第177話−状況進展
・世界政府、昨今の不穏な情勢を鑑えみて、の発表と共に駐屯地への兵力増強を発表。
周辺国家からは一斉に反発の声が上がる。
・駐屯地に対して何者かによる襲撃事件発生。
目撃情報の結果、服装や武器などからアラバスタ関係の人間ではないかとの記事。
・世界政府、アラバスタ王国に対して先だっての事件の調査への協力を要求。
アラバスタ王国、国家の権利を侵害するような要求には応じられない、との談話を発表。
あくまでアラバスタ王国主体とし、若干名の捜査官の派遣ならば受け入れる、との事。
・王下七武海サー・クロコダイル、仲介に乗り出す。
世界政府側、アラバスタ王国側に会談の提案。
・アラバスタ王国軍駐屯地にて大規模な爆発事件発生。
死傷者多数。
その後の調査により何者かの爆発工作によるものである可能性が大と判明。
・サー・クロコダイル懸命の仲介により、会談催される。
しかし、双方の意見が折り合わず、決裂に終わる。
「……サー・クロコダイルは今後も双方の仲介に努力する意を伝える。積極的な介入の意思を問うた所、当人は『平和でないと自身の商売に差し支えるから』と苦笑いしながら答える……か」
深い溜息をついて、アスラは新聞を放り投げた。
裏事情を知らない一般人がどのように思うか、想像するだけ馬鹿馬鹿しい。
結局、Mr.5らは指名手配出来なかった。
Mr.1と3はアスラという海軍本部中将という表の顔を持つ相手に対して、犯罪者の逮捕を妨害、攻撃を加えたという理由があった。
だが、Mr.5コンビの戦ったのはCP9の1人だ。
きちんとした理由なしに指名手配は出来ない。しかし、その理由としてCP9の1人との戦闘した事を上げられない。
というか、そもそも攻撃を仕掛けたのは政府側からだし、世界政府の工作員があの時あの島にいたという事自体が隠蔽対象だ。万が一という事も考えると到底出来るものではない。
(……おそらく、アラバスタ王国での爆発はMr.5の仕業だろうな)
他はどうか。
アラバスタ風の衣装を着せたBWの配下に襲わせてもいいだろうし、買収なり潜り込ませていた人員なりにそれっぽい衣装や武器を目撃した事を報告させてもいい。或いは、同じく買収なり脅迫なり人質なりしたアラバスタ王国軍の人員を実際に用いてもいい。
幾らでも方法はあるだろう。
……あの接触からBWの動きは加速した。
クロコダイル自身が表に出てくる機会も増えた。
余りの急展開に、アスラでさえ手を打つ機会を逸した程だ。どうやらクロコダイルが世界政府に働きかけたようだ。
といっても、別に軍を派遣してくれなどと言ってはいない。クロコダイルが連絡したのは1つだけ。
『不安定なのは困る、俺の部下どもを治安の安定に投入したいが?』
これだけだ。
言っている事はむしろ立派だ。
だが、世界政府からすれば、王下七武海の一角の戦力は幾ら味方側であっても削れるものならば削りたい。彼らは世界政府から認定されたとはいえ、所詮海賊に過ぎないからだ。
結果的に、世界政府は軍隊を増員して、治安の安定化を図ろうとした。それが周辺国家の神経を逆撫でするのは分かっていても、クロコダイルの言葉を考えれば、アラバスタ近郊に世界政府陸軍兵力を置かざるをえなかった。
尚海軍ではないのは、海軍の本職はあくまで海であって、最悪、アラバスタ王国のような広大な国の奥深くに攻撃するような事は本来の任務ではないからだった。
だが、後は見ての通りの有様だ。
海軍と陸軍はどこの世界でも仲が悪い。ましてや、この海が巨大な世界では海軍が予算の大部分を持って行ってしまい、海軍がエリートが集まると見られているから、陸軍は規模も小さく予算的にも圧迫される。
当然、それが当然と分かっていても、陸軍は海軍に不満を持つ。アスラもそこに介入する事は出来なかった。
(……緊張する世界政府とアラバスタ王国の関係、民衆の人気を高めるクロコダイル……原作ではああだったが、今アラバスタでは反乱などは起きていない……とすると)
やはり、そういう事なのだろうか。
反乱軍の役割を政府軍に担わせる、そういう事なのか……。
(面倒なのはオフィサー・エージェント。入ってくる情報を吟味する限り、フロンティア・エージェントは危険なのは狙撃の2人組程度……)
自分がクロコダイルならばどうするだろうか?
それを懸命に考える。
今、クロコダイルは計画の最終段階に入っている。
ここでこちらが手を間違えれば……間違いなく、原作では失敗した計画の成功。
コブラ王もビビ王女も王家は途絶え、現時点で誠実な仲介者として世界政府とアラバスタ王国を懸命に交渉のテーブルにつかせようと尽力しているクロコダイルが民からの信任を受けて、王に就く。
チャカやペルなど原作では最後の最後まで王家を守り続けた面々でも、現在はクロコダイルを信頼している有様だ。いや、コブラ王でさえ警戒を緩めてしまっている可能性がある。
当然だろうな……現状クロコダイルは自分の為と言いつつも、誠実な顔を見せている。
ビビ王女もイガラムも王宮にいる。
どこにいるかはっきりしていれば、狙いやすい……。
(……手が足りない)
あの時、Mr.1〜3までを仕留める事が出来ていれば……いや、その場合は更にクロコダイルは延期していたか。
それに、クロコダイルには表に出てこないが、原作通りならばロビンもまたいるだろう……。
(……何より、このままいけば最悪……)
アラバスタの民衆と世界政府の妥協の産物として、正式にクロコダイルが新たな王として認められる可能性すらある。
嘗て、王として認められる事を求め、人質ごと抹殺された海賊がいた。
だが、今回は違う、クロコダイルは海賊とはいえ王下七武海として賞金を外されており、世界政府の側として認識されている。五老星とて下手な者が王位に就いて混乱するぐらいならば認める可能性もないではない。
だが……。
「……力押ししてくる相手ってのが楽なのが実感出来るな」
時間を確認する。
そろそろ約束の時間だ。
「……こうなったら、使える者は全て使うしか道はない、な」
そう呟くと、アスラは部屋を出て行った。