第113話−計画の修正
クロコダイルの計画は大幅に書き換わっている。
それにロビンが気付いたのは何時だっただろうか。
「まあ、前の計画はな、明らかにCPにばれていたからな。これ以上続ける意義が見当たらん」
確認に行ったロビンに、クロコダイルはあっさりと答えた。
そもそも……とクロコダイルは思う。
元々の計画では、ダンスパウダーを用いているのが王であると思わせて、内乱を引き起こす計画だった。
その為に、マネマネの実の能力者であるMr.2が重要な役割を持っていた。
無論、今でも彼の能力は便利であり、使いようは幾等でもある。
だが、ここで重要なのは、内乱を引き起こす、という事自体にある。
基本的に内乱というものは、被害が大きい。実際、元の世界のアメリカが最大の被害を受けたのは南北戦争だったという。そう、第二次世界大戦でさえ被害という意味では劣るのだ。
「……当たり前だが、内紛で正規軍を真っ二つにすれば、そしてそいつらが正面切って遣り合えば、確かに俺が付け入る隙はでかくなるが……その分被害もでかくなる」
アラバスタ王国が弱体化しては意味がないのだ。
苦労して手に入れて、手に入ったのが疲弊した国民、半壊した軍隊、荒れた国土では理想国家なぞと謳った所で不満も出るだろう。
世界政府の介入の余地も大きくなる。
幾等、古代兵器で……といってもそれを即使えるという訳ではない。
「大体、古代兵器なんぞ見せ餌でいいんだ。実際に使う必要なんぞまるでない。というか、使ったら負けみたいなもんだ」
使う必要はない。
ただ、持っているぞ、と知る人は知っていればそれで十分だ。
元々、古代兵器でクロコダイルが狙ったのは、自分が世界政府に成り代わって、とか、世界征服なんて事ではない。あくまで、世界政府に手出しさせない為の、世界政府が手出しを躊躇うぐらいの武器だった。
けれど、その武器の情報を手に入れたとしよう。
すぐ作れるような武器ならいいが、むしろすぐには使えない、作るにしても時間がかかる武器だろうとはクロコダイルも予想している。となると、それが完成する間、世界政府の手出しを防ぐ必要がある。
かつて世界政府はオハラをバスターコールで滅ぼした。
それは、失われた時代を研究した、それだけだ。もし、クロコダイルが同じ事をしようとしたら、そして、それを防ぐ為の脅しがかけられる武器がなければ……今度はここにバスターコールが仕掛けられる可能性が出てくる。
それを防ぐ為には、アラバスタ王国の力が絶対必要だ。
「……半壊していない軍隊、豊かな国土。そいつらがいなければ、世界政府が強攻策に出た時、俺だけじゃ止められん」
世界政府には海軍という最終兵器がある。
そもそも、バスターコールが発動した時点で海軍本部中将が5名確定だが、クロコダイルがいると分かっていれば、海軍大将までおまけでくっついてきかねない。さすがに、海軍大将と海軍中将をまとめて相手に出来ると考えられる程、クロコダイルは楽天家ではない。
そもそも、CP長官たる海軍本部中将アスラとやり合った結果から言えば、予想以上に厄介だ。
(奴は俺の右手が通用しなかった)
水分を吸い取り、干からびさせる右手が通用しなかった。相手の悪魔の実の性質を考えれば当然なのかもしれないが……。
(仮にも海軍本部中将だ……奴も覇気は使えるだろうな)
少なくとも海軍の本部中将以上は覇気を使いこなす。
使いこなせずして、海軍本部中将は名乗れない。
すなわち、本気の奴とやりあう時は、自分にも攻撃を当ててくるという事であり、双方の戦いはおそらく肉弾戦。
(……勝てるか?能力なしの戦闘で奴に?)
自然系悪魔の実、スナスナの実の能力を得てからクロコダイルは……いや、元々自然系の能力者はなまじ大破壊力の技が使えるだけに能力を用いた戦闘に長ける事になる。
逆に超人系の能力者は一部を除き、破壊の力は限定的だ。
その為、肉弾戦闘に自分自身の能力を活かす者が多めだ。
決して自然系だから肉弾戦が弱いという事はないが、自然系の能力者と超人系の能力者のどちらが肉弾戦闘の鍛錬に時間を費やすかといえば……。
(……それに奴は本部中将なだけじゃなく、CP長官……先だって新世界の偽装ダンスパウダー製造工場に潜入してきた相手はおそらくCP9……まとめて相手にするのはさすがに不利だ)
沈黙するクロコダイルを不審げに見ていたロビンだったが、何時までたってもクロコダイルが沈黙している為に声を掛けた。彼女とて組織のトップに位置する立場だけあって仕事はまだまだ残っている。何時までもぼうっとしている訳にはいかないのだ。
「それで、どうする訳?」
「……ああ、そうだったな。当初はアラバスタ王家は民衆の手で滅んでもらう予定だったが……そいつは取りやめだ」
にいっとクロコダイルは笑みを浮かべた。
「王家には最期まで民衆に慕われるままに……死んでもらう。世界政府の手によってな」