第183話−Mr.5&ミス・バレンタイン(2)
「……ミス・バレンタイン、あちらの骸骨を頼めるか?」
「…………」
物凄く嫌そうな顔になった。
気持ちは分かる。
あんなセクハラ発言をいきなりかますような相手と戦うなんて嫌だろう。
とはいえ……渋々ながら頷いたのは自分では自然系悪魔の実の能力者と戦えないと分かっているからだろう。
新世界に放り込まれた面々の中でも、覇気を覚えられた者もいれば出来なかった者もいる。
Mr.1とMr.2は比較的早くに修得した。
一方、Mr.3とMr.4は修得出来なかった。Mr.3はあの性格だから真面目にやってる振りをして、実はサボっていたとしても不思議ではないが、Mr.4が出来なかったのは意外だった。これはもう相性と言うしかない。
女性陣に至っては修得した者は存在しない。
と言っても、彼女らの責任ではない。
ミス・ダブルフィンガーはオフィサーエージェントの連絡場所であるスパイダーズカフェを長期間離れる事が出来ず、遂に覇気の修行に専念する時間が出来なかった。
ミス・ゴールデンウィークに至ってはそもそも戦闘員ではない。
ミス・メリークリスマスは各地を回っては地下基地建設の為の穴掘りに駆り出されていた。お陰で、そんな余裕なんてまるでなかった。
ミス・バレンタインはというと、これは……余り自分の相棒をけなしたくはないが、やる気がなかったとしか言いようがないだろう。まあ、弁護するとすれば、彼女の戦闘スタイルが覇気を活かすには向いていなかったという事もある。覇気は武器の威力の強化や身体能力の向上などに効果があるものの、単純なプレスアタックと、Mr.5のサポートを主体とするミス・バレンタインは接近戦闘など素人ならともかく、一定以上の腕の持ち主には通用しないレベルでしかない。覇気の取得に乗り気にならずとも仕方ないだろう。
これに対して、Mr.5は限定的……武装色のみ、それも自身の肉体の一部に纏わせて、というレベルではあるが、使えるようになった。ここら辺は上のナンバーを追い抜く為、と頑張った事もある。
だから、自然系の能力者であれ、戦えない事もない。ミス・バレンタインよりはマシだ。
「いくぞ」
やや前傾姿勢に。そこから足裏、正確には靴底から連続して爆発させて推進力とし、一気に距離を詰める。
そのまま、上段蹴りへと移行。踵を爆破し、加速させ爪先に覇気を纏わせる……!
エースは油断していたつもりはなかった。
だが、何らかのモーションがあると思っていただけに、いきなり構えた姿勢そのままで突っ込んでくるとは思わなかったからだ。
蹴りに移っても、途中から蹴りが加速した。
「【鉄塊】!」
咄嗟に右腕を上げて、左腕で支えると同時に【鉄塊】をかける。
火ならば通り抜けてもいいはずだが、そうはならなかった。
間違いない、ジジイ(ガープ)やアスラらが使っていた覇気だ。それに気付くと、笑みが浮かんでくる。
……なんだ、こういう戦い方も出来るんじゃないか。
爆弾だけの能力なら、勝敗は見えていた。
息でも鼻糞でも何かを飛ばしてこようが、爆発させようが、それらは所詮は物理的な打撃に集約される。自然系の悪魔の実の能力者にとっては怖いものではない。
動き自体は荒削りだ。
ガープ中将、アスラ中将、ミホーク。彼らの動きに比べれば、洗練されているとは言いがたいが……。
さすがに、それらと比べる方が可哀想だろう。
「案外やるじゃないか……いくぜ!」
改めて構えを取る。
向こうも弾かれた態勢を立て直し、構えを取る。
「【焔脚(ほむらきゃく)】!」
なら色々と試させてもらおう!
火を巻き込んで赤く輝く【嵐脚】を放つ。これをMr.5は自身の左側を一斉連続爆破してかわす。
一気に身体を沈み込ませ、地面を這うような位置から空を飛ぶようにして接近、迫った所で地面側の体前面を爆破し、体を起こし浮上、左拳を今度は肘を爆破して加速させてくる。
いや、覇気を纏っていない?これは……!
開かれた手から、黒く細いものが数本撒かれる……次の瞬間、それらが爆発した。
髪の毛だ。
爆発そのものは平気だが、眼前で爆破されれば視界が遮られる。不意打ちならば尚更だ。
瞬間、停止したエースの脇腹へと反対の右拳——本命が直撃した。
「ぐっ!」
骨は……大丈夫だ、折れてはいない。
爆発を自らの移動と攻撃の加速・減速に使用し、爆弾を攻撃ではなく、目潰し代わりに使用する。
……おそらくはこれこそが彼の奥の手。
Mr.5自身、新世界に放り込まれてから試行錯誤していたのだが、以前にCP9と激突してからは切り札として磨き続けてきた。それが今、エースという相手を得て、花開いたと言える。
……だが、パターンは読めた。
「【蛍火】!」
火球を連続射出する。
以前に比べ、射出速度・数・大きさ全てが向上している。これでも、全身に覇気を纏えるジジイクラスならば、無視して突破してくるだろう。だが……。
案の定、慌てて空中に飛び上がって回避する。
……直線的なのだ、動きが。
円運動を基本とするアスラやミホークとはそこが違う。円ならば戻ってくる、繋がっている。
回避がそのまま次の一撃へと繋がり、攻撃が回避へと繋がる。
だが、直線は行って帰って、だ。
せめて覇気を全身に纏えれば、こまめに小爆発を制御出来ていれば、強引な方向転換なども可能だったのだろうが……爆発で方向を変えているから、急な方向転換は体への負担が大きいのだろう。停止と移動を開始する瞬間、僅かなタイムラグがある。
何より……。
(爆発は自身の上下と前後左右!斜め方向への移動は出来ていない!)
だから、こうして膝程度の高さに弾をばら撒けば、奴は真上に逃げるしかなくなる。
「【火拳・渦潮】!」
炎をMr.5の周囲に……そう、竜巻を横向きに放つのを想像してもらえばいいだろうか?
ただし、竜巻は風をたっぷりと孕んだ高熱の火だ。
こまめな小爆発が出来ないという事は、滞空を維持する事は出来ないという事でもある。落ちるか上昇し続けるか……結果は上昇し続けると出た。
「ぐあああああっ!」
高熱の火に焙られ、Mr.5が苦悶の声を上げる。
「【火渡】!」
【月歩】に自身の火を組み合わせた……先程、Mr.5がやっていた事と理屈は同じだ。
火傷を負い、服に火が点いたせいだろう、動きが鈍ったMr.5へと高速で接近する。
「これで終わりだ!【火砲】!」
渾身のフクロウの【獣厳】同様の【指銃】並の速度で放たれた炎の塊が直撃。
そのままMr.5を地面へ叩きつけた。