第185話−Mr.4&ミス・メリークリスマス(1)
さて、Mr.5とミス・バレンタインが無力化されると、エースらをここまで案内してきたCP(サイファーポール)の隊員達がどこからともなく現れた。
彼らはサポート要員であり、戦闘中は巻き込まれぬよう下がっていた。
そのまま気絶している2人を海楼石の手枷で拘束してゆく。
どうされるのかはエース達には分からないが、まあ、アスラが一番の上役である以上は酷い事にはならないと思っている……インペルダウンに送られたりした場合はその限りではないのだが。
「それでは、こちらがアスラ長官よりの礼金となります」
隊員の1人がそう言って、金の入った袋を持ってくるが、エースは断ろうとした。
これは皆で話して決めた事だが、アスラ中将にはあれこれと世話になっている。そもそも船からして、アスラからの贈り物だ。
別にお金に困っている訳でもなし、ここはお金は断ろう、と思っていたのだが……。
「それとアスラ長官より伝言が『一度社会に出た以上、そして仕事として受けた以上は無料奉仕は駄目だ。報酬は報酬として、きちんと受け取るように』との事です」
それを聞いて、エースは苦笑した。
『読まれているなあ』、そう知ったからだ。……当然かもしれない、1年や2年の付き合いではない。それこそ自分が幼い頃からの家族として付き合ってきた仲だ。
さすがに、そこまで言われると受け取らざるをえない。
……そして、彼らがそんな会話としている頃には、他の地でも戦闘が勃発していた。
そんな戦場の1つ。
どこかの廃墟となった町の跡。
こうした廃墟は、砂漠の国アラバスタ王国では決して珍しいものではない。
古い国である、この国は同時に砂との戦いでもあった。原作で、幾度も砂嵐に襲われたユバが砂に埋もれ、住民が1度は町を捨てたように、或いは気候の変化によって、或いはオアシスが枯れた事によって、と様々な理由で人々は新しい地へと移り、生きてきた。
ここも、また放棄されて長いのだろう。
生活臭などは全くなく、建物の残骸も古びている。
そんな場所に、Mr.4とミス・メリークリスマスがいたのは、支援物資を蓄える基地建設の為だ。
支援物資?と思うかもしれない。
そう、これもまたクロコダイルが名前を売る為の仕掛けの1つで、世界政府との戦争の結果として困窮する人々への支援を行う予定だった。その為には交通の要所で、尚且つ現在は人気のない場所が必要だった。
今更何故、と思うかもしれないが、これは戦争が終結した後の為のものだからだ。
最低でも戦闘が起き、それによる被害が発生し、尚且つそれが救援を求める程のものにならねば意味はない。
そして、そうなると地下基地建設には必須の存在としてミス・メリークリスマスが駆り出されたという訳だった。
「まったくっ!あたしっ!土木っじゃっ(土木作業員じゃない)!」
文句を言いつつも、ミス・メリークリスマスは作業を続ける。
高速で掘り進み、穴を拡張し、地上へと出た。
「ふう」
「お疲れさん、ほら、おしぼり」
「あんがとっ!」
受け取った冷えたおしぼりで自身の顔を拭き、あのウスノロにしちゃ気が利くじゃないか、たまにゃ褒めてやるか、そう思って顔を見上げる。
だが……。
「……あんた誰だい?」
そこにいたのは見知らぬ顔だった。
まだ若い。
鋭い目をしてはいるが、どこか柔らかい雰囲気も持ち合わせている。
癖っ毛の金髪に、シルクハットとコートを身につけている。腰には刀が1本。
ここまで確認した所で、我に返った。
あたしゃ何のんびりとどこの誰とも知らない相手の至近距離で観察なんてしてるんだい!
即座に地面へと潜り込もうとするが、その前に伸びてきた手があたしの手を掴む……甘い!
ゾオン系の体力と、延々穴掘りを繰り返してきたあたしの力を舐めんじゃないよ!
逆に引きずり込む勢いで地面に潜り込む。途中で慌てて、手を離したのが分かった。
距離を取り、改めて、地上へ顔を出す。少し離れた場所に、奴がいた。
「馬鹿力」
笑いながら、そう言う。
妙に気障ったらしくもあるが、嫌味な感じはしない。
こいつは相当生まれがいい所の坊ちゃんだね……。
「で、あんたは誰だい。あたしゃ気が短いんだ、簡潔に言いな!」
ついつい短縮しての早口になりそうなのを我慢して、物凄くゆっくり言う。
独り言の時なら早口で良いし、Mr.4なら付き合いが長い。あたしの早口でも、聞き取れるだろうが、初めて会う奴はそうはいかない。聞き取りにくいぐらい早口だと結果的に却って時間かかっちまうんだよね。
「成る程、じゃあ、簡潔に言おう」
口元の笑みを苦笑へと変え、一言。
「敵さ」
うん、成る程、分かりやすいね。
さて、この段階で幾らウスノロとはいえ、Mr.4が全然姿を見せない事に加えて、向こうで響く爆音と爆煙。ありゃあ見慣れた代物だ。Mr.4が連れてるラッスーの吐き出す時限爆弾だろう。となりゃあ……。
「あっちでもあんたのお仲間と戦闘中かい!」
「当たりだ」
……こいつ簡潔で、的を得た対応してくれるね。
ううん、敵じゃなけりゃこいつとMr.4交換して欲しいぐらいなんだが。いやいや、戦闘力は未知数だ。でも、魅力的な話だねえ……ったく。世の中思うようにはいかないね!
「あたしゃミス・メリークリスマスってんだ!あんたは?」
「サボ」
それだけ述べて、刀を抜く。
漆黒の刀身。
……黒刀かい。刀剣にゃ素人のあたしでも、あれが単なるそこらに転がってるものじゃない事ぐらいは分かるぐらい、見た瞬間にぞっとしたねえ。
禍々しいとかじゃない、一級品の芸術品なんかが纏う格、っていうのかね?
そういうもんがひしひしと伝わってくるんだよ!
……願わくば、使い手がヘボであって欲しいもんだけど……ううん、簡潔で素早く反応する点は気に入っちゃいるし、Mr.4と交換するなら強い方がいいけど、敵となると弱い事を願っちまうのは複雑なもんだねえ。
さて、それじゃいっちょやりますか!