第144話−怪獣大決戦(前編)
【SIDE:アスラ】
エースも能力の研鑽はやってきたらしい。
やはり、比較があったのが良かったのだろう。向上心とは結局の所、競う心から生まれる。
かつて、ある登山家が「何故山に登るのか」と問われた時、「そこに山があるから」と答えたという。たった1人ならば今より上を目指す必要がどこにある?
この世界のエースは赤犬大将のマグマの熱を知り、黄猿大将のレーザーを知っていた。
だからこそ、自然系という悪魔の実を手に入れても、奢る事なく能力の開発を行い、あれだけの力を得た。
とても楽しくなる。
……これからやるメインイベントと合わせて。
この世界に来たと初めて知った時には、こんな状況が来るなんて夢にも思わなかった。
世界最高の剣豪と謳われる『鷹の目』のミホークと真っ向やりあうような日々が来るなんて誰が想像する?
【SIDE:ミホーク】
海軍本部中将アスラ。
彼と初めて出会ったのは、シャンクスを介してであった。
どちらにせよ、何時かは彼と出会ったであろう。
だが、もし、シャンクスを介してでなければ、今のような関係となっていたかは疑問だ。
『面白い奴がいたんだよ』
そう言われて引き合わされた時、アスラは少将だった。
どのような相手かと思ったが、当時から若くして長い長い時をかけたであろう拳を放つ男だった。
何時しか、自分達の間にアスラ中将も混じるようになった。
シャンクスが海賊として名を上げても、一向に逮捕しようという動きすら見せないアスラ中将に少し興味を抱き、『捕まえなくていいのか?』と問うてみた事がある。
海軍の連中は大抵の場合、それぞれの正義がある。
心に抱いた何かがなければ、大抵の場合、何時しか駄目になる。この男のそれを見極めるつもりだったが。
「彼を捕まえた方が世界で平穏に暮らす人の数は減る。だから掴まえる気はない」
そう言った。
白ひげや赤髪は抑えた縄張りを搾取する連中ではない。……成る程、カイドウ辺りとはやりあったという話を聞くのに、シャンクスは放置するのはその辺りか。……海賊だから捕まえるではなく、それぞれの海賊の中身を見るか……自分もまた面倒だからと世界政府側に位置しているとはいえ、海賊だ。さて、こちらの事はどう思っているのか。
思えば、あの時に初めて本当の意味で興味を抱いたのかもしれん。
【SIDE:他一同】
いよいよ始まる。
世界最強クラスの2人による試合という名の死合が。
互いに殺す気はないだろう。
だが、あのクラスの2人の一撃一撃は容易に人を殺す。
ようやく起き上がってきたサボやゾロも視線を向ける。彼らは既に沖合いの船の上だ。とてもあの2人の戦闘は同じ島で見られるものじゃない、という事でそこから望遠鏡で見ている。唯一望遠鏡など使わず見てるのはマスト上の見張り台に登っているアリスぐらいだろうか。
そうして、視線の先で2人がそれぞれ、アスラは構え、ミホークは【夜】に手をかけ。
次の瞬間、轟音と爆煙が砂浜を覆い尽くした。
「え?一体何が起きたの?」
たしぎが声を上げるが、誰も説明出来ない。
せめて、肉眼で見ていれば、もう少し分かったかもしれないが、望遠鏡ごしではやはり視界が悪い。
「みゃ〜みゃみゃ〜みゃあみゃ」
「え〜っと、アスラとミホークが抜き打ちの一撃やったら、衝撃波で砂浜が吹き飛んだってさ」
「みゃみゃあ、みゃ〜みゃあ」
「その後は砂が煙幕みたいになって見えないって」
「「「「「って分かるのかよ!?」」」」」
アリスの鳴き声を何故かすらすらと解説するルフィに、エースにサボ、ゾロにたしぎ、サンジが一斉に突っ込む。
ハンコックは苦笑しているし、子供達はよく分からない様子で皆の顔をきょろきょろしながら見ていた。
さて——このままでははっきり見えないので、視点を2人に戻そう。
——構えから、アスラは正拳突きを。
ミホークは無造作に引き抜いた【夜】を振り抜き、斬撃を飛ばした。
それだけで発生した一撃は互いを目指し、中間よりややミホークよりで激突し、轟音と共に激突した付近の砂浜にクレーターを生み、砂煙を濛々と舞い上げた。一瞬拮抗したかに見えたが、次の瞬間斬撃が押し切り。
アスラへと飛来する前に、2手3手とばかりに飛んできた新たな拳圧に、掻き消された。
武器を用いて飛ばす分、斬撃一発の威力はミホークの方が高い。
だが、新世界で出会った白ひげとの一撃以来、アスラは自身の一撃一撃の上限は最強の者達には届かないと判断した。故に速さと工夫。
一撃の重さではミホークの剣に敵わずとも、手数の速さでは拳は剣に勝る。
そのまま両者は駆けながら、砂浜を離れる。
どちらともなく、森へと入り込み、或いは攻撃し、或いはかわす。
互いの一撃一撃で森を粉微塵に破壊しつつ——けれど、両者は笑っていた。
さあ、存分に殺り合おうじゃないか。