59話 スレイプニィルの舞踏会、という名のコスプレイベント
カッカッと教室の黒板に白いチョークの線が走る。
黒板は教室の後ろの生徒にも見やすいように高い位置に設置されていて、普通なら今教鞭を振るっている教師の手が届く所ではない。
しかし教師は『念力』を使って手の届かないところに文字を書いていく。
教師が文字を書き終わり、こちらを向くと俺の目に光りが入った。
「うおっ!まぶしっ!」
まるで磨き上げられた珠のように光りを反射したのは教師の頭だった。
「もうすぐ卒業式ですな。皆さんにはまだ先のことかもしれないですが、自分はどうなりたいのか学院を卒業して何をしたいのか、将来のことをよく考えてみるにはいい機会かもしれませんぞ。」
コルベール先生の言葉に横にいる生徒が小声でつぶやいていた。
「はあぁ・・・将来のことね。僕は軍に行くのがきまっているからそんなこと考えても無駄なんだけど。それよりもどうやってモンモランシーをデートに誘うか、そっちの方が重要だよ。」
誰かと思って横を見るとギーシュだった。
俺はコルベール先生の話を聞いて、あの激動の夏休みからもう半年も経ったんだなと思い、その後あったことを思い出していた。
夏休みが終わり学院に戻ると俺に挑戦する者の顔が前と少し違っていた。
実家で鍛えてきたのか上がり幅に個人差はあれど二度目の決闘を挑んでくるやつは皆強くなっていた。
しかし俺もレベルアップしていたので俺のとる対応は前と同じで避けまくるだけだったけどね。
あそこにいるギーシュに決闘を挑まれたこともあった。
青銅のゴーレムを使って攻撃してきたが、偏在お義母さん達の攻撃を経験した俺にとっては接近戦素人の操るゴーレムの攻撃を避けることなど造作もないことだった。
しかし、ギーシュが作り出したゴーレムは5体だったがアニメではもう少し多かったような気がしたのだが・・・
まあ、そんな感じで学院に戻ってからもほぼ休みなしで決闘を挑まれたが、その間にあの夏休み以上に強烈な思い出を作るには至らなかった。
強烈な印象を残すものではないが、少し面白いことが起こっていた。
あれは確か、秋くらいから学院にちらほらと生徒が生徒に二つ名のようなものをつけ始めていた頃だった。
最初に決まったのがルイズで二つ名はやはり“ゼロ”だった。
理由はやはり魔法の成功率が“ゼロ”というところから来た少しバカにしたものは原作通りというべきか。
その頃俺にも生徒の間に通称としての二つ名が通り出した。
噂で聞いたところ、俺の二つ名も“ゼロ”だった。
理由は俺が最初の1週間以降決闘で魔法を発動した回数が“ゼロ”というところから来た少し一目置かれたものとして呼ばれるようになったようだ。
俺の決闘が決まると決まって次のような会話がいたるところで繰り広げられた。
「今日もヴァルムロートに決闘を挑んでくるやつがいるみたいだぜ!」
「今日もどうせヴァルムロートは魔法を1回も使わないんだろ?行くだけ無駄さ。」
「いやいや。今日こそ“ゼロ”じゃないかもよ?」
「・・・そうだな。行ってみるか!」
生徒によっては俺がいつ魔法を使うのかが賭けの対象になっているらしい。
俺には一応“炎剣”というのがすでにあるし、それに決闘毎に“炎剣”と名乗っているんだけどな・・・
“ゼロ”と“炎剣”略して“ゼロ炎”か・・・って、まるで俺がタダみたいじゃねーか!
・・・まあ、普通二つ名は人々の間で通っているもので自分が名乗るもので無いからこれも正しい姿なのかもしれないが納得いかん!
因みにキュルケはそのままの“微熱”でカトレアさんは水メイジであることとカトレアさんが醸し出している嘘をつくことが出来ない雰囲気を持っていることから“聖水”と呼ばれているようだ。
冬になり、また休みに入った。
しかし今度の休みは1ヶ月も無いので実家とヴァリエール家に数日ずつ顔を出しただけでほとんどの時間を移動に費やして終わった。
滞在時間より移動時間の方が長いから、今度からは龍籠を使えと双方の親から言われている。
ただ、今回は数日間の滞在だったが無茶な訓練はされなかったのでそこは助かった、と思ってるのは内緒だ。
あと、その時の模擬戦で偏在だして「ジェットストリームアタック!」ってやったけど見事に3タテされました。
やっぱりただ突っ込んでいったのが悪かったかな?
折角のジェットストリームアタックだし要改良だな!
そんな半年だった。
今は寒い冬が終わり段々と暖かい日が増えている。
今月の終わりには卒業式があるらしいので日本でいうところの3月に該当するのだろう。
そして今日も例によって例のごとく昼から授業が無いのでアウストリの広場で紅茶やお菓子を食べながら雑談していた。
「そう言えば今月の終わりに卒業式があるけど、なんかその前に舞踏会があるみたいだよね。卒業する生徒に最後に楽しんでもらいたいっていうことで行うのかな?」
俺がそうつぶやくとキュルケが口を開いた。
「ねえ、ダーリン!実はその舞踏会・・・ただの舞踏会じゃないって知ってた?」
「え!?どういうこと?卒業生最後の舞踏会だから思い切り派手に行うってこと?」
舞踏会って食べて、踊って、雑談する他にすることなんてあるのか?と俺は疑問に思った。
「確かにいつもよりは派手になるかもしれませんが、どうやらそういうことではないらしいですわよ。」
そんな俺の台詞をカトレアさんはやんわりと否定した。
「なんでも魔法の鏡を使って面白いことをするみたいですよ!」
「面白いこと?」
ルイズはウキウキしながらそう言った。
よほどその舞踏会が楽しみなようだ。
「なんと!自分の理想の姿に変身出来ちゃうらしいのです!」
「理想の姿に変身!?」
「理想というか強くこの姿になりたいというのが鏡の魔法で現実になるそうですわ。」
「それって何にでもなれるものなのかな?」
「そうらしいわね。なんでも男性が女性に変わるもの簡単にできるみたいだし。」
「それはすごいな!・・・ん?どこかでそんな話を聞いたような?・・・あ。」
その話を聞いたのは夏休みの特訓後、俺が風のスクウェアになった後だ。
風のスクウェアスペル『フェイス・チェンジ』を習っている時にお義母さんが学院に『フェイス・チェンジ』を全身にかけることのできる面白いマジックアイテムがあるって言っていたことを思い出した。
「でも2、3時間しか効果が無いのが残念です・・・」
「それでなんていう名前の舞踏会何ですか?」
「確か名前は・・・そう!スレイプニィルの舞踏会というらしいですわ!」
スレイプニィルの舞踏会、変身・・・ああ、そういえばアニメにそういう話もあったな。
名前は覚えていなかったが変身して行うパーティーがあったことはうっすらと覚えていた。
「スレイプニィルの舞踏会ですか。・・・それで皆は何かなりたいものはもう決まってるの?」
俺がそう尋ねると3人はニヤッと笑って「ひ・み・つ!」と声を揃えて言った。
「あ・・・そうなんだ。」
「うふふ!本番まで楽しみにしててね!ダーリン!」
「そうだな。本番まで楽しみに待っておくよ。」
キュルケは自分に自信を思っているし、なりたい人物がいるとは思えないので誰に変身するのか皆目見当もつかない。
「全然違う人になるかもしれないけどちゃんと見つけてね!お義兄様!」
「ん?なんか僕が皆を探すことになってないか?」
「ダメですか?」
「いや、別にいいんだけど・・・。でも別人になったらルイズって分からないんじゃないか?」
「そうね~。でも声は変わらないらしいのでそこで判断すればいいのではないかしら?」
「声は変わらないんですか?分かりました!頑張って見つけてみせますよ!」
その人のなりたいものを予想して人を探すとはなかなか面白いことになりそうだとわくわくしてくる自分がいた。
「頑張ってね!ダーリン!」
「ああ!・・・で、タバサは何かなりたいものはあるのか?」
俺はすでにケーキを食べ終わり、本を読んでいて全く言葉を発していないタバサに向って声をかけた。
「・・・そういうことなら私も秘密にしておく。」
タバサは本に視線を落としたままそう答えた。
タバサのこの態度に初めの頃はルイズがよく噛み付いていたが、キュルケの「雑談の時間は自由な時間なんだから本人の好きなことをさせたらいいじゃない。」と言ったことがあり、それからは皆タバサのこの態度を容認している。
それに本を読んでいても質問されると決して無視せずにこうして答えてくれるのも容認する1つの要素だったのだろう。
態度は素っ気ないように思えるが根がいい子だと皆分かってきているのかもしれない。
「そうか・・・。タバサくらい本好きだと本の登場人物とかになりたい人がいるんじゃないかなと思ったんだけどな。例えば、そう・・・イーヴァルディの勇者とか。」
俺の言葉にタバサが一瞬固まり、そして本を閉じて顔をこちらに向けた。
「・・・なるほど。その発想は無かった。ヴァルムロート、あなたに感謝する。」
口調やトーンは普段と変わらなかったがその瞳がキラキラと輝いていたので、とても喜んでいることは分かった。
「そうだ!お義兄様は何かなりたい人はいるんですか?」
「そうね。聞きたいわね!」
「それでダーリンは誰になりたいの?」
興味津々と言っている目が8個俺の方に向いていた。
ルイズやキュルケと同じようにタバサまでも興味深そうに俺を見つめていることに内心驚いた。
「え!?あ、まあ、皆秘密にしているし僕も秘密ということで!」
キュルケやルイズは少し不満そうだが、そう言われてはこれ以上のことを聞くことは出来なかったようだ。
カトレアさんはあらあらと言いながら微笑んで、タバサは再び本を開いて続きを読み始めた。
追求されることが無くなった俺はほっと一息つく。
しかしいくら追求されても答えることは出来なかった。
なぜなら、つい先程舞踏会の内容を聞いたのだからまだ全く決まっていないのは当然だろう。
誰になってみたいか舞踏会までには考えておこうと心に決めた。
そしてとうとうスレイプニィルの舞踏会当日がやって来た。
何に変身するかいろいろ候補を考えたが「コレ!」といったものが無く、結局今日になっても決まっていなかった。
ここまでくると少し考えることを諦めかけていることもあり、無難に父さんとかでもいいかもな、と思ってしまう。
俺達は今日のパーティー会場であるホールの入り口の扉の前に集まっていた。
扉の向こうにある会場からはにぎやかな声が聞こえてくる。
しかし俺達はまだ中には足を踏み入れてはいなかった。
それは数日前カトレアさんが俺だけ他の皆を探すのは不公平と言ったのでだったら皆でお互いを探そうという話になったのだ。
そして俺達は別々に中に入って姿を変え、そしてお互いを探すという遊びをすることにした。
「じゃあ、まずは私から行ってくるわね!」
キュルケがそう言うと扉を開けて中に入っていった。
キュルケが開けた扉の隙間から見えた中の様子はすごいものだった。
金の装飾が施された銀の鎧を着た騎士っぽい人から豪華なドレスを着た銀髪の美女など様々な姿に変えた生徒や教師達が溢れていた。
それを見た瞬間、本当にあの中から姿を変えた皆を探し出せるのか少し不安になった。
少し時間が経った後、タバサが扉の前に立った。
「・・・行ってくる!」
普段は冷静なタバサも今日は興奮しているのか声のトーンがいつもより高い。
タバサは右手に大きな杖を持ち、左手に本を持って中に入っていった。
タバサが持っていた本の表紙が少しだけ見えた・・・イーヴァルディの勇者だった。
次に扉の前に立ったのはルイズだった。
「それでは行ってきますね、ちぃ姉様、お義兄様。絶対に私を見つけ出して下さいね!」
そう言うとルイズは少し駆け足で人混みの中に消えていった。
「あらあら、ルイズったら。」
ルイズの行動にカトレアさんは右手を頬に当てながらしょうがないといった様子で微笑んでいた。
「しかし皆どんな姿に変身しているんですかね?」
「うふふ、それは分からないわね。見てからのお楽しみということかしらね。」
「まあ、そうですよね。皆見つけられるかな?」
「どうかしら?・・・でも私のは分かりやすいかもしれないわね。」
「え?そうなんですか?」
「うふふ、それでは行ってきますね!」
意味深な言葉を残してカトレアさんは扉をくぐって行った。
カトレアさんが中にはいってから2、3分くらいしてから俺も中にはいった。
中に入るとやっぱりカオスだった。
普段のパーティーは皆着飾っているのだが、今は鎧を着た人とか露出が多い人など選り取り見取りだ。
変身するための鏡は会場の一番奥にあるはずなのでそこを目指して歩き出す。
「ん?」
俺が奥の方に進んでいるとすぐに1つのテーブルが目に止まった。
そのテーブルには山盛りのハシバミサラダが盛りつけてある大きな皿を一人で黙々と食べている青年がいた。
その青年は栗色の短い髪に赤いバンダナを巻いて、豪華絢爛な鎧が溢れているこの会場においてあくまで機能性を重視したような武骨で質素な鎧を着て、腰に装飾の1つも施されいない質素なロングソードを挿し、その彼の横にはこれまた質素だが実戦を何度もくぐり抜けたようなそんな風格を漂わせている槍がテーブルに立てかけてあった。
「・・・イーヴァルディの勇者だ。」
俺はその姿が小説や絵本などに出てくるイーヴァルディの勇者そのものだと思えた。
そんな本の中から飛び出してきたような青年はハシバミサラダをもくもくと食べ続けている。
テーブルには肉などの他の料理も置いてあるのだが、青年はひたすらにハシバミサラダだけを頬張っていた。
青年はハシバミサラダを美味しそうに食べているが実際にはそこまで美味しいものではないというのは俺個人の感想だ。
しかしこのハシバミはそこまで美味しくないというのは大多数の共通認識のようでこの学院でも好んで食べる者はいない。
タバサを除けば。
俺は今もハシバミサラダを食べている青年の方に足を向けた。
「・・・そこのイーヴァルディの勇者さん?は、タバサか?」
「もぐもぐ・・・あ、ヴァルムロート。」
イーヴァルディの勇者の姿をした青年はその姿からは不釣り合いな可愛らしい声を発した。
まあ、あの勇者の姿をした青年はタバサが変身したものという線が濃厚、いやタバサ以外に考えられなかったし、実際にタバサだった。
「ヴァルムロートはまだ変身してないの?」
「ああ、これから行こうと思っていた矢先にイーヴァルディの勇者がいたからもしかしてタバサかもと思って声をかけたんだ。」
「そう。あっさりバレて少し残念。・・・でもイーヴァルディの勇者になれたからいい。」
「そうか。タバサはこれからどうするんだ?」
「まだコレが残ってるから食べたら皆を探しに行く。」
そういってタバサは半分くらいの量になったハシバミサラダを見ながら言った。
「ちゃんと他のものも食べた方がバランスがいいと思うけどな。じゃあ、またね。」
そういって俺が離れるとイーヴァルディの勇者の姿をしたタバサはまたハシバミサラダを食べ始めた。
俺が会場の半分くらいまで進んだ時キュルケとカトレアさんとルイズを発見した。
「あれ?キュルケにカトレアさんにルイズも、皆まだ変身してないの?」
俺は3人に近づいていって少し首をかしげながら尋ねた。
尋ねた後でこの3人は別の人が変身したものだったかもしれないと思ったが、後の祭りだった。
「あら?見つかっちゃったわね。さすがダーリン!」
キュルケの姿をした女性からキュルケの声が聞こえた。
「あれ?やっぱりキュルケだったのか。でも最初に入っていったのにまだ変身してないのか?」
キュルケの姿は入って行ったときと同じ服装をしていた。
「いいえ!ちゃんと変身しているわよ!」
キュルケはどうだ!と言わんばかりに胸を張って俺の言葉を否定した。
そうするとキュルケの豊満な胸が今にもドレスからこぼれ落ちそうになっていた。
「わわわっ!?キュルケ!そんなに胸を強調したらポロリしちゃうぞ!」そんな心の声が出そうになった俺だが、執拗に胸を強調するキュルケの服装に少し違和感を覚えた。
そういえばキュルケの服装は初めからあんなに胸が窮屈そうな服装だっただろうか?、と。
そして俺は一つの結論に行き着く。
「・・・もしかして服を小さくしたの?」
「もう!違うわよ!ほら!よく見て!」
そういうとキュルケは両腕を組んで少し前かがみになり、さらに胸を強調したポーズを取った。
「・・・あ!分k」
「ちょっとキュルケ!いい加減にしなさいよ!」
キュルケの変化に気が付いたのも束の間、横からルイズの声が聞こえたかと思うとカトレアさんが近づいてきていた。
俺はなぜカトレアさんが近づいたのか疑問に思ったが、ルイズの声がしたのでルイズの方を見た。
するとルイズはニコニコと笑っていて、とてもさっきのような声を発したようには思えなかった。
「え~と、ルイズ?今声を出したよね?」
「いいえ。私は声を出してはいませんよ、ヴァルムロートさん。」
確認の為に俺がルイズの姿の女性に尋ねるとカトレアさんの声で答えが帰ってきた。
「え!?ルイズ、じゃなくてカトレアさんだったんですか?」
「うふふ、バレてしましましたね。」
ルイズの姿をしたカトレアさんはうふふと笑いながら答えた。
「ではこちらのカトレアさんの姿の女性が・・・ルイズか?」
「ほら!キュルケ、シャンとして!・・・あ!分かってくれましたか、お義兄様!」
カトレアさんに変身したルイズはコロコロと表情を変える。
「しかし・・・カトレアさんはルイズに変身して、ルイズはカトレアさんに変身したんだな。」
常にニコニコしているルイズと表情豊かなカトレアさんを見て、なんだか新鮮な気持ちになった。
「そうなのよね。私も最初に自分を見つけた時は驚いたわ。でもすぐにルイズって分かりましたけどね。」
「ちぃ姉様!私もちぃ姉様が私の姿に変身したと知ったときは驚きましたわ!私はちぃ姉様のような女性になりたいと思ったのでちぃ姉様に変身したのですけど、どうしてちぃ姉様は私に変身したんですか?」
そういってカトレアさんに変身したルイズはルイズになったカトレアさんとカトレアさんになった自分の体を見た。
カトレアさんのような女性になりたいと、カトレアさんに変身したルイズが自分の身体をみているが一番お義母さんの若いころに似ているらしいルイズにはそれは絶望的なように俺は感じられた。
俺は訓練のときのお義母さんを思い出し、ルイズの将来に暗い影を落とすだろうと思った、主に胸について。
「そうれはね・・・可愛いからよ!」
ルイズが憧れからカトレアさんに変身したのに対しカトレアさんは可愛いからという理由でルイズに変身したようだ。
「ちぃ姉様、私のどこの辺りが可愛いと思うのですか?」
「全部よ!」
ルイズの質問にカトレアさんは即答した。
「例えば・・・」
ルイズに変身したカトレアさんはそういうと俺達の周りをトコトコと少し駆け足で回った。
「・・・こんな風に可愛く走るところや。他には・・・」
そういうとカトレアさんはぴょんとジャンプすると「ルイズ~」と言いながらこちらに両手を上げて手を振った。
「・・・とこんな感じで可愛い仕草が様になるのがまた可愛いわ!」
一通り実演を終えて、ルイズ姿のカトレアさんが戻ってきた。
「ち、ちぃ姉様!私そんなんじゃ」
「ぷぷぷ!その通りじゃないの!本当にルイズは可愛らしいわよね。」
カトレアさんの言葉に少し抗議しようとカトレアさん姿のルイズの言葉をキュルケが遮った。
「うう~。お義兄様、キュルケに何か言って下さいよ!」
キュルケにからかわれたルイズが俺に助けを求めてきた。
「・・・すまん。僕もそう思ってた。」
「お義兄様ぁ。・・・でも折角変身出来る魔法の鏡を使ったのに全然変わっていない誰かを見た時は本当に別の意味で驚いたけどね!」
からかわれたルイズがキュルケに対抗して少し嫌みたらしく言った。
「ちゃんと変わってるわよ!それが分からないなんてルイズはお子様ね!ダーリンは分かったわよね~?」
キュルケが俺の腕に抱きつきながらルイズの言葉を否定した。
「あ、ああ!と言っても分かったのはさっきだけどね。」
あれだけ散々強調していれば気付くというものだ。
それにしてもキュルケが今腕に抱きついている状態なのだがやはりいつもよりボリュームがあるように感じる。
「ええ~!?お義兄様!キュルケのどこが変わったのですか?」
ルイズは分からないようでキュルケに聞くのはしゃくにさわるのか俺に訪ねてきた。
「キュルケは胸を大きくしてもらったんだよな?」
「ええ!別に変わる必要は無いと思っていたのだけど、やはりカトレアさんのことを考えるとね・・・」
キュルケはそう言って少し目を伏せた。
因みにカトレアさんはまだルイズの姿で可愛いポーズの探索に余念がないのかこちらの話を聞いていないようだ。
なんだかポーズを一つ一つ取る毎にキャピッ!とかキラッ!とか効果音が聞こえてきそうだった。
というかカトレアさんってこんな性格だったっけ?
あれか!?普段と違う自分になって普段抑えている欲望が溢れているって感じなのか!?
もしカトレアさんがキレイ系の外見ではなくルイズのようなカワイイ系だったらすごいことになっていたかもしれないなと思った。
しかし、キュルケの胸を大きくした理由がカトレアさんにあるということはカトレアさんってキュルケよりも胸が大きいのか?・・・すごいなぁ、と素直に思っていた。
そんなことを考えていたら無意識にカトレアさん姿のルイズの胸を凝視していたようで、ルイズは胸を両手で隠して恥ずかしがり、キュルケに耳を引っ張られた。
「痛い!痛い!・・・あぁ、痛かった。何するんだよキュルケ!」
俺は引っ張られた耳をさすりながら未だに腕に抱きついているキュルケに文句を言った。
「・・・別に!」
キュルケはぷいっとそっぽを向いた。
「そう言えばヴァルムロートさんはまだ変身してないのですよね?行かないのですか?」
いつの間にかポーズを取るのを止めていたルイズ姿のカトレアさんがそう言った。
「そ、そうですね!僕はもう皆を見つけたので変身してきますね!」
そういうと俺の腕から離れたキュルケが驚いた顔をした。
「え!?ダーリンってタバサを見つけられたの!?私達もダーリンに見つかるまで会場の中をウロウロしていたけどいなかったわよ?」
「まあ僕は結構馴染みがあるからすぐに分かったけど。そうだな・・・答えを言っちゃうと面白くないからまた探してみるといいよ。」
「でもお義兄様、それでもさっきは見つからなかったのですが?」
「そうだな・・・じゃあ、ヒントを教えるね。ヒントは・・・タバサが好きなもので、変身した人物は架空の人物だよ。」
俺がヒントを出すとキュルケとカトレアさん姿のルイズはすぐに何か分かったようだった。
「・・・でも、私あまり本を読まないからいまいちどんな姿をしていたか覚えてないわ。ルイズはどう?」
「私もイーヴァルディの勇者の本は本当に小さい頃しか見たことがなくてはっきりと覚えてないわ。」
どうしようかと悩んでいる2人にカトレアさんから天の声の如き一言がかかった。
「ふふ、私は分かるわよ~。じゃあ、2人ともタバサさんを探しに行きましょうか!」
「ええ。お願いするわカトレアさん。」
「ちぃ姉様お願いします!」
カトレアさんの導きで2人はタバサを探すことにしたようだ。
「それではお義兄様、また後で!」
「ヴァルムロートさんがどんな姿に変身するか楽しみね~!」
「ダーリンがどんな姿に変身しても私が一番に見つけるからね!」
そう言って3人はこの場から離れていった。
「よし!じゃあ俺も変身してこようっと!」
変身するために用いる鏡は会場の一番奥にあり、そこはカーテンで仕切りが作ってあり中が外から見えないようになっていた。
そしてその前には金髪のスタイルの良い美女が立っていた。
「お?最後はミスタ・ツェルプストーですかな。」
姿は美女だが声がおっさんだった。
「・・・この声はミスタ・コルベールですか。その姿に変身したのですね。」
これがコルベール先生の好みの女性か、とその姿を見る。
スラっと背は高いがボンキュッボンと出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイルで髪は金色のロングだった。
「普段とは全く異なる自分になれるのがこの舞踏会の醍醐味ですぞ!・・・だから、決してこういう女性と結婚したいとかいうことでは無いですぞ!」
「はぁ。」
聞いていないことまで言ってしまうあたり、墓穴を掘っているのでは?と思ってしまう。
そしてコルベール先生は聞いてもしないことをまたペラペラと話し出していたので、俺はそれを聞き流しながらカーテンに近づいた。
「ミスタ・コルベール、この中に変身出来る鏡があるのですよね?もう入ってもいいのでしょうか?」
「おお、これは失礼。どうぞどうぞ。中で理想の姿になったら反対側から出られるのでそちらから出て下さい。」
「分かりました。それでは。」
俺は2枚のカーテンが折り重なっているところから内側に入る。
するとカーテンで仕切られて部屋のようになっている空間のその奥に鏡があった。
その大きさは2メイル位で少し大きな姿見の鏡という印象を持った。
鏡の縁は金や銀それに宝石などを使用して豪華な装いをしているが、それくらいなら普通の貴族の家にも置いてありそうだった。
つまり、俺の第一印象は「意外と普通だな。」だった。
何になりたいか考えていない俺はルイズたちの変身を思い出し、何になりたいのかと頭を捻りながら鏡の前へと歩き出す。
一番無難なのは自分の知人、それも周りがすごい人と認めているような人に変身することだろう。
例えばゲルマニアの父さん母さんやヴァリエールのお義父さんやお義母さんとかだろう。
しかしそれでは面白みが無いというものだ。
そこで改めて物語に出てくるような架空の人物はどうだ?と思い、タバサのことを思い出した。
やはりこちらの方がなかなかに面白そうに思える。
その時俺はふと考えてしまった。
俺が思い描けばいいのだから何もこの世界のものでなければいけないということは無いはずだ、と。
パーティーの中で全身鎧に包まれていた人たちを思い出し、さらにこう思う。
人に限らず“人型”だったら変身できるだろう、と。
「俺がガンダムだ!ってか?」
俺はそう言いながら顔を上げて正面を向いた。
目の前には鏡があった。
考え事をしていたのでいつのまにか鏡の前まで来ていたようだった。
顔を上げた俺は鏡の前に立っているので当然のように鏡に写っている自分の姿を見ることになる。
その瞬間、鏡から俺を包み込むように眩い光りが放たれた。
「うっ!」
俺はあまりの眩さに目を閉じる。
しかしそれは一瞬のものだったようで、すぐに光りは収まっていた。
俺が目を開けるとそこには見慣れないものが写っていた。
普段よりもワイルドに少し逆立った髪、顔の堀が少し浅くなり少しアジア圏に近いような顔立ち。
服装はさっきまで着ていた洋服でもなく、胸や肩そして膝から下にプロテクターのようなものを着けているが騎士が着けているような鎧でもなく、全体に体にぴったりと張り付いているような少し青みがかった金属のような服。
そして極めつけはその鏡に写っている人物の頭の先から足の先までほぼ銀色で占められていたことだ。
オレンジ色の光りを放射状に出している不思議な感じの瞳を除けば。
その姿に俺は呆気に取られていた。
そんな中俺が右腕を上に挙げると鏡の中の人物は左手を挙げた。
そして俺は自分の体をペタペタと触ったり、直接見て鏡に写っているのが自分であると認識した。
「・・・いや、まあ、鏡なんだから自分が写っているのは当然だよな。」
そして俺はふうっと息を吐く。
「ってこれはメタル刹那じゃねかあああああああああああああ!!!」
と叫びたかったが、叫ぶと騒ぎになりそうなので自重して心の中だけで叫んだ。
心の中でひとしきり叫んだことで俺は少し冷静になることが出来た。
この姿は俺が生前最後に見たガンダムシリーズの主人公、刹那・F・セイエイの最後の姿だ。
どうしてガンダムからこの姿になったのか考えてみた。
この金属のような体を持った刹那は通称メタル刹那と呼ばれている。
刹那の体が金属のようになっているのは地球外変異性金属体ELSというものと同化している為だ。
この刹那に同化しているELSは刹那の乗っているガンダムとも一部同化している。
そしてさらに「俺がガンダムだ!」という台詞が刹那の代表的な台詞でもあることも大きな要因だろう。
つまり・・・
ガンダム+「俺がガンダムだ!」=ガンダムと同化しているELSと同化したメタル刹那
というわけだろう。
しかし本当に架空の人物になれるとは驚いた。
まあ、今日はスレイプニィルの舞踏会なのでこのまま出て行っても問題は無・・・くはないな。
服装というかパイロットスーツは誤魔化せばなんとかなるかもしれないが、体が全身銀色というのは異質過ぎる。
しかし、異質過ぎるのはしょうがないだろう。
なにせ元々存在しないもので、しかもこの世界で想像されたものですらないのだから。
一応この世界には『ゴーレム』という金属や土で出来た人形を作ることはできるが、そもそも天然の金属生命体とかはいないだろうしな。
「どうしよう・・・」
そう言って鏡に映る変身した自分の姿を見て頭を抱える。
「ミスタ・ツェルプストー?次の生徒が待っているので早くしてくれないかな?」
「ひゃっ!は、はい!すぐ出ましゅ!」
カーテンの向こうからコルベール先生が急かすように声をかけてきたことに口から心臓が飛び出そうになるほどに驚いてしまう。
「どうしてメタル刹那になっちゃったかな?まだ普通の刹那とかならそのまま出れたかもしれないのに・・・。せめてこの顔が銀色なのを何とかしたいけど・・・そうだ!」
俺は懐から杖を取り出す。
そして俺は1つの魔法を自分にかけ、そのまま反対側のカーテンの隙間から会場に方に出た。
「あ!ダーリンを見つけたわよ!」
声がする方を見るとキュルケが人混みの向こうから手を振っていた。
キュルケの側にはルイズ姿のカトレアさん、カトレアさん姿のルイズさらにイーヴァルディの勇者姿のタバサがいた。
俺はキュルケ達の方に人混みを進んでいった。
「ダーリンも変身して無い・・・わけじゃないみたいね。」
人混みを抜けて皆の前に出た俺を見てキュルケが俺の服装を見て目を丸くしている。
「お義兄様、それはどういった格好なのですか?」
カトレアさん姿のルイズが俺の格好について聞いてきた。
俺の今の格好は顔は普段の俺で服がメタリックなパイロットスーツになっている。
メタル刹那の顔が俺の顔になっている状態だ。
なぜこんな格好になっているかというと、鏡のところから出る時に『フェイス・チェンジ』をかけておいたからだ。
「ああ、これね・・・。変身したい候補がたくさんあって鏡の前で迷っていたらこんな姿に・・・。なんか中途半端にイメージが混じってしまったみたいなんだよ。ハハッ!」
苦しい言い訳だった。
しかしメタル刹那という別世界の架空の人物になりましたとは言えるはずもない。
「はぁ、そうなんですか。ちゃんと変身出来なくて残念でしたね。」
しかしそんな俺の苦しい言い訳にもルイズは納得してくれたようだ。
「確かにいろいろな作品に出てくる登場人物の特徴が少しずつあるようにも見える?けど、よくそんなに混じったと言いたい。」
「あらあら、ヴァルムロートさんはうっかりさんね。」
「あはは・・・」
その後も散々この格好を弄られはしたものの、パーティーは順調に進んでいった。
「あ~あ、もう終わりか。」
俺が変身してから2時間くらい経った時、隣のテーブルからそう嘆く声が聞こえてきた。
声のした方を見ると先程まで大人の騎士姿をしていた人物が少年の姿に変わっていた、いや元に戻ったということだろう。
会場のあちこちから残念がる声が聞こえて来た。
どうやらそろそろ変身している時間が終わるようだ。
「そろそろ時間ね・・・あっ!」
キュルケが声をあげたのでそちらを見るとキュルケの胸が元に戻っていた。
といっても元々が大きいのでそんなに変わらないように見えるが。
「もうちょっとあの感じを味わって居たかったんだけどね。でもダーリン心配しないで!もう2、3年すればあのくらいまで大きくしてみせるから!」
キュルケは俺にそう宣言する。
「そ、そうか。が、頑張れ。」
「あ。」
次に声をあげたのはタバサだった。
これまで俺と同じくらいの目線にいたイーヴァルディの勇者姿のタバサの顔が見えなくなったと思うと俺の胸の位置に元のタバサの顔があった。
「・・・残念。でも良い体験をした。」
タバサはどこからか本を取り出すとその本をぎゅっと握りしめていた。
「キュルケに続いてタバサの変身が解けたということは次は私の番ね。」
「あら?」
そういって少しルイズが構えるとその横にいたカトレアさんが声をあげると元のカトレアさんに戻っていた。
「え!?どうしてちぃ姉様の変身は先に解けるのですか?」
「あらあら?どうしてかしら?」
俺の前には二人のカトレアさんがいる。
二人は瓜二つだが一人はニコニコしていて、もう一人は驚いた表情をしている。
なんだか面白い状況だなと俺は思った。
「多分個人差。同じマジックアイテムでも使用者で多少の違いはあるから。」
そんな二人にタバサが端的に説明していた。
「そういうものなの?マジックアイテムだから同じかと思っていたわ。タバサはよくそんなこと知っていたわね。」
「本から得た知識。恐らくヴァルムロートも知ってると思う。」
「そうなの?ダーリン?」
「ああ。知っているよ。でも誤差といってもそんなに大きいものじゃないからな。ルイズの変身もすぐに解けるよ。・・・ほら!」
俺がタバサの言ったことに補足をしていると二人いたカトレアさんの一人がルイズの姿に戻った。
「うう、もう終わりか。いつか私もちぃ姉様のような女性になりますね!」
そう言ってルイズはぐっと握りこぶしを胸の前で作った。
「え~、今でも可愛いのに・・・。ねえ、ルイズ。」
「・・・ちぃ姉様がさっきまでやっていたようなことはしませんからね。」
「そう?可愛いのに・・・。残念ね。」
暗にルイズにルイズ自身の可愛さを拒否された形になったカトレアさんは少し残念そうだ。
「残るはダーリンだけね。」
「そうね。でもお義兄様はキュルケと同じで格好だけ変わったからあまり変化はなさそうですね。」
「・・・ああ、そうだな。あっ!」
俺の姿がメタリックなパイロットスーツから普通の服装に戻った。
「ふう。僕が最後の方に変身しに行ったみたいだし、これでほとんどの人の変身が解けたのかな?」
俺は内心変身が解けたことに安心した。
しかし下手に解除すると怪しまれる可能性があるので『フェイス・チェンジ』の魔法はかかったままにしておいた。
しばらくすると変身が解けて落胆する声は聞こえなくなっていた。
「これで舞踏会も終わりかしら?」
「そうだな。もう会場から出ていく人もいるみたいだし、僕達ももう部屋に戻ろうか。」
「そうね。もう十分楽しんだし。帰りましょうか!」
「私もお腹いっぱいだし、もうここには用はない。」
「・・・タバサはハシバミサラダしか食べてないのに。・・・どれだけ食べたのよ?」
「全部。」
「あらあら。すべてのテーブルのハシバミサラダを食べたのですか?」
「そう。全部食べた。」
「タバサのこの小さな体のどこにあれだけの量が入るのかしら?」
「・・・秘密。」
そして俺達はそれぞれの部屋に戻っていった。
「ただいま・・・」
俺は自分の部屋に戻り、暗い部屋に光りを灯した。
「ふう。今日は本当に焦ったな・・・」
俺は鏡の前に経ち、杖を取り出して『フェイス・チェンジ』を解いた。
しかし鏡に写っている姿に何の変化もなかった。
「ちゃんと戻っているみたいだな。良かった良かった。メタル刹那になったときはどうしようかと思ったよ。」
俺は着ている服を洗濯カゴに入れて、パジャマに着替えた。
「でも、本当にガンダムにならなくてよかったかもしれないな。まだ人間タイプになっただけマシだったのかも。」
まだ寝る時間には早いので俺はベットに寝転んで本を読み始めた。
「あ、でもナイトガンダムのリアルバージョンとかだったらそのまま出れたかもな。・・・でも、武者ガンダムだったら目も当てられない状況になるな。・・・ふぁああぁ。」
俺は大きなあくびをした。
「ちょっと疲れているのかな?もう寝るか。」
俺は本を枕元に置いて布団をかぶった。
「来年はちゃんと考えて変身しよう。・・・あ!来年ってもう原作始まってるじゃん!っていうか原作開始まで後1ヶ月位しかないし!やっべ!なんかドキドキしてきた!」
布団の中でゴロゴロと転がった。
「どんな困難が待っていようと・・・やぁあってやるぜえぇぇええ!!」
<次回予告>
魔法学院2年目。
俺達は召喚の儀を明日迎える。
つまり明日から原作開始ということだ。
明日に備えて、今後の方針や今の俺のメイジとしての強さや装備品などを今一度見直してみよう!
第60話『原作開始前日!』
次はスパロボをクリアした後になると思うので4月末頃の更新を目指して頑張ります。