第174話−戦い済んで(CP側)
マリンフォードの海軍本部、その一室。
そこにアスラの姿があった。
片端から書類を捌いていたアスラが、ふと一枚の書類で手が止まった。
「……やはりか」
その報告書はBWの生存を伝えるもの。
現状、情報操作と思われる動きが停止しているのは単純に次のステージへと移ったからなのか、それとも自分がMr.2を叩きのめしたからなのか……それが分からないのはもどかしい。
ただ、Mr.3の姿が確認された。
彼1人だけとは思えないから、これは3人共生存していると判断すべきだろう。
現在、Mr.1&3に関しては正式な手配書が回っている。
海軍本部中将アスラに対して攻撃してきた、或いは犯罪者を庇ったのは事実だし、裏で何をやっているかある程度判明している現在、彼らを手配するのは決して難しい事ではなかった。
まあ、賞金は然程高くない訳だが……Mr.3は。ここら辺は元々の名前が売れていたかどうかの違いだ。
これによって、次に遭遇した際は捕縛なり攻撃なりの理由がつけられる。
もっとも、次が何時になるか分からないが……。
前回、クロコダイルらが動いた原因は他ならぬアスラが原因だった。
元々、アスラの動きをクロコダイルは警戒していた。
これは純粋に脅威という事もあるが、同時に目立つ為、行動を監視しやすい、という事もある。ここら辺はアスラがクロコダイルに対して監視をつけているのと同じだ。
事実、レインディナーズのクロコダイルのカジノは政府関係者立ち入り禁止だが、実際にはカジノで遊ぶぐらいは政府関係者であるCPの人間がやっている。大物ならばともかく、下っ端の分析官や捜査員は怪しい行動を取らない限り、即ばれる程そこまで顔が売れていないからだ。
アスラは違う。
顔も知られているし、行動する際も目立つ。
戦艦メルクリウス号以外を使う事も可能だが、逆にアスラの立場上、王国に黙って潜入というのは余計な政治問題の原因になりかねない。海軍本部中将にして外交官、そしてCP長官というのはそうした面も含んでいる。例え、どんなにプライベートで、アラバスタ王国の国王や王女と仲が良くても、だ。
結果として、今回も堂々とアラバスタ王国に入港している。
その時点から密かな監視は為されていた。もちろん、アスラもそんな事(監視)は百も承知だ。
それを踏まえた上でドアドアの実の能力という裏技を用いたからこそ、一時的に足取りをくらませ、クロコダイルとMr.1の到着はMr.2が重傷を負ってから、という事態になった訳だが……。
(仕留め損ねたのは痛かったな)
現在の彼らの実力を測れた事、罪を犯した事で手配出来た事でよしとするしかない。
まさか、命の危険がある、あの状況で実力を隠していたなどという事はあるまい。
いずれにせよ、終わった事だ。今更どうこうする事は出来ない。
問題は、これからどうするか、だ。
(間違いなく、奴の計画は追い込みにかかっている)
Mr.2だけならば今動いている人員なのだから当然だった。
Mr.1か3が来ただけならば、その護衛役として考えられる可能性があった。
だが、今回は1〜3の全員がいた。
(……3の相棒は直接戦闘能力はなかった筈だから、あの場にいなかった事は問題ない。1の相棒は……何とかいう酒場かどっかに原作ではいた、ような……)
本当はスパイダーズ・カフェなのだが、さすがにそこまで覚えていない。
最大の原因は彼女が余り表立って動いていないからだ。目撃回数そのものが少ないから、どうしても正体や拠点を探る動きもより活発な方に回さざるをえない。
「とりあえずはMr.2ばかりとは言ってられない、か」
変身能力を持つMr.2の捕捉にはかなりの要員を必要とする。
無論、今後も捜索は続くし、抹殺命令そのものは有効なのだが……当面は動けないであろう相手よりも実際に動いている者達を優先しないといけないのは当然の話だ。
現状で想定されているのは、事前の活動によりアラバスタ王国内部に国民の不満を溜めた上で、世界政府の暴走を印象づけるものとみられている。
この際、各国にもその情報が広まれば尚良い。
もし、アラバスタ王国1国に戦力を集中出来なくすれば……クロコダイルの計画はほぼ成功をみる。
ルッチとカク、カリファにクマドリ、フクロウが今回の作戦に同行しなかったのも、そちらを全力で探っている、そして発見次第抹殺というサーチアンドデストロイに専念しているからだ。
幸いというべきか、BWの規模的にそこまで大規模にやる事は困難らしく、大部分の国においては新聞の買収や担当の者数名といった具合になっている。担当している者がいる場合は消した上で、CP要員が代わりに成り済まし、新聞を買収した場合はその発行を抑える準備を整えている。尚、記者が抵抗した場合は即効で『不幸な事故』が起きる手筈になっている。
「後の問題は……Mr.4にミス・メリークリスマス、Mr.5にミス・バレンタイン、だな」
彼らとて、原作では特にMr.5とミス・バレンタインはやられ役扱いだったが、実際に相手取るとなると決して馬鹿にしていい相手ではない。
幸いなのは、ミス・メリークリスマスを除けば彼らの能力が戦闘に偏っている事か。
アスラとしては、1つ大きな懸念となっていたのがクロコダイルが天竜人に手を出したりはしないだろうかという点だったのだが、今の所その気配はない。クロコダイルとしてもコントロール不可な相手だ。下手に手を出して厄介な事態を招くのは回避したいだろう、と判断する事にした。
そんな時だった。
「?電伝虫が……アスラだが」
上役という事もないではないのだが、そこは電伝虫が別になっている。
どうも、その仕組みが分からないのだが、ありがたいのは確かだ。
そして、連絡の内容はクマドリからであり……正直に言おう。その内容はアスラにとっても予想外の事態だった。
『BWのMr.5コンビを発見。彼らの暗殺現場に介入し、戦闘に突入した』
通信はそのような内容だった。