第119話−CP9:フクロウ
フクロウはCP9の実働要員という中では最弱の部類に入る。
悪魔の実といった特徴がある訳でもない。
ただし、それはあくまでCP9という組織において、の話でその実力はCP9の一員という時点で十分だろう。
むしろ、フクロウの問題は別の所にある。
すなわち、口の軽さだ。
チャックを自分の口につけて、うっかり喋らないようにしているぐらいだが……自分で開けていれば世話はない。ジャブラの一件もそれこそあっという間にエニエスロビー全体に広まったのだが……こちらは皆知ってはいるが、口に出す者はいない。
理由は単純で、ジャブラに聞いたが最後、口から何かが出そうな程の惚気話を延々聞かされる事になるからだ。
相手の女性をネタにしようにも、CP長官を務める海軍本部中将の妻の妹。軽口の対象にするにはどうにも腰の引ける相手だ。
さて、何が言いたいかというと、本当にそこまで口の軽い人間が政府の暗部を担当する組織の更に深い所にいる組織に配属されたりするだろうか?
そんな訳がない。
これはフクロウのそんな一面のお話……である、多分。
「チャパパパ……暇だチャパ」
フクロウは暇だった。
と言っても、先日までは恐ろしく忙しかった。
当然だろう、現在CP9は総動員態勢だ。
フクロウはグランドライン前半部を担当するチームに入っているが、ブルーノ共々このポジションが実は一番忙しい。
何故そうなるかといえば、CP9がやる仕事はBWだけではない、という事に尽きる。
先だっては革命軍の幹部の暗殺を命じられ、果たしてきた所だった。
「おっ、フクロウさん、お疲れさん」
顔見知りの衛兵が声を掛けてきた。
常に気を張っていては精神が持たない。どこかで気を抜ける場所が必要とも言えるのだが、CP9にとってはある意味このエニエスロビーこそがそう言える場所だった。
司法の島エニエスロビー。
海賊含めた犯罪者にとっては自らを或いは処刑に、或いはインペルダウンへと送り込む恐ろしい場所でもあるが、法の側に立つ者達にとっては、こここそがホームだ。
ちなみに、裁判長は現在はバスカヴィルに代わっている。ちなみにトムの件でなかなかの大岡裁きを見せた先代裁判長の引退理由は高齢の為、だった。
「今度はどこで仕事してきたんだい?」
「チャパパパ、今回は南の海チャパ」
あっさりと洩らすが、この辺はまあ許容範囲だ。
「へえ〜、どんな仕事だったんだい?」
「暗殺チャパ」
……きょ、許容はん、い?
まあ、そこら辺はエニエスロビーの衛兵。暗殺という言葉を聞いても驚いたりはしていないが……とはいえ、他のCP9の面々やアスラなどが聞いたら即効で沈黙させられるのが確定だろう。
「へえ……今回は誰だい?」
「チャパ、それはきっと……」
「きっと?」
「秘密チャパ」
そんな返答にも衛兵は何時もそれだなあ、と笑っている。
実は、フクロウ、結構口が軽いが、相手にも処罰がいくような話に関しては喋ったりはしない。自分が自分の軽口や口が滑った事で処罰を受けるのは自業自得だが、それに巻き込まれた方はたまったものではない。
もし、フクロウがお構いなしに喋るような相手だったら、衛兵とてこうも気安く話しかけたりはしない。そこには確かに、相手に対する信頼があった。
そういう意味では、フクロウもストレスが溜まる。
何しろ、彼が遠慮なしに口が本当の意味で滑っても問題ないのは、CP9の同僚達であり、或いは長官だけだった。
だが、同僚達は滅多に出会えない状況になっているし、長官はそうそう会えるような相手ではない。
とはいえ……。
「やはり軽口は楽しく滑るものチャパ」
だからこそ、相手は選ばないといけない。