第134話−成長、そして
エースの鍛錬であり、仕事である事がある。
海水を満たした大型の寸胴鍋を下から熱する。
熱された海水は蒸発し、蒸気を集めるよう工夫されて上に被せられた鍋の蓋に集まり、やがて結露して下へ落ち、待ち構えていた器に集められる。
完全に海水が蒸発した頃合を見計らって、火を止め、冷えるのを待つ。
これで水が得られる上、寸胴鍋に残った塩は塩で調味料に回され、余った分は島に上陸した際に売る。
塩は生存に必須の物資ゆえに、どの島も多少の自給はしているが、やはり大量生産という訳にはいかない。
岩塩は産出地が限られ、塩田は乾燥した雨があまり降らない時期がある場所でないと行なえない。
なので、こうしたまとまった塩の売却は喜ばれる。
得られた水は、樽に納められ、古い水から消費してゆく。
まあ、時には新しい水を飲みたくなるが、それは島なりが近づくまでは我慢だ。
こうした作業を行なえば、水が得られると分かっていても、通常は燃料もまた有限だからそうそうは出来ない。だが、エースは火の自然系能力者だ。熱には事欠かない。
加えて、これらの作業は細かな制御にはもってこいでもある。
まあ、そうでも思っておかないと虚しくなるというのもあるのだが。
「よし、今日の分は終わったぞ」
鍛錬は剣士はイメージトレーニングと筋力トレーニング、素振り。
サンジもそれなりに足を動かしてはいるが、矢張り船の上では限界がある。
そんな彼らの不満を解消する行動が……。
「見えたぞ!海賊船だ!」
という訳だ。
とはいえ……。
「……おい、これで終わりか?」
ゾロが不満そうに呟いた。
それも尤もな話で、あっという間にケリがついてしまったからだ。
少し時間を遡ってみよう。
まず、エースが先手を打った。
『火拳!』
炎が拳をかたどって、膨れ上がる。それこそ船並のサイズの拳の一撃で、船の上部、帆を焼き払ってしまった。
帆船が帆を失くせば、まともな航行は不可能だ。きちんと調節したので帆柱までは吹き飛ばしていない。……帆柱まで吹き飛ばすと相手を皆殺しするのでもない限り、後が面倒なのだ。
この辺の細かい制御は、日々の鍛錬の賜物だ。
行き足の止まった船にエース、サボ、ゾロ、たしぎが乗り込んでゆく。
サンジは船で留守番だ。
本業がコックというのもあるが、誰かが船にいなければ、もし逆に自分達が攻め込んで留守にしている間に海賊が船に乗り込んだ場合、母船を乗っ取られてしまう可能性があるからだ。
とはいえ……。
エースが焼いてゆく。
サボがなぎ倒してゆく。
ゾロが吹き飛ばしてゆく。
サボとゾロの戦い方は剣士同士ではあるが、前者が速さと技に持ち味があるのに対して、後者は力といった印象を与える。
たしぎは、この中では一番劣っているが、それでも安定した戦いを展開している。
女性という事でちょっかいをかけようとする連中もいないでもなかったが、すぐにそんな余裕は吹き飛んだ。
そうして……。
「貴様ら!どこの……!」
「邪魔だ!」
名乗る時間さえ与えられず、船長はゾロに吹き飛ばされた。
船長が雑魚扱いされる光景を見てしまっては、戦意など保てるはずもなく、降伏したのだった。
「……そろそろ限界なのかもしれないなあ」
海軍に引き渡すまでの処理が終わった後で、エースが呟いた。
誰もがわかっていた。
元より、エースとサボの本来の強さは東の海の枠に収まるものではない。
ゾロも才能があったのだろう。サボと手合わせをする中でどんどん強くなっていった。
たしぎは……まあ、頑張ろう。
そんな面々が揃っているのだ。命の遣り取りという壁を乗り越えさえすれば、はっきり言って相手にならない。
「……今度、アスラが東の海に来るそうだ。その時、相談してみよう」
アスラ自身は休みを取るのは気が引けていた。
クロコダイルと陰謀合戦をやっている最中に、少しの間とはいえ本部を離れるのは気になる。
だが、休みを取らねば効率は下がるし、家族サービスもしなければならない。
それに、上が休まねば下が休めない。休んでみせるのも、上の仕事といえば仕事だったりする。という訳で、東の海で1年余り動いていたエース達に久方ぶりに会いに来るのだという。
「もし、OKが出たら……グランドラインへ入ろう」