第150話−これから
【SIDE:アスラ】
「それで、どうする?」
アスラはブルックに問いかけた。
ヨミヨミの実の……元・人間。
今のブルックを人間と呼ぶのは正直難しい。見た目で怯えられたように、頭部に大事なトーンダイアルが入っているように、今のブルックには脳や心臓は言うに及ばず目玉や内臓も何もない。
普通の人間ならば、なければどうにもならない物が全てないのに、ブルックは普通に考え、物を見て、物を聞く事が出来る。原作で紅茶を飲んでいた所を見ると味も分かるのか。
(そもそも)
今のブルックはどうすれば殺せるのか?
骨をへし折ってもカルシウムをとれば治る。
通常の人間ならば脳でも心臓でも或いは内臓を傷つけられても死に至る。血を一定以上に失えば失血死する。目を突かれれば失明して物が見えなくなり、耳を潰されれば音が聞こえなくなる。
……その全てがブルックには無効だ。
『死んでも1度だけ蘇れる』
それがヨミヨミの実の能力だと考えられてきたが……或いはブルックの現在の姿こそがヨミヨミの実の本当の能力なのかもしれない。すなわち自らの死体を魂とでも呼ぶべきもので持って動かす能力。
が、そんな事は今は関係ないと外には出さず、内心で頭を振る気持ちで振り払う。正直検証してみれば、魂の存在とか死後の世界とか色々と面白そうではあるのだが。
「どう、とは?」
一方、ブルックもどういう事かと首を捻った。
当たり前か、とアスラも思う。先程の問いからは意図的にではあるが、色々と省いているのだから。
話をして気付いたが、ブルックはゴールド・ロジャーの財宝というものに興味がない。
無論、海軍が世界政府が秘しているワンピースの存在もだ。
……当たり前か、ブルックの現役時代は海賊王となったロジャーがまだ駆け出しの頃、ロジャーが海賊王となり刑死した時より、更に20年以上も前の話だ。
当然、ロジャーの最期の言葉など知る筈もない。
「君は、グランドラインを走破したいというのは別に何かを狙ってではないんだろう?」
【SIDE:ブルック】
「そうですねえ〜……敢えて言うならば、それが仲間達と共に抱いた夢だったから、でしょうか」
嘗て失った仲間達。
伝染病に罹り航海の途中でカームベルトを抜けて脱出せざるをえなかったヨーキ船長。
聞いてみた所、何と幸運にもカームベルトからの脱出に成功したらしい。ただ、それ故にルンバー海賊団はグランドラインから逃げ出したという話が定説になっていたらしい。
……ヨーキ船長はどれだけ悔しかった事か。
最期の時まで共に航海を続けた仲間達。
当初の予定とは異なったが、彼らとの最後の演奏は無事ラブーンにも聞かせる事が出来た。ラブーンは無事だろうか。約束した双子岬で待っていてくれるといいのだが。
嘗て自分達が目指したグランドライン一周はロジャーが為したという。
当時は才気ある若者だった彼が成し遂げ、海賊王と呼ばれたのだと聞くと何とも不思議な気持ちになる。いや、これは仕方のない話か。
何しろ、自分は彼らの若い頃を知っている。
今、大海賊と呼ばれる白ひげもまだ若いヒゲを生やす前の事を知っている。……もっとも向こうは自分達の事を覚えているかは怪しいが。ひょっとしたら音楽好きの賑やかな集団として微かに覚えているかもしれない。
殆どは消えた。
夢を目指し、生き残った僅かな人間が名を残す。アスラが聞いたなら、1将功成って万骨枯る、という言葉を思い出したかもしれない。
今はかつてとは違う。
だが、それでも……。
「きっと、皆で見た夢を果たさぬ限り、私は前に進めないのだと、きっとあの時あの場所で死んだままなのだと思うんですよ。だから、私はグランドラインを走りきってみたい。新たな海賊王になりたいからじゃない、ひとつながりの大秘宝、ワンピースなんて今聞いたばかりの事なんて更にどうでもよろしい」
そう、だからこそ。
ブルックにとって、果たさねば先へと進めない。