第143話−VSエース
最後の1人、エースは武者震いしていた。
やはり強い。
サボもゾロもサンジも強かった。けれど、誰もが相手にさえされなかった。
自分はどこまで通じるのだろうか……。
そんな思いを抱え、エースはアスラの前に立った。
今の自分を全部見せる、そんな思いと小細工が通じる相手ではないと言う事から初っ端から全力だ。
一気に全身から炎が立ち上り、手が火そのものになる。
「……それは……悪魔の実。それも自然系、火か」
「ああ」
驚いていないようだが、まあ、見れば分かる事ではある。
もちろん、アスラからすれば原作通りにエースが火の自然系の悪魔の実を食ったのか、珍しく原作通りだな、とか思ったりしている訳だが。
と、そこまで考えた所でアスラが拙い事に気付き、顔をしかめる。
「待て、火だと?」
「ああ……行くぜ!」
アスラが止める間もなく、エースが攻撃を仕掛ける。
炎の弾丸を連続して放つが、これは紙のようにヒラヒラとした動きですり抜けられる。
(【紙絵】か!だが、まだまだ!)
自身もまた六式を使うだけに、相手の技に予想がつく。
喰らっても平気な筈だが——とも思うが、これが鍛錬だというのなら、普通の人間は喰らえば終わる。なら、かわすのが普通かと思い、更に連続で放つが、効果は薄い。
ならば、と一気に接近する。
エースの接近にアスラが足を止め——次の瞬間、瞬時に身を引いた。
正義のコートの襟元が蒸発し、次の瞬間即座に戻る。
それを為したのは、エースの右腕から伸びる蒼い刃。
「……炎の温度を上げ、刃と為したか」
「ああ、集中してやっと上げられるんだけどな」
集中し、集束させる事で炎の刃と為す。
理想は自由自在に伸長させる事だが、戦闘の最中に刃に集束させながら相手の動きを見るのは困難だ。結果として、何とか一定の長さの刃をやっと為す事が出来た。
幾度か振るうが、矢張り最初の奇襲を凌がれた時点で、掠りもしない。
それなら、と跳び退って、距離を取った。
「アスラ、こいつが今、俺に出来る最高の技だ」
「……いいだろう、来い」
そうして、エースは集中する。
この技はまだとても実戦で使用出来るようなものではない。
余りにも集中に時間がかかりすぎる。
ただ、その分威力は絶大。
それは——。
「【火閃(かせん)】!」
瞬間。
アスラの胸に穴が空いた。
無論、次の瞬間には流れ落ちた水銀によって塞がったのだが……さすがにアスラも少々驚いている。
「どうだい?ボルサリーノさんの攻撃を思い出して作ったんだ」
熱線と言えばいいのだろうか。
火を、熱を集束させ、放つ。厳密には速度はボルサリーノこと黄猿大将のそれよりは劣るのかもしれないが……人間に反応出来るような速度ではなかった。
ふう、と溜息を1つつき、アスラは言った。
「成る程、確かによくぞこれだけの短期間でこれだけ能力を使えるようになった。——だが、長々と続ける訳にはこれでいかなくなった」
疑念を浮かべるエースにアスラは告げる。
水銀は猛毒なのだと。
熱によって蒸発する水銀は肺を犯し、人を死に至らしめる。その速度は通常の液体として飲み込み、胃より吸収されるものより遥かに早い。
すなわち、長引く事は水銀の体を持つアスラと火の体を持つエースとでは、エースが毒によって重大な損傷を受ける可能性がある、という事。
さすがに真剣な表情になるエースに見せ付けるように、アスラは拳を顔の前に上げる。
「いいか、エース。能力者の戦いは能力もそうだが、最後は肉弾戦だ。……何故なら、お前の自然系もそうだが、能力者には遠距離攻撃が効かないような能力も多いからだ」
例えば、ルフィのゴム。
打撃には無敵とも言える強さを誇るルフィの肉体は、戦艦の砲撃でも弾き返してしまう。
自然系ならば言うまでもない。全てがすり抜けてしまう。
「だが、拳でもいい、剣でも刀でも、弓でもいい。レーザーなどとは広域の破壊力は劣っても、通常の攻撃が効かない能力者相手でも、それを通す力がある。海軍本部の中将以上は皆使えるこの力を——【覇気】という」
瞬間。
アスラはエースの内懐に飛び込んでいた。
エースが、しまった、と思った時はもう遅い。
振り抜かれた右の拳が、武装色の覇気を纏った一撃が、エースの頬を捕え、意識と共に吹き飛ばしていた。