第147話−戦い済んで
試合は終わった。
メルクリウス号に戻り、アスラとミホークも治療を受ける。
もっとも、アスラの怪我はそう長く残る訳ではない。
今回はミホークによる覇気が込められた一撃だったが故に、このような深手を負ったが、自然系(ロギア)がそうであるように怪我自体が長々と残らない。今回の怪我も日が変わる頃には治っているだろう。切り落とされた腕であっても、覇気による影響がなくなれば再び生やせるのだから。
「さて」
治療が終わった後、食堂にエース達を集める。
こちらは司令部要員や要人用の食堂で、一般兵士の食堂とはまた別の食堂だから静かなものだ。
アスラ自身も普通の食堂の方が気軽なのは確かなのだが、そこは海軍本部中将という立場が邪魔をする。やはり、下っ端にとっては中将が一緒の食堂にいてはどうにもくつろげない者が少なからずいるらしいのだ。
アスラも言われてみればそうか、と思い、こちらの食堂を利用している。
如何に気さくな相手であっても、社長だの専務だのが一緒の食堂にいたら……そりゃあ緊張もするだろう。
さて、そんな食堂だから綺麗なものだ。
さすがに船の中という事もあり、落としたら割れる花瓶などは置いていない。いや、花瓶そのものは用意されているが、仮にもこの船は軍艦だ。戦闘にも突入する事のある船に普段から出しておくのは割れる危険を増すだけでしかない。
なので、花瓶などは招待客や臨時の政府のお偉いさんなどが同乗している時に仕舞ってある倉庫から出してくる事になっている。
そこの大きなテーブルに一同が座り、用意された食事を食べながら話をする。
尚、この食事風景は実に対照的で、アスラやハンコック、ミホークにサボらが綺麗な食べ方をしているのに対して、エースにルフィ、ゾロは原作通りの食い気に溢れた食い方をしている。ゾロも最初はどこの豪華食堂だと躊躇いがあったようだが、エースとルフィの様子に何時しか何時も通りの食べ方になっていた。
「……まあ、結果から言えばだ、お前達もグランドラインに入っても大丈夫だろう」
実際、強くなった。
比較対象が対象だから実感が湧かないかもしれないが、彼らの実力は……いやまあ、たしぎはまだまだ足りないが、それでもそれはあくまでグランドラインまで入り込む船の船長クラスと比較しての事。
船員レベルならばまず問題ない。
……それに、強さという意味ではこれ以上、東の海に置いておく事に意義はない。
元々、単純な強さでいうならば、グランドラインでもやっていけるだけの強さがあったエース達にそれでも東の海から始めるよう言ったのは、一重に心構えの問題だった。
それさえ為ったのであれば、グランドライン入りはまず問題ない。
喜ぶエース達を連れて、甲板へと上がった。
空は傾き、もうじき暗くなる。
今晩はここで一晩明かし、明日出航となるだろう。
甲板に上がったのは何となく、というのもあるが、覇気というものについて多少は教えておいてやろうと思った事もある。さすがに食堂では多少見せてやるにせよ、雰囲気がアレだったからだ。
そして、さて、という段になって。
ふと傾き、沈みつつある太陽の中に何か1つ見えた。
「うん?」
目をしばたき、そちらに目を凝らす。
アスラの様子に待っていた他の面々も「はて?」とばかりに振り向く。ミホークは我関せずとばかりに右腕を釣って佇んでいたが、彼もそちらに視線を向けた。
その視線の先には……1つの黒点。
それは次第に大きくなり……。
「………人?いや、あれは……」
「……骸骨、だな」
確かに骸骨だ。だが……悲鳴を上げているという事は生きている?
そこまで考えた時、ふと思い当たる姿があった。まさか。
やがて、それは海に着弾……する寸前に猫か犬か、とにかく足跡を思わせる陥没を見せ、無傷で骸骨を送り届けた。この陥没痕は知っている。……王下七武海の1人にして、革命軍幹部バーソロミュー・くまの能力ニキュニキュの実?
ただ問題は……。
ここにあった島は『少し前まで』という形容詞がつく、という事だった。
何が言いたいかと言うと……。
「……沈んだな」
「ああ」
前ならば島があったのだろう場所、けれど今は海へと姿を変えた場所であり、悪魔の実の能力者である彼が泳げる筈がない。覚悟していれば海の上を走っていたかもしれないが、まさかこうなるとは予想もしていなかっただろう。
ぶくぶくと沈んでいった。
外見が外見だが、とにかく動いている以上見捨てる訳にもいかない。海の上では救助を行なうのは義務だ。ましてやそれが海軍ならば尚の事。
悪魔の実の能力者であるアスラは救助に関われないが故に他の皆と共に縁に歩み寄って、けれどその心の内で疑念が渦巻いていた。
(何故、ここにいる。何故くまの能力で飛ばされてきた?ブルック)