第140話−VSサボ?
サボはあの一瞬、黒いものが閃いたのを見た。
何がと断言出来る程ではないが、確かに【夜】は抜かれたのだろう。
ならば、ゾロもまた認められたという事。
たしぎは何が起きたのか分からなかった。
小枝をミホークが変わらず手にしているから、多分あれで打ったのだとは思うが……それにしては、他の人達の顔が違う。
何かあったのだろう。
けれど……諦めない事。無駄かもしれない、徒労に終わるかもしれない、けれど諦めない。
自分はどうだっただろうか……ふとそう思った。
ゾロは確かに見た。
あの一瞬、ミホークの背に広がった夜の闇を。
刀身を見た訳ではない。
ゾロに見えたのは瞬間、ミホークの背に黒く、まるで夜のように何かが広がったように見えただけだ。
だが、分かった。
あれこそが、【夜】の姿だったのだろう。
体は動かない。雪走は斬られた。だが、それでもゾロは笑っていた。
最後はサボだった。
「今更お前にこれは必要あるまい」
そう言って、ミホークは指で小枝をパキリとへし折った。
それは、その小枝が別に細工されていない事を示すようでもあった。
ミホークが折った理由は今更、サボを試す必要はないからだったが。
とはいえ、【夜】を抜くような真似はしない。
それはこの後、だ。
故に此度手にするのは、無銘の刀。数打ちの安物にすぎないが、紛れもない刀の一振り。
一方、サボは己の愛刀となった【美髯切長船】を構える。
「さて、お前がどう成長したか、見せてみろ」
そのミホークの言葉で戦い……いや。
訓練という名の地獄は幕を開けた。
………
「…………ぜえ……ぜえ………」
「さすがにもう動けんか」
サボはといえば、打たれ、転がされ、吹き飛ばされ、で満身創痍の有様だ。
無論、致命傷どころか骨折みたいな重傷さえ負ってはいないのだが……代わりに全身明日には青痣だの打ち身だので痛みで悶えるのだろうな、と思えるような怪我が一杯だ。
「まだ無駄が多いな。確かに剣筋そのものは覚悟が出来てきたようだが……」
案外きちんとした態度でミホークは指摘してゆく。
その様子を眺めつつ、アスラは、こうなったのは、自分とシャンクスのせいでもあるか、と懐かしく思った。
以前に、3人が集まって島1つ沈めた後でふと、という感じでシャンクスが言った。
『ミホーク、お前弟子を育てようとか思わないのか?』
『興味ないな』
予想通りといえば予想通りの答えが返って来たが、そこからアスラとシャンクスが口々に言う事になる。
最終的にミホークが折れた。
無論、認めるかどうかの最終判断はミホーク次第だが……。
結局、アスラもシャンクスもミホークの剣がこのまま消えるのを惜しんだ。
確かに、ミホークは世界最高を謳われる大剣豪だ。
だが、ミホークも何時かは老いるし、何時かはその命も尽きる。それで、彼が積んだ研鑽が露と消えるのは惜しい。
仏頂面ではあれど、丁寧に教えるミホークの姿にアスラは『案外似合っているんじゃないのか……?』、そう思った。
まあ、口には出来ない話だが。
「……さて」
1つ頷き、振り向く。
そこには笑みを浮かべて立つエースとルフィ、何やら妙な情念を轟々と燃やすサンジの3名。
「次は我々の番だ。……始めようか」