61話 原作開始!使い魔、君に決めた!
「な、なん・・・だと・・・」
原作の開始日である召喚の儀で俺も他の人と同じように使い魔を召喚した。
鏡のようなゲートから現れたのは体長70サントの赤い体に30サント位の尻尾の先には炎を灯しているモンスターだった。
そのモンスターは俺の前にちょこんと姿勢よく二本足で立っている。
そしてそのモンスターは「カゲー!」と鳴いた。
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は“ゼロの使い魔”の世界で使い魔を召喚していたと思ったら、いつの間にか“ポケットモンスター”の“ヒトカゲ”が出ていた』。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・系統魔法だとか精霊魔法だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・
突然のことで俺は混乱していた。
「落ち着け、落ち着け俺・・・・」
冷静になるためには現状を把握することが大切だろう。
だから・・・どうして今の状況になったのか少し時間を遡って考えてみよう。
今日は朝からスズリの広場の一角でトリステイン魔法学院の2年生に進級するための試験である召喚の儀が行われいた。
「皆さんに今から使い魔を召喚してもらうのですが、私が昨日教えた呪文をちゃんと思えていますか?念の為に手順をもう一度説明するとまずサモン・サーヴァントで使い魔となる生物を召喚し、ついでコントラクト・サーヴァントを行なって自分の使い魔として契約します。よろしいですかな?」
コルベール先生は周りの生徒を一通り見渡して満足そうに頷いた。
俺も横目で周りの生徒を見ると皆希望に満ちた瞳をしている。
・・・約一名を除いて。
「では、最初に使い魔召喚を行う我こそはという方はいますか?」
「はい!」
生徒の一人が右手を挙げた。
その右手にはバラが握られている。
「ミスタ・グラモンですね。では前に出てサモン・サーヴァントの呪文を唱えて下さい。」
一番手の名乗りを挙げたギーシュが生徒の前に出た。
「ミスタ・コルベール、今から美しい僕に相応しい使い魔を召喚してご覧入れましょう!」
「そ、そうですか。では呪文を。」
コルベール先生に促されギーシュはバラを持っている右腕を真っ直ぐ前に伸ばし、サモン・サーヴァントの呪文を唱え始めた。
「我が名はギーシュ・ド・グラモン。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召還せよ!」
ギーシュが呪文を唱えると彼の前に直径1メイル程の白くて丸いがほとんど厚さがない鏡のようなモノが現れた。
俺はその光景を見て、アニメで見たものと同じだ!と少し興奮する。
この世界のどこかにもう1つあれが出現して、召喚の対象となったものが触れればこちらに転送されてくるんだな・・・それってまるで“どこでもドア”みたいだと思った。
そしてそのゲートからニョキっと大きな爪が現れた。
「おお!見てください!ミスタ・コルベール!こんな大きな爪を持っているのはきっと竜種に違いありませんよ!」
自分が召喚しようとしているものに興奮しているのかギーシュは振り返ってコルベール先生にそう言った。
「それはきちんと召喚してみるまでわかりませんよ。ほら!全身が出て来ましたよ!」
コルベール先生の言葉にものすごい希望に満ちた瞳をしたギーシュがゲートの方に向き直る。
そこにいたのは体長1メイルを超える大きなモグラだった。
生徒の中には「おいおいギーシュ、何が竜種だ。モグラじゃないか!」とやじを飛ばすものがいたがギーシュは何も言い返さない。
「おお!ジャイアントモールですね。土メイジであるミスタ・グラモンとの相性はとても良い使い魔ですね。・・・おや?どうしましたミスタ・グラモン?」
ギーシュはジャイアントモールを前にして口をあんぐりと開けて固まっていた。
「ミスタ・グラモン!使い魔となる生物を召喚したら次はコントラクト・サーヴァントですぞ!」
「・・・は、はいぃ。わ、我が名はギーシュ・ド・グラモン。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ・・・。」
ジャイアントモールにふらふらと近づいて行きながらギーシュは呪文を唱えた。
そして片膝をついていざ契約の口づけを交わそうというところでギーシュの動きが止まった。
それを俺達生徒はやきもきしながら見ていたが後が詰まっていることを考えたコルベール先生が注意しようと声を出したその瞬間、ギーシュにジャイアントモールから熱い口づけが交わされた。
それからすぐにジャイアントモールが少し苦しそうにしたのを見たコルベール先生はギーシュとジャイアントモールのところに歩いて行き、ジャイアントモールの外見を調べ始めた。
「うん!ちゃんと契約されていますね。皆さん!使い魔との契約の際に使い魔の体のどこかにルーンが刻まれます。このルーンが刻まれることが契約が成功したという印なのですがこのルーンが体に刻まれるときに多少の痛みを伴うようなので契約したての使い魔が急に苦しみだしても慌ててはいけませんよ。」
そしてコルベール先生は未だに呆けているギーシュを促して次の人の邪魔にならないような所に移動させた。
「それでは次の人、誰かいませんか?」
そうして召喚の儀はどんどん進んでいった。
大抵の生徒は鳥や猫などの普通の動物を召喚したが中には中に浮かぶ目玉のようなモンスターを召喚する者もいた。
使い魔を召喚した生徒は広場のあちこちで使い魔と触れ合っていた。
ほとんどの生徒が召喚を終え、残すは俺、キュルケ、カトレアさん、ルイズ、タバサの5人になった。
この中で最初に召喚を行なったのはキュルケだった。
「ダーリン見ててね!すごいのを召喚してみせるから!」
そう言ってキュルケがコモン・サーヴァントの呪文を唱えると直径1.5メイル位のゲートが現れた。
そしてその中から現れたのは頭のさきから尻尾までの大きさが2メイルになろうかという大きなトカゲだった。
その体は赤く、尻尾の先には炎を宿している。
「おお!これはサラマンダーですな!なかなかの大物を召喚しましたね!」
「当然ですわ!ミスタ・コルベール。ダーリン見てくれた~!」
「ああ!すごいなキュルケ!やったじゃないか!」
素直に喜んでいるキュルケを俺は祝福した。
そしてキュルケはコントラクト・サーヴァントの呪文を唱えてサラマンダーにキスをした。
「うふふ、これからよろしくね!フレイム!」
キュルケがそういうとフレイムと名付けられたサラマンダーは「ガウ」と返事をした。
キュルケがフレイムを連れて俺達の所に戻ってきた。
俺はキュルケがフレイムと名付けたことに少し疑問を持ったのでそのことを尋ねた。
「もう使い魔の名前まで決めていたのか。フレイムなんてサラマンダーに丁度いい名前・・・キュルケはサラマンダーを召喚するって分かっていたのか?」
「いいえ。どんなものが召喚されても名前はフレイムって決めてたのよ。でもこの子が来てくれて良かったわ!見てダーリン!この尻尾の炎の輝き!こんなに綺麗ってことはきっと火竜山脈産よ!」
「・・・多分合ってる。しかもこのサラマンダーはかなり個体として質が高い、と思う。」
タバサがフレイムの炎をまじまじと見ながらキュルケの言葉を肯定した。
「もう!フレイムは最高ね!」
ガバッとキュルケはフレイムの首の辺りに抱きついた。
「良かったですわねキュルケさん!」
「ま、まあキュルケにしてはよくやったほうじゃないの。」
カトレアさんはニコニコとキュルケを称えたが、ルイズは普段からかわれてるせいなのか素直になれていないようだった。
キュルケはフレイムを撫でながらその炎をうっとりとした表情で眺めていた。
「次はどなたが行いますかな?」
コルベール先生が俺達にそう言うとタバサがスッと杖を挙げた。
「ではミス・タバサ、お願いしますね。」
タバサはコクンと頷くと前に出た。
タバサは杖を掲げて俺達に聞こえるか聞こえないか位の声で呪文を唱えた。
するとこれまで地面すれすれに出ていたゲートが空中に出現し、しかもその大きさはこれまでとは比較にならないほど大きなものだった。
その大きさは近くにいるコルベール先生を基準に換算して3人分くらい、つまり直径6メイル弱くらいであった。
その光景にその場にいた誰もが驚きの声を挙げた。
「おお・・・でかいな!」
俺も思わず声をあげた。
それはコルベール先生も例外ではなかった。
「おお!こんなに大きなものは初めて見ますよ!これはすごいものが召喚されそうですな!」
そのゲートの中からひょいっと何かの頭が出てきたと思ったら次の瞬間にバサッと風を切り裂く音と共に全身を表した。
「おお!こ、これは風竜ですぞ!まさか竜種を召喚するものが現れるとはミス・タバサはすごいですな!これはこの学院始まって以来のことかもしれませんぞ!」
全長6メイル位の大きな青い体と大きな翼を持った竜を目にしたコルベール先生は興奮したように言った。
召喚された風竜はキョロキョロと周りを見ていたがタバサと目が合うとゆっくりとタバサの前に降りてきた。
タバサはまた俺達に聞こえるか聞こえないか位の大きさの声でコントラクト・サーヴァントの呪文を唱え、それに応じたのか風竜が頭を垂れてタバサと契約を結ぶ口づけを交わした。
すぐに風竜が少し痛そうな仕草をしたがすぐに収まり、それを見たタバサは終わったとばかりに俺達の元に戻ってきた。
「すごいわねタバサ・・・。因みにもう名前は決まってるの?」
キュルケはフレイムを撫でながらタバサの召喚した風竜を見上げて尋ねた。
「・・・シルフィード。」
少しタバサは考えていたようだが風竜を見上げながら「シルフィード」と言った。
するとシルフィードと呼ばれた風竜は「きゅいきゅい」と嬉しように鳴くとタバサもどこか嬉しそうだった。
「シルフィード・・・風の妖精の名前だったかしら。いいお名前ですわね!」
カトレアさんはシルフィードを見上げた。
「竜を召喚するなんてやるわね、タバサ・・・。」
シルフィードを見上げながらルイズは呆気に取られたようにつぶやいた。
「では次は私が行きますわね!」
そう言ってカトレアさんはまるでスキップでも始めそうな程浮かれた足取りで前に出た。
カトレアさんは病気が治るまでは普通のメイジとしての行為が禁止されていたので当然本来ならとっくの昔に行なっているはずの使い魔の召喚もやってなかったわけだし、やっぱり嬉しいんだろうなと優しい声でサモン・サーヴァントの呪文を唱えるカトレアさんを見ながら思った。
カトレアさんが呪文を唱え終わるとカトレアさんの前に直径1メイル程のゲートが現れた。
そういえばカトレアさんってアニメでは使い魔いる様子は無かったけど何を召喚するんだろう?と思いながら何が出てくるのかを興味深く見守った。
そしてそこから現れたのは体長1メイル程の青色の体を持った竜だった。
「あらあら。私も竜を召喚しちゃいましたか。でも小さくて可愛いわね!ほら、おいでおいで~!」
カトレアさんがしゃがんでおいでおいでをすると召喚された竜は「クゥ~!」と鳴いてカトレアさんに近づいてまるで甘えているかのように頭を擦りつけるような仕草をした。
「うふふ。あなた私の使い魔になってくれるの?」
そうカトレアさんが聞くと竜は「クゥ!」と短く鳴いた。
その反応を見たカトレアさんはにっこりと笑うとコントラクト・サーヴァントの呪文を唱え、契約の口づけをちょこんと交わした。
「・・・大丈夫?」
ルーンが刻まれる痛みに竜が耐え終わりカトレアさんがそう尋ねると竜は「クー!」と鳴いてまるで大丈夫と言わんばかりに翼を大きく広げた・・・まあ、その翼自体身体に比べても小さいものなのだが。
「あらあら、元気いっぱいね!じゃあ名前は・・・“クー”がいいわね。鳴き声がクーだし、可愛い感じが出てていいわね!それではこれからよろしくね!クーちゃん!」
クーと名付けられた竜は「クゥ!」と鳴いて頭を上下させた。
使い魔召喚が終わったカトレアさんがクーを連れてこちらに戻ってきた。
「ちぃ姉様すごいです!まさかちぃ姉様まで竜を召喚するなんて!」
戻ってきたカトレアさんに抱き付きながらルイズはまるで自分のことのように嬉しそうに言った。
しかし俺はルイズがカトレアさんがクーを召喚した時に「ちぃ姉様まで・・・」とつぶやいたのを知っていたので少し複雑な気持ちになった。
「本当にびっくりね!これでこの学年には竜の使い魔が2匹もいることになるわね!これってすごいことなんじゃないかしら!?」
そう言ってキュルケはシルフィードとクーを見た。
「でもあの竜、クーはシルフィードみたいな風竜とは違うと思う。」
クーをじっと見つめていたタバサがつぶやくように言った。
確かにカトレアさんが召喚したクーはタバサが召喚したシルフィードのような風竜とは幾つか異なる点があった。
体の色は風竜であるシルフィードよりも深い青色をしており、両肩に付いている翼や尻尾の先が少し広がっていてそれらは魚のヒレを思わせる形をしていた。
「ちょっと失礼しますぞ。」
そう一言断ってからコルベール先生はまじまじとカトレアさんが召喚した竜を観察し少し考えるように腕組をして何か思い出したのか驚いたように言った。
「これは・・・この竜は海竜かもしれませんぞ!小さいですが書物にある海竜の記載とよく似た特徴をこの竜は持っていますな。」
「あら?それは本当なのですかミスタ・コルベール?・・・そうなの?クーちゃん?」
コルベールの言葉にクーの頭を撫でていたカトレアさんが反応した。
クーは撫でられて気持ちいいのか目を細めていた。
「でもミスタ・コルベール、海竜のことが書いてあるどの本でもその身体の大きさは火竜、風竜よりも一回りか二回りは大きいとあったはず。」
タバサは手でクーの大きさを測るような仕草をしてコルベール先生に疑問を投げかけた。
「うむむ。確かにそうですが、しかし・・・」
う~ん、と再び腕を組んだコルベール先生の代わりにカトレアさんがタバサの疑問に答えた。
「きっとクーはまだ子供なのでしょうね、それもほとんど生まれたばかりの。これからどんどん大きくなると思いますわ。ね~、クーちゃん。」
カトレアさんの言葉にタバサは納得したようだった。
「これで残るのはミスタ・ツェルプストーとミス・ルイズなのですが、どちらが先に行いますか?」
コルベール先生の言葉を聞いて俺とルイズは顔を見合わせた。
ルイズがサイトを召喚したら少し騒ぎになりそうなこともあるし、それにルイズはゼロの使い魔のヒロインなのだからトリを任せたいという勝手な考えにより、俺が先に行った方がいいだろうと考えた。
それに自分自身が何を使い魔として召喚するのかを早く知りたいという気持ちもあった。
「ミスタ・コルベール、僕が先に行います。」
俺は杖を軽く上げてコルベール先生に告げるとルイズがわたわたと慌てだした。
「お義兄様!?わ、私が先の方がいいのでは?え、え~と、ほら!お義兄様はスクウェアメイジだから何かすごいものを召喚しそうじゃないですか!だから・・・」
どうやらルイズは自分が最後に召喚を行うのが嫌なようだ。
「ルイズ、メイジのランクが高いからといってすごいものが召喚されるわけではないと思うよ。現にオールド・オスマンの使い魔はネズミだしね。だから僕が召喚するものもすごいと決まったわけではないよ。」
自分でも適当なことを言っているなと思いつつ、ルイズを諭すように言った。
「ま、まあ確かにそうですけど・・・」
ルイズは少し沈んだ表情で応えた。
「それに・・・ルイズは一番すごいものを召喚してしまうのではないかと思っているんだ。・・・いや期待かな?だから僕が先に使い魔を召喚させてもらうね?」
「私がすごいものを?でも私なんかが・・・でもでも!お義兄様が期待してくれているし・・・分かりました!使い魔を召喚するのは私が最後でいいです!」
「ありがとうルイズ。」
俺は皆の前に出て杖を構えた。
「頑張ってねダーリン!火竜を召喚して竜種を全て揃えちゃいましょう!」
後ろからキュルケがそう俺を応援してくれた。
さあ、始めるぞ!と心の中で呟いて、目の前の何もない空間に意識を集中させた。
「我が名はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召還せよ!」
無意識に杖を握る手に力がこもる。
俺が呪文を唱え終わると目の間に直径1メイル弱の大きさのゲートが現れた。
「・・・」
ちゃんと召喚の為のゲートが現れたことに安心するもそのゲートの大きさが思いの他小さいことに少しばかりショックを受けた。
これまで召喚した対象とほぼ同じ大きさのゲートが現れるということが他の人の儀式をみて分かったことだった。
ということで俺が今から召喚するものが1メイル程度のそんなに大きな生き物では無いことが分かる。
さらにキュルケはああ言っていたが竜種となるとカトレアさんの竜種の赤ちゃんという例外を除けば、普通はシルフィード位の大きさになると考えられるので、これから来る生き物が竜種ではないことも分かった。
ゲートが出現して数秒後、中から俺の使い魔になってくれる何かが現れた。
「ん?あれなんだ?」
現れたのは体長70サントの赤い体に30サント位の尻尾の先には炎を灯しているトカゲのような姿をしたモンスターだった。
その特徴だけならキュルケも召喚したサラマンダーとよく似ている。
しかし、そのモンスターは二本足で立っていた。
サラマンダーも二本足で立つことも出来るが基本は四肢を全て地面につけた四足歩行だ。
しかし、その立ち姿を見るとどうみても完全に二足歩行している骨格をしているように思える。
「おや?見慣れないモンスターですな?少し変わった姿をしていますが・・・サラマンダーですかね?」
コルベール先生が俺の後ろの方から俺が召喚したモンスターを見てそう言った。
話かけられたと思ったのかそのモンスターが返事とばかりに鳴いた。
「カゲー!」、と。
「何っ!?」
俺はその鳴き声を聞いて、このモンスターに関してあまりにも考えにくい予想が頭の中で構築されていった。
その予想は前世の地球で「実は魔法は存在します。そして魔法は一定の法則にしたがえば誰にでも使えます。」と、朝のニュースで放送されるくらいありえないと思えた。
しかし、この姿を見て、鳴き声を聞いた俺にはその予想以外は考えっれなくなっていた。
あり得ないと判断しているのにあり得ると思えてしまう自分自身がいることに頭が混乱してきていた。
モンスターはトコトコと俺のところまで歩いてきてなぜか持っていた1通の手紙を俺に差し出した。
なぜ召喚したモンスターが手紙を持っていて、それを俺に渡してくるのか、疑問に思ったがとりあえずそのモンスターから手紙を受け取り、手紙を読んでみることにした。
“やあ!元気にしてるかな?君の残っていた寿命に私から少しおまけしてしてこの子を召喚するようにしておいたよ。”
短い文章が書かれたそのさらに下の方にも何やら書いてあるようだった。
“追伸:君が私のことをバカにしたことは知ってるよ~。だから本当はもっといい子を送ってやろうかと思っていたけどこの子にしたよ。フハハハ!その子で始めて苦労するがいい!フシギダネ最高www!”
俺が手紙を読み終えるのを待っていたのかそのモンスターは口から火を吐いて、俺が持っていた手紙を燃やした。
俺の後ろで何やら声が聞こえるが俺の頭はあまりの情報過多により混乱していて上手く機能していなかった。
例えていうなら、ポルナレフのような状態だった。
後ろの方にいたコルベール先生がいつの間にかすぐ近くまで来ていて、俺の肩を軽く叩き、早くコントラクト・サーヴァントをするように促していた。
「どうかしましたかなミスタ・ツェルプストー?召喚しただけで終わりではないですぞ?さあ、早くコントラクト・サーバントを行ってください。」
肩を叩かれたことと、これまでの経緯を早送りのように思い出していたおかげで少し頭が正常に戻ってきた。
つまり、神が前世の俺の寿命ポイントの残りプラスアルファでヒトカゲを俺の使い魔に設定したということだと理解出来てきた。
・・・アルファの方が多いと思うけど。
とりあえずこれ以上コルベール先生を困らせてもしょうがないので、コントラクト・サーヴァントを行う為に膝を地面につけて、ヒトカゲと同じ目線をとる。
「お前、俺の使い魔になってくれるのか?」
俺がヒトカゲにそう尋ねると「カゲッ!」と鳴いて両手を上げた。
「ありがとうな。・・・我が名はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ。」
俺は呪文を唱えるとヒトカゲに契約の口づけをした。
「カ、カゲェ・・・。」
契約を交わしてすぐにヒトカゲが首の下辺りを押さえて、痛そうに声を漏らす。
安全だと分かってはいるがそれでも少し心配になり声をかけようとしたがその時にはすでに痛みは収まっていたのか、ヒトカゲは押さえていた手を解いた。
退けた手の下には“X”の意味をもつルーンが1文字だけ刻まれていた。
「これから大変だと思うけどよろしくな!」
「カゲッ!」
俺は元気よく返事をしたヒトカゲの頭を軽く撫でてた。
「ヴァルムロートさんも可愛い使い魔を召喚しましたわね。ほら、クーちゃんお友達よ~。」
戻るとカトレアさんが近づいてきてヒトカゲの頭を撫でながら、自分の使い魔に紹介していた。
「ちょっといいですかな?」
「どうしたんですか?ミスタ・コルベール?」
「ええ、このようなサラマンダーは見たことがないのでちょっと観察させて下さい。あとで詳しく調べてみようと思いまして。」
「そうですか。分かりました。どうぞ、調べて下さい。何か分かったら僕にも教えて下さい。」
建前上そう返事をしたがコルベール先生が正解にたどり着くことはないと分かっていた。
なぜならヒトカゲはモンスターはモンスターだがこの世界には絶対にいない“ポケットモンスター”の世界のモンスターなのだから。
「ああ、もちろん!では失礼して早速・・・。ふむ、このルーンは前に見たことがあるが1文字だけとはどういう意味があるのだろうか?身体的特徴はサラマンダーに酷似しているが、いや、しかし・・・」
俺の許可を得たコルベール先生はヒトカゲを観察し始めた。
恐らく調べても分からなくて結局はサラマンダーの亜種もしくは変異種ということに落ち着くのだろう。
「ダーリンもサラマンダーを召喚したのね!・・・ちょっと変わってるけど。でもダーリンなら火竜位は召喚出来ると思ってたから少し残念ね。」
キュルケは俺が火竜を召喚すると強く思っていたようで当の本人よりも残念そうな表情をする。
俺としても残念と言えないこともないが、それ以上にヒトカゲというこの世界にいるはずのないポケモンを召喚できたことが嬉しく感じてきている。
まあ、召喚できたというようりもさせられたち言うべきだろうが、この際どうでもいいことだろう。
「・・・キュルケが期待してくれるのは嬉しいけど使い魔は何が来るか分からないからね。こればかりはしょうがないよ。」
キュルケも自分の使い魔をヒトカゲとご対面させていた。
ヒトカゲはこの世界の生き物では無いが同じように炎の力を扱うフレイムとはすでも少し打ち解けているようで「カゲ!」「ガァ!」と挨拶を交わしていた。
「・・・私もお義兄様は火竜を召喚すると思ってたからサラマンダーのしかもキュルケよりも体が小さいものが来て驚いたというか拍子抜けしたというかホッとしたというか・・・」
俺がキュルケと話している間、ルイズがヒトカゲを見ながらポツリとつぶやいていたので俺はキュルケとの話が終わるとルイズの方を向いた。
「どうかしたか?ルイズ?」
「え!?あ!?な、何でもないです!そ、そうだ!お義兄様はこの使い魔に何という名前を付けるのですか?」
俺がルイズの方を向いて声をかけるとルイズはさっきつぶやいていたことを誤魔化すようにワタワタと慌てて話を逸らそうと使い魔の名前の話をした。
「名前か・・・そうだな、何にしようか?」
俺はルイズにヒトカゲの名前を聞かれて腕を組んだ。
う~ん、俺はキュルケみたいに前もって名前を考えて無いからな・・・何がいいかな?
ヒトカゲ!・・・じゃあそのままだし、それにもし“進化”してリザードやリザードンになってまでヒトカゲって呼ぶのも何だよな、それにサイトももしかしたらポケモンのことを知っている可能性があるから、これは却下するしかない。
タバサみたいに妖精からつけるとしたら火の妖精だから・・・ロラマンドリ、だったっけ?
ロラマンドリ・・・あんまり格好良い響きじゃないから却下だな。
カトレアさんみたいに鳴き声から・・・カゲか、やめとこう。
やっぱりイメージでそれっぽいの考えるか・・・仮に進化するとしてリザードンになってもおかしくない名前か。
リザードンは見た目竜っぽいけど炎・飛行タイプだな、そしてここは魔法の世界・・・はっ!
炎、魔法、そしてリュー、といったら・・・“あれ”しかない!
と、いうことを数秒で考えた俺はその名前を口にした。
「僕の使い魔の名前は“ゼファー”だ!・・・お前の名前はこれからはゼファーだよ!」
俺はヒトカゲに向ってその名前を言うと、ヒトカゲは名前を付けられて嬉しいのか「カゲッ!」と鳴いた。
「・・・ちょっと待って欲しい。」
それまでじっとヒトカゲを見ているだけだったタバサが口を開いた。
「ん?どうした?タバサ?何かマズイことがあるのか?」
「ゼファーは風を表す言葉のはず。サラマンダーには相応しく無いのでは?」
そう言われて俺は、はっとする。
ゼファーとは西風神の名前だということを本で読んだことがあったからだ。
しかし、それよりもリューナイト・ゼファーという思いっ切り炎属性だったのでそちらの印象が強すぎたからそのことを失念していた。
「そ、そういえば、そうだったな・・・」
タバサの指摘に俺は反論することが出来なかった。
炎を扱うモンスターに風にまつわる名前を付けることは普通に考えれば不自然に思えるだろう。
俺はなんとかその不自然さをぬぐえないかと考えていると、横から助け舟のような声が発せられた。
「まあ、いいじゃない。名前なんて召喚した人が自由につけていいんだしね!」
タバサに気圧されている俺を見かねたのかキュルケがそう言うと、タバサもそれに異議はないようだ。
俺は心の中でキュルケに感謝した。
「私は別に文句を言ったわけではないつもりだった。そう受け取ったなら謝る。・・・ごめんなさい。ただどうしてその名前を付けたのか気になっただけ。」
タバサは少し困ったような顔をしてペコリを軽く頭を下げた。
「いや、僕も勢いでつけちゃって、ゼファーの意味をちゃんと考えていなかったのが悪いんだし・・・名前の由来は響きが格好良いから付けたんだけど、これじゃあダメ?」
タバサが頭を下げたので俺は慌てて言葉を取り繕った。
俺の言葉に納得したのかは分からないがタバサは首を横に振り、そして「別にダメじゃない。」と言った。
「・・・ふう、これで良いでしょう。」
コルベール先生がゼファーのスケッチなどを終えて立ち上がった。
「早く図書館に行って調べなければ!」
コルベール先生はくるりと向きを変えた。
「あ・・・。」
ルイズ沈んだ声を出した。
「ミスタ・コルベール!まだルイズの召喚の儀が終わっていませんよ!」
本塔の方に行こうとしたコルベール先生を俺は慌てて呼び止めた。
「おお!これは失礼しました。ミス・ルイズが最後でしたね。それではお願いしますね。」
コルベール先生は戻ってくるとルイズに召喚の儀を行うように言った。
「は、はい!」
ルイズは緊張しているのか少しぎこちない動きで前に出て、そして杖を取り出した。
ルイズは右手に持った杖を頭の上に掲げてサモン・サーヴァントの呪文を唱え始めた。
「・・・ハルケギニアで唯一無二のかっこ良くて、とっても強い私の使い魔よ!」
「何それ?」
「あらあら。」
「・・・デタラメ。」
ルイズの呪文に誰もが呆れたような感じを醸し出していた。
まあ、俺も素で聞くと「何じゃそりゃ?」ってなっている他の生徒の気持ちは理解できる。
しかし、ルイズはふざけているわけでも、遊んでいるわけでもない、真剣なのだ。
結果は分かっているが、それでも真剣に呪文を唱えているルイズを心の中で「頑張れ」と応援していた。
「私の声が聞こえたなら、私の下に今すぐ来なさい!!」
最後まで言い終えたルイズは勢い良く杖を振り下ろした。
その瞬間、ドオーンと爆発が起った。
その衝撃により砂埃が舞い上がり、視界を塞ぐ。
生徒達は「またかよ!」と普段から爆発を繰り返しているルイズに文句を言っていたが、次第に砂埃が晴れてくると反応が変わった。
「おい!誰か倒れているぞ!」
と一人の生徒が言った。
俺にもその人物が見えてきた。
気絶しているのか大の字で倒れている。
サイトだと俺はすぐに分かった。
なぜなら、黒髪で白と青のニ色のパーカー、紺色のジーンズに青色のスニーカーという風なアニメと同じ格好をしていたからだ。
すぐにサイトは目を覚ましたようでむくりと上半身を起こした。
するとルイズは詰め寄ってサイトに何かをまくし立てている。
そして周りの生徒はサイトのことをルイズがどこからか連れてきた平民ではないか、とはやし立てる。
恐らくルイズは自分のサモン・サーヴァントをサイトに邪魔されたと思っているんだろう・・・まあ、これが成功なんだけど。
名前を聞かれたサイトは思った通り「ヒラガサイト」と名乗っていた。
ルイズが頻繁に口にしている「平民」という言葉はよく分かっていないようだが、それもしかたないと言えるだろう。
ルイズはコルベール先生にサモン・サーヴァントのやり直しを要求していたが却下されていた。
次にルイズは何かを訴えようとする目でこちらを見たが、俺は首を横に振り諦めてコントラクト・サーヴァントをするように促した。
俺の反応にルイズはガックリと肩を落とす。
覚悟を決めたのかルイズが顔を上げると少し諦めが入った表情でサイトを見つめた。
ルイズはしゃがんで目線を座っている状態のサイトと同じ高さにした。
ルイズはサイトに向かって二三何か文句を言うと目を閉じて、コントラクト・サーヴァントの呪文を唱えた。
呪文が終わり、杖を軽く振ってルイズは契約の口づけを交わすためにサイトの顔を両手で押さえて強引に口を重ねた。
この行為にサイトは驚きのあまり目を見開いていた。
ルイズがサイトから顔を離すとコルベール先生に「終わりました。」と報告した。
サイトはルイズがキスしたことについて困惑した様子で問いただそうとしていたが、すぐに左手を押さえて叫んだ。
苦痛に耐えるサイトの額には汗が噴き出している。
・・・あれって相当痛そうだな、とサイトの様子を見ながら考えていた。
まあ、腕をちょん切られた俺が言うことじゃないけど。
サイトがルイズに手の痛みについて文句を言っていたがルイズはそれを軽くあしらっている。
しつこくルイズに食い下がっているサイトだが、すでに手を痛がっている様子はなかった。
コルベール先生がサイトの左手に刻まれたルーンを観察し、これまで見たことがないルーンだと言ってスケッチをとっていた。
その様子をおかしなものを見るようにサイトは見ていた。
「それでは皆さん全員使い魔を召喚しましたね。」
コルベール先生がそういうと周りの生徒が「ルイズはどうか怪しいけどな。」と誰かがいうと「使い魔が平民だしな!」と言って、笑いが起きていた。
「皆さん静かに!それでは私はこれから図書館に行って・・・あ、まだ授業がありましたね。では皆さん、教室に戻りますぞ。」
そういうとコルベール先生は『フライ』の魔法を使って塔の俺達の教室がある階にそのまま飛んでいった。
生徒達も『フライ』や『レビテーション』を使い、召喚したばかりの使い魔と一緒に窓から教室に入っていく。
サイトはその様子を呆然と見ていた。
俺達も教室に戻るためにルイズに近づいていった。
するとルイズとサイトが「田舎」「田舎じゃない」とか何やら言い合っているようだ。
「どうしたんだ?ルイズ?そんなに声を荒げて?」
「あ!お義兄様!聞いて下さい。この使い魔、ニホンとかトーキョーとかいう聞いたことのないところから来た田舎者なんですよ!しかもそこにはメイジがいないほどのド田舎みたいなんですよ!」
ルイズが俺のほうを向くとサイトが言う場所が如何に田舎者なのかを教えてくれた。
そんなルイズの言い分にサイトは反論する。
「東京は田舎じゃねえよ!むしろここの方が超が付くほど田舎だろうが!っていうかあんた誰だ?オニイサマってことはこのルイズさん?の兄貴なのか?妹の躾はちゃんとしといた方がいいぜ。」
両方を知っている俺からしてみれば確かに東京は地球でいうところの“都会”であり、ここハルケギニアは地球でいうところの“田舎”、というか時代遅れも甚だしいだろうなと思う。
「それは失礼したね。僕の名前はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ルイズとは義理の兄妹なんだけどね。」
「ふうん。で後ろの人達も兄弟かなにか?」
「ちょっと!お義兄様に何て口の聞き方をするのよ!」
「まあまあルイズ。そうだね。紹介しておこうか。まずこちらの女性が本当のルイズの姉のカトレア・イヴェット・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」
「うふふ、よろしくね。使い魔さん。」
「え、あ、よろしく・・・」
カトレアさんに挨拶されてサイトの顔が赤くなった。
「なにちぃ姉様に照れてるのよ!」
「て、照れてねえよ!」
「因みにルイズが僕の義理の妹なのは僕とカトレアさんが婚約者だからだよ。」
「え?こ、婚約・・・者?」
サイトは婚約という言葉に疑問を持ったようだ。
まあ、日本にいれば“婚約者”なんて言葉は現実に聞く機会なんかほとんどなく、ドラマやアニメのような創作物の中ぐらいでしか出てこないようなものだろう。
俺のように若いヤツが婚約なんて言葉を口にしたのが相当不思議なんだろう。
・・・まあ、カトレアさんは年相応かもしれないが。
「次にこっちの女性はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・グナイゼナウ。キュルケも僕の婚約者だよ。」
「・・・手を出すなってことだろ、分かったよ。でも少し分かって来たぜ。魔法があったり、こんなに美人で巨乳な女性二人と婚約者がいるとかいう、ファンタジー世界っていう設定だということがよ。」
設定、という言葉を口にするあたりまだここが異世界だとは完全に信じてはいないようだ。
ドッキリかなにかだと思っているのかもしれないが、あえて騙されてやっている、というスタンスをとっているのだろう。
そんなサイトにキュルケがにこやかに挨拶をする。
「うふふ。よろしく、平民の使い魔・・・サイトだっけ?」
「あ、ああ。サイトで合ってるよ。」
俺は一応釘を刺さしたつもりだったのだが、サイトはカトレアさんやキュルケの胸に釘付けになっているようだった。
「あんた・・・何見てるのよ!」
「な、何も見てねーよ!」
「嘘!ちぃ姉様とキュルケの胸を鼻の下伸ばして見たりして!あんたなんて発情期の犬よ!このエロ犬!」
「な!?なんて事言うんだ!くそっ!すぐにでも俺を元の場所に戻せよ!」
「それは多分無理。サモン・サーヴァントは連れてくるだけで返す魔法は無い。」
キュルケの後ろからタバサがひょこっと出てきた。
「おいおい嘘だろ?連れてくるだけで返す方法が無いとかマジかよ・・・。この女の子は?」
「彼女はタバサだ。因みに彼女は・・・」
「はいはい。婚約者なんでしょ。」
「いや、婚約者ではないぞ。一応年齢的には一番下だが同じ学年のクラスメイトだ、と言いたかったのだけどね。」
「そうなんだ・・・なあ、そのタバサって子の後ろにいる大きいものはなんなんだ?」
タバサの後ろでシルフィードが「キュイキュイ」と鳴いた。
「ああ、風竜という種類の竜だな。名前はシルフィードでタバサの使い魔だ。」
「竜ってまじかよ・・・。っていうか他のやつの足元にもなんか一匹ずついるし!?」
「ああ。それぞれの使い魔だな。今日召喚したばかりだけどな。サイトも同じようにルイズに召喚されて出てきたんだぞ。」
「召喚って、しかも俺ってこの竜とかなんか赤くてシッポに火がついているトカゲみたいなのと同じ扱いかよ・・・。ん?なあ、あんた・・・ヴァルム、なんだっけ?」
「このバカ犬!お義兄様のお名前はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ!しかもあんたは平民なんだから様を付けなさい!様を!」
「うるせーな・・・・。え~と、ヴァルムロート・・・様、あんたの使い魔はなんかどこかで見たことがあるような気がするんだけど?」
サイトのその言葉を聞いて俺の心拍数が急上昇した。
やはり日本からきたから来ただけあって、ポケモンを知ってる可能性は高そうだ。
しかし、ここが異世界であり、自分の世界の仮想の生き物であるポケモンのヒトカゲがいるはずがないと思っているのか、その言葉尻は弱いものだった。
それに俺の知っている日本ではない可能性、俺が前世でいた地球とは別の世界の地球の日本からやって来た可能性もある。
もしかしたら別の日本にはポケモンに良く似たゲームがあり、そのキャラクターの一つにヒトカゲに良く似たモノがいる可能性がある。
俺の知っている日本とサイトのいた日本が同じにせよ、違うにせよ、俺は今後の言動には気を付けなければいけないだろう。
迂闊にサイトと共通の認識を持つ言葉などを言ってしまうとサイトに怪しまれ、そして下手をすればロマリア教会に異端として扱われる可能性も無くはないだろう。
それに前世が恋人だったと信じているキュルケをも悲しませてしまうことになるかもしれないし、俺の前世が日本人だということは死ぬまで誰にも言ってはいけないし、気付かれてもいけない。
と、いうことでここはとりあえず、とぼけておこう。
「そ、そうかい?君の周りにこんなモンスターがいたのかな?」
「いや実際に見たわけじゃないと思うんだけど、そんな生き物はいないし・・・。まあ、いいや。それでちょっと聞きたいんだけどさっきの他の連中が空を飛んだのってなんかトリックあんの?」
サイトは先程他の生徒達が飛んだ様子を何かのトリックだと思っているようだ。
まあ、今現在何かしらのドッキリを仕掛けられていると思っているかもしれないのでその反応は分からなくもない。
「残念だけど何のトリックも使っていないよ。あれは『フライ』や『レビテーション』という魔法で空を飛んでいるんだ。」
「そんなこと言わずにカメラとかに聞こえないようにこっそり教えてくれよ。絶対何かトリックがあるんだろ?透明なテグスとかでどこからか吊り上げてるんだろ?」
「かめら?なによそれ?」
サイトの言った言葉に疑問を持ったルイズがサイトに尋ねたが、とぼけていると思っているサイトは呆れたような顔をして取り合わなかった。
「それなら君を飛ばしてあげようか?」
そう言ってから、俺はサイトに『レビテーション』の魔法をかけて1メイル位浮かす。
「へ?・・・うわっ!?なんだ!?俺浮いてる?ちょっ、ま、お前がやってんのか!?お、降ろせよ!・・・降ろして下さい!」
俺に浮かばされたサイトは空中でバタバタと手足を動かした。
俺がゆっくりサイトを地面に降ろすとサイトは自分のからを調べてどこかにワイヤーなどが付いていないかを確認していた。
しかし、そんなものは初めからついていないのでいつまでたっても見つからない。
自分の身体の周囲を探しつくすと、ハハッと乾いた笑いをしてサイトは地面に座り込んだ。
「ま、マジで魔法なのか?・・・魔法使いに召喚された!?俺が?なんて悪い夢だよ・・・。ルイズ、ちょっと俺を殴ってくれ。」
「呼び捨てにしないで!それになんであんたを殴らないといけないのよ?」
「魔法なんてゲームや漫画、アニメの中だけの話だろう。例外があるとすればそれは夢だ。だからこれは夢なんだ!」
異世界に召喚されるとか、普通に考えれば夢の産物なのでこれが夢だと考えても不思議ではない。
無駄だと思うが、一応俺は夢だと言いはるサイトに反論しておく。
「いや、夢じゃ無いぞ?」
「分かってるって。夢の住人は皆そう言うんだろ。あ~、早く目を覚まさないとな、たぶん夢で強力なショックを受ければ現実の俺が目を覚ますだろ。あれだ、落ちる夢を見て、うわってなるときみたいな?だから一発俺を殴ってくれよ。」
サイトは俺の言葉を受け流してルイズに自分の頬を指さした。
「・・・本当にいいのね?」
「ああ。一番いいのを頼む。」
「使い魔なら何でもいいと思っていたけれどなんであんたみたいな平民が召喚されるのよ・・・」
「知らねえよ。夢とはいえお前が俺を召喚したんだろうが。」
「なんで契約するのにく、口づけしなきゃいけないのよ・・・」
「そんなの俺が知るかよ!俺のファーストキスがこんな変な奴に奪われたかと思うと残念だぜ・・・あ、夢だからノーカンかな?」
ルイズが大きく振りかぶった。
「わ、私のファーストキス返せーーー!」
ルイズの腰の入った右ストレートがサイトの顎を綺麗に撃ちぬくと、サイトはそのまま倒れた。
「ちょっとこれ・・・気絶してるわね。ルイズ、やり過ぎじゃない?」
キュルケがサイトを杖でつついたが反応が無く、気絶しているようだった。
「ふん!殺すつもりでやったんだけどね!」
ルイズは相当怒っているようだった。
俺は倒れているサイトを見ながらとうとう原作が始まったんだなとしみじみ思った。
倒れたサイトはとりあえずルイズの部屋に運ぶことになった。
ルイズは初めは嫌がっていたが、カトレアさんに説得される形で渋々了解した。
でも女の子に部屋に男が寝ている状態はあまりよろしくないということで最低でも授業の間目を覚ますことが無い様に念の為『スリープ・クラウド』をかけておいたので2時間位は目を覚ますことはないだろう。
授業が終わったら俺達も立会の元、サイトについていろいろを聞いてみることになった。
授業に少し遅れているので教室に入る為に皆『レビテーション』を唱え、使い魔と一緒に飛び上がった。
『レビテーション』の使えないルイズはカトレアさんと一緒に飛んでいる。
そしてちょっと気になることがあったので隣にいるゼファーにあることを聞いてみた。
「なあ、ゼファー。お前って進化出来るのか?」
俺がそう聞くとゼファーは「カゲッ!」と元気よく返事をした。
「そうか!いろいろ楽しくなりそうだな!」
<次回予告>
ルイズが呼んだ使い魔、サイト。
皆サイトの正体について興味深々だ。
勿論、皆はサイトがこの世界のどこかの場所から召喚されたと思っているが・・・
そして俺もサイトの出身が気になっている。
主に俺と同じ地球か、それとも違う地球かという、皆とは別の次元の話だけど。
もし・・・俺と同じ地球の日本だったら『トランザム』とか発動した時の姿もその使い方も似てるから結構ヤバイ?
界王拳とかじゃないだけ、マシか?
第62話『異世界からの来訪者サイト』
次は5/26頃の更新を目指して頑張ります。