第182話−Mr.5&ミス・バレンタイン(1)
エース達がアスラからの連絡を受けたのは、アラバスタ王国から2つ程手前の島だった。
さすがにリトルガーデンでミホークから鍛え上げられただけの事はあり、ここまで快調に船を進めてきた。
そこへ入ったのがアスラからの頼み事だ。
幸い、残りの島でログを溜める時間を考えても、時間的には間に合いそうだった事もあり、それ自体は了承した。ローグタウン含め、色々と世話になった事だし。
さて、ここで求められたのは4名の足止めだった。
「時間を稼ぐのはいいけれど……別に倒してしまっても構わないんだろう?」
そのエースの言葉に、アスラは何やら少し驚いたようだったが、笑いながら『もちろんだ』と答えていた。
無論、アスラが驚いたのはその言葉に聞き覚えがあったからなのだが……。
さて、その上で、今回の相手に関して彼らは情報を受け取った。
対象となるのは一組はMr.4とミス・メリークリスマス。
能力は砲弾を放出するイヌイヌの実を食った大砲、その砲弾を打ち出すMr.4。
……初めて彼らが聞いた際、『何で砲弾を鉄のバットで打って、その時点で爆発しないんだ?』と心底不思議に思ったものだが、もう、それは悪魔の実の力と割り切るしかない、と考えない事にした。
ミス・メリークリスマスは獣人系の土竜人間。
2人が組み合わさると、地中を高速で移動しながら、それこそもぐら叩きの如く地面の中から現れては砲弾を打ってくるという戦法が可能になる。
もう一組はMr.5とミス・バレンタイン。
こちらは爆弾人間と重量変化人間だ。
体のあらゆる部分を爆発物と化し、爆発させる男と自らの体重を1kgから最大1万kgにまで変化させ、爆風に乗り押し潰し、或いは足枷となる。
……むしろ、問題は爆弾男が前に戦った時には鼻糞を飛ばしてきた、って事に皆引いた事か。
確かに、気軽に飛ばせるものとしては間違ってはいない、間違ってはいないんだが……。
さて、相談の結果、エースがMr.5を担当する事になったのは相性以上に船長として皆が嫌がる相手を引き受けた、という事が大きかったりする。
そりゃまあ、誰だって鼻糞を飛ばしてくる相手と好き好んでやりあいたくはないだろう……。
後はそれぞれが選んでいった。
ちなみに、ブルックは老婆よりはまだこちら、という理由で女性を選んでいたし、ゾロは怪力という事に少し興味を持ったようだった。剣の達人でもいれば、またそちらを狙ったのかもしれないが……。
後はサボが出撃する事になった。
たしぎとサンジは留守番だ。
正確には買出しになる。ここら辺は、たしぎが落ち込んでいたが……やはり実力順に、少しでも怪我をする危険が少ないよう選んだ結果だった。
そして、今、エースとブルックは、Mr.5とミス・バレンタインの2人と対峙していた。
「ヨホホホ……それでは」
見た目は骸骨そのものというブルックの姿に警戒していた2人だったが……。
「早速ですが、パンツ見せていただいてよろしいでしょうか!」
「見せないわよ!」
首を傾げるようにお願いするブルックに、思わずミス・バレンタインも怒声を上げていた。
「いえいえ、空高く舞って頂ければよろしいので。それで拝見させていただきますので!」
思わず、といった様子でスカートの裾を押さえたミス・バレンタインだったが、すぐに顔を顰めて舌打ちした。
この男は自分が空高く舞う事に躊躇いを感じさせようとしているのか、と判断したからだ。
もし、それを狙っての事ならば面倒な男だ。ミス・バレンタインの体重変化の力はやはり高空からの降下時に単独での最大の破壊力を生む。
それがダメとなれば、大幅な戦力ダウンだ。
もし、それを狙ってとなれば、したたかな奴……。
ミス・バレンタインは改めて不思議そうに首を傾げる骨格標本を見た。
……とてもそんな風に思えなくなった。
複雑そうな顔になるミス・バレンタインに頭を切り替えさせたのは、やはり相棒たるMr.5だった。
「今は戦闘中だ。集中しろ」
そう言いつつ、Mr.5は懐から銃を取り出した。
南の海の最新型、新式銃であるフリントロック式44口径6連発リボルバー。
BW(バロックワークス)の伝手を使って手に入れたMr.5の切り札的な武器だ。
本音を言えば、Mr.5にとってはここで時間を食われたくはない。
まだ、彼らは作戦の失敗を知らず、迅速に持ち場に移動しなければならないというのに、目の前の2人組に阻まれている。ここで時間をかけずにさっさと倒し、先へ進む。そう決断した故に自分の切り札を出したのだった。
「そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)」
ふっと息を回転弾装に吹き込み、銃口を向け発射する。
向ける相手は骸骨ではなく、エースへ。
正直、あの骨格標本は本当に生きているのか疑問に感じてくる。悪魔の実の能力者とて人間な事に違いはない。自分とて爆弾人間だが、見た目は人だ。それは自然系ですら変わらない。
むしろ、エースが操っている人形と言われた方が余程説得力があるだろう。
故にエースを狙い……何しろ、息すら爆弾になるのだから普通は見えない。見事に着弾した爆弾は、だが当たった事さえ感じさせず、何時弾丸が発射されるのかと注視していたエースに直撃した。
「よし、これで後はあの骸骨だけだ」
「きゃはははは、あっけなかったわね」
だが。
「いや、そう判断するのはまだ早いと思うぜ?」
爆煙の中から気負う事のない、そんな声が聞こえた。
はっとして視線を戻す2人の前に、爆発前と全く変わらない姿、腕組みしたまま顔にどこか皮肉げな笑みを浮かべ、エースは立っていた。
そんなはずはない、とMr.5は思う。
あれは自分の切り札だ。
自分の能力には自信があった。だからこそ……そんな馬鹿な事があるか!と思う。実際、よくよく見れば、骸骨は吹き飛ばされて、ずるずると尻を高くあげた情けない姿勢で壁際でへたれているではないか。
ならば、この男もまた何らかの能力者であり、その能力で防いだ可能性が高い、と急ぎ目を凝らす。
そうして気付いた。
エースの体から立ち上る炎に。
最初は爆弾の炎かと思ったが、噴き上がる炎はまるで意志を持つかのように、眼前の男にまとわりつき、揺らめく。そして、その炎に対して、男は全く熱がる様子を見せない。
「……まさか」
嫌な予感がする。
このような事が可能な実は限られている。
もし、自分の予測が当たったなら、最悪の実だ。
「多分お前が予測してる通りだと思うぜ?」
エースの言葉に苦々しい顔になる。
最悪の予想が当たったようだ。
「……自然系悪魔の実の能力者、おそらくは……火」
「ご名答」
搾り出した言葉に、エースはにやりと笑った。