第167話−閑話
■同期の少佐の話
「何?アスラ中将の話だって?いや、俺は確かに彼と同じぐらいの時期に海軍に入ってマリンフォードにいたけどさ。余り詳しくはないぞ?え?それでもいい?当時の事を知る人が殆どいないって?まあ、そういう事なら……」
「そうだなあ、もう海軍に入った時点でアスラ中将は……他と違ってたね」
「どう違うのかって?普通は海軍に入ったら下っ端からだ。けど、中将は実力がずば抜けてたせいで、最初から7000万の賞金首を倒すわ、少尉の階級を得るわ……そりゃあ、最初は嫉妬もあったさ、けどすぐに無理だって諦めた」
「悪魔の実?いやあ、使わなくても強かったよ。六式を使いこなすってだけでも凄いしね。だって、大人になっても使える奴なんて限られてるし」
「もう……当時一緒に入った連中、束になっても敵わなかった。むしろ、彼の場合手加減するのが難しかった、という感じだったかな?」
「おまけに、出世してどんどん重要な部署任されて、それどころか自分で提案して……なんだ、上に立つってのはこういう奴なのか、って彼が佐官になる頃にはもう別世界の奴だっていう感じで同じ世界の住人だとは思えなかったね」
■ガープ中将の話
「うん?アスラの事を知りたいじゃと?」
「アスラか。あいつと初めて出会った時はちょっくら驚いたもんじゃった。無人島かと思った島のジャングルからでかい虎と一緒に出てくるんじゃからのう。ああ、今も一緒におるアリスとその兄か弟かしらんがもう1匹おった。グランタイガーの性質上、もう会う事はないじゃろうが」
「うむ、おそらく難破した船に乗っていたか海賊に襲われたり……或いは海王類に襲われたか。いずれにせよ、船から放り出されたのは確かじゃろうな。それ以前の記憶を失っておるから詳しい事情は分からんが」
「ん?あやつの強さじゃと?」
「ふむ、王下七武海のミホークはあやつと手合わせするのを気に入っておるみたいじゃがな。あれは悪魔の実で強いからではない」
「アスラの強さというのは積み重ねた強さじゃよ。何千何万何百万何千万と繰り返し、積み重ねて今の強さを手に入れた。じゃらこそ、同じように積み重ねてきた強さを持つミホークは気に入っておるんじゃろう。まあ、本気で怪我をさせるつもりでやっても大丈夫というのもあるんじゃろうが」
「いずれにせよ、ワシらが引退した後、海軍の次世代を背負う1人なのは間違いないじゃろうな……」
■ある島で出会った元海賊の話
「……俺が昔は海賊船に乗ってたなんて言わないでくれよ。もう、俺は足を洗って、真っ当に生きてるんだ。何?話を聞きたいだけ?礼もするって?いらんよ、黙っててくれりゃそれでいい」
「アスラ中将か……そうだな、俺が海賊を辞めようと決心したのはあの人のお陰だったな」
「俺は海賊っていっても見習いからやっと昇格したばっかりって感じでよ。強くなって何時かは俺も一人前の海賊に!なんて思ってたんだが……」
「当時の船長やその幹部達は強いと思っててね。それこそ簡単にあしらわれて、戦闘でも敵なしだった」
「……けどさ、アスラ中将、だったか……その、別格ってのはいるもんだな、って今でも思うよ」
「もうね?強さって奴の根本が違うんだよ。船長達の強さは確かに強いけど、人間として理解出来る強さだった」
「拳圧で船を砕くとか、船長らが子供の石を使った水切りみたいに飛んでくとかさ……信じられるか?え?見た事あるって?なら分かるだろう?あの人、拳で船を真っ向粉砕するんだぜ?悪魔の実の能力かと思いきや、それとは別に純粋な武術の腕らしいし……なんで知ってるのかって?当時、能力者か!って叫んだ船長とこいつは能力じゃない、って冷静に答えた彼の姿が目に焼きついててさ……」
※事実、後に確認した所アスラ中将の拳は長年の修練の一撃でもって、戦艦でも粉砕可能だそうです
「あれを見たら、諦めもついたね。もう、なんだ。こんな世界に俺なんかいても死ぬだけだって、そう確信出来たからこそ、すっぱり足を洗って真っ当に生きる事にしたんだ」
「ああ、じゃあ、そろそろ仕事に戻るんで……くれぐれも、な?頼むぜ?」
■インペルダウン収監中の海賊
「あ、アスラ中将!?やめてくれ!やつの事なんか思い出させないでくれ!」
「ああ、そうだよ!俺は当時、3隻の船からなる船団を率いてた海賊の船長だったさ!けどよ!あの野郎、裏拳の衝撃波で左右の僚艦同時に沈めやがるんだぞ!?」
「あんな化け物どう相手しろってんだ!?一味全員伸されて、捕まったさ!グランドラインを進んで来て、それなりに自信もあったけど、木っ端微塵に砕かれたよ!船も自信も!」
「ああ、もう!気が済んだだろう!?さっさと帰ってくれ!」
■ある街の一般市民
「はあ、アスラ中将……それってどなた……え?ああ、あの時の!そうでしたか」
「ええ、そうですね、私達の街が海賊に襲われた時、救援に来てくれました」
「あの時、街はすっかり廃墟だったんです。海軍の人も以前にもっと小規模な襲撃を受けた際も来てくれたんですが、やはり専門の方ではないので手が回らなくて人海戦術でどうにかされてたんです」
「それがあの時は違いました。装備や人員がちゃんと救助の為のもので……きっとあの艦隊が来てくれなかったら、今、この街で暮らしてる人の半分は亡くなっていたと思います」
「うちの子も今は夫の工房で頑張って、跡を継ぐんだと頑張ってますけれど……あの時は梁の下敷きになって助からないかと……そんな怪我を負ってたんです。でも、重機もなくて、しかもバランスが微妙なせいで下手に動かす事も出来なくて……」
「それをアスラ中将でしたか。あの方の力で丸ごと持ち上げて助けてくれたんです。本当にこの街にとっても私達家族にとっても恩人ですよ」
■新人海兵
「え?いや、自分なんかに聞かれても……はあ、そりゃアスラ中将の従卒になったのは確かですが」
「そ、そうですね……怖いけど、尊敬出来る人だと思います」
「いや、怒った時とか、戦闘時とかはもう何と言いますか……迫力満点で……圧倒されますね」
「でも普段は優しい方ですよ。忙しい方ですから教えてもらえる機会が限られてるのは確かですけれど。自分も何時かはあの実力の一部でも身につけられたらとは思いますね」
■アスラ中将と一番長くいた方
「みゃ〜みゃみゃあ。みゃ?みゃみゃみゃ!」
「みゃう?みゃ!」
「ぐるるるるる……」
え、ちょっと待って、いや、決してご飯をわざと駄目にしようとした訳では!
ぎゃあああああああああ!