第180話−主役端役で舞台は成る
それはほんの一時の出来事だった。
幸い、というべきか、コブラ国王が到着した時点で、ギリギリの緊張感の中、世界政府海軍、アラバスタ王国正規軍共に引き金が引かれる事なく、対峙し続けていた。
海軍側は命令故にここまで来てしまったが、自分達で戦争の引き金を引く事への躊躇いと何より命令がない為に。
アラバスタ王国側は世界政府と可能ならば戦争に至る事は避けたいが故に、王が向かっている為到着まで堪えるよう徹底していた為。
そうして、コブラ王が到着し、やや前に歩み出て、同じように前に歩み出てきた海軍少将と話を始め、しばらくしてそれは始まった。
話自体は水掛け論だ。
やっただろう、やってない、の応酬だ。
とはいえ、立場的に国王自らが出てきたアラバスタ王国に対して、海軍側は所詮少将、しかも上からの出撃命令なしに独断で追撃をかけた、という事もあり、どうにも押され気味だった。
その様子を見ながら、どちらもどうやらこの場は収まりそうだ、と内心安堵していた時だった。
突如、海軍側から前に出た海兵らが銃を向けた。
「!?なんだ、あいつら何を」
周囲の人間が騒ぎ立てる前に、彼らは銃を撃った。
コブラ国王へ向けて。
その瞬間、王の周囲には誰もいなかった。
通常は王の傍から片時も離れない近衛も、王自身から相手を刺激しない為にと言われ、やきもきしながらも後方に残っており、何が起きたのか一瞬頭が理解出来なかった。
そして、状況を理解した時には既に弾丸は発射された後だった。
「王!」
海軍もまた少なからぬ将校が瞬時に血の気が引いて真っ青になった。
『やっちまった!?』
緊張に耐え切れなくなったのか、或いは何かしらの理由があるのか。
それは分からないが、今更発射された弾丸は戻らない。
誰もが全身を朱に染めて倒れるコブラ国王を幻視した瞬間。
王の前に立ちはだかった者がいた。
その相手はアラバスタ王国風の衣装を纏っていたが、近衛の人間は気づいただろう。
それが、海軍側から親書を運んできた海軍将校だという事に。
両手を広げ、コブラ王の盾となった彼の全身に弾丸は食い込み——そのまま背中が伸びた。弾丸が突き抜けたのではない。そりゃもう、みょーんというか何かしらの擬音がつきそうなぐらいに弾丸は貫通せず、ただ海軍将校の体を僅かに変形させただけだった。
「きかーん!ゴムだから!」
その言葉と共に、押し戻された弾丸はゴムで加速され、来た勢いそのままで来た道を戻り、さすがに銃口に飛び込むなんて事はなかったが、撃った海兵らに直撃した。
あ〜あ、穴あいちまった。と服を摘まんだ彼は、周囲が何が起きたのか目の前のギャグにしか見えない光景に唖然としているのを尻目に、服をさっさと着替えてしまう。
背中に背負った袋から取り出した正義のコートを羽織り、【MARINE】の文字が記された帽子を被ればそこに現れたのは1人の海軍本部中佐、その名をモンキー・D・ルフィという。
蜂の巣にされたそんな事など微塵も感じさせない様子で、少し怒る素振りを見せた。
「まったく!お前ら何やってんだ!?」
だが、既に止まらなかった。
海軍側はギリギリで張り詰めていた糸が切れたか、つられたか、武器を構える者が現れ。
王を狙われたアラバスタ王国側は当然のように武器を構え。
今正に戦争の火蓋が切られようとした、その瞬間の事だった。
双方の間を。
閃光が。
駆け抜けた。
次の瞬間、その先、無人の地域へと着弾した一撃と間を通り抜けた事による余波が吹き荒れた。
悲鳴をあげ、今にも放たれそうだった銃が、砲が転がり落ち、結果的に生まれた間が強制的に我を取り戻させた。
一同の視線が光の来た方向へと集中する。
その先にはゆっくりと蹴りのような姿勢を戻そうとする長身の男性が1人。
正義のコートを身に纏い、黄色のスーツを着込み、サングラスの彼を知らぬ者は海軍側には存在しない。
「「「「「黄猿大将!?」」」」」
皆が異口同音に叫んだ。
その言葉を聞き、アラバスタ王国側も相手が何者か理解し、騒然となる。
海軍最高戦力たる3人の海軍大将の1人、黄猿ことボルサリーノ大将。
さすがに誰もが何も言えずに静けさが戦場となりかけた場を支配した。その中を黄猿の声が響き渡った。
「おぉ〜間に合ったみたいだねぇ〜?すまないが、この場はわっしが引き取らせてもらうよぉ〜?」
内心ようやっと話の通じる相手が来たと安堵しているコブラ王らを含め、その言葉に反対出来るような奴はさすがに誰もいなかった……。
「……ま、あちしの役割はこの場に軍隊連れて来るまでだし、こんな場面は想定外よねい?」