62話 異世界からの来訪者サイト
授業が終わった後、一旦ルイズの部屋にサイトの様子を見に行ったが『スリープクラウド』の効果もあるせいか、サイトはまだ目を覚ましていなかった。
サイトが目を覚ますまで全員で監視してもしょうがないのでサイトはそのまま寝かせておき、その間に昼食を食べようということになった。
しかしサイトにかけている『スリープクラウド』の効果ももう少しで切れることは以前の研究から分かっていた。
そして誰もいない状態でサイトが目を覚ましてしまえば、サイトがルイズの部屋を荒らすことも考えられた。
そこで空が飛べるタバサの使い魔のシルフィードに窓の外からサイトを監視してもらうことにした。
俺達は天気がいいことと使い魔と一緒にいたいこと、そしてルイズの部屋を遠くからでも観察する為にアウストリの広場に昼食を持って来てもらった。
使い魔達も食事をするので一緒に餌も持って来てもらう。
周りには同じように使い魔と一緒に昼食を摂っている2年生で広場はあふれかえっている。
キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムには大きな肉の塊が出された。
カトレアさんの使い魔の海竜のクーにはまだ赤ちゃんということでとりあえずミルクが出されたが、今後何が好きなのか調べるとカトレアさんは意気込んでいた。
タバサの使い魔の風竜のシルフィードには後で肉、というか豚や羊それに牛がほぼ丸々一頭分の食事が出されるらしいが毎日というわけでは無いようだ。
さすがに毎日一頭では大変なことになりそうだしな・・・金銭的な意味ではなく、供給できるかという意味で。
そしてこちらでは変わったサラマンダーということになっている俺の使い魔であるヒトカゲのゼファーにも最初フレイムと同じく肉が出されたがゼファーはそれを食べようとし無かった。
俺はアニメではポケモンは果物や木の実、そしてそれらから出来るポケモンフーズを食べていたのを思い出したので何か果物はないかと聞いたところ、オレンジがあったようなのでとりあえずオレンジとついでにパンも出してもらった。
ゼファーは出されたオレンジを少し酸っぱそうな表情で食べたり、パンもかじっていたのでとりあえず食事は大丈夫だろうが、クーと同じく今後嗜好調査が必要だ。
そんなことをご飯を食べながら思っているとキュルケがルイズに声をかけた。
「それでどうするの?ルイズ?」
「どうするって、何を?」
キュルケの言葉にルイズはスープをすくったスプーンの手を止める。
「あの平民の使い魔のことよ!本当にその辺の平民を適当に連れてきたんじゃないでしょうね?」
「そんなことしてないわよ!」
ガタッとルイズはスプーンを握り締めながら立ち上がった。
「ごめんごめん。ちょっと聞いてみただけよ。」
「私だってね・・・どうしてあんなのが来たのか分からないのよ。」
キュルケが謝るとルイズはトーンダウンしながら席についた。
「・・・あの平民はルイズに召喚されたのは間違いないと思う。」
タバサが特注のハシバミサラダを食べながらそう言った。
俺の位置からはサラダが山盛りすぎてタバサの顔が見えないが。
「あらあら?タバサちゃんはどうしてそう思うのかしら?」
「・・・それはあの平民とルイズがコントラクト・サーヴァントが出来たから。そもそも自分が召喚したものでないとコントラクト・サーヴァントをしても成功しない。」
タバサの言葉の意味をカトレアさんが尋ねるとタバサは口に含んだハシバミを飲み込んで答えた。
「ということはルイズは本当にあの使い魔さんを召喚したのね。人間の使い魔なんて初めてのことじゃないかしら!?」
「前代未聞。」
そう言ってタバサはコクンと頷いた。
「本当にルイズは変わったメイジよね。魔法は全て爆発して、使い魔は平民だなんて。」
「うぅ・・・私だってもっと普通の使い魔が良かったわよ!でもしょうがないじゃない!もう契約だってしちゃったんだし・・・」
三人が口々に言うとルイズはよっぽどサイトが気に入らないのかそういうとやけ食いを始めた。
その様子を見ていると後ろから「お飲み物はいかがですか?」と声をかけられた。
「・・・メイド!おかわり!」
そのメイドにルイズは空になったスープのおかわりを要求した。
飲み物を注ぎにきたメイドはシエスタだったようでルイズの皿を下げて、駆け足でおかわりを取りに行った。
「さっきからヴァルムロートさん難しい顔をしてますけど、何か考え事ですか?」
カトレアさんがそう言って俺に話題を振る。
すると、他の皆も何やら期待のまなざしのような視線をこちらに向けてきた。
女性陣がワイワイと話している間、俺はサイトがガンダムやポケモンをどこまで知っているかを考えていた・・・なんて言えるわけがない。
しかし黙っていると追及されそうな雰囲気なので適当にそれっぽい言葉を並べて口に出す。
「そうですね・・・ルイズが召喚したサイトという平民は本当にただの平民なのかな?とか考えていました。」
「え、お義兄様それはどういうことですか?」
ルイズはテーブルの中心に置かれているパンが乗った大皿から3つ目のパンを取ろうと手を伸ばしたところだった。
やけ食いとはいえ食べ過ぎだろうと思いながらルイズの質問にさも疑問に思っていたかのように答える。
「ああ、ヒラガサイトという名前からしてここら辺、というかハルケギニア中を探してもいそうに無い名前だと思ってね。」
「確かにお義兄様の言うとおりね。平民のくせに苗字を持っているのも変だし、そもそもサイトなんて地名はトリステインにはまずありませんし。」
「ゲルマニアにも無いわよ。」
「・・・ガリアにも無い、と思う。」
俺が言いたかったことはヒラガサイトという名前の響き的なことなのだが、どうやら皆は違う様に捉えていた。
それにしても皆サイトの方が苗字だと思ってる様だ。
確かにこっちだと名前が先で苗字が後なのでサイトの方が苗字だと思ってもしょうがないのだろう。
「・・・・そ、それにそもそも彼はニホンのトーキョーというところから来たと言っていたんだろう?」
「そういえばそんなことも言ってましたね。でもニホンとかトーキョーってハルケギニアでは聞いたことがない地名ですよ?」
「確かにハルケギニアには無い場所だけど・・・砂漠を越えた向こうやさらにその向こうはどうか分からないだろう?」
俺はハルケギニア以外の場所の選択肢を提示してみた。
まあ、本当は別の星なんだけど。
「砂漠の向こうは・・・聖地ですか!?でもあそこにはエルフ、がいるのでは?」
ルイズはエルフと口にした瞬間少し嫌な顔をした。
やっぱりハルケギニアの人は実際に見たこと無くても伝えられてることとかでエルフが天敵だと教えられているんだね。
でも実際エルフの方も人間は野蛮人だとか言って下に見てるんだったっけ?
「・・・そのさらに向こうは東の世界ロバ・アル・カリイエがある。」
とタバサは俺の目を見て言った。
「でもあの平民はエルフには見えなかったわ。」
「そうね、耳が長くなかったわね。」
カトレアさんは耳の辺りでジェスチャーしながら耳が短かったことを強調した。
「ということは・・・」
俺がそう言って続きをじらすと、四人は声を揃えてその続きを言った。
「「「「あの平民は東の世界から来た!?」」」」
はい、ミスリードでした、ありがとうございます。
しかしこれでサイトの言葉を頭から否定したりはしなくなって話もしやすくなるだろう。
思い付きで口にしたこととはいえ、思いのほかいい感じに進んだような気がしないでもない。
「とまあ、そんな予想も出来るけど、彼が本当に東の世界から来たか分からないけどね。でも少なくともこことは違う所から来たんだろう。」
「へぇ、ただの平民かと思ったけど何だが面白くなってきたわね!」
「あの使い魔さんが、ねぇ。」
「興味が湧いてきた。」
「お、お義兄様!私はどうしたらいいのでしょうか!?」
「どうしたらって・・・普通に接したらいいんじゃないのかな?」
「・・・そうですよね。“私が召喚した使い魔”なんですし。」
「あ、ああ。そうだな。」
ルイズの返答が何やら引っかかる言い方なのが少し気になったが、無視できるものだと思い気にはしなかった。
この時俺がもっとちゃんと言っていればもう少しいい待遇だったかも知れなかったと思うとサイトには悪いことしたなと思う。
まあ、俺が気にした所で結局犬扱いなんだろうが・・・。
昼食を食べ終った俺達はそのまま食後のお茶を楽しんでいた。
今日は午後の授業は無く、朝召喚した使い魔と触れ合う為の時間となっているが、普段も午後が休みになる時が多々あるので別にいつもと変わらない感じだ。
使い魔がいること以外は。
「あ。そういえば、あれから結構時間が経ったな。タバサ、サイトの様子はどうなっているか分かるか?」
俺はゼファーと遊ぶのを一旦中止し、本を読んでいるタバサにサイトの現在の様子を聞いた。
「・・・ちょっと待って。」
そう言うとタバサは隣に立て掛けていた杖を持って短いスペルを唱え、軽く杖を振り、目を閉じた。
タバサが今唱えたスペルは自分の使い魔と視覚を共有する魔法で使い魔を召喚した後の授業で習ったものだ。
他にも考えていることや気持ちをある程度伝えることが出来たりする。
これらは結構離れても使えるようなので使い方によってはかなり役立つ魔法だ。
その例の一つが今行なっているシルフィードによるルイズの部屋にいるサイトの監視だな。
シルフィードとの視覚の共有が済んだのかタバサは目を開いた。
「まだ起きてない。」
「あらあら?おかしいわね?『スリープ・クラウド』の効き目は2時間位ですからそろそろ起きてもいい頃なんですけどね。」
サイトに『スリープ・クラウド』をかけたカトレアさんが不思議そうに言った。
「ルイズが強く殴りすぎた所為じゃないの?」
「う・・・でもあの平民も思いっ切り殴れって言ったんだから私は悪くないもん。確かにちょっと強く殴っちゃたなと思わないでもないけど・・・」
しゃべっている内に段々とルイズの表情が沈んでいき、最後の方はゴニョゴニョとよく聞き取れなる。
「恐らく魔法ではなく普通に気絶しているんだろう。そのうち目が覚めるよ。」
俺がそうフォローするとルイズの表情が少し明るくなった。
そうして俺とキュルケはそれぞれの使い魔とスキンシップをとり、ルイズとカトレアさんは一緒にクーと遊び、そしてタバサは本を読みながら時間を潰した。
しばらくすると後ろから声がかかった。
俺が振り向くと茶色のマントを付けた生徒、つまり後輩になる1年生の生徒が立っていた。
話を聞くとどうやらカトレアさん婚約者争奪決闘の話をどこからか聞いたようで早速俺と決闘がしたいということだった。
俺には特に断る理由は無く、いい時間つぶしになると思った俺はタバサにサイトが起きたらすぐに知らせてもらうことを頼んで決闘の場所であるヴェストリの広場に場所を移した。
「ただいま~。サイトに何か変化はあったかな?」
後輩の他に2人から決闘を受けた俺が皆の場所に戻るとおよそ1時間経っていた。
戻ってきた俺はタバサにサイトの状態を聞くが、タバサは首を横に振る。
それから再び使い魔と戯れていたらいつの間にか日が暮れて、夕食の時間になっていた。
俺達は食堂に行き、使い魔達は外で食事することになった。
シルフィードには今度ご馳走をあげるからという約束で軽い食事だけで済ましてもらい、すぐにサイトの監視へと戻ってもらった。
さらにタバサには少し負担になるが何かあったらすぐに分かるようにシルフィードと気持ちを少しだけ共有してもらいながら食事を続けてもらった。
「あ。」
「どうしたの?タバサ?」
そろそろ夕食を食べ終わるという時にタバサが小さくつぶやいた。
何かを感じ取ったタバサは視覚を共有する魔法を唱えて目を閉じた。
「・・・平民が起きたみたい。シルフィードに驚いてドアを開けようとしているところ。」
監視をしているシルフィードと視覚を共有したタバサがサイトの今の状況を教えてくれる。
どうやらシルフィードに驚いてそこから逃げようとしているみたいだな。
しかしドアには『ロック』の魔法がかかってるからドア自体を破壊しない限り部屋から出ることはできない。
「やっと起きたのね。」
ルイズがやれやれといった様子で最後の一口を食べた。
「まあ、風竜が窓から部屋の中を覗き込んでいたら誰でも驚くわよね。」
キュルケはすでに食べ終わって食後のお茶を飲んでいる。
「あらそうかしら?私だったら窓を開けて頭ナデナデしちゃいますわ。」
カトレアさんは丁度食べ終わったのかナイフとフォークを置いたところだった。
「・・・そ、それはちぃ姉様だけだと思いますわ。」
ルイズは少し驚いたような呆れたような顔をした。
普通は風竜がいたら驚いたり逃げようとするのが普通だろう。
そこで速攻撫でに行く選択をしようとするとは・・・まるでゼロ魔世界のムツゴロウさんだな!
「それでどうするの?すぐに行く?」
タバサもハシバミサラダを完食していた。
というかタバサさんよ、お前朝にもハシバミサラダを付けていただろ?どんだけハシバミサラダが好きなんだよ!?と心の中で突っ込みを入れる。
「そうだな。じゃあ、早速ルイズの部屋に行こうか!」
俺達は食堂から出て、真っ直ぐルイズの部屋に向かった。
途中でシエスタを見かけた俺は彼女に昼から何も食べていないサイトが腹を空かせていると思い、サイトの為に何か食べる物をルイズの部屋に持って来てもらうように頼んでおいた。
シエスタはなぜか驚いていたようだったが快く引き受けてくれた。
「『アンロック』」
俺がドアのロックを外すとすぐにドアノブが回り、勢い良く開いたドアからサイトが転がり出てきた。
そのまま1回転して通路の壁に逆さの状態でぶつかった。
サイトは素早くその状態から体を起こすと最初に目についた俺にしがみついてきた。
「た、助けてくれ!喰われちまう!」
サイトは俺のマントを握って少し涙目でそう訴えてきた。
「大丈夫だよ。シルフィードは人を食べたりしない・・・よな?タバサ?」
少し不安になってタバサの方を見るとコクリと頷いた。
その後に小さく「たぶん。」と言ったがそれはサイトの言葉にかき消された。
「で、でも!なんかよだれ垂らしてるし!もの欲しそうな目で俺を見てくるし!絶対やべーって!!」
サイトがそう言うので開いたドアの所から窓を見てみた。
窓の外にいたシルフィードは口から少しよだれを垂らし、どこか恍惚とした表情をしている。
「・・・タバサ、あれはどういうこと?」
「・・・後に貰えるご褒美のことを考えているのかもしれない。」
「だ、そうだよ。この竜を召喚したタバサが言うんだから間違いないと思うよ。だから安心していいんじゃないかな?」
「そ、そうなのか?嘘とかじゃないよな?目が覚めたらあんなのが窓の外にいて、部屋から出ようとしてドアを開けようにも内鍵すら動かなくて閉じ込められた状態だし・・・本当に喰われるかと思ったぜ。」
シルフィードが安全と分かったのかサイトは俺のマントから手を離した。
「それでは君に少し聞きたいことがあるから中で話しないかい?」
俺はルイズの部屋の中を指さした。
「俺もいろいろ聞きたいこともあるし、いいぜ。・・・でも、あれは見えないようにしてくれないか?」
サイトは特に反論すること無く話に応じたが今だよだれを垂らしているシルフィードが気になるようだ。
タバサに頼んでシルフィードを移動してもらった。
初めに俺が部屋に入って椅子に座り、次いでシルフィードが見えなくなり安心したサイトが部屋の中に入りテーブルを挟んだ向かい側の椅子に座った。
キュルケ達も部屋に入ってきたが部屋にある2つの椅子が俺とサイトが座っているため、四人は並んでベットに腰掛けた。
「さて・・・」
と俺がサイトに話かけようとした時、コンコンコンと部屋のドアがノックされた。
「何か?」
「ミスタ・ツェルプストー、先程頼まれたお食事をお持ちしました。」
「ああ。入ってくれ。」
俺がそう言うとシエスタは「失礼します。」と断りを入れてドアを開いた。
手にはパンとスープが入った皿が乗ったおぼんを持っている。
シエスタが持ってきた食事は俺達が食べた夕食とは異なったメニューなので平民用の賄い食なのだろう。
「あ、メイドさんだ。」
サイトはシエスタの姿を見てそうつぶやいた。
「彼の前に置いてくれ。」
俺は向かい側に座っているサイトを示した。
「分かりました。どうぞ。」
シエスタはサイトの前におぼんからパンの乗った皿、スープの入った皿を置き、最後にサイトの前にスープを飲む為のスプーンを置いた。
自分の前に置かれた食事を見てサイトはぐぅ~とお腹を鳴らした。
「うふふ。・・・あ、す、すみません!」
シエスタはサイトのお腹の音に思わず笑ってしまったが、すぐに失礼だったと思ったのか謝っていた。
「シエスタ。」
「は、はい!」
シエスタはビクッ!と、まるで1本の棒のように真っ直ぐに姿勢を正す。
「食べ終わった皿はどうすればいい?」
「お、お皿はお部屋の外に出していてもらえれば助かります。私が後で回収しに来ますので・・・」
「そうか。わざわざすまないなシエスタ。ありがとう。」
「い、いえ!お礼だなんて・・・。そ、それでは私はこれで。」
そういってシエスタはドアの所に行き、「失礼しました。」と言って部屋を出ていった。
「な、なあ!これ食べてもいいのか!?」
「ああ。君は昼食も食べていないだろうから持って来てもらった。食べながらでいいのでこちらの質問に答えてくれ。」
「食べていいんだな!じゃあ、いっただっきまーす!」
と左手にパンを持ってかぶりつき、右手に持ったスプーンでスープをすくって口に運んだ。
「・・・パンはちょっと硬いけど、スープはめちゃうまいな!」
「そうか、それは良かった。それでは君に聞きたいのがもう一度名前を教えてもらってもいいかな。」
「平賀才人。」
サイトはスープを口に運ぶ短い間に名前を言った。
「ではサイト、君はどこから来たのかな?」
「・・・東京の秋葉原にいたんだけど、それで変な白い平べったいような丸いようなものに入れられた時に気を失って、気付いたらここにいたんだけど。」
「ねえ、あんた朝はニホンとか言ってなかった?トーキョーとかいうところは合ってるけど。」
ルイズがサイトが朝とは違うところの名前を言ったので少し強い口調で尋ねていた。
「ん?・・・ああ!朝はいきなりだったし、周りが外人ぽいのばかりだったからそう言ったけど、さっきのメイドさんは日本人ぽい感じだったからな。やっぱりここは日本なのかなと思って。」
サイトはシエスタの事を見て、まだここが日本だと勘違いしているようだ。
まあ、確かにシエスタには日本人の血が入っていることは間違いないんだけどな。
「だ・か・ら!ニホンとか、そのニホンジンとかって何よ?あんたってやっぱり東の世界のロバ・アル・カリイエから来たの?」
ルイズがそういうと皆の興味の度合いが高くなったのか少し体を前に動かした。
「はぁ!?何?そのロバなんとかって?確かに日本は極東って言われることがあるのは知ってるけど。・・・っていうかこれってもしかしてテレビのドッキリだったりするの?確かにそう考えれば周りの連中が何かおかしいのも納得出来るな!いや~、まさか俺がそういうのを体験するとは思わなかったな!朝はまんまと騙されたぜ!」
サイトは再び今起こっていることがドッキリのような作り物だと認識したようだ。
眠ったことで今朝体験したことがある程度頭の中で整理されて、現実的な実行可能な回答をサイトなりに導き出した結果なのだろう。
サイトは自分の出した結論が正しいと思っているようでその表情には先程までの気落ちしたようすと打って変わって余裕すら出ていた。
「・・・あんた、何言ってんの?」
そんなサイトを見てルイズは少し呆れたように言った。
「分かってるって。そう言って俺を騙そうとしているんだろ?よくよく考えればさっきの竜みたいのだってロボットを作ろうと思えば作れるかもしれないし!全くビビって損したぜ!そうそう、朝俺を浮かしたのだってワイヤー以外のマジックか何かなんだろ?それにしても素人を騙すには金かかってるよな。こんな大きなスタジオ?にこんなでかい建物作って、しかもエキストラはほとんど外人ばっかり集めちゃってさ。」
「だから、あんたさっきから何言ってんの?」
ルイズは少し険しい表情をして言った。
サイトは「はぁ」とため息をついて、空になったお皿の上にカチャンとスプーンを置いた。
「もうそれはいいから。わー驚いた!・・・これでいいんだろ?さっさとドッキリのパネル持った人出てこいよ。俺は本当もう家に帰りたいんだけど。あ、誰かコレの放送日教えてくれますか?学校の連中に自慢してやろうっと!」
サイトは周りを見渡しながらお気楽そうに言った。
俺はそんなサイトを少し不憫に思いながらそれを否定することにした。
まあ、サイトの気持ちも分からないでもない。
しかしテレビという単語に懐かしさを覚えるときが来るなんて前世では思いもしなかったな。
「すまないが君がさっきから何を言ってるのかよく分からない。ただ分かるのはこれは君を騙そうとして行なっているものでは無いし、さっきの竜、シルフィードというのだがあれは作り物ではなくて本物だ。それに君を浮かしたのは紛れもない“本物”の魔法だ。」
「いやいや、本当にもういいんだ。だってそうだろう?地球にあんな生物がいたら大発見だし、これがドッキリじゃなかったら魔法が実在することになって世界がパニックになっちまうぜ!?」
「何言ってんのよ!風竜は昔からいるし、魔法だって6000年前からあるものよ!・・・あ!分かったわ。東の世界には魔法がないのね!」
「お前もさっきからキャンキャンうるさいな!日本どろか地球上どこに行ったって風竜っていうものはいねえし、魔法なんかねえよ!」
「はぁ!?あんた何言ってんのよ?」
「くそっ!らちがあかねえ。どうでもいいからさっさと俺を家に返してくれよ!」
サイトはそう言って勢い良く立ち上がり、ガタッと椅子を後ろに倒した。
「すまないが君を家に返すことは出来ない。」
「どうして!?俺をここまで連れてきたんだから車でも飛行機でも何か使えばいいだろうが!?」
サイトはテーブルに手をついて俺の方に身を乗り出した。
「車は馬車のことだとしてもヒコウキって何かしら?東の世界にはそんなものがあるの?」
「とぼけるのもいいかげんにしてくれ!」
キュルケのつぶやきにサイトは怒鳴った。
「君をここまで連れてきたのは車でもその飛行機というものでもない。『サモン・サーヴァント』という魔法を使って召喚されたんだ。」
「だから!もうドッキリはいいよ。魔法なんて実際にはあるはずがないだろう!?なんだよお前ら、さっきから魔法は実在するみたいな言い方しやがって・・・」
「・・・サイト、君はここに来た直後の気絶する前に僕に空中に浮かばされたのを覚えているよな?」
「あ、ああ。ついさっきのことだからな。」
「あれを体験しても魔法が嘘だって思えるのかな?」
「あれは・・・そう!俺が気がつく前にこっそりなにか細工して空中浮遊させたんだろ?マジックで良くあるみたいなやつで!」
「じゃあ、今サイトの体やこの部屋になにか細工はされている様子はあるかい?」
そういうとサイトは自分の体を見たり、触ったり、部屋を見渡しておかしなものが無いか確認する。
「・・・何もないな。」
サイトがそう言ったのを確認して俺は杖を取り出し、サイトに再び『レビテーション』をかけた。
俺はサイトを床から1メイルほどの高さに浮かばせた。
「うわっ!?またかよ!?ちょっ、どうなってるんだよ!?」
俺はサイトをそっと下ろした。
「これでも魔法ではないと言い切れるのかな?」
サイトは身体の力が抜けたかのように膝を付き、ガックリと四つん這いの状態になった。
「マジかよ。ドッキリじゃねえのかよ・・・。しかも魔法があるなんて、もしかして俺は別の世界に来ちまったのか?」
「確かに別の世界かもね。ロバ・アル・カリイエはハルケギニアとは違う所にあるんだし。」
ルイズは妙に納得したようにうんうんと頷いた。
「いや。俺はそのロバなんとかってところも知らないし・・・」
「もしかしたら東の世界自身は自分たちのことをロバ・アル・カリイエとは言わないのかも知れないわね。」
サイトの知らないという言葉をルイズはそう解釈した。
「ねえ。あなたの世界に月はいくつあるの?」
タバサが突然サイトに尋ねた。
「え?月って普通は一つだろ?」
「・・・あれを見て。」
タバサがそう言って窓を指さした。
タバサの動きにつられてサイトが窓の方を見た。
「な!?月が2つ!?」
サイトが驚いているとタバサは「やっぱり。」とつぶやいた。
「ねえ、タバサ。これはどういうことかしら?」
キュルケがタバサの行動の意味を尋ねた。
「ガリア近くの砂漠ではよく私達の技術では作ることの出来ないものや用途不明のものが見つかることがある。」
「“場違いな工芸品”のことね。」
「そう。そしてその中には私達の知らない文字で書いてある本も存在する。そういう本の中には月が描かれているものもあるのだけど、そのどれもが月が1つしか描かれていない。」
「なるほど。それでタバサは月の数を聞いたのね。私達の世界には常に月が2つあるんだし。」
「つまり、彼は私達とは違う世界から来た可能性が高い。」
「マジかよ。月が2つとか本当に別の世界に来ちまったのかよ。」
サイトは再びうなだれた。
「ちょっと待ってよ!『サモン・サーヴァント』はハルケギニアにいる生き物を召喚する魔法のはずでしょ。それなのにどうして別の世界から召喚されるのよ!?」
「それは・・・ルイズのせい?」
疑問混じりのタバサの言葉にルイズは少なからずショックを受けていた。
「うぅ。・・・ちょっとあんた!もし、仮に別の世界から来たっていうのなら何か証拠を見せなさいよ!」
「はぁ!?何無茶苦茶言ってんだよ・・・あ!ちょっと待てよ!なあ、俺の近くにノートパソコン、って言っても分かんねえか。銀色の箱みたいなもの無かったか?」
「それなら、ほら。あそこに置いてあるぞ。」
俺は部屋の隅のワラが敷いてあるところに置いてあるパソコンを指さした。
俺は最初見た時からこれがノートパソコンだと分かっていたが、皆が『ディテクトマジック』を行なっても使い方などが分からなかったものをいじるのは危険と判断してあえて何もし無かった。
サイトはノートパソコンをテーブルの上に置いて、倒れた椅子を元に戻して座った。
パカッとノートパソコンを開けると、サイトは起動ボタンを押した。
すると真っ暗な画面に明かりがついた。
起動画面になりそこにはXPの文字があった。
それを見た俺はサイトのパソコンは少し古いものなのかと疑問に思った。
なぜなら俺が死んだときは7が一番新しいものだったはずだからだ。
しかしXPは使いやすいからまだ7に移行せずに使い続けている人も多いと言っていたことを思い出し、サイトもそうなのだろうと自分の疑問に自分で答えを出した。
「良かった。壊れてなかったか。修理から帰ってきたばかりなのに壊れてたら泣くところだったぜ。」
パソコンが起動してほっとしているサイトの後ろからルイズ達が画面を覗き込んだ。
「へえ、きれいね!」
「へえ、すごいわね。これ。なんの魔法で動いているの?」
「青い色を使っているから水の系統かしら?」
「でも、これの後ろから風が出ているから風の系統かも。」
皆は画面を興味深そうに見ながら思ったことを言っていった。
「魔法じゃねえって。科学技術の塊のパソコンに向ってなに言ってんだ?科学だよ、科学。というか、こういうのこっちにもあるのか?」
「・・・ないわね。」
さらに画面が変わり、デスクトップにの画面になった。
俺はそのデスクトップの画面を見ながら下の方にバーが出ていたのでそれを見て驚いた。
「なにっ!?」
「どうしたの?ダーリン?」
驚きのあまり声を出してしまったが、ここは知らないふりをしないといけない場面だ。
誤魔化すように俺は少しわざしい位に驚きを表した。
「いや、画面がパッと変わったから驚いただけだよ。しかし、これはすごいものだな!」
「確かにそうね。何に使えるか分からないけど、こんなもの見たこと無いし。」
「あ、ああ。」
俺は確認するために再びデスクトップの下の方にあるバーに目を向ける。
正確にはバーの一番右端、時間が記されている所を見た。
そこには1秒ずつ数字を変えて時刻を表す時間とそのすぐ近くに“2004/6/25”と日付が入っていた。
俺が前世の地球で死んだ時はすでに2011年だったはずだ。
それからこっちで18年経っているはずなのにサイトのノートパソコンには未来どころか過去の時間が記されていた。
皆がノートパソコンに夢中になっているときにこれがどういうことなのか頭を悩ませた。
そして俺は2つの可能性を考えた。
まず1つ目の可能性は俺が転生する時に過去に生まれたということ、そしてもう1つはサイトの地球と俺の前世の地球は別物であるということだ。
この2つの内、可能性が高いのは後者だろうと俺は考えた。
なぜならゼロの使い魔自体が俺の世界の創作物であり、ゼロ魔の地球はゼロ魔が召喚ものというジャンルの為に作られたものであるからだ。
しかしそれではなぜサイトのノートパソコンの時間が過去のものなのかを考えたとき、ある考えが浮かんだ。
それは“この時間、日付がゼロの使い魔という物語が始まった時間ではないのだろうか?”というものだ。
俺がゼロの使い魔を見たのはアニメ、しかもレンタルDVDだ。
つまり、アニメはそれ以前に放送していたのだからもしかしたらそれくらいで開始したのかもしれないと俺は思った。
つまりサイトの地球は俺の前世の地球ととても良く似ているが時間がかなりズレているという所が異なっているのではと考えた。
因みにサイトの地球と俺の地球と時間がズレているだけでほぼ同じならばやっていたアニメや発売しているゲームもほぼ同じだという可能性は高い。
・・・つまり。
2004年までにやっていたガンダムは“SEED”までだ。
これならトランザムと言ってもサイトにはなんのことか分からないはずだ。
後、サイトも“ポケモン”を昔やっていた可能性が大いにあり、もしかしたらそのうちゼファーの正体に気がつくことも考えられる。
・・・というか、ゼファーがポケモンかどうか疑心暗鬼でも進化してリザードやリザードンになったら確信に至るのかもしれない。
まあ、サイトがゼファーをポケモンだと分かっても俺が不信な素振りを見せなければ“俺が地球と関係がある人間だということが疑われ、それによって異端審問にかけられる”という問題ないだろう。
と俺が考えているとサイトがルイズにお願いしていた。
「頼む!もう一度俺にその『サモン・サーヴァント』とかいう魔法をかけてくれ!」
「・・・かけてどうするのよ?」
「もしかしたらもう一度その魔法をかけたら元の世界に戻れるかも知れないだろう?」
「無理よ。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけの魔法よ。もう一度かけたからって戻れるものじゃないわ。それにもう使えないしね。」
「なんだよ!ケチケチすんなよ。試しでいいからかけてみてくれよ。この通り、お願いします!ルイズ様!」
サイトはルイズに向って両手を合わせて深々と頭を下げた。
「だから無理だって言ってるでしょう!一度『サモン・サーヴァント』が成功して使い魔を呼び出したらもう使えないの!使えるとしたら・・・。」
「したら?」
サイトが顔を上げてルイズを見た。
「あんたが死んだ時ね。・・・そうね。あんた一回死んでみる?」
「いや、それは勘弁します。」
サイトは首を横に振った。
「これで分かったでしょう。あんたが東の世界から来たのでも違う世界から来たのでもあまり関係ないの!あんたは私の使い魔になったの!左手の甲にルーンがあるでしょ。それが使い魔になった証なのよ。・・・残念だけどね。」
「これが?マジかよ・・・。」
サイトは自分の左手の甲で刻まれたルーンを見てつぶやいた。
とりあえず話はついたようだが、自分の手に刻まれたルーンを少し落ち込んだ様子で見つめているサイトを見て、俺はこのあとサイトがルイズから逃げ出そうとすることを思い出した。
逃げられると捕まえに行くのが面倒くさいし釘刺しとくか。
「サイト、気の毒のようだけど今君を元の世界に戻すことは出来ない。これは分かったかな?」
「・・・ああ。分かりたくないけどな。」
「これまで一度召喚した使い魔を返した、ということは聞いたことがないが、君が召喚されたのは何か事故のようなものかもしれないのでコルベール先生や学院長に頼んで君が元の世界に戻れる方法がないか調べてもらうつもりだ。帰る手段が分かるまでの間はルイズの使い魔として生活してもらえないかな?」
「ま、マジか!そうしてもらえると助かるぜ!」
無理だと言って押さえつけるだけでは反発があることが予想させるのでこちらも協力的であるということを示しておく。
帰る手段を探すという提案は異世界に一人で連れてこられ、帰る当てのないサイトにとっては願ってもない提案のはずだ。
しかし、この提案はサイトに対する善意からの行動ではなく、サイトがルイズの傍にいることをある意味で強いる為という、少しゲスな考えに基づく提案なので俺の言葉で表情が明るくなったサイトを直視するのは少し心が痛む。
それに虚無魔法で別の世界に行く魔法がある、ということを黙っているのも心が痛むことに拍車をかける要因だった。
「お、お義兄様!?」
「ルイズ、聞いてくれ。ルイズだっていきなり別の世界で家に帰れないって言われても、どうやってでも帰りたいと思うだろう?それにサイトとの契約を上手いこと解除することができたら今度はちゃんとした使い魔を召喚出来るかも知れない。」
「・・・そうですね。分かりました!ちょっとムカツクけど、それまでこいつを私の仮の使い魔とします!」
「いやいや、別に使い魔じゃなくても生活は出来るだろ!?誰がこんなうるさい奴の使い魔なんかやるもんかよ!」
「じゃあ、あんたはどうやってそれまで生活するつもりなのよ?言っとくけど使い魔にならないんだったら生活の面倒は見ないわよ。」
「なっ!?・・・街とかで仕事を探せばなんとかなるんじゃないのか?」
「あんた、どこのだれだか分からない流れてきた平民を受け入れる所があると思うの?」
この世界は別に身分証明書みたいなものがあるわけでもないので、素性が知れない者であってもやる気があれば食うには困らない程度の生活はできるだろう。
しかしそれではこちらが困るので、ここはサイトに少し脅しをかけておくか。
「サイトには悪いけど、これはルイズの方が正しいな。もし街に言っても誰にも相手にされず物乞いみたいな生活を送ることになるかも知れないよ。それでも行くのかい?」
「そ、それは・・・」
「ほらね!あんたは私の使い魔として生活するのが一番なのよ!」
「くっ・・・しょうがない。しばらくお前の使い魔になってやるよ。」
サイトは悔しそうな表情をしてルイズにそう言った。
ルイズはそんなサイトに少しご立腹の様子だ。
「そうじゃないでしょ!使い魔なんだから主人である私にはちゃんとした言葉使いをしなさいよね!」
「はいはい。分かりましたよ。これからお願いします、ご主人様。・・・これでいいか?」
「言葉使いは今度きっちり教えてあげるわ!それよりも使い魔としての仕事だけど。」
「ああ、何をすればいいんだ?」
「使い魔には主人の目となり耳となることが出来るらしいのだけど・・・あんたは無理みたいね。何も見えないわ。」
ルイズは短くスペルを唱えて目を閉じたが何も見えなかったようだ。
「そうなんだ。他には?」
「秘薬用の薬草等を採取・・・は無理よね。あんた別のところの平民だし。」
「悪かったな。他には?」
「使い魔は主人を守る存在なんだけど・・・あんたは無理そうね。筋肉あまりなさそうだもの。念のために聞くけど、さっきここを覗いていたシルフィード、竜に勝てそう?」
「いやいやいや、無理だから!人間にはそんなこと出来ねえって!」
「まあ、平民のあんたには無理かもね・・・。お義兄様だったら勝てそうですか?」
「え、僕かい?そうだな・・・風竜と戦ったことがないから何ともいえないけど、風竜は軍とかで使役している所もあるし・・・勝てるんじゃないかな?」
シルフィードは本当は風韻竜なので普通の風竜よりは強いかも知れないが、ここは一般的な風竜で考えて返答しておく。
「さすがお義兄様!」
「マジで!?どうやったら人間が竜に勝てるんだよ!?」
「ダーリンは平民にも優しいけど、こう見えてスクウェアメイジなのよ!竜の1匹や2匹はどうってことないわ!」
「へえ、すごいんだな・・・。なあご主人様、スクウェアメイジって何?メイジは魔法使いでスクウェアは四角?四角の魔法使い?・・・っていうかなんでさっきから俺のことを平民、平民言うの?」
「はあ、そんなことも知らないのね。まずあんたのことを平民って言うのはあんたが魔法を使えないからよ!そして魔法が使える私達はメイジ、貴族なのよ!」
「ふーん。魔法が使えれば貴族なのか。」
「まあ、メイジが全員貴族ってわけでもないし、お義兄様の故郷の国では貴族が全員メイジってわけでもないんだけどね。」
「なんだかややこしいな。で、スクウェアメイジって何?」
「スクウェアっていうのはメイジのランクのことよ。低い順からドット、ライン、トライアングルそしてスクウェアの4つあるわ。お義兄様はその最高ランクのスクウェアなのよ!スクウェアメイジは国にそう何人もいないんだからね!本当にすごいのよ!」
「へえ。で、そういうご主人様のランクは?」
サイトがそう聞くとルイズは表情を曇らせた。
「そ、それは・・・別にいいでしょ!あんたは使い魔なんだから主人の私にとやかく言わないの!」
「なんだよ、ちょっと聞いただけなのに。で、結局俺は何をすればいいんだ?」
「そうね・・・あんたには私の身の回りのお世話をしてもらいましょうか。洗濯、掃除、その他雑用よ!」
「まあ、それもしょうがないかもね。」
「あらあら。」
「使用人。」
「はぁ!?なんじゃそりゃ!?さっきまで言ってた使い魔の仕事と全然違うじゃねーか!」
「だってしょうがないじゃない、あんた何にも出来無いんだから!」
「くそっ!早いとこ帰る方法が見つかるのを祈るぜ・・・」
「それはこっちの台詞よ!」
「じゃあ、話が纏まったところでサイトに話があるんだが、いいかな?皆もに言っておきたいことがあるんだ。」
全員が俺に注目したことを確認し、少し真剣な声色で話を続ける。
「サイトがこことは違う世界から来たことは僕達だけの秘密にしようと思う。勿論サイトのことを話すコルベール先生と学院長には話すが他のところには話が漏れないようにしてもらうつもりだ。特にエレオノールさんには気付かれない方がいいと思う。」
「なんでだ?別にいいんじゃねえの?」
「そうね~。それがいいかもしれないわね。」
「確かにこいつが別の世界から来たってエレオノールお姉様に知られたら・・・」
俺の言葉にサイトはよく分からないといった顔をしているが、エレオノールさんのことをよく知っているルイズやカトレアさんは俺の言いたいことが分かっているようだ。
「お姉様?なあ、ご主人様のお姉様に知られたらどうなるんだ?」
「エレオノールお姉様は魔法研究所で働いているの。だからあんたが別の世界から来たって知られたら、こっちの世界の人とどう違うのかを調べるためにモルモットにされて、最後は解剖されちゃうかもよ?」
「お前のお姉様怖すぎだろ!」
サイトはその話を聞くと両手で自分の体を抱きしめてブルブルと震えた。
解剖するというのは少々誇張していると思うが何かしらの実験体として扱われそうなのは否定できない。
そして、サイトがルイズの使い魔をやっている限り、エレオノールさんに会う機会はほぼ確実にあるはずだ。
その時に今のイメージのまま会って、下手に怯えたリアクションをして不審がられないされないようにするためにフォローを入れておいた方がいいだろう。
「いや、エレオノールさんはそこまでしないと思うけど。でも魔法研究所に知られるのはマズイだろうな。違う世界から来た人間なんて格好の研究対象だしな。」
「あら?ヴァルムロートさんはこの使い魔さんを研究しないのですか?」
「そうですね・・・。ルイズの使い魔なので観察程度に留めておきますよ。」
「・・・でも研究対象なんだ。」
フフッと笑うと、ガタッと椅子を動かしてサイトは俺から僅かに距離を取った。
「と、言う訳でサイト!君はどこからやって来たのかと聞かれたら“東の世界ロバ・アル・カリイエから来た”と言うこと!いいね?」
「あ、ああ!ロバ・アル・・・なんだっけ?」
「まあ、東の世界でいいよ。とにかくそう言っておけばサイトの不思議な言動などは“東の世界から来たから”で皆納得するはずだ。でも、あまり不用意な発言は気をつけるようにな。」
「ああ!分かったぜ!」
「よし。・・・じゃあ、今日はもう遅いし皆自分の部屋に戻ろう。」
俺がそう言って立ち上がるとキュルケとカトレアさんとタバサも立ち上がった。
「ちょっと待ってくれよ!俺はどこで寝ればいいんだ?」
部屋を出ていこうとする俺にサイトがそう言った。
「サイト、使い魔は常に主人と一緒にいるものなんだ。だからここで寝起きしてくれ。」
「こ、ここで!?」
サイトが振り向いて部屋を見渡すとルイズが不機嫌そうに立っていた。
「まあ、私の使い魔だし本当は嫌だけど特別に許可してあげるわ!あんたの寝床はあそこよ!」
そう言ってルイズは部屋の隅のワラが積んである所を指さした。
「ちょ、おま、そりゃねえだろ!これどう見てもワラじゃねえかよ!」
「しょうがないでしょ!まさか人間が召喚されるなんて思ってもみなかったんだし。」
「あんたこいつの兄貴だろ!なんとか言ってくれよ!」
サイトは俺に助けを求めた。
「そうだな。使用人用のベットが無いか聞いてみるが今日はもう遅いので明日にしよう。すまないが今日のところはワラで勘弁してくれ。ルイズ、夜はまだ寒いだろうからなにか羽織るものを貸してあげなさい。」
「仕方ないわね。・・・ほら、これを使いなさい!」
ルイズは毛布を一枚サイトの方に投げた。
「あ、ありがとう・・・ございます、ご主人様。」
「じゃあ、僕達は部屋も戻るよ。お休みルイズ、サイト。」
俺達はルイズとサイトにお休みの言葉をかけて部屋から出ていった。
——ヴァルムロート達がいなくなるとルイズはいきなり服を脱ぎだした。
「ちょ、ご主人様!?何をしてるんですか!?」
サイトは顔を赤くして目を逸らす。
「何って、もう眠いから寝るのよ。あんたそれ洗っておいてよ。」
そう言ってルイズは脱いだばかりのキャミソールとパンティをサイトに投げた。
サイトの頭にキャミソールとパンティが降り注ぐ。
「な!?し、下着位自分で洗えよ!」
キャミソールとパンティを凝視していたがサイトは何かを振り払うように激しく頭を横に振ってルイズに抗議した。
ルイズはそんなサイトを構わず、ネグリジェを頭からかぶって身に付けるとさっさとベットの中に入った。
「明日の朝はちゃんと起こしなさいよ。」
「なんでそんな事まで!?」
するとルイズが上半身だけ起こして、サイトを睨みつけた。
「あんたの主人は誰?私でしょ!あんたの面倒は私がみるんだからそれくらいしなさいよね!・・・あ、お皿は廊下に出しておきなさいよ。」
サイトはルイズの剣幕に押されて何も言い返せなかった。
サイトは皿を廊下に出すと毛布を持って渋々ワラが積まれた所に行って横になった。
「くそ、いつまでこんな所にいなきゃいけないんだろう・・・」
そう言ってサイトは早く帰れることを願いながら目を閉じた——
——深夜、本塔にある図書館。
とっくに閉館時間を過ぎた中、コルベールは1人あれでもないこれでもないと本のページをめくる。
昼から図書館に籠る様に調べものを始めたコルベールの周りにはすでに何十冊と本が積み上げられていた。
「ふう。この本にもありませんか。」
コルベールはパタンと本を閉じると本の山のその上に『念力』で積み重ねた。
「ここまで探しても見つからないとは。後残るのは・・・」
そう言うとコルベールは一般生徒の立入禁止されている本棚があるところを見た。
「まさか伝説の・・・いや、そう考えるのは早いですぞ。さて、ここまで出した本を片付けますかね。」
そういうと自分の周りを見渡した。
「・・・こ、これは骨が折れますぞ。」
そうつぶやいて、コルベールは一つの山を両手で抱えた——
<次回予告>
ルイズの使い魔として生活を始めたサイトだが、早くも最初の騒動を起こした。
売り言葉に買い言葉でギーシュとの決闘をすることになったサイト。
サイトの強さがどれくらいなのか興味津々のヴァルムロード。
ガンダールヴの力、学ばせてもらう!
第63話『決闘!サイトVSギーシュ』
次は6/7頃の更新を目指して頑張ります。
コメントでメタ発言について書いてあったけど、主人公が現実世界からの転生という設定なのでしょうがないと思って割り切って下さい。
それにしても、この話を初めて書いたのが3年前でちょっとビビった。