64話 ソーディア・・・インテリジェンスソード!デルフリンガー!
夜が明ける前の薄紫色の空の下、俺は実家から持って来ている服を着て学院の正門から外に出た。
「いいね!この朝のこの空気!清々しい気分になるぜ!」
大きく息を吸い込んだ後、つい素の言葉を使ってしまう。
それはいつもは貴族っぽい、作った話し方をしているが周りに誰もいないという安心感からくるものだろう。
まあ、誰もいないというのは語弊があった。
それは俺の足下でちょこちょこと歩いている俺の使い魔になったヒトカゲのゼファーだ。
しかしゼファーとは運命共同体であり、信頼関係を築いていくためにも素の自分をみせていく必要があるので問題はない、と思う。
それにゼファーを召喚してからは毎日一緒に訓練に出ているのでそういうことを心配するのはすでに遅いといったところでもある。
「じゃあ、ゼファー!今日も森まで競争だぞ!」
「カゲ!」
そして俺はいつも訓練している約3リーグ先の森までゼファーと一緒に駆け出した。
——サイトがギーシュと決闘をした翌日、サイトはベットの上で目を覚ました。
「ふぁああぁ・・・よく寝た。」
大きく伸びをすると体の関節がバキバキと音を立てた。
寝ぼけた頭で自分がどれくらい寝ていたのだろうか、とサイトは何気なしに思った。
サイトが視線を天井から動かすとルイズが寝ている天蓋の付いている豪華なベットの向こう側に窓が見える。
その窓からは朝独特の薄紫色の空が見えた。
こっちの世界でも朝焼けは変わらないな、とサイトは思った。
まだ起きるには早いので二度寝しようかという考えが浮かんだサイトは一つ疑問を抱いた。
その疑問とは“今自分はどこに寝ているのか”ということであった。
視線の先にはこの部屋に一つしかないはずのルイズのベットが映っている。
しかし、自身の下の感触は少し硬いが床と比べたら何倍も柔らかいものだった。
「・・・寝てる間に何があったんだ?」
サイトは上半身を起こすと視線の先にはドアが見えた。
体を後ろに向けると壁があり、自分が寝かされていたベットが部屋の角にピッタリと置いてあることが分かる。
「俺の記憶が正しければ昨日も俺はこの位置で寝たはずだ。しかし・・・昨日はここには床に藁と一枚の毛布しか無かったはずだ。つまり・・・」
ハルケギニアは魔法の世界であるが、サイトはそのことをどこかゲームの中の世界と同列に考えていた。
「藁がベットにレベルアップした!?すげぇ、さすが魔法の世界だぜ。」
「そんなわけ無いでしょう。」
突然寝ているはずのルイズが密かに感動しているサイトに水をさした。
サイトがルイズを見ると、ルイズは寝たままの姿勢で身体をこちらに向け、目を気だるそうに半分開けた。
「でも、昨日は藁だったろ!?レベルアップじゃなきゃ昨日の今日で藁がベットにならないだろ?」
「サイト・・・あんた、昨日自分が何をしたか忘れたの?」
ルイズはやれやれと言わんばかりだ。
「昨日?え~と・・・あ!確かギーシュとかいう貴族と決闘したんだったな!それで自分でもよく分からないけど勝ったんだったけ。」
サイトは腕組をしながら昨日のことを思い出していた。
「そうね。まあ・・・いろいろあったけど、サイトの使い魔としての強さを知れたことは不幸中の幸いだったわ。」
「・・・もしかしてそれのご褒美ですか!?ご主人様!」
サイトは少しルイズの方に身を乗り出した。
サイトとルイズの距離は床に寝ていたときよりも離れていたが心理的に少し近くなったとサイトは感じていた。
「違うわ。ギーシュに勝ったのはいいけど、サイトもそれまでボコボコにやられてたでしょ。あの後気絶したあんたを私のベットに運んだのよ。ちゃんと調べたら全身痣だらけで骨にもヒビが入っている所が何箇所もあって、顔なんて殴られ過ぎて元が分からない位腫れていたのよ!分かってんの?」
ルイズは寝たままだが、その瞳は先程と違いサイトを睨むように見ていた。
「そ、そういえばそうだったな。・・・ん?でも、体は別にどこも痛くねえし、顔だって・・・どこも腫れてなさそうだけど?」
サイトは確かめるように両手で自分の顔をペタペタと触った。
「それはお義兄様とちぃ姉様に感謝しなさいよね。秘薬やお義兄様達の回復魔法が無かったら、今そんなに元気じゃなかったわよ。秘薬だけだったら1週間は寝て過ごさないといけなかったかもしれないのよ!」
「そ、そうだったのか・・・」
ゲームでは回復アイテムだけで全回復できるけど、この世界の秘薬という回復アイテムはそうではないのだな、とサイトは思った。
そして同時にそんな怪我を一晩足らずで治してしまう回復魔法についてはどこかゲームっぽさを感じずにはいられなかった。
「それに普通の平民だったら秘薬を使ったり、貴族に回復魔法をかけてもらえるなんてそうそうないのよ。」
「そっか・・・。それでこのベットのことだけど・・・」
サイトは下を向いてベットを見た。
「それはね、いくら回復魔法で回復させたといっても体力とかが戻るわけじゃないから朝までは目を覚まさないだろうってお義兄様が言ったの。でも朝まで私のベットに寝かしておくと私の寝る場所がないでしょ?それで平民用の使ってないベットを持って来たのよ。話は通してあったからすぐに手に入ったけどね。」
「結構迷惑かけたんだな・・・ありがとうな。」
「ま、まあ、使い魔の面倒を見るのはメイジとして当然のことよ。でも今度からは勝手に面倒事を起こさないでよね。」
「あ、ああ。」
サイトは少しばつが悪くなってポリポリと頭をかいた。
「私はもう少し寝るから時間が来たらちゃんと起こしなさいよね。後、昨日あれだけ言ったんだからそこの洗濯物をちゃんと洗っておきなさいよ。」
そう言うとルイズは寝返りを打ってサイトに背を向けた。
「分かった。」
サイトはベットから降りると洗濯カゴを持って部屋を出た。
「はあ。二度寝しようかと思ったけど、ちょっとは使い魔らしいことをしますかね。」
サイトは自分に言い聞かせるようにつぶやくいて、洗濯をするために階段を下りて行った。
「う~、冷ぇ・・・。はぁ、洗濯機があったらボタン押すだけなんだろうけどな。」
サイトは寮塔を出たすぐの所の水場でルイズや自分の衣類を水に浸してゴシゴシと洗っていた。
洗い終え、絞って水を切った洗濯物を洗濯カゴに戻す為にサイトが視線を上げると向こうからメイドさんが洗濯物が入った大きな籠を持って歩いてくるのが見えた。
「あ、シエスタおはよう!」
サイトが洗濯物を持ったまま軽く手を上げた。
「え?・・・サイトさん!?」
シエスタは驚いた顔をして駆け足でサイトに近づいた。
「もうお体は大丈夫なんですか!?」
そう言いながらシエスタは視線をサイトの頭から足の方に動かした。
「ああ。なんか結構ひどい怪我だったみたいだけど、ルイズの兄貴と姉ちゃんが秘薬とか回復魔法で怪我を治してくれたおかげでどこも痛い所はないぜ。」
「そうですか、怪我が治って良かったです。メイドや食堂でで働いている人達皆で心配してたんですよ。」
「そっか・・・心配かけたな。」
サイトはルイズの他にも迷惑をかけたことを知ってすこし申し訳ない気持ちになった。
「いえ、いいんですよ。こっちが勝手に心配していたのですから。・・・よいしょっと。」
シエスタは自分の左側に一旦籠を下ろして再度籠を持ち上げた。
どうやら籠は二重になっていたようでそのまま洗濯物が入った籠を自分の右側に置いた。
そして水場の側にしゃがみ、右に置いた籠から洗濯板と洗濯物を取り出してゴシゴシと洗い始めた。
シエスタは慣れた手付きで洗濯物を洗いながらサイトに話かけた。
「それにしても・・・秘薬を使ってもらったり、貴族に回復魔法をかけてもらえるなんて普通の平民では考えられないことですよ。」
「因みにその秘薬ってそんなに高いのか?」
サイトはルイズの言葉から普通の平民では秘薬と使ってもらったり、貴族に回復魔法をかけてもらうことが難しいことは理解したが、秘薬・・・つまりは回復薬がそこまで平民に手が出せないものだとは想像がつかなかった。
なにせゲームではモノにもよるが序盤から手に入る必須アイテムだからだ。
「あ!サイトさんは東の世界の人だから知らないんですね。秘薬って安いものでも私達平民の年収の何倍もするようなモノなんですよ。それこそ平民が一生かけても買えないようなものもたくさんあるんですよ!」
「え?そんなに高いの?」
サイトはいままでゲームの世界の回復薬をイメージしていたのでそんなに高いものではないと思っていた。
ほとんどのゲームでは最初の所持金でも何個か回復薬を買うことが出来るので、このファンタジーの世界でもその位の金額だとサイトは勝手に想像していたのだ。
しかしシエスタの話を聞いてそれは間違いだったと知った。
「そうなんです!もし私が今回サイトさんに使った秘薬の値段を聞いたら・・・あまりの高さに気を失っちゃうかもしれません!」
シエスタはその様子を想像したのかブルブルっと体を震わせた。
「そんなにか!?・・・こ、今度からはあんまり無茶はしないようにしよう。」
「そうです!そうした方がサイトさんの体にもお財布にも優しいですよ!・・・あ、でもサイトさんはお金を持ってないからミス・ルイズがお金を払ってくれるんですかね?」
「ルイズも使い魔の面倒を見るのはメイジとして当たり前って言ってたし、そうなんじゃないかな?」
「確かにメイジが使い魔の金銭関係を含めた面倒を見るのは当然だけど、限度というものをいつも頭の隅にでも置いていてほしいな。ルイズの持っているお金は無限じゃないんだからな。」
「「え!?」」
二人の会話にいきなり入り込んできた声に驚いてサイトとシエスタは声のする方に顔を向けた。
「ヴァルムロート!?」
「ミスタ・ツェルプストー!?お、おはよう御座います!」
「ああ、おはよう二人共。」
ヴァルムロートは右手を軽く上げて二人に挨拶をした——
「サイトはもう体の方は良さそうだな。」
俺はサイトの様子を確認しながらそう言った。
「ああ!お前が俺の怪我を治してくれたんだろ?おかげで昨日あんなに殴られたのが嘘みたいだぜ!」
「そうか。それは良かった。」
「昨日はあんなことを言うからお前のこと嫌なやつかと思ったけど、怪我を治してくれるなんて実はいいやつなのかもな!」
恐らく昨日俺が言ったこととはサイトに決闘を続けるか止めるか迫ったところのことだろうな。
「さ、サイトさん!?そういうことを貴族様に言ってはダメですよ!」
自分の思ったことをそのまま口にしたサイトをシエスタはサイトの服の端を引っ張りながら大慌てで諭した。
「え?なんで?」
サイトはどうして悪いのか分からないといった顔をした。
「サイトさんが先程言った言葉はヘタをしたら貴族様を侮辱したということになってその場で殺されるかもしれないんですよ!」
先程の自分の発言がどれほど危険なものだったのか分かっていないサイトにシエスタは鬼気迫る様子でサイトに説明した。
「え、そうなのか!?でもヴァルムロートは別に怒ってなさそうだけど?・・・お、怒ってないよな?」
サイトは俺の顔を恐る恐る見た。
「まあ、僕はさっきのサイトの言葉を好意的に受け止めたからいいけど。他の貴族に言ったらもしかしたらシエスタの言うようにひどい目に遭わされるかも知れないな。」
「そうですよサイトさん!ミスタ・ツェルプストーは私達平民にお優しい方なのでさっきのサイトさんの言葉も許してくれているのでしょうけど、もし他の貴族様だったら昨日のように決闘とかそのまま魔法を放ってきてまたひどい目に遭わされちゃいますよ!・・・あ、でもサイトさんだったら大丈夫かもしれないですね?」
シエスタは手をバタバタと動かしながら必死にサイトにその危険さをアピールしていたが、昨日サイトがギーシュに勝ったことを思い出したのか最後はサイトに確認するように言葉を発した。
「え!?いや、どうだろう?俺自身もなんで昨日あいつに勝てたのかよく分かんないんだよな・・・」
シエスタの言葉にサイトは腕を組んで、改めて昨日のことについて考えているよう仕草を見せる。
そしてすぐに俺の方を見た。
「・・・もしかしてヴァルムロートが貸してくれた刀に何か特別な力があったのか?」
サイトは俺の腰に付いている斬艦刀を見ながらそう言った。
「確かにこの剣はマジックアイテムだが、使用者を強くする効果なんて無いぞ。」
俺は斬艦刀の持ち手に手を置いてそう答えた。
「そうなのか。じゃあ、なんでだろう?」
「サイトさんにも分からないんですか?」
サイトはまた腕を組んで考え込み、シエスタはそんなサイトを不思議そうに見つめた。
「恐らくあの強くなったのがサイトのルーンの効果だろうな。」
考え込んでいる様子のサイトに俺はさも自分の考えのように言い放つ。
「ルーンの効果?」
「ルーンの効果ですか?」
サイトとシエスタが声を揃えて俺に聞き返した。
恐らくではなく確定事項なのだが、サイトが強くなった理由を「ガンダールヴの力」と明言せずに「ルーンの効果」とあいまいに言うのも現状ではギリギリかもしれない。
しかし、使い魔がルーンの効果により通常は持っていない能力を発揮することはメイジからすれば常識にも等しい知識なので俺が言った言葉を例え二人が他の人に話しても不審がられることはない。
「ああ。サイトはルイズと使い魔の契約をして左手の甲にルーンが刻まれているだろう?そして昨日の決闘の時、剣を持った瞬間に左手のルーンが輝いていたんだ。」
俺はサイトの左手のルーンを指さした。
「そうだったけ?そう言われると光ってたような気がするけど、無我夢中であんまり覚えてないや。」
サイトは自分の左手の甲に刻まれたルーンを見つめた。
「ほぁ~。これが光るんですか?すごいですね・・・」
シエスタはサイトの横からサイトの左手のルーンを覗き込んだ。
「と、いうことで昨日のことから考えて、サイトには武器を持たせておくことになったから今度の虚無の曜日に町に行ってサイトの剣を買うことになっているからな。」
「そうなの?ヴァルムロートのその剣くれればいいのに。」
サイトがじ~っと俺の斬艦刀を物欲しそうに見つめた。
「これはやらんぞ。昨日は特別だ。この剣は世界に一振りしか無いものだからな。」
俺は斬艦刀をポンポンと叩いた。
「そっか、残念。まあ、ダメ元だったしいいけどね。・・・で、虚無の曜日って何?」
サイトはあまり残念がる様子もなく、あっさりと斬艦刀を諦めたようで虚無の曜日のことをシエスタに聞いていた。
「虚無の曜日というのはですね・・・」
シエスタはハルケギニアの曜日のことをサイトに簡単に教える。
サイトはハルケギニアの一週間が8日あることに驚いていたし、逆にシエスタは東の世界——本当は地球なんだけど——が7日しかないことに少し驚いているようだった。
時間とか日付は生活していく上で重要なものだからそれが違うのは自分の一つの概念を壊された感じなのかも知れないな。
・・・俺も最初は一週間が7日から8日に伸びてちょっと戸惑ったけどね。
「なるほど・・・つまり虚無の曜日っていうのは日曜日みたいなものなんだな。」
「そうですね、仕事がお休みという点で同じものだと言えるのではないでしょうか。因みに今日がマンの曜日ですから次の虚無の曜日まであと5日ありますね。」
「あと5日か、まだまだ先だな。・・・そういえばヴァルムロート、さっきから気になってたんだけどちょっといいか?」
シエスタと話していたサイトが俺の方を向いた。
「ん?なんだ?」
「なんでこんな朝早くにこんな所にいるんだ?ルイズはまだ早いとか言ってまだ寝てるのに。」
サイトはチラッと上、ルイズの部屋の方を見た。
「ああ。僕は毎日早朝訓練をしているからね。本当はこの時間は学院の外周を走っている頃なんだけど、今日はゼファーが張り切りすぎてお腹がへって動けなくなったようだから厨房に行ってゼファーの朝食をもらってきたところだったんだよ。それであそこでゼファーにご飯をあげていたらサイト達の姿が見えたから声をかけたんだ。」
俺が向こう側を指さすとゼファーがせっせとご飯を食べているところだった。
「でもヴァルムロートってスクウェアとかいう魔法使いのランクでかなり強いんだろ?なんで訓練なんてしてんの?」
サイトは首を傾げた。
「サイトさん、それはちょっと失礼に値するのでは・・・」
サイトの物言いに再び動揺し出すシエスタに向かって俺は「大丈夫」と手振りする。
「それはだな。いくら強くても日頃の訓練を怠ったら体が訛っていざという時に役に立たないだろ。」
「へえ、意外と真面目なんだな。・・・あ、ヴァルムロートの使い魔がこっちに来たぜ。」
サイトがそう言ったので振り向くとゼファーがとことこと俺達の所に走ってくるところだった。
「もう良いのか?ゼファー?」
俺がそうゼファーに声をかけると、「カゲッ!」と元気よく返事をした。
「そうか。朝食までまだ時間もあるし、僕達はもう少し外を走ってくるよ。」
俺はそういうと『レビテーション』を使ってゼファーを浮かし、さらに『フライ』を使って自分自身を宙に浮かせ、そのまま壁を乗り越えて学院の外に出た。
俺自身も『レビテーション』を使って飛び上がってもいいのだが、『レビテーション』はコモンスペルであるので気軽に使えるというのが利点だが『フライ』ほど早く移動することができない。
なので俺自身の移動目的で飛ぶ時には『レビテーション』を使うことはほとんど言っていい程無い。
しかしそうなると『フライ』で飛んでいる俺と『レビテーション』で浮かせているゼファーの飛行速度に差が出るように思えるが、『レビテーション』はある種の見えない手みたいなもの——同じような魔法で『念力』もあり、こちらの方がより細かい作業が可能だが力が弱い——で牽引している感じなので同じ速度で飛ぶことが出来る。
「じゃあ、また頑張って走るぞ!ゼファー!」
俺がそう言って右手を上に勢い良く上げると、ゼファーも「カゲ!」と俺と同じように右手を上げた。
そして俺達は学院の外周を走り始めた。
その日の昼、午前の授業が終り生徒がぞろぞろと教室から出て、食堂へと向かう流れに俺達も身を任せる。
「じゃあ、俺もちょっくら飯食ってくるぜ!」
食堂へと向かう途中にサイトがそう言って一人流れから抜け出し、厨房裏の休憩室へと駆けていった。
授業中はルイズの隣で居眠りをしたりと退屈そう——サイトは言葉は分かるがこちらの文字は全く読めないのである程度退屈なのはしょうがないと思う——にしていた時と打って変わって本当にうれしそうな表情をしていた。
サイトが塔の外から厨房裏に姿を消すとすぐに何やら歓声が挙がっているようだった。
生徒のざわめきもあり、風のメイジの能力を持ってしてもよく聞こえないが時期的にサイトが学園で働いている平民に「我らの剣」と呼ばれて熱烈歓迎を受けているのだろう。
そんなことを思いながら俺は食堂のある本塔の中へと流されていった。
——昼食が終わり、2年生は午後の授業が無いので生徒達はそれぞれ思い思いの場所で過ごす。
キュルケ、カトレア、ルイズ、タバサの四人は午後の紅茶を楽しむ為にアウストリの広場にやって来た。
四人がいつもの場所に座り、それぞれ紅茶と一緒に本日おすすめのケーキをやってきたメイドに注文していた。
「それにしてもサイトはまたいないわね。」
ルイズの向かいに座っているキュルケがルイズを見ながらそう言った。
「あのバカ、食べ終わったら早く来なさいって言っても来ないのよ。」
ルイズは小さくため息をつく。
ルイズを除き、それぞれの傍らには使い魔が行儀よく座っている。
一番の巨体を誇るシルフィードも嬉しようにタバサに頭を撫でてもらっていた。
しばらくすると紅茶が運ばれてきて、次にデザートが運ばれてきた。
「おまたせしました~。えっと・・・これがタバサのでってこれってサラダか?まあいいか。これがキュルケ、それでこっちがカトレアさんので、最後がルイズの分っと。」
それぞれの前にケーキが置かれていく。
「・・・で、あんたは何してんのよ?」
ルイズはケーキをテーブルに置き終えたサイトに少し怒った様子で声をかけた。
「え?見りゃ分かるだろ?シエスタ達を手伝ってるのさ。」
さも当然かのように言うサイトにルイズは少し苛立った。
「あんたねぇ・・・昼食を食べたらすぐに私の所に来なさいって言ったでしょう!なんで給仕の真似なんかしてるのよ?」
「わりぃ、わりぃ。でも厨房の人やシエスタには世話になってるし、何かお礼がしたいんだよ。」
それを聞いたルイズは小さく息を吐いた。
「・・・サイト、あんたの昼食代はちゃんと払ってあるからお礼なんてしなくてもいいのよ。それよりあんたは私の使い魔なんだから私の為に働きなさいよね!」
「確かに昼代は貰ってるてマルトーさんは言ってたけど、でもそれって俺はなんにもしてないじゃん?俺自身が何か感謝を表したいんだよ!それにルイズも授業が無かったらここでお茶飲んで、ケーキ食って、雑談してるだけなんだろ?だったら俺が給仕の手伝いしてもいいんじゃね?・・・それにルイズの為って普段は部屋の掃除とか洗濯だろ?給仕の手伝いが一段落したらやりに行くよ。」
「あんた、それ普通は私の為の方が優先順位が先になるはずでしょ?・・・まあ、いいわ。それにしても昨日みたいなことは二度とゴメンだからね。そこの所分かってるの?」
そう言ってルイズはジロリとサイトを見る。
「あ、ああ。分かってるって!なるべく関わらないようにすればいいんだろ?それにさっきギーシュに会ったら・・・」
「え!?ギーシュに会ったの!?」
サイトがギーシュと会ったと聞いて目の色を変えたルイズが勢い良く立ち上がった。
「お、おう。さっきケーキ運んだ相手がギーシュだったんだ。」
サイトはルイズのいきなりの行動に少し驚いて一歩後ずさりをする。
「ギーシュに何か言われなかったの!?」
「ああ。なんか俺が平民にしては骨があるから特別に友達になってやる、みたいなことを言ってたな。・・・自分が負けたことには一切触れなかったけど。」
それまで話を面白半分で聞いていたキュルケ達もこのことには声を漏らした。
「へぇ~、ギーシュがねえ・・・。」
「あらあら~。仲がいいのは良いことね。」
「自分を負かした相手にそういうことはなかなか出来ない。すごい、かも。」
その間にもルイズ視線がさらに鋭いものになっていた。
「それで何て答えたの?」
「あ、ああ。第一印象はアレだったし、貴族だからサイテーなやつかと思ったけど、貴族っていうのを抜きにして話してみると意外といいやつっぽい感じがしたから、そっちが構わないなら俺の方はいいぜって言ったけど・・・ダメだった?」
ルイズは張っていた気が緩んだのかストンっと椅子に腰かけた。
「はぁ・・・いいんじゃないの。面倒くさいゴタゴタがなくて、あんたとギーシュがお互いに納得したのなら私は別にあんた達が友人になろうがなるまいがどっちでもいいわ。」
ルイズは頬杖をついてサイトから顔を背けた。
「そっか!良かった。」
サイトはルイズに怒られるんじゃないかと思っていたが、そうでなかったのでホッと胸をなで下ろした。
「・・・全く、心配して損したわ。」
心配した自分の心労が無駄になったと分かり、安心したことでつい今の心境がルイズの口から漏れていた。
サイトには聞こえない位の音量だったが。
キュルケとカトレアはそんなルイズを見て微笑ましい思い、思わず顔が緩んでいた。
それを見たルイズは自分が密かにサイトを心配していたことが二人にはバレバレだったと知り、カァと顔が熱くなるのを感じた。
「そういえばヴァルムロートはいないみたいだけど、どこか行ったのか?」
サイトは一つ空いている席を見ながら、この場にいない人物について尋ねた。
「決闘に行った。」
タバサがハシバミサラダを頬張りながらサイトの質問に簡潔に答える。
「え?でもこの学院って基本的に貴族同士の決闘は禁止なんだろ?それなのにどうして決闘やってんだ?」
サイトは自分の時は貴族対平民であり特例のようなものでもヴァルムロートでは貴族対貴族になってしまうのでは、と首を傾げた。
「ダーリンの場合はね、例外なのよ。」
「例外?」
キュルケは言った言葉にサイトはさらに首を傾げた。
「そう。私とカトレアさんがダーリンの婚約者なんだけど、カトレアさんの婚約は結婚するまでの間だったら、カトレアさんの婚約者、つまりダーリンのことね。ダーリンと決闘して勝つことが出来たらダーリンに変わってカトレアさんと婚約していいっていう事情があるの。それでそれをこの学院内でも適応させるためにわざわざ特別にダーリンとの決闘は許可されているの。」
「え?何それ?なんかめちゃくちゃだな!誰がそんなこと考えたんだよ!?」
キュルケの説明を聞いたサイトは婚約とかすでに自分の常識を超えているのに、さらにそれを上回る事実に驚いていた。
「お母様よ。」
すでに顔の赤みが収まったルイズが紅茶を置いて答えた。
「ルイズの母さんってことはカトレアさんの母さんでもあるわけだよな。実の娘の婚約なのに訳分かんないことするよな。っていうか、よくヴァルムロートもそれに了承したな。」
「まあ、お母様とお義兄様が言うにはちぃ姉様の婚約に関しては表向きの理由で本当にやりたい事は学院内で実践的な稽古をお義兄様に付けることらしいわ。まあ、表向きの理由も本当ではあるのだけど。」
そう言うとルイズは自分のケーキをフォークで小さく切って口に運んだ。
「はぁ、稽古ねえ。でもカトレアさんみたいに美人だとその決闘相手もたくさんいるんじゃねえの?」
カトレアは美人と言われて「あらあら。」と言って微笑んだ。
「ええ。ほぼ毎日ね。」
「毎日かよ!?カトレアさんモテモテですね!・・・っていうかそんなにやってヴァルムロートは大丈夫なのか?一回でも負けるとやべえだろ?」
「うふふ。確かに大変かもしれませんが、私はあの人は負けないって信じてますから。」
「へえ、信頼されてるんだな。・・・それにしても貴族同士の決闘か、どんなものか見てみたいな!」
「サイト、何を見てみたいんだ?」
「え!?」
サイトが後ろから聞こえた声に振り向くと、そこに今話題に挙がっていたヴァルムロート本人が立っていた——
決闘が終り、皆の所に戻るとルイズ達とサイトが俺の話題で盛り上がっているようなので俺はサイトに「何を見たいんだ?」と声をかけた。
「あ、ヴァルムロート!もう決闘はおわったのか?」
どうやら俺の話題は決闘に関することのようだ。
昨日、サイト自身も決闘を行っているので他の人の決闘について少しは気になっているのかもしれないと考えながら、俺は開いている椅子に座る。
俺が席に着くとルイズ達が「おかえりなさい」と声をかけてくれた。
「ただいま。ああ、決闘はもう終わったけど。・・・あ、シエスタ、僕にも紅茶と本日のお勧めを一つ頼む。」
丁度テーブルの近くをシエスタが通りかかったので俺は皆と同じ紅茶とケーキを注文した。
「そっか。残念だな・・・。次決闘があった時に見に行っていいか?」
「ああ。構わないよ。」
「よし、これで貴族同士の決闘がどんなものか見ることが出来るな。魔法使いだし、やっぱり魔法の打ち合いなんだろうな!」
サイトは少し興奮気味だったが、そんなサイトにルイズ達は憐みを含んだ視線を向けた。
「な、なんだよ?」
その視線に気づいたサイトが尋ねるとルイズがしょうがないといった感じで答えた。
「いい、サイト!お義兄様の決闘を普通のメイジ同士が行う決闘と思わないほうがいいわよ。いいえ!思っちゃダメ!」
その言葉にキュルケ、カトレア、タバサがコクリと頷いた。
「え?どういうこと?」
サイトは首を傾げた。
「ルイズ、それはちょっとひどいんじゃないか?」
俺はルイズの言葉に苦笑いしながら反論した。
——次の日、早速サイトはルイズ達と一緒にヴェストリの広場でヴァルムロートの決闘を見た。
「・・・何、アレ?」
サイトはヴァルムロートの方を見ながら驚きを通り越し、呆気に取られていた。
目の前のヴァルムロートは両目を閉じているにも関わらず、右に左にまるで踊っているかのようにステップを踏んでいた。
決闘相手と思われるメイジが杖を振る毎に先程までヴァルムロートがいた足元の地面が何かに当たったように土を巻き上げたり、後ろに植えてある木が激しく揺れていた。
「なあ、ルイズ・・・何がどうなっているのか俺に教えてくれないか?なんでヴァルムロートは攻撃しないんだ?」
サイトはヴァルムロート達の方を見ながらルイズに尋ねた。
「はぁ、仕方ないわね。決闘の相手は風のメイジでマントの色からして1年生ね。お義兄様はあえて攻撃せずに全ての攻撃を避けることで自分自身を鍛えているって言ってたわね。」
さらにキュルケが続けて言った。
「ダーリンも初めの1週間は魔法を使ってたのだけど、イマイチ修行にならないからって今のスタイルになったのよね。」
それを聞いたサイトはルイズの方を向いた。
「いやいや、避けるって言ったって相手の魔法見えねえし、そもそもヴァルムロート目瞑ってねえか?魔法使いってそんなことも出来んのかよ?」
「風の魔法は文字通り風を操っているから目に見えないのは当たり前でしょう。後、お義兄様は魔法は使ってないわ。杖をもってないでしょ?」
「え!?魔法じゃねえのかよ!?」
魔法使いは魔法を使って当然だと思っていたのにヴァルムロートが魔法を使っていないことを知ったサイトは驚きの声を挙げる。
「お義兄様は相手の気配とか魔法に乗った感情を察知して魔法を避けるって言ったけど・・・私にはそれがどんなものか分からないわ。」
「気配って・・・それってそれで相手の強さがなんとなく分かったり、隠れてても見つけることが出来たりすんのか?」
その質問にはキュルケが答えた。
「ダーリンはある程度は出来るって言ってわね。ただ、強い人、メイジだけじゃくて平民であってもかなり武術の稽古を積んだ人とかは気配を殺していることが多いから難しいって言ってたわね。」
「出来るのかよ・・・まるでドラゴンボールみたいだな。」
サイトがそうつぶやくとルイズ達はドラゴンボールが何のことか分からずに少し首を傾げた。
サイトがしばらくヴァルムロートの動きを見ていると普通に立っているだけになった。
どういうことかと対戦相手を見ると、相手は両膝に手をついて少し苦しそうに呼吸を繰り返しており、メイジではないサイトから見てもすでに魔法を放つ余裕はないのだと分かった。
サイトが思い描いていたような魔法が飛び交った後の決闘の終わりではなく、あっさりとした決闘の幕切れであった。
そしてサイトは思った。
もし本当にギーシュと戦った時のような力が自分にあるとして、ヴァルムロートと戦ったら勝てるだろうか、と——
それから数日が過ぎ、虚無の曜日がやって来た。
今俺達はそれぞれ馬に乗って街まで移動している途中だ。
まあ、タバサのシルフィードに乗せてもらえばもっと早く、そして楽に街まで行けるのだが、これはサイトの乗馬の訓練も兼ねているのであえて馬で移動している。
今後馬による移動も多々あるだろうから今教えておいたら後が楽だろう、と提案するとサイトを除いた全員の満場一致で賛成してくれたのだ。
サイトはなんだか情けない声を出しているが馬から振り落とされないようにと必死に手綱を握っている。
馬による移動では俺達の使い魔、というかキュルケのフレイムとカトレアさんのクーを連れていくことは難しいことと、仮に連れて行ったとして街中でぞろぞろと使い魔をつれて歩くのもどうかという話になり、ゼファーを始めとする使い魔達は学院でお留守番をしてもらっている。
学院を出てから三時間後、ようやく目的地である街に到着した。
この街の名前はトリスタニア、トリステイン王国の首都だ。
トリスタニアのほぼ中心に白い外壁の王城があり、その周りに貴族が住む区画、そのさらに周りに平民が住む区画の3つの区画からなり、王城と貴族の区画の間は城壁、貴族と平民の住む区画の間は川もしくは堀によって仕切られている。
そして俺達は街の出入り口の所に馬を止め、この街一番の大通りであるブルドンネ街にいる。
因みに、今俺達が立っているこの街一番の大通りであるブルドンネ街の大通りをそのまま真っ直ぐ行けば王城の正門に行くことが出来るが今は関係ないので行く必要はないだろう。
そもそも王城の着く前に貴族と平民の区画を分ける川に架かる橋を渡るのにも色々面倒があるしな。
「サイト、初めて馬に乗った感想はどうだい?」
俺がサイトにそう尋ねると、サイトは尻を摩りながら少し恨めしそうに言った。
「・・・尻が痛い。」
「サイト、あんた本当に馬に乗ったことが無かったのね。でも人前でお、お尻を撫でるのとか止めてくれない?恥ずかしいでしょう!」
ルイズやキュルケ達が俺達の方に近づいてきた。
「痛いんだからしょうがないだろ!」
「ルイズ、お尻が痛いのは乗馬初心者には必ずあるものよ。ルイズも初めて馬さんに乗った時はそうだったじゃない。」
「ち、ちぃ姉様!?」
カトレアさんがルイズの過去の話を始めたのでルイズは顔を真っ赤にしてカトレアさんを止めようとした。
「うふふ。まあ、ルイズの話は置いておくとして。サイトさん、お尻が痛いのは馬さんと呼吸が合ってないからですよ。ちゃんとタイミングを合わせて体を上下させればお尻は痛くないのよ。」
カトレアさんがサイトに馬の乗り方を簡単に教えていた。
「はぁ、タイミングですか。来る間もヴァルムロートにそう言われましたけど、なんかこう・・・よく分からないんですよね。」
サイトはそう言うと馬の方を見た。
「それじゃあ、帰ったら練習ね。」
「タイミングは体で覚えるのが一番。」
「・・・はぁ、手間のかかる使い魔ね。」
キュルケとタバサの言葉を聞いて、ルイズもそうするしか無いと思ったようで今後のことを考えたのかやれやれと首を左右に振りながらつぶやいた。
「悪かったな!俺のいた所じゃあ馬はもう移動の手段じゃねえからな。馬に乗るのは趣味でやってるやつか競馬の騎手くらいだぜ。」
「じゃあ、移動の手段は何よ?」
ルイズはサイトの物言いに少しムっとしながら尋ねた。
「ああ。俺はほとんど電車で移動してたな。他にはチャリとか車とか。」
サイトは東京にいたはずだからほとんどの移動が環状線で済むのだろうし、そもそも学生だから車は親が乗るくらいだろうから後はほとんど徒歩かチャリなんだろうな、と俺は思った。
因みに前世の俺の主な移動手段は車だ、社会人だったし住んでるのもそこまで都会じゃなかったからな。
「デンシャって何?」
ルイズが自分のしらない単語に食いついていたが、なんだが話を始めると長くなりそうなのでここはさっさと用事を済ますために俺は武器屋に行くことを提案することにした。
それにこんな所に貴族が集まっているのでさっきから周りの人にジロジロ見られててあまり居心地が良くないしな。
「ルイズ、ここで立ち話するのはあまり良く無いだろうし、その話の続きはさっさと用事を済まして学院に帰ってからでいいだろう。」
「そ、そうですわね。じゃあ、行きましょうか!」
俺が急かすとルイズは先頭を切って歩き出した。
「ねえ、ルイズ。武器屋の場所知ってるの?」
キュルケが尋ねるとルイズは振り返らずに答えた。
「ええ。モンモランシーに聞いたの。あの子自分で秘薬を作っているからよく街に買い物に来るらしいの。それで結構この辺りの地理に詳しいみたいなのよね。」
「へえ、そうなんだ。」
そうやって歩いている間、サイトキョロキョロと周りを見渡してルイズにアレコレ聞いては、大人しくしてなさいと怒られていた。
まあ、サイトにとってはこの世界の初めての街だから、全てが珍しいのもしょうがないだろうし、店先に出ている看板がまるでRPGに出ているようなものなのもサイトがキョロキョロする原因の一つかもしれない。
そのうち、大通りから横道に入り、しばらく進むと銅で出来た剣の看板がぶら下がっている店に着いた。
「ここよ。中に入りましょう。」
ルイズが羽扉を押して中に入り、俺達もその後に続いた。
「ん?」
入ったすぐの所に大きな籠に大量の剣が無造作に入れられていた。
値段を見ると新金貨で100と書かれている。
恐らくこの中にデルフが入っているんだろうなと思いながら俺は店の中を進んだ。
「いらしゃ・・・こ、これは貴族の旦那に若奥様方、一体このような汚い所に何の御用でしょうか?貴族様方の目に止まるような行為は一切してございませんよ!?」
やる気なさそうにカウンターに伏せていた店主と思われる男性は俺達が入ってくるとシャキッと背筋を伸ばして立ち上がった。
「そうじゃないわ。サイト、この私の使い魔に剣を持たせようと思って来たの。」
ルイズは店の中を珍しそうに見ているサイトを指さした。
「そうでしたか!それにしても最近は貴族様の使い魔や使用人に剣を持たせるが流行っているようですね。」
店主は両手をもみ合わせながら商売用の愛嬌を振りまいていた。
「そうなの?」
「ええ。なんでもフーケとかいう盗賊が夜な夜な貴族様の館に忍び込んでは宝物庫を襲っているらしいので、その対応とか何とか。」
ルイズの質問に店主がヘコヘコしながら答えた。
「・・・フーケか。」
フーケがこの街で盗賊行為を行なっているのはアニメ通りだな。
そういえば前学院長室で見たこと無い緑色の髪の女性がいたけど、あの人がフーケことロングビルだったのかな。
本棚を整理してたのか後ろ姿しか見えなかったからよく分かんなかったけど。
「ふ~ん、ただの盗賊にしてやられるなんてトリステインの貴族は防犯意識が低いのね。」
キュルケがそう言うと店主は首を横に振った。
「いえいえ、これがただの盗賊では無いらしいのですよ。何でもフーケとかいう盗賊は“土くれ”という二つ名を名乗るメイジらしいのですよ。」
「あら?そうなの。メイジなのに盗賊にまで身を落とすなんて。そんなことはしたくないわね。」
キュルケはそう言うとカトレアさんやタバサと壁に飾ってある剣を見ながらタバサから剣にまつわる雑学を聞き始めた。
「それでは私は若奥様の使い魔に相応しい剣を選んでまいりますね。」
店主がそう言って後ろを向こうとした所を俺は呼び止めた。
「いや、それは結構です。彼は剣に関してはまだ初心者もいいところなので身の丈に合った剣をこちらで探させて頂きます。丁度、そこに手頃なものがありますからね。」
俺は入口近くの籠に入った投げ売り状態の剣の山を指さした。
「え?いや、しかし、やはり貴族様の使い魔にはそれ相応の相応しい剣をお持ちになられた方がよろしいのでは?」
店主は俺の言ったことにやんわりと反対してきた。
まあ、金づるがいきなり「バーゲン品でいい」と言ったら慌てるのもしかたないだろう。
「お義兄様にこういうことを言うのは申し訳ないのですが、ここは店主の言う通りじゃありませんか?ただでさえ花がないのですから剣位は豪華なものを持たせないと。」
メイジの程度は使い魔を見れば分かると言われているからな、ルイズも少しでもサイトをよく見せたいのだろう。
「いや、剣を扱うのはその使い手に技量に合ったものを使うのが一番なんだ。剣が良すぎてもダメだし、逆に悪くてもダメだ。その点、そこの籠は確かに投げ売り状態で装飾品など一切ついていない無骨なものだが扱う分には問題なさそうだし、剣の初心者のサイトには丁度いいだろう。サイトの剣の腕が上がれば、その時にもっといいのを買ってやればいいだろう。」
俺がそういうとルイズはしぶしぶ了解した。
ルイズには悪いけどサイトにはデルフが一番合ってるんだスマンな、と心の中で謝る。
「え?俺が使う剣なのに俺は蚊帳の外ですか。なあ、俺、あの壁にかかっている金ピカの格好いい剣がいいんだけど。」
サイトは壁にかかっている剣を指さした。
しかしその剣はどう見ても実用性のなさそうなもので恐らく儀式に使われるのが本来の使用目的だと思われた。
「サイト、それは恐らく儀式用の剣だ。恐らく普通に戦闘で使用したら刃の部分が簡単にダメになってしまうものだぞ。それよりこっちに来ていいのを探すぞ!」
俺が剣の入った籠の中でサイトを手招きすると、サイトは残念そうに壁の剣を見ながらこちらにやって来た。
「なあ、本当にこの中に俺に合う剣があるのか?なんか如何にも売れ残り大放出って感じなんだけど・・・。」
サイトは籠を覗き込みながらそう言った。
「オイオイ、本当にオメェが剣を振るのかよ!?自分の体見たことあんのか?そんな細い腕で何を振るんだよ?アレか?棒っきれか!?」
「「「「「え!?」」」」」
いきなり店の中に声が響き、そのことに店主と俺を除いた全員が驚いて顔を見合わせた。
その中で俺は先程声が聞こえた時に同時にカチンカチンと金属が当たる音が籠の中から聞こえたのでこの籠の中にデルフがいることを確信した。
デルフの存在をしらない皆が一斉に店主を見ると、店主は頭を抱えていた。
「え?何今の?」
店主に一番近いルイズが店主に尋ねる。
店主はしまったという後悔の顔をしたが瞬時に営業スマイルの変えて顔を挙げた。
「あはは・・・な、何でしょうね?」
店主はごまかそうとしていたがさらにデルフが声を出した。
「オイオイ、ここにいるのは貴族の娘っ子や小僧ばかりじゃないか?そんな連中に剣なんて無理無理!貴族は杖だけ振ってりゃいいんだよ!」
デルフの声に皆の店主への視線が鋭くなった。
俺はデルフが声を出した時に籠の中を凝視していたので鍔の前の部分がカチカチと動いている一本の剣を見つけることが出来た。
「おいコラ!デル公!折角のお客様になんてこと言うんだ!」
店主はそんなデルフ向けて怒鳴った。
「「「「デル公?」」」」
皆が首を傾げるなか、俺は籠の中からデルフだと思われる一本の剣を取り出す。
その剣は刃渡り120サント位で柄まで合わせると150サント位の大剣に分類されるような剣だ。
鍔の先に特徴的な金具がある剣だが全体的に焦茶色に錆びてしまっていて、正直売り物にするのはどうかと疑うレベルのものだった。
ただ売るために一応刃の部分だけは研いであるようで少しばかり元の金属の色が覗いてはいる。
俺がその剣を持っていると鍔の先の金具が再びカチンカチンと音を立てて動く。
「ん!?へぇ、貴族の小僧にしちゃあ結構体を鍛えてるみてぇだな。」
デルフが声を出すと皆は目を丸くしていた。
「インテリジェンスソード、実物は初めて見た。」
タバサがデルフを見ながらつぶやいた。
「あなたが“デル公”さんですか?」
「違うぜ、貴族の姉ちゃん!オレッチはデルフリンガー様だ!覚えておきな!」
カトレアさんが尋ねるとデルフはそう言い放った。
「でもインテリジェンスソードなんて面白いものを置いているわね。」
キュルケが店主に向ってそう言うと店主は苦笑いをしながら答えた。
「へえ、私も意思を持つ魔剣インテリジェンスソードなんてこれは面白いものが手に入ったと思ったのですが、ご覧のとおりデル公は口が悪すぎて全く売れず。それにかなり昔に作られたのか全体が錆に錆びてますから普通の剣としてもイマイチで・・・」
「おう!オレッチが作られたのは・・・いつだったけか?まあ、いいか。」
「なあ、ヴァルムロート!俺もそれ、持ってみてもいいか?」
サイトが目を輝かせながら俺にそう言った。
「ああ。いいよ。・・・意外と重いから気を付けろよ。」
そう言って俺はサイトにデルフを渡した。
「喋る剣なんてすげえファンタジーだな・・・重っ!」
サイトは両手をデルフの柄を掴み、重さで少しよろめきながらマジマジとデルフを見つめた。
俺はその様子を見ながら喋る剣だったらテイルズにソーディアンっていう剣があったことを思い出していた。
そしてソーディアンは魔法を使うことが出来るようになるものだが、デルフは逆に魔法を吸収することが出来るものだということも併せて思い出す。
魔法を出せるより魔法を吸収する方がメイジを無効化出来るのでこの世界で考えれば、ある意味便利といえるだろう。
なんて考えているとデルフが驚いたように声を挙げた。
「おどれーた!おめぇ“使い手”だったのか!小僧、名前は?」
「俺か?俺の名前は平賀才人って言うんだ。」
「よし!サイト!おめぇオレッチを買え!」
「「え!?」」
デルフの言葉にサイトとルイズの声が重なった。
「ちょっと、私は嫌よ!そんなわけ分からない剣なんて!それに全身錆だらけじゃない!」
ルイズは嫌がっていたがサイトはそれを聞き流しながらデルフを見つめて、そして決心したようにルイズに言った。
「ルイズ、俺この剣、デルフリンガーがいい!これを買ってくれよ!」
ルイズは嫌そうな顔をしながらサイトに尋ねた。
「なんでよ?他にもたくさん剣があるでしょう?」
「だって喋る剣これだけだし!」
サイトとルイズが少しの間見つめ合うと、ルイズがため息をついて目を逸らした。
「店主、あれはおいくら?」
ルイズは振り返って店主にデルフの値段を聞いた。
「ルイズ!」
それを聞いたサイトは喜んだ。
「あれなら籠に書いてある通り新金貨100で結構ですよ。」
それを聞いたルイズは俺に訪ねてきた。
「お義兄様・・・サイトはああ言ってますけどいいのでしょうか?」
ルイズは目で「本当にデルフで良いのか」と訴えていた。
デルフ錆びついてるからそう考えても不思議ではない。
「そうだな。サイトは初心者だろうから初心者でも扱いやすい普通のロングソードも買っておいた方がいいかもな。」
俺がそう言うとデルフが叫んだ。
「おい!娘っ子に小僧!オレッチがいるのに他の剣を買おうとするなんて何事だ!」
「だって、あんた錆びついてるじゃない。」
ルイズがそう言うとデルフは金具をカチンと鳴らしただけで黙り込んだ。
ルイズは普通のロングソードも購入し、支払いは小切手で値段とサインを書いて店主に渡した。
「後、これはデル公の鞘です。うるさかったらこれに入れれば大人しくなりますんで。」
店主はそう言ってルイズにデルフの鞘を渡した。
サイトがルイズからデルフの鞘を受け取るとデルフを鞘に入れて、鞘に付いている紐に頭と右手を通して背中に背負った。
「これからよろしくな!相棒!」
背中に背負われたデルフがカチカチと金具を鳴らしてサイトを相棒と言った。
「相棒か・・・いいな!こっちこそよろしくな!デルフリンガー!・・・は、長いし、デル公って言うのもなんだし、これからお前のことはデルフって呼ぶぜ!改めてよろしくな、デルフ!」
サイトも少し嬉しそうにデルフに返事を返した。
「サイト、これもあんたのだから持っときなさいよ。」
そう言ってルイズはロングソードをサイトに渡した。
「おお。二刀流かよ!格好良いな!」
「おいおい相棒。そんな剣いらねえよ。オレッチがいれば大丈夫さ!」
「まあまあ、あって損はないだろう。」
そう言ってサイトはルイズからロングソードを受け取った。
「そうだ。店主、訓練用の木剣は置いてあるか?」
「も、勿論ございます!」
「それでは大剣タイプと片手剣タイプをそれぞれ二本ずつ貰おか。で、いくらになる?」
「全部で新金貨で90になります。」
それを聞いた俺は小切手を取り出して値段とサインを書いて渡した。
俺が木剣を受け取っているとキュルケが訪ねてきた。
「ねえ、ダーリン。それを買ってどうするの?」
「ああ。サイトと剣の訓練をする為にな。学院じゃあまともに剣の訓練をする相手がいないからな。サイトに相手してもらおうかと思ってね。」
しかしこれは建前で多分サイトは本物の剣を装備しないとガンダールヴの能力を発揮しないだろうから俺の訓練ではなくてサイトの基礎剣術を向上させるための訓練になるだろう。
サイトが強くなってくれれば本当に訓練相手になるはずだ。
それに最初はガンダールヴの発動は自在には出来なかったと記憶しているから、自在に発動できるようになったらその状態で手合せしてみたいものだ。
そして俺達は店から出て、元きた道を戻り、馬に荷物をくくりつけて、また三時間かけて学院に戻った。
馬を小屋に戻したところで俺はサイトに剣の訓練のことを切り出した。
「サイト、明日の朝から剣の訓練をするから相手をしてくれ。」
「え?なんで俺がそんなことしないといけないんだ?」
サイトは突然の申し出に戸惑いながらそう答えた。
「この学院って貴族のメイジばかりで剣術に長けた人がいないんだよね。一応平民の兵士もいるけど学院の守備っていう仕事があるからそういうこと気安く頼めないだろう?その点サイトはルイズの使い魔だし、掃除洗濯以外は暇だから丁度いいと思ったんだ。」
「いや、まあ、確かに掃除や洗濯した後は暇っちゃあ暇だけど・・・」
サイトはそう言うとルイズの方を見た。
「そうね・・・。サイト!お義兄様と訓練をしなさい!」
ルイズは少し考えた後、サイトを指さしてそう言った。
「あんたって本当は剣術をしたことがないんでしょう?」
「ああ、まあな。」
ルイズの質問にサイトはコクリと頭を縦に振った。
「主人を守るのも使い魔の仕事の一つよ。その為の訓練なら喜んで受けなさい!それにお義兄様の剣の腕は魔法衛士隊隊長並の強さってお母様が言ってたから、そのお義兄様と訓練出来ることを光栄に思いなさいよね!」
「へえ、すごいな。・・・因みに魔法衛士隊隊長並ってどれくらいの強さなんだ?」
サイトは少し感心すると小声で横にいたタバサに強さの基準について聞いていた。
「魔法衛士隊がその国のエリート集団。そして隊長はその隊で一番偉い人。」
タバサがサイトに聞こえるくらいの声でそう答えた。
因みに俺がその声を認識出来ているのは風系統の音や空気の振動に敏感という特性があるためだ。
「つまり?」
「その国でもトップクラスの実力。ただし、これは魔法の能力も入れてのことなので一概に剣術がそこまで強い訳では無いけど、それでもやっぱり強い。」
「・・・マジかよ!?」
サイトは驚きの声を上げると、俺を見た。
「なあ、ヴァルムロートはもうかなり強いんだろ?訓練する必要あるのか?」
「サイト、訓練しないと腕は鈍るものなんだよ。今までは素振りとかしていたけど、やはり相手がいた方がいろいろといいからな。」
本当は森の中で『ユビキタス』使って偏在と打ち合ってはいたんだけど、自分と戦うっていうのは悪い意味で分かり過ぎるっていうこともあり、実戦的なことが出来ていないことを俺は問題視している。
「そういうものなのか。」
「サイトもぐちぐち言ってないで“やります”って言いなさいよ!」
サイトが決断しないのでルイズは少し怒り気味だ。
「まあ、俺も訓練するのはいいと思うぜ。なにせ帰るまでこの世界で生き延びないといけないんだからな。でもその前に・・・俺と決闘しろ!ヴァルムロート!」
「え?」
サイトの言葉に俺は間の抜けた声を出し、ルイズ達は驚いて声もでない有様だ。
「あらあら?サイトさんも私の婚約者になりたいのかしら?」
そんな中カトレアさんがいつものようにほんわかとした雰囲気でその空気を破壊した。
「いや、そういう訳じゃ」
「サイト!どういうこと!?」
怒鳴り声を挙げたルイズは顔を真っ赤にして怒っている。
「だから違うって!」
「何が違うの!?」
「俺はただあの力が発動した時に実際俺がどれくらい強いのか知りたかっただけだよ!別にやましいものは無いって!」
サイトがそう言うとルイズの怒りが収まっていった。
「そ、そうなの。だったら初めからそう言いなさいよね!」
ルイズはばつが悪そうに今度は恥ずかしさで顔を赤くした。
カトレアさんは初めからサイトがそう言うと思っていたのかルイズとサイトの一連の行動をニコニコしながら見ていた。
俺としてもその内ガンダールヴの力というのを自分で体験してみたかったから断る理由はなかった。
ただ、ここまで早いとは思わなかったが。
「そうだな。僕もサイトの力がどれほどのものか体験したいからね。・・・じゃあ、早速この木剣を使って模擬戦をしてみようか。」
そう言って俺は片手剣サイズの木剣を持ち、大剣サイズの木剣をサイトの方に『レビテーション』で移動させた。
「あれ?なんかヴァルムロートと木刀の大きさが違うんだけど?」
サイトは大剣サイズの木剣と俺の片手剣サイズの木剣を見比べてそう言った。
「ああ。サイトの剣であるデルフは大剣で僕が普段扱っている剣は片手剣だからね。木剣もそれに合わせてみたんだよ。」
「へぇ、なるほどね。」
俺がそう説明するとサイトは納得したようだった。
それから危ないのでルイズ達には少し離れてもらった。
デルフもサイトの背中から移動して、今はルイズ達の足元に置かれている。
俺とサイトは数メイルの距離でそれぞれ木剣を構えた。
距離的には剣道の初めの距離と同じくらいだろうか。
サイトはやはり素人なので俺からサイトの構えを見ると隙だらけだ。
「・・・あれ?」
構えてすぐにサイトが首を傾げた。
「どうしたの?サイト?もう模擬戦は始まってるのよ?」
ルイズがサイトを注意するが、サイトは首を傾げるばかりかブンブンと木剣を振った。
「どうした?サイト?」
俺もサイトの行動を疑問に思って尋ねた。
「ああ。なんかこの前のギーシュと戦った時みたいな感じがしないんだよ。あの時はなんだか体が羽みたいに軽くなったけど、今はそんな事ないし・・・」
サイトは答えながら木剣を振った。
「ねえ、サイトの左手のルーンが光ってないし木剣じゃあルーンが発動しないんじゃないの?」
キュルケがサイトの左手を指さしながら指摘した。
「あ、本当だ。じゃあ、今はルーンが発動してないからあの体の軽さもないのかな?」
サイトはそういうとルイズ達の足元から声が聞こえた。
「あったりめぇえよ!使い手の力は戦う武器を手にした時に始めて発揮すんだぜ!そんな棒きれじゃあ相棒の力を引き出せないぜ!」
地面に横になっているデルフが金具をカチカチいわせていた。
木剣ではガンダールヴの能力は発揮しないようだ。
まあ、木剣は訓練用で戦闘用の武器じゃないからな・・・当たると痛いけど。
それではガンダールヴの力を見るためにデルフを持ってもらうことにする。
「じゃあ、サイトはデルフを持ってくれ。あ、危ないからせめて逆刃で持ってくれよ。」
俺をそう言うとサイトはデルフを取りに行って、再び元の位置に戻った。
「待たせたな。あれ?ヴァルムロートは木刀のままでいいのか?」
サイトはいまだに俺が木剣を持っていることに疑問を持ったようだ。
「ああ。訓練だからな。これで問題ないだろう。」
「そうか?よし!じゃあ、行くぞ・・・お!?」
サイトがそう言ってデルフを前に構えるとデルフの重さで少し前につんのめり、次にデルフを大きく頭の上に振りかぶると後ろによろけた。
「おい、デルフ。全然ルーンが光らないんだけど?どういうことだ?まさかお前も戦闘用じゃない、とか?」
サイトはデルフを地面に突き立てて、デルフを少しジト目で見ながら尋ねた。
「オイオイ、冗談がきついぜ相棒!どっからどう見てもオレッチは戦闘用の剣だぜ!相棒の力が使えないのはずばり気持ちが足んねえのよ!気持ちが!」
デルフは金具を激しく鳴らしていた。
デルフの声は心なしか怒っているように思えた。
戦闘用じゃないって言われて剣としてのプライドが傷ついたのかもしれない。
それにしてもガンダールヴの力が発動していなかったとはいえ、サイトのさっきの不様な様子をこれからなんとかしていなかないといけないと強く思う。
「サイト、ルーンの能力が発動しないのなら。模擬戦は中止だ。それでいいな。」
俺がそういうとサイトは頷いて再びデルフを構えてた。
「気持ちが足りないって言われてもな・・・こう、か?うぐぐぐ・・・!」
サイトはデルフを構えて気持ちを込めようと力んでいたが何の変化も無かった。
「・・・サイト、模擬戦は中止だな。」
俺の言葉にサイトは少し肩を落とすとデルフを背中に背負った鞘に収めた。
ルイズ達はサイトがガンダールヴの力を発揮出来なかったので面白いものが無くなったと少し残念そうだ。
いや、ルイズはものすごい不機嫌そうな顔をしていた。
「ギーシュの時は出来たんだけどな・・・。あの時はどうやったんだろう?」
サイトが腕を組んで考えているとデルフが口を出した。
「オレッチは相棒が使い手としての力を発揮した所は見てねぇが、まあそのうち自然と力をふるえるようになるだろう。それにはまず相棒自身を鍛えないとな!」
「そうなのか?」
サイトはなぜあの力の発動が気持ちによるものなのに自分自身を鍛えると出来るようになるのかを不思議に思っているようだった。
「おうよ!相棒はまともに戦ったことないだろ?さっきの気持ちの込めようで分かったぜ。だからまずは貴族の小僧と訓練でもして“戦うこと”に慣れないとな!」
俺はサイトに近づて、肩に手を乗せる。
「と、デルフリンガーも言っていることだし、明日の朝から訓練するぞ!」
「わかったぜ!・・・あ、でも洗濯が。」
サイトはルイズの使い魔としての仕事もおろそかに出来ないといった様子だ。
意外と真面目な性格なのか、それとも一度頼まれたことはちゃんとやりたいのか・・・まあ、どちらにしても良いことだな。
「洗濯か、少し早く起きてやればいいだろう。」
俺がそう言うとサイトは少し不安そうな顔をした。
「お前、他人ごとだと思ってるだろ?朝早く目覚ましも無しに起きれるかな?」
「オレッチが起こしてやるよ、相棒!なんせオレッチは眠るってことはしねえからな!」
サイトの後ろから頼もしい声が聞こえた。
「じゃあデルフ頼んだぜ!」
こうして俺とサイトは朝一緒に訓練することとなった。
訓練をやる気になったサイトを見ていたルイズは腕組をしながら呟いていた。
「もうすぐ品評会があるんだからサイトには少しでもマシに・・・せめて剣をちゃんと振れるようになってもらわないと困るわね・・・」
<次回予告>
そろそろ召喚した使い魔の品評会が行われるらしい。
その為にゼファーといろいろ試しているところだ。
そしてこの品評会んは王室の人が見に来るらしいが、まあアンリエッタが来るんだろう。
そういえば、そろそろ来るのか?
第65話『目指せ?トップコーディネーター』
次は7/7頃の更新を目指して頑張ります。