第130話−新たに乗り込んだ者は
「さあ、メシが出来たぜ、イカ野郎ども」
ねじり鉢巻きをした板前風の男が料理を持ってくる。
その後ろからは丸サングラスをかけた男が同じく料理を運んでくる。
たしぎは妙な顔になっているが、エース達は最初こそ驚いたものの、今では全く気にしていない。当人に全く悪気がなく、昔のチンピラ時代の癖だと分かっているからだ。
パティとカルネ。
原作で、『極道コンビ』と呼ばれた2人が、現在ストルツ・フランメ号に乗っている理由は、元々この2人、本人達曰く『乱闘を起こしてしまい、300軒目のレストランから追い出された』ので、海上レストランのバラティエを目指していた。
ところが、何しろ本職がコックの2人。
小船だった事もあり、マストが折れ、漂流していた所をエース達に拾われたのだった。
とりあえず雇ってもらえるかどうかはさておき、バラティエまでは連れて行く事になった。元々、海上レストランという珍しい場所には興味があるし、運が良ければコックを雇えるかも、という事もある。
予定ではゾロの故郷に寄った後、海上レストラン、バラティエに向かうという方針だ。
さて、バティもカルネも見た目はアレだが、料理を愛する腕は確かな2人だ。
一応調理は出来るとはいえ、次第にレパートリーが尽きて、同じような食事ばかりになっていた一同にはコックの乗船は本当にありがたかった。
確かに、コックの乗船は必須ではないのかもしれない。
だが、なんだ、どうせ食べるなら美味いものを食いたいというのが人の常という奴だ。
大げさな、と思う人がいれば……1度、同じメニューを一週間繰り返してみるといい。
そんな出会いもあったが、やがて船はゾロの故郷であるシモツキ村へと到着した。
ゾロが幼い頃から修行を続けてきた道場。
ワノ国風のそこが、ゾロの原点。
とはいえ、ゾロ自身は既にエース達に話しているが、このまま彼らと旅をする予定だ。だが、やはり師匠へとその旨を伝えておきたいのだという。それが彼なりのけじめなのだとか。
元々、彼の持っていた大業物、和道一文字も、この道場の主の物だという。
……本当ならそれを継ぐ筈だった彼の娘は、もういない。
「師匠、只今戻りました」
「おかえり、ゾロ君」
眼鏡をかけた穏やかそうな人物だった。
とはいえ、ここにエース達はいない。
師匠と会うのならば、と遠慮したのだった。
『先にきっちり挨拶って奴をすませてこい。終わったら、俺らも紹介してくれ』
そう言って、船で待っている。
「師匠、俺は……海へ出ようと思う」
世界一の剣豪となりたい。
その為には、今のままでは駄目だ。
ゾロの思いを黙って聞いていたコウシロウは1つだけ確認をした。
「ゾロ君、海へ出るのは、最強の剣豪となりたいと願うのは君自身の願いですか?」
コウシロウにとって、唯一の懸念はそこだ。
くいなとゾロとが共に励み、夢を目指した事は知っている。
だが、娘の為に最強を目指して欲しくはない。
目指すのならば——。
「ああ、俺自身の願いだ。はじまりはくいなとの競争だったかもしれねえけれど——俺は、あいつとの誓いと俺自身の野望の為に世界一の剣豪を目指す」
顔を上げ、コウシロウの目を見てそう断言したゾロを見て、内心でほっとした。
「分かりました——それなら、私からは何も言う事はありません。……行きなさい、そして君自身の夢を叶えなさい」
「おう。——師匠、今までありがとうございました!」
そう言って、ゾロは深く頭を下げた。
その後、紹介を受けた仲間達の姿を見て、やはりコウシロウが酷く驚いたのは、たしぎだった。瓜二つといっていい程に似ている彼女を見て驚愕するコウシロウを見て、ゾロがニヤリと笑ったりと色々あったのだが、たしぎもコウシロウから刀の教えを受けて、結構勉強になったようだ。
コウシロウ自身も娘が帰ってきたようで、教えている時もどこか嬉しそうだった。
そうして、彼らは再び海へ出る。
「おし!それじゃ次はバラティエだな」
「どうせなら、落ちろよ。落ちて、このまま船に乗っててくれ」
「「ひでえ!?」」
エースの掛け声が響くと共に、ゾロが酷い事を言う。
もっとも、そんな事を言うのはゾロが彼ら2人の腕を認めているからこそだ。もっとも……。
(((いや、実際そうなってくれないかな……)))
エースにサボ、たしぎも声にこそ出さなかったが、同感だったりする。
それぞれに思いを抱きつつ、船は進む。
目指すは海上レストラン、バラティエ。