52話 ゼロ魔の魔法にはかなり有効な回避方法か?
週末のダエグの曜日、いつものように俺は師匠と模擬戦を行なっていた。
模擬戦が始まって数分といったところだが、訓練場の地面にはいくつもの穴や焦げた跡がある。
俺自身もすでに『トランザム』状態になっていてテンションは最高に近い。
「『ファイアーボール』!」
今日の模擬戦は火の系統魔法を使うもので、スペルを唱えると杖を仕込んだ日本刀状態の斬艦刀の先から火の弾を師匠に向けて放った。
放った『ファイアーボール』のすぐ後ろに連なる様に師匠からの攻撃を注意しながら師匠との距離を詰める。
『ファイアーボール』なんてドットランクの魔法で師匠をどうにか出来るとは思っていない、『ファイアーボール』は囮なのだ。
師匠が『ファイアーボール』を魔法で相殺しようが、防御ようが、回避しようがその行動をとった時のわずかな隙を俺は狙っていた。
師匠は素早く『エア・ハンマー』のスペルを唱えると見えない空気の塊を『ファイアーボール』にぶつけてきた。
『エア・ハンマー』とぶつかった『ファイアーボール』はボンっと音を立てて、爆砕した。
俺は予定通り『ファイアーボール』を囮に使い、『トランザム』の最高速度で素早く師匠の背後に回み、斬艦刀を振り下ろした。
「甘いですよ!」
師匠は俺の振り下ろした斬艦刀を後ろを向いたまま体を回転させながら避けた。
そしてそのままこちらを向いて『ウインド・ブレイク』を放ってきた。
「くっ!」
俺は遠ざかるように回避行動を取りながら、どうして後ろからの攻撃をああも簡単に避けられるのかと強く疑問を抱いた。
模擬戦で師匠は俺のレベルに合わせてくれているようで手加減をしている、と俺は思っている。
その為か、これまでも何度か後ろを取ることは出来たがいずれも今のように躱されたり、魔法で防御されたりして攻撃を与えられた試しがなかった。
その時の対応がまるで見ているかのように正確なものなので、まさか後ろに目でも付いているのではないか?と思うほどだ・・・まあ、付いてるわけないけど。
戦いにおいて一瞬の迷いは重大な危機を招く、それは模擬戦でも同じで手加減されているとはいえ、痛いものは痛い。
攻撃を避けられたことへの疑問を持ったことで師匠の魔法を回避しきることが出来ず、激しい風に体が舞った。
『ウインド・ブレイク』で数メイル後ろに飛ばされたが、なんとか転ばずに態勢を立て直すことが出来た。
・・・こうやって飛ばさるのも初めてではないので冷静に対処できるようになったのは喜んでいいのかどうなのか判断に困る。
師匠が何か魔法のスペルを唱えているのが聞こえた俺がそちらに顔を向けると、杖をこちらに向けて丁度何か魔法を放ったところだった。
俺は反射的に『フライ』ではなくコモンスペルの『レビテーション』を使って右横に滑る様に移動していた。
これまでの模擬戦での経験で『フライ』の方が回避行動を取るのに適しているがスペルを唱えないといけない分咄嗟の対処には不向きで、『フライ』よりは劣るがその分素早く使えるコモンスペルの『レビテーション』の方が良いと理解しているし、これまでの模擬戦によって自然とそういうふうに体が動くようになっていた。
ドゴッ!という音と共にさっきまで俺がいたところが派手に砂埃を立てた。
師匠に攻撃するために『レビテーション』を一旦解除して、再び『ファイアーボール』を行おうとした瞬間、激しい衝撃を体の正面に受けた。
「ぐぁあっ!」
師匠がすでに放っていた“2発目”の『エア・ハンマー』が直撃していた。
そのまま吹き飛ばされ、勢いよく地面を転がり、訓練場の壁に当たってようやく止まった。
俺は『エア・ハンマー』に当たった衝撃と地面を転がったことの痛みでそのまま壁際で倒れたまま、どうして“2発目”の『エア・ハンマー』が当たったのかを考えていた。
“1発目”の『エア・ハンマー』が消滅してから“2発目”が俺に当たるまで1秒も経っていなかったからだ。
『エア・ハンマー』のスペルは高速で唱えても2、3秒かかり、さらに師匠がいた場所から俺のいた場所までは魔法が届くのに1秒位はかかるはずだ。
そこまで考えていると俺はあることを思い出してハッとした。
『エア・ハンマー』は俺が考えた魔法分類では独立型、つまり魔法の連射が可能なのだ。
俺に出来るのだから、師匠だって当然魔法を複数放つことが出来るということをこれまで失念していた。
自分の迂闊さに少し気を落としたものの、師匠が新しいことをしてきたという事実に俺が少しでも強くなっていると思ってくれているのかと思うと少し嬉しくもなった。
俺がむくりと起き上がると、師匠は模擬戦の終りを告げた。
「今日はここまでですわね。最近はあまり直撃を受けなくなったようですけど・・・さらに精進が必要のようですわね。それにしても最後のは回避からの攻撃よりも防御に徹する方がよかったわね。」
師匠は俺が防御系の魔法を使わないことに疑問を持っているような口ぶりだ。
それも仕方ないのかもしれないが、俺が師匠と模擬戦をするようになってから一度も防御系の魔法を使ったことがない。
確かにシールド系の魔法や『I・フィールド』があるが防御として魔法を使うよりも移動ついでの避けている間にスペルを唱えて素早く攻撃魔法を唱えた方がいいと考えていたからだ・・・師匠と戦ってるとなかなか手が出せないからな。
「あれは1発目の『エア・ハンマー』を避けたので大丈夫だと思ったのですが、考えが甘かったですね。攻撃こそが最大の防御だと思ったのですが・・・」
「なるほど。それなら1発目を避ける為に『レビテーション』を選択したのは良かったですが、その後の2発目が来るのを察知出来なかったのですか?」
1発目の『エア・ハンマー』という見えない攻撃が避けれたのは魔法を察知したというよりもこれまでの師匠との戦闘経験のおかげみたいなもので、大体このあたりに撃ってきたかな?という具合のぶっちゃけ勘だ。
しかし魔法を察知するというのは師匠が以前教えてくれたメイジ特有の気配を察知する能力で攻撃を避けたらいいと言っているのだろうか?と俺は首を傾げた。
「しかし師匠、僕はまだ空気の振動を感じる能力は低いですし、水や火では風系統の魔法を察知するのは難しいと思いますけど?」
最近はある程度この能力を使うのに慣れてはきたが、それでも風はラインクラスなので効果範囲は狭いし、空気に対する感知能力もまだまだ弱い状況だ。
しかも感知を行うには少しの時間それのみに集中することが必要だった。
なので戦闘時に求められるようなコンマ何秒という短い時間での感知は俺にはまだ無理だ。
「それだったら、他の気配の察知方を行なったらどうかしら?」
「他の気配の察知方、ですか?」
「あら?教えてなかったかしら?」
「はい、初めて聞きました。そんな方法があるのですか?」
カリンさんはうっかりしていたと普段の“お義母さん”の顔になっていたが、俺が尋ねたことで“師匠”としての顔に戻った。
「そうです。気配を察するには3つの方法があります。」
そう言って師匠は手をじゃんけんのぐーの形にして、そのまま手を顔の横まで上げた。
「え!?3つもですか?」
俺は気配を察知する方法はメイジの感知能力を使ったものと今回の教えてくれるものの2つだと思ったので、3つあるということに驚いていた。
3つ目が検討が付かないがこれから教えてくれるようだし、と黙って注意深く聞くことにした。
「ええ。まず1つ目は以前教えたメイジ特有の察知能力のことです。」
師匠はグーの手から人差し指を上げた。
師匠は俺の顔見て、説明は不要だと判断したのか続けて中指を上げた。
「2つ目は相手の動作や目線から次の行動を察することです。これはメイジや平民問わず行うことが出来ますわ。まあこれは厳密には気配を察すると言うよりも直後の行動を予測するものですけどね。ヴァルムロートもある程度は出来ていますよ。」
この2つ目の説明には魔法自体を感知することは出来ないようなので、これが俺が検討の付かなかった3つ目だったようだ。
そして師匠に俺もある程度出来ていると言われ少し嬉しくなるが、その直後に「でも、まだまだですけどね。」と師匠は言った。
確かに体で行う動作で次の行動はある程度予想しているが、視線とかまではまだ気が回らないのでそこはまだまだ鍛えるところが多いということだろう。
要するに・・・
「要訓練ということですね。」
「ええ、そういうことですわね。そして3つ目は殺気などの人の発する雰囲気や空気を感じることです。」
そう言って師匠は3本目の薬指を上げた。
「え!?殺気などの気配ですか!?」
殺気などの人が発する気配を感じ取るとか漫画がアニメかよ!と心の中で突っ込んだが、その直後にここはアニメの世界だったとセルフ突っ込み返しをしていた。
よくバトルものの漫画やアニメでは気配などを感じる描写があるが、まさかこのゼロの使い魔の世界でもそういうことが出来るとは思っていなかった。
俺もドラゴンボールのキャラクター達のように「あっちの方角にどれくらいの強さの人がいる」とか分かる様になるのかと思い、密かに感動していた。
「そうです。この殺気などを感じることが出来れば風の魔法のように見えない攻撃も分かるようになりますよ。」
「いや、まあ、そうですけど・・・本当に出来るのですか?」
しかし実際問題としてこの世界で生まれてこのかた気とか感じたことないのだが、本当に殺気を感じたり出来るのか疑問だ。
「疑問に思うのも仕方ありませんね。では今から私があなたに向かって殺気を放つので何か感じたら言いなさい。」
師匠は言うと、その直後から表情は変わらないが師匠の周りの空気がイメージ的に黒くなった様に感じた。
それを感じた瞬間に俺の体は硬直し、頬や背中をだらだらと冷や汗が流れ、呼吸は浅く早くなり、全身の毛が逆立っている様に感じる位体中に鳥肌が立ち、今すぐこの場所から逃げたい衝動に駆られた。
この時逃げたいと考えている頭の片隅でこれまでも妙に嫌な感じを受けたことがあるのを思い出し、もしかしたらあれは殺気ではないかもしれないが何かしらの気配を感じていたのかもしれないとなぜか冷静に考えている自分がいた。
・・・勿論今現在受けているものとは天と地程の差があるが。
「あ、はい・・・。師匠、殺気を感じることが出来ました・・・。」
俺はまるで自分の周りだけ重力が数倍になった様な、そんなあるはずの無い周囲の空気の圧力に押し潰されそうな感覚の中で肺の中の空気を全て絞り出すようにして何とか声を出した。
ガンダムの世界ではニュータイプが相手を察知した時によくプレッシャーという言葉を使っているがとても的を得ているなと思った。
「そうですか!それは良かったわ。まあ、最大級の殺気を出していたからほとんどの人は感じることが出来るはずですけどね。」
俺の声とは対照に師匠が明るく返事をすると黒いオーラは瞬く間に無くなり、同時に俺に掛かっていたプレッシャーも無くなった。
その途端、安堵したせいなのか足の力が抜けて地面に尻もちを突いていた。
「さ、最大級ですか・・・。な、何か特別なことを考えていたのですか?」
俺はまださっきの余韻で多少体が恐縮していたが、気になったので師匠そう尋ねた。
師匠は座り込んでいる俺の方に笑顔を向けて答えた。
「カトレアが、万が一もに無いとは思いますが、不幸になった時のことを考えました。まああなたがカトレアを不幸にはしないと信じていますけどね。」
「も、勿論ですよ!」
俺は脊髄反射の如くすぐにそう言った、いや俺の生きる為の本能がそう言わせたのかもしれない。
俺の答えに満足そうに師匠は笑ってるが、それを見なから俺は下手したら本当に殺さるかもと新しい冷や汗が背中に流れていた。
「今回は実感させるために意図的に殺気を出しましたが、普段はそこまでのものは出ていませんよね?」
そう言われて俺はこれまでの模擬戦を思い返してみた。
確かに師匠から何等かの気配みたいなものを僅かでも感じたことはなかった。
「確かにそうですね。」
「仮に何も学んでない状態で分かるくらいの気配が出るのは戦争のように相手を倒せ!殺せ!というような殺意がないと難しいわね。普段は殺意のようなかなり強い感情を持って攻撃することはそう無いから普通の人はまず気配を感じることはないわね。」
そして少し間をおいて「それに戦い慣れている者は殺気を出さずに攻撃することも出来ますわよ。」と師匠は続けた。
ドラゴンボールとかでも気配を小さくしたり、消したりしていたから師匠も同じようなことが出来るのかと尋ねるとそれが特別なことではないように普通に「出来る」という答えが返ってきた。
それにしても師匠はメイジとしての実力はハルケギニア一ということが他の国にも及ぶほどの半分生きる伝説みたいな状態なのに、さらに気配を読めるとかこの世界の強さの基準をいろいろ超越しているのでは?と思った。
しかし、普段は殺気とか出さないのならどうやって気配を利用しろというのだろうかと疑問に感じる。
「・・・それだったらどうしたらいいのですか?」
「簡単ですよ。殺気以外の気配を感じればいいのです。」
「殺気以外、ですか?」
「魔法を使う時はイメージすることが必要ですよね。となれば必ず魔法に気持ちを乗せることになるわよね。・・・当たれ!と。そしてそれは戦い慣れて殺気を出さない者も同じですよ。それに一般的には気持ちを込めたほうが魔法の威力が強いので、逆に考えれば強い魔法の方がより分かりやすいということになるわ。」
確かに殺気が感情の一種である以上は他の感情にも気配が存在してもおかしくはないのは道理だ、と俺は素直に納得していた。
しかし説明しながら師匠が「当たれ!」のところでビシッと俺の方に杖を向けたときは外面上は気にしていない風を装っていたが、内心ちょっとビビっていたのは内緒だ。
「つまり相手の魔法に乗せた僅かな気持ちを感じろ、ということなのですか?」
「そういうことです。よって今後は相手の僅かな動作から次の行動を予測する訓練を剣術のときに、メイジ特有の察知する力の特訓と相手の気配を感じる訓練を魔法の訓練の時にそれぞれ行うこととします!」
「はい!分かりました!」
こうして俺の訓練に新たな項目が加わった。
来週から忙しくなるな!と俺は期待に胸を膨らませた。
「それでは早速やってみましょうか?」
「はい?」
何を?という風に俺は首を傾げた。
そんな俺に対し師匠は仕方ないわねという表情した。
「訓練。」
「な、なんのですか?」
「だから、気配を感じるための訓練を今から行いますわよ!」
「え!?来週からでは無いのですか?それに今日はもう終わりってさっき言いませんでしたか?」
「そうなのですが気が変わりました。あなたは直撃を避けるのはまあまあなのですけど、他の系統と比べて火の系統のときは防御魔法をしないのでダメージの貯まりが早いのよね。だから他の系統ならまだ模擬戦しているであろう時間を使って訓練します!」
「そ、それは・・・」
俺は痛いところを突かれて言葉を詰まらせた。
「・・・そう、ですね。しかし僕は今から直撃回数分だけ外周を走らないといけないですし・・・」
「直撃したのは2、3回でしょう?すぐに終わりますわよ。ささ!早く走って来なさい。その間にどんな訓練をするか考えますから。」
「は、はい!」
俺は師匠に促されて、急いで魔法訓練場の外に向かって走り出した。
「はぁ、はぁ・・・。お、終わりました。」
俺は走ったばかりで息が上がっていたが、走り終わったことを師匠に報告した。
最近は体力もかなりついてきたとはいえ、普段よりもハイペースで走ったのでただ立っているだけでも辛い。
師匠を待たせるのは失礼だと考えたのがら、この後どれくらい特訓をするのかわからないのでその分の体力も計算に入れてもう少し余裕を持って走った方が良かったのかもしれないと気付いたのは走り終わった後だった。
「あら?意外と早かったわね。訓練内容は大体決まったので早速やってみましょうか!」
そう言うと師匠が聞き慣れないが以前聞いたことがある魔法のスペルを唱え始めた。
詠唱は比較的短いものだったが、魔法が発動すると師匠が4人になっていた。
「え?師匠が・・・ご、4人!?」
「前にも一度見せましたがこれは『ユビキタス』の魔法よ。今回は特訓の為に4人程偏在を作りました。」
「と、特訓の為、ですか・・・」
以前『ユビキタス』を使ったときは初めての模擬戦のときで偏在は1人だけだったが、まさか4人も偏在を作れるのには驚きだし、師匠の口ぶりからしてまだ余裕がありそうなのが師匠の底の知れない強さを暗示させているようで恐ろしくも思えた。
「これから私の偏在達をあなたの前後左右に配置します。特訓の内容は至極簡単で私の遍在が放つ『エア・ハンマー』をあなたが避けるか防御する、それだけです。・・・あ、全体防御はだめですよ!さらに耳で判断できないように全員でスペルを唱えます。実際に魔法を放つ者だけ先程感じさせたものよりも少し弱い位の殺気を出すようにするのでそれを感じて避けなさい。」
そう言うと師匠の遍在の4人が俺の前後左右に5メイル位離れたところに位置し、恐らく本体である師匠は『フライ』で俺の上の方に浮かんだ。
「う、うう・・・」
今の俺の心境を表すなら蛇に睨まれたカエルのカエルであり、しかも蛇4匹に四方を囲まれている、そんな感じだった。
出来れは気持ちを整理する時間が欲しいがそんな戦々恐々としている俺にはお構いなしに特訓が始まった。
全員が杖を俺の方に向けて構えてスペルを唱え始めた。
師匠の偏在達は俺を惑わすためかわざと聞こえるくらいの声の大きさで普段よりもゆっくりとしたスピードで詠唱していた。
俺は全方向から聞こえる詠唱を聞きながらどの遍在から魔法が放たれるのか、その気配を感じようと集中した。
目は開いているが地面の一点を見つめている状態になって目では決して見えない何かを必死に感じようとした。
すると詠唱が終わる直前に右側のカリンさんから先程感じた黒いオーラのようなものを微かに感じた。
今の突っ立ている自分の状況では『I・フィールド』で部分防御して間違ったときに痛い目に合うと考え、回避することを優先して『レビテーション』を使ったバックステップを行なった。
すると周りの師匠の遍在は一歩遅れて距離を保つように俺の動きに合わせて位置を移動していた。
俺が先程いたところから2メイル位離れた時、目の前をいやな感じの塊みたいなものが通り過ぎていき、数秒後にゴウっと空気の塊が弾ける音が左側の壁から聞こえてきた。
「避けれた・・・のか?」
「今のは避けれて当然ですわね。では次々放つので避けなさい!」
師匠はこれは避けれて当然という風に言って、また詠唱が始まった。
しかも今度の詠唱は声は聞こえる位の大きさだが、普段通りのスピードで唱えていた。
今度は先程のように集中する時間は無かったが、前方に先程と同様の大きな気配を感じたので今度は『I・フィールド』を前面に部分展開してやり過ごすことが出来た。
その後もいまいち確信が持てない時は『レビテーション』を使ったステップで避けたり、ある程度確信がある時は『I・フィールド』で防御したりしていった。
「もう昼食の時間ですわね。では今日はここまでにしておきましょう。」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとうございました!」
ようやく告げられた終了の合図に俺はようやく終わったと安堵した。
なにせ30分くらいずっと集中して避け続けていたので特訓前に走ったことと併せて体も精神ももうへとへとだった。
しかも途中で攻撃してくる遍在が増えた時はかなり動揺してしまい、思わず『I・フィールド』による全面防御を行なったことで師匠に怒られてしまうこともあった。
「今日は初めてですから分かりやすいように殺気も大きく出しましたが、今後は少しづつ殺気を抑えていきます。最終的には殺気ではなくもっと一般的な感情を感じることが出来るように頑張りなさい。」
「わ、分かりました。努力します。」
「でも、極たまに気配をほとんど感じることが出来ない人がメイジや平民問わずいるので、あなたがそうでなくてよかったわ。」
それを聞いた俺はもし俺がその気配を感じることが出来ない人だったらどうするつもりだったのだろうかと疑問に思った。
しかし、それを聞いた時の答えが恐ろしいものに思えたので喉まで出かかった質問をぐっと押し込め、ただ自分が気配を感じることが出来る人で良かったと両親に感謝した。
<次回予告>
俺とキュルケの誕生会に合わせて少しの間帰郷した俺達だが・・・
初めての決闘を挑まれたり、
ヴァイスに視察に行ったりと
第53話『帰郷してもゆっくり出来ない?』
ゲームに時間がかかってしまい、かなりの期間が空いてしまいましたが投稿を再開したいと思います。
次は12/8頃の更新を目指して頑張ります。
因みに「プレッシャー(pressure)」には「圧力」の他に普通に「精神的重圧」という意味があると今回調べて初めて知った。