73話 レコン・キスタ包囲網を突破せよ
城に戻ったウェールズはすぐに俺たちに貸し出せる風竜がいないかを兵たちに尋ねたが結果は芳しくなかった。
「やはりこれまでに失った数が多いため、貸し出せるほど風竜が残っていないようです。力になれず申し訳ない。」
「そ、そんな!ウェールズ皇太子殿下のせいではありません!どうかお顔を上げてください!」
「そ、そうですよ!悪いのはレコン・キスタですから!」
頭を下げるウェールズにルイズやギーシュが慌ててフォローを行っていた。
風竜はアルビオン軍の要だ。
ウェールズやジェームズ1世をここまで逃すためのレコン・キスタとの戦闘でその大多数が失われてしまったようだ。
わたわたと回りを見まわしていたギーシュが風竜よりも数が多いワイバーンに目を止める。
「そ、そうだ!ワイバーンを借りることはできないでしょうか?ワイバーンも空を飛べますし、アルビオンを脱出できるのではないでしょうか?」
いい考えだと表情を明るくするギーシュにウェールズは首を横に振った。
「残念ながらワイバーンではアルビオンを脱出することはできないのです。比較的トリステインに近づいているとはいえ、ワイバーンの飛ぶ能力では休みなしでは陸地まで飛べないのです。」
「そ、そうですか……」
残念そうにギーシュは方を落とした。
シルフィードでは重量オーバー。
アルビオン軍から風竜を借りることもできない。
ワイバーンでは海を越えられない。
今からではフネを手配してもレコン・キスタに包囲される。
と、俺たちが通常の方法でアルビオンを脱出する術はなく、かといってこの場から離れて戦闘から逃れたらどうか。
それは一時的な戦闘からの逃避にしかならないだろう。
なぜなら、もし俺がワルドならば虚無であるルイズがまだアルビオンにいて、その護衛が少数ならば捜索を行い、護衛を排除してルイズを得るだろうと考えるからだ。
そこで俺たちがここから離れるという選択をしてワルドからの追手があった場合、一度、二度と退けることができてもその後も追撃が続けば、そのうち精神力が尽きてやられてしまうだろう。
例え俺やタバサ、そしてサイトなど能力の高い個体がいても精神力や体力が有限ならば物量作戦に出られてはひとたまりもない。
多数に対し少数精鋭で出来ることは限られている。
ここでルイズやサイトたちを死なす訳にはいかず、あって間もないがウェールズをこのまま死なせたくないと思ってしまったこと、そして何より自分が死にたくないと思った俺はここがこれまで鍛え上げてきた自分の力の全力を出す場面だと悟った。
俺の意思は固まったがそれをウェールズやジェームズ1世に伝える前にキュルケたちの意見もちゃんと確認しないといけない、とキュルケたちに話しかけた。
「なあ、皆。ワルド卿がレコン・キスタ側の人間だったことでうやむやになりそうだけど、皆はウェールズ皇太子殿下の亡命のことをどう考えている?」
俺のこの言葉に皆不思議そうな目を俺に向けてくる。
その視線を無視して俺は言葉を続ける。
「皇太子殿下は王族だから国際的な問題を無視できないのは承知だけど僕個人としては、親の願いを受けた1人の子供として生き残る決意を持ったことに好感を覚えたんだ。王族としては間違っているのかもしれないけど、王としてではなく親として皇太子殿下に生きて欲しいと思ったジェームズ1世陛下とその思いに答えてその決断を行ったウェールズ皇太子殿下に対して僕は皇太子殿下の亡命を個人的に手を貸してあげたと思っている。」
「わ、私もお義兄様と同じです!私も皇太子殿下の亡命をお手伝いします!」
俺の言葉のすぐあとにルイズが声を上げた。
「俺も賛成だな。っていうか、何ができるか分かんねえけど助けを必要としている人を無視できないしな。」
「オイオイ。相棒ハ伝説ノ使イ魔ガンダールヴダゼ?戦闘ニ関シテハ文句ナシデ力ニナレルダロ!」
不安がありながらも賛同を示したサイトにデルフが喝を入れる。
「ミスタ・ツェルプストー、君にそんなことを言われなくても僕は始めから手をお貸しすると決めていたよ!」
ギーシュはバラの付いた杖でポーズをとりながら言う。
「まあ、私はどちらでもいいんだけどダーリンが手伝うなら私もそれに付き合うまでだわ。」
「うふふ、そうね。私もお手伝い致しますわ。それに皇太子殿下とは親戚筋になりますからなるべくお力になりたかったというのもありますしね。」
キュルケとカトレアさんも異存はないようだ。
「……私は他国のことだし、手は出せない。」
タバサはガリア出身だし、それにシュバリエの位をもっているので簡単に他国の揉め事に首を突っ込むことはできないのだろう。
賛同はしてくれていないが、反対だということも示していない。
もし、皇太子殿下の亡命を行うこととなったとして、俺たちにレコン・キスタが攻撃を仕掛けてきたらどうするかとタバサに尋ねたところ、
「降りかかる火の粉は払うまで。」
という返事が返ってきたのだった。
これでウェールズの亡命に対し皆ほぼ賛成という
「というか、そういう話の前にまずはここを脱出する算段をつけるのが先決では?」
「そ、そうですお義兄様!レコン・キスタに包囲されつつあるのにどうやってアルビオンを離れてトリステインに戻るつもりなのですか?」
タバサやルイズの疑問は当然だ。
その話をするためにも俺はウェールズに声をかけ、すぐにジェームズ1世と話が出来るようにしてもらった。
「男爵に代わって貴公たちがウェールズの亡命に手を貸してくれるというのは本当か!?」
「は、はい!私たちがせ、責任を持って皇太子殿下をトリステインへとお連れします!」
ジェームズ1世の少し嬉しそうな声にルイズが緊張した様子で答える。
どうして俺ではなくルイズが俺たちの代表としてジェームズ1世に返答しているかといえば、ルイズが一番適任だからだ。
ウェールズはトリステインに亡命をするのだからトリステインの貴族がそれを手伝うのが道理であり、ヴァリエール家はアルビオン王家と親戚筋になっており、そしてルイズがそもそもアンリエッタ姫の依頼でアルビオンに来たということもあるのでルイズが対応するのが一番いいのだ。
ゲルマニアの貴族である俺やキュルケ、そしてタバサはあくまでルイズの級友としてこの場から脱出するのに手を貸すということにする。
「貴公たちの気持ちは嬉しいがもはやここはレコン・キスタに包囲されつつある。ウェールズを連れてトリステインへと向かうだけでなく、貴公たち自身がここを離れることも難しい状態だが一体どうするつもりなのだ?」
「そ、それは……」
ルイズが言いよどんだところにすかさず、俺がルイズの横に立った。
「ここからは私が説明致します。」
「ふむ?では、頼もうか。」
「はい。その前にレコン・キスタの包囲がどれほど進んでいるか情報はありますでしょうか?それがあればさらに亡命が成功する確率が上がるのですが……」
「ふむ。すでに城の回りを風竜により偵察していたはずだが……状況はどうなっておるか?」
「はっ!すぐに確認して参ります!」
ジェームズ1世が隣に控えている兵士に尋ねると兵士が外へと駆けていき、しばらくするともう1人の兵士を連れて戻ってきた。
新たにやってきた兵士が扉のところでかしこまってから声を発した。
「偵察部隊、只今戻りました!」
「ご苦労。で、どうだったかね?」
「はっ!現在、およそ北に30隻、西に10隻、東に30隻、南に30隻とレコン・キスタはその戦力の大多数にて城を取り囲むようにフネを動かしております。」
「うむ……それほどまでか……」
レコン・キスタのフネの配置を聞き、アルビオンからトリステインへと向かう方向である南側とアルビオンから離れる東側の2方向にも多くの戦力が割かれていることからワルドがすでにレコン・キスタと合流していることが考えらる。
そんなことを考えていると報告した兵士が言いにくそうに言葉を続けていた。
「さらにはっきりとした報告ではないのですが……北側の艦隊にロイヤル・ソヴリン号の姿が見えたとの報告が入っております。」
「何っ!?それは本当か!」
その報告を受けたジェームズ1世だけでなく、ウェールズやこの部屋にいた他の兵士にもざわっと動揺が走っていた。
「はっ。夜での『遠見』によるものなのではっきりとは言えないそうなのですが、他のフネの倍以上の形はロイヤル・ソヴリン号をおいて他にはないかと……」
「なあ。ロイヤルなんとか号って何だ?そんなにヤバいものなのか?」
動揺が収まりきらない部屋において状況が分からないサイトが隣に立っているギーシュに尋ねていたがギーシュも分からずに返答に困っているようだった。
俺もロイヤル・ソヴリン号というのがどういうフネなのか分からないので不安要素は少しでも減らすためにそのフネに関する情報を尋ねた。
「他国の貴公ら、それも学生なら知らないのも無理はない。ロイヤル・ソヴリン号というのは元はアルビオン王国軍の旗艦なのだ。全長200メイル、両舷あわせて108門の大砲を備えておる。またその巨体により風竜や火竜を操る竜騎士隊を数多く載せることが可能となった世界最大最強言っても過言ではないフネなのだ。アルビオン王国軍の更なる発展と思って建造したがよもやレコン・キスタに奪われてしまうとはな……」
ジェームズ1世の話を聞くだけでロイヤル・ソヴリン号がヤバそうだということが伝わってくる。
まさに敵に回したら厄介な相手、というやつだ。
「な、なんだかとてもすごいフネだということが分かりましたが僕たちが向かうのはトリステイン、つまり南方向なのですから直接やり合うことはないので少し安心ですよね。」
「た、確かにそうだな!」
ギーシュがポツリと呟いた言葉だがそれは動揺していた人たちを少し正気に戻してくれた。
「じゃあ、フネの数が少ない西側から脱出するのか?」
後ろからかかったサイトの言葉に俺は首を振った。
「いや、西側は陸地が続いているし、トリステイン方向へと向かうとなると結局は南側の戦力と戦うこととなってしまうし、そうして南側と戦っている間に他のところの戦力が回ってきて挟撃されかねないから西側はダメだろう。」
「そんなもんか……」
俺の言葉にサイトは残念そうに答えた。
「ふむ。では……」
「はい。南側を中央突破したいと考えております。この南側の戦力を撃破しつつ包囲網を抜けられれば追撃の心配はなるかと思われます。」
「何っ?ミスタ・ツェルプストーにはこちらの戦力で南側の30隻を撃破できると考えているのか!?」
ジェームズ1世は俺の言葉に少し呆れたように声を出し、そばにいる兵士がジェームズ1世の言葉をフォローするように言葉を繋げた。
「お言葉ですがミスタ・ツェルプストー、こちらの戦力となるフネは2隻。それも1隻は軍艦ではないので実質戦力としてはフネ1隻ですよ!?こちらの竜騎士隊も数が少ない状態でどのように突破するつもりなのですか?」
「私が進路上にあるフネを落とすつもり……いや、落とします!」
俺はこの言葉を言った瞬間、とうとう言ってしまった!という感傷に囚われた。
ジェームズ1世やウェールズや部屋にいる兵士といったアルビオン側の人たちだけでなく、キュルケやルイズたちも俺の言ったことが信じられないといった目で俺を見ていた。
「しょ、正気か!?フネ30隻、それに随伴しているレコン・キスタの竜騎士隊は50騎はくだらないのだぞ!?それを……たった1人で相手するというのか!?」
「そ、そうよ!いくらダーリンが強いからってそんなに多くの敵を相手にできるわけないわ!」
俺の無謀な提案を心配して声をかけてくるジェームズ1世やキュルケに対して俺は少し笑いながら答える。
「ふふ。勿論すべてを相手にするわけではありませんよ。フネは動力となっている風石を破壊できれば航行不能させられるわけですし、竜騎士隊も最低限だけ相手にして後はやり過ごせばいいのですから。」
「だが、そう簡単にはいかんだろう?」
「そうでしょう。しかし、このままではただ包囲されてやられるだけです。私は死にたくありませんし、皇太子殿下やルイズたちを死なすこともしたくない。ならば少ない可能性でもそれに賭けてみるしかないのです。」
「う、うむ、それはそうだが……」
「国王陛下は私にフネを30隻も落とせる能力があるのか心配なさっているのでしょうが問題ありません。私はあの烈風カリンを師事し、個人としての能力ならば引けを取らないと自負していますので。」
「烈風カリン!?あの生きる伝説のか!そうれならば、あるいは……」
俺がお義母さんこと、烈風カリンの名前を出した途端ジェームズ1世や他の兵士の俺に対する雰囲気が一変したのを感じた。
やっぱり実績あると対応がまるで違うな、と思っていると偵察の報告した兵士の人が杖を上げた。
「ミスタ・ツェルプストー、貴公は南からの最短ルートでトリステインを目指したいようだが、仮に南側の戦力を順調に撃破出来たとしても他の場所からの追撃を振り切ることはできないだろう。」
「どうしてそうお考えになるのですか?」
「他の時期なら貴公の案で問題なかったのだろうが、今は時期が悪い。」
「時期?……風、でしょうか?」
「ああ。今の季節は北から南側に風が吹いているのだ。フネは基本同じ速度だが、風系統の魔法による補助を行えば追いつくことも考えられる。」
「そうですか……しかし!」
俺が反論しようとすると兵士は首を横に振った。
無理というサインかとも思ったが兵士の表情は俺の提案を否定しようとする顔ではなかった。
「いや、貴公の案が殿下を生かす唯一の手だと思う。そこでそれをさらに確実にするために突破するのは南側ではなく東側にすることを提案させて頂きたい。」
「東側?確かに東側も海に出られますがトリステインへと向かう間に南側と交戦することになるのでは?」
俺が質問すると兵士は地図を取り出した。
「確かに一見すると東側の包囲を抜けた後にトリステインへと向かうまでに南側と交戦しそうに思われますが実は今の時期、東側の先の空域には霧と浮遊岩群があるのです。」
「なるほど!そこを抜けてトリステインへと向かう、ということなのですね。」
「どういうことですか殿下?」
兵士の言葉にウェールズが納得と言わんばかりの声を上げる。
そのことについてウェールズに尋ねると、どうやらレコン・キスタの操船技術はそこまで高いものではないため、霧の中に浮かぶ浮遊岩群を抜けられないだろうということだった。
「でもよ、正規軍の中からレコン・キスタへと寝返った奴らもいるんだよな?そいつらが追ってくるっていうのもあるんじゃね?」
「ちょっとサイト!」
サイトの疑問はもっともだ。
それについては何か考えがあるのかと思っていると以外なところから声がかかった。
「それならば我が殿を務めようではないか。フネは2隻あるのだ、ウェールズや貴公らを運ぶのは1隻で十分であろう。」
「陛下!?」
部屋にいた誰もが驚いた顔をジェームズ1世に向けた。
「ここまで我らを逃すのに死んでいった兵に報いることはできないと思っておったが、まだ我の命には最後の使い道があったようだな。」
「父上!?何も父上が行わなくても!それにミスタ・ツェルプストーの案なら一緒に亡命をすることも可能です!」
「よい。元より玉砕しようとしていたのだ、何も我が行うことに変わりはない。それに殿であっても王族が乗っていないならばレコン・キスタの追手どもの足は止まらんだろう。」
「どういうこと?」
ジェームズ1世の言葉にサイトは小声でルイズに尋ねると、ルイズも小声で手短に返事をしていた。
「レコン・キスタが行っているのは革命なのよ。そのためには王族を捕えないと前政権の終わりを示せないのよ。だから殿に国王陛下がいらっしゃれば追手はまずそちらに手を回さないといけなくなって、その間に私たちの乗るフネは距離を稼げるっていうことよ。」
「はー。そんなもんなのか。」
ルイズがサイトに説明している間にウェールズはジェームズ1世に説得される形でジェームズ1世が殿を務めることに渋々納得したようだ。
「よし。それではもうあまり時間はない。我と共に殿を務めるものは悪いが兵の編成を考え直すように伝えてくれ。」
「はっ!しかし陛下、我々の中に陛下と運命を共にできることを良からぬと思う者はおりません。」
「……そうか。」
兵士の言葉に嬉しそうでもあり悲しそうでもある表情を浮かべているジェームズ1世に声をかけるのは雰囲気を壊すようで申し訳ないかと思ったが、大事なことなのでちゃんと話を通しておかなければいけないと声をかけた。
「陛下、お願い事があるのですがよろしいでしょうか?」
「ん?我に可能なことなら言ってみるがよい。」
「ありがとうございます。レコン・キスタの艦隊に切り込む際にこの普通の服では心許無いので鎧を貸していただけないでしょうか?」
「なんだ、そのようなことか。分かった。貴公に合う鎧を見繕わせよう。」
「ありがとうございます。それとその鎧に細工を施したいので数名の土系統のメイジの手をお借りしたいのですがよろしいでしょうか?」
「構わん。鎧と一緒に手を貸せる土メイジを貴公に付かせよう。」
「ありがとうございます。」
こうして話が終わった俺たちはジェームズ1世のいる部屋から退出した。
俺は鎧が置いてある武器庫へと案内してもらい、キュルケたちはウェールズと一緒に出撃まで別の部屋で待機することとなった。
2時間後、日の出よりも少し早くにニューカッスル城から2隻のフネが出港した。
「さっきは格好良かったわよダーリン!」
「はぁー。ああいうのは柄じゃないんだが……」
城を出港する前に出陣式があり、そこで今回ウェールズ亡命の要として敵艦隊を落とす役割の俺が壇上へと呼ばれ、何かしら言わなくてはいけない状態となってしまったのだ。
ここで下手に言葉を選んで士気が下がってはいけない、短い言葉で今の状態と望むことを言い表さなければ!、と思った俺は杖を掲げて叫んだ。
「無茶だ無謀だと思うだろうが、今は道理を引っ込めるために無理を押し通す時!このヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと諸君らの力で未来を切り開こうではないか!」
とっさに思い浮かんだ言葉だったが状況と一致していたようで兵士への受けは悪くないかったようだ。
アニメ見ていてよかった、とほっと胸を撫で下ろしながら感謝したのだった。
「それにしてもダーリンの鎧、なんかすごいわね。所々普通の鎧と全く別物になっているわ。」
俺が借りた鎧に手を加えたものをキュルケたちは興味深そうにしている。
「俺は鎧なんて実物みるのは初めてだけど、普通は肩に着けるやつはそんなに大きいのか?」
サイトが指差しながら俺の両肩のパーツを指さしながら聞いてくる。
俺の両肩のパーツは1つが頭よりも大きなパーツになっており、前から見て外見的にはかなり肩が張ったというレベルではないくらいに目立っていた。
ロボットで例えるならウイングガンダムのような肩パーツになっていると言えば分かりやすいかもしれない。
「いや、普通はもっと小さいよ。」
「じゃあ何でこんなに大きくしたんだ?」
「実はこの中には俺がいつも着けてるIFGと予備として持っていたIFGがそれぞれ入っているんだよ。そしてさらに敵の真っ只中に突撃するのだからIFGの発動時間を長くしたいと思って大きめの風石を無理やり取り付けているんだよ。」
レコン・キスタの竜騎士隊をやり過ごしてフネに到達するにはどうしても高速で魔法を掻い潜らなければいけない。
2、3騎が相手だったら気配を読めば何とかなるが流石に50騎が相手では気配を読み切れないかもしれないと考えた俺は『I・フィールド』を張って突っ込めばいいと思ったが問題があった。
高速でフネまで移動するのに必要なのは『フライ』と『トランザム』でここで既に2つの同時に魔法を発動しているのでさらに『I・フィールド』を発動させる余裕がないのだ。
『I・フィールド』を発動させるだけならマジックアイテムIFGがあるが、如何せん普通のままでは発動しても精々1、2秒しか持たない。
そこで長時間発動できるようにIFGに無理やり大きめの風石を取り付け、さらに体の中心に近くであまり動かない場所で体を動きを邪魔しにくい所を考えた場合、肩の場所に取り付けることにしたので肩のパーツをそれ用に大きく改造してもらった。
盾などの外部装備も考えたが、うっかり落としてしまったらそれまでなのでその案は自分の中で速攻却下した。
「はー、じゃあこの肩のやつの中身はほぼ風石ってことか。」
「そういう事だ。」
風石の大きさは普段付けている風石の1000倍位大きいが純度があまり高くないため、計算上はIFGが105秒位連続発動していることとなる。
正直、かなりギリギリの発動時間だが、敗戦とワルドたちによる破壊工作により物資が少なくなった今のアルビオン軍ではフネを飛ばすための風石のあまりを貰えただけでも幸運だったといえるだろう。
それにしても『I・フィールド』の2重展開だとどれくらいの攻撃が防げるようになるのか興味はあるが本番では試したくないところだ、とふと思った自分をアホだなと思った。
「ねえお義兄様?この鎧から後ろに伸びている筒のようなものはなんですか?」
ルイズが鎧の背中側から伸びている1メイル位の筒状のものを不思議そうに眺めていた。
俺はマントを少しめくって見やすいようにする。
因みにメイジは鎧を着ている時でもマントを着用するのがメイジ、延いては貴族としての嗜みらしい。
「これは風石によって『ウインド』の風系統の魔法を身体の後ろ向きに発動させることで飛ぶのをより速くするためのマジックアイテムだよ。この戦いはいかに早くフネを落としていくかが問題だからね。」
「な、なるほど……」
背中に付いている筒状の中にもほぼギッシリと風石が詰め込まれていて、『ウインド』の継続発動時間はおよそ120秒だ。
恐らく理屈的にはブースターと同じ働きをしてくれると考えているがぶっつけ本番なのでどこまで上手くいくかは不明なところだ。
「何だかすごいわねー。でも、そんなに色々つけたらとても重いのではないかしら?鎧って普通のものでもかなり重いと聞いたことがありますが?」
「はい。カトレアさんの指摘通り、この鎧はかなり重くて総重量おそよ250リーブルあります。」
「ええっ!?」
俺がそういうと本日何度目かの信じられないという表情で俺を見た。
因みに1リーブルが地球の重さに換算すると0.5kgなので250リーブルは大体125kgとなる。
「よ、よくそんな重い鎧を着けて平気な顔をしていられるなツェルプストー……」
感心した呟きのようなギーシュの言葉に俺は少し含み笑いをした。
「確かに総重量は250リーブルだけど、感じる重さとしては普通の上着程度なんだ。」
俺の言葉に皆頭に疑問符を浮かべている様子が分かる。
「この鎧をよく見てもらうと分かるけど、随所に大小様々な風石が埋め込まれているだろう。この風石の物を浮かべる力で重い鎧を軽く感じさせているんだよ。」
「そうなのか。ただの装飾ではなかったんだな。」
因みにこの風石によって鎧を軽くする手法はすでに王族や位の高い貴族の着る鎧に使われている。
全ての鎧にこの方法が用いられないのは一定時間毎に風石を新調しなければいけないので維持費が掛かることが問題となっているのだろう。
確かギーシュはいいとこの出なのでそのうち着るだろうな。
そんな風に話していると兵士が1騎の風竜を連れてくる。
これは俺が頼んだものでレコン・キスタは数リーグ離れて城を包囲しており東側の艦隊まで『フライ』で近くまで飛んでいくと時間がかかるので近くまで風竜に乗せてもらうことにしたのだ。
「それじゃあ、行ってこようかな。」
「ヴァルムロートさん、あまり無理はしないで下さいね。」
「いえ、ここは少し無理するところですカトレアさん。まあ、怪我はしたくないですけどね。」
「そうでしたわね……頑張ってください。」
そう言って俺の手を握るカトレアさんとそれに対抗してか抱き付いてくるキュルケを好きにさせている俺にサイトが声をかけた。
「今更なんだが、1人で30隻っていけそうなのか?結構無理っぽくないか?」
「ああ、それなら大丈夫。1人10隻だから。」
そう言って俺は『ユビキタス』を唱え、2人の偏在を呼び出す。
「ヴ、ヴァルムロート!?君は一体!?」
「おおっ!?お前もそれ、使えたのか!?」
「偏在!?……ヴァルムロートは風のスクウェアだったの?」
俺の偏在を見て、サイトとギーシュは声を上げて驚き、タバサも目を見開くように驚いた表情をしていた。
その様子をみた俺は少しだけ得意げになりながらも風竜の背に跨るとゼファーが自分も乗せろと言わんばかりに近寄ってくる。
「悪いなゼファー。今回は皆とフネを守ってくれ。それじゃあ防衛は頼んだよ。」
キュルケがゼファーを抱きかかえながら俺の言葉に応えた。
「ええ!任せておいて!」
「ああ。……それではお願いします。」
俺たちを乗せた風竜がバサッバサッと羽ばたくとフネを離れ、東側のレコン・キスタの艦隊に向かって飛んでいく。
俺たちのフネとレコン・キスタのフネとの丁度真ん中までくるとレコン・キスタ側の竜騎士隊がフネから飛び立つのが見えた。
その数全部でおよそ50騎、その中から俺へ積極的に向かってくるのは風竜で編成された8騎の風竜部隊のようだ。
「ここまででいいです。戻ってフネの防衛をお願いします。」
俺をここまで送ってくれた兵士は「分かりました。ご武運を!」と言うとフネへと引き返していった。
『フライ』を使って浮かんでいる俺は約1リーグ先の艦隊を見つめる。
「さて……俺は真ん中を行くかな。」
「じゃあ、俺は左側から攻めるか。」
「それじゃあ、俺は右だな。」
そう言ってから俺たちは斬艦刀を抜くと柄に杖をはめ込み、それぞれの行く方向に向いた。
「「「よし!行っくぞ!」」」
同時に動き足した俺たちは同時に『トランザム』を発動させ、さらに背中の風石式ブースターを発動させて高速で離れていく。
対象物がないので速度を実感しにくいがブースターを使っているといつもの『トランザム』による『フライ』よりもずっと速く感じた。
その速度のおかげですぐにレコン・キスタの竜騎士隊の射程に入り、俺に向かって雨あられとばかりに幾多の魔法が俺に向かって放たれた。
「来たか!このまま突っ込む!」
俺は『I・フィールド』が防いでくることを信じて、竜騎士隊の風竜と風竜との間を通り抜けられるように微調整をしながら真っ直ぐ魔法へと向かっていく。
竜騎士隊が放った魔法に俺が向かっていく形になっているので魔法の相対速度はかなりのものだが、それでも両肩に付けられた急造の風石増量型IFGは正常に動いてくれたようで俺に魔法が当たる直前に『I・フィールド』を発動させた。
自分たちが放った魔法が俺を避けている様子に驚いている竜騎士隊を横目に俺は風竜部隊のど真ん中に猛スピードで突っ込み、そのまま通り抜けた。
すぐさま風竜部隊は方向転換して俺を追ってきた。
「俺を追ってくるのは半分で残り半分はフネに向かったか。追手との距離は縮まって……ない!」
風竜はハルケギニアで最速の生物だが『トランザム』状態で『フライ』を使い、さらに風石によるブースターで加速している今の俺はその風竜と互角の速度を手に入れていた……時間制限付きだが。
風竜部隊を後目に前を向くと次に待ち構えている竜騎士隊は火竜とワイバーンによる混成部隊で火竜4騎、ワイバーン5騎っといったところだろうか。
そのすぐ後ろに俺から一番近いレコン・キスタのフネがいる。
俺は今度はその混成部隊に突っ込むのではなく、上側に大きく避けるルートを通るように『フライ』で体を操作する。
俺の動きを阻止するようにワイバーン隊は俺の進路上に移動し、火竜隊は魔法と火竜のブレスによる攻撃を加えてくる。
しかし、風竜と同じ速度で動き、風竜よりもずっと小さい俺に攻撃を与えることは出来なかった。
そのまま俺の進路を妨害するワイバーン隊の目の前へとやってきた俺は『フライ』での体の動きを微調節ではなく大きく急旋回させるように動かしながら、ワイバーン隊の間を縫うように進んでいく。
ワイバーンを避けるのに体の向きを変えるたびにジェットコースターで味わった、いやそれ以上の衝撃を体に受けるのを歯を食いしばって耐える。
ワイバーン隊をやり過ごしている時に少しの隙を見つけるたびに俺は大剣モードへと変えた斬艦刀で通り過ぎ様に数騎のワイバーン隊を切り捨てていった。
そしてフネの上空へとやってきた俺は体の向きをフネへと一旦向けると攻撃の為に『フライ』を止め、ブースターの推進力だけで真っ直ぐフネへと落ちて行く。
『フライ』を使っていないブースターだけの速度は普通の状態の『フライ』と同じくらいの速度なので竜騎士隊やフネの護衛隊からは狙われ放題だが、その攻撃を2重の『I・フィールド』で防ぐことで『フランベルグ』のスペルを唱える数秒を稼ぐ。
普段の『フランベルグ』の炎の刀身は5メイル位だが『トランザム』を使っている今なら約10メイルの大きさの刀身になる。
そして10メイルの大きさがあれば普通のフネを輪切りにすることが可能だった。
「『フランベルグ』!うおおおおおっ!」
俺はフネとすれ違うその一瞬に『フランベルグ』を発動させ、フネを浮かせている風石があるであろう場所、フネの真ん中に向かって10メイルの炎の刀身をもった『フランベルグ』を振り下ろした。
真っ二つにされたフネは斬ったところからV字に折れ曲がったように2つに分かれ、風石を失ったためかそのままの状態で落下していった。
「よし!次!」
その落下していく様子をみることなく俺は『フランベルグ』を止めるとすぐさま『フライ』を使って炎の軌跡を残しながら次の目標へと向かった。
「陛下、ミスタ・ツェルプストーがレコンキスタ側の艦隊に接触したようです。」
城でジェームズ1世の横にいた兵士が『遠見』でヴァルムロートの行動を追っている兵士からの報告をジェームズ1世に告げた。。
「それはここからでも十分見える。偏在と手分けしているとはいえ開戦30秒足らずですでに3隻落とすとは、まさに烈風の弟子に相応しい強さだ。」
「はい。ヴァリエール家の者と同行していたので烈風の弟子であることは疑っていませんでしたが、本当に烈風と同等の力を持っているのかもしれません。」
「うむ。こちらも色々と手伝いをしたようだが、それでも風竜に劣らない速度で飛び、フネを1撃で破壊する攻撃力……圧巻だな。」
「“烈風”の二つ名は代々譲り渡してきた、所謂“二つ名の継承”を行うものですから彼もそのうち“烈風”の二つ名を継ぐことになるのかもしれませんね。」
「しかし、今この目で見ている限り、彼の場合は烈風の風といよりも火の方が印象としては強く感じる。」
1、2リーグ先で動くヴァルムロートは『トランザム』によって炎を纏っていることで空に赤い炎の軌跡を描く。
そしてまた1隻、風石をフネの船底ごと撫で斬りするように『フランベルグ』で破壊して航行不能にしていた。
「炎を纏って高速で戦場を駆け、炎の剣で敵を薙ぎ払う……確かに彼の今の印象と一致しますね。」
「“烈火”この言葉の方がしっくりくるな。」
この会話を慌ただしい中で聞いていた他の兵士たちの口伝により、出陣式で“炎剣”の二つ名を名乗っていなかったヴァルムロートはアルビオン軍の兵士の間で二つ名が“烈火”ということで広がっていくのだった。
「そろそろこちらに向かってくるレコン・キスタの竜騎士隊と戦闘になる頃合いか……こちらのフネを前に出せ!レコン・キスタの竜騎士隊をウェールズの乗っているフネに近づけさせるな!」
「はっ!あちらのフネにこのフネの後ろに回るように伝えろ!竜騎士隊は出撃だ!」
兵士の声に船内が一層慌ただしくなる。
甲板にいた竜騎士隊は準備が出来た者から飛び立ち、手旗信号で行われた隣のフネへの伝令によってフネの陣形が横から縦へと変わった。
「数は向こうが多いが、レコン・キスタにアルビオン王国正規軍の底力を見せつけてやれ!」
ジェームズ1世の号令でレコンキスタ側の竜騎士隊に向かって竜騎士隊が打って出た。
しかし、ここまでの連戦でほとんどの竜騎士を失っているアルビオン軍とレコン・キスタでは多勢に無勢となり、ジェームズ1世が乗るフネが先行しているとはいえウェールズが乗る後ろのフネへの攻撃を防げるものではない。
竜騎士隊とジェームズ1世の乗るフネからの攻撃をすり抜けてくるレコン・キスタの竜騎士に対しウェールズたちはキュルケやその使い魔の力を借りながら何とかフネの防衛を行っている状態だった。
そんな中ヴァルムロートがレコン・キスタ艦隊のフネを航行不能にしていることはレコン・キスタの竜騎士隊による攻撃に押され気味のキュルケたちの励ましとなっていた。
「あれが烈風の弟子、ミスタ・ツェルプストーの実力……凄まじいの一言に尽きますね。」
「ええ!何たって私たちのダーリンなのですから!」
「でも、怪我をしていないか心配ね。」
敵の攻撃の合間に息を整えながらウェールズは予想以上の強さを見せるヴァルムロートに素直に感心していた。
その声にキュルケは自身のことのように自慢し、カトレアはヴァルムロートの怪我の心配はしていた。
本来ならば艦隊に1人突撃するというのは死にに行くようなものだがキュルケもカトレアもヴァルムロートが絶対に生きて戻ってくるという不思議な自身があった。
「……」
自身の使い魔であるシルフィードを駆ってフネの防衛の要として働いているタバサもまた戦闘中であるというのに次々とフネを落としていくヴァルムロートの姿に気をとられずにはいられない様子だった。
「タバサ危ないわよ!」
ヴァルムロートの気をとられて後ろからの接近に気が付いていないタバサに向かってルイズが叫ぶ。
その声にハッとするももうシールド系の魔法も間に合わないと冷静に判断しているタバサと迫る竜騎士の間にヒュッ!ヒュッ!と矢が飛んだ。
その矢による弾幕で竜騎士の動きが鈍り、その隙にタバサが距離をとることができた。
「あいつは確かにすげえけど、こっちはこっちでヤバいんだから気を付けろよ!」
矢を放ったのはサイトだった。
サイト自身、弓道をやったことは一度もなかったがガンダールヴの力によって素人のサイトでも名人以上の腕前を出すことができたのだった。
「うん。……ありがと。」
サイトの言葉に素直に頷いたタバサをみて、もうタバサは大丈夫だろうと考えたサイトはまた別の方向からフネに近づく竜騎士に矢を向ける。
ただし、弓矢では魔法で防御を行うメイジに対して有効な攻撃を行うことは出来ず、牽制してフネになるべく近づけさせないようにするので精一杯なことにサイトは少しもどかしさを感じていた。
そして、もう1人いや1匹もどかしさを感じていた、ゼファーだ。
ゼファーがそう感じているのは1人レコン・キスタ艦隊へと突撃したヴァルムロートに付いていけなかったからだ。
使い魔として常に召喚したメイジのそばにいるということだけでなく、ポケモンとして自身が信頼したパートナーと一緒に戦えないことにもどかしさと寂しさを感じていた。
そしてこのフネで自分がもっとも能力が低いことに怒りに似た感情も感じていた。
このフネで防衛を行っているアルビオン軍のメイジは皆ライン以上の力を持ち、ゼファーの隣にいるキュルケの使い魔でサラマンダーのフレイムはゼファーよりも強い炎を吐き、タバサの使い魔である風竜のシルフィードは言うに及ばず、ドットランクであるギーシュもその使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデと協力して防衛に役に立っている。
負傷者の治療に専念しているカトレアの使い魔である海竜のクーはこの防衛戦では特に目立った働きをしておらず、ゼファーの方が役に立っているといえるがポケモンとしての相性でゼファーはクーにどこか苦手意識があるのだった。
そういうことからゼファーが、今よりもっと強くなりたい、と強く念じると異変が起こった。
「えっ?ぜ、ゼファー!?どうしちゃったの!?」
近くにしたキュルケが驚きの声を上げた。
その場にいた敵味方関係なく全員の手が止まり、ゼファーに起こった異変に目を奪われたのだった。
ゼファーの体が光り輝いていた。
「な、何か、起こっているの?」
ゼファーを包む光が一段と輝いたかと思うとその光の輪郭が今までのゼファーよりも2回り大きくなっていた。
そしてゼファーを包んでいた光が弾けると、先程までゼファーがいた場所にゼファーより体が2回りくらい大きいモンスターがいた。
二本足で立っている高さはフレイムが立った時とほぼ同じくらいのおよそ1.3メイル、頭の後ろには1本の角が生え、顔は目がキリッとした凛々しい感じで手足には大きく尖った爪を持っていた。
「あなた、ゼファー……なの?」
キュルケが恐る恐るそのモンスターに尋ねるとそのモンスターは力強く「ガウッ!」と答えた。
「そ、そう。ゼファーなのね……サラマンダーってこうやって大きくなるのかしら?違うわよね……ダーリンのだから、かしら?」
戸惑っているキュルケにゼファーと思われるモンスターはもう一度「ガウッ!」と鳴くと驚いて動きの止まっている竜騎士に向かって小さなゼファーの時の数段強力な炎を吐いて後退させた。
隣にいるフレイムには最初からこのモンスターが姿が変わったゼファーだと分かっており、その様子を察したキュルケはこのモンスターがゼファーだと改めて確信した。
「やっぱり、ゼファーなのね。なんだかよく分からないけど、強くなったのなら好都合だわ!やりなさいフレイム!ゼファー!」
キュルケの号令でフレイムとゼファーがゴオオオッ!と強力な炎を吐いた。
ゼファーの様子をみていたサイトはアニメでみたことあるような光景だなと思ったがまさかそれが事実であるということには結びつかなかった。
そう、ゼファーはヒトカゲからリザードへと進化したのだ。
ゼファーはこれまでのヴァルムロートとの訓練によって経験値は十分に貯まっており、後は何かしらの切っ掛けがあれば進化できる状態だったのだ。
リザードへと進化し強くなったゼファーはこれまでの鬱憤を晴らすかのように竜騎士に向かって炎を吐いていた。
戦力が増えて形勢逆転、とはいかないまでも何とか五分の戦いができるようになった。
「くっ!我が艦隊は何をやっておるのだ!たった1人のメイジにいいようにやられおって!」
ロイヤル・ソヴリン号、今はレコン・キスタに接収され新たにレキシントン号と名付けられたフネの艦橋で僧侶の服を着ている男が偉そうに回りのメイジに怒鳴り散らす。
不服そうに艦長席に座り風のメイジが映す『遠見』の魔法で数リーグ先の映像を見ている男がレコン・キスタの代表であるオリバー・クロムウェルだ。
男の口から洩れる文句に自分ではどうしようもないことを言われ困った表情をするメイジがいる一方で半数以上のメイジは全く気にもしていないようにただ自分の仕事を行っているだけだった。
また1隻落とされていく様子を見ながら、この戦局の変化に動じないメイジに向かって再び怒鳴った。
「どうなっておる!アルビオン軍を接収した空軍はハルケギニア最強ではないのか!?それがどうして1人のメイジにいいようにされるのだ!」
「アルビオン王国軍の半数以上の竜騎士隊を接収した我々の対空戦力はハルゲギニアでもっとも高いといえるはずです。ただ、あのような者がいるとは思いもよりせんでしたな。」
「ええい!ウェールズの確保はまだできんのか!?」
「こちらもフネの防衛が強固でなかなか取り付けないようです。」
「くっ……本艦に風メイジを集結させ、魔法をもってさっさとあの王族どもが乗っているフネに追いつけるようにせんか!」
「分かりました。では、早速風メイジに召集をかけましょう。」
このクロムウェルの文句を気にもしないメイジは神経が図太いとか心臓に毛が生えていると言った肝が据わっているから些細なことは気にしない人、ではなくクロムウェルによって死人として蘇ったか洗脳されているかのどちらかなのだ。
死人であろうが洗脳された者であろうがクロムウェルの命令を忠実に行う人形であることは変わず、人形であるからクロムウェルの文句も聞き流していた。
クロムウェルが死人を蘇らせたり、人を洗脳したりすることができるのはクロムウェルが虚無だからだと周りは思っているがそうではない。
クロムウェルは元々メイジでもなんでもないただの平民出の一ブリミル教僧侶に過ぎなかった。
そんな男が虚無如き力を出せるのは眠っていた力が覚醒したなどということではなく、クロムウェルの指に着けている指輪のおかげだ。
数年前、アルビオンの片田舎でただの僧侶をやっていたクロムウェルの前に1人の女がやってきて、この指輪をクロムウェルに授けていた。
以前よりクロムウェルは聖地の奪還を強く思っていたが片田舎のなんのコネも力もない一僧侶の意見など取り上げてもらえるわけもなく、悶々と僧侶の仕事をこなしていたクロムウェルにとってこの魔法の指輪は正に降って湧いた幸運だった。
その後もどういう訳か援助してくれる女の助けもあって、徐々にレコン・キスタは大きくなり、今はアルビオンを手中に収めようとするところまできていた。
「彼が私の言ったメイジさ、ミスタ・クロムウェル。」
「ワルドか。もう傷は大丈夫なのか?」
「片腕がないのは少々不便だが、まあ魔法を使えば特に問題はないだろう。」
そう言ってワルドは二の腕から下に何も通っていない袖を揺らした。
サイトに腕を斬られたワルドは燃える教会から脱出した後、レコン・キスタの艦隊と合流し、そこで本格的な治療を受けていた。
そして今、レコン・キスタの旗艦であるこのフネに乗船してアルビオンが滅ぶ様を高見の見物をしているのだった。
「そうか。しかし、話には聞いたがここまでのものとは思わなかったぞ?」
「彼の師匠の烈風は1人で1個大隊と同じくらいの強さと噂で聞いたことがある。」
「1個大隊!?ばかな!1人で1000人のメイジと兵士と同程度の戦力などと。いくらスクウェアメイジとはいえ普通はトライアングルメイジ数人分の強さのはずだぞ。」
「私も冗談と思っていたが烈風と数年修行してあの強さということを考えれば、あながち冗談ではなかったのかもしれないな。」
「何か弱点のようなものはないのか?」
「それは分からない。だがメイジの魔法の根源は精神力だ。フネを壊すような強力な魔法を連発していればすぐにでも精神力は無くなるだろう。そこを叩けばどんなに強力なメイジでも無力なものさ。」
「なるほどな。しかし、それまで艦隊が持つかどうかという問題があるが……」
そう言っている間にも数隻のフネが落とされる様子が『遠見』の映像に映し出されていた。
「それはこちらからはどうしようもないな。それよりも我々の目的は彼を倒すことではなく、ウェールズの捕獲であろう?」
「それは既に対策はしておる。風メイジが集まればすぐにでも追いつけるであろう。それが醜くも抵抗しておる奴らの最後よ。それにしてもウェールズがトリステインの姫とできているというのは本当だろうな?」
「ああ。2人は恋仲ではないだろうがそれに近しい存在であるのは確かだ。ウェールズを操ることができれば、あの腑抜けの姫などどうとでもできるだろうな……併合も、戦争も。」
「トリステインを無傷でレコン・キスタの傘下に収めることができれば言うことはないが、最悪兵士となる者は手足があれば死体でも構わんのだから、どちらでも問題はさほどではない。」
クロムウェルとワルドが話している間に周りの艦隊から風のメイジがレキシントン号に集められた。
その報告を受けたクロムウェルはすぐさまウェールズたちが乗るフネに迫るように号令を飛ばした。
「7っ!」
俺がレコン・キスタの艦隊に突っ込んでから既に1分以上が経っていた。
正確な秒数は数えていないが風石増量型IFGと風石式ブースターはそれぞれ後30秒と50秒くらい持つはずだった。
「次っ!」
あと俺が担当している撃破しなくてはいけないフネの数は3隻でその3隻のうち1隻は他のフネよりも大きく、これまで撃破したフネの大きさが50メイル程度なのに対しこの1隻は100メイルはありそうな大きさだ。
このフネの艦隊の位置からしてこの東側の旗艦的な役割を持っているのかもしれない。
事実、残り2隻のフネはこのフネを守るように他のフネよりもフネ同士の間隔が狭く、さらに俺の偏在を追っていたレコン・キスタ側の竜騎士が何騎かこちら側の防衛に回ってきているようでちょっと前から攻撃が激しくなったように感じていた。
俺が再び『フライ』を発動させ、距離的に近い護衛艦っぽい動きをしているフネに行こうと防衛網を突破しようとした時に異変が起こった。
ガクン、と体に軽い衝撃があったのだ。
『I・フィールド』はまだ健在だが攻撃を100%防げるという保証はないので俺はどこかに被弾したのかと思い、『トランザム』状態で痛みに鈍感になっている身体の様子をみたがどこにも異常はみられなかった。
おかしいと思っていると先程まで風竜の追跡で追いつかれることがなかったはずの俺の速さに風竜の竜騎士たちが易々と俺の先回りを行ったことで嫌な予想が頭をよぎる。
「ブースターか!?」
確認のため振り向いた一瞬で嫌な予想は現実へと変わっていた。
視界に激しくはためくマントの後ろの方に見える風石式ブースターの後ろが壊れ、そこから中に詰め込んでいた風石が零れ落ちていた。
どうやら先程の強引な防衛網への突破行為で複数の攻撃が偶然に同時に当たり、それにより2重に展開していた『I・フィールド』の攻撃阻止限界みたいなものを超えてしまったのかもしくは『I・フィールド』は俺を中心に球体状に展開しているので攻撃でその球体にゆがみが生じ、その僅かなゆがみの所からブースターの後ろがはみ出した瞬間に攻撃が当たってしまったのかもしれない。
どちらにせよブースターは既にただの重石となっていた。
「“風石式推進器排除”!」
俺がこの言葉を発すると鎧の背部に『固定化』の魔法によって強固に付けられていたブースターがすぐさま外れた。
外れたブースターは俺のすぐ後ろを追跡していた竜騎士に命中し、図らずとも若干追跡を鈍らせる一手となった。
しかし、ブースターの速度強化がなければ残り30秒弱で3隻航行不能にするのは難しいように考えられた。
後30秒程度で2基のIFGの風石のエネルギーがなくなるということもあるがさっき後ろを見たときにキュルケたちのフネが真っ直ぐこちらに向かっているのが見えていた。
そして同時にその後方に今にもキュルケたちのフネに接近しそうな巨大な船影があったことも確認できた俺は俺だけでなくキュルケたちにも時間がないことを悟った。
1隻ずつ航行不能にしていたのでは間に合わないと瞬時に判断した俺は目前に迫った護衛艦っぽいフネを通り過ぎて、その奥にいる旗艦っぽいフネを目指した。
護衛艦からの大砲と乗船しているメイジや兵士の弓矢による攻撃、そして竜騎士隊による騎手の魔法と風竜、火竜のブレスによる攻撃を俺は向けられた殺気が一番薄く交差する場所を選んで飛んでいく。
旗艦の甲板上はメイジと兵士で溢れているような状態であったが俺はそれに構わず、大剣モードの斬艦刀を振り下ろしながら甲板に激突するかのような勢いでその人ごみに突っ込んだ。
斬りかかってくる兵士を逆に切り捨てながら何とか旗艦の甲板に降り立った俺の周囲には数メイル距離をとっているメイジや兵士に囲まれており、頭上を竜騎士隊に押さえられた状態になっていた。
そんな状態でも3隻のフネを航行不能にするために俺はスペルを唱え始める。
この旗艦っぽいフネと2隻の護衛艦っぽいフネは間隔が比較的近いと言ってもいくら『トランザム』状態とはいえ『フランベルグ』や『フランベルグ改』で届くような距離ではない。
その距離およそ100メイル未満。
ここまでくるときにフネの大きさと照らし合わせて距離を算出していた。
そして俺には100メイル未満ならギリギリ届く魔法があった。
しかしその魔法を発動させるには10数秒の詠唱時間だ必要だ。
風石増量型IFGの『I・フィールド』がもつ時間ももうそれくらいしかないだろうがここは賭けてみるしかなかった。
スペルを唱え始めて俺に対する周りからの攻撃に何とか『I・フィールド』と攻撃が少なそうな位置取りによって問題なく進めた。
しかし、8秒たったところで右肩の風石増量型IFGによる『I・フィールド』が切れる。
スペル全体の約6割を唱え終わっていた俺は左肩の風石増量型IFGが最後まで持つことを願いながら残りの詠唱を進める。
だが、その願いも空しく右肩の風石増量型IFGが切れてから3秒後には左肩の風石増量型IFGが風石切れしてしまう。
『I・フィールド』による防御が無くなった俺にこれ幸いと一斉攻撃が俺に降りかかる。
ここで俺は大剣モードの斬艦刀の幅の広い刀身を盾にして俺を取り囲む敵集団へと突っ込む。
俺に詰め寄られた者は俺の纏っている炎によって服や肌が焼けて悲鳴を上げる。
唱え始めてから12秒。
先程まで俺がいた場所に数多の魔法と弓矢が降り注ぐ。
唱え始めてから13秒。
敵集団へと突っ込んだ俺に3人の兵士が斬りかかってきた2人の剣を斬艦刀で受け止め、もう1人の剣は左腕の鎧で受け止める。
唱え始めてから14秒。
3人の剣を受け止めて膠着状態となっている俺に一人のメイジが風魔法で俺は元いた場所へと吹き飛ばされる。
すぐさま起き上がった俺は再び総攻撃がしかけられようとする気配を察する。
そんな俺を取り囲んでいる兵士たちは再び俺が接近してこないように剣先を向けて牽制する。
唱え始めてから15秒。
横に構えていた斬艦刀が炎ともいいがたいような赤い光を発する。
次の瞬間にはその光が甲板と俺の右側を囲っていたメイジや兵士を呑み込んだ。
その巨大な赤い光の剣はすでに右側の護衛艦っぽいフネを貫き、その光に呑み込まれなかったフネの部分は浮遊能力を失って落下し始めていた。
「『トランザムライザー』!うおおおおおおおおっ!!」
すでにここまで散々『トランザム』状態で魔法を、しかもただでさえ精神力の消費が多い『フランベルグ』を使っていたので『トランザムライザー』を使用できる時間は精神力の減り具合からおそらく2、3秒だろうと瞬間的に理解する。
俺はすぐさま斬艦刀から出ている赤い光の剣を左側にいるもう1隻の護衛艦っぽいフネに振り下ろした。
右側の護衛艦っぽいフネから左側の護衛艦っぽいフネへと振り下ろす途中に頭上にいた多くの竜騎士と左側を囲っていたメイジや兵士をついでに呑み込んだ。
そして最後に100メイルはありそうな旗艦っぽいこのフネを俺が立っている場所からそのままフネに向かって振り下ろした。
どうして俺がわざわざ縦方向で『トランザムライザー』を振り下ろしたのかと言われれば、それができたからと言ってしまえば終わりだが理由は別にある。
これは出撃前に聞いていたのだがフネに搭載できる大きさの風石1つで浮遊させることができるのは精々50メイル級のフネくらいまででそれ以上の100メイル級は風石が2つ必要であり、この世界最大級である200メイルのロイヤル・ソヴリン号では4つの風石を使って浮遊させている。
そのため、残り1秒程度で2つの風石を破壊するにはこうやって縦方向で真っ二つにするのが手っ取り早いのだった。
フネを真っ二つにしたところで『トランザムライザー』が消え、同時に俺の精神力も尽きた。
精神力を尽きたことで『トランザム』状態も解除され、俺を纏っていた炎と共に肉体の強化も終わったため『トランザム』状態前提の重心がむちゃくちゃな斬艦刀を保持する握力もなくなり、手から滑り落ちた斬艦刀はガランっと音を立てて甲板に転がった。
そういえば右、左そして前を囲っていたメイジや兵士は倒したが後ろを囲っていた者たちが今の俺に攻めてくるのかと弱々しく後ろを振り向くと後ろにいた者たちはメイジは空に逃げ、飛ぶことのできない兵士は恐怖した顔で俺から距離をできるだけとろうと甲板の端に固まっていた。
俺が固まっている兵士たちの方に視線を向けると兵士たちはまるで怪物にあったかのような悲鳴を上げた。
「はぁ、はぁ……。全く、失礼なやつらだな……というか帰ることを考えてなかった、ぜ……」
そんなことを呟いているが状況は緊迫したままだ。
既に浮遊能力を失った、というか既にフネの先部分くらいしかまともに残っていないフネは重力に引かれて落下し始めている。
俺も『フライ』を使って脱出しなければいけないがすでに精神力が尽きた俺には無理なことだった。
フネと落下していく俺はこれまでのことが走馬灯のように思い出しながら、死なないためにこれまで頑張ってきたのにそのために死んでしまうのか、と思い肩を落とす。
「……本末転倒だな。でもキュルケたちは無事だろうし、ルイズとサイトがいれば恐らくこの世界は滅ばないはずだ。」
半ば悟ったような心境でこのままこのフネと一緒に落ちて行くのかと思っているとフッと影が俺に落ちた。
見上げると両手を広げた美女がこちらにくるではないか。
一瞬天国の迎えかとも思ったが俺はまだ死んではいないので違ったようだ。
「ダーリーン!」
キュルケたちの乗るフネがもうここまでやってきていたのだ。
そこからキュルケは落下していくフネにいる俺のところまでやってきてくれたようだ。
「なんで来た!?危ないかもしれないだろう!」
「そんなのダーリンが心配だったからに決まってるでしょ!『トランザムライザー』の光をみた瞬間にこうなるのは分かってたんだから!」
俺がキュルケに向かって大声を出すとキュルケはそれ以上に大きな声を出して俺に抱き付いてくる。
「そ、そうか。……心配させて悪かったな。」
叱られたようでばつの悪そうにお礼と言うと俺たちの頭上に大きな船影が現れた。
フネの大きさは先程の旗艦っぽいフネよりもずっと大きい。
そのフネから現れたであろう竜騎士の何騎かが俺とキュルケに迫ってくる。
キュルケの飛行速度では風竜に到底敵わないと思っているとレコン・キスタの竜騎士ではない風竜が俺たちをさらう。
風竜の背に青い髪の少女が顔を覗かせる。
「タバサ!」
「キュルケが突然飛んでいったから驚いた。ヴァルムロートも無事そうでよかった。」
「ああ。ありがとなタバサ。」
そのままシルフィードに抱えられたまま俺とキュルケはキュルケたちの乗っているフネへとたどり着く。
負ってきた竜騎士はサイトの弓矢や乗船しているメイジの魔法、そして使い魔たちの攻撃によってフネにあまり近づけないようだ。
ゆっくりと下ろされた俺とキュルケにルイズたちが集まってくる。
「大丈夫でしたか!?お兄様!」
「怪我とかしていないわよね?」
「ええ。何とか。しかし、殿下あのフネはもしかして……」
「ええ。ロイヤル・ソヴリン号です。今は父上たちのフネが殿を務めてくれていますが……」
あのフネの強さを一番知っているのはアルビオン王族であるジェームズ1世やウェールズなのだろう。
ジェームズ1世の乗っているフネはちゃんとした軍船ではあるが大きさ、そしてそれに伴う強さが違い過ぎた。
ロイヤル・ソヴリン号とこのフネの間に入り、盾となっていたジェームズ1世の乗るフネはロイヤル・ソヴリン号の砲をあび、半壊状態となってしまう。
火薬を収めている樽にでも火が付いたのか半壊したフネから炎と黒い煙が立ち上る。
「父上!」
ウェールズが叫びは届く訳もなく、炎上しているジェームズ1世の乗るフネは船首をロイヤル・ソヴリン号に向けるとそのまま体当たりをする。
その衝撃でフネにあったほかの火薬に引火したのかジェームズ1世の乗ったフネは何度も爆発を繰り返しながら落ちて行った。
「ち、父上ええええええっ!」
分かっていたこととはいえ、目の前で父親が自分を守る為に散っていくのを見たウェールズはそのショックからか膝から崩れ落ちてしまう。
「で、殿下……」
ルイズが声をかけようにもかける言葉が見つからない様子を察したのかウェールズは立ち上がるとはっきりとした声で号令を出した。
「陛下が命をかけて作り出したこの瞬間が好機!旗艦がやられ、敵も大慌てとなっている!最低限の守りを残し、そのほかのメイジはこのフネが早急に暗礁空域に突入できるように支援せよ!」
その言葉に半数のメイジはフネの帆に風の魔法を当て、フネの速度を少しでも早くしようと力を合わせた。
ロイヤル・ソヴリン号はジェームズ1世の特攻があったにも関わらず、外見的にはみる限りあまり損傷はないように見えたがやはり混乱しているのかフネの位置が特攻を受けた場所から動いていないように思えた。
それに竜騎士も旗艦への思いもよらない攻撃に動揺してか動きが鈍っているようだった。
「しかし殿下、暗礁空域に入ってもロイヤル・ソヴリン号ならそのまま追ってくるのではないでしょうか?」
「いえ。それはないでしょう。暗礁空域には人程度の大きさの岩から山ほどの大きさの岩など大小様々な岩がいくつも浮いている空域ですから、いくら強固な装甲を持っているロイヤル・ソヴリン号とはいえその巨体のため逆に入っていけない空域になっているのです。」
竜騎士の攻撃を何とかやり過ごしながら暗礁空域に突入したフネは浮いている岩にぶつからないように速度よりもフネが小回りが効くようにアルビオン軍のメイジたちは風の魔法を扱った。
レコン・キスタの竜騎士たちは岩が浮遊し、霧で視界が悪い場所での追撃は難しいと考えたようで1騎、また1騎とフネから離れていった。
そしてウェールズの言ったようにロイヤル・ソヴリン号による追撃はなく、フネに搭載された風石の力が無くなる頃、ようやくトリステインの領地へと入ることができた。
数日後、ウェールズと残されたアルビオン軍は秘密裏にトリステインの王都トリスタニアに入り、俺たちは学院へと戻った。
こうして前途多難だろうがウェールズの亡命はひとまず終わりをみせたのだった。
<次回予告>
学院に戻って数日、アルビオンに行くときにした魔法を教えるという約束を果たすこととなった。
タバサとキュルケ、そしてカトレアさんまでにも何かしらの魔法を教えることとなってしまうのだった。
第74話『新スキル獲得イベント発生中?』
次は9月末頃の更新を目指していますが、スパロボが長引いたり、何かしらで小説書く時間が取れない場合は9/30に欲しいゲームが発売するので11月頃になるかもしれません。