第145話−怪獣大決戦(中篇)
「あー、俺はもう少し近くに行く。ここじゃ全然何やってるか見えねえ」
そう言うなり、エースがいきなり空に駆け出した。
その後を、「ああっ、俺も行くよ、エース!」と言いながら、ルフィも追いかけていく。
更にそれを「おい、お前らだけ行くなよ!」と言いつつ、サボもついていった。
それを呆然と見送ったのはゾロにサンジ、たしぎだ。
当然だろう、いきなり目の前で3人が空を走り出したのだから。
「……人って空を飛べるもんなのか?」
そのゾロの疑問に答えてくれたのは海兵の1人だ。
あれは、六式と呼ばれる海軍の武術の技の1つなのだと。さすがに詳しい事は教えてくれなかったが、それで納得はした。ただ、問題は、ゾロらには現状追いかける方法がない事だ。
今、あの島に上陸する気にはなれない。
攻撃の巻き添えを食ったが最後、一撃で消し飛ぶのは間違いないし、試したくもない。
アリスは……ちらりと彼らを見た。
アリスもまた月歩は使えるが……とはいえ、誰かを乗せて駆けるのは大変な事もあり、大人しく座っておく事にしたらしい。
さて、場面を再び島へと戻そう。
島は一瞬ごとにその様相を変えていた。
轟音を上げ、衝撃波が森を薙ぎ払っていく。かわしたアスラを捕えきれず、そのまま海を真っ二つに割った。
お返しとばかりに連射された衝撃波がミホークを襲い、背後の巨大な岩山を貫通痕で穴だらけにした。
「「やはり遠距離戦闘では埒があかないな」」
どちらともなく、そう呟いた。
確かにそうだろう。ただ、それなりに広い島の3分の1を更地にしておいてから言うべきではない事かもしれないが。
まだ残っている部分も被害が大きい。未だ無傷なのは島の4分の1程度だろうか……上空からそれを見た面々は既に呆れ果てている。
まるで示し合わせたかのようにアスラとミホークは接近戦の距離へ。
通常ならば手前で止まる互いの制空圏に躊躇なく踏み込み、ミホークの斬撃が薙ぎ払われ、それを瞬間、足をぱしゃりと液体にして地に沈ませたアスラがその姿勢のまま『踏み込み』、拳を放つ。
その拳をギリギリの所で見切り、かわしたミホークが【夜】を切り返す事なく、その背で払おうとするのをアスラが【夜】の腹を叩いて、上へと軌道をずらす。
そして——。
(!右ではない、左!)
これまでなまじ右のみを使ってきたアスラが、左を使う。
両手利きではなかったアスラだが、手数を増やすならば両手を使わない手はない。
それに別に右しか鍛えてこなかった訳ではない。このレベルになるとバランスよく鍛える事が最終的な強さへと繋がるからだ。
右で払い、左で3連撃が来る。
それをミホークは引き戻した【夜】の柄で受けるが、勢いに弾かれる。
次の瞬間、空が陰る。
上空から九尾が絡まりあい、単なる液体金属の球体として降って来る。
無論、アスラ自身も前から急速に距離を詰めてきており、上に対処すればその間に懐に入り込まれる、が。
焦る事なく、ミホークは連続して【夜】を振った。
それで放たれた斬撃がまるでミホークを包む繭のように、そして次の瞬間全方位に広がった。
それで刻まれた球体は液体となって地面に散らばり、アスラ自身はその斬撃の隙間を【紙絵】ですり抜け、再びミホークの前に立つ。
こうして書くと長いようだが、実際には刹那の攻防であり、余波が酷い事になっている。
外れた一撃だろうが、それはあくまでアスラに、ミホークに対して外れた一撃であり、背後の島はよけたり出来ないから、散々な光景になっている。
ちなみに、最後にミホークが放った斬撃は上空にも飛来し、エースにルフィ、サボが必死になってよけていたりする。
これでもまだ、両者とも船の方向には攻撃を飛ばしてはいない。大丈夫な距離を保っている筈だが、万が一という事もある。つい力が入って、あそこまで届いてしまっては拙い。
が、反面上空までは目が行き届いていない。届かせる余裕がない。
互いが互いに集中し、確かに直撃こそ喰らっていないが、双方無数の小さな傷がある。
効かない攻撃に意味などない。
効かない攻撃など真剣勝負にならない。
ミホークは悪魔の実の能力者などではないから当然だが、ミホークは当たり前のように刃に覇気を纏わせているし、アスラもそれに文句を言う気配は微塵もない。
瞬時の間の後、再び彼らは躊躇なく互いの刃と拳の間合いへと突撃した。
尚、現時点で既に島は5分の1が崩壊し、海に消えつつあった事を追記しておく。