68話 惚れ薬は用法・用量を守って正しくお使い下さい。
——トリステイン魔法学院女子寮のとある一室。
部屋の中にある棚には秘薬と薬草、動物やモンスターから採取された様々な調合素材のビンが陳列している。
部屋の主はその棚からいくつかのビンと手に取り、さらにポケットから青色に僅かに光る液体の入ったビンを取り出し、それらを机の上に置いた。
「やっと“精霊の涙”を手に入れることが出来たわ。少し値が張ったけれども、これでやっと・・・」
そう言って彼女は本立てから1冊の少し古ぼけた本を抜き取る。
パラパラとページをめくり、目的のページで本を開いたまま机の端に置いた。
「この本を家から持ってきておいて正解だったわ。えーと、材料は・・・」
先程机の上に置いたビンに入っている調合素材と本に書いてある項目を1つ1つ見比べた。
すべてが揃っていることを確認すると、それらを本に書いてある通りに水の系統魔法を使いながら調合していった。
普段から香水を自分で調合して作っている彼女にとってはそこまで難しい作業ではなかったが、何時になく緊張していた。
緊張の理由は調合素材として使っている“精霊の涙”がとても高価であり、自身の持っているおこずかいでは予備が買えなかった、ということもあるにはあるがそれよりも自身の今後を左右することになるものを作っているという自覚がそうさせていた。
数時間の調合の末、彼女の前には小瓶に入った何かの液体が出来上がっていた。
「ふふふ。出来たわ!これをギーシュに飲ませれば、もう他の女の子には目もくれなくなるはずだわ!」
彼女はそう言ったもののどこか不安げな様子だった。
それもそのはず、今作った秘薬が本当に効果があるものなのか半信半疑なのだ。
しかし、彼女は交際相手の女癖の悪さを治す為に駄目で元々だと思いながら、この秘薬に賭けてみることにしたのだった。
「本当はこの秘薬がちゃんと効果が出るのかみてみたいのだけどモノがモノだし、それは出来ないわよね。・・・しょうがないか。じゃあ明日、早速ギーシュに飲ませてみましょう!」
決意を固めた彼女は本以外の机の上の物を片づけ、制服からネグリジェに手早く着替えをする。
そしてベッドに入る前にもう一度、開いたままの本に目を落とす。
その本のページにある秘薬の名前は“惚れ薬”だった——
昼食後、俺達はいつものようにアウストリの広場で食後のお茶を楽しもうとしていた。
俺達がテーブルに着くとメイドさんがメニューを持ってきたので、それを受け取った。
「あら?タバサさんがいらっしゃらないのね?そう言えば今日は授業でも見かけなかったわね。」
と、カトレアさんがいつも一緒に午後のお茶を楽しんでいるタバサがいないことに首を傾げた。
「なんか国から命令で朝からどこかに出かけちゃったわ。やっぱりシュバリエにもなると大変なのかしらね?」
カトレアさんの疑問にキュルケがメニューから視線を上げて答えていた。
キュルケはタバサの部屋に近いので丁度出かけるタバサに出会って少し事情を聞いていたのだろう。
それからそれぞれ欲しいものを決め、近くにいたメイドさんを呼び止めた。
俺達がメイドさんに注文を出していると、隣のテーブルにギーシュとモンモランシーがやって来る。
普段だったら隣のテーブルに誰が来ようが気にしないのだが、今日は違った。
なぜなら、隣のテーブルに着いているモンモランシーが注文したものが到着するのを今か今かと待っている気配がビンビンと俺に伝わって来たからだ。
それでも俺はそのことを、今日のデザートをそんなに早く食べたいのかな?位にしか考えていなかった。
しばらくするとサイトがお盆に紅茶とデザートを乗せてやって来た。
「お待たせしました。ご注文の紅茶と今日のおすすめデザートになります、って客はギーシュとモンモンか。」
「やあ、サイト。また平民の手伝いをしているのかい?」
「ああ。うまい昼飯を食わしてもらってるし、そのお礼みたいなもんだな。」
後ろでそう言っているサイトにルイズは面白くないように少し冷めた視線を向ける。
サイトも以前ルイズに「ちゃんと私がサイトの昼食代を出しているのだから給仕の手伝いをする必要はないわ。あんたは私の使い魔なんだから私の近くにいなさいよね!」と言われたのにかかわらず、ルイズから与えられた昼食後の僅かな自由時間をこうして給仕の手伝いに当てているので後ろにいるルイズの視線を受けてバツが悪そうに笑う。
少し居心地が悪そうにしながらもサイトは給仕の続きを行う。
「え、えっと、これはどっちが頼んだものだ?」
「確かにこれは僕が頼んだモノと同じだが・・・」
その言葉を受けたサイトはギーシュの前に紅茶とデザートを置き、テーブルから離れようとした時にサイトを呼ぶ声が聞こえた。
「さ、サイトさーん!ちょ、ちょっと待って下さーい!」
声の主はシエスタだったようで何かをサイトに伝えようと厨房の方から小走りでこちらに向かってくる。
その様子にここにいる6人の視線がシエスタへと注がれた。
サイトの近くまでやって来たシエスタは息を整える間もなくサイトに頭を下げていた。
「す、すみませんサイトさん!先程のオーダーなのですが、間違えて伝えてしまいまして・・・あれはミス・ルイズのご注文だったんです。」
「え?そうだったのか!?・・・つう訳ですまねえがギーシュ。そいつをルイズにやってもいいかな?」
シエスタの話を聞いたサイトは先程ギーシュの前に置いた紅茶とデザートを指さしてギーシュに尋ねた。
そのサイトの傍らでシエスタは何度も何度も「すみません!申し訳ありません!」と言いながら頭を下げている。
「確かにルイズたちの方が早く来ていたし、こっちの注文が先にやって来たのに少し疑問を持っていたからね。まあ、君の頼みとあらば聞いてあげようじゃないか。」
「お。そうか、わりいな。」
そう言ってサイトはギーシュの前に置いてある紅茶をひょいっと持ち上げた。
「ああっ!ちょ、ちょっと待って!」
突然大きな声を出してモンモランシーが紅茶を持ち上げたサイトの腕に手を伸ばした。
「な、なんだ!?」
サイトはモンモランシーの手を避けると彼女から少し距離を取るように移動してルイズの前に紅茶を移動させた。
紅茶を置いたサイトはどこか狂気めいたモンモランシーの視線から逃れるように横歩きでギーシュの横に移動した。
以前としてルイズの前に置かれた紅茶に視線が釘づけになっている彼女の行動をここにいる全ての人は不審に思っただろう。
「な、なんなのよ?モンモランシー。この紅茶に何かあるっていうの?ただの紅茶よ?」
その言葉にようやく自分の行動がおかしいということに気が付いたモンモランシーはハッとしたように姿勢を正す。
「え、ええ。そうね。それはただの紅茶だわ・・・」
そう言って目を逸らすモンモランシーだが、それでもしきりにルイズの動向をうかがっていることは容易に分かった。
そのモンモランシーの様子を周りの皆は不思議がっていたが、俺にはその行動の理由が分かった気がした。
モンモランシーがここまで必死になるのはアニメではたった1度位しかなかったと記憶していて、それは“惚れ薬”の時だった。
アニメとは少々状況が異なるが、この場でも元々ギーシュが飲むはずだった紅茶をルイズが飲もうとして慌てていることからほぼ間違いはないだろう。
そうと分かれば、このイベントはほっておいても問題はないと俺は判断する。
なぜなら惚れ薬を解毒するための材料を得る為に水の大精霊に会って、その時に指輪の情報を得て、その指輪を取り戻すこと約束して増水を止めてもらわないといけないからだ。
今はまだほっといても俺的には問題はないが、水の大精霊は指輪を取り戻すまで増水し続けるつもりだし、肝心の指輪は空の上にあるから全世界が水没するとゲルマニアまで被害を被るからここでちゃんとイベントをこなしておかないといけないだろう。
ただ、今回はサイト——と、いうかガンダールヴ——が水の大精霊と交渉することになるので俺はただいるだけの楽なイベントになることだろう。
俺がすることはルイズが惚れ薬を飲むのをただ見守っていればいいという簡単なことだ。
「まったく。何なのかしらね。・・・これ、本当にただの紅茶よね?」
そう言うとルイズは紅茶に鼻を近づけ、香りを嗅ぎ、そして味を確かめる為に僅かに口を付けた。
「ああああああああああっ!?」
「な、何!?」
その声に驚いて俺達は再びモンモランシーに視線を向ける。
それはたった今紅茶を飲んだルイズも同じだった。
「こっち見ないで!」
自分の方を向いたルイズの顔をモンモランシーは『念力』でぐいっとその方向を変える。
「ちょっと何するのよ!・・・あ。」
向けられたルイズの視線の先にはギーシュの前に置かれたデザートを移動させようとしているサイトの姿があった。
その瞬間、モンモランシーに向けられていたルイズの怒りの感情が無くなり、別の感情がルイズの心を満たしていく気配を俺は感じた。
「サイトー!!」
突然立ち上がったルイズは大声でサイトの名前を呼ぶとそのままサイトに向かってタックル・・・いや、勢い良く抱き着いた。
いきなり抱き着いてきたルイズにサイトは大きくバランスを崩し、手に持っていたデザートが宙に舞った。
「うおっ!?ど、どうしたルイズ!?」
「どうしてサイトは私の使い魔なのにいつも私のすぐ傍にいてくれないの?今日だって本当はずっと傍にいて欲しかったのよ!」
「え?ええっ!?いきなりどうしたんだ!?と、とりあえずごめんな?」
「ねえサイト。これからはずっと傍にいてくれる?」
「あ、ああ。今日はもう手伝いも終りだからな。」
「ふふ。うれしい!」
そう言って困惑しているサイトを余所にルイズは満面の笑みで腕を組んだ。
キュルケ達はその様子を信じられないものを見ているかのようにただただ呆然と見つめていた。
俺も惚れ薬の効果だとは分かってはいたが、それでもいざ目の前で行動を起こされるとルイズの普段の態度との違いに驚かずにはいられなかった。
「すごい・・・あの薬は本物だったのね。あれ?そういえばあの平民が持っていたデザートはどこにいったのかしら?」
ルイズの様子を見ていたモンモランシーがそう呟くと辺りを見回し始めた。
「デザート」という単語を聞いた俺も周りを探すとすぐ近くにデザートが落ちていたことに気が付いた。
「か、カトレアさん!?先程のデザートが・・・」
俺が声をかけるとカトレアさんは俺の視線を辿って、顔を下に向ける。
「あらあら。こんなところにデザートが飛んできていたなんて気が付かなかったわ。」
サイトの手から離れていたデザートはカトレアさんの胸のあたりに着地していた。
これに気が付かないわけがないだろうが、今回ばかりはルイズのありえない行動の衝撃が大き過ぎた為にデザートなどに気を取られることはなかったのだろう。
カトレアさんの服の惨状に気が付いたシエスタは「なにか拭くものを持ってきます!」と食堂方面に走っていき、キュルケはカトレアさんの服に付いたデザートを拭う為にポケットからハンカチを取り出していた。
キュルケがハンカチを差し出す前にカトレアさんは自身の胸の上にあるデザートの上側のクリームを指ですくい、それを口に含んだ。
「ん、おいしいわね。私もこれを頼めば良かったかしら?」
「カトレアさん、子供じゃないのですからそんなことをしてははしたないですよ。」
「うふふ。つい・・・あら?」
キュルケはカトレアさんの服についたデザートを大雑把に取り除いてから持っているハンカチで服についた汚れを拭っていた。
その様子を当のカトレアさんはなすがままじっとキュルケを見つめていた。
「うーん。やっぱり綺麗にはならないわ。この服はもう捨てた方がいいわね・・・」
そう言ってキュルケがカトレアさんから離れようとするとカトレアさんはキュルケの袖を摘まんでいた。
「カトレアさん?」
「ごめんなさい。でも、キュルケさんが離れていくのがとても寂しく思えてしまって・・・」
「離れるといってもすぐそこの自分の席に戻るだけですよ?それにカトレアさんは服を着替えに行かないと。」
「そうね。・・・ねえ、キュルケさん。服を着替えるのを手伝ってくれないかしら?」
「別に着替えを手伝うのは構わないのですけど、本当にどうしたんですか?カトレアさん。普段はそんなこと言わないのに・・・って、カトレアさん!?」
そんな会話をしている間にカトレアさんのキュルケの袖を摘まんでいた手はいつの間にかキュルケの手と指を絡めて握り合う格好——俗にいう、恋人つなぎ——になっていた。
キュルケは普段とはまったく違う、どことなく色気すら纏った雰囲気のカトレアさんに戸惑い、俺の方に視線で手助けを求めてくる。
俺は目の前で繰り広げられる百合空間のようなものに驚きながら、キュルケのSOSを受け取ったことで改めてモンモランシーの様子をうかがった。
案の定、モンモランシーはやってしまったという表情をしていたが小声で「それにしてもやっぱり同性にも効果あるのね」と言っていたのを聞き逃さなかった。
未だにサイトに抱き着いているルイズだけならこのまま高みの見物を決め込む所だったがカトレアさんまで惚れ薬の被害に遭い、しかもその対象がキュルケとなると行動を起こさないではいられない。
ただ、カトレアさんの惚れ薬の効果を発揮した相手がキュルケだったのは不幸中の幸いだったと言える。
これが他の男とかだったら俺自身、今のように冷静でいられたか少し自信がない。
そんなことを考えながら、俺は状況を動かす為にモンモランシーに声をかけた。
「なあ、モンモランシー。ルイズとカトレアさん、2人がおかしくなった原因、君には分かっているのだろう?」
「わ、私が!?し、知らないわ!」
モンモランシーはばつの悪そうな顔をしていたがあくまで白を切ろうと必死になって否定する。
「そうかな?では、ルイズがおかしくなる前に紅茶を飲んだ時の君のおかしな行動はなんだったのかな?」
「お、おかしかったかしら?」
「ああ。僕はおかしかったと思うよ。でも、普段のモンモランシーを僕はよく知らないから、もしかしたら普段からああなのかもしれないな。」
俺がそう言うと「そんな訳ないでしょう!」と間髪入れずにモンモランシーは否定していたが、すぐにそれは先程の自身の行動がおかしかったと認めることになってしまったと悟ったように俯いた。
「しかし、あの紅茶は確かにルイズが頼んだものだったけど、手違いでギーシュの前に置かれていたんだったな。もし手違いは指摘されずにギーシュがあの紅茶を飲んでいたらギーシュが今のルイズのようになっていた可能性は高いだろうね。」
「も、モンモランシー・・・。ま、まさか僕にあのような痴態をさせようとしていたのかい?」
一歩間違えば自身が今サイトに抱き着いて離れないルイズのようになっていたのかもしれないということをギーシュは恐る恐るモンモランシーに尋ねたが、モンモランシーは何も言わずに目を背けるだけだ。
「しかし、紅茶に“媚薬”を入れるなんてね。モンモランシーはギーシュをどうするつもりだったのかね。」
俺がわざと媚薬ということを誇張するようにモンモランシーに問いかけると、それに強く反応を示したのはモンモランシーではなくギーシュだった。
「媚薬だって!?そ、そんなものを使って僕にな、何をさせるつもりだったのかい!?」
「違うわギーシュ!媚薬じゃないわ!私が入れたのは“惚れ薬”なのよ!」
驚くギーシュにモンモランシーは椅子から立ち上がって弁明をする。
ギーシュの誤解を解くために本当の事を言ったモンモランシーはすぐに墓穴を掘ったことを理解し、立ち上がったそのままの状態で固まってしまった。
俺は固まっているモンモランシーに近づき「ここではなんだから、ちょっと署まで同行願おうか」みたいな感じで誰かの部屋で詳しい話を聞くことを提案し、モンモランシーはそれにコクンを無言のまま頷いた。
そして誰の部屋でも良かったが目を離したら一番心配なルイズを気遣って、ルイズの部屋で詳しい話を聞くこととなった。
ついでにカトレアさんがおかしくなったのもやっぱり惚れ薬が原因なのかと聞くと、「念の為にデザートにも薬を盛った」と白状したのだった。
女子寮に入ってから今回の騒動を起こした元凶となる本があるということなのでそれを取りに一旦モンモランシーの部屋に寄ってから、ルイズの部屋へと向かった。
ルイズの部屋の前でカトレアさんが汚れた服を着替えるということなので部屋に戻り、キュルケはカトレアさんが離れようとしなかったので一緒に付いていくこととなった。
ルイズの部屋に入ってすぐにベッドに座っていちゃいちゃし出したルイズを横目に俺はサイトに「間違っても手を出すなよ?」と睨みを効かせてから、早速モンモランシーに改めて今回の騒動について尋ねた。
尋ねたといっても俺自身はなぜモンモランシーが惚れ薬を使ったのか、その理由をアニメで見て知っているので横にいるギーシュに分からせるということと話を進めることが主な目的だ。
「それではモンモランシー。どうしてこのようなことをしたのか教えてくれないか?」
俺がそう促すとモンモランシーは言い難そうにしながらも惚れ薬を使う目的を話してくれた。
隣にいるギーシュはまさか自分の女癖の悪さのせいでモンモランシーにここまでのことをさせてしまったことに後悔しているかのように見えた。
その為が言葉を失っているギーシュを俺は肘で軽く小突き、モンモランシーに何か言葉をかけてやれという視線をギーシュに向けた。
「も、モンモランシー。君がここまで僕のことを思ってくれていたなんて本当にうれしいよ。」
「ぎ、ギーシュ・・・」
「し、しかし惚れ薬を使おうとしたことはやり過ぎだったと僕は思うな。そんなことをしなくても僕の心はいつもモンモランシーに向いているというのに。」
「・・・じゃあ、もう他の女の子に声をかけたりしない?」
泣きそうになっているモンモランシーに尋ねられたギーシュは即答できずに言いよどんでいた。
なぜか俺の方に助けを求める視線を送ってきたが俺はそれに自業自得だと言わんばかりに軽く睨み返す。
俺からの援護が得られないと悟ったのかギーシュは「・・・も、もちろんさ。」と喉の奥から絞り出すように返事を返していた。
どこか沈んだ表情をしているギーシュをほっておいて、俺は話を進める為に少し嬉しそうにしているモンモランシーに話しかける。
「話を進めるが、惚れ薬はどれくらいでその効果を失うんだ?」
「そ、それなんだけど・・・分からないのよ。」
そう言いながらモンモランシーは持ってきていた本を開き、惚れ薬のページを開く。
確かにそこには材料や作り方、そしてその効果について書いてあるが薬がどれくらいの間効果を発揮し続けるのかは書いていなかった。
「確かにここからでは読み取れないな。モンモランシーはこういう秘薬とか香水とかを数多く作った経験からどれくらいで効き目が切れるか予想出来ないか?」
「そうね。明日切れるかもしれないし、1週間後かもしれないし、1ヶ月後かもしれないし・・・うーん。」
「・・・つまり分からないってことか?」
俺がそう言うとモンモランシーは頷いた。
「ええ。人の心を操るのは禁術に属するものだから、どんな効果が出るか分からないし・・・それにまさか市場で揃うような材料で出来るとも本気で思わなかったし。」
「そうか。しかし、いつ効果が切れるか分からないとなるとあまり様子見するのは得策ではないな。」
俺とモンモランシーとのやり取りを見ていたギーシュは小声で「良かった。飲まされなくて本当に良かった・・・」と呟いていた。
ギーシュの気持ちも分からなくもないが身から出た錆だろう、と思いながら俺は話を進めた。
「効果切れを狙うのが難しいのならば、その効果自体を打ち消せすことは出来ないか?」
「効果を打ち消す・・・解毒薬ってことね。ちょっと待って、探してみるわ。」
モンモランシーはペラペラと本をめくり、惚れ薬の効果を打ち消せる秘薬を探し始める。
「・・・あ、あったわ!」
「ほ、本当かい!?良かった・・・」
そう言ってモンモランシーの言葉にいち早く反応したのは俺ではなくギーシュだった。
どうして“今”は無関係のギーシュが喜んでいるのか疑問だったが、それを尋ねようとしたその時に部屋の扉がバンッ!と勢いよく開けられた。
「た、助けてダーリン!」
開かれた扉からキュルケが入ってきて俺に抱き着いたかと思ったら、そのまますぐに俺を支柱にしてぐるりとまるで隠れるように俺の後ろへと移動した。
抱き着いたまま俺の後ろに隠れるような姿勢のキュルケは入ってきた扉を少し怯えた様子で警戒するように見つめていた。
「騒々しいな。まったく婦女子ならもっとお淑やかに、って君!そ、その恰好はさすがに大胆すぎるだろう!?」
貴族の婦女子らしからぬ行動をしたキュルケをギーシュが注意をしようとしたようだが、どうやらキュルケの格好になにやら驚いているようだった。
キュルケが部屋に入ってきた時はいきなりだったのでよく見ていなかったがどうかしたのだろうか?と思い返し、そういえば先程まで着けていたはずのマントが無かったことに改めて気が付いた。
そんなことを思っていると開いた扉のところに着替えを済ましたはずのカトレアさんがやって来た。
「か、カトレアさん!?」
服はすでに真っ白の新たらしいシャツを着ているようだが、なぜかそのシャツのボタンは1つも留められていなかった。
だらしなく開いたシャツの隙間から鎖骨、ブラで軽く持ち上げられた為に出来ている胸の谷間、へそが見えている恰好は普段のカトレアさんからは考えられないようなエロスを醸し出している。
この場にいた男は皆、そんなカトレアさんの恰好に目が釘付けとなっていた。
「さ、サイトは見ちゃダメ!サイトが見ていいのは私だけなんだから!」
ルイズはカトレアさんに目を奪われているサイトの顔に抱き着いて、その視線を塞いでいた。
モンモランシーもギーシュの視線とカトレアさんの間に立ち、体を張って妨害を試みていたがらちが明かなかったのか最後には持っていた香水をギーシュの目に吹き付けていた。
カトレアさんは普段なら恥ずかしがっているような恰好を気にも留めず、部屋にゆっくりと足を踏み入れる。
「あらあら。キュルケさん、どうして逃げてしまったの?まだ着替えは終わっていないわ。」
カトレアさんがニコニコしながら近づいてくると俺に抱き着いているキュルケの腕に力が入った。
「た、助けてダーリン!このままじゃ私の操がっ!」
キュルケの腕が振るえていることでカトレアさんと2人きりの時に何があったのか分からないがキュルケが本当に怖がっていることが分かり、そのことで俺はようやく自分を取り戻した。
それにしても普段はあれだけ俺に対して迫ってきているのにいざ自分が迫られる立場になるとこうも弱くなるのは驚きだった。
迫られる対象が同性というのもあるのかもしれないが、もしかしたらキュルケは責められるのに弱いのかもしれない。
「か、カトレアさん。そこまで服を着たのなら後はボタンを留めるだけじゃないですか。」
「まあ、そうですけど・・・そうだわ。3人で着替えの続きをしましょうか。」
カトレアさんはそう言ってニッコリと微笑む。
正直今のカトレアさんが「着替え」というと何かの隠語にしか聞こえない、というか本人もそういう意図で使っているようで「3人で着替え」というのはかなり耽美な誘いだったが、ここは理性を総動員して涙を呑んでその誘いを断った。
香水を目にかけられて悶え苦しんでいたギーシュが大人しくなった頃、何とかカトレアさんにちゃんと服を着てもらうことが出来た。
「モンモランシー!解毒薬があるのなら一刻も早く作ってちょうだい!」
「あらあら。別に私はこのままでも問題はないのですけどね。」
後からやって来たキュルケとカトレアさんに惚れ薬に対する解毒薬がありそうだと説明するとそれぞれ別の反応を示した。
特にキュルケからは鬼気迫るものを感じた。
「解毒薬はあるにはあるのだけど・・・だめなの。作れないの。」
「ど、どうして!?」
「材料がないのよ。コレなんだけど・・・」
モンモランシーはそう言って解毒薬のページのある部分を指さした。
そこは解毒薬を作る為の材料となるものが書かれたところであり、モンモランシーの指の先にはある秘薬の名前が記されていた。
「“精霊の涙”、コレがないのよ。他の材料は何とか薬を作る分位はあるのだけど。」
「確かに“精霊の涙”は貴重で高価ではあるはずだけど、でも手に入れられないということは無いはずじゃない!」
「まあ、普段ならそうなのだけど今は少し問題があって市場でも仕入れることが出来ていないみたいなのよ。この前市場に行った時は次の入荷は未定って言っていたわ。」
「そ、そんな・・・。そうだわ!ダーリンは“精霊の涙”を持ってはいないの?確かヴァリエール家にいたときはよく使っていたって言ってたじゃない。」
キュルケは期待した目で俺の方に振り返る。
しかし、そんなキュルケに俺は「すまない。」と言って返事を返した。
「確かに持ってきている秘薬はあるが“精霊の涙”単体はないんだ。“精霊の涙”を材料に使った秘薬ならいくつかあるが、それではだめなのだろう?」
俺の言葉にモンモランシーは頷く。
「ええ。例えその秘薬に使っている材料が解毒薬に必要な材料の一部と同じであっても使えないわね。秘薬っていうのは加工する方法や混ぜる順番が違うとまったく別のものになるからね。」
「そ、それじゃあ実家から送ってもらいましょう!確かモンモランシーの実家はここから近かったはずよね!」
「そ、それなんだけど・・・たぶん今実家には1つも“精霊の涙”は無いと思うの。普段ならあるのだけど、今はちょっと、ね・・・」
「ど、どういうこと?まあいいわ。じゃあヴァリエール家にあるものを送ってもらいましょう!」
「まあ、ヴァリエール家には当然あると思うけど。今から手紙を送っても“精霊の涙”が届くのは数日後だな。」
「数日!?無理よ!それだけの間、カトレアさんから逃げ続けられるとは思えないわ!」
「あらあら?どうして逃げるのかしらね。」
俺の腕にしがみ付いて少し涙目になっているキュルケをちょっと可愛いなどと不謹慎なことを思っていると、モンモランシーが口を開いた。
「・・・無駄足になるかもしれないけれど、それよりも早く“精霊の涙を”手に入れる方法があるわ。」
そのモンモランシーの言葉にキュルケは表情を輝かせた。
「勿論やるわ!もう、そういう方法があるのなら早く言いなさいよね!・・・それで、その方法っていうのは?」
キュルケの言葉にモンモランシーは「その方法は確実に手に入れられるというものじゃないのよ。」と前置きをした。
キュルケはそのことは気にせずに早く早くと言葉を急かした。
モンモランシーは自身の気持ちを整理するかのように息を整え、口を開いた。
「・・・“精霊の涙”を生む水の精霊に直接貰いに行くの。」
モンモランシーの話では1年前位から水の精霊からは“精霊の涙”を貰えていないということだったが、キュルケはそれでもただ待つだけよりもマシということで水の精霊が住むラグドリアン湖に行くこととなった。
ここからラグドリアン湖までは馬を飛ばして数時間という距離だが、すでに日もだいぶ傾いているので出発は明日の早朝ということになった。
出発を明日にしたことにキュルケは最後まで反対していたが俺がキュルケの部屋の扉を魔法の『ロック』で施錠することでなんとか納得してもらった。
と、いうのも『ロック』の魔法自体はキュルケでも使えるのだが、この『ロック』というのは魔法をかけたメイジと同程度以下のメイジならば『アンロック』という魔法を使うと開錠出来てしまうのだ。
因みにキュルケがカトレアさんの着替えを手伝いにカトレアさんの部屋に行った時に『ロック』で部屋を施錠されて閉じ込められてしまったらしく、危うい!というところで『アンロック』で扉を開けて逃げ出せたとキュルケが語っていた。
キュルケとカトレアさんは共にトライアングルメイジであり、キュルケがカトレアさんの『ロック』を解除出来るのならばその逆もまた可能ということだ。
だから、カトレアさんよりもランクの高い俺に『ロック』してもらうことを頼んだというわけだ。
ただ、カトレアさんが開けられないということはキュルケも自分の部屋のドアを開けられないということなんだけどね。
ルイズの方はカトレアさんのように危ういわけではないが、このままべたべたしていたらそのうちサイトの理性の方が限界を迎えそう気がするのでルイズの部屋に俺が『ロック』をかけてルイズを閉じ込め、サイトは今日は俺の部屋で雑魚寝してもらうことにした。
翌日、まだ日も出てない頃、俺達は学院の前で馬に乗ってラグドリアン湖に向けて出発しようとしていた。
馬は昨日話をつけていたのですぐに借りることが出来き、学院の授業の方も今日は虚無の曜日ということで無断で休ませることが無くなってがなくてほっとしていた。
基本的に馬1頭に対し1人なのだがルイズがサイトの後ろに乗っていた。
俺がそれ注意しようとすると露骨に顔を背けることから昨日サイトと別れさせる為に部屋に閉じ込めたことを怒っていることは明確だった。
何度言っても聞かず、そんなことよりも早くラグドリアン湖に行こうというキュルケの言葉とルイズが小柄で体重も軽いことあり、今回はこのままでいくこととなった。
しかし、すでに蚊帳の外になりかけているギーシュが俺達に付いてきたことに少し驚いた。
今回の騒動の原因となってしまったことに責任を感じているのかもしれないし、サイトともそこそこ親しくしていることを考えるとこれまであまり接点は無かったがアニメ同様にいいヤツなのだろう。
念の為、“精霊の涙”を送ってほしいという手紙をシエスタに託し、俺達は学院を出発した。
それから馬を走らせること数時間、小高い丘を上がった先に水面が見えたので馬を足を一旦止めた。
「あれがラグドリアン湖ね!」
「あれ?以前来たときは湖はもう少し先だったような気がするんだが・・・」
歓声を上げるキュルケに対しギーシュはどこか腑に落ちないといった表情を浮かべた。
モンモランシーが皆の前に出る。
「とりあえず、私の実家に行きましょう。もしかしたら“精霊の涙”があるかもしれないし・・・ついて来て。」
そう言って馬を走らせたモンモランシーの後に俺達も続いた。
水は青く澄んでいてとてもきれいなものだが、少し離れた所にある家が水に浸かっているように見えた。
しばらく馬を湖畔に沿って走らせていると林からフードをかぶった何者かが現れた。
先頭を走っていたモンモランシーは慌てて馬を止める。
前方を塞ぐように現れた人物は深くフードをかぶっている為か顔をみることは出来ないが手にスタッフタイプの杖を持っていることからメイジだということは皆も分かっただろう。
「あ、あなた何者!?」
そう言って杖を構えようとするモンモランシーとフードの人物の間に俺は馬を移動させる。
「待て、モンモランシー。いきなり杖を抜くのは良くないだろう。」
「で、でも、こんなところにフードをかぶっているなんていかにも怪しいじゃない!?」
「まあ、そうだが。・・・タバサも杖を下ろしてくれるか?」
「・・・どうして分かったの?」
「ああ。気配でタバサって分かったからな。」
「・・・気配、気配か。今度私にも教えて欲しい。」
フードの人物は掲げようとしていた杖を下ろして、深く被っていたフードを外した。
フードの下からタバサの顔が出てきたことに皆一様に驚いていたがその中でもキュルケが一番驚いていたようだ。
「タバサ!?あなたどうしてこんなところにいるの?確かシュバリエの依頼があったんじゃ?」
「ん。ラグドリアン湖に関して、ちょっとね。」
「そうなの?あ!ちょうどいいわ!タバサも手伝いなさい!」
「・・・分かった。その代わりにモンモランシーに少し話を聞きたい。」
「ええ。分かったわ。今私の家に向かっている所だからそこで話を聞きましょう。」
そうして俺達は再びモンモランシーの実家に向かって馬を走らせた。
合流したタバサは使い魔のシルフィードに乗って空から悠々と俺達の後を付いてくる。
それからしばらくしてモンモランシーの実家である屋敷に到着するとモンモランシーは玄関前に馬を止め、俺達の方に振り返った。
「走り通しだったし、少し家で休憩しましょう。タバサの話もここで聞くわ。」
ここに着くまでの数時間を休憩無く馬を走らせていたので少し疲れていたことと、喉も乾いていたので逸るキュルケを説得した俺達はモンモランシーの実家で休憩することとした。
出迎えたメイドとモンモランシーに案内されて応接間に通され、そこで簡単な料理とお茶をごちそうになりながらラグドリアン湖について話を聞いた。
話の内容はモンモランシーの実家はラグドリアン湖にいる水の精霊と契約を交わし、水の精霊から“精霊の涙”を分けてもらいそれを市場に流通させていたこと、しかし1年前位から水の精霊に“精霊の涙”を分けてもらえなくなったこと、さらにはラグドリアン湖の水位が徐々に上昇しており湖の周囲の村が水没し始めていることについてだった。
「しかし、どうして水の精霊は“精霊の涙”を分けてくれなくなったのだろうね?別にもう無くなったというわけではないだろうし。」
話を聞いて首を傾げるギーシュにモンモランシーは首を振った。
「分からないの。お父様が言うには突然契約を打ち切られたということらしいのだけど、その原因に心当たりはないみたい。はぁ、家は一体どうなってしまうのかしら・・・。」
モンモランシ家は水の精霊と契約を結べるということが貴族としての地位を保たせていたので、この契約が切られた状態が続けば最悪の場合貴族としての地位を剥奪されるかもしれないとモンモランシーは嘆いた。
「うーん。失礼だが気が付かない内に何か気に障ることをした、ということはないだろうか?」
「それは考えにくいと思うわ。確かに領土整備などで湖に流れ込む河川の工事をしたり、住みやすいように湖岸の補強などを行ったらしいのだけど、でもどれもその前に水の精霊の許可を得て行ったと言っていたし・・・」
「うーん。そうするとますます謎だな。」
「湖の水位が増えている原因はなんだとモンモランシ家では考えているの?ガリア側でも周囲の村に被害が出ているので原因が分かっているならその解決に協力する準備はある。」
「それも分からないのよね。お父様も詳しく話を聞いてみたいと言っていたけど水の精霊からは何も聞けていないようだし。」
そんな感じで話を続け、2杯目のお茶のお代わりが無くなった頃にメイドさんが近づいてきて、モンモランシーに耳打ちをする。
「そう。分かったわ。」
何やら話を聞いたモンモランシーがそう言うとメイドさんは一礼して部屋を出て行った。
「さっきのメイドは?」
「先程のメイドは家に“精霊の涙”が残ってないか探してもらってたの。それでその報告なのだけど・・・」
「あったの?なかったの?」
「やっぱり無いみたいね。最後の“精霊の涙”も王宮への献上品として提出したらしいわ。」
「・・・そうなの。じゃあ、やっぱり直接貰うしかないみたいね!」
「そう、なんだけど、そんなに簡単にいかないと思うわよ。そんなに簡単だったら私の家が抱えていたこの1年間の悩みはなんだったの?って言いたくなるわ。」
キュルケの勢いを殺すかのようにモンモランシーは深くため息をついた。
「まあまあ。駄目で元々なのだから試してみようじゃないか。行動を起こさないと可能性は0のままだよ。」
「・・・ヴァルムロートの言う通りかもしれないわね。水の精霊にコンタクトを取るわ。ついて来て。」
そして俺達は屋敷を出て、モンモランシーに連れらるようにラグドリアン湖の水際へとやって来た。
「ねえ、モンモランシー。水の精霊とコンタクトを取るのに何も持ってこなかったけどいいの?」
そう言ってキュルケが水の精霊とコンタクトを取るのに何かしらの供物や特殊なマジックアイテムが必要なのではないかと尋ねたがモンモランシーは横に首を振って、代わりに手に乗せたモンモランシーの使い魔であるカエルを俺達に示した。
「そういうのは必要ないのよ。基本的に水の精霊はこのラグドリアン湖の水を綺麗に保っておけばいいみたいなの。まあ、コンタクトを取るのにはこの子にちょっと手伝ってもらうのよ。」
そう言うとモンモランシーは小さなナイフを取り出し、自身の親指を少し切り、その傷口から流れた血を使い魔であるカエルの背に垂らした。
モンモランシーの使い魔であるカエルは自分のすべきことが分かっているようでぴょんと跳ねると、そのまま湖に飛び込んだ。
「お願いね、ロビン。」
ロビンという名の使い魔が飛び込んでからしばらく待っていると水面がにわかに揺らめき出し、そのまま重力を無視するように水の柱が立ち上がる。
水の柱が出て来たことに俺達が驚いていると、次第にその水の柱が人の形へと、モンモランシーの形に変わっていった。
「な、なんだい!?これは?」
「これが水の精霊なのよ。私の姿をとっているのは単に水の精霊自体には決まった形がないからいつもコンタクトをとった人の形になるのよ。」
ギーシュが驚いて声を上げると戻ってきた使い魔を拾い上げながらモンモランシーがそう説明した。
モンモランシーの形をした水の精霊が俺達の方を見ると声を発した。
「単なる者よ。如何様か。」
「水の精霊よ!私はこれまで貴方と契約を結んでいたモンモランシ家の娘です。どうして突然私の家との契約を打ち切られたのですか?」
「血に覚えがあったのはお前か、単なる者よ。我が契約を先に反故にしたのは単なる者の方であろう。」
「ど、どういうことですか!?お父様はそのようなことはしてないと仰っていましたが、契約を打ち切ったその理由をお聞かせください!」
「契約を反故にするような単なる者に話すことは無い。」
「そ、そんな!?どうかお聞かせ下さい!」
「否。」
モンモランシーはしつこく理由を尋ねていたが水の精霊は「話すことは無い」の一点張りと話は一歩も前には進まなかった。
モンモランシーと水の精霊とのやり取りを後ろで聞いていた俺達は水の精霊に何か大きな食い違いがあるのでは?という結論に至った。
その理由は水の精霊は血の契約を結んだ者は分かるようだが、基本的に人を「単なる者」と呼んで一括りにしていたからだ。
どうしたものかと考えあぐねているとサイトがモンモランシーの前に出た。
「おい!さっきから単なる者、単なる者って言いやがって!モンモンの父親はそんなことしてねえって言ってんだし、別のヤツがその契約ってやつを違反したんじゃねえのか?」
「声を荒げるな、単なる者よ。ん?お前は・・・」
「もし別のヤツの仕業だったら、モンモンの家と契約を切るのはお門違いじゃねえのかよ!」
「ちょっ!?何てこと言うのよこの平民!もし水の精霊が機嫌を悪くして去っていってしまったらどうするつもりよ!すみません!すぐにこの平民を黙らせますから!」
サイトが水の精霊に無礼な口をきいたことに驚いたモンモランシーは慌ててサイトの口を塞いで、水の精霊に謝っていた。
しかし当の水の精霊はモンモランシーの姿をしているがその顔の表情を変えることは無く、どう思ってるのか見当もつかず俺達の間に緊張が走る。
「・・・お前、ガンダールヴか。」
「がんだーるぶ?何それ?」
水の精霊がサイトに向かって放った「ガンダールヴ」という言葉に何のことだ?と皆が首を傾げている中でデルフリンガーがガチャガチャと鍔を鳴らした。
「そうだ!思い出したぜ!相棒は使い手、ガンダールヴなんだってことを!」
「デルフ!?ガンダールヴの事を知っているのか?」
「ああ!もちろんよ!ガンダールヴは・・・」
サイトがデルフの次の言葉を待ってゴクリと息を呑んだ。
「・・・ありゃ?何だったけな?」
デルフの台詞に期待して待ち構えていた俺達はデルフの気の抜けた言葉に肩透かしをくらい、非難の視線をデルフに向けた。
サイトは自身に関わることだったので大きく肩を落としていた。
「なんなんだよ、それは・・・。」
「いやぁー。なんかガンダールヴのことを思い出そうとすると頭ん中に霧がかかったみたいになってよー。おっかしいなー。」
そのデルフの言葉を聞いて水の精霊が呟く。
「ふむ。そういう処置をとっているのか。それならば我がこれ以上言うことはないか。」
「え!?ガンダールヴのこと知ってんだろ?なんで教えてくれないんだ?」
「今はまだその時ではないようだからな。しかし、ガンダールヴなら信用に足る。ガンダールヴよ、我の願いを聞き入れてはくれぬか。」
「願い?」
「聞き入れてくれるのならば再び契約を交わすことを約束しよう。」
「再び契約を交わす」と水の精霊が言ったのを聞いたモンモランシーは素早くサイトに詰め寄った。
その様子を見たルイズが非難の声と共にサイトとモンモランシーの方へと走り出そうとしたので俺はここでルイズが間に入ると面倒なことが起きそうだと思い、『レビテーション』を使ってルイズを浮かせた。
ルイズはその場で見えないランニングマシーンに乗っているように走っている動きだけを空中でしていたがすぐに自分が進んでいないことに気が付いて、杖を持っていた俺を見つけると頬を膨らまして睨んだ。
「平民!いえ、サイト!ぜったいに水の精霊の願い事を聞いて頂戴!」
「ま、まずはどんな願いか聞いてみないと。」
「どんな願いでも聞いて頂戴よ!これには私の家の運命も懸かってるんだから!私の家も助けると思って、ね!」
「俺に出来る範囲の話ならいいけど、無理なものは無理だしな・・・」
「私も手伝うから!絶対に願いを拒否しないでよ!」
「いや、でも・・・あががが!?」
必死になっている為かモンモランシーはサイトの服の胸元を掴んで激しく揺らした。
ガクガクと揺られるサイトはモンモランシーの手を振りほどくと水の精霊の方に改めて顔を向けた。
「なあ、水の精霊さんよ。とりあえず、どんな願いか教えてくれないか?聞いてみないと願いを聞くかどうかの判断もつかないしな。」
「うむ。我の願いはただ1つ。アンドバリの指輪を取り戻すことだ。」
「あんどばりの指輪?」
オウムのように復唱したサイトはモンモランシーを見たが、視線を向けられたモンモランシーも困った様子で顔を横に振った。
「我とかつての友の力を内包させた指輪だ。この湖の底に安置していたのだが不届きな単なる者により持ち去られたのだ。」
「・・・と言うことは、あんたの願いはそのなんとかっていう指輪を取り戻すことなのか?」
「いかに。」
水の精霊が頷きもせずにそう言ったのを聞いたサイトは視線を再びモンモランシーに向ける。
「なあ、モンモンよ。なんか知らない指輪がどこの誰とも知らないヤツに盗まれてどこに行ったかもわからないのにそれを取り戻せとか・・・無理じゃね?」
「ちょ、ちょっとサイト!私の家の存続が懸かっているのに簡単にあきらめないでよっ!」
「いや、そう言われてもね・・・」
もはやお手上げ、モンモランシーの実家は貴族の位を剥奪されてしまうと皆が思っていたところに当の水の精霊から助け舟が出された。
「ガンダールヴよ。アンドバリの指輪の大まかな在り処はすでに分かっているぞ。」
「ほ、本当ですか!?水の精霊よ!」
サイトよりも早くモンモランシーが水の精霊の言葉に反応していた。
まあ、実家の存続が懸かっていることなので必死によるのも分からないでもない。
「ここより北西の方角にアンドバリの指輪の存在を感じる。」
「指輪の場所分かるのかよ!?」
「アンドバリの指輪には我の力が宿っているからな。世界のどこにあろうとも感じることが出来る。」
「なら自分で取りに行ったらいいんじゃないのか?」
「ガンダールヴよ。すでに我は行動を起こしている。」
「え?でも、あんたここにいるじゃん?」
「ここに形あるモノとして表れているのは我の一部にすぎん。本来の我はこの湖に宿る形無きモノなのだ。そして今、湖の水を増やしながらアンドバリの指輪に近づいているところだ。」
「ええ!?湖が増水してるのはあんたが原因だったのか!ってかその方法じゃあ指輪にたどり着くのにどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃねえぞ!?」
「我は限りある命というものに囚われてはいない。故にどれだけ時間がかかろうとも問題ではない。」
「不死ってやつか。ファンタジーしてるねー。」
サイトが水の精霊が不死ということに関心しているとモンモランシーはガシッとサイトの肩を掴んだ。
「これはチャンスよ、サイト。ここで貴方が水の精霊の願いを聞けば、増水した湖を元に戻せるかもしれないし、私の実家も助かる一石二鳥だわ!」
「まあ、増水は水の精霊が原因みたいだから元に戻るだろうな。水が引けば湖周辺に住んでる困っている人たちは助かるだろうし、モンモンの実家も助かるか。・・・まあ、ダメ元でやってみるか!」
そう言ってサイトは水の精霊の方へと1歩踏み出す。
「分かった。なんとかアンドバリの指輪を探して、再びここに持ってくるよ!いつか必ず持ってくると約束するけど、かなり時間がかかりそうなんだけどいいか?」
「ガンダールヴよ。先に言った通り、我に時間を問うことは不要。ガンダールヴの命尽きる時まで待つとしよう。」
「お、おう!?それでなんだけど、湖の水位を元に戻してくれねえか?俺に捜索を頼んだんだから増水する必要はもうねえだろう?」
「分かった。・・・これでしばらくすれば水の量は以前と同じになる。では、血に覚えのある単なる者よ、我の前へ。約束通り、再び契約を結ぼう。」
「わ、私ですか!?」
モンモランシーは「本当に私でいいのかしら?お父様に代わった方が、でもここで時間をとると水の精霊の気が変わってしまうかもしれないし・・・」と不安そうに呟きながら水の精霊の前へと歩いていく。
そして、モンモランシーと水の精霊が契約の言葉を交わし、再びモンモランシーが血を湖に垂らすことで契約が交わされたようだ。
ここまでやってようやくここに来た目的を果たすことが出来そうだと後ろで見守っていた俺達はホッと胸を撫で下ろす。
「水の精霊よ。契約を結んだばかりで恐縮なのですが“精霊の涙”を少し分けていただけないでしょうか?」
「よかろう。」
その言葉を聞いた水の精霊はモンモランシーの形をした水の像の右腕をモンモランシーの頭上に差し出すとその指の先から一滴の雫を垂らすと、それはふわふわと重力に逆らうかのようにゆっくりと降りてきた。
モンモランシーは慌てて懐から香水などを入れるような小さな小瓶を取り出し、その雫を小瓶の中へと入れた。
「ありがとうございます!水の精霊よ。」
「契約の娘よ。これまで通りの湖周辺の土地の管理と再び不埒な者が出ないことを望む。」
「わ、分かりました。父に伝えておきます。」
「ではガンダールヴよ、朗報を期待しているぞ。」
「あ、ああ!任せとけって!」
「信頼しているぞ。では、私は去るとしよう。さらばだ、ガンダールヴよ。それに単なる者達と異なる者よ。」
そう言って水の精霊はまるで溶けるようにモンモランシーの像は湖の一部へと戻っていった。
「ふう。これでようや、ぐふっ!?」
俺の『レビテーション』から解き放たれたルイズが「サイトー!!」と叫びながら一目散にサイトの下へと走り寄り、そのままタックルするように抱き着いていた。
そんなルイズの様子に苦笑いしながらサイトとモンモランシーの所に集まり、先程水の精霊と話したことの話となる。
水の精霊との話の中で皆が疑問に思ったことは主に2つだったようだ。
一つはサイトがガンダールヴということ、もう一つは盗まれた指輪の行方についてだ。
念の為、デルフリンガーにガンダールヴについてサイト達が尋ねるも、先程と同様にサイトがガンダールヴだと分かるだけでそれがどんなものかは思い出せないようだった。
指輪に関してはとりあえず指輪がある方角が分かっているのでその付近に行くことがあれば、聞き込みをしてみようということで気長に探していくこととなったが、モンモランシーが推測するところでは「水の精霊の力が宿った指輪なのだから、指輪のある付近では何か通常では考えられないことが起きているのではないか?」ということでそれを目安にしていこうという話で落ち着いた。
俺はどちらとも分かっているのだがそれを公にすることは出来ないので皆と同じように不思議がり、指輪とともかくとしてガンダールヴについては学院に戻ってコルベール先生にでも聞いてみようという助言をするに止めておいた。
それよりも水の精霊が最後に言った「異なる者」というアニメには無かった言葉が俺には気になったが、皆はその言葉の対象はデルフだろうということになったようだ。
そして“精霊の涙”を手に入れたことで惚れ薬の解毒薬を作る為に少しでも早く学院に帰ろうとキュルケが急かしたが、解毒薬を作れる当のモンモランシーが水の精霊と再契約できたことを実家に伝えたいということで少しばかりモンモランシーの実家に寄っていくことになった。
しかし、水の精霊と再契約出来ましたと報告して、はい終りという訳にもいかず、再契約出来たことを大喜びしたモンモランシ家の当主、つまりはモンモランシーの父親に強引に引き止められ、豪華な夕食へと強制的に参加させられることとなった。
さらに夕食を取り終えた頃には夜も遅くなってしまったので結局モンモランシ家に一泊することになってしまった。
カトレアさんとの湯浴みから命辛々逃げてきた様子のキュルケは再び俺に部屋の扉を『ロック』の魔法で閉じて欲しいと頼み、部屋に閉じこもってしまった。
俺は昨夜と同じようにキュルケの部屋に『ロック』の魔法をかけると、次にルイズの部屋に行き、ルイズに批難されつつも部屋に『ロック』の魔法をかけて閉じ込めた。
翌朝、部屋をノックする音が聞こえたので誰が来たのかと扉を開けて確認すると目の下にくまを作ったモンモランシーが立っていた。
「おはよ・・・。解毒薬が出来たわ。早速ミス・カトレアとルイズに飲ませましょう。」
どうやら徹夜で惚れ薬の解毒薬を作っていたようだった。
時間的にも朝食の時刻となっていたので俺は皆を起こし、食堂に集まってもらった。
モンモランシーの両親が朝食の場に同席していた場合はモンモランシーが本気ではなかったとはいえ禁術に手を出してしまったことを知られたくないというモンモランシーの頼みからなんとか席を外してもらわないといけないということだったが、どうやら水の精霊と再契約出来たことと湖の水位が元に戻ってきているということで朝早くから忙しくしており、逆に朝食の場に同席できないことを謝られてしまった。
そして朝食を食べる前にモンモランシーから解毒薬が出来たということを皆に伝えてもらった。
カトレアさんはすんなり解毒薬を飲んでくれたが、ルイズはかなり強い拒否を示した。
俺が「ルイズは今、惚れ薬で少しおかしくなっているからこの解毒薬を飲むんだ」と言ってもこれまでサイトの所に行けないように部屋に閉じ込めたり、サイトと水の精霊が話している間、動くことが出来ないように『レビテーション』で浮かせたりと、ルイズからすればいじわるをしてきた俺の言葉を素直には聞いてくれなかった。
どうしたものかと困っているとカトレアさんが解毒薬を飲んだことで心にゆとりが出て来たキュルケから「押してもだめなら、引いてみたらどうかしら?」というアドバイスを貰って少し考えた後、俺に対し頬を膨らましているルイズに対し再び言葉をかけた。
「ルイズ、今のその気持ちが惚れ薬によるものでないというならこの解毒薬が飲めるだろう?もし、これを飲んだ後もサイトへの気持ちに揺るぎがないというのなら僕はその気持ちからくる行動を今後一切邪魔立てしないと誓うよ。」
「・・・本当?」
「ああ。貴族男子に二言はないよ。」
ルイズは解毒薬と俺の顔との間を数回視線を行き来させてると苦い飲み物でも飲むかのように——モンモランシーが言うには口に入れて飲む物なので味にもこだわっているらしい——ぎゅっと目を閉じて小瓶に口をつけた。
ぐいっと中身を飲み干したルイズが目を見開くと徐々にその顔が赤くなっていき、サイトと目を合わせたかと思うと顔を両手で隠すと何やら奇声を発しながら食堂から飛び出していった。
「な、なぁ。奇声を上げてどっか行っちまったけどルイズはどうしちゃったんだ?」
ルイズの突然の行動に皆がぽかんと出て行った扉を見つめているときにサイトが誰ともなくそう尋ねた。
「分からないな。・・・解毒薬の副作用、か?」
サイトの言葉に答えを見つけられない俺は解毒薬を飲んだことによる何かしらの副作用なのではと疑ったが、先に飲んだカトレアさんはかわらずニコニコしていて奇声を発したり、異常行動を起こす兆候は見られない。
ルイズの行動が分からないのは解毒薬を作った当のモンモランシーでも不思議がっていた。
「おかしいわね?惚れ薬の効果を打ち消すだけであんな行動を起こすはずはないのだけど・・・」
皆が疑問に思っていたところに答えをくれたのは先に解毒薬を飲んだカトレアさんだった。
「あらあら、ルイズったら。惚れ薬の効果があった時の自分の行動があんな奇声を発するほど恥ずかしかったのね。」
「えっ!?カトレアさんはあの間のことを覚えているのですか?」
「ええ。」
カトレアさんの証言により惚れ薬の効果があった間のことは普通に覚えているようで、こういうモノのお約束である“効果が切れたらその間のことは覚えてない”ということにはならなかったようだ。
惚れ薬と解毒薬の製作者であるモンモランシーはどこか納得した表情をしていた。
「あー。確かに惚れ薬の効果を打ち消すだけで記憶を消したりはしてないわね。だからその間のことは覚えてて当然ね。もし私がルイズと同じ立場だったら、やっぱり同じような行動を起こしたかもしれない・・・考えただけでも恐ろしいわ。」
「あの・・・モンモランシー?その恐ろしいものを僕に飲ませようとしていたんだよね?」
「惚れ薬が禁術になったのも頷けるわー。」
そう言ってモンモランシーは一人で頷き、ギーシュの言葉を完全に無視した。
これからどうしようかと思っていると、メイドさんからルイズが宛がわれた部屋に戻ったということを聞き、事故のようなものだったとはいえ今回のことを謝りたいというモンモランシーとルイズのことを心配したカトレアさんとキュルケの3人がルイズのところに様子を見てくることとなった。
朝食を食べる前だったのでルイズと3人の食事をルイズの部屋に運んでもらい、残りはそのまま食堂にて朝食を摂り始める。
「・・・なあ、サイト。ルイズの惚れ薬の効果が切れたことを少し残念だとか考えてない?」
食事をしながら俺がそう尋ねるとサイトはむせ込んだ。
「ごほっごほっ・・・。い、いきなり何を聞くんだよ!?」
「ルイズが惚れ薬の効果でサイトにくっ付いていた時のサイトの表情がまんざらでもないって感じだったからね。」
「ま、まあ、なんだ・・・そう、あれだよ!薬の効果ってことは分かってるけど可愛い子にあんな風に接しられたら悪い気を起こす男はいないだろ?ギーシュもそう思うだろ?」
話題を振られたギーシュは困った表情をしたがそれでもサイトの意見に同意する返事を返していた。
「僕も男だからサイトの言うことは分かる。」
「やっぱ、そうだろ!」
俺が同意したことでサイトが若干前のめりになって声を上げた時、テーブルに掛け立ててあるデルフリンガーが鍔をカチャカチャと鳴らした。
「でもよお、相棒自身普段の娘っ子に今の100分の1でも可愛げがあればいいのにって言ってたじゃねえか。」
「ちょ、デルフ!なんで言うんだよ!確かにあんなに好いてくれる状態から元に戻るのは残念といえば残念だけど、好いていてくれた状態が薬によるおかしなものだったっていうの分かってたし、それを何とかしてやりたいとも思ってたんだぜ。」
「いや、別にサイトを責めようと思って言った訳ではなかったんだ。あの状態がおかしかったと分かってるなら問題はない。」
「じゃあ、何で聞いたんだよ?ちょっと焦ったぜ。」
「これからルイズがサイトと接する時に少しギクシャクするかもしれないが、サイトには以前と同じようにルイズと接して欲しいと思ってな。」
「なんだ、そんなことか。まあ、誰でも恥ずかしいことを掘り返されるのは嫌だからな。分かったぜ。」
「ああ。頼むな。」
そして朝食が終わって、食後のお茶を飲んでいるとカトレアさん達に連れられたルイズが食堂へとやって来た。
ルイズは突然奇声を発して朝食の場から立ち去ったことを俺達に詫びた。
そしてサイトには今回のことは薬のせいであり自分の意思はなかったから今回の言動や行動はすべて忘れることと釘をさし、それに対しサイトは苦笑いしながら了解していた。
領地の見回りからひとまず戻ってきたモンモランシーの父親に挨拶をしてから、俺達は学院へと戻ることにした。
馬を走らせている時にキュルケがカトレアさんに話しかけた。
「そういえばカトレアさんも今回のことは覚えているのですよね?私とそういう関係になりそうになったことを恥ずかしいとか思わなかったのですか?」
「そうねえ。確かにちょっと恥ずかしいとも思ったけど、それ以上にそれはそれでいいかなって思いましたの。」
それを聞いたキュルケは走らせている馬をカトレアさんの馬から少し離す。
「だって数年後には共にヴァルムロードさんの妻になっているのですから、仲良くしておくことに越したことは無いでしょう。」
「ま、まあ、そうですわね。」
うふふと笑うカトレアさんとそれ対して少し引きつった笑いで返すキュルケを見ながら俺は水の精霊が最後に言った「異なる者」という言葉を考えていた。
振り返り、少しずつ離れていくラグドリアン湖を見て、もしかすると水の精霊には俺が転生者だということが分かったのかもしれないと思ったが、その真偽は分からない。
しかし、すぐにその真偽が分かったとしても俺のすることは変わらない、と思い直す。
今は前に進むしかないと前を向いて、手綱をしっかりと握り直した。
<次回予告>
タバサが気配について教えて欲しいとやって来た。
サイトも気になっているようなので2人に教えることとなった。
・・・あれ?サイトって鈍感系主人公じゃなかったはずだよな?
第69話『あなたはニュータイプ的?それともコーディネーター的?』
いろいろあって更新予定を2ヶ月も過ぎてしまいました。すみません。
次は11/20頃の更新を目指して頑張ります。
ここ最近はなぜか欲しい新作ゲームラッシュなので予定が大幅にずれることがまたあるかもしれませんが了承下さい。