら使えるようになったはずだし!と言いそうになったがなんとか心の中で叫ぶ程度に抑えることができた。
「・・・そうでしょうか?」
そうするうちにメレンゲと生クリームが出来たのでさっき作った黄身のものと加えた。
黄身だけのスタンダードなものとメレンゲと生クリームを入れた二種類に分けて、塩入りの氷水にボールを入れた。
「お義兄様、これからはどうするのですか?」
「ここからはただ混ぜるだけ。このアイスの元が冷えて固まるまでね。」
「アイス?ジェラートではないのですか?」
アイスもジェラートも同じものだと思っている俺には名称の名前はどうでもいいように思えた。
「ああ、そうだった・・・アイスじゃなくてジェラートだったね。間違えたよ。」
そしてアイスが固まるまでひたすらに混ぜた。
試作品を作った時は少しだったのですぐに固まったが今回は多いので固まるまでに時間がかかった。
「出来た。これで完成だ!」
「これが・・・でも、これ、前お店で食べたものと見た目が違うような?」
ルイズのその言葉に俺は苦笑いを浮かべた。
基本のモノしか作っていない俺のアイスと店で商品として出すものとは手間暇や美味しくする為の工夫が違いすぎるだろう。そりゃ、店で出されるようなものと比べられても困るよと思った。
「それはきっとお店だから手が込んでいたんだよ。これはごく簡単なものだしね。」
「そうですか?・・・それで、あの、お義兄様?試食してはいけませんか?」
ルイズが上目づかいでお願いしてきた。
そのしぐさをしたルイズはとても可愛いのでついなんでも許可してしまいそうになる。
しかし、お楽しみは後に取っておくほうがいいだろう。
「手伝ってくれたからいいよ!・・・と、言いたいところだけど。皆と食べるまで我慢してね。」
「うう、分かりました・・・。」
しかし出来たのはいいが、まだブランチまで時間があった。
その間アイスが溶けないように魔法で氷の箱を作り、その中に布を被せてアイスの入ったボールを入れた。
「それでどこで食べようか?今日は天気もいいし、外がいいかな?」
「あ!それでしたら湖の畔がいいのではないでしょうか?水の近くは少し涼しいですし。」
「ああ、裏にある湖か。・・・いいね!そこにしよう!」
気温が上がり始めたそんな時間、俺はキュルケとカトレアさんを連れて湖の畔にやってきた。
ルイズは俺を手伝ってくれるようで先に行って準備をしてくれている。
4人でテーブルを囲い、朝に作ったアイスを出した。
「これが僕が作ったジェラートです。右側がスタンダードなもので左側が生クリームとメレンゲを加えたものです。さあ、召し上がって下さい!」
3人がアイスをスプーンですくって、口に含んだ。
ルイズに隠れて試食して味は問題ないと思うのだが、反応はどうだろう?と俺はドキドキしながら様子を窺った。
「あ!これはミルクを使ったジェラートなのね!冷たくて美味しいわ!」
反応は上々のようで俺はほっと胸を撫で下ろした。
「この前食べたのは果物の酸味や甘味がありましたけど、これはミルクの濃厚な味わいと溶けるような食感がいいですね!」
カトレアさんの言葉から前食べたのは果汁入りのアイスだったのかなと考えた。
「そうね。この前食べたのは冷えた果物の美味しさとシャリシャリした食感でとても惜しかったけど、このミルクを使った甘いジェラートもとても美味しいわね!」
キュルケの「シャリシャリした食感」という言葉に俺は引っ掻かるものを感じた。
俺は改めてジェラートがどんなものだったのかを聞いてみることにした。
「え、えーと、1つ尋ねるのですがこの前食べたジェラートはどのようなものでしたか?」
「「「そう(です)ね・・・。」」」
3人の話を総合するとどうやらこの世界のジェラートはアイスではなく、シャーベットに近いものだということが分かった。
ちなみに俺が出したアイスのようなものはこれまで食べたことが無かったようだ。
幸いなことに3人ともアイスをいたく気に入ったようで、その後もアイスを何度もおかわりするくらいたくさん食べていた。
「ダーリンの作ったジェラート美味しかったわ!また作ってくれる?」
最後のアイスを食べ終わったキュルケが俺にそう言った。
「それはいいけど、ここのコックももう作り方知っているから頼んだら趣向を凝らしたものを出してもらえるかもよ?」
餅は餅屋ということで食に関しては食べれればいいや的な考えの俺よりも1流のコックのほうが今後すごいものを出してくれると思う。
「そうなの?じゃあ、今度何か頼んでみようかしら?」
「そうだ!ルイズも今回手伝ってくれたから今回出したものなら作れるはずだな。」
「そうなの?ルイズ?」
「は、はい。私はお義兄様の横でメレンゲをかき混ぜていただけですけど・・・。」
「でも作り方は見ていたのよね?今度、私に作り方を教えてね。」
「私がちぃ姉様に教える!?・・・は、はい!」
「あ!私にも教えてよね!」
女性陣の話が弾んできたのでメイドさんを呼んで、そのままお茶会になり昼まで過ごした。
それにしても同じ名前なのに俺の認識と異なるものがあるというのはやはりここは地球に似ていても別の世界ということなんだと改めて実感した。
まあ、魔法がある時点でいまさら何言ってんだ?って感じだけどね。
はぁ・・・まずいな、これからは名前を知っているようなものでも自分の目で確認しないとうかつなことは言えないな。
昼食を食べた後、俺はヴァリエール家の書庫にいた。
実家でもやっていたが本からなにかオリジナル魔法や既存のものを改良してさらに使い易く、より強力に出来ないかを考えるのが俺の趣味みたいなものになっていた。
そして今日も書庫を漁っていると、面白いものを見つけた。
『トリステイン釣り紀行』
まさかハルケギニアに釣りの本が存在するとは!と若干興奮気味に本を手に取った。
しかもその著者がなんと!ヴァリエール公爵!お義父さんである。
はじめのページに“公爵として貴族のパーティなどに招かれてトリステイン中を行き来するので、その旅の途中の気晴らしに釣りを始めた。”と書いてあった。
釣りか・・・そういえばこの世界に来てからいままで魔法の訓練とかが忙しくて1度もしたことなかったな。
前世ではゲームやプラモ作りに並ぶ俺の趣味だったのにな、としみじみしてしまう。
俺は他の魔法やマジックアイテムの本と一緒にその本も借りていくことにした。
「今日は部屋じゃなくて外の木陰で読もうかな?」
書庫から部屋に帰る途中の廊下から湖の方を見ると、湖に1艘の船が浮かんでいた。
その船には顔は遠くて分からないがピンクの髪の人が乗っているのが確認出来た。
「あれは・・・ルイズか?そういえばアニメでルイズって落ち込むと湖に1人で行くという回想があったような?なにかあったのかな?」
本来ならそっとしておいたほうがいいのかもしれないが、気になったので俺はルイズのところに行ってみることにした。
——湖の中ほどで漂っているボートにルイズは1人膝を抱えて座ってた。
「はぁ、またお父様に魔法で失敗したことを咎められちゃった・・・。どうして私は魔法を上手く扱えないのかしら?こんなに努力しているのに・・・。」
昼食が終わった後、ルイズはヴァリエール公爵に呼ばれ、そこでいまだに魔法が成功しないことについて話があった。
ルイズが10歳で杖と契約をかわしてから、もう4年経っている。
しかしその間ドットスペルどころか、その下位魔法であるコモンスペルさえも成功したことがなかった。
ルイズがスペルを唱えるといずれの魔法も例外なく爆発する始末だった。
「はぁ・・・。」
とルイズが何度目かのため息をつくと障害物は無いはずなのに影が刺した。
ルイズが顔を上げるとそこには『フライ』で飛んでいるヴァルムロートの姿があった。
「ルイズ、どうかしたのか?」
俺はそう言いながらボートをなるべく揺らさないように着地した。
「お義兄様・・・。私、お父様に魔法がいつまで経っても成功しないことにお叱りを受けたんです。それで・・・。」
ルイズはまた俯きながらそう言った。
「そうなのか。」
食事の後にルイズがお義父さんに呼び出されていたことは知っていたし、魔法についてのことだろうとは予想は簡単についた。
しかし、あのお義父さんが叱ったのか・・・想像出来ないけど、ルイズがこれだけ落ち込んでいるから相当だったのか?
俺は普段のお義父さんの、娘を目に入れても痛くない!みたいな態度しか見たことが無いのでルイズを叱る場面を想像出来なかった。
そして俺はその場面を見ていないので慰める言葉を出すことが出来ずにただ相槌を打つしか無かった。
「・・・どうして私は魔法が上手く出来ないのでしょうか?」
「そうだな・・・きっとそのうち出来るようになるんじゃないかな?」
そう言って俺はいつもと同じ返答を返した。
俺自身は原作の知識でルイズが虚無に覚醒して、そのうち魔法がある程度使えるようになるのを知っていたので簡単にそう言ってしまう。
「・・・っ!」
ルイズは涙目で俺を見ると、堰を切ったように大声をあげた。
「お義兄様までそんな気休めを言うなんて!皆そう!いつか、いつかって!でも、そう言われてもう4年ですよ!魔法の使えない貴族なんて貴族じゃないわ!」
ルイズが大声を出していること、そしてその内容がアニメと違うことに俺は目を丸くする。
俺はアニメでルイズが言った言葉をなるべく思い出しながら優しく語りかけた。
「ルイズ!?魔法が使えるから貴族じゃない、敵に後ろを見せない者が貴族なんだ!・・・だろ?」
「そんなの詭弁よ!公爵家の娘なのに魔法を上手く使えないなんて!スクウェアメイジのお義兄様には貴族なのに魔法が使えない私の気持ちなんて分からないのよ!お母様はお義兄様といるときはすごく楽しそうな顔をして、私にはそんな顔1回もしたこと無いのに!それに比べて私はお父様に少し魔法の練習を控えてみてはどうだって言われるし!このままでは私・・・お父様やお母様に見放されてしまします!ブリミル教の神様は信じれば救われるっていうけれど、こんなに信じて祈っているのに・・・神様なんてきっといないのよ!」
ルイズは俺の言葉も聞かずに、今の自分の気持ちを全て吐き出すように取り乱すようにたてしまくった。
「ルイズ!」
俺は取り乱すルイズの肩に手を置いて、ルイズの声に負けないように大きめの声で名前を読んだ。
「あ・・・、お義兄様、今のは嘘です!神様がいないなんt」
「ルイズ!この世に神はいない!」
「え!?」
ルイズは俺がブリミル教を否定するようなことを言ったのでそのことについて咎められると思っていたようだが、次の俺の言葉にあっけに取られていた。
まあ、俺をこの世界に転生させた奴がいるけど・・・あれは信じれば救ってくれるような存在じゃないと思うんだよね。
「ルイズ、もう一度言うよ。この世に神はいない。信じれば救ってくれるなんて“人間に都合のいい神様”なんていない、と僕は考えている。」
「お義兄様・・・。」
「でも神がいないなんてことはない。人は皆自分の中に神を持っていると思うんだ。」
「え?え?どういうことですか?」
俺が神はいないとか、いるとか言っているのでルイズは少し混乱しているようだ。
「混乱させてごめんね。でも人には今を超える力、“可能性”っていう神を皆がもっていると思うんだ。」
「今を越える力・・・・可能性・・・。お義兄様!それって私にも!」
「ああ。もちろんあるよ!ただ今すぐはルイズの努力している結果は出ないだろうけど、後2、3年したらルイズ自身も驚くような形で現れるはずだよ!」
・・・まあ、虚無という失われた系統だって知ったら驚くだろうな。
俺が後2、3年後と言ったのはいつか分からないより、ある程度分かっている方が頑張れると思ったからだし、これくらいなら言っても大丈夫だろうと判断したからだ。
「後2、3年ですか?まだまだ長いですけど、お義兄様!私頑張ります!」
「その意気だ!お義父さんにも今の意気込みを伝えよう!」
「はい!」
「良い返事だ。・・・あ!ルイズ、さっき言ったことは2人だけの秘密にして欲しい。ブリミル教の神がいないとか言ってることがバレたら異端審問にかけられちゃうしね。」
「あ!私も神様なんていない、と言ってしまいました!分かりました。このことは2人だけの秘密ですね!・・・でも、私の魔法の失敗を慰めてくれてお父様に一緒に話に行くのはワルド様のときと似てます。あ!ワルド様は隣の領地の男爵で今は王宮の魔法衛士隊にいらっしゃるのでお義兄様はお会いしたことがないと思いますけど。」
「ワルド男爵、か。・・・あ、そうだ。後これからの魔法の訓練だけど、ただがむしゃらにやるのではなくて何か目的を持って行う方がいいと思うよ。」
ワルドという名前を聞いて、俺は少し戸惑ってしまう。
ワルドは原作で敵となることが分かっているのでその彼に会いたいような会いたくないようなと、考えがまとまらない。
そういえばもうレコンキスタに参加してるのかな?いまさら味方にするのは・・・と考えた俺は結論として、それは無理だと判断した。
レコンキスタと接触前なら敵対することも無くせる可能性もあるが、もし接触後ならむしろ危険人物としてレコンキスタにマークされてしまう危険があるからだ。
「目標ですか?」
「そう。今のルイズは魔法が失敗すると爆発が起きるだろう?」
「は、はい・・・。」
ルイズは俺の言葉に俯いてしまった。
「ああ、そのことでルイズを責めているわけではないんだ。だた爆発するにしてもその威力や効果範囲をある程度操作出来るようになった方がいいんじゃないかな?」
「あの失敗の時の爆発をコントロールするということですか?」
「そういうこと。もちろん魔法を失敗しないことに越したことはないのだけど、現に失敗して爆発は起きるわけだから、まずはその被害を抑えるようにしないとね。この前も大きな爆発をして服が焦げて、ちょっと火傷していただろう?」
「は、はい・・・。」
「もしかしたらお義父さんが魔法を控えるように言ったのはいつかルイズが失敗の時の爆発で大怪我することを心配したからじゃないかな?それだったら、爆発をコントロール出来るように努力して、私は爆発をコントロール出来るようになったのでこれからも魔法の練習を頑張りますって言えるだろう。」
「そ、そうですね。私頑張ってみます!頑張っていつかちゃんと魔法を使えるようになってみせます!」
ルイズはやる気に溢れていた。
さっきまでのボートで膝を抱えていたルイズはもういない。
「ああ。僕は応援しか出来ないかもしれないけど、頑張れ!」
「はい!・・・あ、お義兄様先程は私の気持ちなんて分からないといってごめんなさい。」
ルイズはさっき自分の言った言葉の中に俺を非難するようなことがあったと思ったようで、謝ってきた。
「ん?別に気にしてないからいいよ。それに人はニューt、あ、相手の心は分からないからね。言葉にしてくれないと相手の考えていることなんて分からないよ。」
俺は慌てて言い直した。
「そうですね。それにしてもお義兄様、何か言いかけました?ニュー?」
しかしルイズはしっかり聞いていたようで俺が言いかけたことを聞いてきた。
「あ、別に気にしないで関係ないことだから。」
(危ないな、ニュータイプって言いそうになっちゃったよ。ニュータイプなら言葉を交わさなくても相手を誤解なく分かり合えるんだけどね。・・・まあ、分かり合えても、納得出来るかどうかは別だからそれで戦争がなくなるわけじゃないんだけどね。)
「そうですか?そういうならこれ以上は聞かないことにします。」
ルイズは深くは追求しないようなので助かったと胸をほっとなでおろした。
「あ、そうだ。魔法の練習で失敗してもそれを悔やむことはない、むしろどんどん失敗したらいい。ただ認めて、同じ失敗をしないように次の糧にすればいい。それが子供の特権だよ。」
「むぅ!お義兄様!私もう子供じゃありませんよ!」
「ふふ、そう言っているうちは子供だよ。」
「うぅ・・・。」
「ごめん、ごめん。ルイズは立派なレディーだったね。」
「わ、分かればいいのですけど・・・納得行かないです。」
その後お義父さんの書斎に行き、今後ルイズが爆発をコントロール出来るようならその後も魔法の練習をいままで通りに行い、出来ない場合は練習時間を減らすという条件で了承してもらった。
「話は以上だな、2人とも下がりなさい。・・・ん!?ヴァルムロート、少しいいか?ルイズは行きなさい。・・・ルイズ、魔法の練習、頑張りなさい。」
ルイズの要件が終わったので、書斎から出ようとするとお義父さんに呼び止められた。
ルイズは嬉しそうに元気よく返事をして書斎から出ていった。
「お義父さん、どうしたのですか?やはりルイズのことで?」
「いや、ルイズのことはそこまで心配していない。ルイズは思い込んだら一直線な性格ではあるが頭がいいからな、今回のことで魔法のことも何か変わるだろう。」
「でしたらどうして?」
「う、うむ。お前のその手に持っている本のことが気になってな。」
俺は廊下でルイズを見つけてそこの窓から『フライ』で飛んでいったから本を部屋に戻す時間が無かったんだよね。
「これですか?魔法やマジックアイテムのことが書いてある本と後は・・・この釣りの本ですか?」
俺は手に持っている本を一冊ずつ確認していき、最後もお義父さんが書いたであろう本を取った。
「そう、その本だよ!もしかしてヴァルムロートは釣りに興味があるのかい?」
「はい。釣りには興味ありますね。ただまだやったことは無いですが。」
この世界ではね・・・と心の中で呟いた。
「そうか、そうか!興味があるか!」
俺が釣りに興味があることが分かったお義父さんはかなり嬉しそうに声を上げた。
「ええ。この本の著者がお義父さんと同名ですがやはりお義父さんが書かれたものなのですか?」
「如何にもその本は私が書いたものだ。それにしてもこんな近くに釣りに興味のある者がいたとは・・・。」
「トリステインでは釣りに興味のある者が少ないのですか?」
「そうなのだよ。貴族の間ではまだ釣りに興味を持っている者が少なく、平民は生活のために行なっているから私の趣向と違うからな。」
「生活のためではないとすると、趣味ということでしょうか?」
「そう!そうなのだよ!確かに釣りの目的は魚を釣ることだが、私はそれだけではないと思っている。釣りを通して自然を感じ、魚との戦いでスリルを味わい、そんな魚とその魚を育てた自然に感謝することなど言葉では言い表せないほどたくさんのことを感じたり、知ることが出来る最高の趣味だと思わないか!それを魚が気持ち悪くて触ることが出来ないとか水の近くは虫が多いから嫌だとか・・・。全くそんなことで釣りから遠ざかるなど信じられん!」
「そ、そうですね。」
表面上は冷静を装ってはいるが、お義父さんがかなりの釣りキチだったことに内心かなり驚いていた。
まあ、お義父さんの言いたいことには俺も概ね同意するけど。
「ヴァルムロートもそんな釣りを趣味にしてみようと思わないかい?釣りはいいぞ!一生ものだぞ!」
「そうですね。僕としても興味がありますから、道具があればやってみたいですね。」
そういえばこの世界の釣りって何があるのかな?まだ本には道具のことなんかも書いてあるようだが、まだもくじと出だししか見てないから分からなかった。
「そうか!その言葉を待っていたぞ!付いてきなさい!」
「は、はい。」
お義父さんは書斎の出入り口とは別の扉の方に歩いていった。
俺は以前からこの書斎の隣にはもう1つ部屋があるスペースがあるのに廊下側に扉や窓が全くないので不思議に思っていたのだが、それが今わかる時が来たようだ。
お義父さんが扉を開けて中に入り、俺もそれに続いた。
その部屋には窓が一切無いようで扉が閉まったら真っ暗だった。
俺は『ライト』を使い部屋を明るくすると、そこには大小様々な釣竿と多くの手のひら大の箱が机の上に置いてあった。
「どうだ!ヴァルムロートよ!このロッドの種類!数!すごいだろう!」
「すごい・・・。」
俺の素直な感想が口から洩れていた。
俺も先程の話から釣りはまだ極少数の貴族しか趣味としていないようなにこれ程多くの竿があるとは思ってもいなかった。
さらにその竿をよく見ると糸を通す為のガイドがあることが分かった。
周りを見ると壁に設置された大きな棚にリールがあった。
リールといってもスピニングリールやベイトリールのように高性能のものではなく、フライ用のリールにとてもよく似ていた。
「お義父さんはどのような釣りをしているのですか?餌は川虫ですか?」
「ふふ。川虫など使わなくとも・・・そこの箱を開けてみなさい。」
お義父さんは机の上に置いてある箱を指さした。
俺はその中の1つを手に取り、開けてみた。
「これは・・・。」
「それは川虫などに似せて作られたフライというものだ。それがあれば生きた餌なぞ必要としないぞ!」
箱の中身は針に糸や動物の毛などを巻き付けたフライ——日本的に言えば毛バリ——がキチンと整列して入っていた。
「私はそれを使って行う釣りをフライフィッシングと呼んでいる。」
「フライフィッシング、ですか。いいですね!」
フライか・・・前世では道具自体は持っていたが数回しか使ったことはなかった。
俺はもっぱらルアーを使った釣りを行い、バス、メバル、シーバスを主に釣っていた。
「そうだろう!そこでだ、この度釣りを始めるヴァルムロートに私からのプレゼントだ!どれでも好きなものを選びなさい!」
「いいのですか!?」
「うむ!釣り仲間が増えるのに協力しないわけがないだろう!遠慮せずに選びなさい!」
「ありがとうございます!では・・・。」
そして俺はお義父さんのアドバイスを聞きながら1組のタックル——竿、リール、ライン、フライなどのつり道具のこと——を選んだ。
「選び終わったな?では次は実際に使ってみようじゃないか!」
「今からですか!?」
「そうだ!幸い家は裏に湖があるからな、練習にはもってこいだぞ。それに私が放流した魚もいるからな。」
「分かりました!行きましょう!」
お義父さんのハイテンションに釣られて、俺の釣りキチ魂に再び火が灯った。
俺とお義父さんは湖にやってきて、それぞれ準備をし始めた。
お義父さんに簡単に釣り方を教えてもらい、俺が知っているものとほぼ同じだったが、早速釣りを始めた。
フライフィッシングは飛ばすようの太いラインの重さで吹けば飛ぶような軽さのフライを遠くまで飛ばす釣り方をする。
その為竿を前後に動かしてラインが地面につかないようにしながら、どんどんラインを出していくという変わった方法でフライを飛ばす。
そういうわけで初心者では上手いようにラインを出せなかったり、ラインが地面についたりしてしまうが前世で経験のある俺には無用のことだ。
「む!ヴァルムロート、上手いじゃないか!これはうかうかしていられんぞ!」
そしてしばらくはお義父さんのいままで釣った魚の話などを聞きながら、釣りをした。
「お義父さんが一番良かった場所はどこですか?」
「一番良かったところか・・・。ラグドリアン湖がやはり魚の種類、大きさそして良い釣り場の多さで一番だろうな!」
「ラグドリアン湖、ですか。やはりハルケギニア1大きい湖は伊達ではないということですかね?」
「そうだな。しかし・・・最近は少し様子がおかしいと噂で聞いたな。」
「おかしいとは?」
「うむ。まだ詳しく調べられたわけでは無いのだが・・・どうやら水かさが徐々に増えているらしい。」
「そうなのですか?」
「ああ。原因はラグドリアン湖に住む水の精霊のせいだということらしいが、大方モモランシが無茶な開拓で精霊を怒らせたのだろう。釣り場が荒らされるから早く何とかして欲しいものだな!」
「そうですね、それは早く何とかして欲しいですね。」
水の精霊が怒ってるってことはすでにあのなんとかって指輪は盗まれたってことかな?と原作に照らし合わせて考えてみた。
モンモンの家が水の精霊と契約を結んでいるようだが、やはり原作と照らし合わせるとモンモンの家で何とかするのは無理だろうなと思ったし、実際原作では何とか出来なったからサイトたちが何とかするわけだ。
その後もお義父さんとトリステイン各地の釣り場の話をした。
夕方になって夕まずめ——別名爆釣タイム・・・上手くいけばだけど——で俺とお義父さんは数匹ずつ釣り上げた。
釣った魚はその場でキャッチ・アンド・リリースした。それが紳士の嗜み?らしい。
メイドさんが夕食の準備が出来たと呼びに来たので釣りは終わりになった。
俺がもらったタックルは今後自分の部屋で管理していくこととなった。
「はあ~、今日も疲れたな。」
俺はベットにボフッと倒れこんだ。
「今日はなんだか忙しい休日だったな。でも楽しかったからいいか!釣りも出来たし!」
部屋に置いた竿を見ると顔がにやけてくる。
「・・・そういえばラグドリアン湖の水が増えるのが始まっているみたいだな。やっぱりレコンキスタいるのか。しかももうトリステインで活動してるってことはすでにワルドが接触している可能性は高いな。・・・そろそろ本格的にストーリーへの関わり方を考えないといけないな。あまり積極的に介入せずに原作というかアニメ通りに進めるか、むしろ積極的に介入してアニメと恐らく違う展開になるだろうけど危機的な状況になるのを回避してみるか・・・どうするかな?」
<次回予告>
もう何度か師匠と模擬戦を行ったが、師匠にまともな一撃を当てたことが一度もないとはどういうことだ?
これがレベルの差、経験の差だとでもいうのか?
もし、何かやり方があるのなら教えて欲しいところだ・・・
・・・え?
教えてくれるんですか?やったー!
第52話『ゼロ魔の魔法にはかなり有効な回避方法か?』
次はポケモン発売前位の更新を目指して頑張ります。
じゃあ、閃の軌跡を買ってくるぜ!