第129話−蠢くものは
【SIDE:マリンフォード】
コビーとウソップの海軍入り。
この情報はアスラの元へも上がっていた。
本来なら新兵の情報などアスラの所へ上がってくる道理がない。今回の場合は、モーガン大尉の直属の上司が書類上スモーカーとなっていた事から、アスラへも伝わったに過ぎない。ちなみに、一介の大尉が直属になったのは海軍改革の原因の1つとなったからだったりするのだから、世の中何が幸いするか分からない。
(……まあ、モーガンの推薦という事になっているし、モーガンの息子のヘルメッポと同じ所に放り込んでおけばいいだろう)
具体的には、ガープ中将の所へ。
まあ、中将なら生半可な鍛え方はすまい、と判断する。下手に訓練で相手が怪我をしないようにと手加減などされては、却って悪影響が出る。やるなら、徹底的に、だ。
(……ルフィは、先だって本部中尉になった。このペースなら史実の始まる頃には大佐も夢じゃなかろう)
バカンスという名の実戦訓練で、ルフィは小物ではあるが多数の海賊を捕らえた。
その功績で、ルフィは海軍本部中尉に任じられている。
原作でも、故郷のフーシャ村を出発して、1年と経たずに本部大佐クラスとも真っ向遣り合えるだけの実力を身につけたルフィだ。そのポテンシャルはさすがあの一族と言うべきだろう。
「……あちらはこれでいい。問題は……これか」
手元の、世界政府から送られてきた書類に視線を落とす。
そこには……。
【アラバスタ王国の革命軍への賛同具合を確認せよ】
と記されていた。
全く何を言い出すのか、とも思うが、同時にその理由も見当がつく。
——先だって、アラバスタ王国で事件があった。
これまで王国の各地でゲリラ的に行なわれていたダンスパウダーの使用が複数箇所で発覚したのだ。
それを聞いた時点で、アスラは当然、『わざと発見させたな』と判断した。
そこまでは想像通りだった。
ただし、想定外だったのは犯人というか黒幕とされていたのはコブラ国王ではなく——世界政府。
悪辣だったのは、本物の世界政府の重要書類に使われる紙を使っていた事だ。……こういう重要なものでも、金次第で裏に流れる、流す奴が必ずいる。
しかも、全てで見つけられたのではなく、見つかったのは一箇所でだけ。
また、ある場所では逃亡に失敗した人間が1人だけ捕まっていた。全てで見つかってれば、逆に怪しさが増すものを。
その当人曰く——。
『自分は雇われただけだ』
『各国の力を弱める為に、とか言っていた』
そう、証言したという。
……お陰で、アラバスタ王国は疑心暗鬼だ。
コブラ国王がわざわざ公式見解として、『デマなどに惑わされないように』と発表しなくてはならない程に。
何を計画しているのか。
……コブラ王ら王宮の人間は、色々と世界政府へ通じるルートがある。世界政府がそんな事をしていない、というのはすぐに分かるだろうが……今回厄介なのは、別の部署がやってないとは限らない、という事にある。
可能性がある、それだけで十分だ。
「お陰で、こんな指令が来るという訳だ……この忙しいのに余計な指令を……」
クロコダイルの狙いはアラバスタ王国の乗っ取りという事では変わらない筈だ。
してみると、国民と王との乖離を狙っているのだろうか?王が世界政府を庇い続ければ、それと同時に世界政府が蠢いているという話が流れ続ければ、反乱も起きる可能性が出てくる、のか?
何か違和感を感じ続けているアスラだった。
【SIDE:アラバスタ王国】
「別に、国王に不信感を抱かせる必要はない」
クロコダイルはロビンを相手に自身の計画についての話をしていた。
最近、クロコダイルはこうしてロビン相手に話をする事が多い。
考えを纏める、という事もあるし、ロビンが頭の回転が速い為に欠点の指摘もしてくるのが良いらしい。クロコダイルは自分の命令に反する事は嫌うが、自分の考えの穴の指摘は自分なりに計画を見直したり、自分の見落としに気付けるので受け入れていた。無論、意味のある内容でなければ駄目だったが、その点ではロビンは合格だった。
「王家には最期の瞬間まで国民の信頼を受けていてもらう、という事だったわよね?」
「ああ。今回の狙いは王家じゃない。国民だ」
そう、笑いながら言う。
王家と国民とでは手に入る情報の質も量も違う。
王家ならば嘘だと断定出来るような情報でも、国民レベルではなかなか真実は不明だ。何しろ、この世界にはインターネットなどというものもないし、電話に相当する電伝虫でさえ一般家庭に転がってるようなものではない。
基本的には口コミであり、噂話だ。
「だから、世界政府がこの国を弱らせようとしてる、ダンスパウダーで旱魃を起こしてる、なんて話も複数伝わってくりゃ、真実を確かめる手段がなきに等しいから、疑いの気持ちも出る」
「……でも、それを国王がデマだって言い続けてたら、王家に対する不満も出るんじゃない?」
ロビンの言葉はもっともだ。
だから、世界政府も動かす。
CP長官といえど、所詮は世界政府の人間には違いない。上から探れと命じられれば、動かざるをえない。
どのみち、奴の事だから既にBWに腕利きを送り込んでいるだろうが……。
「この国の王は高潔だろう。けどな……アスラ中将、お前の上には結構腐ってる奴がいるんだぜ?」