63話 決闘!サイトVSギーシュ
使い魔を召喚した次の日、丸くなって寝ているゼファーを見ながら朝の支度をする。
姿見の前に立つと自然と頬が緩んでいた自分の姿が映った。
支度を終えた俺は朝食を食べる為に本塔に向かった。
その途中、アウストリの広場にいたメイドさんにゼファーの食事を頼み、ゼファーを他の使い魔達が食事をしている一画に連れていった。
「直にメイドさんが食事を持ってくるからゼファーはここで食べてね。後でまた来るから。」
カゲッと返事をしたゼファーの頭を軽く撫でててから、俺は食堂へと向かった。
食堂に入り、いつもの座っている席の方を見るとルイズとサイトの姿があった。
しかしキュルケやカトレアさん、タバサの姿が無いのでまだ来てないのだろう。
俺は席に座るために二人の方に向かう。
「おお!すっげー!朝からこんな豪勢なもんを食べられるのか!さすがは貴族?だな!」
サイトは並べられている食事を見ながら大騒ぎしていた。
食事を見て嬉しそうにしているサイトとは対照的に隣にいるルイズは少し苛立っているように見える。
「ちょっと、黙りなさい・・・」
大騒ぎしているサイトとは対象にルイズはやや冷めた様子でサイトの行動をたしなめていた。
「これを見て騒ぐなっていう方が無理だぜ!しっかしこんな料理を食えるなんて不幸中の幸いってこういうことを言うのか!」
ルイズの言葉を無視したようにサイトは椅子を引いて席に座り、両手を合わせた。
「いっただき」
「待ちなさい。あんたの席はそこじゃないわよ。」
頂きますと言おうとしたサイトの言葉をルイズは遮った。
「へ?別にどこでもいいだろ?こんなに席があるんだし。ケチケチすんなよ。」
サイトの言葉にルイズはその席の足元を指さした。
「あんたの席はここよ。その椅子は貴族が座るもので平民が座っていいものじゃないのよ。」
サイトがルイズの指さした所、自分の足元に顔を向けると笑顔のまま表情が凍りついていた。
俺もずいぶん近づいたので同じようにルイズ達の足元を見てみた。
「ん?」
そこには平たい皿に乗ったパンと少し深さがある皿に入ったスープとスプーンが置かれていた。
サイトは少し引きつった笑顔をルイズに向け、足元を指さした。
「ご、ご主人様?これは一体?」
「あんたの食事よ。だから早くそこからどきなさい。ほらほら。」
ルイズはサイトに席から降りるように手をしっしっと動かした。
「ちょ!?お前!なんだよこれ!?この食事と差がありすぎだろ!?」
サイトは足元のパンとスープと机の上の食事を交互に指さしてルイズに抗議している。
「当然でしょ。私は貴族、あんたは平民。そして机の上に並べられている食事は貴族の為の食事なのよ。平民のあんたは貴族と同じ場所で食事を出来るだけでもありがたいと思いなさい!」
「いやだからってな!これは無いだろう!」
「それが嫌ならご飯抜きよ!」
サイトが反抗してくるのに腹が立つようでルイズは強い口調で言った。
「げっ!?マジかよ!?でもご主人様・・・」
サイトは食事抜きの言葉に動揺しながら、それでもやはり納得出来ないようで言葉を選びながらルイズに抗議していた。
俺は言い合っている二人に近づいていった。
「おはよう、ルイズ、サイト。朝から騒がしいけどどうしたのかな?」
俺はアニメの知識でサイトの食事が残念なものと知っているがとりあえず事情を知らないふりをした。
「あ!お義兄様、お早うございます。聞いて下さいよ!この使い魔ったら折角用意してあげた食事に文句を付けるんですよ!」
ルイズは俺に気が付くとニッコリと笑って挨拶をし、サイトについて不満を言ってきた。
「用意するんならもっとまともな食事にしてくれよ!しかもこれに文句を付けたら今度は飯抜き宣言だぜ!?こいt、ご主人様の兄貴のあんたからもなんとか言ってくれよ!頼むよ!」
サイトは両手を広げたりオーバーアクションをしながら食事に対する不満を叫んだ。
「・・・これがサイトの食事か。」
足元のサイト用に用意された食事をまじまじと見て、俺はサイトに同情した。
パンは少し時間が立っているのか、もしかしたら昨日の残りなのか表面がパサパサしていて艶が無く如何にも硬そうだ。
スープは俺達に出されるものと違い、数えられる程度の豆とパセリかなにかの緑色の小さいものが浮かんでいるだけだ。
そしてパンとスープ両方に言えることだが、そもそもその量自体が少ないのも同情する余地の一つだった。
なにせパンは拳二つ分位の大きさで本来はもっと大きいものなのだろうがそれが半分になっているし、スープは直径20サントの深さがある皿の半分位までしか入っていなかった。
育ち盛りにこの量ではほとんど食べた気にならないだろうし、俺だったらならない。
サイトは飯抜きにされると言っていたがどうせ飯抜きになっても厨房で賄い食を食べることになるんだよな、と俺はアニメのことを思い出す。
それならば賄い食を食べ始めるのがちょっと位早くてもいいかな、とサイトの食事に不憫さを覚えた俺はそう考えた。
そして俺はすぐにルイズにそのことを提案してみようと試みることにした。
「ルイズ、サイトは平民かも知れないが普通・・・トリステインの一般的な平民でももう少しいい物を食べていると思うぞ。このような粗末な食事は作物が不作で収穫があまり取れない時くらいじゃないか?」
まあ本当の飢饉に陥ったら毎日に食べるものがないレベルになると聞いているけど、それは今は置いておこう。
「え?そうなのですか?てっきり平民は毎日このような食事をしているのかと思っていましたが・・・」
ルイズはキョトンとした顔をした。
「そうか・・・。それにサイトは今は仮とはいえ、ルイズの使い魔になったのだからちゃんとした食事を出すべきではないのかな?使い魔の世話はメイジの大事な役割の1つだぞ。」
「そ、そうですね・・・」
ルイズは頭を下げて少し落ち込んだ顔をしてしまった。
ショボーンという効果音が聞こえてきそな落ち込み様だな。
「ぷぷ!ご主人様ってば兄貴に怒られてやんの!こんな食事を出した報いだぜ!いいぞ!もっと言ってやれ!」
「う、うるさい!あんたは黙ってなさい!」
おちゃらけた様子で喋るサイトにルイズは顔を真っ赤にして怒鳴った。
サイトの前で叱ったようなことになり、サイトにからかわれるルイズに少し申し訳なさを感じていると、1つ気がかりになるよなことに気が付いた。
それは賄い食を出させるのに貴族が食事するこの場ではよくないかもしれないということだ。
サイトという平民が貴族と同じ場所で食事することを快く思わない生徒も多いだろうし、もしかしたらそのことに文句を言ってくる者が出てくるかもしれない。
それにただでさえ平民を召喚したと後ろ指を指されているルイズが使い魔とはいえ平民を同じ食事の席——まあ、この場合は席ではなく場所になるが——に付かせていることはルイズの貴族としての良識が疑われることになり、さらに肩身が狭くなる可能性もある。
「・・・しかし、だ。サイトは平民なので僕達と同じ物を出すわけにもいかないだろう。」
「そういうもんか?なんか面倒だな。・・・でも、これよりいいものが出てくるんだったらなんだっていいぜ!」
そう言ってサイトは足元の自分の食事を指さした。
「まあ、一般的な平民の食事をしてもらうのは問題ないと思うが・・・この場で食事をするにはいささか品が無いと言えるだろう。サイトは使い魔といえど平民だからな。それに基本的に他の使い魔はアウストリの広場で食事を摂っているしな。」
俺は食堂の窓からアウストリの広場を指差した。
そこには丁度ゼファーが果物を頬張っている姿が見えた。
ちゃんと食べてるみたいだな、良かった良かったと胸を撫で下ろした。
でも今度果物や野菜とかでポケモンフーズみたいなのを作ってみるのもいいかもな。
そんなことを考えていると、サイトが声を挙げていた。
「え!?他の使い魔って・・・お、俺に昨日の竜とかと一緒に外で飯を食えっていうのか!?そりゃねえよ・・・ってか、もし間違ってあの竜に俺が喰われたらどうするんだよ!ほら、なんか今めちゃでかい肉の塊食ってるし、絶対にやべえって!」
ゼファーの近くに昨日のご褒美の肉を美味しそうに食べるシルフィードがいた。
サイトは昨日のよだれを垂らしたシルフィードがよほどラウマになっているのか少し青ざめた表情で窓の方を見ていた。
「ふん!あんたなんてシルフィードに食べられちゃえばいいんだわ!・・・あ、でもあんたなんて食べたらシルフィードのお腹が壊れちゃうかもね。」
ルイズはさっきのお返しとばかりに意地悪そうな顔をした。
「それ洒落になんねえだろ!ご主人様のお兄様、どうにか出来ないでしょうか?」
サイトは祈るような目で俺を見た。
「そうだな・・・この学園にもサイト以外に多くの平民がいて、そして働いている。その平民が食事をするとこでサイトも食事させてもらえないか聞いてみよう。いいね、ルイズ。」
「え、ええ。構いませんけど・・・どうして私に聞くのですか?」
ルイズは突然話を振られてキョトンとした。
「サイトはルイズの使い魔だろ。サイトの食事の確保はルイズがやらないとね。」
「ええ~。一応用意したのに・・・」
ルイズはチラッと足元の食事を見た。
サイトも足元の食事に再度目をやった。
「いや、これはねえだろ。」
サイトの言葉に再び機嫌を悪くしそうなルイズの頭に俺はポンと手をおいた。
「まあ食事の内容は少し褒められものではなかったけど、それでもちゃんと用意していたのは偉いぞ。」
「えへへ。」
ルイズは目を細めて照れくさそうに微笑んだ。
「でもルイズにも勘違いがあったみたいだからね。使い魔のお世話をちゃんしないといいメイジとは言えないんじゃないかな?昨日ミスタ・コルベールも言っていただろう、『いいメイジは使い魔の世話をしっかり行なっている者だ』ってね。」
まあ、本当は「いいメイジは使い魔の世話“を”しっかり行なっている者だ」ではなくて、「いいメイジは使い魔の世話“も”しっかり行なっている者だ」なんだろうけどね。
「・・・そうですね!分かりました!この使い魔にちゃんとした食事を出します!」
ルイズは真っ直ぐ俺を見て元気よく言った。
「うん、そうだね。僕が言い出したことでもあるから付いて行くよ。じゃあ・・・あ!ちょうどいい所に。シエスタ!ちょっといいかな?」
俺はちょうど近くを通りかかったシエスタに声をかけた。
「え?あ、おはようございますミスタ・ツェルプストーにミス・ルイズ、それにミス・ルイズの使い魔のサイトさん。私に何か御用でしょうか?」
呼び止めた時は驚いていたようだが、呼び止めたのが俺だと分かると少しほっとしたような顔をした。
「ああ。というかシエスタはサイトのことを知っているのか?」
「ええ。ミス・ルイズが平民の使い魔を召喚したこと学院中に広まっていますから。それに今朝の洗濯の時にお会いしましたので。」
シエスタが答えるとルイズの表情が変わった。
「あんた・・・メイドにちょっかい出したんじゃないでしょうね!?」
ルイズはサイトを睨んだ。
「お、俺はなんもしてねえって!ただ洗濯の仕方が分からなかったところを助けてもらっただけだよ!」
ルイズに睨まれたサイトはあたふたしながら弁明した。
「そうか。サイトに食事を与えたいのだが、周知の通り彼は平民なので僕達と同じものを出すわけにもいかないし、ここで一緒に食事させるのもあまりよくない。そこでシエスタ達が普段食べているものを普段食事している場所でサイトにも食事をさせたいのだがいいだろうか?」
俺がそう言うとシエスタは足元を見ながらおずおずと声を出した。
「あの・・・このミス・ルイズが用意させた食事は・・・」
「片付けていいわ。」
シエスタの言葉にルイズは自身の失敗を悟られないようにするためか少し固い口調で応えていた。
「まあ、これはルイズの平民への偏見があったものだからね。折角用意させたもので悪いのだが片付けておいてくれないか?」
「分かりました。ミス・ルイズの使い魔さんのお食事についてはコック長に聞いてみますね。」
そう言うとシエスタはしゃがんで足元のサイトに用意された食事を回収した。
「僕達も一緒にコック長に話をしに行くよ。」
「そ、そうですか?でしたらコック長は厨房にいるのでそちらにご案内しますね。」
「ああ、頼む。」
そうして俺達はシエスタに案内されて厨房へと向かった。
「それでは私はコック長を呼んで来ますので少し待ってて下さい。」
厨房の入り口でシエスタが振り返って俺達に待つように言った。
「ああ、分かった。」
「早くしなさいよね。」
シエスタはパンの乗った皿とスープの皿を持って厨房の奥に消えていった。
メイドが食事の乗った皿を厨房から運び出しているのを横目で見ながら待っていると大盛りのハシバミサラダを持ったメイドが通り過ぎる時に後ろからグ~と音が聞こえた。
「はぁ、腹減ったぜ・・・・」
サイトがお腹を押さえていると再びグ~とお腹がなった。
「あんたねぇ、みっともなくお腹を鳴らしているんじゃないわよ。まったく平民はこれだから・・・」
お腹をならしたサイトをルイズはジト目で見た。
「まあまあルイズ、お腹が減るのに平民も貴族もないよ。」
そんなやり取りをしていると厨房の奥からシエスタと白い服と白いコック帽を身につけたガタイはいいが少しお腹の出た中年の男性が出てきた。
「ミスタ・ツェルプストー、ミス・ルイズ、コック長をお連れしました。」
シエスタの横に並んだ中年男性は頭のコック帽を取って、頭を下げた。
「コック長のマルトーです。貴族様が一体どのような要件でわざわざこんな所までいらしたのですか?」
「私の使い魔に食事を出して欲しいの!」
ルイズが俺の右斜後ろからいきなり言った。
「はい!?」
マルトーコック長はルイズの言葉に面食らっているようだ。
「いきなりですまない。ちゃんと説明すると・・・」
俺はマルトーコック長にサイトのことを説明した。
「・・・と、言うわけなんだが頼めるだろうか?」
「頼むだなんて!?わ、分かりました。賄い食になりますがそれでいいのでしたら。」
マルトーは少し慌てたように言った。
貴族が文句以外でコック長に話をしに来ることはそうそうないのだろうし、俺達の話に少し面喰っているように見える。
「なあ、賄い食ってどんなものが出るんだ?まあ、あれよりひどい事は無いと思うけど。」
後ろでサイトがルイズに聞いていた。
「そんなの知らないわよ!あんたはちょっと黙ってなさい!」
ルイズは声のボリュームを押さえてサイトに向って叫んだ。
「すまないが賄い食にはどのようなものが出るのか教えて頂けないだろうか?食べる本人も気になっているようだしな。」
「基本的には食事を作った後の余り物や1つ前に出した食事の余り物などで作る簡単な料理です。」
「昨日の夜に頼まれて持っていったものも賄い食ですよ。」
マルトーコック長が説明した後にシエスタが具体的な例をあげた。
「なるほど。サイト、昨日の夜食べたのが賄い食だそうだ。頼めばあの食事になるがいいか?」
俺は左足を少し引いて体を後ろに向けて、後ろにいるサイトにどうするか聞いた。
「おお!あれが賄い食だったのか!あれはうまかったし、俺はそれで全然文句ないぜ!」
サイトは特に不満が無いようなのでそのまま頼むことにした。
「では、これから朝昼晩と毎食ごとにサイトがそちらに顔を出すことになるがその時は食事を出してやってくれ。」
「お願いね。」
俺とルイズはそう言ってマルトーコック長にサイトのことを頼んだ。
「分かりました。責任を持って食事を出させて頂きます。」
マルトーコック長は頭を下げてそう言った。
「ありがとう。それではシエスタ、サイトを食べる所に案内してやってくれ。」
「分かりました。ではサイトさんこちらに。」
「おお!腹減ったぜ!」
「あんた、あんまり食べ過ぎて動けないとかは止めてよ。見苦しいから。」
ルイズの言葉を全く気にしていないようでシエスタの後ろを付いて行くサイトはまともな飯にありつけるのが嬉しいようだ。
サイトの用事も済んだので席にも戻ろうと踵を返そうとして、俺は食事の後のサイトの行動を指定していなかったことに気が付いた。
「サイト、食事を食べたら食堂の前かアウストリの広場で他の使い魔達と僕達を待っててくれ。」
そう言うとサイトは足を止めて少し考えた後応えた。
「・・・分かった。食堂の前で待つことにするぜ。」
厨房の奥にサイトが消えるとマルトーコック長はまた頭を下げて俺達に断りを入れると厨房の奥に戻っていった。
「それじゃあ、僕達も席に行こうか。そろそろ食事前のお祈りが始まりそうだしね。」
「そうですね。全く・・・あの使い魔のせいで時間がかかってしまいましたね。」
俺達が席に行くとキュルケやカトレアさん、タバサが席についていた。
「おはよう、キュルケ、カトレアさん、タバサ。」
俺が挨拶をした後にルイズも同じように三人に挨拶をして、三人もそれぞれ俺達に朝の挨拶をした。
「ダーリンが遅く来るのも珍しいわね。いつもは私達が来たらすでに座っているのに。」
「ああ。ちょっとな、そのことは食べながら話すよ。ほら、ルイズどうぞ。」
「ありがとうございます、お義兄様。」
俺はカトレアさんの前の席の椅子を引いてルイズを座らせ、俺はキュルケの前の席に座った。
「そう言えばルイズ、今朝迎えに行った時もう部屋にいなかったのに部屋を出たのにどこに行ってたの?」
カトレアさんが目の前に座ったルイズに尋ねた。
「わざわざ迎えに来てもらったのにごめんなさい、ちぃ姉様。でもあのバカ・・・私の使い魔がお腹減ったってうるさいから少し先にここに来たんですけど・・・」
ルイズの言葉はタバサの声で遮られた。
「話は後。もうお祈りが始まる。」
タバサは胸の前で両手を組んでいた。
周りの生徒達も同じような格好をしており、俺達が最後だったようですぐに食事の前のお祈りが始まった。
まあ、俺は献身なブリミル教徒ではないので周りに合わせて声を出しているだけで心を込めてはいない。
その代わり、食べる前には心の中で“頂きます”と言っている。
お祈りが終わるとそこからは普通の食事の風景だ。
友達と和気あいあいと話しながら食べる者もいれば、黙々と食事を食べている者もいる。
「それでダーリンはどうして遅くなったの?」
キュルケが先程の会話の続きを始めた。
俺は三人、タバサはハシバミサラダに夢中なのでちゃんと聞いているのか分からないが、兎に角三人に今朝の経緯を話した。
「そうだったのね。まあ、ルイズも偏見が一つ無くなってよかったわね。」
「え!?からかわないの?」
キュルケの言葉にルイズは目を丸くした。
「まあね。もうルイズはそのことを反省しているみたいだし、今更言ってもね。」
「キュルケ・・・」
「でも私がその場にいたらからかってたと思うけどね。」
「むう・・・!」
ルイズがキュルケを見つめるとキュルケは照れくさいのか少し意地悪なことを言っていた。
「あらあらキュルケさんってば。でもルイズ、間違いをちゃんと認めたことはとてもいいことよ。貴族はプライドが高いゆえに自身の間違いを認めたくない者も多いが間違いを認められずにそのまま過ごすといつかその間違いに足元を掬われるってお父様も言ってましたよ。」
「ちぃ姉様・・・」
カトレアさんに褒められてルイズは嬉しそうだ。
「さすがルイズ、俺達にできないことをさらっとやってのける。そこに痺れる。憧れる。」
タバサは抑揚のない声でそう言った。
イーヴァルディの勇者の話に出てくる台詞の一で俺はジョジョに出てきた台詞と同じということで強く印象に残っていたが、この台詞は多くのシリーズがあるイーヴァルディの勇者の中でモブがたった一言言っただけのものなのでそれを覚えているタバサはやはりかなりイーヴァルディの勇者が好きなのだなと改めて感じる。
しかし言われたルイズ自身はその台詞がなんなのか分からないようで困惑していた。
「え?何?それ?」
言葉を放ったタバサはすでにもくもくと食事を摂っており、ルイズはどうしていいのか分からないようだった。
「しかし、本当にダーリンは物好きよね。」
話が一段落したところでキュルケが俺にそう言った。
「ん?・・・どういうこと?」
俺は口の中の食べ物を飲み込んでキュルケにその意味を聞いた。
「普通の貴族だったら他の人の使い魔、それも平民なんて絶対に無視するに決まってるのにダーリンは関わっていくでしょ。」
「いや、ルイズは他の人じゃないだろ。妹じゃないか。」
「お義兄様・・・!」
「義理だけどね。」
「まあまあ、キュルケさん。でも確かにヴァルムロートさんは平民のメイドさん達にも普通の接しますよね。どうしてですか?」
「それは気になる。」
キュルケ、カトレアさん、ルイズそしてタバサも食べる手を止めて俺を見た。
「いや、別に特別どうこうというのは無いけど。ほら、国や貴族の生活を支えているのは平民だからね。それに僕は無駄に威張るのは好きじゃないし・・・」
「やっぱり変わってるわね。」
「変わってるわね~。」
「変わってる、のかな?」
「変わってる。」
日本人の感覚のまま無理矢理貴族の真似事をしていたら周りの貴族と感覚に差が生じるのは重々承知しているが、そこまで不思議がることのだろうかと疑問に思う。
昔父さんにも同じようなことを言われたのでそれ以降は少し偉ぶってはいるが、やはりむやみやたらと威張り散らすようなことは出来ていないし、そこまでする必要は感じていなかった。
食事が終わって食堂を出たところでサイトが手持ち無沙汰にぶらぶらしているのを見つけた。
サイトと合流し、アウストリの広場で俺達の使い魔を連れて教室に向かった。
ただ、シルフィードは体が大きいので塔の外から中を覗く形になった。
教室に着いてからサイトが他の使い魔に驚いていたことと、教室の中の生徒達が平民ながら使い魔になったサイトをジロジロ見ていた位で特に騒ぎはなかった。
授業では土メイジのシュヴルーズという新任の先生が教鞭をとった。
その先生の口癖なのか「ただのトライアングルですから。」という台詞を1時間程度の授業の間に何度も聞かされた。
『錬金』の魔法でルイズに前に出てやってみなさいと当てられたのでルイズが『錬金』を行なったが小さく爆発しただけだった。
周りが「ゼロのルイズ!」と冷やかすと、次の瞬間にはその生徒の口には粘土が挟まっていた。
その後は順調に授業が進んで何事も無く終わった。
その後もう一つ授業を行なった後、昼食の為に俺達は食堂へ、ゼファー達使い魔はアウストリの広場へ行き、サイトは厨房の裏にある平民の休憩室のようなところに食事を食べに行った。
——ガチャと平民にあてがわれた休憩所のドアを開けながらサイトは中に向かって挨拶をする。
「こんにちはー!昼飯貰いに来ました。」
「あ、サイトさんいらっしゃい。さ、どうぞこちらに。」
サイトが厨房の裏に入るとシエスタが丁度休憩していた。
シエスタが自分の隣の席を勧めていたのでサイトはそこに座った。
目の前の机の中心にはパンが入った籠が置かれており、埃避けの為の布が被せてある。
「ほらよ!食いな、ボウズ!」
ゴトッとサイトの前にシチューが入った皿が置かれた。
「おお!ウマそう!ありがとう!え~と、ま、ま・・・。」
サイトが皿を置いた人物を確認するとコックの格好をした40代位の男性で、朝会ったばかりだったが名前が思い出せずにいた。
「マルトーだ。しかしボウズも大変だな。貴族の使い魔なんかにされてよ!」
「え、ええ。まあ。」
サイトはマルトーの迫力に押され気味だ。
「あ、あと俺サイトっていうんでボウズはちょっと止めてくれませんか?」
「そうか。悪かったな、ボウ・・・サイト!」
マルトーはニカッと笑った。
「そういえばサイトさんはどこからいらしたのですか?着ている服も私達とは違うものですし。」
シエスタがサイトの格好をじろじろ見ながら言った。
「え?え~と、東の世界のロバなんとかって所から来たんだ。・・・ということになっている。」
最後はほとんど口ごもっていて声には出ていなかった。
「え!?それってロバ・アル・カリイエですか!?砂漠のさらに東にあるっていう!?それはすごく遠いところから来ましたね!」
シエスタはとても驚いたのか声の大きさが自然と大きくなっていた。
「ああ。本当、とても遠いよ・・・」
サイトはそれを聞いてどこか遠くを見ているようだった。
「ロバ・アル・カリイエか。そんなところから連れてくるなんて!全く貴族の好き勝手に振り回されるのはいつも平民だ!・・・サイト!なにかあったら俺に言いな!手助けできることはしてやるからよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「いいってことよ!平民はメイジのように魔法を使えないからな。団結することが平民の力だぜ!」
そう言ってマルトーはバシバシとサイトの背中を叩いた。
マルトーは厨房から別のコックに呼ばれたので厨房に戻っていった。
サイトは籠からパンを一つ取ってかぶりついた。
「頂きます!・・・硬ぇ。」
「サイトさん、パンは食べる前にシチューに浸すと柔らかくなって食べやすいですよ。」
「そっか。ありがとシエスタ。」
そしてサイトはパン2つとシチューを平らげた。
「ご馳走様でした。・・・シエスタ、今から仕事なのか?」
シエスタがメイド服の上にエプロンを付けていた。
「ええ。いまから食後の紅茶やデザートを運ぶんです。」
「そっか。・・・よし!飯を食わしてもらったんだし、俺も手伝うよ!」
そう言ってサイトは空になった皿を持って立ち上がった——
今日も例のごとく午後の授業が無かったのでアウストリの広場で食後のお茶を楽しんでいたのだが、今はヴェストリの広場にいる。
今まさにここヴェストリの広場で決闘が行われようとしていた。
貴族同士の決闘は例外である俺を除けば基本的には禁止されている。
しかし今回の決闘は俺に対するものではなかった。
人の輪の中心、決闘を行う為に立っているのはギーシュと・・・サイトだ。
そう、アニメであったようにサイトとギーシュの決闘が行われようとしているのだ。
ただアニメではギーシュの二股をサイトが指摘して決闘になったと思うんだけど、ここではちょっと違っていた。
サイトがしたことは給仕の手伝いをしている際にギーシュが落とした香水を拾って渡したことだけでギーシュの二股を煽ったりはしていなかった。
ただサイトがした何気ない行動でギーシュが二股をしていたことが本人たちに発覚し、両方の頬にビンタを受けたギーシュが逆恨み的にサイトに難癖をつけたことで売り言葉に買い言葉となり決闘まで発展してしまったようだ。
まあ、サイトが平民と貴族との力の差をわかってないような所は同じだったけどね。
あとルイズがサイトを止めても聞かない所も同じだな。
「お義兄様からもなんとか言って下さい!お義兄様なら決闘を止めることが出来るでしょう?」
ルイズが俺の腕を力いっぱい掴みながら俺に頼んでいた。
掴んでいる爪が腕に食い込んでちょっと痛い。
「ルイズ、サイトはルイズの使い魔だろ。ルイズが言ってもダメのなら僕が言っても無駄だよ。あとギーシュに止めろと言っても聞かないだろうからこちらも無理だろうな。」
俺がそう言うとルイズは俯いて黙ってしまった。
ルイズには悪いけどこの決闘はサイトがガンダールヴとして初めて能力を発揮する所だからな。
教師が本気でこの決闘を止めに来ないのはサイトがガンダールヴだと半信半疑の学院長やコルベール先生は学院長室の鏡で見ているからだろうし、俺自身もガンダールヴの力がどれくらいなのか実際に見てみたいというのがある。
「でもダーリン、このままじゃあマズイんじゃないの?」
キュルケが少し険しい顔をしていた。
「そうよね。喧嘩ではなくて決闘ですからね。しかもグラモンさんは貴族で使い魔さんは平民だものね・・・」
カトレアさんも心配そうにサイトを見た。
「下手したら死ぬ、かもしれない。」
タバサがそうつぶやくとルイズの肩がビクッと動いた。
「あーもー!なんであのバカ使い魔は私の言うことを聞かないのよ!」
ルイズは片足で思いっ切り地面を蹴った後、サイトに向って叫んだ。
「まあまあ、本当に危なくなったら例え決闘でも助けに入るからね。」
俺がそう言うとルイズは一度俺を見てから再びサイトに視線を戻した。
ただ今だに掴んでいる俺の腕に爪を突き立てることが無くなったので少しは安心したのかも知れない。
その間にもサイトとギーシュは「謝るなら今のうちだよ。」「嫌だね!」など二三言葉を交わしていた。
「さて、始めるか。」とギーシュが言うやいなや、サイトは駆け出していた。
両者の間隔は約15メイルだ。
そんなに長くない、むしろ短い位の距離なのでサイトはみるみるうちにギーシュに近づいていった。
しかし一方のギーシュの顔は余裕そのものでサイトが近づいて来るのを気にもとめていないようだ。
そんな余裕をかましているギーシュがスペルを唱えると手に持っていたバラを投げ、地面へと突き立てた。
バラが刺さった地面が盛り上がると全身が青っぽい金属で出来た鎧を身に纏った女性型のゴーレムへと変化した。
突然現れたゴーレムに驚いたサイトの足が止まる。
余裕の笑みを浮かべるギーシュとその顔に陰りを見せたサイトと両者は正反対の表情となっていた。
ギーシュが「青銅」の二つ名の名乗りをあげるとゴーレムがサイトに襲いかかった。
ゴーレムの右の拳が繰り出され、それに反応出来ないサイトはゴーレムの拳を腹に受けた。
サイトは体をくの字にして「っ!」と声にならない声を漏らした。
「うわっ、痛そ・・・。」
キュルケがぽつりとつぶやいた。
キュルケと同様の感想を持ったこととは別に俺はギーシュのゴーレムについて少し感心していた。
今ギーシュが操っているゴーレムの動きは一般的な兵士並の動きをしていたからだ。
以前俺と決闘した時よりも格段に動きが良くなっているようにみえる。
しかし、普通の兵士程度の動きに対応出来ないということはガンダールヴの能力が発動していない時のサイトはやはり一般的な青年レベルの強さしかないということが分かる。
まあ、しょうがないか・・・昨日までは普通の高校生だったんだしな。
などと俺は目の前の光景を見ながら考えていた。
思いっ切り腹に一撃を受けたサイトはたまらず腹を押さえて地面に転がっていた。
ギーシュは余裕の笑みを浮かべながら地面に転がっているサイトを見下ろしている。
その様子を見ていられ無くなったのかルイズが握っていた腕を離そうとしたが、今度は俺の方からルイズの腕を掴んでそれを止めた。
「待つんだルイズ。」
「お義兄様!?どうして止めるんですか!」
「サイトはまだ諦めていない。あれを見るんだ。」
ルイズが俺に言われてサイトの方を見ると、サイトは苦しい顔をしながらも立ち上がっていた。
「サイト!」
ルイズは立ち上がったサイトの名前を呼んだ。
名前を呼ばれたサイトがチラリとこちらを見た。
「・・・おう。」
そう言ってサイトは手を軽く上げた。
顔はこちらからではよく見えなかったが少し笑っているように見えた。
「・・・ねえ、ヴァルムロートさん。私はこの決闘はもう止めさせた方がいいのではないかと思うのですが?どうしてルイズを止めたのでしょうか?」
カトレアさんがふらふらと立ち上がったサイトを見て俺に言った。
「それはですね・・・サイトみたいな性格はとことんやらないと気が済まない、からでしょうから。それにルイズが決闘に巻き込まれたら危ないですからね。」
「そうなのですか?」
カトレアさんは俺の目を覗き込んだ。
俺はまるで自分の考えを読まれているような錯覚に陥った。
俺はなるべく表情が読まれないようにと、ポーカーフェイスを心がける。
「・・・分かりました。ヴァルムロートさんには何か考えがあるのですね。」
カトレアさんは何か納得したようでそれ以上は聞いて来なかった。
決闘ではギーシュがキザっぽく前髪を払う仕草をした。
その顔にはすでに勝利を得たという気持ちが見て取れた。
「平民ごときが貴族と戦おうなどということがどれだけ愚かなことか身に浸みたかい?分かったのなら誠心誠意謝れば許してやらんこともない。」
「はっ・・・何言ってんだ。なんで謝んなきゃいけねえんだよ。1発当てた位でいい気になってんじゃねえぞ。」
「やれやれ・・・最後のチャンスを与えてやっているというのに。」
「・・・そういうのがムカつくんだよね。」
「何?」
「メイジとか貴族とかがどんだけ偉いのか知らないけど、お前ら一体何様のつもりなんだよ!寄ってたかって人を下に見やがって!そんなに魔法がすごいのかよ。バッカじゃねえの?」
サイトは少しづつギーシュの方に歩き出した。
「ははは・・・少し遊び過ぎたかな?」
ギーシュはサイトの言葉に少しイラつきを見せながらもそれでも笑みを浮かべていた。
「なんだ。どおりで全然効いてないと思ったぜ。・・・お前のそれ、弱すぎ。」
誰が見てもそれはサイトの虚勢だと分かるものだったがバカにされたギーシュの顔からは笑みが消えていた。
それからはゴーレムがサイトを殴る。
サイトが地面に転がる。
サイトが起き上がるとまたゴーレムがサイトを殴る。
という行為を何度も繰り返した。
殴られた顔は腫れ上がり、見ているだけでも痛々しいがそれでもサイトは立ち上がっていた。
「お義兄様!もう止めてあげて!このままじゃあサイトが死んじゃうわ!」
ルイズは俺の手を振りほどこうとしていたが、俺はそれをさせなかった。
「ダーリン、これ以上は本当にヤバイかもよ?」
キュルケも真剣に心配をするほどサイトはボロボロだった。
「これは以上続けると本当に死ぬかも。」
タバサがいつもより強い口調で言った。
「ヴァルムロートさん。何か考えがあるなら今がその時なのでは無いでしょうか?」
カトレアさんも普段のフワフワした雰囲気ではなく、どこか緊張感漂う雰囲気を纏っていた。
サイトの公開処刑のような様子をこれ以上見ていても意味は無く、それにサイトを治療するのは俺とカトレアさんになるだろうし、ここらで区切りをつけることを決める。
「・・・そうですね。」
「お義兄様!」
俺が決闘を止めるように言ってくれると期待しているのかルイズの表情が少し明るくなった。
ゴーレムの何回目のパンチでサイトが地面に転がった。
「おーい!ギーシュ!」
俺がギーシュの名前を呼ぶとギーシュがこちらを向いた。
それと同時にゴーレムのサイトへの攻撃が止んだ。
「なんだい?ヴァルムロート?」
「ちょっといいか?」
「もしかしてこれ以上は止めろというのかい?もしそういう話だったら無視させてもらうよ!なにせこの平民からまだ一言も謝ってもらってないのだからね!」
そういってギーシュはバラをサイトに向けた。
「いや、そうじゃない。ただギーシュはこのままでいいのかな?と思っただけさ。」
俺の言葉にギーシュは首を傾げた。
「ん?それはそういうことかな?」
「だから、これは仮にも決闘なのだろ?しかしメイジであるギーシュは魔法という武器を使っているのに対しサイト・・・ルイズの使い魔の方は丸腰だ。これで勝っても君は満足なのかな?」
「ちょっとお義兄様!?なに言っているのですか!?」
ルイズは俺の服を掴んでガクガクと俺の体を揺らした。
キュルケやカトレアさん、タバサは声には出していないが俺の言った言葉に驚いているようだった。
「確かにあいつの言うことも一理あるな。」
「おーい、ギーシュ!丸腰相手に勝って嬉しいのか?情けないぞ!」
「武器位持たせてやれよ!」
「そーだ!そーだ!」
周りの生徒は俺の言葉を聞いて、俺の意見に同意したのか、はたまたそっちの方が面白いと思ったのか分からないが口々にギーシュに対して言葉を放った。
「なるほど。確かにヴァルムロートの言うことも分かる。しかし僕がわざわざ平民に武器を用意するのも面倒だ。君の腰にぶら下げているその無骨なモノを平民に貸してやるというのなら特別に許可しようじゃないか!」
ギーシュはそう言って俺の腰に付けている斬艦刀を指さした。
「そうか。じゃあ・・・」
俺はそれを聞くとサイトの所に歩き出した。
「ちょっと、お義兄様!本気なんですか!?例え武器を持ったとしても平民がメイジに勝てるわけがないじゃないですか!」
ルイズが俺のマントにしがみついてガクガクと揺らしながら一緒にサイトの所までやって来た。
「サイト。」
俺は腰に付けている斬艦刀を鞘から抜くとサイトの目の前の地面に突き立てた。
サイトが顔を上げて少し虚ろになった目で斬艦刀を見上げた。
「・・・か、刀?」
「これで終わりにするか続けるか選べ、サイト。終わりにするならギーシュに向って誠心誠意心を込めて謝ることだな。心の広いギーシュのことだ、それで許してくれるだろう。なあ、ギーシュ?」
「まあ・・・それでいいだろう。次は無いけどな。」
ギーシュは渋々そう言い放ち、続け様に俺に決闘を挑んできた。
「次は君の番だよ。前戦ったときと同じ僕だと思わないでもらおうか!」
「分かった。ギーシュがサイトに勝てればその申し出を受けよう。さあ、サイトどうする?もし続ける気があるのならこの剣をとれ。」
サイトは俺の顔をじっと見つめた。
「・・・お前は一体なんなんだよ。そういう上からの物言いが気に入らないって言ってんだろうが!」
俺がそう言うとサイトの目が生き返ったようにしっかりと斬艦刀を見据えて、立ち上がろうとした。
「もう!お義兄様!サイトを煽らないでよ!サイトはもう止めなさい!平民がメイジに敵うはずないわ!」
ルイズが俺に向って叫んだ後、サイトの肩を押さえて立ち上がるのを止めさせようとした。
その状態でもサイトは斬艦刀に向って手を伸ばした。
ルイズがその手を阻止する。
「ダメ!絶対ダメなんだからね!それを握ったら、本当に死んじゃうかも知れないのよ!だからもう止めなさい!これはご主人様の命令なんだからね!」
「俺は元の世界には帰れないんだろ?帰る方法を探してくれるっていうけれど、それが見つかる確証はねえ。見つかるまでか、もしくは一生ここで暮らすしかないんだろ?」
サイトがガクリと右膝を地面についた。
「そうよ!だから私があんたの面倒をみるって言ってるじゃない!」
「ああ・・・。洗濯、掃除、雑用でもなんでもやってやる。勿論使い魔だってやってやるよ。生きるためだからな。でもな・・・」
サイトが左手を強く握りしめた。
「何?」
「・・・ムカつく奴には下げる頭は持ってねえんだよ!俺は!」
「きゃっ!?」
サイトは力を振り絞って立ち上がるとルイズをはね退け、左手で斬艦刀を掴んだ。
「サイトのバカーーー!」
その瞬間、サイトの左手に刻まれたルーンが光輝いた。
「すごいね。まだ立つんだ。その根性を素直に褒めてあげたいよ。・・・でもね!」
ギーシュがそういうと再びゴーレムがサイトに襲いかかてきた。
俺はここにいると邪魔になると考え、ルイズを抱えて後ろに下がった。
俺に抱えられたルイズは一瞬驚いていたがすぐに暴れ出した。
「お義兄様のバカ!バカ!なんでサイトを炊きつけたの!?」
手足をじたばたさせているルイズを地面に降ろしてから俺はルイズの頭にポンっと手を置いた。
「ルイズ、自分の使い魔を信じるんだ。」
ルイズは俺を見上げるとキッと少し睨んだ。
そんなルイズに俺はサイトの方を見るように「ほら。」と言って指さした。
サイトは自らに向かってくるゴーレムの方へ跳んだ。
ゴーレムの繰り出したパンチを安々と避けたサイトは左手に持った斬艦刀でゴーレムの胴体を真っ二つに切り裂いた。
たった一撃でゴーレムを撃破されたギーシュの表情に少し焦りがみえた。
なにせ平民がメイジのゴーレムを打ち破ったのだ。
それも先程まで完膚なきまでに叩きのめされていた平民が、だ。
その光景を見ていたものは皆息を飲んだ。
それはサイトを召喚したルイズ本人も例外ではなかった。
ただ、サイトがガンダールヴだと初めから知っている俺一人を除いては。
ギーシュは慌てて新たに六体のゴーレムを作り出した。
そして6体のゴーレムはサイトを取り囲むと一斉にサイトに跳びかかった。
前戦ったときは5体しか出せなかったのでこの部分も前と違うと言い張っていたところなのだろうな、と考えている間にその6体のゴーレムのうち5体が瞬く間にサイトに切り刻まれていた。
「へえ・・・」
ガンダールヴの能力に感心している俺の口から声が漏れる。
分かっていたことだがガンダールヴが発動すると身体能力が格段に上がることもそうだが、なにより刀や剣をこれまで扱ったことがないはずなのにちゃんと扱えていることに感心していた。
それにさっきまでゴーレムにボコボコにされたから体を動かすとかなり痛いはずなのにそんな様子は微塵も見せない所をみると、ガンダールヴの能力に痛みの感覚を麻痺させる効果でもあるのだろうか。
とサイトに切り刻まれたゴーレムが土に帰る様子を見ながら考えていた。
ギーシュは慌てて残ったゴーレムを自分の盾にしたがサイトはそれを簡単に切り裂いていた。
近づいた勢いのままサイトがギーシュの顔面に飛び蹴りを入れると、今度はギーシュが地面に転がる番だった。
サイトは地面に横たわったギーシュに近づくと斬艦刀をギーシュの顔のすぐ横に突き立てた。
「続けるか?」
サイトがつぶやくようにギーシュに言った。
ギーシュは首を横に振りながら「参った。」と口にしていた。
——本塔の一番高い所にある学院長室でオールド・オスマンとコルベールが二人揃って先程まで鏡に写っていた映像について話をしていた。
勿論その話というのはサイトがガンダールヴであることについてだ。
そしてサイトがガンダールヴだと王室には連絡しないこと、さらにこのことは他言無用であるということで話の決着はついた。
「しかし、おかしな点が一つありますね。」
「何かね?つるっぱゲール君?」
「コルベールです!・・・ミスタ・ツェルプストーが彼に剣を渡さなければこの展開にはならなかったように思われます。なにせガンダールヴの力は“全ての武器を自在に操ること”、つまり逆に言うと武器が無いと意味がない可能性が高いのです。」
「・・・何が言いたいのかね?」
オールド・オスマンは白い髭を触りながらコルベールに次の言葉を促した。
「つまり・・・ミスタ・ツェルプストー、彼はあのミス・ルイズが召喚した使い魔の平民がガンダールヴだと最初から分かっていたのでは?と。」
コルベールがそういうと少し間を置いてオールド・オスマンが笑い出した。
「フォフォフォ!なかなか面白い話をするなツルツール君!」
「コルベールです!しかしオールド・オスマン・・・」
「考えても見給え。ゲルマニアの王族には始祖ブリミルの血が全く入っていないのじゃぞ?そのような国の一貴族であるミスタ・ツェルプストーがあの平民を最初からガンダールヴだと判断する根拠がどこにある?むしろガンダールヴを知っているかどうかさえ怪しいぞ!」
「それは・・・そうですが・・・」
「それにゲルマニア人は“面白ければそれで良し!”という性格の持ち主が多いじゃろ。きっとミスタ・ツェルプストーもそういう性格なのじゃよ。」
「まあ、言われてみればそんな気もしないでもありませんな・・・」
「兎に角!あのミス・ルイズの使い魔の平民がガンダールヴだということはここだけの秘密にしておくのじゃぞ!よいな?」
「分かりました!」
その話を今年から学園長の秘書として働きだした緑色の髪をした女性が部屋の外から聞き耳を立てていることに中の2人は気が付かなかった——
サイトとギーシュの決闘から1時間程度たった頃、俺とカトレアさんはルイズの部屋のルイズのベットに寝ているサイトに回復魔法をかけていた。
「ふう。これで良しっと。それではちょっと確認を・・・」
俺はサイトの全身を『ディテクトマジック』でチェックしてどこか他に怪我をしていないかを調べたが、もう怪我はないようだ。
「もう大丈夫みたいだな。カトレアさんにも手伝ってもらっちゃいましたね。ありがとうございます。」
「いえいえ、こういう時のための回復魔法ですからね。」
カトレアさんはにっこりと笑った。
「お義兄様、ちぃ姉様、もうサイトは大丈夫なの?」
ルイズが不安そうにサイトの顔を覗き込む。
ゴーレムに殴られて腫れていた顔も今は回復魔法ですっかり良くなっている。
「ああ。もう問題ないよ。ただ疲れているのか目が覚めるのは明日くらいになりそうだけどね。」
「そう!良かった!」
ルイズの表情がパァーと明るくなった。
サイトはギーシュが負けを認めた後、斬艦刀から手を離すといきなり地面に崩れ落ちた。
急いで駆け寄り『ディテクトマジック』でサイトの体を調べた所、多数の打撲による傷はあるものの致命傷に至るようなものは無かった。
恐らくサイトが倒れたのはガンダールヴの能力が切れたことで身体に痛みが襲ってきたことと体力が極端に消費したことにより気絶したものだろうと考えた。
そして俺達はサイトをルイズの部屋に運び、俺とカトレアさんで回復魔法を行い、キュルケとルイズとタバサには教員から秘薬をもらってきてもらった。
それらでサイトの傷を癒し、今に至る。
今は寝ているけど明日目が覚めれば元通りに元気になっているだろう。
「そういえばお義兄様はサイトがあんなに強いなんて知っていたのですか?」
サイトの顔を覗き込んでいたルイズが顔を上げて俺を見た。
純粋に疑問を投げかける目で俺を見つめてくるルイズに「実はサイトはガンダールヴなんだよ」と教えてあげたいが、それを言うわけにはいかない。
「いや、知らなかったよ。サイトがもう一発でもギーシュのゴーレムに殴られたら強制的に止めるつもりだったし。」
「あらあら?そうなんですか?でもヴァルムロートさんが考えていた事って使い魔さん・・・サイトさんに剣を渡すことなんでしょう?」
カトレアさんはあのじっと見つめられた時に俺が何をするかが薄々分かっていたようだ。
カトレアさんの察する力はニュータイプ並だと心の中で驚嘆する。
「・・・ええ、そうです。」
俺はカトレアさんの言葉になんでもないように答えた。
カトレアさんの言葉に内心ビクッとしたが感づかれないように表面上だけでも冷静な対応をしておかないといけない。
・・・ムダな抵抗かもしれないが。
「でもダーリン。どうして剣を渡そうなんて考えたの?サイトは平民なんだし、普通は剣をもたせたくらいじゃあメイジは倒せないわよ。・・・ダーリンとか、例外を除けば。」
キュルケが当然の疑問を投げかけてきた。
こういうときはうだうだ説明しようとするとボロが出そうだと考えたので、逆に思い切りバカな理由で切り抜けることにした。
「・・・だって、あそこで剣を持ったあとから逆転勝ちしたら面白いだろ?」
俺がそう力説するとキュルケは「え?」と言いたそうな顔をしていた。
周りを見るとカトレアさんは仕方ないわねみたいな顔をし、ルイズは口をぽかーんと開けていた。
「ピンチからの逆転劇は王道。」
キュルケ達が少し呆れ顔の中、タバサだけが同意してくれたようだ。
「だろ!」
「・・・ただしそれは小説の中の話。」
わけでは無かったようだ。
「そ、それもそうだな。悪い、今回はサイトに無茶させたな。」
俺は素直に謝ることにした。
「そう・・・現実はそう甘くない。今回はどういうわけか上手くいったけど。」
「そうよね。どうしていきなりあんなに強くなったのかしら?」
「そうね~。左手のルーンが光っていたから多分あれがサイトさんの使い魔の能力なんでしょうね。」
「ちぃ姉様、それはサイトは武器を持つと強くなる能力を持っているということですか?」
俺が謝ったことで一段落したのか今度はサイトの能力の話になった。
「それにしても・・・剣を持っている左手が光輝くなんて、まるで・・・」
「イーヴァルディの勇者みたい?」
俺はタバサの言おうとしていたことを続けて言った。
「・・・そう。」
タバサはコクリと頷いた。
「ちょっと待って!イーヴァルディの勇者も物語に出てくる登場人物でしょ!?もしかしてイーヴァルディの勇者って実在した人なの?」
ルイズがタバサに詰め寄った。
するとタバサは首を横に振った。
「分からない。架空の人物だろうと言われている。ただ、彼と共通点があったからそう思っただけ。」
「やっぱりそうよね・・・」
ルイズは少し肩を落とした。
「でも、ルイズ。サイトはイーヴァルディの勇者じゃないけど、それでもメイジに勝てる平民の使い魔なんてすごいわよ!ね、カトレアさん。」
「ええ、そうね!きっとハルケギニアのどこを探してもサイトさんと同じ使い魔はいないわ。それこそ唯一無二ね!そんな使い魔を召喚するルイズもすごいわよ!」
キュルケとカトレアさんがルイズを元気付けるようにそう言った。
「そ、そうですか?えへへ。」
二人に褒められたルイズは少し顔を赤くして照れていた。
「今回の決闘は予期せぬものだったけど、サイトが武器を持ったら強いということが分かったのは不幸中の幸いだったな。」
「そうですね。本当はサイトはなんの役にも立たないただの平民だと思ってましたから。」
ルイズはそういうとベットに寝てるサイトの顔を見つめた。
「と、言う訳で今度の虚無の曜日に町に出てサイトの武器を買いに行こうか。」
「はい!」
ルイズは元気よく返事をした。
こうして次の虚無の曜日に皆で町にサイトの武器を買いに行くことになった。
デルフリンガー・・・ちゃんと店にあるよな?
<次回予告>
サイト用の武器を買うために虚無の曜日に街へ出かけることになった。
虚無の曜日まで時間を潰して・・・
待ってろ!デフルリンガー!
第64話『ソーディア・・・インテリジェンスソード!デルフリンガー!』
次は6/22頃の更新を目指して頑張ります。