65話 目指せ?トップコーディネーター
ギンッ!
早朝の森の中に不釣り合いな金属音が鳴り響いた。
音の正体は俺の持っている斬艦刀から出たもだが、刀はそれだけでは音を出すことはない。
鳴り響かせた原因はもう一人の俺、偏在の持っている斬艦刀と打ち合わせたからだった。
俺と俺の偏在は『フライ』や『レビテーション』を使いながら木々の間を滑るようにくぐり抜け、互いの斬艦刀を何度も激しく打ち合わせる。
そのうち移動する速さをさらに上げた俺達は薄暗い森の中に2本の赤い線を引いていくのだった。
それからしばらくして稽古を終えた俺達は森の中の小さな泉にやって来た。
そこでは2人目の俺の偏在とゼファーが品評会に向けて特訓をしている。
今は岸から5、6メイル位の場所に偏在が水系統の魔法で出した水の玉に向かってゼファーがひのこを放っているところだった。
どうやゼファーのひのこの性能を確かめているようだ。
偏在と本体はある程度の意識の共有が出来るのだが、それを分かっていても俺は自分の偏在に声をかけた。
それにこの行為はある意味で高度な自問自答——実際に自分の分身が存在するわけなので——であり、間を置いての疑似的な再考察により何か考えに誤りが無いかを確認している作業も兼ねていた。
「どんな感じ?」
「そうだな。命中率はかなりいいけど、やっぱり最初に覚える技だけあって威力は弱いな。ドットランクの『ファイアーボール』より弱い位だよ。そっちは稽古はどうだった?」
「まあまあ、かな。反復練習としては悪くないと思うけど、実践的じゃあないな。」
そう言った俺の言葉に偏在1が「まあ自分だしな」と付け加えた。
「やっぱりそこはサイトとの稽古で何とかするしかないよな。・・・で具台的にはどうするんだ?」
偏在2にそう聞かれた俺は先程の稽古中に偏在1と話し合った——決して刀で語り合ったわけではない——結果を話す。
「分かってると思うけど、サイトは素人だから基本から教えないといけないだろう。ガンダールヴの力が発動すれば持っている武器の扱い方は自然とわかるっていう設定だったと思うけど、自由に発動できるようになるのはまだ先だからね。それまでの辛抱ってことで。」
「そっか。でもガンダールヴの力を自由に発動できるようになっても基本は大事だろ。サイトの基礎力が上がれば、ガンダールヴの力を発動した時の上昇具合も上がるだろうし。」
偏在2の意見を聞いた俺はそれに納得した。
俺はサイトに行う基礎訓練をサイトに剣を持つことや戦うことに関しての心構えを付けさせることを主な目的としていて、ガンダールヴの力が自由に発動するようになったらしなくてもいいと考えていた。
しかしガンダールヴ発動の際の身体能力向上現象がサイトの身体能力を決まった能力値まで上げることではなく、サイトの素の身体能力を何倍にも引き上げるものなら、素のサイトに稽古をつけ続けることに大いに意義がある。
「確かに・・・じゃあ、素のサイトの状態での稽古は続ける予定でいくか。」
こうしてとりあえずのサイトの稽古の方針が決まった、本人の意思とは関係ないところで。
「それじゃあ、こっちの報告もしておくぜ。」
そう言って偏在2はゼファーを呼ぶ。
「品評会に向けてゼファーの稽古をつけているわけだが、今現在のゼファーの能力を分かる範囲で言うよ。」
そう言ってから偏在2の説明が始まった。
因みにゼファーを召喚してからは偏在1が俺の稽古相手、偏在2がゼファーの教育担当という分担になっている。
今現在、ゼファーが使える技はひっかく、なきごえ、ひのこ、えんまくの4つだ。
この内のひのことえんまくは召喚してから訓練していくうちに使えるようになったようで、このことからポケモンバトルでなくともレベルが上がることが分かった。
さらに技を2つ覚えて、進化がまだということからゼファーのレベルが現時点では10位だと推測出来た。
そのことが分かったところでそれぞれの技の能力を偏在2が説明を始める。
ひっかくはたいあたりと並ぶポケモンが最初に覚えている技の一つだ。
召喚したゼファーが木に向かって攻撃を行った場合、その表面に1サント程度のキズを作る程度らしい。
ゲーム内でも威力は低い方なので現時点では傷つける程度の威力が妥当だと俺達は判断した。
なきごえは物理攻撃力を下げる補助技だが、正直これについては効果が表れているか疑問だ。
なぜなら偏在2がなきごえを自身にかけてもらってその前後で斬艦刀による攻撃に差が出るか試したというのだが、その結果は差はほとんど無いというものだったからだ。
もしかしたらなきごえはポケモンという種族だけにだけ効果のある特殊な技なのかもしれない。
ひのこについては先程も言った通りで、威力はドットランクの『ファイアーボール』より弱い程度だが有効射程は5,6メイルであり命中率はかなりいい。
一言で表すと「劣化ファイアーボール」だが炎タイプの初期の技なので妥当なものだと言える。
えんまくは黒い煙を出して視界を悪くする技だ。
効果範囲は約10メイルと思ったより広いが、持続時間は5秒程度と短い。
しかも空気の流れにめっぽう弱く、自然・人口問わず風が吹けばすぐにかき消されてしまうようだ。
「と、まあこんなものだな。」そう言って偏在2は口を閉じた。
「使える技は4つか。これをどう使っていくか、だな。」
俺がそう言った理由は戦闘に関してのことではない。
トリステイン魔法学院において2年生が召喚した使い魔の品評会がもうじき行われることがこの言葉に関係している。
品評会では使い魔自体だけでなく、使い魔が使える技も披露することになっている。
しかし品評会ではただ技をみせればいい、というものではないらしい。
コルベール先生の話では品評会ではいかに使い魔が有能に、そして技が効果的に見えるかを貴族らしく優雅に行うことが求められるようだ。
「それにしても品評会ってまるでポケモンコンテストみたいだよな。」
偏在1がそう呟くのと同時に偏在1の考えが俺にも共有される。
「確かに・・・ポケモン自身と技を優雅に、つまり魅力的に見せるっていうのはポケモンコンテストと同じ考えだな!」
そうしてアニメのポケモンコンテストのように自由な発想でどうすればゼファー自身と技で審査員という観客を魅了できるのかを考えていくこととなった。
「戻って来たけど、サイトはどこに・・・いた。」
俺が森での特訓を終え、飛んで学院に戻ってくるとサイトはちょうど洗濯物を干しているところだった。
サイトの傍らに置かれている籠の中には何も入っていないようだ。
「おはようサイト。洗濯はそれで終わりかな?」
「おう!おはようヴァルムロート。今日も早いな。洗濯は今ちょうど終わったところだ。」
「まあ、洗うのはメイドの娘っ子に手伝ってもらってたけどな。」
サイトの背中からカチャカチャと音を立てながらデルフが言葉を放つ。
「そうか。まあ、手伝ってもらってもいいじゃないか。それじゃあ、早速剣の稽古を始めようか。木の剣は持ってきているかい?」
「ああ。あそこに置いてるからちょっと取ってくるぜ。」
そう言ってサイトは女子寮の脇にある水汲み場の所に向かい、置いてあった大剣の形をした木剣を手に取った。
戻ってきたサイトの顔にはなぜか疑問がありそうな表情をしていた。
「疑問がありそうな顔をしているが、何か聞きたいことがあるのか?」
「ん?ああ。どうしてデルフっていう実物があるのに木刀・・・って言っていいのかわからないけど、この木の剣でやるのかなって思ってさ。最終的にはデルフで戦うことになるんだったら初めからデルフを使った方がいいんじゃないか?」
「確かにデルフを初めから扱えるのならそれに越したことはないが、昨日見た限りでは今のサイトではデルフを満足に振ることすら出来なかっただろう。」
俺がそう言うとサイトは昨日の思い出したのかコクンと頷いた。
サイトから反論が無いようなので俺はとりあえずの今後の予定みたいなものをサイトに告げる。
「だから、まずはその木の剣を使って基本的な大剣の扱い方を学んでもらうことになる。後、それと並行してちゃんとデルフを扱うことが出来るように筋力を鍛えることもしていこう。」
「おう!早いとこ俺っちを扱えるようになってくれよ相棒!じゃねえと錆ついちまうからな!」
「お前はもう錆びついてるだろうが!しかし、まあ、そうだな。じゃあ、ヴァルムロート・・・これからよろしくお願いします!」
腰を90度位曲げるように深々を頭を下げたサイトに俺は「おう!」と返し、剣の稽古を始めた。
まずサイトに自由に木剣を振ってもらうことにした。
サイト自身は木剣を振っているつもりのようだが、案の定木剣に振り回されていた。
それから俺はサイトに浮いていた腰を落とさせて重心が安定する立ち方と腕だけだった振りから片方の腕を伸ばし、もう片方の腕を引くというロングソードなどの長めの剣を扱う方法を教えた。
そのやり方で上段からの振り下ろし、斜め振り下ろし、左右への振りを指導した。
この基本中の基本の振りがまともに扱えるようになるまで1週間位はこの素振りだけを行ってもらうこととなり、さらに今日は最後に行った腕立てや腹筋などの筋肉トレーニングを次からは稽古の前に行ってもらい、全体的な筋力アップを目指すこととなった。
約1時間の稽古を終えたサイトは地面に這いつくばっていた。
「おーい。大丈夫かサイト?」
「だ、大丈夫じゃない。腕とか、もう、動かないぜ。それに、は、腹減った・・・」
ぐるるうううという音と共にサイトは蚊の鳴くような声を出した。
「後もう少しで朝食の時間だからそれまで我慢だな。」
「まだ時間あるのかよ。もう腹減って動けねえよ・・・」
「動けないって、これからルイズを起こしに行かないといけないのだろう?まあ、頑張れ。」
俺がそういうとサイトは「うう・・・」とゾンビのような声を出しながら立ち上がり、ふらふらと女子寮に向かって歩いて行った。
そんなサイトの後ろ姿を見た俺はせめて空腹には何かしら対策が出来ないだろうかと考え、ある場所に寄ってから部屋に戻った。
次の日、自主錬を終えた俺は再びサイトの近くに降り立つ。
「ヴァルムロートおはよう!早速始めるか?・・・って言っても俺がひたすらに素振りするだけだけどな。あ、今日からは筋トレが先か。」
そう言ってサイトは軽く手首や足首をほぐすと腕立て伏せを始めた。
腕立て伏せ、腹筋、スクワットなどを20回ずつこなした頃、厨房裏の小屋から人影が小走りでこちらに近づいて来た。
「お、遅くなってしまって申し訳ありません。」
俺達のそばまでやって来た人物は開口一番で申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「あれ?どうかしたのかシエスタ?何か忘れ物、って訳でもなさそうだよな?」
サイトはシエスタの登場に首を傾げていた。
不思議がっているサイトの質問にシエスタ本人ではなく俺が答える。
「彼女を呼んだのは僕だよ。ちょっとサイトの為に用意してもらったモノがあるんだ。」
「俺の為?」
俺が目配せするとシエスタは抱えていたバスケットを開けた。
「昨日ミスタ・ツェルプストーにサイトさんが稽古前に食べられる軽食を用意出来ないかと頼まれたんです。そこで簡単なサンドイッチを作ろうと思ったのですが・・・」
俺とサイトが開かれたバスケットを覗き込むと、そこには「簡単」とは言えないような多種なサンドイッチが並んでいた。
「これはすごいな。貴族の食事に出てきても不思議じゃないな。これを作っていたから少し来るのが遅れたのかな?」
俺が覗き込んだまま素直な感想を漏らすと、シエスタは「あはは・・・」と苦笑いしながら答えた。
「この軽食を食べるのがサイトさんだと知ったコック長がちょっと張り切っちゃいまして・・・」
「まあ、いいじゃんかヴァルムロート!まだ稽古は始まったばっかなんだしさ!」
「いや、別に怒ってるわけじゃない。シエスタも誤解させたようなら悪かった。明日からもよろしく頼む。コック長にもそう伝えておいてくれ。」
「は、はい!分かりました。」
俺とシエスタのやり取りを見届けたサイトは待ってましたと言わんばかりに「いっただきまーす!」と手を合わせて猛烈な勢いでサンドイッチを頬張り始めた。
そして量自体はそんなに多いものではなかったとはいえ、ものの2分足らずでサンドイッチを平らげてしまった。
最後に水筒で用意してくれた水を一気に飲み干し、パンっと食べ始めと同じように手を合わせ「ご馳走様!」と軽く頭を下げた。
「良い喰いっぷりだな相棒!」
「すげー美味かったからな!ありがとなシエスタ。」
サイトは立ち上がって空になったバスケットと水筒をシエスタに返した。
「いえいえ、サンドイッチ自体を用意してくれたのはコック長ですから。それにしてもすごい食べっぷりでしたね。もっと量を多くした方がいいのでしょうか?」
「いや、食べ過ぎても今からの稽古に影響が出るだろうから量はこれぐらいでちょうどいい。それにまた朝食も出るだろうし。」
「分かりました、コック長にもそのように伝えておきますね。それではサイトさん、稽古頑張って下さい。」
そう言ってシエスタは厨房の方へと戻っていった。
腹も膨れたサイトはやる気十分といった様子で木剣を手に取り、素振りを始める。
俺はというと、その間ゼファーと戯れながら「腰が高い!もっと腰を落とせ!剣に振られてるぞ!」「腕だけで振るな!剣筋がブレてるぞ!」など姿勢が崩れる度に逐一注意していった。
そうして1週間経ち、ロングソードの基本的な型を教えてからさらに1週間経った。
そして今日、晴れ渡る空の下、広場に設営されたステージで品評会が行われる。
俺達が今いるのはステージ裏、ではなく学園の正門からの道を挟むように並んでいた。
なぜ並んでいるかというと、品評会を見に来る貴族や王族を出迎える為だ。
ちなみにその王族というのはやはりアンリエッタのようで、品評会が開催される数日前に急遽来ることが決まったようでコルベール先生が授業前に慌てて俺達に「粗相がないように一層励むように」と言っていたのだった。
「グリフォン隊だ!」という誰かの声に正門の方を見ると、その向こう側にグリフォンに乗ったメイジとグリフォン隊に周りを守られている豪華な馬車が確認出来た。
グリフォン隊とはトリステイン王国にある3つの魔法衛士隊の1つだ。
特徴としてはグリフォンに騎乗しているが隊全員の使い魔がグリフォンというわけではない。
他の2つはヒポグリフ隊とマンティコア隊があり、しかもマンティコア隊は昔烈風カリンことお義母さんが隊長を務めていた。
因みに王国軍もちゃんとあり、魔法衛士隊というのはその王国軍の中で優秀なメイジが選ばれる、要はエリート部隊ということだ。
宇宙世紀のガンダムで例えるならば、王国軍は連邦軍、魔法衛士隊はティターンズ、という訳だ。
しばらくするとその一団が正門を潜った。
何人かグリフォンに乗った衛士が通り過ぎた時、誰かが発した声が僅かに俺の耳に届いた。
「あれが子爵でありながらその才能を認められ、若くしてグリフォン隊隊長になったミスタ・ワルドかー。僕もあんな風になれるだろうか・・・」
どうやら少し前に俺の前を通った羽帽子を付けて、髭を生やしていた20代後半から30代前半位の人物がワルドで間違いないようだ。
さりげなく、前を通過する時にこちらを見ていたが恐らく隣にいたルイズを見ていたのだろう。
口約束とはいえルイズの婚約者だったことはお義父さんとお義母さんから聞いてはいた。
ルイズ自身はワルドの名前は言わなかったが、ワルドとわかった時に漏らした声には憧れや懐かしさが含まれていたように思える。
そんな事を考えていると王族を乗せた馬車が目の前を通過した。
その時に馬車の窓からは白いドレスを着た紫色の髪の同じ歳位の女の子・・・いや、美少女が両脇にいる生徒達に向かって手を振っていた。
彼女がトリステイン王国の姫であるアンリエッタだと確認するまでもなく周りの反応からそれは明らかだった。
「姫様。最近お姿を拝見することが出来なかったけど、お元気そうで良かった。」
アンリエッタ姫の姿を見たルイズがほっとした様子でぽつりとつぶやいていた。
というのもこの国の王が死去して以来、姫はずっと母親である王女と共に喪に服していたようで親友ともいえるルイズの誕生会にも参加しなくなっていたのだ。
手紙による交流は続いていたようだが直接会える機会がなく、これまでルイズはずいぶんと心配していた。
ついでにワルドの方も親が死んでからはすぐに王国軍に入り、そこで頭角を現してグリフォン隊隊長という地位に着いた現在に至るまでヴァリエール家どころか、まともに自分の領地にも帰っていないと聞いているし、その為に口約束程度だったルイズとの婚約も自然消滅しているようだ。
そういう訳で俺自身はルイズとの関係の深いのこ両者を実際に目にするのは今回が初めてだった。
そんなルイズの安堵の声が聞こえたわけではないだろうが左右に手を振っていたアンリエッタ姫がルイズに気が付くと先程までの作り笑顔とは別の笑顔を覗かせていた。
そしてアンリエッタ一団の後に品評会を見に来た貴族の馬車も続いて俺達の前を通過した。
アンリエッタや貴族には品評会のステージが良く見える特等席が用意されており、各々がその場所に着いたことでようやく準備が整った。
学院長とやって来た貴族の妙に長いどうでもいい挨拶が終り、品評会本番が始まった。
公平を規すということで名前順に一人ずつ、自分の使い魔を魅力的に見せる為にこの数週間練習したことを披露していく。
俺の良く知る人で一番早かったのはカトレアさんだ。
カトレアさんの使い魔であるクーは竜種、それも絶対数の一番少ない海竜ということもあり、来賓の最初の反応はかなりいいものだった。
しかしクーは海竜といえまだ赤ん坊と思われるので出来ることがほとんどなく、ただカトレアさんとクーが仲良く遊んだだけでステージを降りて行った。
カトレアさんがクーと遊んでいる間、クーよりもカトレアさん本人の方が注目されていた。
品評会という発表の場だというのに無邪気に遊んでいるように見えるカトレアさんは多くの——主に男性の——視線を虜にし、そして同時に察するまでもなくいくつかの殺気が俺の方に向けられた。
次に来たのはギーシュだった。
ギーシュは召喚したジャイアントモールに“ヴェルダンデ”という名前を付けたようで召喚時はあんなに嫌がっていたように見えたのに、この数週間品評会に向けて真剣に向き合ったおかげなのかすっかり自分の使い魔にメロメロになっていた。
肝心の発表の場でさえ、主にギーシュがヴェルダンデのいいところをひたすらに話し、聞いているこっちがうんざりするころにようやくギーシュの口が止まった。
そんなギーシュがステージを降りる際、自分の使い魔のいいところを伝えたという満足げな表情の中にまだ言い足りないといった雰囲気が見え隠れしていた。
その何人かの後キュルケがステージに上がった。
キュルケはフレイムの紹介と自慢、そして口から炎を出させて「サラマンダーという種の中でも別格である」という風に演出していた。
これまでもその様に演出していた生徒もいたが、カトレアさんの海竜のクーを除けばこれまでで一番強力な種族の使い魔だったのでその演出の効果は来賓に好感触を持たせたようだった。
因みにカトレアさんとは別の意味でキュルケ自身にも視線が注がれており、それを分かっている風なキュルケは胸元や太ももを少し強調するような仕草を行っていた。
ただ、その仕草を行う毎に俺の方に視線をキュルケが送っていたので反応に困った。
キュルケのすぐ次に来たのがルイズだった。
ルイズはアンリエッタが見ている為かかなり緊張しているようだし、連れられてステージに昇ったサイトも大勢の視線が自身に集まっていることに戸惑っていた。
ルイズはやはり幻獣などではなく平民を召喚したという負い目からは自信なさげにサイトを紹介する。
そんなルイズを鼓舞するように俺に教わった型をデルフで披露するも、所詮は初めてから数週間の剣術で見世物レベルまで昇華しているわけもなく、しかもまだデルフの重さに慣れていないこともあった為、貴族や見ている生徒から失笑を買っていた。
結局はアニメ同様にルイズとサイトそしてデルフの2人と一振りのど突き漫才のようなものとなり、そのことでより一層に笑いを誘ったことを悟ったルイズはすぐに一礼するとサイトを一目散にステージを降りて行き、そのまま見物席には戻ってこなかった。
そしてアニメで見たことのあるマリコルヌやモンモランシーなどの発表の後にタバサがステージに上がった。
ステージの中央までトコトコと1人で歩いているタバサの様子に来賓の方々に僅かな動揺が走るが、タバサが杖を掲げると日の光を遮るものがないはずのステージでタバサに影が差す。
何事かと観客が空を見上げると上空から大きな影がゆっくりとステージへと降り立つところだった。
タバサの使い魔である風竜——本当は風韻竜だが今はまだタバサ以外はその正体に気が付いていないはずだ——シルフィードがタバサの横に並ぶと見ている生徒や来賓の貴族から歓声が上がった。
タバサはそんな様子を気にもせずに名前だけの簡単な紹介を行い、シルフィードにブレスをさせると威力はそれほどではなかったが再び歓声が上がる。
タバサは「これでやることは全てやった」とばかりに一礼するとステージを降りていき、シルフィードもタバサの後についてステージ裏へと飛んで行った。
タバサの後に使い魔を発表する生徒は少し物怖じしていたがそれでも自慢の使い魔をアピールを負けじと行っていた。
「タバサの後とか分が悪すぎだろ・・・」
俺もそんな生徒の1人になってしまったことに公平を規した名前順というものを少し恨んだ。
前の生徒のアピールが終り、自分の番がやってきた。
「よしっ!いくぞゼファー!打倒シルフィード!」
それは半分自分に言い聞かせるように言った言葉だったがゼファーもそれを感じたのかいつも以上に元気な返事を返してくれる。
俺は緊張を解すように息を整えてからステージにゆっくりと上がる。
ゼファーも俺の横を背筋を伸ばした姿勢のいい歩き方で階段を上がり、ステージを進んだ。
「私、ヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。こちらのちょっと変わったサラマンダーは私の使い魔で名をゼファーと言います。今日はよろしくお願い致します。」
そう言って軽く会釈するとゼファーも同じように頭を下げた。
顔を上げた俺はゼファーと目配せをし、俺はゼファーをステージの中央に残したままこれから行うことの邪魔にならないようにステージの脇へと移動する。
ステージの端まで移動した俺は改めて会場の方を向いた。
「それではまず初めにゼファーの身体能力をご覧頂きます。ゼファー『ひっかく』!」
俺がそう命令するとゼファーはステージの上で軽快なステップを踏みながら『ひっかく』を繰り出していった。
左右だけでなく前後の動きや時にジャンプを織り交ぜているその動きは一種の踊り、演武になっていた。
品評会が決まってから2週間あまりこの演武の動きに大半の時間を割り当てたといっても過言ではなく、その甲斐あってか観客の反応は悪くないように見えた。
短い演武なのですぐに終盤に差し掛かる。
俺はあらかじめ用意していた数本の木の棒を取り出す。
品評会では使い魔の能力を良く見せ、なおかつ過度に演出しすぎない場合に限り、ある程度の道具の使用が許可させているのだ。
サイトが剣の素振りの為にデルフを使用したのもこれにあたり、他にはジャンプ力が自慢の使い魔に為に輪っかを用意するなど使い魔によって使う道具はさまざまだ。
俺はその使用出来る道具になんの変哲もない木の棒を選んでいた。
「ゼファー!」
その木の棒を演武を行っているゼファーに向かって投げた。
投げられた木の棒が弧を描いて丁度ゼファーの真上付近へと差し掛かった時、ゼファーは演武の流れのまま飛び上がり全ての木の棒をひっかいた。
着地したゼファーに僅かに遅れて真ん中から半分に切られた木の棒がカランカランとゼファーの周りに降り注ぐとシルフィードの時と同じくらいの歓声が上がった。
思った以上の好感触に俺は驚きながらステージの中央へと戻ってゼファーの隣に立ち、次へと進めた。
「次はゼファーの持っている技をご覧頂きます。ゼファー、まずは上に向かって『えんまく』だ。練習通り、薄いやつだぞ。」
ゼファーはコクンと小さく頷くと空に向かって薄い『えんまく』を口から出した。
この『えんまく』がどれくらい薄いかというと、通常の『えんまく』ではその向こう側を見ることは出来ないがこの薄い『えんまく』はうっすらと向こう側が透けてみる位薄いものになっている。
品評会に向けていろいろ練習してく中で『えんまく』に濃淡が付けることが出来ると分かったのは偶然で、たまたま通常の『えんまく』を行う時の失敗としてこの薄い『えんまく』が出来たのだ。
それから練習をすることで任意で薄い『えんまく』を出せるようになっていった。
観客の上空が薄い『えんまく』で覆われ、会場を薄暗くした。
会場から小さくどよめきが聞こえたが、『えんまく』の滞在時間は長くないので俺はすぐに次の指示を出す。
「ゼファー、『えんまく』に向かって『ひのこ』。」
「カゲッ!!」とゼファーが今日一番のやる気を見せるような返事をして大きく息を吸い込むと、一旦口を閉じ、そして口を開くと無数を小さな火の玉がその口から飛び出した。
上空の『えんまく』に向かって放たれた無数の『ひのこ』は『えんまく』を通り過ぎて行く。
それもそのはず、『えんまく』は色の付いた空気みたいなものなので『ひのこ』には意味がない。
しかし『えんまく』は空気の流れにめっぽう弱いので『ひのこ』が通り過ぎた場所の『えんまく』が払われる。
『ひのこ』が通り過ぎていった後、上空を覆っていた『えんまく』にいくつもの穴が開き、そこから差し込む光で白と黒のまだら模様を作った。
その光と影のまだら模様も再びゼファーが放った『ひのこ』で消え去った。
『えんまく』が消えるまで空を見上げていた観客から感心するような声があちこちで聞こえた。
「これで終わります。ありがとうございました。」
一礼して俺とゼファーはステージから降りた。
俺の後にもう1人アピールを行うことで今年新しい使い魔を召喚した全ての生徒が発表を行ったこととなった。
全員の発表が終り、閉会の挨拶やなにやら表彰があるらしいので品評会で使い魔をみせた生徒はステージの前に席に座ることとなった。
参加した生徒は過分なく全員席に着けるはずだが一つ席が空いていた。
座っていない生徒はルイズだ。
ルイズは発表の後、観戦席にも戻ってきておらず、ステージ裏にもいなかった。
キュルケの「大方、品評会の出来が散々だったから恥ずかしくて顔見せ出来ないのね。まったくしょうがない子ね。」と言っていたが、大当たりである。
今頃、このステージとは本塔から見て反対側の誰もいない広場でサイトに怒りをぶつけているのだろう。
ガンダールヴの力も発揮できない状態でたった2週間程度ではどう頑張ってもあれが限度だったと俺は思うのでサイトがルイズに理不尽な怒りをぶつけられているのは可哀そうだと思う。
しかし、その一方で久しぶりに会えたアンリエッタやワルドの前であんな失態をさらしてしまったルイズのどうしようもない感情がサイトに向いてしまうのも理解出来る。
本当は品評会で俺の出番まで時間があったのでフォローしにいくことも出来たのだが、このことが後のフーケによる破壊の杖強奪とその奪還に繋がるのであえてそのままにしておいた。
来賓のアンリエッタや他の貴族が話し合い——主に貴族が意見していたようだが——、今年の最優秀使い魔が表彰される。
その為にアンリエッタがステージに上がる。
「今日は皆さんの使い魔を拝見することが出来、とても有意義に過ぎすことが出来ました。どれも素敵な使い魔でしたがその中でも特に優秀だと思われる使い魔に対し賞を与えたいと思います。」
学院長が一つ咳払いをしてからアンリエッタに変わり、最優秀使い魔がどういうものが簡単に説明を行った。
最優秀使い魔は種族的希少度、使い魔自身の強さ、そして技の見せ方の3項目の印象によって選ばれるようだ。
「今回は今説明された3項目でそれぞれ異なる使い魔の名前が上がっていました。これはとてもめずらしいことのようで皆とても感心していました。ですが最優秀使い魔は1体だけという決まりなので話し合いの末、1体の使い魔に決めされて頂きました。」
思いがけないアンリエッタのこの言葉に生徒からどよめきが起こる。
ステージ上のアンリエッタが学院長から最優秀使い魔を所持した生徒に対する賞状を受け取る。
「では、発表します。今年の最優秀使い魔は・・・」
品評会に参加した生徒全員が「もしかしたら呼ばれるのは自分の使い魔の名前かもしれない!」と期待と緊張でごくりと息を呑んだ。
「シルフィード、です。」
シルフィードの名前がアンリエッタから発せられた時、周りから「やっぱりか・・・」という声が聞こえた。
俺自身もアンリエッタの言葉に僅かに期待を抱いてしまったのでアニメの展開を知ってはいたがそれでも少し落胆してしまう。
当のタバサ本人は特に喜びを示すわけでもなく無表情のまま、その結果を受け入れていた。
「ではミス・タバサ、こちらにどうぞ。」
そう言われたタバサはステージに上がり、隣にシルフィードを呼んでいつもと変わらない顔で賞状と金一封を受け取った。
タバサがステージから降りようとした時、学院の裏手がらドンッ!という爆発音が聞こえ、辺りが騒然となる。
生徒は椅子から立ち上がって音源を探すように不安そうに周りを見渡し、ワルド率いるグリフォン隊の衛士はアンリエッタの周りを囲い、周囲を警戒しながらアンリエッタとついでに学院長をステージから降ろしていた。
ただ動揺するだけの生徒や先生と違い、訓練を積んでいる衛士隊の動きは素早いものだったが、その衛士隊よりも早く行動していたのはタバサだった。
タバサはすぐにシルフィードにまたがると空へと飛びあがり、学園の状況を把握しようと試みていた。
「ステージから丁度反対側の本塔のところにゴーレム・・・しかも大きい。30メイル位はある。」
空の上にいるタバサから声が聞こえた。
その声は大きいものだったが張り上げている声ではなく、通常の声のトーンだったのでおそらく風系統の魔法で声を拡張しているのだろう。
「ゴーレム、土のメイジか。土と水のメイジは迎撃に迎え、残りは私と共に殿下の護衛だ。」
タバサの声を聞いたワルドが隊員に素早く指示を飛ばす。
その指示を受けた隊員の内半数がゴーレム迎撃に向かい、その後に学院の警備隊が続いた。
その直後再びタバサの声が響く。
「ゴーレムの肩の所に人がいるけどフードで顔は見えない。あ、こっちに気が付いた・・・攻撃が、来る。」
その言葉のすぐ後にゴーレムの迎撃に向かった衛士隊隊員や学院警備兵の眼前の地面が爆ぜる。
慌てて足を止める衛士隊隊員と学院警備兵の前には直径が50サントにもなる大きな岩が地面をえぐるようにして突き刺さっていた。
続けざまにゴーレムから岩の攻撃が放たれ、衛士隊隊員と学院警備隊はじりじりと後退させられる。
そして迎撃に向かったはずの衛士隊隊員と学院警備隊が俺達のすぐ近くまで戻らされた時、本塔の影から巨大なゴーレムが姿を現した。
そのゴーレムがぐるんと腕を大きく振る。
するとその腕の先が分離していくつもの大きな岩の塊となり俺達の方へと迫る。
先程の衛士隊員や学院警備隊を後退させたのはこの攻撃だったのかと思いながら俺は杖を取り出し『I・フィールド』のスペルを唱えながらキュルケ達の前に出る。
俺のところにも1メイルくらいの岩が2、3個飛んできたが『I・フィールド』でなんとか受け流すことが出来た。
俺や俺の後ろにいたキュルケ達や他の生徒は無事だったが自分で『エア・シールド』や『ウォーター・シールド』を展開した人は岩がぶつかった衝撃に耐えられず、直撃ではないにしろ何かしらの怪我を負っていた。
シールド系の魔法を展開出来ない、もしくは混乱して展開する余裕がなかった人は足を潰されたり、岩が地面に落ちた時の衝撃で飛ばされたりしていたが、ぱっと見では死人は出ていないようだった。
実戦経験のない生徒や先生は悲惨の一言だったが、それは衛士隊にもいえたことで唯一の例外はスクウェアであるワルドだけだった。
「全員後退!ゴーレムの攻撃範囲から離れろ!」
そのワルドが隊員だけでなくここにいる全員に向かって叫ぶ。
ワルドは『エア・シールド』を展開したまま、アンリエッタの盾になるようにしてゴーレムから距離をとっていく。
すぐに運よく岩が当たらなかった隊員が動けなくなっている隊員や生徒を『レビテーション』を使って移動させようとする。
動ける生徒や先生は悲鳴を上げながら一目散にゴーレムから離れようとした。
品評会で集まっていた使い魔達は怯えるモノ、威嚇するモノ、うろうろと困惑しているモノなど様々だったが誰もが召喚主のすぐそばにいた。
「タバサ、あなたも早く逃げなさい!」
周りがゴーレムから逃げ出している中でキュルケが上空のタバサに向かって叫んでいた。
キュルケの言葉を聞いたのかタバサは俺達が後進するのに合わせて徐々にゴーレムから距離を取ってく。
当のゴーレム自身も俺達から遠ざかっていた。
遠ざかった、というよりも学院から出る為に外壁に向かったという方が正しい。
そしてゴーレムが外壁に到達するのはすぐだった。
ゴーレムは残った腕で外壁を破壊し、壁の一部をもぎ取るとその破片をなぜかワルドとアンリエッタ、そして俺達が逃げている所に投げつけてきた。
投げられた外壁の破片は10メイルにもなろうかという大きさだ。
「げ、迎撃っ!」
これまでになく焦った様子でワルドは周りの隊員に指示を出す。
動けない人を『レビテーション』で運んでいた隊員も投げられた破片の大きさを見て慌てて『レビテーション』を解いて『ファイアー・ボール』や『ウインド』を放つ。
「キュルケ!みんなを姫様の方に!」
俺は後ろにいるキュルケに向かってそう叫ぶと返事も待たずに『I・フィールド』を解いて『フライ』で破片に向かって飛びながらさらにスペルを唱える。
投げられた破片は放物線を描きながら、放たれたドットスペルの魔法をものともせずにこちらに落ちてくる。
ワルドと岩の間に俺は割り込んだ。
「何をっ!?」
割り込んできた俺の姿を無謀だと思っているだろうワルドの声とアンリエッタの悲鳴が聞こえたが、そんなのお構いなしに俺は『フランベルグ改』を発動させると杖の先に10メイルほどの炎の剣が現れた。
迫る破片に向かって俺はその炎の剣を縦に振る。
破片は俺を通り過ぎ、ワルドとアンリエッタの両脇に落ちていった。
地面に落ちた両断された破片はそれぞれドスンドスンと音をたてて転がり、やがて正門付近の外壁にぶつかって止まったようだ。
そういえば、と俺は落ちたときの衝撃は大丈夫だったかなと思い後ろを見ると、キュルケとカトレアさんが両脇に向かってそれぞれIFGを掲げて『I・フィールド』を発動させていた。
俺はワルドとアンリエッタの前に降りる。
「アンリエッタ姫、ワルド子爵殿お怪我はございませんでしょうか?」
「は、はい。ありません。」
「・・・あ、ああ。」
俺の言葉にアンリエッタは戸惑いながら答え、ワルドの方は何か信じられないものを見たという表情を俺に向けていた。
俺は「それは良かった」と言葉を返し、アンリエッタの後ろにいるキュルケ達の方へ向かう。
「皆怪我は無いみたいだね。それにしてもキュルケとカトレアさんがIGF使ってくれていたのには助かったよ。ありがとう。」
「ふふ。ダーリンがあそこで無茶をするとしたらああするんじゃないかと思ってね。でも、カトレアさんがIGFを出したのは私とほぼ同時だったわよね。どうしてわかったの?」
「私はキュルケさんほどヴァルムロートさんとの付き合いは長くないですが、キュルケさんから聞いたこれまでのお話やお母様との稽古を見ていればおおよその予想が出来ましたので。」
これが女の勘ってやつか、と思っていると上空にいるタバサから声がかかる。
「ゴーレムが逃げるけど、どうする?追いかける?」
その声で先程までゴーレムのいた方を見るとその後ろ姿が壊した外壁からちらりと見える程度になっていた。
タバサの問いに答えたのはワルドだった。
「いや、深追いは止めておいた方がいいだろう。いくら君の使い魔が風竜で素早く動けるからといって一人であのゴーレムを追跡するのは危険だ。」
続け様にワルドはタバサにゴーレムの初撃を伝えてくれたことで無用な被害を出さずに済んだとお礼を述べていた。
タバサはそれを黙って聞き、自分に出来ることが終わったと考えたのか俺達の傍に降りてきた。
危機が去ったところで方々へ逃げていた隊員達や生徒と先生が正門前へと集まってくる。
その中にルイズとサイトがおり、こちらの姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「ルイズ!サイト!大丈夫だったか?」
「お義兄様達こそ大丈夫そうでよかったです!」
「ああ。結構危なかったけどな。ルイズが逃げようとしなかったから抱えて逃げてきたよ。」
サイトは疲れたように肩をがっくりと落とした。
近くにアンリエッタを見つけたルイズは前まで行き、片膝をついて頭を垂れた。
「姫様もお怪我などなさそうでなによりです。」
「面を上げて下さいルイズ。怪我をしなかったのは貴方のお義兄様のおかげです。ルイズの方も怪我がなさそうでよかった。」
アンリエッタの言葉にしばし感動していたルイズだったがすぐに真剣な表情をした。
「姫様、そして学院長にご報告がございます。」
ルイズは先程のゴーレムが今巷を賑わせている怪盗フーケのものであり、タバサが見たゴーレムの肩に乗っていた人物がフーケであったことを話した。
そしてその怪盗フーケが外側から宝物庫の壁を壊し、中にあった“破壊の杖”なるものを取っていったことを伝えた。
すぐさまその真偽が確認され、ルイズの言っていることに間違いがないことが証明された。
“破壊の杖”が盗まれた。
このことはアンリエッタと学院長に大きな衝撃を与えた。
なぜなら“破壊の杖”は国宝であり、学院長に縁があったので特別に学院で保管していたものだったからだ。
そして“破壊”という名前が付く通り、それは強大な破壊力をもつ“場違いな工芸品”でもあった。
アンリエッタはこの事にどう対処するべきかを早急に検討する為に城へと戻っていった。
学院は怪我をした人の治療や宝物庫や外壁の応急処置に追われ、生徒は自室での待機することになった。
寮に戻る時に見たルイズの顔は何かを決意しているように思えた。
自室に戻ってきた俺はベットに寝転がる。
「うーん。なんかゴーレムが妙に強かったように思えるけど、あんなんだったけ?明日・・・大丈夫、だよな?」
俺の言葉にゼファーが不思議そうに首を傾げていた。
<次回予告>
思った通り、破壊の杖奪還作戦に志願するルイズ。
水先案内人はやはりロングビルだ。
ゴーレムは厄介そうなので原作を知っているという利点を生かして、少々先手を打たせてもらおうかな。
第66話『奪還作戦』
次は8/1頃の更新を目指して頑張ります。