66話 奪還作戦(前)
巨大ゴーレムの襲撃、そして破壊の杖がフーケに盗まれてから一晩経った。
魔法学院は破壊された本塔や外壁の修理で今日一日臨時の休講となっていた。
昨日怪我をした生徒も回復魔法のおかげて普段通りの日常を送れており、朝食の合間の生徒の話題はもっぱら昨日の出来事とその行方に関することだった。
中でも盗まれた破壊の杖に関してはアンリエッタが城に戻ったことで「国として威信をかけた奪還作戦が近々行われるのだろう」と、昨日学院が襲われたのにすでに終わったことのように、それこそ他人事のように噂していた。
噂している生徒の誰もが「たかが盗賊メイジ1人、国に任せておけば大丈夫だろう」という意見を持っていた。
しかし、盗まれた国宝を保管していた魔法学院としてはそれを黙って見ているだけでは終われないようだ。
朝食を終えた俺達の所にコルベール先生がやって来て俺達を学院長室へと連れて行った。
まあ、俺達と言ってもコルベール先生が呼びに来たのはルイズとサイト、タバサそして俺だったのだが、キュルケやカトレアさんが付いてくるのは拒まなかったので一緒に学院長室へと向かった。
学院長室に行く前に宝物庫に差し掛かるとその扉は開いており、開いた扉の前には監視役の先生が立っていた。
前を通るときに横目で中を見ると、土メイジの先生たちが『錬金』で壊された壁の修復を行っていた。
学院長室に着くとコルベール先生が扉をノックする。
「学院長。ミス・ルイズとその使い魔、ミス・タバサ、ミスタ・ツェルプストーとその他2名を連れて来ました。」
「ほ、他2名?まあよいじゃろう。中に入りたまえ。」
中から多少動揺した声が聞こえたが、入室の許可が出たのでコルベール先生が扉を開けて俺達に中に入る様にと促す。
俺達が「失礼します。」と部屋の中に入ると中には学院長だけでなく、ギトー先生やシュヴルーズ先生など学院でも比較的メイジのランクの高い教師が数人部屋に中に立っていた。
「ふむ。他2名というのはミス・ヴァリエールとミス・グナイゼナウじゃったか。まあ、2人とも関係者ともいえるからいいじゃろう。」
学院長はそういうとルイズに再度昨日の一部始終を他の先生達に改めて説明するように言い、ルイズは昨日アンリエッタや学院長に言ったことと同じ内容を周りの先生に向かって説明した。
次に学院長はなぜかタバサと俺にゴーレムそれ自体の強さとその戦い方、そしてそれを操るフーケのメイジとしての強さについて聞いてくる。
しかし、そんなことを聞かれても俺もタバサもフーケもフーケが操るゴーレムも実物を見るのは初めてで、しかもあの短時間の接触しかないので返事に詰まっていると学院長が一言こう切り出した。
「言い方を変えようかのう。・・・君たちはあのゴーレムとそれを操るフーケを倒せるかね?」
学院長のこの言葉に部屋がざわついた。
驚く俺達を見て学院長は言葉を続ける。
「まあ、驚くのは無理もないじゃろう。実は破壊の杖を取り戻す為に学院からも何名か捜索隊に出てもらうと考えておるところでの、遅からず国軍が出るじゃろうが破壊の杖を奪われたのはこのトリステイン魔法学院なのだからわしらの手を取り戻したいと考えておる。フーケの手から破壊の杖を取り戻すということはフーケと戦うことになり、必然的にあの巨大なゴーレムと戦うことになるじゃろう。じゃから今一度ミスタ・ツェルプストーとミス・タバサにこう尋ねたい。“あのゴーレムを倒すことが出来るのか”と。」
学院長が俺とタバサを呼んだ理由だったようだ。
学院の全校生徒どころか教師を含めた中でも俺とタバサの戦闘能力が抜きんでていると学院長は考えているのだろう。
コルベール先生は確か昔は暗部にいた経歴があるのでタバサ並の強さはあると思うのだけど、学院長がどう思っているのかは俺には分からないな。
それにしても捜索隊を作ると言っているが俺達にそれを強制していない様子をみると、仮に「ゴーレムは倒せる、しかし捜索隊には参加しない」と俺達が言ったとしても俺達の発言から何かしらゴーレムの対策を立てることが出来ると考えているのかもしれない。
この言葉に一番初めに反応したのはギトー先生だった。
「が、学院長!?いくらミスタ・ツェルプストーがスクウェアとはいえ火の系統のメイジ。人相手では昼休みなどに行っている決闘ごっこで自身の強さをひけらかしているようですが、あのような巨大なゴーレムに勝てるでしょうか?ミス・タバサの方は風系統ではありますがランクはトライアングルであり到底無理だと思われます。やはり、ここは風のスクウェアでもなければ・・・」
風のスクウェアである自分を無視して話が進んでいるのを面白くないと思ったのかもしれないギトー先生が学院長に食って掛かる。
すると学院長はまるで今思い出したかのような顔をした。
「ふむ。ギトー君は風系統のスクウェアメイジじゃったな。どうじゃ?君なら勝てそうかのう?なんならそのまま捜索隊に参加してもらおうかのう・・・」
「い、いえ。私は戦いなどという野蛮な行為よりもきょ、教育者としての崇高な使命に心血を注いでいる所存でして・・・そ、それにまた学院が襲撃されないとも言い切れないのでその時の防衛の要として働きたいと考えております!」
しどろもどろになりながらそう答えたギトー先生に学院長は最初から期待していなかったと言う風な態度で「そうか。その時はよろしくお願いしようかの。」と返していた。
その言葉にギトー先生が安堵の息をこっそりと漏らしていると後ろから「学院長にお尋ねしたいのですけど」と声がした。
「ふむ。何かねミス・グナイゼナウ?」
「ゴーレムを倒せるかを尋ねるのにスクウェアであるダーリンに聞くのは理解できるのですけど、どうしてトライアングルであるタバサにもお聞きになるのでしょうか?風系統のトライアングルということであれば生徒の中にも何名か該当する人がいると思うのですけど。」
確かに風のトライアングルメイジという括りならば生徒の中にも他に2、3人いたはずだがその人たちはここには呼ばれていないのを不思議に思っても無理はない。
このキュルケが感じている疑問は他の人も同様のようで皆学院長の返事に注目した。
「ミス・タバサ、こういうことになったのじゃが言ってしまってもいいかのう?」
そう尋ねられたタバサは特に変わらない表情のまま「構わない」とだけ返す。
「うむ。ミス・タバサがガリアからの留学生なのは知っていると思うが、実はミス・タバサはガリア王国から“騎士”の称号を受けておるのじゃよ。」
タバサが騎士の称号を持っているということに部屋は二度目のざわつきに包まれた。
その中でサイトだけがぽかんと不思議そうな顔をしていた。
「なあ、ご主人様。“シュバリエ”って何?皆驚いてるけどすごいものなの?」
サイトの質問にルイズは深くため息をついた。
俺としては日本では“シュバリエ”なんて言葉を聞くことはほとんどないと思うので知らないのは無理もないだろうと思ったが黙っている。
“シュバリエ”ではなく“ナイト”と言われればまだ分からないことはないだろうが、それでも精々昔ヨーロッパの方にあった職業の一種という感想しか持たないかもしれないが。
「“シュバリエ”っていうのはね、戦いにおいて著しい功績が認められた者に贈られる称号なのよ。普通は軍や衛士隊にいる人が戦いの場で活躍したときに得る称号なんだけど、それをタバサの歳で貰うだなんて前代未聞だわ。」
「ふーん。つまりはタバサは実はすっげえ強いってことか。」
ルイズはサイトの返事に不満を抱いていたようだがこの場でこれ以上追及してもしょうがないと思ったのか「まあ、そういうことね。」と返していた。
「で、ミス・タバサ。どうじゃ?ゴーレムには勝てそうか?」
改めて学院長に尋ねられたタバサは少し間を置いてから首を横に振った。
「たぶんゴーレムは倒せないと思う。」
それを聞いた学院長はわずかに肩を落としていた。
周りの先生達もタバサの言葉に納得した様子だったが、その中でなぜかギトーはどこか満足気な表情で頷いていた。
そんな先生達の反応を気にせずにタバサは次の言葉を発する。
「でも、ゴーレムを操っているフーケ本人を倒すことは出来る、かもしれない。」
この言葉に学院長は嬉しそうにタバサの次の言葉を促した。
「あのゴーレムは見たこと無いほどの大きさをしているけれど、そのせいなのか昨日見ていた限りではそこまで動きの一つ一つが早くないと思う。あれならむしろ近づいて速さで翻弄出来れば、ゴーレムそれ自体は倒せないまでも操っているメイジを倒すことは出来る可能性はある。」
「ふむ。あの巨体を翻弄出来る程の速さをミス・タバサは行える、ということかね?」
学院長の言葉にタバサはコクンと頷いた。
「因みにそれは他のメイジでも出来るのかのう?例えば・・・そう、そこにいる風のスクウェアメイジのギトー君などに。」
先程の会話でもう自分になにか話題が振られることは無いだろうと高を括っていたギトー先生は突然、自分の話題になったことに傍目にも動揺している様子が見て取れた。
そんなギトー先生の様子をちらりとも見ずにタバサは答える。
「出来ない。確かに風系統の魔法を併用して使うのでセンスが必要。けれどそれ以上に体術が重要になってくるのでそれを鍛えていない人には難しいと思う。」
質問した学院長はこの返事が返ってくることは予想していたようで特に残念そうな顔はしなかった。
一方、タバサにハッキリと「出来ない」と言われたギトー先生は年下の女の子にこけにされた怒りとこれで捜索隊に参加させられる可能性がさらに低くなったことへの安堵を同時に感じているのか複雑な表情をした。
俺がギトー先生の気配を少し集中して察してみたところ、怒り7割、安堵3割といった感じだろうか。
「では、その体術をミス・タバサが思う最低限のレベルを習得するのにどれくらいの期間が必要だと思うかね?」
学院長は自身の一番聞きたいことをタバサに切り出した。
確かにそれが分かって実行したならば、フーケから破壊の杖を取り戻すことにかなり近づくことが出来るだろう。
タバサは少し考える仕草を見せてから学院長の方を見た。
「恐らく運動神経の良い人でみっちり半年位やれば最低限の動きが出来るようになる、かも。」
最低限であっても1から鍛えるならば半年はかかると言うタバサの言葉に学院長は再び肩を落とした。
フーケがすでに逃亡している今の状況で半年なんて時間は待てるはずかない、とここにいる誰しもが思ったことだろう。
タバサの方法がだめならば、とすがる様な目で学院長が俺のことを見る。
「ミスタ・ツェルプストーはどうかのう?あのゴーレムは倒せそうか?」
「はい。」
俺の返事に学院長の動きが一瞬止まる。
「す、すまんが最近耳が遠くなったのかのう?もう一度言ってくれんか?」
「分かりました。はい、と先程返事を返しました。あのゴーレムを僕は倒すことが出来ると思います。」
学院長はガタッと椅子を倒しながら勢いよく立ち上がると、大きく机に身を乗り出した。
「そ、それは本当かね!?ミスタ・ツェルプストー!」
「はい。本当です。」
周りにいる先生たちが俺の言葉の真偽を測りかねている中、お義母さんとの模擬戦を見て俺の実力を把握しているキュルケとカトレアさんとルイズは俺の言葉にそれほど驚いている様子は無い。
サイトは「マジかよ!すげえな!」と素直な反応を示し、タバサは珍しく驚いた表情をして俺を見上げていた。
「それが本当なら、どんな方法でアレを倒すのか教えて欲しい。」
誰もが聞きたかったであろう台詞を最初に出したのはタバサだった。
学院長もタバサの言葉に乗り、俺の言葉を待ちきれないといった感じになっていた。
「それではお話しします・・・と言っても方法は簡単です。私が昨日巨大な壁の破片からアンリエッタ姫を救う時に使った『フランベルグ改』を使い、ゴーレムをコマ切れにすること・・・ですかね。」
先程まで騒がしかった部屋はしんと静まり返る。
学院長や先生たちの顔には驚きではなく、「それだけ?思ったのと全然違う・・・」と言いたげな表情が張り付いている。
前にいるルイズがこちらを見ていたがルイズも「え?あのお義兄様の最強魔法ではないのですか?」と顔に書いてあり、後ろにいるので顔は見えないがキュルケやカトレアさんも恐らく同じ顔をしているのだろうと気配から想像がついた。
確かに『トランザムライザー』を使えば、正直なところ跡形もなく消滅させることも出来るかもしれないがそうすると近くにいるフーケも一緒に消滅させてしまうかもしれない。
仮にフーケを殺してしまった場合、フーケが匿っているティファニアに悪い意味で影響が出てしまいそうだ。
例えば、仕送りの無くなったティファニアが不審に思って街にフーケを探しに出た所で住民に見つかり、ハーフエルフとはいえエルフなので公開処刑されてしまう、とかね。
そんな感じで後々の影響まで考えるとフーケを殺すような過剰な威力を持った魔法は厳禁だろう。
言葉を失ったかのような部屋の中で空気などは読みませんと言わんばかりにサイトが俺に尋ねてくる。
「なあ、その『フランベルグ改』だっけ?昨日俺はそれを見てないけど、あのゴーレムを倒せるくらいにすごい魔法なのか?」
「大木さ10メイル位、厚さが3メイルの壁の破片を一振りで両断出来る程の威力。それなにスペルを唱える時間はそれほどかかったように思えない。正直、すごいという言葉だけでは済まされない位の魔法。」
「へえ。シュバリエ?のタバサがそう言うってことは本当にすごい魔法なんだな!俺もこの目で見たかったぜ。」
「でもあれほどの魔法でデメリットがない、ということは無いのでは?」
サイトと話していたタバサが俺の方を見上げていた。
「ん?ああ。『フランベルグ改』のデメリットか。勿論あるぞ。この魔法のデメリットは“常に精神力を消費し続けること”だ。それも普通の魔法よりも多くな。」
「どれくらい?」
「そうだな・・・タバサに分かりやすく例えるなら『ウィンディ・アイシクル』よりも多い位かな。」
『ウィンディ・アイシクル』は水と風を合わせた魔法であり空気中の水分を凍らせて、それを氷の矢として発射するトライアングルスペルだ。
この『ウィンディ・アイシクル』はヴァルムロート式魔法分類でいうところの“依存型”、つまり使用している間は常に精神力を消費するという『フランベルグ改』と同じ魔法分類になる。
「・・・それは疲れそうな魔法かも。ということは『フランベルグ改』もトライアングルスペル?」
「ああ。その通りだ。」
「ちょっとお二人さーん。俺にもわかる様に話してくれよ。」
「ちょっと学院長の前だから静かにしなさい!どうせあんたは聞いたって分かんないでしょう!」
「いやいや、決めつけは良くないぜご主人様。もしかしたら分かるかもしれねえじゃん?」
先程まで一時停止したように黙っていた学院長がサイトの言葉で思い出したかのように俺に質問を投げかけてきた。
「のうミスタ・ツェルプストー、『フランベルグ改』というのは昨日見た様子では火の系統魔法のはずじゃな。そこで聞きたいのじゃが、この魔法は他の火の系統のメイジが扱えるかの?」
「・・・はい。扱えると思います。」
俺の返事に周りの先生たちが小さく声を上げていた。
学院長の表情もこれまでと打って変わり明るいものになっていたが、俺はそれに水を差すかもしれないと思いながらも言葉を続けた。
「ただ、学院長が考えていると思われる使い方は控えた方がよろしいかと思います。」
「・・・なぜじゃ?因みに儂がどう考えとるのかちょっと言ってみてくれんか?」
「学院長は『フランベルグ改』を覚えさせた火系統のメイジを何人か捜索隊に組み込み、ゴーレムとの戦闘で複数人による同時攻撃にてゴーレムを撃破することをお考えになっているのはないでしょうか。」
「ふむ。その通りじゃが、何か問題があるのかの?」
「はい。学院長や他の先生方も見ておられたと思いますが『フランベルグ改』はかなり高い威力を持ち、さらにその攻撃半径も十数メイルと広いものです。それゆえあのゴーレムにも対応出来るのですが、複数人で魔法を使うとどうしても攻撃半径内に味方が入ることになり大変危険です。最悪の場合、味方の攻撃で命を落とす可能性があります、と言って味方が攻撃半径内に入らないようにすると今度はゴーレムにまともに攻撃を加えることが出来なくなる可能性が高く、さらにメイジが操るゴーレムは少しのキズ程度ではすぐに修復されてしまうのでちゃんと踏み込んで攻撃しないと意味を成しません。」
「それならば魔法の攻撃範囲内にお互いが入っても大丈夫なように連携がとれれば問題は無いのではないかの?」
「確かにそれが出来れば問題はありませんが、その連携を得るのに要する時間はかなり多いと思われます。それこそ先程タバサが提示したものと同程度のものが必要になるのではないかと。」
「むむ。」
「それに加えてゴーレムも何らかの反撃を行ってくることは当然のことなのでそれを回避しながらとなると、先程のタバサが言ったゴーレムを翻弄する動きが出来ないと難しいと思います。」
「むむむ。」
「つまり、ゴーレムを翻弄出来る動きを踏まえた上での連携となると1年位の訓練期間が必要になるのではないでしょうか。」
「・・・やはり一朝一夕ではどうにもならんのか。数日後には軍による捜索が開始されるじゃろうし、そもそもあまり時間をかけ過ぎれば破壊の杖が国外へ持ち出されることも十分に考えられるし、どうしたものかのう・・・」
学院長はすとんと椅子に座りこみ、あごひげを忙しなく撫で下ろす。
周りにいる先生方からは何も発言は無く、部屋に重たい空気が漂い始めた。
その時俺はふと部屋のドアの向こう側に人の気配があることに気が付いた。
ドアの前にいる人物は少しの間動かずにいたがそのうちガチャっとドアノブが回り、開いたドアから誰かが息を切らして部屋に入ってきた。
「が、学院長!大変です!」
入ってきたのは緑色の髪にメガネをしているキリッとした美人の女性だった。
「何かね?ロングビル君。唯でさえフーケに国宝の破壊の杖を盗まれて大変な時だというのに・・・。それに君はいままでどこに行っておったのかね?」
学院長はそう言って非難の目をロングビルに向けた。
「実は朝からフーケの足取りを調査しておりました。それで大変なことが分かったので急いで戻ってまいりました。」
「フーケの足取りを追っていた」という言葉は学園長だけでなく、ここにいる全ての人に興味を抱かせるのに十分なものだ。
学院長は真剣な表情となりロングビルの調査結果の発表を促した。
「ここから徒歩で半日、馬で4時間位行ったあたりの住人に聞き込みを行った所、その付近の森の小屋に不審なフードをかぶった男が出入りするのを目撃したという話を得ることが出来ました。」
「なんじゃと!」
まさかのフーケ発見の話に部屋にいる人全員に動揺が走る。
ルイズも「間違いありません!そのフードの男がフーケです!」と主張した。
「ええ。私もそのフードの男こそがフーケだと判断したのでこの事を急いで学院長に報告しなければいけないと思い、すぐさま馬を走らせて戻ってきたのです。」
「でかしたぞロングビル君!フーケの居場所が分かったとなれば後は捜索隊をどうするかじゃが・・・」
フーケ発見の報に湧きたっていたが実際問題として破壊の杖を奪還する明確なビジョンを学院長は持てていないようだ。
そんな学院長に俺達の横を通り、机の前まで進んでいたロングビルが畳み掛けるように言葉を発した。
「学院長!フーケは今巨大ゴーレムを作った精神力を回復するために小屋で休息を取っているものだと思われます。今すぐにでも捜索隊を編成して向かわせないと精神力を回復したフーケにさらに遠くに逃げられてしまい、これ以上の追跡が不可能になってしまいます!早急なる捜索隊の編成をお考え下さい!」
「う、うむ・・・。そうじゃな。幸いここに集まっておるメイジは比較的ランクが高い者が多い。誰か我こそはという者がおったら杖を掲げよ。」
ロングビルの剣幕に押され気味の学院長は部屋にいる先生たちに向かって捜索隊への志願を促した。
しかし、先生達の中で誰も杖を掲げる者はおらず、学院長が1人1人に視線を送るものの皆視線を逸らすばかりだった。
学院長はこの様子に溜息をつき、「儂が後10歳若かったならば勇んで杖を掲げておったのに歳はとりたくないものじゃな」と嫌味たらしく呟いた。
そんな時、「はい!」と言う威勢の良い声が静まり返って重たくなっていた部屋の空気を切り裂いた。
杖を掲げていたのは確認するまでもない、というか目の前にいる人物・・・ルイズだ。
「わ、私、捜索隊に志願いたします!」
「み、ミス・ルイズ!?か、考え直した方がいいですぞ。フーケはトライアングル以上のメイジ。ドットスペルもまともに扱えない君では無理というものですぞ!」
「ふむ。ミス・ルイズが捜索隊に志願してくれるのはありがたいのじゃが・・・勇敢と無謀は似て異なるものじゃぞ。」
コルベール先生と学院長に捜索隊への志願を考え直すように言われるルイズだが上げた杖を下げようとはしなかった。
「私が行おうとしていることが無謀だというのは重々承知しています。しかし何とかして破壊の杖を取り戻し、少しでも早く今回のことで心を痛めている姫様を安心させてあげたいのです!」
「今回の件に関してアンリエッタ姫殿下を早くご安心させたいというのは儂も同じ思いじゃが、実際問題としてどうやってゴーレムに対応し、フーケから破壊の杖を取り戻すつもりじゃ?何とかしてと言うが、その何とかする方法をそこの2人から話を聞いていたわけじゃしな。」
「そ、それは・・・」
気合は十分なルイズだが、改めてゴーレムという大きな問題を突き付けられて上げた腕が動揺に揺れた。
それでも杖を下ろさないルイズに対し俺はその意思の硬さを確認する為に声をかける。
「ルイズ。厳しい事を言うようだけど、ルイズがゴーレムと対峙しても勝てる可能性は万に一もないよ。ドットスペルどころかコモンマジックもまともに扱えないルイズでは死にに行くようなものだ。それでもまだ捜索隊に参加するというのかい?」
「ちょっ!?お前、兄貴ならもっと気を使った言い方ってもんが」
俺の言葉にルイズを擁護しようとしたサイトの言葉を遮ったのは他でもないルイズだった。
「お義兄様の言う通りなのでしょう。しかし、私はそれでも捜索隊に志願します。その万に一もない可能性を信じたいのです!」
ルイズは真っ直ぐ俺の目を見てそう言った。
「ふう。ルイズの考えはよく分かった。」
俺がそう言うとルイズはビクッと体を小さく震わせた。
そして俺は懐から杖を取り出すと僅かに震えているルイズの杖を支えるように添えた。
「お義兄様!?」
驚いているルイズに微笑みかける。
「それでは私も捜索隊に参加するとします。ルイズのこの調子では捜索隊に参加させないと1人で探しに行きそうな感じですからね。」
「ミスタ・ツェルプストーか。確かにゴーレムを倒せると豪語するおぬしが居れば問題は解決するじゃろうが、よいのか?留学生という立場のおぬしは別に他国の問題に首を突っ込むことはないのじゃが。」
学院長は俺が参加することに戸惑っているようだ。
まあ、俺が下手をすれば国際問題に発展する可能性も0ではないのだから慎重になるものしかたないのかもしれない。
そしてロングビルはというと表情としては隠しているようだが焦りが僅かに感じられた。
「ええ。トリステインの国宝が盗まれようがゲルマニアから留学している私からすればどうでもいい事ですが、義妹となるルイズが捜索隊に参加するとなれば話は別です。止めようにも思いの外ルイズの決意が固いようなので私が折れた方が早そうですからね。」
「なるほどね。だからなんな風な言い方をしていたのか。」
合点がいったという顔をしたサイトに先程の事も併せて、普段あまりいい待遇とは言えない——それでも魔法や鞭で攻撃されてない分、アニメよりはマシだと思う——サイトのルイズへの思いに好意的なものを感じた俺は少し頬を緩ませていた。
ルイズが俺の捜索隊志願のことに感動していると俺の両脇からさらに2つの杖がルイズの杖に添えられた。
「ふふ。ダーリンが参加するなら私も勿論行くわよ!」
「私も微力ながらお手伝いしますわね。」
そう言ってキュルケとカトレアさんが俺の両脇に並んだ。
2人の参加に驚いているルイズにさらに驚くこととなる。
「た、タバサ!?」
タバサもこっそりと杖を掲げていたのだ。
これには学院長も驚いたようで本当に捜索隊に参加するのかとタバサに聞いていた。
「破壊の杖には興味はないけど、ヴァルムロートがどうするのか興味ある。それに聞きたいこともある。」
こうして俺達6人とフーケの目撃情報があった場所までの案内役としてロングビルの計7人の捜索隊が結成された。
いつの間にか数に含まれていたことにサイトは驚いていたがルイズの「私の使い魔なんだから当然でしょう!」という有無を言わさない言葉で嫌々ながらも付いていくことに同意していた。
このまますぐにでも出発したいところだが、7人が同時に移動するとなれば馬車の用意などが必要だろうということで一旦解散し、準備と整えてから30分後に正門前に集合することとなった。
準備の為に男子寮の部屋に戻ってきた俺はごそごそと実家から持ってきた荷物を漁っていた。
ゴーレムを倒したり、破壊の杖を取り戻すだけならば杖さえあればこと足りるし、常に斬艦刀も帯刀しているのでこのまま正門前で時間を潰してもいいのだが、俺がこれから行おうとすることの為に一旦部屋に戻って準備する必要があった。
無駄かもしれないがもしもの為に、と思いこれまで誕生日会で送られてきた数々の珍品から厳選したモノを実家からここに持ってきていたのだ。
そして俺はとある2つのアイテムを選び出し、袋へと詰めた。
時間を確認すると解散してから30分経とうとしていたので俺はゼファーを連れて正門へと向かった。
<次回予告>
話の後半、フーケと決着!?
第67話『奪還作戦(後)』
話が長くなったので前後編にしました。
後編は8/16頃に投稿します。