第75話 俺たちの夏
「お帰りなさいませ、旦那様、ヴァルムロート様。長時間の馬車での道中お疲れ様です。」
「うむ。」
「ああ。ありがとう。荷物を頼みます。」
「かしこまりました。すぐにお部屋でお休みになられますか?」
「ああ。」
そう言ってから俺は少し立ち止まる。
俺が乗っていた馬車が移動し、その後ろにいた馬車が玄関の前にくる。
その馬車の中にいる人たちからわくわくしている、というか何か無邪気な気配を察していた。
どうやら家までの長い道中でも話し足りなかったようだ。
「いや、喉が渇いたのでお茶の用意を。キュルケたちも一緒にお茶するだろうから大目に頼む。」
「元気なものだな。儂は先に部屋に戻るか。」
「ふふ。ええ、分かりました。」
父さんは賑やかな話声が聞こえる馬車の方に少し微笑ましそうな表情を向けると家の中に入っていった。
「ではヴァルムロート様。お茶はテラスお持ちしたらよろしいでしょうか?」
「ああ。それで頼むよ。」
「分かりました。すぐお持ちしますね。」
メイドにお茶の準備を頼んでいるとキュルケとカトレアさんと母さんたちが仲良く話をしながら馬車から降りてきた。
俺が話の続きをするならテラスにお茶を準備させていることを伝えると、キュルケとカトレアさんに両脇を抱えられるようにして俺もその話の輪に強制的に加わることとなった。
初めは姉さんの結婚式の様子や母さんたちの思い出話についてだったが途中からキュルケやカトレアさんの理想の結婚式の話になり、言外のプレッシャーに耐えかねた俺は逃げるように自分の部屋へと戻ったのだった。
トリステイン魔法学院が夏休みに入ってすでに1週間経つ。
本当ならまずヴァリエール家に寄った後、ゲルマニアの実家に帰ろうかと思っていたのだが姉さんの1人の縁談が決まったようで、その式典に参加するために少し早く実家に戻ったのだった。
アルビオンを制圧したレコン・キスタは原作通り、神聖アルビオン共和国と名乗りを挙げたがすぐにトリステイン王国に宣戦布告してくることはなかった。
一応、元アルビオン王国王族ウェールズ皇太子の身柄の引き渡しを要求しているようだがアンリエッタ姫が白を切っているという噂を耳にしていた。
王都の人たちは実際にウェールズ皇太子が亡命してきていることを知らないので神聖アルビオン共和国の要求は見当違いだと笑っていたが、原作を知っている俺としてはすぐにでも戦争が始まりそうな雰囲気になるのかと思っていたので少し拍子抜けした。
「アンリエッタもよくやってるな。でも……」
しかしそれも時間の問題だろう。
トリステイン王国にはすでにかなりの数のレコン・キスタに組みしている貴族がおり、そこから確定情報を神聖アルビオン共和国が獲得すれば開戦は避けられないだろう。
レコン・キスタの目的はハルケギニアを統一してエルフから聖地を奪還することであり、アルビオン王国を滅ぼして神聖アルビオン共和国を作ったり、トリステイン王国に戦争を仕掛けるのもその目的のための準備に過ぎないのだから。
1日家でゆっくした後、俺はヴァイスの村へと視察に出掛けた。
村と言ったがすでに住人は300人近くになり、すでに小さな町と呼んでも過言ではない大きさへと発展していた。
以前は製紙工場と住宅しかなく、畑で栽培していない食品や日用品などはたまに来る商業人から購入していたのが今ではそれを扱う商店や遠方からやってくる商人の為の宿屋などが町の中にでき始めていた。
そんな少し大きくなった町の中を村長と視察しながら現状を聞いていく。
「製紙産業は町の特産として他の町の商人などにも広まってきております。」
「そうですか。それはいいことですね。僕も他の貴族に試供品を数多く送付した甲斐がありますね。」
「ありがとうございます、ヴァルムロート様。しかし、1つ懸念がありまして……よろしいでしょうか?」
「ええ。何ですか?」
「現在は欲しいと言われる紙よりも作れる紙の量の方が多いのですが今以上に紙が欲しいと言われるとこちらとしてはどうしようもなくなってしまうのです。」
「なるほど。」
これがブラック企業ならば「工場を24時間フル稼働させても作る量を増やせ。」というのかもしれないがそういうのは俺は好きではない。
3勤交代などで工場はフル稼働させて人は休ませるという方法はあるが、そこにも問題がある。
夜作業をする際に光源として使うのはほぼロウソクだろうということだ。
ロウソクのような不安定な光源での作業では紙をすくという一番重要な工程において紙の薄さを均一にできないかもしれない、という不安がある。
勿論、この世界では光を発するマジックアイテムも存在する。
魔法のランプがそれだ。
ロウソクよりも光源は安定しているが、やはり他のマジックアイテム同様になかなか高価なものなので魔法のランプを使うとなると費用対効率であまり利益を望めないばかりか、赤字という危険もある。
とまあ、色々考えたが結局は次の言葉の結論に至る訳だ。
「わかりました。では、もう1棟工場を作りましょう。働き手はたくさんあると思うので現在の倍の人数でやっていきましょう。」
1つで足りないならもう1つ作ればいい、単純な話だ。
まあ、貴族で金や人材がなければできないことだが貴族である俺にはそれができるので十分にその力を行使させてもらおうじゃないか。
「いいのですか!?ありがたいです!しかし、そうなると原料の木の方が心もとなくなりますな。」
「んー。じゃあ、木は別のところから仕入れましょう。とりあえず近くの町や村の周辺の木の調査に何人か行ってもらい、良さそうな木があればそこの人と交渉して買ってきて下さい。」
元々そのうち近くの山からの伐採では原料の木が足らなくなるのは分かり切っていたことなので丁度いい機会なのかもしれない。
それに他の村や町との交流が深まればそれだけこの町の発展に役立つかもしれない。
「材料を他の場所から調達するのですね。わかりました。この後町の者と話し合って行ってもらう者を決めるとします。」
「ええ、お願いします。あ、そうだ。マチルダさんの働き出してから少し経ちますが、町長から見て働きぶりなどはどうですかね?」
「マチルダ……、ああ!ミス・サウスゴータのことですな。彼女は実によく働いてくれていますよ。今は子供の部の先生を担当してもらっているのですが分かりやすいと子供からの評判のいい先生ですな。」
「そうですか。まあ、あまり心配はしていませんでしたが、紹介した身としては少し気になったものですから。」
「そんなに心配するのでしたら様子を見ていられますか?今日は学校は休みなのですが子供たちに遊び場を提供するということで学校を開けているのです。そしてミス・サウスゴータは自らの休日を返上し、率先して遊びに来た子供たちの保護者としての役目を担ってくれているのです。本当にいい先生ですよ。」
そうして俺は町長に案内され、休日の学校へとやってきた。
休日だというのにたくさんの子供たちがグラウンド、と言っても何の遊具もない広場なのだが、そこで遊びまわっている様子がうかがえた。
グラウンドにいる人の中で2人ほど子供たちよりも背の高い人物がいて、そのうちの1人がこちらに気が付いたようで俺たちのところへとやってきた。
「これは町長、いつもご苦労様ですわ。あら?今日は珍しい人と一緒にいますね。ごきげんよう、ミスタ・ツェルプストー。」
「こんにちは、マチルダさん。町の様子を見るついでに少し様子を見にやってきました。先生としては評判が良いようですがご自身ではどう感じていますか?」
「そうだね。元々子供の面倒を見るのは嫌いじゃなかったからかなり楽しく先生っていうのをやらしてもらっているよ。ここに招いてくれたあんたには感謝の言葉しか浮かばないね。」
「こちらも優秀な教師が欲しかったのでお互いさまですが、マチルダさんが楽しそうで何よりです。」
それから2、3言葉を交わしているともう1人の背の高い人がこちらに小走りで近づいてきていた。
その人物は普通にこちらに駆け寄っているだけなのだろうが、たゆんたゆんと上下に揺れる2つの胸の膨らみの動きに俺と町長の目は釘付けにされてしまう。
「町長さん、こんにちは。えーと……姉さん、こちらの方はどなたでしょうか?」
「この人が私をここの先生の仕事を紹介してくれたミスタ・ツェルプストーさ。」
「あ、あなたが!?は、初めまして!姉さんたちとここに住むことになりましたティファニアと申します!」
そう言ってティファニアと名乗った少女はぺこりと頭を下げた。
揺れる金髪とキュルケやカトレアさんを凌ぐ大きさの胸が目の前で揺れる映像はかなり刺激が強いものだった。
胸ばかりに視線が行ってしまうが、ティファニアという名前を聞いてちらりと耳の形も見てみた。
ティファニアはハーフであるがエルフなので長い耳をしているはずだが、今目の前にいるティファニアは見た目は普通の人間の耳に見えた。
少し疑問に思ったが、耳にどこか見覚えのある形の青色と緑色の石がはめ込まれたイヤリングをしていた。
以前、俺はマチルダさんの前でイヤリング型の『フェイス・チェンジ』を使えるマジックアイテムを使ったことがあるのでそれを参考にティファニアの耳だけを『フェイス・チェンジ』で変えているのだろう、と予想がついた。
「あ、ああ。僕はヴァルムロート・シュテルン・フリードリヒ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。よろしくティファニア、さ、ん……」
ティファニアの自己紹介に応えるように挨拶をしたところで俺は目の前にティファニアがいることのヤバさにはっと気が付いた。
原作ではサイトがアルビオンで数万の神聖アルビオン共和国の兵士を足止めした際に瀕死になったところをティファニアに助けられるイベントがあったはずだ。
腕や足が切断されたという位の重傷なら俺でも回復可能だろうが、サイトの重傷は使い魔の契約が一度切れているところから心臓が止まるレベル、つまり死者蘇生レベルの回復が必要なのだろう。
このハルケギニアには魔法がある、と言っても死んだ人を蘇らせるほどの魔法は存在しない。
原作でもティファニアがサイトを救えたのは母親のエルフからの形見の指輪に込められた力によるたった1度きりの奇蹟みたいなものだったはずだ。
つまり、このときにティファニアがアルビオンにいないとサイトを瀕死の重傷から助けられる人がいないという重大な問題が発生することになる。
俺は無駄だと思いながらマチルダさんに1つ尋ねた。
「あの……マチルダさん。もうこっちへの引っ越しはすべて終わっているんですか?また、アルビオンに行く予定とかあったりしますか?特にティファニアさんを連れて、とか?」
「え?引っ越しはこの前お前さんとラ・ロッシェールで合った時がアルビオンから最後の荷物を運んでいたときだったよ。今はレコン・キスタなんてものがうろついてるからうかつにアルビオンへは行けないさ。まあ、もう行く必要もないんだけどね。」
返ってきた返事は思った通りのものだった。
俺の質問にマチルダさんは一瞬不思議そうな顔をしていた。
マチルダさんがアルビオンに行くことはもうない、つまり、ティファニアが原作通りアルビオンにいることはほぼありえないということになった。
ティファニアがいないなら、サイトを回復できる人物は他に存在しないだろう。
なので、今後アルビオンに行ってサイトが殿を務めようとするならば、その行為を止めるか、もしくは協力することでなんとか生き延びなければいけない、ということになってしまっているわけだ。
それからマチルダさんやティファニアさんと2、3言葉を交わしてから再び町の視察に戻るも、その心の中では今後の展開をどうするかということで一杯だった。
それから1週間ゲルマニアの実家でゆっくり過ごした後、トリステインのヴァリエール家へと旅立った。
急ぐことはないので馬車で数日かけて国境を越え、ヴァリエール家に到着した。
そんな俺たちを出迎えてくれる人の中にいつも顔を出しているお義父さんの姿がなかった。
もしかしたら神聖アルビオン共和国のことで忙しいのかもしれない、と思いながらルイズに行方を聞くと意外な言葉が返ってきた。
「お父様ですか?今も家にいますよ。」
「そうなのかい?でも、いつもだったら一番に顔を見に来そうなものなのにどうかしたのかい?病気とかなら診てみようか?」
俺が少し心配してそう言うと、ルイズは少し申し訳なさそうに答えた。
「いえ、大丈夫だと思います。確かにお父様は今寝込んでいますが、その、原因は……腰を痛めたからだそうです。」
度の荷物をメイドさんに任せ、お茶をしながらお義父さんが腰を痛めたいきさつをルイズから聞いたところによると、どうやらルイズと一緒にヴァリエール家にやってきたサイトに剣の稽古をつけると張りきったのが原因らしい。
お義父さんがサイトに剣の稽古をつけようとすることは予め考えられていたのでサイトにはガンダールヴの力は使わずに普段俺と稽古している調子で稽古を受けろとは言っていた。
お義父さんは昔トリステイン王国衛士隊に所属していたし、今でも討伐に出かけているのは知っていたので普通の状態のサイトにはいい稽古相手だと思っていた。
もしかしたらサイトはお義父さんに多少ボコボコにされるかもしれない、なんて思っていたのがまさか当のお義父さんの方の身体にガタがくるとは予想外だった。
お義父さんの部屋に挨拶をしに行くとベッドに横たわったお義父さんが腰痛になってしまったことをごまかすようにいつも以上ににこやかや声をかけてくれたが、少し笑う毎に腰が痛いのか顔が引きつっていた。
カミーユさんに何故回復魔法で腰痛を消さないのかという疑問を尋ねたところ、お義母さんからお義父さんに「身体を痛める度に魔法で回復させていたら何度も同じことを繰り返すに違いないので身体を鍛えていなかったことを少しでも反省するように自然に治るまで痛みを受容しなさい!」という厳しいお言葉があったらしい。
まあ、流石に急ぎの用がお義父さんに来れば回復魔法を使わざる得ないと思うのでそれに期待するか、自然に治るまで待ってもらうしかないだろう、と思いながら心の中で合掌した。
「お父様、もうちゃんと身体を鍛えてないのにいきなり張りきったりするから……もう。」
「そうね。お母様が稽古に誘っても、お前の稽古に付き合えるのはヴァルムロートだけだろう!、と言って身体を動かそうとしなかったわね。」
ルイズとカトレアさんが普段は尊敬しているお義父さんのだらしないところを嘆いている間、俺はサイトにヴァリエール家でどんな風に過ごしていたか尋ねていた。
「サイトはちゃんと剣の稽古はしてたみたいだな。」
「ああ。ルイズのおやじさんが腰を痛めてからはここの私兵……っていうのか?屋敷の警護してる兵士の人とかと訓練できるようにルイズが話をつけてくれたからな。」
「それはよかった。ありがとうなルイズ。」
「そ、そんな、お義兄様がお礼だなんて!自分の使い魔の世話をするのはメイジとして当然ですから!」
照れながら言葉を返してきたルイズを微笑ましく思いながら俺はサイトにさらに話題を振った。
「それでお義父さんとは何回か稽古したんだろう?強かったかい?」
「こう言っちゃなんだけど、年いってるくせに強かったな。元衛士隊副隊長だっけ?伊達じゃなかったみたいだな。」
「そうか。やっぱ強いんだよな……」
「昔取ッタ杵柄ッテヤツダナ。マア、コノママナラ半年モスリャ相棒ノ方ガ強クナルダロウゼ。」
意外だという表情をしながらお義父さんのことを話すサイトにデルフがカチャカチャと柄を鳴らした。
「でもヴァルムロートの方がよく知ってるんじゃねえの?義理の父親に将来的になるうだろ?」
俺の質問に少し違和を感じたのかサイトがそう俺に尋ねてきた。
その質問に俺は苦笑いしながら答えた。
「うん。まあ、そうなんだろうけど、実は……僕はお義父さんとは稽古や模擬戦を行ったことないんだ。」
「えっ!?なんで?」
「まあ、機会が無かったというか何というか。こっちにいるときはほとんどお義母さんと訓練や模擬戦を行っているからね。」
「お義母さんって、ルイズの母親だよな?」
「ああ。そうだけど。」
「あのルイズと同じでピンクの長い髪の毛の背の低い、ちょっと年齢詐称っぽい人だよな?」
「ね、年齢詐称?あ、まあ。た、たぶんサイトが想像している人物だ合ってると思うぞ。」
確かにお義母さんは50代前半のはずなのに外見年齢的には30代で通りそうだからサイトが年齢詐称と表現してもしかたないかもしれない。
「確かカリーヌ……さん、っていったけか。親父さんとのやり取りは恐妻って言葉で済まされそうだけど、実際に強いのか?」
「ああ。はっきり言って現ハルケギニアでも一番強いメイジだと思う。」
「マジかよ!?」
「本当だよ。」
「まあ、サイトは平民だから知らないのかもしれないけれど“烈風カリン”と言ったらメイジで知らない人はいないくらいなのよ!」
ルイズが机に身を乗り出すように言った言葉に最初に反応したのはカチャカチャと柄を鳴らしたデルフだった。
「烈風カリン、カ。俺ッチモ武器屋ニイタ時ニ噂ヲ聞イタコトガアルナ。ナンデモ生キル伝説級ノ強サラシイナ。」
「伝説って……嘘だろ?」
「いいわ。お母様がどれだけ凄いのか教えてあげるわ!」
その後もルイズがサイトにお義母さんの凄さを説明していたがサイトは信じられないといった様子だった。
しかし、すぐにサイトは俺たちの話を本当かもしれないと思うようになる。
ヴァリエール家にやってきた翌日の朝食時、妙に上機嫌な様子のお義母さんに話しかけられた。
「ヴァルムロート。あなた、アンリエッタ姫の使いでアルビオンに行ったそうね。」
「え、ええ。そうですが……」
「アルビオンから脱出する際にウェールズ皇太子殿下やアルビオン王国軍の兵士も一緒だったそうね。」
「は、はい。アルビオンはほぼレコン・キスタの手に落ちており、脱出するにはそれしか手が無かったものですから。」
「その時に随分と大立ち回りをしたそうじゃない?まあ、あなたが手を貸したということは公にはなっていませんけどね。」
「自分やルイズたちに降りかかった火の粉を振り払っただけですから、手を貸したなど……」
なんだ?お義母さんは何が言いたいんだ?、と疑問を浮かべながら俺はお義母さんの質問に答えていく。
俺の返答がお義母さんの望んだ通りのものだったのかは分からないが、機嫌が悪くなってはいない。
「明日は私と模擬戦を行いますわよ。学院や他のことでどれだけあなたが強くなったか見せてみなさい。」
「え?」
そう言われて俺は少し拍子抜けする。
元より、ヴァリエール家に来たらお義母さんと模擬戦を行うのは恒例となっているからだ。
俺はお義母さんの真意を測れないまま、返答をした。
「わ、分かりました。でも、今日でなくていいのですか?」
「ええ。明日、ですわ。」
前日にそう言ってきたということは旅の疲れを十分にとり、さらに明日の模擬戦でコンディションを最高に持ってくるように調整しろ、ということなのだろう。
そう思った俺は昼間は軽く汗を流す程度で止めておき、夜は普段よりも少し早めに休むことにした。
そして翌日、俺はお義母さん、いやここからは師匠と呼ぶべきか、と模擬戦をするために特別訓練場へとやってきた。
今日はサイトに師匠の強さを実際にサイトに見せるため、ということでルイズとサイト、さらにキュルケやカトレアさんまでもが見学にやってきた。
訓練場に着くとサイトはその大きさに声を漏らしていた。
「はぁー。この馬鹿デカい建物って何なんかと思ってたけど、魔法を練習する場所だったんだな。でも、ルイズとか他の魔法使いの人は別の場所で練習してなかった?」
「ええ。ここはお母様とお義兄様のためだけに作られた特別な訓練場なの。縦500メイル、横幅600メイルあって、学院がすっぽり4つは入る大きさね。」
「マジかよ。デカいとは思っていたけど、そこまでなのか……ってか、それって屋敷よりも大きいんじゃねえか?」
「そうね。因みに塀の大きさも高さ10メイル、厚さ3メイルあって、それに『固定化』と『強化』の魔法をかけているからトリスタにある城壁と同じくらい頑丈よ。」
「そこまでする必要あんのか!?学院とかで魔法を練習してるのは普通の場所なのになんで?」
「お母様とお義兄様がメイジとしては強さが他のメイジとは一線を画すからよ。前にお母様専用の訓練場がここにあったのだけど、お義兄様との模擬戦をやって壊れちゃったのよね。当時の訓練場も広さは学院位で塀だって『固定化』と『強化』を施したものだったのだけどね。」
「模擬戦なのにそんなものが壊れるって、それってもう模擬戦じゃなくね!?死人でるだろ!」
「まあ、普通のメイジだったらそうかもしれないけど、お母様とお義兄様だからね。まあ、お母様の方は偏在だったけど。」
ルイズとサイトが話している間に俺とお義母さんはただ広い練習場の中央付近に移動し、お互いに距離をとる。
「ヴァルムロート、あなた偏在は確か2人出せますよね。」
「はい!」
「それでは私も偏在を2人出すので3人ずつでやりましょう。」
「わ、分かりました!」
そう言われた俺は『ユビキタス』のスペルを唱えて偏在を2人作り出した。
俺が偏在を作り出したのを確認した師匠も傍らに偏在を2人作り出していた。
「さあ!レコン・キスタの艦隊を退けた力!私に見せてみなさい!」
師匠はそう言うと杖を俺の方へと向けた。
試合開始の合図だ。
オリジナルの師匠は素早くスペルを唱え、俺に向かって『エア・ストーム』を放ち、それと同時に師匠の偏在がそれぞれ左右へと動いた。
俺の方も『エア・ストーム』を避けつつ、偏在を散開させたことでそれぞれ離れた場所で1対1の状況となってしまう。
互いに『フライ』を使って上や下へと位置を入れ替えながらドットやラインスペルの発動の早い魔法を互いに繰り出したり、爆炎や砂埃で視界を遮って不意を突こうとしてもお互いに相手の気配が読めるので決定打にはならなかった。
正直なところ、単体での総合的な強さでは師匠にはまだ敵わないのでどうにかして1対複数になるようにしなければ勝ち目は薄いだろう。
俺が師匠に勝っているのは斬艦刀を使った接近戦と『トランザムライザー』の魔法の最高火力だけだ。
『トランザムライザー』は使ってしまうとほぼ戦闘不能に陥ってしまうのでここぞ!という時でしか使えない。
なので、なんとか接近戦に持ち込みたいところではあるが、俺がそんなことを考えているのは分かり切っているのか師匠は発動の早い魔法を繰り出して俺を近づけさせようとはしない。
『フランベルグ』の範囲内に来ればまだ何とかなったのかもしれないが師匠は『フランベルグ』の微妙に届かない位置を常にキープしているのでこのままでは打つ手なし、という状況が俺と偏在それぞれに起こっていた。
「ふふっ。以前よりも避けることが上手になっているわね。1つ死線を超えたおかげかしら?でも、避けているだけじゃ勝てないわよ!」
「分かっています!でしたら……『トランザム』!」
俺はこの状況を破るために『トランザム』による高速化を図る。
しかし、師匠もそれが分かっていたようですぐさま『ブリム』を発動させた。
その状況は偏在の方でもほぼ同時に起こり、さっきまでそれぞれ離れたところで戦っていてそれらは交わることが無かったが『トランザム』と『ブリム』による戦闘の高速化は同時に戦闘範囲の拡大に繋がり、1対1が3か所ではなく、3対3と入り乱れる形となった。
この状況は一見すると厳しいかもしれないが先程までほぼ勝ち目がなかった俺からすればチャンスであった。
空中を高速で交差しながら俺は偏在と連携し、師匠の偏在の1人を挟み込むんだ。
「取った!」
斬艦刀で斬りかかるもその斬撃を空を斬り、ガギンッ!と音を立てて同じように斬撃を繰り出した自分の偏在の斬艦刀とぶつかっていた。
「ふふ。それでは追い詰めたことにはならなくてよ?」
追い詰めていた師匠の偏在は攻撃を受ける直前に上へと回避していた。
しかし、それは予想通りの行動だった。
上へと避けた師匠の偏在よりもさらに上空にやってきていた俺の偏在が師匠の偏在へと斬艦刀を大剣モードにして振り下ろしながら急速落下する。
師匠の偏在には俺の偏在が攻撃を加えるより先にシールド系の魔法を展開する時間的猶予はなく、完全に攻撃が決まったと俺は確信した。
「今度本当にとっ、ぐあああああっ!」
俺の偏在の攻撃が師匠の偏在に当たる直前に俺の偏在は電撃を受けてそのまま消えてしまった。
「だからそれでは追い詰めたことにはならないと言いましたわよ。」
「惜しかったですわよ。でも、私相手ならもっと上手に、気取られないように事を進めなくてはだめですわよ!」
電撃の魔法『ライトニング』を繰り出した師匠と師匠の偏在がそう言い放った。
作戦が失敗したことを悔みながら、師匠からの攻撃を察した俺と偏在は別々の方向へと飛ぶ。
俺の方には師匠が、偏在の方には師匠の偏在が2人追ってくる。
師匠が俺を後ろから追いながら魔法を放った瞬間にその魔法を避けて、急転換して師匠へと斬りかかるも避けられてしまう。
そして師匠の偏在2人に追われた俺の偏在はその2人から繰り出される猛攻を何とか避けていたが、その内速さで勝る師匠の偏在が俺の偏在を追越して前後を塞ぐ形となっってしまうともうどうしようもなく、俺の偏在は一矢報いることも出来ずにその数秒後にはやられてしまっていた。
俺の偏在を倒した師匠の偏在はすぐさま俺の方へと向かってくる。
「さあ、これで3対1ですわよ。」
「くっ!」
いつも1対1で模擬戦をしているときに高速戦闘を仕掛けても『トランザム』では『ブリム』を使う師匠に勝てないが、複数同士ならば何とかならないかと考えていたがその考えは甘かったようだ。
『トランザム』は俺の能力を強化してくれる魔法でその状態で『フライ』を使って飛んでいる俺の速度は時速100キロ程度なのに対し、『ブリム』を使っている師匠はおよそ持続120キロだと思われる。
高速戦闘において速度の差は決定的な戦力の差だ。
本来ならば速度で劣る俺はその速度という戦力差を別の何かで補わなければいけないが、『トランザム』状態で『フライ』を使っている俺にはその“別の何か”、つまり他の魔法を使うことができない。
しかも師匠は『ブリム』自体が1つの高速飛行の魔法なので普通に別の魔法で攻撃してくるのでますます俺はなかなか師匠に勝てないでいた。
それなら俺も『ブリム』を使えばいいのだが、『ブリム』は魔法の緩急強弱の制御がとても繊細で難しいのだ。
そんな『ブリム』を俺はどうやっても直進しかすることができないので戦闘で使うなどできない、と半ば諦めていたがこの前のアルビオン脱出の際にブースターをつけて速度を増して『レビテーション』で強引に方向転換を行ったことで1つの解決策を思い付いていた。
それは、魔法の緩急強弱の制御が難しいのなら全部急強でしよう、ということだ。
そこで『ブリム』をベースとして『トランザム』状態で俺の魔法の威力を上げた状態を考慮して、何とか自由に動き回れるレベルになった魔法を俺は『ミストラル』と名付けた。
『ミストラル』とはトリステインの言葉で暴風という意味であり、ゲルマン語でないのはベースとなったトリステイン語のそよ風の意味を持つ『ブリム』に敬意を表していた。
すでに俺の偏在はやられて1対3という状況の中でできる選択はこれしかない、と察した。
「『ミストラル』!」
俺が戦闘の中でスペルを唱え、魔法を発動させると俺の周囲に『I・フィールド』の風の膜とは異なる激しい風の奔流が起こる。
すぐさま俺は自分の周りに激しい風を巻き起こしながら向かってくる師匠たちの方へと急旋回をする。
「ぐうっ!」
『トランザム』である程度感覚がマヒしている俺の身体は痛みはあまり感じないものの、急激な方向転換によるGは押しつぶすような感覚を俺に与えた。
俺の行動に師匠たちはすぐさま反応する。
「散開!」
向かってくる俺に師匠たちは距離をとろうと三方へと展開した。
その散開した師匠の偏在を俺は追う。
『ブリム』を使っている状態の師匠に以前では追いつくことはできなかったが、『ミストラル』を使っている今の俺ならそれができた。
近づいてきた俺に師匠の偏在は防御の魔法のスペルを唱えたが、その魔法を発動させる前に俺が斬艦刀で斬り付けると偏在は霞のように消える。
すでにある程度精神力を消耗しているので『ミストラル』を持続できる時間はそう長くはない。
俺はすぐにもう一人の師匠の偏在へと向かうために方向を変えようとゴウッと空気を爆発させたような強烈な風を起こした。
俺が狙いを定めたことが分かってているようで、一人の師匠の偏在の位置の近くにはいつの間にか師匠本人もいていつでも俺を迎撃できる態勢だと言わんばかりだ。
『ブリム』で少しでも俺との相対速度を減らしながら師匠とその偏在は魔法を俺に向かって放ってくる。
放たれた魔法を俺はその一瞬一瞬に空気を爆発させたような風を起こして、ガクンッガクンッと直角的に避けならもそれでも『ブリム』を使った師匠の偏在との距離を着実に詰めていった。
追いついた俺が斬艦刀をかざすと今度は対応されたようで師匠の偏在は『エア・シールド』を全面に展開していた。
しかし『エア・シールド』を展開したことで一瞬動きが遅くなった——遅くなったと言っても体感的なもので実際には時速120キロから110キロになって程度だろうが——のを俺は見逃さなかった。
俺は一瞬で師匠の偏在の後ろをとり、その勢いのまま斬艦刀を振った。
「ぐっ。これで1対1、だが……」
そう思って気配を探っても師匠を感じることはできない。
キョロキョロと辺りを見回すと離れたところに師匠が地面に降り立つところだった。
俺が魔法の弾幕を抜けて師匠の偏在に攻撃を仕掛けたときに師匠は距離を取って魔法を撃つ時間を稼ぐつもりなのだろう、と師匠の行動を予測する。
さらに師匠ならば『ブリム』を使っていても大抵の魔法を撃てるはずなのにわざわざ『ブリム』を止めて地面に降りた、ということはかなり大掛かりな魔法を放つことことも予想できた。
俺はすぐさま向かったが、一歩遅かった。
俺が師匠に近づいた時、あと少しで一撃を加えられるという距離で師匠の周りに魔法が発動する気配を察した俺はその場で急停止した。
俺が止まるとすぐに師匠は巨大な竜巻の中へとその姿を隠したのだった。
俺はこの状態が移動特化の『ミストラル』でどうにかなるものでもなさそうと判断し、『ミストラル』を解除して地面に降り立った。
この師匠を取り囲んでいる竜巻はスクウェアスペルの『カッター・トルネード』だろう。
『カッター・トルネード』はトライアングルスペルの『エア・ストーム』にさらに真空の刃を加えた強化版ともいうべき魔法だが、師匠ならばこの『カッター・トルネード』も『ブリム』使用中でも扱えるはずだ。
つまり距離をとったのはこの『カッター・トルネード』のスペルを唱える数秒を稼ぐためだったのだろうが、わざわざ地面に降りたのはこの『カッター・トルネード』という風の防壁でさらに時間を稼いで別のもっと強い魔法のスペルを唱えるためなのだろう。
事実、竜巻の向こう側から何やらヤバそうな気配をビンンビン感じているのだから。
俺はすぐさま『トランザム』を再開した。
「『フランベルグ』……っ!だめか!」
師匠を覆っている竜巻をかき消そうとしたが『トランザム』状態の『フランベルグ』であっても師匠の『カッター・トルネード』を消すことはできなかった。
竜巻ならば上から中心を通れば師匠の所にたどり着くことはだきるだろうが、それをやると避け場がない一本道という恰好の的となってしまうので頭に浮かんだ瞬間に自分で却下した。
そうしている間にも嫌な気配が徐々に具台的な形になりつつあった。
「師匠ならとっくにぶっ放してきてもおかしくないのにこんなにゆっくりしているということは……待っている、ということか。」
恐らくここまでお膳立てしているということなのだから、これまでにない攻撃力をもった魔法だということか。
そして、その魔法をぶつける相手として俺の最大威力の魔法『トランザムライザー』を待っているのだろう。
俺としても『トランザムライザー』以外に『カッター・トルネード』を破る術がないので受けて立つ他ない。
俺は『カッター・トルネード』から約50、60メイルほど距離をとり、スペルを唱え始めた。
「……『トランザムライザー』!」
斬艦刀の先から巨大な炎の剣が現れるのとほぼ同時に師匠を守っていた『カッター・トルネード』がその内側から現れた雷によって打ち破られていた。
師匠の杖の先から放出されている雷がまるで剣のような形をとっていた。
しかもその大きさは俺の『トランザムライザー』とほぼ同じ大きさに見える。
「あ、あれは『エピー・デ・トルネ』!?完成していたのか!?」
『エピー・デ・トルネ』とはトリステイン語で“雷の剣”というそのままのネーミングのものだ。
この魔法は師匠が俺の『トランザムライザー』を見て同じようなものを再現できないか?ということで俺と一緒に原案を考えたものだ。
しかし、そもそも雷を剣の形に固定することなど多くの問題があって扱うことはほぼ不可能という結論に至ったもののはずだった。
俺は師匠がその『エピー・デ・トルネ』を使っているのに驚いていたが、そのまま驚いているだけという訳にはいかない。
すでにここまででそれなりに精神力を消費しているので『トランザムライザー』を維持できるのは精々10秒程度だからだ。
若干混乱しながらも俺は『トランザムライザー』を振り下ろした。
師匠もそれに合わせて『エピー・デ・トルネ』を振った。
互いの魔法の剣はすぐに接触し、バチバチバチッと激しい音を立ててまるで鍔迫り合いのように動きを止められた。
「受け止められた!?威力も互角か!?」
ぐぐっと斬艦刀に力を込めても45度の角度からそれ以上振り下ろすことはできなかった。
数秒後、バチッ!と一層激しい音と共に何かの原因で拮抗が崩れたのか『トランザムライザー』と『エピー・デ・トルネ』はそれぞれ弾かれて地面と近くの塀をえぐって強制的に消滅させられた。
「っ!」
俺は激しい精神力の消耗でふらつく身体に力をいれる。
両手で斬艦刀を構えると『フライ』を使って師匠との距離を詰めていった。
迫る俺に向かって師匠が手を広げて、かざした。
「お待ちさない。今日はここまでにしましょうか。」
近くまで来ていた俺は構えていた斬艦刀を下ろして『フライ』で師匠の近くに降り立った。
「ここまでとはどういうことでしょうか?」
「今日はあなたがどれくらい成長したかをみたいものでしたから、もう十分なのです。それに私の奥の手の『エピー・デ・トルネ』が破れ、速さも『ブリム』以上のものができるとはおもいませんでした。まあ、少々問題があるようですが。」
「あはは……」
師匠には『ミストラル』の問題点をもう見抜いてしまったようだ。
『ミストラル』は方向転換する際にほぼ減速もなしに直角的に曲がるので身体への負担が大きいのだ。
「それでも想像以上だったというべきでしょう。今日の勝敗は引き分け、ということにしましょうか。」
「そ、そうですか。」
師匠は引き分けと言ってくれているが、正直これ以上続けていたら負けるのは確実だっただろう。
俺の精神力はもう底をつきそうなのに対し師匠にはまだまだ余裕を感じていた。
「まだまだ強くなりそうで今後が楽しみですわね。」
「が、頑張ります。」
「ふふ。流石はアルビオンの人たちから“烈火”と呼ばれているだけはありますわね。」
「“烈火”?何ですか、それ?」
「あなたが脱出するのをお手伝いしたアルビオンの方々があなたのことを“烈火”と呼んでいると夫から聞きましたわよ。」
「“烈火”なんて大層な呼び名とは恐縮ですね。」
「“烈風”に師事しているのだから“烈火”と呼ばれるのもいいのではないかしら?……そうだわ!これからは“烈火”を二つ名として名乗りなさい。」
「いや、それは……。これから善処する、ということで。」
「ふふふ。まあ、今はそれでいいでしょう。」
師匠と話ながら観戦していたキュルケたちのところに戻るとサイトの俺と師匠を見る目が輝いていた。
「アルビオンだったか?そこから逃げるときにヴァルムロートがすごいことは分かったけど、そのヴァルムロートと互角以上に戦えるルイズの母さんもすげえぜ!メイジで一番強いっていうのは眉唾だと思ってたけど本当っぽいな!」
そのサイトの言葉に隣にいたルイズが得意げだ。
「だからそう言ってるじゃない。お母様とお義兄様はお互いの魔法を簡単に避けていたけどその内の1発でも当たればただじゃ済まないのよ!」
そう言ってルイズが指さす方を見るとさっきまで俺と師匠が戦っていた場所だった。
地面が何か所もえぐれ、場所によっては地形は平地ではなくなっており、強化されたはずの塀の一部が半壊していた。
「ルイズ、あまり大げさに言うものではありませんよ。……ふう。また整備を手配をしておかないといけないわね。」
練習場がここまでなるのは実はいつものことなので師匠は特に思うところはなかったようだ。
模擬戦が終わり、屋敷に戻った俺たちのところへメイドさんが近づいてくる。
「皆さま、お疲れ様でした。」
「ええ。練習場はいつものように。」
「かしこまりました。」
カリーヌさんに頭を下げたメイドさんが頭を上げると今度はルイズの方を向いた。
「ルイズ様。ご学友の方がいらしておりますが、いかが致しましょうか?」
「ご学友?誰かしら?」
「男性の方です。ギーシュ・ド・グラモン様と仰っていました。」
「ギーシュですって?一体何の用なのかしら?」
カリーヌさんと別れた俺たちはギーシュが通された部屋へと案内された。
部屋の中に入ると確かにギーシュがソファーに座って出されたお茶を飲んでいた。
「ギーシュ!家まで来て、一体なんのようなの?」
「やあ、ルイズにサイト!おお、それにヴァルムロートたちもいるじゃないか!これは手間が省けたよ。」
「お義兄様たちにも用があるって……本当、何しにきたのよ?」
「そんなに邪険にしないでくれよ。家に帰って暇を持て余していると思っていいものを持ってきたというのに。」
「暇しているのはギーシュ、あなたでしょう?」というルイズの言葉を無視して、ギーシュは足元に置いていた荷物から何かを取り出した。
「何?それ?」
ギーシュが手に持っていたのは文字やら記号みたいなものが描いてある羊皮紙だった。
「ふっふっふ。聞いて驚くことなかれ……宝の地図さ!」
<次回予告>
ギーシュの持ってきた宝の地図を頼りに様々な場所にいくことになった俺たち。
この中のどれかが“アレ”なのだろうな、と思いながら俺はキャンプを楽しむのだった。
第76話『続・俺たちの夏』
こんなに遅くなってしまい、申し訳ありません。
3月までに2、3話更新できるように頑張ります。
3月は欲しい新作ゲームラッシュすぎるので3月以降はいつ更新かちょっと不明です。