第169話−死闘勃発そして
2人の攻撃が激突した。
「蹴爪先(ケリ・ポアント)!」
「魔天狼(マテンロウ)!」
双方の蹴りの激突はジャブラに軍配が上がった。
ボン・クレーの爪先での蹴りに対して、ジャブラの蹴りは両足によるもの、これだけならボン・クレーの方が勝っていたかもしれない。蹴りというものは軸足が大事だ。【赫足】のゼフが利き足の右足を斬り落としたのも軸足である反対の足の方が蹴りでは重要だからだ。
逆に言えば、両足で蹴るという事は踏ん張りが利かないという事だ。
だが、それでもジャブラが勝ったのは獣人という部分が大きい。
(なんて硬いのよう!)
爪先をボン・クレーは覇気で強化していた。だが、そんな事を忘れさせる程に硬かった。それこそ爪先が壊れるかと思った程だ。
ボン・クレーもまた否応なしに新世界に放り込まれた1人だ。
その結果として覇気を取得したが……それを言うならば、ジャブラもルッチとの連絡の関係上、新世界に入らざるをえなかった。つまり、ジャブラも覇気を覚えていた。正確には調査の段階でMr.1が覇気を取得しつつある事が分かった以上、対抗策として取得せざるをえなかったとも言う。
これが悪魔の実の能力であれば、それでもまだジャブラにダメージが行ったかもしれないが、【鉄塊】は能力ではなく技術だ。すなわち覇気で強化された分は双方覇気を込めているという事で相殺すると、残るは純粋な実力と技術。
鍛えられた爪先とはいえ、鉄の塊並に硬い相手を蹴った訳だ。これでは痛くて当然だ。
一方、ジャブラの方は己の技が通用している事を確認していた。
アリスに敗退してからというもの、ジャブラはアリスと幾度となく模擬戦を繰り広げてきた。
共に鉄塊拳法を使えるもの同士。
双方の実力は確実に上昇していった。その成果が今出ているとも言えた。
(このまま決める)
油断はしない。
着実に手を進めて行く。
「狼弾(オオカミハジキ)!」
「オカマチョップ!」
ボン・クレーのチョップは命中したがまともにダメージが通らず、逆に吹き飛んだ。
防御した故にボン・クレーのダメージは少ない。だが、距離は取れた。
ボン・クレーには遠距離戦闘技術はない。ならば、距離を維持するのが最善。
「嵐脚・孤狼」
波が跳ねるようにして嵐脚の斬撃が飛んでゆく。
それを横っ飛びにボン・クレーが避ける。
「マスカラ・ブーメラン!キャッチしマスカラ!」
……さすがにこれはジャブラも意表を突かれた。
まさか、目の下のマスカラが取り外されて飛んでくるとは……刃物だったようで、衣服の一部が切り裂かれる。だが、それだけだ。
(血も出ていない、戦闘に特に問題はなし)
ならばとばかりに攻撃を強める。
変態チックな動きで回避し続けるMr.2には正直段々と苛立ってくるが、それでもその動きは本物だと言わざるをえない。
相手を幾箇所も切り裂いているが、いずれも浅い。
ならばとばかりに複数の斬撃を放つ。これで駄目ならば次の手は——そう考えたジャブラの先で蠢いたものがあった。
ボン・クレーは内心では焦りがあった。
ボン・クレーの技は基本は蹴り技だ。距離を取られては、ジャブラの狙い通り有効な技は数少ない。その1つであったマスカラブーメランだが、これの最大の有効性は奇襲だ。その初撃がかわされたからには、もう効果は薄いだろう。
(むう〜覇気が利いてないわねい。相手も覇気を使えるって事かしら)
武装色の覇気は既に纏った。
通常なら、自身の蹴りは相手が鉄の塊であろうが覇気を纏った蹴りでなら、ぶち壊せるはずだが、チョップも蹴りも酷く硬い鉄を殴ったような感触を味わうだけだった。痛かったのは事実だが、挫いたり骨が折れたりしていないのは不幸中の幸いだろう。
あの技は覚えがある。
かつて、ダンスパウダー事件でクマドリとフクロウと対峙したボン・クレーは彼らの使う武術に関して今後遭遇する可能性が多分にあるとみて、調べさせた。
その結果、判明したのが六式、と呼ばれる武術。
これはCPが相手だと分かっていたからこそ、迅速に判明した事だったが、さすがに修得方法までは分からなかった。
だが、どのような技を持っているかは分かった。
高速移動の【剃】
空を駆ける【月歩】
真空の刃を放つ【嵐脚】
鉄の如き強度を肉体に持たせる【鉄塊】
紙が風に吹かれるようにかわす【紙絵】
指で貫く【指銃】
以上の6つを総称して六式という。
ただ、相手の使う技は単なるそれだけではなかった。
聞いた話では、【鉄塊】は体の筋肉を硬直させる為に動けない筈だったし、【嵐脚】は真っ直ぐ飛来する筈だった。
なのに、相手は動き回り、刃は波打つように跳ねてきた。
なら、相手は六式を単純に取得しただけではない。自らのものとしている。
距離を詰めようと動くが、相手には移動の為の技もある。ボン・クレーとて遅い訳ではないのだが……さすがに【剃】に追いつける程ではない。
(くっ、このままじゃ拙いわねい……)
その視線の先で再び【嵐脚】が放たれる。
今度は複数だ。
まるで狼のようなそれがボン・クレーに向けて襲い掛かって来る。知らぬ事だが、その技の名を「嵐脚・群狼連星(ルーパスフォール)」という。
拙い、と思った。
ボン・クレーは空を飛べない。
これまではバレリーナのように両手を上に上げてくるくると回転しながらかわしていたのだが、相手も対応してきたのだろう。今度の攻撃はその効果範囲が広い。
アレを喰らっては、あられもない姿を晒す事は避けられない……!ついでに、怪我も避けられない。
ならば、少しでも自分の納得いく形で、と思い真っ向立ち向かおうとするボン・クレーの目の前で。
「キャンドル・ウォール!」
白い壁が立ち上がった。
ガリガリと反対で削られる音がするが、分厚い壁は持ち堪え、やがてドロリと溶け崩れる。蝋ではあっても、悪魔の実の蝋だ。その強度は鉄にも匹敵する。火以外ならば早々簡単には突破出来ない。
「遅いわよう〜」
「これでも急いできたガネ?」
Mr.3ギャルディーノ参戦。